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異世界で1人別行動   作者: 狩野 猟
聖女編
21/138

後始末1~魔物の解体、辺境伯の取引~

な、悩む…

~戦場、防壁付近~

 ナヒーリヤがオークエンペラーを討伐した頃、襲い掛かってくる魔物たちの様子が一変した。


「逃げていく。ということは、聖女がボスを倒したんだ。」


 戦士は、急に逃げ出そうとする魔物を剣で袈裟切りにし、『アイテムボックス』へと仕舞う。

 時折向かってくるものも全て蹴散らした後、安堵の息を吐く戦士たち。へたり込む者も何人かいた。


「やっと、終わったか。誰か、ギルド長に戦闘が終了したと伝えてくれ。」


 リヒト教会副団長のゴロンゾが後方へと指示を出す。彼は前方を見渡した。戦場は血と回収しきれなかった魔物の死体が転がり、魔法の余波などで地面が荒れている。


(後は団長たちが戻ってくるのを待つだけだが、とりあえず引き上げさせるか。)


 ゴロンゾは更に指示を出し、拠点への撤収作業を進める。丁度腐敗した死体を燃やすか、まだ使える死体を収納している最中に馬で戻ってくる一団が遠くに見え始めた。

 一団は直進し、後処理をしている者たちの前で止まる。すぐさま、歓声で満ちた。

 その中からナヒーリヤへとゴロンゾが近づく。


「団長、オークエンペラーは?」

「ちゃんと回収してある。俺たちがいない間に損害を出していないだろうな。」

「我らの騎士団からの死者はおりません。負傷者は数人出ましたが、現在、治療させています。」


 下がったゴロンゾに代わり、後ろから騎乗したままグランが寄ってくる。


「リヤ、とりあえず拠点に戻って祝勝会の準備をしねぇか?残りの死体の処理は部下に任せて、拠点にいる奴らに無事を伝えないといけねぇだろ。」

「お前らは酒が入るとろくでもないから、祝勝会は後回しだ。妹に無事に戻ってきたのを伝えないといけないのは確かだな。」


 ゴロンゾに引き続き後処理をするように指示を出し、討伐隊一行は拠点の方へと戻っていく。


~拠点~

「護さん。…お怪我はありませんか?」


 馬から降りると同時にセレスが駆け寄ってくる。護の顔色が悪くないのを見て、安堵の表情を浮かべた。


「その…どうでしたか?姉さんの無茶ぶりで死にかけることはされていませんか?」

「それは無かった。ガンドルフさんとエトリアさんが常に守ってくれたし、メイアが首をどんどん狩っているのをほぼ見るだけに終わった。たまにナヒーリヤの戦闘を見たけど、脳筋二人がこん棒を物凄い勢いでぶつけ合って地面を破壊しているのしか理解できなかった。」


 その返答にセレスは苦笑いをする。姉の戦っている姿を想像できてしまったためである。


「一体だけ瀕死のオークに止めを刺した。ステータスが上がったおかげで、なんとかできたよ。それでさらにレベルも上がった。」

「それは良かったですね。…私も魔物を倒して少しだけ上がったんです。」


 その言葉で護は自分のステータスを思い出す。地竜、オークを殺したことでレベルの上がり具合が尋常ではなかった。具体的にはこうだ。


明石宮 護 (男・17歳・人族?) 職  Lv51

 LP 376  MP 371

  STR 422  AGI 436

  TEC 384  END 397

  INT 375

一般スキル 剣術Lv4 短剣術Lv5 体術Lv3 盾術Lv2 槍術Lv4

      気配察知Lv4 調合Lv1

      魔法(火・光・風・土)Lv5(水・雷)Lv4

      料理Lv2 不屈Lv5

職スキル アイテムボックスLv5 浄化Lv2

エクストラ 完全なる図書館の司書 真理眼 言語理解 

      合成魔(日)Lv1


(えぇと、セレスのステータスは…)

 

