出撃前 ~知能武器 辺境伯と出会う~
ふ、再び場所がころころ変わってしまった…
「そう言えば、どうやって魔物を探知しているんですか?」
音を立てながら快速で進む馬車の先頭で、護はキールスにそう質問していた。
二日目に入り、もうすでに三、四度、戦闘をしている。その度にキールスが発見しているのだ。昨日はナヒーリヤの話で聞くに聞けなかった疑問を聞いてみる。
「あー、マモルには言っていなかったな。スキル名はそのまま『気配察知』。一般スキルに入るからマモルでも覚えようと思えば習得できるぞ。」
「ただ、スキルとして発現するまでが大変なの。」
ミアノの目が遠くなる。彼女は同僚に誘われて一度覚えてみようとしたことがある。その時のことを思い出していた。
「苦行よ。ずっと一日その場で座ったまま、気配を探るだけなんだもん。」
その言葉にキールスはすかさず反論する。
「おいおい、前に言ったろ。自分の周りに力の波動を発動させて、命や力ある存在が居れば跳ね返ってくる。それを感じると習得できるって。気配の識別はある程度経験がいるけどさ。習得自体は簡単だぞ。」
「嘘よ。そもそも力って何?魔力でやろうしたけど失敗したし、分からないわ。」
「力……。それってスキルのことですか?」
白熱してきた二人に護は思い当たる力がそうなのかと聴く。キールスは「それだ。」と大きく頷き、ミアノは「スキル?」と訝しく繰り返す。
護は一度、守護魔法師の職スキル『障壁』を発動しようとして魔力とは異なる力の流れを感じたことがある。どうやら当たりのようだ。
「スキルって、力なの?私、障壁を張るときそんなの感じたことないんだけど。」
「センスがないな!という俺もないが。気配探知といったものはそれが感じられるかどうかだ。」
「私もありませんね。ただ、私の場合は勘である程度相手の状況を把握できますが。」
「「「お、恐ろしい…」」」
メイアが言ったことに同じ感想を覚える精鋭たち。修羅場を潜り抜けたきた猛者でもその領域にたどり着けたのは一部だけだ。具体的にはナヒーリヤが入る。
昨日、魔物の存在を護とセレスに教えられていたのも、居るという勘があったからだ。精度も地味に高く、キールスには及ばないが信頼されている。
「凄腕侍女様は例外だ、マモル。とにかくスキルの力を波にして放ってみな。」
護は目を閉じ、あの時の感覚を思い出す。そう、自分の根源に接続する感覚を。周りの雑音が消え失せ、あるのは自分の呼吸だけ。
(!!)
魔力の流れとは異なる力の流れと意識が触れ合う。意識というレールに導かれ、自分の外側へと輪状に広げていく。
途端にメイアがいる方向から、次にキールスとミアノの方向からと自分に帰ってくる。
しばらくもしない内に感覚に慣れて、波動を強くした。一気に反応が増える。知覚の速度が間に合わない。頭の中がぐちゃぐちゃになって何も考えられなくなる。
すぐに、意識を力と離した。それでもかなりの疲れが出ている。何時間も勉強した後みたいだった。
「大丈夫か。いきなり強くすると感知範囲増えて、情報に飲まれる。さっきの感じだと、おそらくステータスの方に反映されているから確認してみるといいぞ。」
脂汗をかいている護にキールスはそう助言をする。また、護が使用した気配察知は、範囲だけならLv4相当だろうと推測していた。普通ならばLv2相当できればいい方だからかなり筋がいいと言える。
そして、護と鍛錬する時間があれば教えたいとキールスは思った。指導者の教えを受ければ確実に伸びてくれるという未来が見え、実際どうなるか見てみたいと。
