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異世界で1人別行動   作者: 狩野 猟
聖女編
20/138

魔物行進戦~オークと魔法は相性が悪かった~

久しぶりの投稿です…

~???~

 森林の奥深く。そこにはオークエンペラーとその側近たちが、騎乗しているサイ型の魔物が移動していた。


(あの獣どもが全て討たれたようですな。)

(所詮獣どもだ。恐怖を忘れ、血に飢えて突貫することぐらいしかできん。だが、忌まわしき者どもを消耗させるには使える。)

(そうですなぁ。毒竜や地竜共も倒されてしまいましたが、損害は出ております。問題はないでしょう。一つ懸念なのは、援軍が現れたことぐらいでしょう。)


 オークエンペラーが瞑目しているオークコマンダーを睨む。


(厄介なのか?)

(援軍がかなり強力ですな。使い魔で様子を見ておりましたら、光で撃ち落とされてしまいました。彼らは火の使い手同様、一騎当千。おそらく、金の髪をした女は貴方様に匹敵するお力を持っているはずです。)

(ほう。俺と同様か。)


 オークエンペラーは獰猛な笑みを浮かべる。強者との闘いは血が滾ると、本能が知っていた。


(そいつと闘えるようにできるか?)

(必然的にそうなるでしょう。我らでは適いませんので。)

(楽しみにしておく。)


 森の中に雄たけびが鳴り響く。魔物行進モンパレ戦も終幕が訪れようとしていた。



~拠点~

 護とセレスは本部を目指して歩いていた。ナヒーリヤから伝言があったからだ。


「「…」」


 二人とも沈黙し、セレスは顔が赤い。目覚めた直後に起こった出来事がこの状況を引き起こしていた。

 護が目覚めた後、例の副作用に対応したのはメイアではなくセレス。彼女は用があるメイアに代わり、護の副作用を抑える薬をどう飲ませるかをメイアから聞いていた。

 また、それを利用して長いことキスをするという、彼女にとって大胆なことを成功させる。

 さらに、デートの約束を取り付けもしたのだ。ただ、その際の接触過多で羞恥心が極振れし、恥ずかしくて護の顔が見れなくなっていた。

 護はというと、彼女の顔を見る度に、キス解放直後のトロンと蕩けた彼女の瞳を思い出してしまい、煩悩と格闘していた。

 周りからは二人の様子をいぶかしむ視線が向けられていたが、当の本人たちは無視している。いや、気づいていなかった。


「よう、護。目覚めたか?」

「この子が竜殺し。見た目に寄らないのね。」

「坊主。よく来たな。…妻に会いたくなってきた。」


 本部用の天幕に入った途端、メイアに抱きしめられる。また、その後ろからナヒーリヤ、ネルム、グランの言葉がかけられる。グランは二人の様子を見て、妻が恋しくなったようだ。

 メイアが微笑みを向けていたのを消し、ポーカーフェイスと戻る。抱擁から解放された護は、その様子に一種の迫力を感じていた。


「護様、お目覚めになられて幸いです。昨日のことで色々と申し上げたいところですが、聖女様たちの御前で長くなりそうですので、後にしておきましょう。」


 それだけ告げると、メイアは護の後ろへと下がる。代わりに、ナヒーリヤが地図がある机へと手招きをする。

 地図には防衛ラインが線で描かれており、今戦場の前線と思われるところにはそれぞれの所属を示した旗を使った駒が置かれていた。


「護をここに呼んだのは、こいつらが会いたいと言ってきたからだ。首を切り落として幹部クラスを倒したという、馬鹿げていながら実にシンプルなことをしでかした本人に会いたかったらしい。」

「どんな奴なのか知りたくてな。平凡に見えるが、侍女がかすり傷を負うだけでブチ切れ竜を殺す輩とは気に入ったぜ。男は女を守ってこそだよな?」


 にかっとした笑みを向け、隣から背中を叩いてくる。力が強く、LPが減るぐらい、痛いのでやめてほしいと思う護。


「グラン。痛そうにしているから止めたら?『ファイヤーケア』。これで痛みは引いた筈よ。自ら死にかけて魔物を殺すなんて、私からすれば狂気染みているわ。他人を心配させないような戦い方をすることね。」