 護は彼女のステータスを『真理眼』で見る。


セレスティア (女・17歳・人族) 職 巫女Lv55

 LP 420  MP 367

  STR 381 AGI 340

  TEC 380 END 335

  INT 894

一般スキル 杖術Lv4 戦棍術Lv2 体術Lv2

      魔法(光)Lv9(火・水・風)Lv7(雷)Lv5

      料理Lv4 裁縫Lv3

職スキル 神託Lv5(MAX)

エクストラ


 護のレベルはセレスにもう少しで追いつきそうであり、もうすでにいくつかは抜いている。


(セレスのINTと魔法のレベルは相変わらずかなり高いなぁ。俺の新たなエクストラについて話してみるべきか?セレスなら覚えられそうだし。ただ、どう伝えるのかがなぁ。)


 護の新たなエクストラ、火と光の合成魔法、日属性。これをオークに対してこっそり使ってみたのだが、威力はオークを容易に焼き貫くほど強力で、その分魔力の消費も馬鹿にならないことが判明している。

 難点としてはイメージが特殊で、光に太陽自体が持つ熱がそのままある状態をイメージし、そこから線や球を形どるという手順を踏む。特に、太陽の熱のイメージが厄介で、約六千度という熱を護は炎の色でイメージすることで形にしていた。太陽の熱に関しては元の世界の知識を使用しているため、エクストラに属していると護は推測している。

 

「護さん、私のステータスを見たのですね。」

「ごめん。」

「別にいいんです。…その、姉さんがさっきから護さんを…」


 護が背後を振り返ると、不機嫌そうなナヒーリヤが。いつの間にか彼女たちに集まっていた者たちは散っており、そこから解放されてそのままこちらへ来たようだ。


「妹と話は済んだか。俺はこれからグランたちとこれからの話をしないといけない。その間はお前は何をして構わないが、呑気にせず働け。」

「了解。」

「妹よ、護と一緒に行動していいぞ。ただし、はめを外さないように。」


 ナヒーリヤは不承不承といった感じでセレスにも告げた後、去っていった。入れ替えの形で血を落としてきたメイアが合流する。

 三人になったところですることもない。ということで、拠点の中を見て回ることに。

 拠点にいる大半は天幕の外で自分の武器を手入れしている騎士や忙しく駆け回っている見習いといった戦闘中と変わらない様子が護の目に入る。違うのは、彼らの表情。どこか和らいでいて落ち着いていた。

 羽目を外し騒ぎ立てる者もいたが、どこからか水の球が飛んできて彼らの頭を物理的に冷ましている様子も目撃してしまう。一般人レベルでは死にそうな速度で直撃しているので、セレスが心配そうに見ていたが、当の本人たちは地べたとキスをした後、悪態をつきながらびしょ濡れで彼らの天幕へと戻っていく。

 また、歩いていくうちに甘ったるい匂いがするところへと入ってしまった。目につくのは煽情的な衣装をしたお姉さん方。戦士の一人がお姉さんの一人と天幕へと入っていくのを見て、嫌な予感がし、護は踵を返そうとした。だが、遅かったようだ。


「坊や、私と遊ばない?」


 セレスよりも強い力で護は止められる。すぐさま抱きしめられ、香水の強烈な匂いで鼻が麻痺し、背中にはこの世界に来てから何度かあった感触が。メイアやセレスよりも質量があるのが分かり、護は顔を赤くする。しかし、目の前の二人から負のオーラが漂っているのを感じて、今度は青くなる。

 後ろのお姉さんも二人に気づいたようだ。冷や汗を浮かべながら護を解放した。


「護様、どうやらここは娼婦たちが管理している天幕のようです。ここの女性は護様のような初心な男性など歯牙にもかけずに搾り取ってしまう手練れですので、死にたくなければ近づかないでください。いいですね?」


 圧倒的な重圧をかけてくるメイアに護は頷くしかない。護を誘惑したお姉さんもつられて頷く。

 周りでその様子を見ていた他の娼婦たちも顔を引きつらせて、あの少年を誘惑しないように今、男の相手をしている子に伝えよう、と思うのであった。手を出せばあの侍女に殺されるかもしれないという、恐怖も抱く。戦闘もでき、いざという時は前線にも出る彼女たちだからこそ、侍女メイアの危険性を悟る。