キールスの思いとは関係なく、当人はこう思っていた。
(できたけど、しんどいなぁ。馬車二つ分はいけた。そこから頭の中がパンクしそうだ。数があまりに多すぎてよく分からなくなってくる。)
先ほどの感覚を繰り返す。そこまで意識しなくて他のスキルのように使える。ただし、一定の範囲内だと安定するが、それを超えると霧散してしまう。霧散する領域も意識をすればいける。しかし、結果は再び脂汗をかくことになった。
「キールス、マモル君すごい汗かいているけど大丈夫なの?」
「スキルを使いこなせてないだけだから大丈夫だ。その内多く処理できるようになって安定もするようになる。」
「護様、失礼します。」
護が何度か『気配察知』を繰り返してみる中、メイアは護の汗を拭うのであった。
魔物の討伐を繰り返すこと三回、いよいよイウド辺境伯領に到着する。商人の馬車が慌ただしく走り、冒険者の姿も多くなってきていた。
リヒト教会の馬車は、それらの人々から視線を多く受けながら、辺境伯直轄の領地、イウドアに到着した。王都アズべリアに負けじ劣らずの外壁が街の周りを囲んでいる。
「辺境伯に伝令!リヒト教会の方々が到着!」
門番が馬車に気づき、そう同僚に大声で報告する。言われた門番が慌てて走っていく姿を護は探知する。
そして、最後尾にいたナヒーリヤが走って近づいてくる姿を捉えていた。
「ナヒーリヤ様に敬礼!!」
「お前らの忠誠を立てる相手は辺境伯だろ。肝心の辺境伯は何て言っている?」
兵士一同が顔を出したナヒーリヤに胸を当て敬礼をする。そんな彼らにジト目を向けながら、ナヒーリヤはそう尋ねた。
「一行様を案内するようにと言伝を拝受しております。私の後を付いていただきたい。」
先頭で敬礼を指示した兵士はそう言うと、兵士たちに持ち場に戻るよう命じ、歩き出す。
その後をナヒーリヤ、護たちの馬車がゆったりとついて行く。しばらくも経たぬ内に、周りから歓声が上がる。魔物退治のプロがやってきているのだから安堵と期待で満ちているのだろう。
しばらくもしない内に、一際開けた場所にたどり着く。そこには既に数台の馬車が停まっており、それに並ぶようにリヒト教会の馬車も停まっていった。
「各員、俺はしばらく領主と会ってくる。そのため、日が昇りきる頃まで自由行動とする。武器、物資の最終確認、買い足し、休息その他忘れないように。護、妹の面倒を頼んだぞ。」
ナヒーリヤはそう言い残して、先ほどの兵士と一際目立つ城に向かっていった。
自由な行動をとれるようになった護たちだが、やるべきことがある。護の武器である短剣が三回目の魔物の戦闘で砕けてしまったのだ。槍と魔法だけではやや心もとない。新たな武器を手に入れる必要があった。
護、メイア、セレスの三人は教会の精鋭が、『アイテムボックス』から様々な装備、道具などを取り出し、片っ端から確認しているのを横目に、武器屋を探して街の中へと繰り出した。
「おい、ふざけんじゃねぇぞ!!武器が無いってどういうことだ!」
三人は武器屋に簡単にたどり着く。それと同時に喧騒が響く。一人の二十代の男が六十代の背の低い男と口論していた。それが店の外まで聞こえてくるのだ。
「言っておるじゃろ!お主に売る武器はないと。置いてある武器で満足できんのなら出ていけ!!」
「ああ。なまくらしか置いてない店なんて出て行ってやるさ。じゃあな、爺さん!!」
扉の近くにいた護を突き飛ばして、男は走り去っていった。代わりに店の中に護たちは入っていく。
「うちにはなまくらしか置いておらん。他のところを当たるのじゃ。」
