竜殺しの少年と聖女2~公爵令嬢の冒険者デビュー、技の習得~
サブタイトル……内容詐欺だ…
~先代公爵家~
「なんと!!聖女自らがご依頼を受けてくださるのか!?」
「そうだ。あんたの孫娘の面倒を見てやる。」
冒険者ギルドで正式な依頼を受けた後、護、メイア、ナヒーリヤの三人は先代公爵家に来ていた。変装を解いたナヒーリヤの登場に、先代公爵は驚き慄き、そこのとなりで孫娘は固まってしまっている。
「孫娘、名前は何て言うんだ?」
「はっ、はい。私の名はペルティ・ブルスタインですわ。あ、あの聖女様にお会いできて光栄です。」
「そんなに緊張することか?魔物どもが出てこなければ教会にいるし、会いに来るなんて簡単なんだがな。まぁ、立場の問題があるか。」
教会、特にナヒーリヤ率いる聖騎士団の精鋭が内乱や制圧に加わらないことは王国内で知られている。彼らの力が魔物ではなく人に向かうことの恐ろしさは過去の事件が延々と語り続けられているからだ。魔物を専門としているからこそ、教会の聖騎士団は認められいる。
そのため、一貴族や王族に必要以上に肩入れするのはあまりいい顔がされない。いらない誤解を受ける可能性もある。今回の護衛の一件はかなり珍しいことと言えた。
「それに今は聖女じゃなくて女冒険者のアルだ。教会は全く関係ない。」
(屁理屈じゃないのかなぁ。)
ナヒーリヤが言い出したことに護は内心呆れる。ただ、実際ナヒーリヤの冒険者登録はアルでされているし、ランクは黄。実力詐欺だが、赤ランク以上の依頼を一切受けていないので上がりようがない状態にしている。
元々は彼女が幼い頃、教会で中々実戦に参加させてもらえなかったのを、冒険者で依頼をこなすことで満たしていた。スキル発現まではいかないまでも変装をし、偽名を使っていたので中々バレなかった。ただし、上がったステータスを隠すのに失敗し、バレて大目玉をくらっている。
閑話休題。
冒険者の身分であれば、貴族の依頼を別に受けても問題ないため、今のナヒーリヤは冒険者アルで過ごすようだ。変装し直し、赤髪の鬘に瞳の色を変えるイヤリング、普段のアダマンタイトの鎧から皮鎧になっていた。さらに認識阻害のブレスレット、変声用のネックレスをつけている。
普段よりも若干高くなった声で彼女は続ける。
「今の俺はアルだ。ナヒーリヤや聖女と呼ぶな。…さて、今回の依頼だが、いつまですればいい?」
「そうじゃのぅ。今、儂の親友の元冒険者に孫を預けられないか、人を向かわせておる。返事が返ってくるまで最低で二日、返事が良ければよいが…。」
「一週間。これで蹴りをつけてくれ。それ以上はこちらとしてもできるか怪しい。一番簡単なのは相手を返り討ちにして、二度と来させないようにすることだ。俺と侍女がいればそれぐらい容易いだろうしな。」
「一度で済めばいいのじゃが…。内の息子たちは執念深いからのぅ。諦めはせんじゃろうな。」
その言葉をアルは笑う。一度目で完膚なきまで叩き潰す。それが彼女の戦う上でのポリシーだ。
「なめてもらっては困る。二度目がないように、どうにかするさ。その馬鹿三男がのこのこ現れてくれるかどうかだけが心配だが、話を聞いた限りは現れてくれるだろうな。」
「あいつは自己顕示欲の塊ですから、入れ知恵さえ、なければ現れますわ。」
「出てこなかったら出てこないで、一週間の間は守ってやる。一週間もあれば、あいつが動く。そうなれば契りどころじゃないさ。」
「頼もしいのじゃ。よろしく頼むぞ、冒険者たち。」
こうして、護たちは公爵令嬢の護衛依頼を受けたのである。
~プレ・アスタイト家~
「あの愚か者が本格的に動くだと?」
「左様でございます、お館様。」
プレ・アスタイト家当主は執事に渡された資料を読みながら他愛無い会話をする。自分の息子が愚かなことをしようとしているのに、その確認のために発せられた言葉は淡々としていた。
「冒険者崩れを二十六名ほど雇い、令嬢の護衛が薄くなったところで攫わせるようです。そのための資金をロイはお館様の資産の一部を無断で使用し確保しているのも確認されております。」
「それについては問題ない。責任は追及する必要があるが、元から捨てるような物だった。」
「決行日はまだ未定のようですが、近いうちでしょう。また、先代公爵の方が護衛を雇ったようです。」
「ほう、どんな奴らだ?」
「『冷血』とその主、そして聖女。違うルートでは『鋼拳の義賊』も動いているようです。」