「他の…所にいきましょう?」


 セレスに引っ張られるように護は移動を開始した。その後ろからは安堵の息を吐く、娼婦たちだった。



「おい、坊主。次はそこの芋を茹でておいてくれ。」

「分かりました。」


 かの場所から離れた三人は、夕食を作っている料理人たちの元を訪れていた。結局、夜はどんちゃん騒ぎの祝いをするらしく、それ用の料理を急ピッチで作っていたところに、料理スキルを持つ護とセレス、料理にも補正がかかる家事スキルを持つメイアが加わったのだ。

 それからは速度が上がった。特にメイアの働きが大きい。護を一にするなら、セレスは二倍、メイアは三倍の働きをしている。騎士見習いたちが悪戦苦闘している下ごしらえを一気に進め、今となっては料理人に混じって調理していた。

 護はというと、地球で言うジャガイモがしっくりくる芋を茹でていた。茹でると言っても、どちらかと言えば火を絶やさないよう火番をしているといった方が正しい。芋の内部まで熱が通るのを見つつ、時折、乾燥した木の枝をくべていく。


(ふう。)


 汗を拭きながら、茹で上がった芋をザルへと移していく。三十代の女料理人に渡し、血に塗れながら、テキパキと小型の魔物を解体しているメイアへと向かう。


「護様、そこのトレイを私に。」


 メイアはずっしりとした重みをした肉をトレイに載せ、価値のない部位を魔法で焼却した。


「解体は終わったみたいだな。後は俺たちだけでもできるから、あんたや坊主、後、もう一人の女の子もゆっくり休んでいていいぞ。」


 料理長からお礼として、彼が普段趣味で作っているお菓子を貰った。

 天幕に戻り、再びメイアが血を落としてきた後、三人で食べてみる。かなり甘く食感も悪くない。三人にほんわかとした雰囲気が漂う。


「美味しいです。…料理人の皆さん、宴までに仕込みが全て終わりそうだと喜んでいました。」

「包丁を握ったのは久しぶりだったけど、なんとかなったな。これでナヒーリヤに言われた分は果たせたと思う。」

「これからどうしますか?」


 メイアの問いに悩む護。宴までは時間がある。ただ、動こうとすると中途半端になりそうであった。先ほどのお菓子で小腹も満たされていて、寝られる。


「武器の手入れをしたら、寝よう。」


 護は『アイテムボックス』から短剣と整備道具一式を取り出して、整備を始める。メイアも自身の武器を確認し始め、セレスは特にすることもなくしばらく護を見ていたが、うとうとし始める。

 整備が終わった二人は頭をこっくりこっくりさせるセレスを起こさないようにベッドに運び、口づけを交わした後、ナヒーリヤが様子を見に来るまで寝息を立たせるのであった。


~夜~


「飲め飲め!!まだ夜は始まったばかりだぞ!!」


 グランの囃し立てる声が聞こえる。喧騒で満ちる中、護はいつもの四人とナヒーリヤと共に食事をとっていた。

 今は、酒に酔ってセレスに抱き着こうとするナヒーリヤを何とかはがそうと四苦八苦している。


「妹~。ずっと遠征に行っている間~、寂しかったんだ~。気づいたら護とかいう男が妹の傍にいるし~、変な虫に騙されたんじゃないかって~ずっと心配していたんだぞ~。」

「姉さん、離してください。後、護さんを悪く言わないでください。」

「え~、嫌だ。俺はずっと妹を守るんだ~。護なんて弱っちい奴に妹は~渡さない~。」


 ナヒーリヤの抱擁はガンドルフたちに解除されないよう力を出しながらも、セレスには痛みを与えないようにしているようだ。おまけに護への口撃が止まらない。護の精神はダメージを受ける。