護たちにそう言い放ち、手をひらひら振ると本を読み始めてしまった。
三人は顔を見合わせる。商売としてはかなり違和感があるやり方だったからだ。
(本当になまくらしか置かれていないのか?確かめてみるか。)
護は『真理眼』を起動し店内の武器を見まわしていく。ほとんどは彼の言った通りなまくらだ。ただし、ひと振りだけ異なる。何の装飾もなく、変哲もないが故に存在感がない。いや、それだけではない。
「セレス、あの短剣が見えるか?」
「……護さん、短剣なんてどこにあるのですか?…ないと思うのですけど。」
「セレスさんには見えてないようですね。」
「え?」
セレスは自分だけに見えてないものがあることに混乱する。しかし、二人は間違いなく見えていた。
護はその黒き刃を持った短剣を手に取る。そうすると、セレスにも知覚できた。
「店主、この武器だけなまくらじゃないだろ。」
「見つけてしもうたか…。お主たちは短剣使いか。おまけにLv4は確実じゃの。」
店主に頷く護。その反応にため息を吐く店主。この店が短剣の専門店であるが故に、客の相手をしない訳にはいかないのだ。
そして、護の『真理眼』には映っていたこの短剣の性質が。
ブラインドネス (認識障害 短剣術Lv3以下の者には見えなくなる。装備されることで条件に満たないものでも認識可。)
識別用の短剣。相手が客としてふさわしいのか選ぶためのものだ。だからそれ以外の武器はあくまでフェイクでしかない。質も悪い。そのため、あの男は目利きはできたが短剣使いではなかったために、この店の客たり得なかっただけだ。
「この店は仮初で、本当の店舗はこっちじゃ。ついてこい。そこのお嬢さんも特別じゃ。」
セレスを指さした後、本をカウンターの本棚に戻す。すると、音と共に壁の一部が動いてそこから地下への通路が現れた。
店主が招いた先には、様々な色、形をした短剣が飾られてあった。その上、一部を除いて相場に比べて明らかに安い値段で売ってある。
「お主が気に入ったものを選べばよい。武器が人を選ぶのじゃ。」
護の瞳があちらこちらへと振られる。かつての短剣を選んだ時のように、これだと思える武器を探して。
(これでもない、あれでもない。今回ピンとくるようなものが無いぞ。…もしかして無い?)
一通り目を通したが、これだというものがない。短剣専門店というのにだ。
護の様子を見た、メイアが声をかける。
「護様、お気に召したものがないのでしょうか?」
護は首を振るだけで応じた。護自身困惑している。
「なんと!?これだけ置いてあるにないのかのう。ちょっと待っておれ。」
店主は驚くと、さらに奥にある部屋へと入っていく。その部屋から、物をどかしたりする音がしばらく鳴り響いた後、一つの木箱を持って店主が出てくる。
「これであかんのじゃったら、他を当たるのじゃぞ。」
護は木箱の蓋を開ける。そして、短剣の刀身を見た時、確信した。自分が探した短剣だと。
柄を握り持ち上げて見る。前の短剣よりも少し重いが、手に馴染む。魔力を流すと、片刃の刀身が光った。かなり流れがいい。
その様子を見ていた店主は満足そうにうなずく。武器の使い手が見つかったからだろう。
「それをお主にやろう。銘は『月光・真打』じゃ。ミスリル鉱に、ホワイトドラゴンの鱗、そしてエルダーフェンリルの魔石を融合させて鍛錬した一品でな。わしの師匠の師匠が作った傑作だそうじゃ。」
(素材からして格上の武器なはずなんだが…)
護は自分の手に馴染む、月光・真打を見下ろす。まだ魔力によって輝いた刃に、困惑した自分の顔が写る。
「どうかしたかの?」