「無駄に豪華だ。…『冷血』ということは、あの青年か?まだ生きている上に竜殺しまで達成するとは、勿体ないことをした。この際、ついででいい。その青年も観察対象にしろ。」
「畏まりました。観察者にはそう伝えておきます。」
執事は別の用紙を渡す。二人の意識は別の件に移り、大公爵としての職務を淡々とこなす物音だけが響き渡るのであった。
~王都郊外・街道近くの村~
「初の依頼、やって見せますわ!!」
公爵家令嬢ペルティとその護衛である護たちは、王都を出て徒歩で二時間ほどの村まで来ていた。護が最初に依頼を受けてきた村である。
なぜ、ここにいるかというと、ペルティが最初にお願いしてきたことが関係している。「冒険者になりたいのですわ。」と。まず、冒険者ギルドで登録しそのまま依頼を受けて、村に到着した。急ぎではないため徒歩だ。
道中、護は彼女の実力が知りたいため、彼女のステータスを見た。
ペルティ・ブルスタイン (女・16歳・人族)冒険者Lv1
LP 6 MP 7
STR 6 AGI 6
TEC 7 END 7
INT 7
一般スキル 剣術Lv2 宮廷作法Lv3
職スキル アイテムボックスLv1
エクストラ
(Lv1かぁ、懐かしい。俺の場合立つので精一杯だったけど、ペルティを見る限りは平気そうだ。剣も多少なら振れるみたいだし、太刀筋はスキルに出ている通りの鋭さがあるのは見た。)
護は自分がLv1だった頃を思い出す。異世界に来て二か月近くが立とうとしている。二か月前だというのに、随分過去に感じられた。
また、Lv1は職業のステータスが反映されるようで、ペルティ曰く力が増したとのこと。それでも二時間かけての移動はしんどかったようだ。到着した時には息が少し荒かったが今は落ち着いている。それどころかかなりやる気に満ちていた。
「よろしく頼みます、冒険者さん。」
「私に任せなさい!!一網打尽にしてみせますわ!!」
護たちは前回とは異なる場所に案内される。そこには懐かしい一角兎が一面にいた。どうやら、再び大量発生したらしい。護はこの兎の生態について気になってしまう。数の増え方が尋常ではない。
「一杯いますわね。角さえなければ可愛いですのに。でも魔物である以上やりますわ。」
ペルティは『アイテムボックス』から直剣を取り出し。鞘から刃を抜く。そして一番近いホーンラビットに走り切りかかる。
「あっ」
ホーンラビットから噴き出た血で地面が染まる。呆気ない初討伐にペルティの口から声がこぼれた。
「ぼーっと、すんなよ。」
ペルティに突進をかけたホーンラビットの首が飛ぶ。アルは剣についた血を振り払い、ペルティに忠告する。
その言葉でペルティは気を取り戻し、アルに感謝の意を伝えた。
「まだまだたくさんいる。続けるぞ。」
「ええ、アルさん。」
「護は侍女と一緒に兎共が逃げないようにしろ。」
「了解。」
四人のホーンラビット討伐が続いていく。護は土魔法で、メイアは捕まえて逃げるのを防ぎ、ペルティが剣で倒し、倒し損ねたのをアルが始末した。
最後の一匹をペルティが剣で切り裂き、戦闘が終了した。
「どうだ?レベルは上がったか?」
「ええ。3になりましたわ。少し体が軽くなったのですけど、剣に余計な力が入ってしまいますわ。」
「3か。上がり過ぎず、低すぎずといったところか。村に報告して教会で体を馴染ませないとな。」
「教会に行けますの?ぜひ、行ってみたかったのですわ。…アルさんが住んでおられるところ…」
何故かトリップしだしたペルティを正気に戻し、ホーンラビットを収納させる。
村に報告し、行きよりも少し速く王都に戻ってきた。冒険者ギルドで依頼達成を伝えた後、教会につく。
「お帰りなさい、護さん。…その女性は誰ですか?」
「え~と…」
「俺の客だ。護、教会にいる間は俺一人で充分だ。セレスと一緒に過ごせ。」
アルはペルティを連れて訓練場へと向かって行ってしまった。事情を話すまで離さないと言わんばかりに腕を組まれた護を置いて。セレスに引っ張られるまま、彼女の部屋に移動した。
「護さん…。また、危ないことに首を突っ込んでいますね。」
「…」
事情を聞いたセレスは怒りの混じった声音で攻める。対して護は顔をそらすことしかできない。
セレスはそんな様子の護の顔を両手で挟んで、無理矢理見つめ合うように向ける。それでも目を逸らそうとする護との目線を離さないようにしながら、言った。
