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異世界で1人別行動   作者: 狩野 猟
聖女編
19/138

戦闘開始~聖女無双、死へと向かう中で~

……

「おらぁ!!」


 気迫と共に大剣が振られ、壁に張り付いていた敵を薙ぎ払う。持ち場に着いてからもう何時間も経ち、魔力は枯渇状態、裂傷から血が流れている。その男は体力には自信があったが、ここまで追い詰められた状態になるのは久しぶりのことだった。

 防壁の損耗が激しく、突破されないように降りてきたものの、大剣で薙ぎ払える数には限界がある。多少マシになったぐらいでしかなかったが、やらなければ後方は地獄絵図へとまっしぐらだ。ひたすら大剣を振り続けていた。しかし…


ボキンッ!!


 硬い甲殻に包まれたダンゴムシ型の魔物とぶつかって大剣が折れる。かなり頑丈に作ってもらっていた筈だが、度重なる戦闘に耐え切れなかったようだ。


「ちぃ!!」


 舌打ちを一つし、『アイテムボックス』から予備を取り出そうとする。そんな隙を魔物どもは容赦なく襲う。あっという間に群がられ、傷が増えていく。

 そして、魔物の一体が目の前の騎士の首を掻き切ろうとした時だった。


ジュパァァ!!


 極太の光線が首を掻き切ろうとした魔物を消し飛ばす。周りの魔物も同様だ。

 あちらこちらから、似たような状況に立たされていた騎士たちの歓声が上がる。援軍が来たのだ。

 傷を癒されたその騎士も、それに加わる。戦士たちの叫びで大気が震えた。


「お前ら、ここからはリヒト教会騎士団が引き継ぐ!!邪魔だからとっとと下がれ!!」


 そう言ったのはリヒト教会騎士団、副団長のゴロンゾ。その形相はまさに鬼のごとし。彼は壁から大きく跳躍すると、群がる魔物を踏みつぶし、スキルを発動する。


「『守護』!!」


 彼の周りの魔物のヘイトが全て集まった。壁を壊そうとしたものもだ。それらが一気に彼の元へと殺到する。

 そんな状況でも動揺せず、ゴロンゾは光を纏ったこん棒を振りかぶり、薙ぎ払う。

 守護の範囲内の敵が全て塵となった。それが彼に追いついた他の精鋭からも放たれる。先ほどまでの大剣での物理だけの攻撃とは大違いだ。


「『ライトエクスプロージョン』!」


 一人の魔法師が、中心に光の球、周りに小さな光が衛星としてクルクル回る綺麗な魔法を紡ぐ。それを敵しかいないところへと飛ばした。そして、敵に触れた瞬間爆発する。

 魔物が焼ける音と匂いが充満した。圧倒的な熱量で直径二十メートルの範囲は地面がガラス化するほどで、当然消滅。その周りも、小さな光に貫かれ、こけた運悪い魔物が他に踏みつぶされるといったことが起きていた。

 似たような爆発があちらこちらで発動し、魔物の海が徐々に蒸発していった。空白地帯がちらほらとでき始めている。

 

「団長の指示通りここを死守する!!各自、班内で魔力、疲労を管理しろ!!夜通しで戦うぞ!!」

『了解!』


 リヒト教会騎士団は二手に別れて行動していた。一つはナヒーリヤ率いる討伐隊。敵の中を突き進み、残りの幹部クラスを倒すことが目的だ。『堅牢』の二人はこっちに参加している。

 もう一方、ゴロンゾ率いる面子に与えられた任務は防衛ラインの死守。限界が訪れ始めていたところを支え、魔物をできる限り殲滅するといったものだ。

 昼夜を問わず戦いが起こる魔物行進戦は、騎士や冒険者に多大な消耗を強いる。特に数を減らすために使用する魔力の消耗が激しく、切れるとかなり苦しい状況になっていた。

 水薬ポーションの限りがある以上、ローテーションを組み、対処していたのだが、負傷者が多くなる幹部クラス戦が防衛ラインで起こったこともあり、被害の甚大さから上手くできていなかったのだ。

 それが尚更、ひずみを生み、消耗が激しくなるといった悪循環に陥っていた。

 一旦立て直しの時間が必要だった。その間を、消耗がないリヒト教会騎士団が引き受けることになったのである。


「『シャイン・レイ』!」


 セレスの光線が狼型に当たる。頭部が吹き飛んだ。

 防衛ラインの一角で、セレスが壁の上から、護とメイアは降りて戦っていた。セレスが魔法で処理しきれなかったものを、二人が短剣でとどめを刺していく。倒したものは片っ端から『アイテムボックス』に入れながらも、戦い続ける。


(手が血みどろになっても、何も感じない…匂いもあれだけ酷かったのに、今はどうともないしなぁ。)


 護は当初、圧倒的な血の匂いと腐臭の匂いで気分を悪くしていた。それも、命のやりとりで、麻痺して気にせず戦えるようになっていた。


ギュウウェェ!!……グエッ!