「『フラッシュ』」

「眩しい~。護~、そんな魔法効くと思ったのか~。妹を取り返してみろ~。」


 多少の妨害はナヒーリヤには効かない。何事もないかのようにセレスに抱き着いたままだ。煽ってくる彼女に苛立つ。護は容赦せず魔法をイメージする。


「『ウォーターボール』」


 護は頭を包むように水魔法を発動。息ができないようにした。流石のナヒーリヤも息を止められたら慌てるようだ。水球から逃れようとする。

 護は執拗にコントロールし、外れないようにとナヒーリヤの頭から外さない。最終的に、十分経って窒息で白目を剥いてぐったりしているところを確認したところで、魔法は解除された。

 ナヒーリヤの減っていたLPを回復させ、気絶した彼女を天幕に運ぶ。気絶させた責任ということで護が運んだのだが、特に何も起こっていない。

 運び終わった後、護は再び出ると、どんちゃん騒ぎは酒が回っていることで更に大きくなったようだ。

 セレスたちの元へと戻ると、


「ごめんなさい。」

「セレスが謝る必要はない。ナヒーリヤの本音が正にそうかもしれないし。」

「そんなことないです。護さんは強くなってます。…姉さんの言うことなんて気にしないでください。」


 ぶっきらぼうに言い放つセレス護は苦笑を浮かべる。完全な仲直りまでは道のりが遠そうだと、更に思う。自分が原因の一つであると思っているため、護は苦心惨憺するのであった。

 それとは関係なく、夜は過ぎていく。戦士たちは酔いつぶれるか、眠気に誘われるまで夜を楽しみ、護は間違って酒を飲んでしまったセレスの大胆で、煽情的な絡み酒の対処に追われて過ごすのであった。


~翌日~

 二日酔いで顔色が悪いナヒーリヤが目を覚ます。


「ちっ、頭が痛い。なんか昨日水辺でもないのに溺れかけたんだが、夢か?」


 いつの間にかベッドに寝かされていたのを確認し、暗くしている天幕の中を見回たす。セレスのベッドに幸せそうに眠っている本人と抱き着かれて若干苦しそうにしている護が。メイアはすでに目覚めているのか天幕の中にいなかった。


「護を後で絞めるとして、まずは頭が痛いのをどうにかしないとな。」


 解毒薬で頭痛を止めたところで、護が目覚める。そして、ナヒーリヤと目が合った。


「目覚めたか。妹と同衾していいとは言ってない。後で覚悟しておけ。…それと今日は忙しくなるから、妹を上手く起こせ。」


 護だけに威圧を少しかけてナヒーリヤは天幕を後にする。とりあえず、体を流しておきたいと思いながら。

 威圧を受けた護は背中に汗をかきながら、セレスを揺さぶる。幸せそうに寝ているところ申し訳ないが、起きてもらわなければならない。


「……あれ、護さん?…頭が痛いです…。」

「おはよう。朝だよ。これを飲んでくれ。」

「はい…。」


 護は解毒薬をセレスに飲ませる。頭痛で顔を歪ませていたセレスの表情が和らぐ。そして、すぐに自分の記憶に欠落があることに気づいたようだ。


「私…昨日の夜、どうしてましたか?途中から記憶が無くて…。」

「それは…」


 護は口ごもる。昨日の彼女は積極的過ぎて、理性を溶かすような言動をしていた。間違いなく、今聞かせれば、彼女は茹蛸状態になるだろう。朝から気まずくなるのは護も避けたかった。


「…迷惑をかけたようで、ごめんなさい。」

「どちらかと言えば役得というか…。俺は平気だから。」

「……役得?」

「気にしないでくれ。」

「…護さんがそう言うなら、分かりました。」


 セレスが首をかしげてくるが、護は押し切る。そのまま、着替えをするためと言って天幕から逃走した。


(昨日のことを思い出すと、こっちも顔が赤くなるレベルなんだよなぁ。)


 考え事をしながら、簡易浴場にたどり着く。見張り等はいないが開いている。なお、普段ある男女どちらが専用か、という看板が出ていない。

 まだ眠っている者が大半の中、ここなら誰もおらず大丈夫だろうと。そして入ってしまった。


「「あ」」


 護の目には汗等を流して出てきたところのナヒーリヤが裸でいた。思わず、護はじろじろと見てしまう。彼女のまな板に近い胸や、筋肉で割れた腹と両立するくびれ、そして胸と比べるとしっかり肉がついているお尻、そして意外にほっそりとした生足。全てを見てしまった。

 彼女は無言で拳を振りかぶる。護は正気に戻ったが遅かった。


ドゴォォン!!!