 ネルムは熱くない炎によって治癒し、護を咎める。彼女の咎めの言葉は護に突き刺さる。


「咎めるなよ。男には命をかけてやらなきゃいけない時があるだぜ。」

「それで後に残される側にもなってみたら?あんたの奥さん、絶対心配してるわよ。」

「妻は俺を信じてくれているからな。絶対戻ってきてくれるとな!」

「絶対嘘よ!!」

「何を…「お前ら、喧嘩をするのだったら後でやれ。」」


 護のことから外れ言い争いを始めた二人をナヒーリヤが止める。凍てついた眼差しと明らかに不満を募らせた顔を見て黙る二人。

 ナヒーリヤは護を見て、


「俺から言うことは何もない。そこの侍女や妹が言ってくれるだろうからな。…まだ戦いは続いているしこれからが本番とも言える。」


 地図にある駒の一つを前線から更に敵地へと進める。


「オークエンペラーがやっと戦場に出てきたようだからな。魔物行進モンパレを確実に止めるために、排除しなければならないのがのこのこと出てきた。俺たちはそれを仕留めに行く。その中に護と侍女、お前ら二人を連れていくつもりだ。」

「正気なのですか?私は問題ありません。ですが護様を連れていくなんて、死地に送り込むようなものですよ。認められません。」

「死なせないための、侍女に加えてガンドルフたちも傍につける。言わば見学だ。」


 ナヒーリヤが言ったことに疑問を覚える護。見学?戦いのレベルが違いすぎて参考にならないものを見てもためにならないのは明白だ。


「これは俺の勘だが、今の護なら見ることぐらいはできる筈だ。護にはもっと胆力をつけてもらって、いざという時に動けるようになってもらわないといけないからな。」

「地竜相手に瀕死で突貫するような子に胆力なんてもうついてるわよ。」


 ネルムのツッコミを無視してナヒーリヤは続ける。


魔物行進モンパレなんて何年に一度しかない。そのメインイベントを近くで見られるいい機会だからな。どうだ、悪くないと思うぞ。」

「死と隣り合わせな場所に目を輝かせながら誘わないでください。」

「行きたくないのか。…しょうがない団長命令だ。護、オークエンペラー討伐隊補佐として隊に同行することを命じる。一応、リヒト教会に所属していることになっているからな。拒否したら罰するぞ。」


(無茶苦茶なことを言い出しやがった!?それも断れない形にして!!)


 護は口をパクパクと開け閉めするしかない。拒否できない以上受けるしかない。

 背後でメイアが殺気だっているようだが、ナヒーリヤはどこ吹く風と素知らぬ顔をしている。


「で、返事は?」

「りょ、了解。」

「それでよし。…グラン、ネルム、準備の方はどうだ?」


 ナヒーリヤは顔を引き締めると二人にそう尋ねる。


「そうね…大体決戦の場所としてここら辺かしら。ここなら、暴れても障害物はないし派手に暴れても大丈夫。まだ、魔物が残っているから罠とかは基本無し。実力勝負なら、貴方負けないでしょ。」

「ああ。地面の方は途中で沈んだりしないか?」

「足が埋まるから真っ向から振り下ろしは避けて。踏み込みで地面が陥没するかもしれないけど、その程度ぐらいよ。」

「そうか。人員の方はどうだ?」


 尋ねる相手がネルムからグランに変わる。


「人員に関しては、フォイアー教会と冒険者からも数人出す予定だったな。選定を終わって最終調整に入ってもらっている。フォイアー教会からは『トリプルレッドヘッズ』の三兄弟が。冒険者からは黄の『氷の魔術師』と黄のパーティー『暁の蝶』を選んである。後は俺だ。」