「私の時のこと覚えていますか?」
「うん。忘れる訳がない。」
「なら、私も混ぜてください。あの時…私は無茶をして戦う護さんを見ていることしかできませんでした。……今回は姉さんがいるからそんなことにはならないかもしれません。でも、もしもを考えると、私は怖いんです。それに私は護さんの隣にいたいのです。…そのために色々してます。」
「……」
護は反省する。セレスに対しての想像力が足りなかったことに。彼女の好意はメイアに負けじ劣らず深い。自分から距離を取ろうとしても、距離を詰めてくる。
「…ごめんなさい。私、わがままで…。」
「そんなことない。俺がナヒーリヤが言ったことに考えもせず、同意したのが悪かったんだ。セレスの気持ちを考えてなかった。俺こそ済まない。」
気持ちが落ち着いたようだ。セレスが護の腕を離す。
「姉さんがどんなことを言ってもついて行きます。私は護さんといたいから。」
セレスのその一言が護の心の中に染み込んでいく。決意に満ちた声、人を揺さぶる声に護は感心する。
「私もですよ、護様。どこまでもお供します。」
「二人とも…」
「三人ともいるか?」
護の言葉を遮るように、ナヒーリヤの声と扉を叩く音が響く。思わず、声が裏返ってしまった。
「入るぞ。護、どうした?顔が赤いが。」
「姉さん、護さんから聞きました。…私は護さんについて行きますから。」
「その話は後で聞く。今はお前に会いたいっていう客がいてだな。」
「ペルティさんが?」
「ああ、護。巫女と話してみたいそうだ。」
護たちは宿舎の受付に向かう。そこでペルティが待っていた。彼女は訓練後のせいか、汗をかいており薄着なため肌に張り付いている。煽情的な体のラインが見えてしまい、護には目の毒だった。
護がそんな思いをしているのに気づかず、ペルティがセレスに駆け寄る。目を輝かせ、鼻息も荒い。かなり興奮していた。傍から見て怖い。
セレスが恐怖から護の後ろに隠れてしまう。そんなことお構いなしに寄ってくるペルティ。護は、なんとか視線をペルティから逸らそうとするが、誘惑から目は彼女を嘗め回すように見てしまった。
「ペルティ、落ち着け。妹が怖がっている。」
「…はっ!!あまりの興奮で我を見失ってしまいましたわ。ごめんあそばせ。」
ペルティが距離を開ける。恥ずかしさからか顔を赤くしているところがさらに護の視線を釘付けにする。
護の視線がどこに向いていたのか、分かったセレスは護の腕をつねった後、護からペルティが見えないように前に立つ。
「初めまして、巫女様。私はペルティ・ブルスタイン。ブルスタイン公爵家当主の娘ですわ。先ほどは失礼しましたわ。」
「…私の名前はセレスティアと言います。…さっきはびっくりしただけなので、気にしないでください。」
「感謝しますわ。聖女様の妹君…。こんな可愛らしい妹君がいるアルさんが羨ましいですわ。」
「そうだろ。俺の自慢の妹だ。」
それからしばらく、ペルティ、セレス、アルの会話が続いていく。完全に蚊帳の外に置かれてしまった護とメイアは訓練場に行くと告げ、二人で訓練場に向かった。
そこにはガンドルフとエトリア、ネシーナと見習い騎士たちが鍛錬していた。ガンドルフが二人に気づき、呼ぶ。
「お、マモルか。お嬢とナヒーリヤ、後、あの鍛えがいがあるお嬢様は?」
「宿舎の方にいます。蚊帳の外にされたので、時間を潰しにきました。」
「丁度いい。ネシーナがマモルに用があってな。今から呼ぶ。ネシーナ!!マモルが来ているぞ!!」
ガンドルフが大声でネシーナを呼ぶ。ネシーナは目の前の見習い騎士の足を払い、こちらに走ってくる。
「お久しぶり、マモル君。教会に戻ってからも全然話す機会がなくて、困ってたの。」
「何の用ですか?」
「相変わらず、お姉さんに冷たいわね。セレスちゃんとの仲の進展具合は後で聞くとして、闘おう。」
ネシーナは訓練用の槍を投げ渡してくる。そして彼女は構えた。
護も構える。どういうことなのか全く分からないが、一戦しないといけないらしい。
「かかってき…ちょっと!!」
護の容赦ない一撃が突き出される。ネシーナは槍で打ち払った。そして、不機嫌に文句を言う。
「最後まで言わせてよ。そんな悪い子にはお仕置きね。」
ネシーナの槍が護を容赦なく襲う。フェイントからの三突きが護の足を削ぐように放たれる。
護は足さばきで躱し、最後の突きは槍で受け止めた。
「まだまだ!!」
(速い!!)