 天幕を突き破り護が吹き飛ぶ。衝撃波・・・だけなので、レベルが上がった護では死なない。地面を転びながら拠点外にある木と激突してやっと止まる。骨は何本もいかれ、出血もしている。死なないだけで瀕死になっていた。


「おい。生きてるか?俺の裸をタダで見せてやるのは俺の旦那となる奴だけと決めているんだ。」


 服を着たナヒーリヤが護を治癒する。その行為とは裏腹に声は極寒の寒さを纏っていた。


「さて、お前には二つ選択肢がある。一つ。代価として地獄を見てもらう。安心しろ、殺しはしない。もう一つは、俺の旦那になる。こっちはまあ、俺が認めないがな。」

「…」

「さあ、地獄を見てもらおうか。」


 青筋立てたナヒーリヤが回復するのを止めて拳を構えた。それを見て、護は自分の運命を悟るのであった。


 朝にそんなハプニングがあったものの、護は他の面子に混じって、魔物の解体に追われていた。

 戦場跡地で広がってしており、大小さまざまな魔物を肉や皮、爪、魔石などに分けていく。地面は再び血で染まり、見習いたちの大半は、目が死ぬか、吐き気を覚えて離脱するかしていた。セレスも途中から気分が悪くなってこの場にいない。

 護はナヒーリヤに離脱を禁止されていて、離脱せずずっとしていた。メイアが護に休息するように言うが、壊れた機械のように延々と作業を止めない。ナヒーリヤによってすでに減るような正気度(SAN値)はもう残っていない。


「あぁ、天国だ。気絶を許してくれない地獄よりも、手が真っ赤に染まる方がはるかに天国だ…。」

「護様!?しっかりしてください。一旦休みましょう。他の騎士の方々から畏怖の目で見られていますよ。」


 メイアが言う通り、見習いはともかく騎士たちも護をぎょっとした目で見ていた。時折鼻唄交じりで短剣で切り裂いていき、笑みまで浮かべているのを見れば、自分もその狂気に飲まれそうになるのだ。

 護を止めようとするメイアを魔王に挑む勇者のように見ているものもいる。狂気に飲まれる前に早くしてくれと。


「覗き魔。お前が倒した地竜を持ってきたぞ。おい、手が空いてるやつは取り分を話し合って手伝ってやれ。」

「聖女様」

「ん?覗き魔を休ませるわけにはいかないぞ。こいつへの罰も兼ねているかっらな。」

「護様を見て、そんなことをおっしゃれる方は貴方しかいません。」


 地竜の死体を出したナヒーリヤにメイアがそう言う。

 面倒くさそうにナヒーリヤは今も笑いながら短剣を振るい続ける護を見た。それでも、彼女は表情を変えずに続けた。


「あれぐらいはよくあることだろ。完全に壊れた奴は何もしなくなる。生きることさえな。完全に終われば、元に戻る。…お前らもあんな感じになるまで根を上げるなよ。」

『ハイ…』


 メイアは不服そうな雰囲気を出すがナヒーリヤは一蹴する。止められるとすれば彼女だけだったが、止める気はないと悟り、メイアは渋々下がる。

 護の手伝いへと戻るメイアと、自分が倒した獲物の解体作業に戻るナヒーリヤ。そして、どうにでもなれと、やけになって作業を再開する騎士たちだった。


「やっと、終わった。」

「お疲れ様です、護様。地竜の解体、完全にできましたね。」


 護の手には地竜の魔石が。巨体と強さにふさわしい大きさ、魔力を感じる。

 後ろを振り返ると、地竜の骨格だけ残っており、鱗は全て回収、肉も同様。目などの器官もいくつか回収した後、残りの利用できない部分は焼却した。

 結局、二人を手伝ったのは、馬車で乗っていた面子である、キールス、ミアノ、アロッゾと復帰したセレス。アロッゾが大剣で肉を豪快に切り分けていく様は周りを騒がせたものだ。