「いや、いいのか?俺が持ってていいような武器じゃないと思うのだが。」
「何を言っておる。その武器がお主が選んだのじゃぞ。まぁ、そう思うのであれば相応しい在り方を心掛けるのじゃな。料金はいらん。使い手がおらんくて困っておったからの。」
店主は先に仮初の店舗に戻る。気のすむまで見ていくといい、と言って部屋から出ていった。
「護様、疑問に思われるならば、『真理眼』をご使用してはいかがでしょうか?」
「ああ。」
護は『真理眼』を使い短剣を見てみる。
月光・真打 (知能武器。かの名匠ストスが作り上げた短剣。ストス自身の限界まで才能を引き出して作り上げられた結果、誰にでも装備できてしまう武器になった。しかし、素材が持つ魔力が霊のごとく形どり、意思を持つようになる。そのため、気に入る相手が出てくるまで、装備されたことはない。)
(霊……つまり、呪われ『失礼な。呪いではなくて祝福よ。あんた、面白そうだから選んでやったの。』)
「……」
護は心の中まで無言となってしまう。突然頭の中に女の声が響いたかと思えば、目の前にドレス姿の少女が現れたのだ。透き通っていて、人でないのは間違いない。
「…!?『トゥ・ヘブン』!」
「ちょっと、私は悪霊じゃないって、あんた、あの子を止めて!!いやぁぁ、消えたくないぃい!!」
セレスたちにも少女が見えているようで、反射的にセレスは対霊用の魔法を速攻で発動した。
光に当たったドレスの淵から徐々に消えていく目の前の少女。悲鳴が聞こえたことで護は呆然から再起し、セレスを止める。
少女は涙目になり、へたり込んでしまっていた。地面ではなく空中で。
「これは一体…。霊のようですが、悪意を感じませんね。護様の武器が原因のようですし…。」
「そうよ、この武器に宿った意志なの。…あの子怖いわ。いきなり問答無用で消そうとするなんて。」
少女は護の後ろにセレスから隠れるように回る。セレスの方はやってしまったといったところだ。
彼女の姉の教えで、霊が出れば速攻で消してしまえというのがある。まさにその通りにやってしまった。憑依など質の悪い攻撃を受けないためには一番手っ取り早い対初法であるが故に、叩き込まれていた。
セレスは頭を下げて謝る。それでも、問答無用とばかりに少女は怒った。とはいえ、恐れで護の後ろから離れなかったが。
「なるほど。私が作った『夜見纏い』に似ていますね。力の波長が武器の中に完全に封じ込められている。私ではまだできない技術ですね。」
「早くあいつに戻して。あんたが触ってられるのも、あいつの特別だからなの。絶対、あの子には触らせないから。」
メイアの頼みで、護は少女を説得し、メイアに短剣を渡していた。所有者である護以外に触られることが嫌と言いながらも弾いていないのは、主の頼みだからか。ただし、セレスは絶対拒否のようだ。
短剣を充分に観察したメイアから返してもらった護は、少女にここにいる三人以外の場でその姿を見せないことを言い聞かせ、店主のところに戻る。
そして、鞘を用意してもらいその代金を払って店を後にした。
(ねーねー。あんたさー、異世界から来たんだね。よくあんな争いのない世界からここに来て、戦えるねー。)
道中、腰に下げた短剣から脳内に響く声を出される。
(しょうがないだろ。戦わなきゃ失うし死ぬしなぁ。後、あんた呼ばわりはやめろ。)
(じゃあ、主で。すごい踏ん切りがいいよねー。主がどんな奴か覗かせてもらったけど、主の友人も肝が据わっているし。普通パニックにならない?そういう混乱が主には欠けているの、すごいわ。)
(何が言いたい?)