「それに加えて、リヒト教会からは俺を含めた十五人か。約三十人、いけると思うか?」

「敵さん次第だろう。二百体とか勘弁だぞ。」

「そうなったときは、こっちの副団長たちとネルムが動くから問題ない。長丁場にするつもりはないからな、一気に蹴りをつける。」


 短期決戦以外はなし。まだまだ戦えるが、昨日の疲れが無い訳ではない。無用に長引けばミスはどうしても出てくる。

 トップが倒れると下に動揺をもたらし、負の連鎖を呼び寄せてしまう可能性もある。確実に葬るのに全力を振り絞り速く倒すに越したことは無いのだ。


「決行は太陽が傾き始めてから一刻の間だな。丁度、オークエンペラーの進軍が俺たちが選んだところに差し掛かる。だから、太陽が昇りきる頃に集合して移動するぞ。」

「足はどうするんだ?」

「馬はどうかしら。訓練されてちっとやそこらでは怖気ないのを用意している。オークエンペラーの咆哮を受けても進めるわよ。」

「それにしよう。数は?」

「きっちり三十頭いるわよ。まぁ、一人一頭である必要はないんだけど。」

「それは出発する時に決めればいいだろうよ。もし失敗した時はどうする?」

「失敗しない。負ける仮定はなしだ。」


 自信に満ちた声で言い切ったナヒーリヤにグランはにかっとした笑みを浮かべる。それに対し、ネルムは顔を引きつらせていた。この世に絶対はない。保険をかけておくのが最善と思っている彼女からすればそれを捨てるのは馬鹿としか言いようがなかった。


「俺は負けない。いや、俺たちはと言った方が正しいか。ネルム、もし負けた時のことを考えたいなら考えておけ。後ろで考えられるお前だけの仕事さ。」

「ろくでもないかもしれないわよ?」

「俺が死んだ後のことは任せる。」


 ネルムはため息を一つ吐くと、「好きにさせてもらうわ。」と言い残し天幕から出ていった。

 護、メイアが天幕から出るとセレスが外で待っていた。その手にはかごが吊り下げられており、布の隙間から美味しい匂いが漂っている。

 しかし、メイアからのお叱りを同時に受けるようになってしまい味を楽しむ暇がなくなってしまう。しばらくの間、死んだ目をする護とポーカーフェイスのメイア、半笑いするしかないセレスが見られるのであった。

 その後はうるさい短剣の整備をしながら過ごしている間に、集合時間となる。



「オークエンペラーが出現した。こいつと取り巻きを倒せば、今回の魔物行進モンパレは終了する。…けりをつけるぞ。」

『おおっ!!!』


 ナヒーリヤの静かなる宣言に、約三十人の咆哮が答える。

 討伐隊は日が照りつける中、馬を駆って戦場へと駆り出した。突貫してくる討伐隊に対し、雑魚が群がってくるのだが、一人の男の魔法で沈黙する。全てが凍てついていた。


「流石はソロでありながら黄ランクの冒険者、『氷の魔術師』ですね。」

「有名なのか?」


 メイアの背中に抱き着きながら馬に乗る護はメイアのつぶやきを聞き、そう尋ねる。


「彼は魔術師が魔法で芸術を彩る祭典での優勝者ですから。レベルは90を超えているそうですし、賢者に近い人物の一人でもあります。得意とするのは二つ名の通り、氷。体の芯まで凍らせてしまうそうですよ。」


 馬が氷の彫像となった魔物を踏みつぶし、大きく揺さぶられながらもメイアは続ける。


「露払いとしてはいささか過剰な気もします。足止めをするだけでも十分です。」

「私の美学にケチをつけるのはよしてもらおうか。」

「おや、聞こえていましたか。」


 馬を並走させてきたのは、氷の魔術師本人だ。見た目は三十代半ばで、口ひげと黒のハットが似合っており、戦場にもかかわらず紳士服という、メイド服姿をしているメイアと同様に浮いていた。

 彼は魔法を行使しながらやや低い声で不満を表す。


「『アイシクルワールド』。中途半端に凍らせるなど、我が美学に反する。氷の彫像となった卑しかった奴らでも見るに耐えるぐらいにはなるだろう。」

「貴方の美学は理解できませんね。私からすれば、ただ効率の悪い魔法を見せびらかしたいだけにしか見えません。ペース配分も最悪ですね。魔力回復薬、いくつ使用したのですか?これからが本番というのにこんなところでへばってしまっては話になりませんね。」