 周りの魔物を踏みつぶしながら突進してきた体長二メートル越えのサイ型の魔物の足元を陥没させる。盛大に転び、土を巻き上げながら、止まった。

 護は分厚そうな皮膚に短剣を突き立てる。弾かれることなく刺さった。


「『フレイムボム・チェイン』」

ボゴッゴッゴゴゴ!!


 刺さった短剣を通して、魔物の内部が幾重にも爆発した。口などから血があふれ出す。

 『真理眼』でLP(生命値)が無くなったのを確認すると、『アイテムボックス』にしまう。すぐさま、飛び掛かってきた、四足の異形の魔物を切り捨てる。


(数が多いなぁ。右の魔物を切り捨てて、今度は左……)


 右のトカゲを風で切り裂き、左から来る魔物へと短剣を突き立てる。刺さったが魔物は死んでいない。

 反撃とばかりに、短剣が刺さっていたところから血を吹きだしながらも、かぎ爪を振るってくる。

 護は躱すと、今度こそ急所へと突き立てた。


「!!」


 後ろからの突進を見ずに、横に飛ぶことで回避する。腰ぐらいの大きさのモグラ型が地中から出てくると同時に飛び出してきたのだ。


(危なっ!地中まで壁を伸ばしている分、こっちの方に来るんだった。)


 足元から土の杭が飛び出し、護の頬を浅く切り裂く。それを始めに、杭を連発で飛び出してきた。

 護は狙いをつけられないように、足を運びながら魔法をイメージする。


「『ファイヤーランス・スリー』!」


 火の槍が三本現れ、モグラ型に放った。二本直撃し、一本は土の杭で相殺される。土の杭は砕かれたもののこちらに迫ってきたので、INT(知力)は護より高そうだ。

 護は他の魔物を牽制しながらモグラ型を見る。直撃したところの毛に火が移り、肉が大きくえぐれていた。それでも、倒れる気配はない。LPも三分の二以上残っている。

 相手からの怒涛の杭が護に襲い掛かる。どれも一撃を喰らえば命取りになりそうだ。


「ここは…」

 

 護は器用に杭を躱しながら、近くにいた他の魔物に突貫する。不意をつかれ、護に横を抜かれた瞬間、その魔物を杭が貫いた。

 動こうとしているから、まだ生きていると分かる。すぐさま、護の風魔法が首を飛ばした。

 モグラ型の魔力が切れる頃には、護の周りの魔物で無傷はいなくなっていた。土の杭が刺さり、流血しているのがほとんどである。

 護本人は息を激しく吐きながらも、無傷。モグラ型に更に魔法を行使する。


「『ファイヤー・ランス』『ブースト・ウインド』」


 風の勢いを吸収、回転しながら燃え上がる火の槍がモグラ型を貫き、爆ぜる。モグラ型が沈黙したのを確認し、土の杭で弱った魔物を狩りつくす。

 『気配探知』にさらなる魔物が引っ掛かる。まだまだ休むどころか、夜はまだ始まったばかりだ。魔道具に照らされて昼のように明るい中、護は短剣を構え、次へと切りかかるのであった。



~ナヒーリヤ率いる討伐隊~ 

 

「邪魔だ。」


 ナヒーリヤが自身の身長を上回る金属のこん棒を目に見えぬ速度で振るう。その度、直撃したものは肉塊に、発生した衝撃を受けたものは押しつぶされるか吹き飛ぶかしていた。

 普段ならば恐怖で寄ってこないのだが、魔物行進では恐怖が発生しないため、どれだけ威圧しても寄ってくる。

 ナヒーリヤたちの敵ではないのだが、その数は冒険者やフォイアー教会の騎士たちが減らしていたとしてもまだまだ厄介に思うぐらいには多い。


「リヤさん、このまま直進すると幹部クラスに接敵する!」

「そうか。予定通りに倒すぞ。」


 索敵をしていたキールスが先頭で無双をしているナヒーリヤに目標が近いことを知らせる。

 殲滅速度が上がるとともに、行軍速度も上がる。ナヒーリヤ以外は散開し、雑魚の邪魔を入らせないように各々惹きつけ始めた。

 そしてナヒーリヤは到着する。


「こいつか。まぁ、パワーだけの馬鹿には負けるつもりはない。」


 ナヒーリヤは幹部クラスの魔物を見て、そう呟く。

 全長は三メートルあるかないかの大きさで、鬼の顔に、八本の腕、足は四本と、人型にしてはずいぶん異形だ。魔物の名は『アハト・フィアー』。圧倒的な数による連打と付随する力、二本足で立ち、残りの足で蹴ることもできる近接型。