(主を選んだのは間違いじゃなかったということよ。これからよろしくね。)
短剣は無言になる。それだけを告げたいために、護と会話したようだ。
丁度、馬車を停めている広場に戻ると、ナヒーリヤとその隣に上質なスーツを着込んだ初老の男性が立っていた。二人が護たちに気づく。
「……」
「?…そこにいる坊主が護、となりの侍女がメイア、それで妹のセレスティアだ。こちらは領主のイウド辺境伯だ。」
「初めまして。バスター・イウド辺境伯と申します。」
メイアの顔、そして護を見て少しイウド辺境伯の表情が驚きに染まったが、すぐに戻る。
普通に、辺境伯は頭を下げた。それに三人も応じ、それぞれ挨拶をする。
「街はどうでしたか?ふむ、それは我が領での武器屋のものですね。」
辺境伯の目線が護の腰にある短剣に向かう。鞘に見覚えがあったのだ。
「気に入ってもらえるようなものがあって光栄ですね。今は、緊急時で時間もないでしょうから、また観光に来てゆっくりしていってください。では、ナヒーリヤ殿、私はこれで。」
辺境伯はそう言うと、近くに待機させていた護衛と共に城へと戻っていく。その途中、足を止め振り返り、
「マモルさんでしたか。王城での件は申し訳ございません。あの場に私は居りませんでしたが、貴族としてはあのようなやり方で人を見捨てるとは言語道断。ぜひ、困ったときには我が領を尋ねてください。お力になれると思います。」
そう言い残して去っていった。
「護様?」
「いや、何でもない。」
護は自分でもよく分からないが、心が騒めくのを感じる。怒り?呆れ?それとも感謝?ごちゃ混ぜになった感情が押し寄せる。
辺境伯の人柄は悪くなさそうだ。本心から護に向かってああ言ったのだろう。でも本当にそうなのかは分からない。他者をだしにして自分をよく見せられればと思っていてもおかしくはない。
(あー。別のことを考えないと…。辺境伯の心情がどうであれ、俺には関係ないことだし、実利実害があればその時、決めればいい。)
心の中の騒めきが静まっていく。貴族自体に良い感情を抱いていないのは確かだが、それで決めつけるのは悪手だ。敵に回す数は少ない方がいいのだから。
護が気持ちを整理する間、メイアとセレスは静かに隣に寄り添うだけだった。そして、歩き出した護について行く。
「護、武器の方は新調できたようだな。各員、準備の方は?」
「第一班、問題なし。」
「第二班も同じく。」
「第三班も…」といったように装備、食料の最終確認の点呼が終わった後、護たちリヒト教会勢は戦場となる平原に向けて出発した。日が暮れるまでには到着する予定だ。整備されたところ以外は腰ほどの丈の草むらが生い茂っている。
「はっ!」
(私の使い心地はどう?切れ味抜群でしょ。)
護は水の球を迎撃し、原因である狸型の魔物をあっさりと片付ける。『月光・真打』はミスリルの短剣以上の魔力の通りと切れ味で護の戦闘を強化していた。時折自慢してくるあれが玉に瑕だが。
「ガァ!!」
三本爪を振り下ろしてきた前脚が異様に長いアナグマの攻撃を護はステップを踏み回避。雷をイメージし、手をかざす。魔力の流れから、一筋の白光となり横薙ぎ中の前脚に当たった。痺れ、動きが止まる。
護は懐に潜り込むと、短剣を首に刺しこみ、そして火で貫いた。
「!!」
咄嗟に飛びのく。飛びのいたその場には風の刃が叩きつけられ、地面が砕ける。護の格上、ニードルボルクが草むらから現れた。
ザシュッ!!
「『アイテムボックス』」
走り寄ってこようとしたニードルボルクの首が飛び、すぐさま『アイテムボックス』に収納された。
誰がしたかというと護と同様に馬車を守るメイアだ。彼女は護の脅威となる奴を優先して狩っていた。
二人は全てを狩りつくし、馬車に戻る。もうこれで出発してから五度目になっていた。
「お疲れさん。探知に引っ掛かる数が多くなってきた。はぐれが何匹か混じっているようだな。」
「いよいよ、私たちの出番ね。」
「今度から俺たちも戦闘に混ざる。護は今までと同じように戦ってくれればいい。支援はミアノがしてくれる。」
戦場に近づいてきたからなのか、魔物との遭遇が多くなってきた。キールスの探知範囲にはうようよと魔物の反応がしており、行き手には十七からなる一団がいる。まだ視認できない距離だ。
早速、キールスは御者台の方に移ると、弓矢を取り出し矢をつがえる。そして、探知を基に狙いを定める。
ゴゥッ!!