「まだ一本しか飲んでないわ!!伊達に賢者に近いとは言われておらん。この程度の魔法で四本も五本も飲んでおったら、お前が言う通り話にならんだろう。自分の魔力配分ぐらいできておる。」

「そうですか。だとすれば、ただ単純に貴方のやり方が嫌いなだけですね。氷の彫像にする理由は到底私に理解できるものではありませんし、地面まで凍らせるのは余計だと思いますし。」

「ほう、嫌いか。私もお前のことが嫌いである。馬が合わない。怒りで頭がおかしくなる前にとっとと離れることにしよう。」


 そう言い残して、氷の魔術師は馬を駆って先頭付近に戻っていった。

 メイアは何事もないようにポーカーフェイスをしたまま馬を操る。後ろでは戦々恐々とした護が畏怖を込めた目でメイアを見ていた。


(うへぇ。相変わらずの口撃…。容赦ないなぁ。)


 それ以降、特に何もなく一行はそのまま討伐予定地へと着く。そして、それぞれ馬から降りた。

 また、遠目にはこちらへと向かってくる一団が見え始めた。オークの体長は二メートルほどでサイのような魔物に騎乗しながら突っ込んでくる。その中に一際でかいオークがいた。オークエンペラーだ。

 オークエンペラーは討伐隊の先頭で仁王立ちをしているナヒーリヤを見つけると、雄たけびを放つ。その声は護たちの肌を鳥だたせるものだった。


「さて、邪魔な取り巻きから殺すとするか。」


 雄たけびを受けたにもかかわらず、顔色一つ変えていないナヒーリヤはこん棒を振り上げると、スキルを発動した。


「『グランドクラッシャー』!!」


 叩きつけられた所を起点に地面が波打ち、遅れて衝撃と土砂がオークたちを襲う。オークコマンダーの指示で咄嗟に範囲外へと逃れたもの以外は足が掬われ転倒した後に土砂のつぶてをくらい吹き飛ぶ。流石に近衛ともあって耐えてはいたが、戦闘に参加するまでには時間がかかるだろう。


「魔法をぶつけてやれ。足を潰すぞ。」


 光、火、風、土属性の魔法がサイの魔物を狙って炸裂する。対してオーク共は、かなりの速度で走る魔物から飛び降りる。魔法はサイに直撃し戦闘不能に追いやったが、オーク共の被害はなしだ。相変わらず前進してきた。


「俺の戦闘範囲に入ると命の保証はしないからな。散開して取り巻き共を始末しろ。」


 ナヒーリヤの指示で相手の一団を囲むように討伐隊が散開する中、ナヒーリヤただ一人がオークエンペラーに向けて突貫する。オーク側の魔法射程圏内に入り、風の刃が殺到するのをこん棒一つ盾にし突破した。


「よぉ。豚の皇帝。わざわざ経験値になりに来てくれるなんて感謝するぜ。」


 ナヒーリヤの挑発にオークエンペラーはこん棒を振り下ろすことで応える。それを回避し、お返しとばかりに横薙ぎを放つ。足に直撃したが、持ち前の筋肉とステータスでダメージを押さえられてしまう。

 互いに獰猛な笑みをしながら、岩のこん棒とオリハルコンのこん棒がぶつかり合う。その衝撃波で地面は陥没した。


(こいつの方が力は上か。AGI(俊敏)は俺の方が上、INT(知力)はというと…)


 ナヒーリヤの顔ほどあるレーザーがエンペラーの足を貫こうとする。回避行動をされたせいで、中途半端にしか削れない。それでも知りたいことは知れた。


(こっちの方が上だな。)

「おっと!」


 こん棒をデコイにしてからの蹴り。こん棒で完全に隠れて反応が一瞬遅れかけた。ギリギリで躱し、逆に体勢が崩れているエンペラーに反撃する。またしても尋常ではない硬い手ごたえにナヒーリヤは舌打ちをした。


(あほみたいに硬ぇ。魔法主体に切り替えてやるか?)