 地味にINT(知力)も高く、魔法も効きにくい強敵だ。欠点は魔法を使えないところぐらいである。


グオオッ!!

「おらぁ!!」


 ナヒーリヤは振り下ろしてきた拳にこん棒を合わせる。衝撃波が彼女の髪をなびかせた。


ガアァァン!!


 あまりの威力に鬼はノックバック。すぐさま体勢を四本足で立て直し、拳を連打してくる。

 ナヒーリヤはこん棒を盾にし受けきる。一度に三発殴ってくるが、ナヒーリヤはSTRとENDの高さで、地面を削りながらも耐えきった。


「『シャインバースト』!!」

 

 ナヒーリヤの発動した極光が鬼の足を一本消し飛ばす。頭に打つと見せかけての足への攻撃は、反応されたとはいえダメージを与える。

 すかさず、こん棒による追撃が鬼を殴打する。骨が折れる音を鳴らしながら、数メートル吹き飛んだ。

 怒りの叫びをしながらも受け身をとり体勢を立て直した鬼に、ナヒーリヤの魔法が炸裂する。


ヒュウン!!


 腕を四本犠牲にして頭を狙った光弾を防ぐ。三本目までは当たったところからちぎれ飛んでおり、四本目はもう少しで貫通しているところまでで止まっていた。腕が力なく下がる。

 怒りと苦痛が鬼の顔に浮かぶ。そして困惑も。なぜ、魔法が効いているのか疑問に思っているようだ。今まで魔法でここまでの負傷を負ったことがないがゆえに。

 対してナヒーリヤは舌打ちをしていた。あの一発で頭を吹き飛ばすつもりだった。しかし、防がれてしまった。二発目を撃つが避けられる。すでに困惑はなく警戒している鬼に、内心苛立つ。


「さっさと、くたばりやがれ!!」

ドゴゥッ!!


 鬼に急接近、苛立ちのままにこん棒を振り下ろす。鬼の残り腕があらん方向に折れ曲がり、足が地面に埋まる。

 ナヒーリヤの追加の一撃が頭を吹き飛ばし、鬼は絶命した。

 多少留飲が下がる。周りを見渡すと、部下が魔物相手を薙ぎ払っているのが見える。ここでの目標は達した。次へと向かわねばならない。


「『アイテムボックス』……そこそこ潰して、次に行くぞ!!」


 ナヒーリヤの号令で騎士たちはそれぞれ大技で吹き飛ばすと、次の幹部クラスへと走る。

 横からくる軍勢を、交代しながら切り抜け二体目の幹部クラスへとたどり着いた。


「今度はでかいな。」


 体長十メートルはある前脚がついた蛇が現れる。毒をまき散らしているせいで、周りの空間はぽっかり空いている。

 ナヒーリヤはその中に足を踏み入れる。毒は装備で無効化できるほどのもので問題ない。


シュウウゥウゥ!


 ナヒーリヤに毒を吐き飛ばす。毒々しい紫をした液はナヒーリヤが躱したことにより地面に落ち、土の色がたちまち変色する。


「あとで浄化するのが面倒になるだろうが!!」


 光弾が蛇を襲う。鱗を打ち砕きながら肉を焼いた。

 痛みでのたうち回っているせいで、毒を所構わずまき散らし始めた。遠くに飛んだ毒が一人の守護魔法師にかかり、皮鎧がシュウシュウ、音を立て始めて溶けだした。その魔法師は慌てて浄化を発動し無効化する。若干、涙目だ。