 また、鱗の一部とメイアの地竜料理をキールスたちに、ということになった。


(ふう。疲れたぁ。なんか途中の記憶が怪しいんだよなぁ。同じことをずっとしていたからか?)


 護は他がどうしているか見渡す。誰もかれも血まみれで狂気に飲まれるがままに解体していた。思わず後ずさってしまう。彼らは傍から見て恐ろしい者だった。

 メイアが微妙に咎める視線を向けてくる。護は心当たりがなくて困惑した。


「護様のせいですからね。元々、あんな風に作業していたのは護様です。」

「え?俺がそうしていたのか?確かに、ナヒーリヤの苦痛地獄から解放されて嬉しかったのは覚えている。その後に解体するのを命じられて、そこから記憶が曖昧だ。」

「何度も休むように申しましたが、ずっと止めずに壊れたようにしていたのです。見ているこちらがかなり辛かったのですよ。」

「それは済まなかった。」

「まあ、あんな風になるのは心の鍛錬が足りないだけですので、護様はお気になさらないでください。」


 メイアは最後にそう言うが、護は暗に自分もその一人ではないかと思ってしまう。記憶が飛んでいる自体で、精神が苦痛に負けてしまっている。正気で耐えきってもかなり辛いのではあるのだが。


(迷惑をかけたみたいだから申し訳ないなぁ。覚えていないから実感が…。)


 気まずくは思ってしまうものの、どうしようにもない。早く解体が終わり、正気に戻るのを祈る護であった。

 護はまだ空いている簡易浴場で血を流す。今回は事故無く過ごせたことに安堵する。入る時にナヒーリヤの罰がフラッシュバックして、顔が青ざめてしまったものの、悲鳴を上げずに済ませられた。


「おお、出てきたか。」

「貴方の侍女に聞いたら、ここにいると聞いて待っていたの。」


 護が浴場から出ると、グランとネルムが立って待っていた。後ろにはメイアもいる。


「坊主、お前が倒した地竜の魔石について相談したいことがあってな。ここで話すようなことでもないし、本部に行こう。」


 四人で本部に向かう。本部の中には、ナヒーリヤと数人の冒険者、フル装備をした騎士を数人、引き連れた中年男性がすでにいた。中年男性は護を見ると、席を立つ。


「直轄領以来ですね。これで黄ランク以上を倒したお方は全て揃ったのでしょうか?」

「全員だ、辺境伯。」

「では始めましょう。…魔物行進を止めていただき、ありがとうございます。私がこの場に来たのは、取引とご相談があるためでございます。」


 辺境伯は温かみがあり、ゆっくりとした口調でそう告げる。


「今回、村が三十七、町が一つ壊滅しました。再建に私が使える資金を全て使っても町一つの再建が限界なのです。それでなのですが、中隊級(黄ランク)の魔石を三つほど譲ってもらえないでしょうか。」