護はさばききれず脇腹に突きが入る。激痛で蹲りそうになるのを堪え、反撃の薙ぎ払いを繰り出す。それも楽に受け止められてしまった。
「うーん、ステータスは伸びてるかなぁ。でも、使えてない。今のマモル君なら技使える筈だしねぇ。」
「技?」
「そう、技。見せてあげる。いくよ!!『トリプルスラスト』。」
ネシーナの突きが右肩、右腹、左足に同時に迫る。護は槍で右腹への攻撃を防いだが、肩と左足のは防げない。骨が砕ける感触と同時に体勢が崩れ、尻もちをつく。
「はい、水薬。さっきのが技だよ。マモル君、槍術のレベルは?」
「いてて…。Lv4。」
「なら使えるね。使い方は職スキルを使う時に似てると言ったらいいのかな。とにかく、気合だよ。」
「やってみるか…。」
ポーションを飲み、腕と足の骨が元に戻ったことを確認するように振る。そして槍を構えた。
(気配探知とかに使う力を使えばいいのは分かるけど、さてどうしたものかなぁ。)
護は試しに『気配探知』を発動させる。力の波動が周りに出ているのを感じる状態にする。
そこから、自分の内側の力に干渉し腕と胴を中心に集中させた。力をギリギリまで溜めた後、突きに合わせて放出した。
「は!!」
突きは二つ同時に発生した。
護自身、どうやって二突きしたのか分からない。体の制御が一時的に自分から外れたような感覚だったのだ。
困惑している護をネシーナが驚いた顔で見ている。
「凄い!技としては未完成だったけど、もう掴めてるなんて。私でも三か月かかったのに。もう一回してみて!!」
護は再び槍を構える。力を再び集中させようとした。しかし、上手く制御できない。集中力が切れた状態のような感じで、だるい。
「あ~、駄目みたいだ。」
護はそう言うと、穂先を降ろした。
期待を裏切られたネシーナはがっかりしているようだったが、そこまで落ち込んでいる訳でもないようだ。
「一発なり損ないが限界か~。まぁ、初めてだったしいいとしましょう。伝えたかったのはこれなのよ。技の発動ができそうだったから、教えようと思って。」
「一応感謝しておく。ありがとう。」
「どういたしまして。さて、マモル君、セレスちゃんとはどこまでしたのかな?キス?それとも最後まで?」
「ネシーナに教える必要はないだろ。」
「いつもそればっかりで私はつまらないのよね~。どうしたら教えてくれるかな?」
鬱陶しいほどに迫ってくるネシーナから逃げる護。セレス本人が訓練場に来るまでそのおいかけっこは続いた。
~先代公爵家~
ペルティの護衛依頼を受けてから五日目。残念なことに親友の元冒険者は放浪の旅の途中らしく連絡がとれなかったようだ。先代公爵は次の案を模索していたが、中々思いつかないでいた。
「すまんのう、まだいい手が思いつかないのじゃ。」
「あと二日は確実に見れるが、その後は保証できないぞ。」
「それは分かっておるのじゃが…」
「おじい様、私にいい案がありますわ。」
悩み迷う先代公爵に変わり、ペルティが自信満々で護たちに言った。
「私が教会で暮らせばよいことですわ。つまり、出家しますわ。継ぐのは弟ですし、問題ありませんわ。」
「それは…、儂も考えたんじゃ。幸いにも目の前には教会関係者が居る。じゃが、教会暮らしが孫に合っとるか不安でのぅ。」
「そこは心配ないのは知っている。何日か見たが、かなり馴染んでいたぞ。孫娘は鍛錬を積めば確実に強くなる。魔法を使える想像力もあるし、剣の腕も確実に伸びる。うちに欲しい人材なのは間違いない。ただ…」
「公爵令嬢なんて呼び名、捨てても問題ありませんわ。教会に入ってしまえば、ロイはともかくお父様は手を出す勇気なんて持っておりませんわよ。それにおじい様は私がいなくなったら寂しいので、止めようとしているのですわ。そんなもの、私には邪魔ですわ。」
図星だったのか先代公爵は言葉に詰まる。孫娘の容赦ない言い方が心を抉ったようだ。
(うわぁ、容赦ないな。それにこの様子、セレスと同じか…。)
今の彼女は何を言っても止まらないだろうと、護は感じる。隣で微笑ましく笑っているセレスを見ると確信に変わる。一度決めたら意志を曲げない所がそっくりだ。