 ナヒーリヤ本人も毒を躱しながら、とどめの魔法を発動させる。


「『ムーン・フォール』!!」


 莫大な光量が白く埋め尽くす。

 光が収まり闇が戻ってくる頃には、蛇は鱗をボロボロにさせて絶命していた。煙をだしながら、焼けている。

 毒も、それによって黒ずんだ植物も消し炭となっていた。もう毒の心配をする必要はなさそうである。


「素材としてはダメになっちまった。牙ぐらいは回収できるか。」


 ナヒーリヤはため息を一つついた。

 再び号令がかかり、移動を開始する。

 狙う幹部クラスの魔物は後一匹。しかし、中々見つからない。

 ナヒーリヤは適当に群がる魔物を薙ぎ払いながら、思考する。


(キールスたちの索敵範囲に居ない。俺たちは戦場の南に位置する林から強い反応を基に北西、そして北へと進んだはずだ。いるとすれば拠点の方向しかないな。向こうの大将さんが奥で呑気にさせているとは思えない。で、肝心なのは反応が無かった。つまり隠密持ちか…。かなり面倒なのが最後に残ったな。)

 

「拠点に戻るぞ!!魔法で前方を切り開きながら進む。後ろは俺と爺さん、アロッゾでやるぞ。」

『了解!!』


 ナヒーリヤとガンドルフ、アロッゾが反転し、後方に向かって『守護』を発動、ヘイトが一気に三人に集まる。

 群がる魔物の視線を感じながら、それぞれ技を発動した。


「『フォートレス・スタンス』『光盾』『カウンターブロウ』!!」


 ガンドルフは盾を構え、自重の増加、光魔法による光の盾で盾の面積を拡張し、魔物の突進に合わせるように盾で殴った。


「『バスター・ウェーブ』だぜ!」


 アロッゾは大剣を振り下ろす。ただそれだけで力のうねりが魔物を襲う。


「死ね。『インパクト』」


 ナヒーリヤは振り終わって残心。一瞬の静寂の後、力が顕現する。


 技は違えど、効果は似ていた。近場の魔物はひしゃげ即死。硬い甲殻をもっているものも衝撃でひびが入り、内部をずたずたにされていた。攻撃範囲に入っていたもので運よく生き残ったのは一匹。一番最後尾だったものだけだ。それもすぐさま出血で命を落とす。

 結果、空白地帯が生まれた。しばらくは時間が稼げる。

 ナヒーリヤたちは拠点へと急ぐ。副団長がいるため心配ないが、ナヒーリヤの勘が何かが起こると囁いていた。


(魔物の癖に一手間掛けさせやがって。妹が心配だ。何かあったら護を絞める。)


 ナヒーリヤはそう頭の中で決めるのであった。



~防衛ライン~

「護様、いったん休憩に入られてはどうでしょうか?」


 護が対峙していたイタチを背後からメイアが切り裂く。彼女の顔には汗が浮かんでいるが、まだまだ余裕そうだった。

 比べて、息を激しく乱しながら護は首を縦に振る。汗と血で全身ドロドロの状態になっていた。

 体力もENDでカバーできる範囲を超えており、LPが減っている。レベルが上がったおかげで減り方は緩やかだが、五割削れている分、かなりの時間、戦闘をこなしてきたのだ。

 リヒト教会騎士団が、戦闘に入ってからもうすでに数時間過ぎている。暗闇を照らす魔道具が高々と発動し、闇による不利をなくしていた。その中を怒号と悲鳴が鳴り響く。

 副団長など精鋭はメイアと同じく戦闘を続行できそうだが、護とセレスは魔力を枯渇させていた。魔力回復薬を飲んでいたとしてもだ。

 MPが尽きるのが早いため、飲む回数が増える。当然ながら消費も増える訳だ。特にセレスは『アイテムボックス』を所持できない。普通のポーチにありったけ入れてきていたのだが、少し前に補給しに戻っていて、今いない。

 セレスの代わりが来るまで二人で支え切れていたのは、やや魔物が来る数が減ったからである。討伐隊が道を切り開くときに倒しながら進んでいたのが、二人を助けていた。

 護の『気配察知』に交代人員が引っ掛かる。もう少しすれば役割交代だ。


(騎士たちはすごいな。守護魔法師たちの攻撃は減っているけど、まだ続行できそうな感じだ。目の前のメイアもいけそうだし、ステータスの差が大きいのを実感するなぁ。)