「タダでは譲れん。対価は?」

「そうですね。教会には復興後に寄付金を、冒険者で魔石を譲ってくださるお方には、エルフの国への紹介状を用意するというのはどうでしょうか?」


 教会側、特にナヒーリヤは微妙な顔をしており、冒険者側は乗るか乗らないか半々といったところだ。

 一人の冒険者が辺境伯に問う。


「その紹介状はちゃんと効力あるのか?」

「はい。エルフの国の王と国境の領主とは話をつけております。流石に今すぐとはいきませんが、数日もあれば用意できます。」

「あのくそ長いという入国審査も早くなるなら考えてもいいが、そこは?」

「もちろん、ほぼパスできます。」


 エルフの国への入国はかなり時間がかかると有名で、一人一人鑑定し、スキルだけではなく、人柄・・も審査する。最悪、一週間待たされることもある。

 冒険者はそれを嫌って、隣国へと進んで行こうとはしないのだ。短気な者が比較的多いため、尚更である。


「ここにいる冒険者の方は実力が黄ランク以上の皆さん方です。功績と人柄を信用しております。悪用されないことを祈っております。」

「信用を落とすようなことはしねぇよ。後、パーティー分の紹介状だよな?」

「はい。」

「なら、その話は乗った。俺たちは『黄土の極』。そのリーダー、ブリガンだ。」


 ブリガンは魔石を辺境伯の前に置く。魔石は地竜の魔石と同等であるのがすぐに護にも分かった。

 辺境伯は一枚の紙を取り出し、ブリガンと契約したことを書面として残す。


「これで残り二つです。他に譲ってくださるお方は?…聖女様、どうでしょうか?」


 他に名乗り出る様子がないので、辺境伯はナヒーリヤに尋ねてみる。


「教会として出すのはやぶさかじゃない。フォイアーとリヒトのどちらの教会から一個ずつ出せばいい。ただ、辺境伯は魔石をどう捌くつもりかどうかを聞いておきたい。」

「王都で一個オークションにかけます。後の二つは白金貨十枚でロンドス大公爵がお買い上げになると申し出を受けております。」

「王弟が魔石を白金貨十枚で、か。大公爵はリーゼンボルト王と仲がいいと聞いているし、問題はないか。どうだ、グラン?俺は一つずつ譲ってもいいが。」

「そうだなぁ。対価については微妙だが、譲らないのは外聞が悪いし、俺としても早く復興するならそれでいいか。ぶっちゃけると、フォイアー教会は今回は出費と稼ぎが同じぐらいになりそうでな、教会の方からのボーナスは無しになりそうだぜ。…あいつら、血の気が多い奴らばかりでな。ちょっと暴動になったら、黙らすの手伝ってくれよ。」

「それはお安い御用だ。というわけで、教会からは一つずつ渡そう。」

「ありがとうございます。これで復興への資金が調います。」


 グランとナヒーリヤがそれぞれ魔石を一つずつ机に置く。辺境伯はそれと引き換えに二枚の契約書に署名をし、二人に渡す。二人も署名し、契約は完了した。


「良き契約が結べたこと嬉しく思います。では、相談したいことがあります。復興に向けての人材依頼を主に冒険者ギルドに出したいと考えております。この依頼料は私個人の資金から出すものですので、教会との契約とは別件です。ギルド長、ここにいる冒険者に手伝ってもらえるように説得できませんでしょうか?」

「無理。」


 辺境伯に対して即答だった。一息吐いて続ける。


「私にできることは、そういう依頼があると伝えるだけよ。それに乗るかどうかは個人やパーティーで決めるわ。話してみてもいいけど、説得と呼べるようなものではないでしょうね。」

「俺たちは自分たちでどうするか決められるから、冒険者の立場にいる。ギルド長が強制参加させる力はないし、本当に手伝ってほしいなら、辺境伯自身が頼みこんで、俺たちの心を動かせばいい。ギルド長に説得の類を頼むは間違っていると思う。」


 辺境伯の騎士が無礼な発言に剣に手が伸びようとしたのを辺境伯は手をかざし止める。


「それは、そうですね。私自身が動いて頼みましょう。あなたはどうでしょうか?お力を貸していただけないでしょうか?」

「それは後でパーティーと話して決める。久々に忙しかったから、休暇に人助けでもどうだって聞いてみるさ。」

「検討していただけるだけでもありがたいです。それではここにいる冒険者に協力を募ってみようかと思います。それではギルド長、また後日に失礼します。」


 辺境伯は護衛と共に天幕を去っていった。後には緊張の糸が解け、気が抜ける冒険者と教会騎士が残るのであった。

なんちゃってQ&Aはしばらく休みとします。


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