「護さん、どうかしましたか?」
「いや、何でもない。」
「そうですか?……ペルティさん、かっこいいです。先代公爵様には気の毒ですけど…」
まだ立ち直れない先代公爵を放っておいてアルはペルティと話す。
「ペルティが言いたいことは分かった。護衛依頼が終わった後に教会で暮らせるよう手続きはしておく。」
「ありがとうございます、アルさん。これで、夢に一つ近づきましたわ。」
「そういや、聞いていなかったな。教会にこだわる理由はなんだ?公爵令嬢の方が金などは恵まれていると思うぞ。」
「それは…。目指しているのが聖女様みたいな力でも強い女性ですわ。武の頂きに近い聖女様のお近くで身を鍛えられるなんて、夢のようなものですもの。こんな機会、逃せませんわ。」
「お、おう。」
ペルティが身を乗り出して言ってくるのを、アルは若干身を引きながら相づちを打つ。数少ない女性騎士も時折こんな感じで接してくるのだ。
アルはペルティが彼女たちと意気投合して自分のことを話している様子を想像できてしまった。ペルティは教会にすぐに馴染むだろうというのも想像できてしまう。
「先代公爵、あんたの孫娘をこちらで預かるのでいいか?俺はペルティのような奴の意志は尊重したい。嫌なら本人を説得してくれ。」
「……何を言っても駄目そうじゃの。分かったわい。老い先短い儂が若い者を拘束するのは間違っておるしのぅ。…もし、教会での暮らしが辛かったら帰ってくるのじゃぞ。」
「そんな時は二度と来ませんわ。ですが、おじい様、私のわがままを聞いてくれて感謝ですわ。」
ペルティの教会騎士団の入団が決まった。その後はいつも通り教会に移動し鍛錬だ。
~教会・訓練場~
「護様、短剣の技は発動できましたか?」
「形にはなった。これでいいんだよな?」
護は月光・真打を構え、力を制御する。溜まったところで方向性のイメージと共に開放した。
「『バイト』」
腕がかすみ、上下の斬撃が獲物を噛むように同時に繰り出される。振りぬいた腕にさらに力を込めて、二つ目の技を発動させた。
「『ソニック・フォース』」
一気に的に近づき、神速の四連撃。木でできた的は切られた通りにばらばらになった。
「発動は成功するようになりましたね。何度も繰り返して力に意識を向けなくても発動できるようになりましょう。」
メイアは手を打ちながらそう言う。護が再び技を発動できるようになるまで、彼女とのスパルタ模擬戦を繰り返す。それが護衛依頼を受けて三日目からの日常だ。
護衛対象のペルティはというと、アルと共に『アイテムボックス』のレベル上げに勤しんでいた。具体的には、アルが水の大玉を何個も作り、それをひたすら出したり入れたりするというもの。
アル曰く、使用頻度が大きく関わってくる『アイテムボックス』を鍛えるには、これが一番効率がいいらしい。鍛錬に付き合う彼女にとっては、魔力を使った水の制御の練習にもなるらしい。
護が確認したところ、ペルティの『アイテムボックス』はLv3になっていた。一週間でLv5も夢じゃない上がり具合である。
また、魔法に関しては護、セレス、ペルティで練習する。ただし、MPの関係からペルティは護たちの魔法を見学する時間の方が長かったり、それ故に評価したりといったことで観察眼は一番彼女が磨けていた。
当人は速く魔法が自由自在に発動できるようになりたいそうだが、アルの『アイテムボックス』がLv5になるまで当分レベルを上げない方針に従い、我慢するそうだ。
「もうそろそろ時間だ。ペルティ、屋敷に戻る時間になったぞ。」
ペルティ入団の書類作成に追われて訓練場から一旦出ていたアルが戻ってきた。護たちもそれぞれ片づけをし、アルと共に訓練場を出る。
屋敷まで他愛ない雑談をしながら歩いているところにある男が現れた。
「おや、アルさんじゃないですか。」
「シロンか。お前が関わっているのは聞いていたが、何か用か?」
相変わらず飄々とした態度をとるシロンに対し、珍しく嫌そうな表情をして聞くアル。
シロンはアルの様子をまじまじと見た後、こう言った。