 距離を取ろうとすると詰められ、重い一撃を嵐のように繰り出してくるエンペラー。先ほどのように隙をみせてくれれば魔法を構築する暇がある。だが、それ以外では気を抜くともろに一発直撃を喰らいかねない。


(面倒くさい相手だな!!)

 

 力がぶつかり合う度に衝撃が体の芯に響く。骨が軋み頭が揺れる。感覚がおかしくなりそうだと彼女は思った。


(こういう相手は短期決戦に限る!)

「がはっ!!…『エンチャント・シャイン』それからぁ、『インパクト』!」


 蹴りを自前のステータスで受ける。激痛が襲う。それでもナヒーリヤは魔法のイメージを手放さない。

 そして、光を纏わせた渾身の振り下ろしが炸裂し、相手のこん棒を砕き足を地面に埋めさせた。


「『ムーン・フォール』!!」


 相手が足を抜く前にすぐさま離脱し、極大な光球を落とす。盛大な爆発が起こり、ナヒーリヤの視界を染める。

 視界が戻り、土煙が晴れる。爆発の中心地には全身を焼かれながらも耐えきったオークエンペラーの姿が現れる。醜悪な顔にはにやついた笑みが浮かんでいた。

 その姿が一瞬で消え、腹へと蹴りがナヒーリヤに炸裂する。数十メートルほど吹き飛び、地面を転がる。血反吐を吐きながらも立ち上がり追撃を回避した。

 エンペラーが殴ってくる。今回はナヒーリヤの光を纏ったこん棒とぶつかり合い、拳の表面を炭化させる。また、彼女もエンペラーも衝撃に体が耐えられず吹き飛んだ。

 互いにいったん距離が離れる。ナヒーリヤは手をかざし魔法を発動させる。エンペラーはそれを視認する暇もなく横に転がることで回避。エンペラーの手が地面につくのと同時に姿がかき消える。

 二回目。これはナヒーリヤの目にも捉え切れていた。先ほどのダメージで若干速度を落とすことに成功したようだ。それでも回避はできず、やむを得ずこん棒を地面に突き刺し攻撃を受ける。地面を削りながらもなんとか吹き飛ばずに耐えきった。


「お返しだ。『シャイン・バースト』!」


 更なる光球が受けきられて崩れたエンペラーに迫る。腹に直撃し、穴が空く。完全に焼けこげて出血はしていないが、確実にエンペラーの体力を削る一撃。

 追撃にもう一度迫る光線を放つが、こん棒を土から生成され防がれてしまう。


「ごふっ。…いやぁ、効いたぜ。お前の飛び蹴り。まさかSTR(筋力)を利用してAGI(敏捷)の低さを補うとは驚いた。でも、魔法に対しての対策をしていなかったお前は力を使い切れていない。」