 護はそんなことを思っていると、場の雰囲気が変わったのを感じる。ひりひりとした重圧が皮膚を逆立てる。身が竦み、顔が強張る。頭の中で警鐘がなる。

 一体を除いて先ほどまでいた魔物どもがいなくなっていた。

 その一体は二十メートルほど離れたところにいた。竜だ。蜥蜴とは比にならない体格、獰猛な爪と頑強な鱗に覆われている。翼がないので、言うならば地竜といったところか。

 竜の眼は護をかばうように立つメイアを捉えており、殺気を放っていた。


「隠密持ちですか…。護様、逃げてください。おそらく、あれが幹部クラスの魔物の一体です。私一人では死にませんが、倒すのに骨が折れます。助けを呼んできてください。」

「…分かった。」


 護は震える足を叱咤してその場を離れようとする。それと同時にメイアが竜へと突っ込んだ。

 竜はそれにブレスを吐くことで答えた。口から土石流のごとき土砂が勢いよく吐かれ二人を蹂躙せんとする。


「護様!!」

「!!!」


 メイアは横へと駆けて回避する。しかし、護は全力で離れるため後ろを向いていた。反応が遅れる。

 迫ってくる土砂に対し、光の障壁、風の障壁が防ぎ、わずかな時間が生まれる。その間に護はイメージを具現化させた。


「『エア・ハンマー』!!」


 横に吹き飛び射線から外れる様に発動。あばら骨を折りながらも、吹き飛んで回避することに成功した。ただし、岩石が跳ね飛んできて護の腹を強く殴打する。

 痛みがひどく、内部で出血しているのだろうかLPが減り続けている。護は顔を顰めながら、地竜が作り出した惨劇を目にする。

 

「おえっ、威力が高すぎるだろ。」


 壁が壊されていた。壁の後ろは幸い威力がそがれてそこまで伸びていない。ただ、先ほどまであった交代の人たちの気配が消え失せている。自分の知覚範囲から外れたのか巻き添えになったのか護には分からなかった。


(セレスが今下がっていてよかった。それより俺が死にそうだ。あいつの強さは…)


 護の『真理眼』には二つのステータスが映し出されていた。


明石宮 護 (男・17歳・人族?)職  Lv41

 LP 34/316  MP 16/290

  STR 342 AGI 355

  TEC 304 END 323

  INT 294

一般スキル 剣術Lv4 短剣術Lv4 槍術Lv4 体術Lv3

      盾術Lv2 気配察知Lv3 調合Lv1

      魔法(火・光・風)Lv5 (水・土・雷)Lv4

      料理Lv2 不屈Lv4

職スキル アイテムボックスLv4 浄化Lv2

エクストラ 完全なる図書館の司書 真理眼 言語理解


 もう一つは竜のステータスだった。


ゼムリャ・ドラコン Lv94

 LP 1436/1532 MP 852/967

  STR 1354 AGI 497(984)

  TEC 975  END 1034

  INT 994

一般スキル 魔法(土)Lv7 隠密 Lv7

特殊 地竜の咆哮ブレス 威力上昇(土)

   鈍重(大)


(LPが四桁…。ステータスは高いが、殺れなくはないのか?)


 護は、メイアが竜と戦闘し気を引いているのを見ながら、あの水薬を使うかどうか考えていた。時間がない中、迷う。

 ステータスは上回れる。ただ、倒しきる前に護が死ぬだろうとも。

 「反撃の水薬(カウンターポーション)」の欠点として、瞬間火力は出せるが、長期になると先に死ぬのは使用者だ。満身創痍でありながら動くため、出血でLPは減り続ける。

 これは、持続回復があれば、ある程度抑えられる。だが、今度は薬の効果時間が切れて動けなくなり詰む。

 やるならば、即死狙いしかない。あの直径が三メートルはありそうな首を刎ねれば、いけそうだ。


(何やろうとしてんだ。俺が相手をする必要はない。勝てる訳あるか。回復して援軍を呼んだ方がいい。)


 護は怖気づいていた。命をかけることに。ドルケの時は頭が冴えていた。恐怖も感じなかった。どこかいけると思っていたのだ。また、セレスを助けるということが恐怖を緩和させていた。だが、今は怖い。

 とりあえず、回復しなければと『アイテムボックス』から回復用の水薬を出そうとした時だった。


グオォォッ!


 雄たけびと共に、竜の周りから全方位に鋭い杭が地面から突き立つ。そして、岩の散弾がメイアに襲い掛かる。

 杭は難なく躱したが、岩の散弾は避けられなかった。咄嗟に密度が低いところに移動し、短剣で岩を叩き落とす。正面は全て防ぎ切った。

 だが、跳弾した岩がメイアの頭を掠る。切れたのか彼女の額から血が流れた。血を拭う暇もない更なる攻撃をかわしていく。それを遠くからでも見えてしまった護は、


(俺は逃げるのか?メイアを一人にして?傷ついているのに目を背けて?)