物凄い勢いで放たれた矢は、草むらの中を進んでいたオークの頭を吹き飛ばす。そして、二射目がとなりのアナグマ型を、さらに三射目で狼型を打ち抜いた。どれも即死だ。
そのまま、半分程まで減らした後、その場に到着した護とメイアをキールスは支援する。護を取り囲むように動く魔物を矢で牽制し、隙を見せたものはメイアが容赦なく狩っていく。護も魔法を駆使し、危な気なく倒していった。
死体を回収し、馬車に戻ると得意げなキールスと呆れているミアノが。
「ざっとこんなもんさ。あれぐらいの数なら一人でも倒しきれるぞ。」
「あまり調子に乗るとリヤさんに言うわよ。マモル君、怪我はない?」
キールスとしては、調子に乗っている訳ではないのだが、ミアノからはそう見えるらしい。実際、胸を張っているため、そう見えてもおかしくはない。
この戦闘の後も、何度か魔物を殲滅し進むこと二時間、ついに臨時基地にたどり着いた。遠くから怒号と爆発音が聞こえる。今も戦っているのだ。
護は基地内の様子を見る。いくつもの天幕が張られ、その中では休息をとる者、治癒を受ける者など様々な活動が行われて、喧騒に満ちていた。
「リヒト教会の面子が来たぞ!!」
「何!フォイアー教会の騎士団長、イウド冒険者ギルド長に連絡!!『聖女が来た!』ってな!!」
赤色の鎧を着た男が叫ぶ。しばらくして、その二人が現れた。
一人は、赤を基調とした白の鎧を着ており、その顔には三本爪の傷跡が残っている。三十代と若いながらもかなり重厚な印象を与えていた。
もう一人は女性で、紫のローブ姿。身体が全体的にセレスより大きいし、くびれているのがよくわかる。かなりの美人だ。眼鏡をかけたその顔からは理知的な印象を見る者に与えていた。
最後尾の馬車からナヒーリヤが現れ、すぐさま二人の元へ駆け寄る。
フォイアー団長ことグランが喜びのハグをしようとするのを、ナヒーリヤはアッパーで反撃した。
「近寄るな、むさくるしい。久しぶりだな、グラン。相変わらずお前がいるだけで暑いな。」
「いてぇー。ぶん殴ってくるリヤも相変わらずだ。一年前の合同演習以来だが、これだけは変わらねぇ。」
「されるがままにはできないぞ。奥さんがいるだろ。挨拶とは言え、違う女を抱きしめるのは不味いだろ?」
「つい、嬉しくてな。お前さんほどの強者がいてくれたら心強い。」
グランが手を差し出し、ナヒーリヤが握る。これで教会のトップ同士の挨拶は終了した。
ナヒーリヤはギルド長に顔を向ける。ギルド長は二人が話している間、ニコニコした笑みを浮かべていたが、ナヒーリヤと向き合うと緊張がはしったように顔が引き締まる。
「私はイウド冒険者ギルドのギルド長ネルムよ。初めまして、聖女さん。先代には会ったのかしら。私はその娘。後を引き継いだの。」
「確かに、あの爺さんに似ているな。」
「その実力は耳にしている。頼りにしているわ。」
「ああ、俺たちに任せてくれ。」
ネルムともナヒーリヤは握手を交わす。
護たち一行は、案内役のフォイアー教会の騎士に連れられてリヒト教会専用の拠点へと向かった。
もう既に天幕は用意されており、バックアップとしてサポートに入っている見習い達が忙しく走り回っていた。
「俺は、グランたちに戦況を尋ねてくるから、しばらくここを離れる。その間、自由行動とする。ただし、戦闘には入るなよ。」
ナヒーリヤはそう言い残していくつか旗が立つ本部の天幕へと向かっていった。
残された面々は天幕の割り振りをし、それぞれ入っていく。基本男女で分かれているのだが、護とメイア、セレス、ナヒーリヤで、一つの天幕を割り振られていた。男一に女三はここだけしかない。
(良かったねー。ハーレムだよ、主。あれ、嬉しくないの?)