「いやぁ、ちょっとした情報を耳にしたもので教えに来たんです。ロイ・プレ・アスタイトが動くと。」
「そうか。やっとか。」
「ええ、どうやら護衛が教会関係者と知って、人数を増やすために色々資金繰りで苦戦していたみたいですね。そのせいで遅くなったようです。義賊《私》としては、警備が甘くなって盗みやすかったので美味しい獲物でした。それも一件の要因なんですけどね。」
あははと笑うシロンにアルは青筋を立てる。シロンの相手を笑うような態度は気に障ってしょうがない。
「まぁまぁ、落ち着いてください、アルさん。ロイはどうやら苛立っているようですね。物品は盗まれるわ、ご執心の娘は教会から中々出てこないと。苛立ちで教会に殴り込みをかけそうになったみたいなのだから、よっぽどですね。」
「その原因の一つは俺たちに関係ないぞ。」
「あなたたちの作戦の一つみたいな話になっていますけどね。…話を戻すとして、怒りでせっかちな状態になったロイに対して、公爵家当主はこう報告したのです。『娘はもう貴方の手の中だと。』」
「どういうことですの?」
「おや、話はかなり広がってますよ。ロイ・プレ・アスタイトとペルティ・ブルスタインの婚姻の話は。」
『!!!』
護たちが全員固まる。まさか、事実無根であるのに発表してしまうとは予想外だったのだ。
「そんな空虚な話が通るとは思いませんわ。私はここにいますのよ。貴族の風習としての催しはどうするつもりですの?」
「それはですね…。明日、行うつもりのようです。貴方そっくりの影武者を使って。実際、驚くほどにそっくりで雰囲気以外の違いしかありません。ただ、彼女を見つけてどうやって手に入れてきたのかが問題なんです。」
「速く言え。」
「アルさんもせっかちだなぁ。ブルスタイン領のある村でその少女を見つけた公爵は、その村を違法奴隷商に襲わせ壊滅させました。勿論、その少女は奴隷です。そして、その少女を買い、ロイに差し出したのです。ペルティ・ブルスタインとしてね。今のところ、貞操には手をつけていないようですが、あなたにご執心なロイは彼女の心を傷つけるような酷い仕打ちを施すでしょう。」
「確認したいことがありますわ。」
無表情になったペルティがシロンに問いかける。
「私が催しに出ましたら、その少女は助けられますの?」
「それは貴方の方が詳しいのでは?一義賊が答える問題ではないでしょう。」
「その通りですわね。確かに、お披露目の時にもう一人、ペルティが現れれば催しをぶち壊せますわ。私が本物であるという証人はおじい様を連れて行けば、確かでしょう。」
「罠かもしれませんよ?貴方がそう考えるのを見越して備えているかもしれません。これはチャンスです。貴方が完全に公爵令嬢としての身分を捨てるには丁度いい身代わりではないですか。放っておいてもいいのでは?」
「不愉快になりますわ。舐めていらっしゃるのかしら?私が私であるために向かいますの。私の代わりに誰かを犠牲にするなんて、私のやり方ではないですわ!!…それに、私には優秀な護衛がいますの。おじい様と私ぐらいは余裕で守ってくれますわ。」
「失礼しました。そんなに怒らないでください。行くかどうかの確認ですよ。場所は公爵領の屋敷。もうすでに公爵当主とロイ、そして少女は王都を発っています。幸い、催しは夕方からのようですので、明日の朝発っても間に合います。今日はゆっくり休まれた方がよろしいかと思いますね。」
シロンはペルティの怒りを全然きにしてないようだ。言いたいことを全て言ったようで、消えるように移動してしまった。
「きぃーっ、むかつきますわ!あの男を殴れるようになるまで、強くなって見せますわ。」
「それには同感だ。思いっきり殴って構わないぞ。先代公爵にも伝えて用意しておけ。俺たちも明日に向けて休んでおく。」
「ええ。あの男への怒りも全てロイとお父様にぶつけてやりますわ!…そのためにもちゃんと用意しておきますわ。」
瞋恚の炎を灯すペルティは何度も頷く。やる気は充分といったところだ。
先代公爵家まで彼女を送り終え、護たちは部屋で眠りについた。