 護の中で何かが切れる。もう護の頭の中には退却するという選択肢はない。


(ちょっ、主。死ぬつもりなの?あの侍女の傷は浅いし大丈夫だって。回復して助けを呼ぼう?)

(……)

(だから、その水薬じゃないって。………あーあ、死んでも知らないからね。)


 どこぞの短剣が、護の頭で喚いている。当然無視だ。

 「反撃の水薬」を飲み干した。すぐさま身体が燃える様に熱くなる。また、肉体に引っ張られるように精神が高揚する。

 それとは対に、護の顔は徐々に青白くなっていく。殺意を抱いた目以外、死へと向かっていた。

 

(殺ってやる。竜が何だ!!)


 地竜の目が死に損ないの男に一瞬向く。己に向けて無視できない殺意が加わったからだ。


「よそ見はいけませんよ。」


 メイアのナイフが、地竜の片目に刺さり爆発する。地竜は悲鳴を上げのけ反る。

 護から視線が外れた。それが合図となった。

 たった三歩。それだけで残像を残し距離を詰める。のけ反り中の竜の首元へとたどり着いた。その首は、一太刀で仕留めるにはあまりにも大きい。

 護はそんなこと関係ないと言わんばかりに、死の間際と極限の集中が見せる色あせた世界の中で魔法を発動した。


「『日閃』!!」


 短剣の横の一撃をなぞるように一本の細い光線が竜の首に走る。そして首が落ちた。竜の胴体のほうから血があふれ出て護を赤く染める。


「……」


 また、護の身体が地面に倒れる。心臓が動くたび、臓器から血が抜けていく。それも徐々に弱くなっていった。もう送り出す血がない。

 既に護の意識は失せていた。後は完全にLPがなくなり、死ぬ。


「護様!!死んではいけません!」


 すぐさまメイアは瀕死の護に水魔法で回復をかける。傷を癒すには彼女の能力が足りない。しかし、現状維持ぐらいはできる。

 そのおかげで護は死を回避できていた。

 時折くる魔物をメイアは魔法で駆除していくが、気を抜けば護への魔法が解けかねない。

 ギリギリの状況の中、メイアは最善を尽くす。焦りそうになる心を抑え込みながらも待った。助けがくることを。


「こんなところで何死にかけてんだ、護。」

「聖女様!!…なぜここに?」


 長い時間を耐えた末に現れたのはナヒーリヤだった。

 命を維持するメイアは驚きを示す。ナヒーリヤが現れた理由を普段ならすぐ気づいてもおかしくないが、護のことで頭が一杯だったため、気づけない。


「この竜を殺しに来た。それより、護から魔法を維持したまま離れられるか?」

「できますが、何をするつもりですか?」

「エリクサーを使う。俺が殴った時と同じ位、傷が深いからな。」


 護の負傷は深く、外見に反して体内のダメージは深刻だった。ナヒーリヤは二本目のエリクサーを使うことを決断した。

 ナヒーリヤは次に小瓶の中の液体を護へ振りかける。水魔法に解け、体内へと入っていき、再生が始まる。

 折れた骨が戻っていき、傷ついた臓腑が治っていく。最後に穏やかな吐息が聞こえるようになったところでその効果は終わった。


「聖女様、ありがとうございました。」

「気にすることじゃねぇよ。ひとつ聞きたいが、こいつを護が倒したのか?」

「そのとおりでございます。」

「そうか。…護を後方に運べ。後、壁を修復する奴らを呼べ。この場は俺たちが持つ。」


 メイアが護をお姫様抱っこしてその場を後にする。


(竜を狩るとはな。妹を守る力は着々とついているようだ。…絞める必要はないか。エリクサー代が稼げるようになって貰わねばならないが。)


 ナヒーリヤは竜の遺体を仕舞うと、団員たちと共に殲滅に乗り出した。

 

 日が昇り始める頃、拠点には目に見える範囲の魔物を狩りつくして聖女たちが戻ってくるのであった。

 彼らの活躍で魔物行進モンパレ戦終盤に入っていく。

 

 


なんちゃってQ&Aは今回無しで。

次回で決着させるつもりです。

補足…護の「反撃の水薬」使用時のステータスについて

地竜を倒した時のステータスはこうなっています。


LP 8/316 MP 1/290

 STR 1710(342)  AGI 1775(355)

 TEC 304        END 323

 INT 1470(294)

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