(気まずいだろ。ナヒーリヤもいるし、変なことをすれば命がないのは目に見える。普通に男勢で過ごす方が気楽でいい。)
(三人とも主より強いしねー。)
護は天幕の中に入る。見た目に反して内部は広く、四人分のベッドまで配置されていた。
「空間拡張がなされた天幕ですね。中々値段が張るものなのですが、流石団長が休息をとれるように配慮されているようです。」
護は王城まで乗った馬車を思い出す。あの時も同じような魔法が使われていた。目にするのは二度目だ。
「どれぐらい高いんだ?」
「そうですね、前にオークションに出されたもので白金貨三十枚だったかと。」
「……一生遊べます。…貴族でも手の出せる人物は限られるようですよ。」
ちなみに、メイアは空間拡張された天幕を所持している。売りに出された物は手も足もでないような馬鹿げた金額をするのだが、伝手やコネがあればその限りではない。
なお、メイアの場合、暗殺稼業をしていた時に手に入れたものである。当然相手から奪ったものだ。
「価格がそこまで高くなるのは、時空魔法を刻める魔石がかなり希少であるのが原因ですね。直径が顔よりも大きい魔石を利用しなければいけません。それほどのものを持つのは最低でも赤クラスのものですから。」
「王城に行くまでの馬車にはそんなサイズの魔石が無かったはずだ。それでも空間拡張の効果があったけど、あれは?」
「護様がお乗りになられた馬車は最近できた二つの黄クラスの魔石を用いて拡張するタイプのものですね。こちらならば原料のコストを下げられるのが利点ですが、手間とやや効力が落ちるのが欠点です。あれは初期のものですから、効果の方は向上してますけどね。」
「なるほど。」
その他雑談を三人で交わす。どうやら防音まで完備されており、すぐ隣が戦場となっていることを忘れそうになるほどだ。休息としては申し分ない。
常時発動することにした『気配探知』でナヒーリヤ、グラン、ネルムが近づいてくるのが分かる。天幕の外に出ると、相変わらず喧騒に満ちていた。
「状況を把握した。今回の師団級《赤》はオークエンペラーのようだな。タフな体力に圧倒的な膂力、そして指揮能力がある奴だ。近衛であるオークジェネラルの変異種が数匹確認されている。戦況としては中隊級の三分の二を撃破。ただし、その中でボルシャ・チェミヤ・オゥトラバによる毒の被害で一部戦闘不能者が続出。全体の被害は今のところ冒険者が数十名亡くなり、フォイアー教会騎士団で戦闘不能に陥ったものが六名。死亡者はゼロだ。」
その場にいる精鋭たちを集めると、ナヒーリヤは淡々と状況を説明していく。
簡易防壁を超えられることなくやり過ごせているが、魔力の枯渇、疲労によるミスが出始めていること、士気の低下が見られることなどを部下へと説明していく。
空気が緊張で満ちていく。それも、悪い方向ではなく良い方向で。見習いが思わず、ひっ!と悲鳴を上げるほどに。
ナヒーリヤは先ほどの淡々とした様子から獰猛な笑みを浮かべ、大声を張り上げる。
「盛大に暴れるぞ!!すべて狩りつくせ!!」
『~~~!!!』
雄たけびが大地を震わす。ネルムが思わずその勢いから後ずさりした。フォイアー教会の奴らもしていたが、それ以上に獰猛な戦士たちを見て気圧される。頼もしい限りだが、同時に畏怖も覚えずにはいられない。
護はというと、このノリを懐かしく思っていた。体育祭や文化祭で優勝を目指すのと一緒だと。やっていることはこちらの方が何倍も殺伐としているが。
「もうすぐ日が暮れる!!日中戦い続けた野郎どもと代わって交戦する!!各員出撃!!」
ナヒーリヤの高らかに響く声と同時に、精鋭たちは戦場へと走り出すのであった。
A:なんちゃってQ&Aを始めるぞ。
Q:おー!!って、本編のノリからすれば、ぞの後は!!いりません?
A:そうかもしれないが…。別に乗らなくても良いだろう。
Q:(こいつ…)一つ質問があるのですけど。
A:なんだね。
Q:どうして、知能武器登場させたんです?別に必要ないでしょう?
A:気分で。その方が主人公っぽいだろ。
Q:……
質問者は呆れた視線を向けている。
ということでここまでですね。次回からは本格的に戦闘の場面に入っていく予定です。