 立ち上がるエンペラーにこん棒を振り下ろし、二撃目の横払いで吹き飛ばす。エンペラーの左腕はあらぬ方向に曲がっていた。

 ナヒーリヤは更に突貫しての一撃を喰らわせる。今度は焼けこげた右足が吹き飛んだ。

 エンペラーは手放さなかったこん棒を支えに立ち上がる。その前にはナヒーリヤが立っていた。

 彼女の顔には獰猛な笑みは消え失せ、路傍の石を見るような眼差しをしている。こんな状況に追い込まれても笑みを続けるエンペラーとは対象的だった。


「ソウカ。タノシカッタゾ、オンナ。」

「さっさとくたばれ、豚の皇帝。『シャイン・レイ』。」


 頭を打ち抜き、オークエンペラーは活動を停止した。

 ナヒーリヤはその場に座り込み、水薬ポーションを煽る。地味に二回直撃した攻撃のダメージが大きく、戦闘後半、衝撃が加わるたびに激痛が走っていた。

 誰も見ていないことを確認し、脇腹を見ると青紫色になっており、水薬を飲んだとはいえ引くまでには時間がかかりそうだった。


「ステータスオープン。……ちっ、レベルは上がってないようだな。痛いだけ損した。」


 ナヒーリヤはレベルが上がっておらず、悪態をつく。

 ちなみに彼女のステータスはこうなっている。


ナヒーリヤ・キントグル (女・23歳・人族) 職 聖女 Lv112

 LP 941/1451  MP 588/1098

  STR 1325  AGI 1024

  TEC 994   END 1077

  INT 1294

一般スキル 戦棍術Lv10 剣術Lv4 盾術Lv1

      魔法(光)Lv9(火・水)Lv4

      不屈Lv9 集中Lv7 威圧Lv10

職スキル 浄化Lv7 アイテムボックスLv5 守護Lv5 鼓舞(対魔)Lv3

エクストラ 戦士の矜持


「体力も半分を切っていないし、厄介ではあったが…。強敵とは言い難いな。やっぱり脳筋はもっと、タフで一撃で吹っ飛ばすぐらいしてくれなければ、やりごたえがない。」


 ナヒーリヤはオークエンペラーへと不満を漏らしながら、取り巻きと討伐隊の戦闘を眺める。

 取り巻き共は一点突破を図ろうとしていたようだが、氷の魔術師の氷の壁が行く手を阻み、その背後から攻撃を仕掛けられていて、その大半が打ち取られている。


「へー。オークエンペラーみたいなことをしている奴がいるな。」


 オーク残党内に手でブーストした飛び蹴りをしている奴を発見する。その直撃を諸に受けて、討伐隊の一人が吹き飛ばされる。腕が折れ、かなりのダメージを負っている様子から戦線復帰までには時間がかかるだろうと、推測する。


「おっ。」


 暴れまくっている飛び蹴りオークに、『トリプルレッドヘッズ』の三人兄弟が対峙する。

 ナヒーリヤは長男が盾役、次男が攻撃役、三男が支援役というのを思い出しながら、観戦する。

 まず先陣を切ったのは長男。聖騎士の職スキル『守護』を発動し、オークのヘイトを集める。そこにすかさず、オークの電光石火の飛び蹴りが炸裂した。


ガァァン!!


 盾と蹴りがぶつかった音が鳴り響き、大気を震わせる。動きが止まったところに次男が長剣で切りかかるが、それは皮膚を浅く切りつけて筋肉で止められた。逆に拳が振るわれるのを三男が炎の矢でその腕を貫き阻止する。

 そして、長男の『シールドバッシュ』で吹き飛ばし、三男の『バーンアウト』で火だるまにし、『チェイン・エンチャント・ファイヤ』を受けた、次男の『チョークリッパー』で止めが刺される。

 ほとんど炭化し、原型が残っていない。


(流石は殲滅力なら俺たちに引けを取らないフォイアー教会の騎士たちといったところか。それにしても、攻撃魔法から派生して付与に繋げる魔法…中々興味深い。今度聞いてみてもいいかもしれないな。)


 コマンダーの方は、リヒト教会の精鋭が魔法を完封して、矢で頭を打ち抜かれて絶命していた。

 その後はしばらくもしない内に残党は全滅する。

 違う方向を見ると、サイの魔物から落っこちたオーク共を始末し死体を回収し終えた護たちがこちらに向かってきている。


(けが人は俺を含めて数人か。……死者は討伐隊の方ではゼロ。上出来だな。)


 ナヒーリヤは立ち上がると、度重なる力のぶつかり合いで歪んだこん棒を掲げる。

 周辺から戦士の雄たけびが上がるのであった。


A:久しぶりのなんちゃってQ&Aを始めるぞ。

Q:本当に久しぶりの更新ですね。さて、護の戦闘を前回して今回はナヒーリヤの方ですね。オークエンペラー、さらに強くてもいいのでは?

A:あー、それについては、後々変更になる可能性は否定できない。ただ、オークエンペラーは弱い方のボスという方向性でいこうとは思う。

Q:へー。ナヒーリヤが戦っている間、護たちは何をしていたのか気になります。

A:それは次話で少し会話を発生させると思うから心配しなくていいぞ。


 ということで、投稿を再開したいと思います。

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