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異世界で1人別行動   作者: 狩野 猟
聖女編
17/138

出発~騎士達は過去を回想する~

ス、ステータスが足りない…

 日の出の前だというのに教会は喧騒に包まれていた。何事かとわざわざ見に来る近隣住民がいるほどだ。そんな彼らが見たのは、設置された松明の間や十台の馬車とそれらの周りを忙しく行きかいする騎士や修道女だった。


「出立する面子は集合!!残る者は引き続き作業の続行!」


 そう大声で指示を出すのは、聖女ことナヒーリヤ。朝一番に目覚めて眠っていた精鋭たちを叩き起こして、働かせていた。

 訓練場に出立する面子がきびきびと集まる。その中には当然、護とメイア、セレス、ガンドルフ、エトリアの姿もある。

 全員が集まったのをナヒーリヤは一瞥して確認する。


「全員いるようだな。このまま予定通りに出発する。各員、最終確認の後、それぞれ割り振り当てられた馬車に搭乗すること。予定では一日野宿をしたのち、平原にある臨時拠点に到着する。」


 そう告げて、ナヒーリヤは護に近づく。護はというと、混乱で直立したままだ。

 そんな状態の護の腕を掴み、その隣のセレスの腕も掴む。そのまま引っ張り、ナヒーリヤは二人を前に立たせた。護は横目でセレスの様子を見ると、顔が真っ赤になっている。視線が集まって恥ずかしいのだろう。


「道中の露払いは、俺とこの二人、後、こいつの侍女でやる。報酬が欲しい奴は参加しても構わないが、条件は妹かこいつがへばってからだ。あくまでこいつの強化が優先だな。」


 道中の魔物をレベル上げに利用する旨をナヒーリヤは面子に伝える。普段ならば容赦なくエンカウントアンドキルをしている。それだと、護たちが狩る機会はほぼなくなってしまうため、あらかじめ知らせておく必要があった。


「異議がある奴は?」


 沈黙が降りる。納得のような顔をしている者もいた。

 彼らが新入り時代にやらされたので、特に異論が出ることは無かった。いつもの朝の訓練に比べ、スピード(・・・・)と判断力が必要になるが、それ以外は変わらない。出会った魔物は何が何でも排除する、それがリヒト教会騎士団なのだから。

 また、もうすでに護は騎士団の新入りと認識されていた。ナヒーリヤの指揮下に従っている時点で自分たちと変わらない。そのため、正当性があれば報酬でもめる必要はないし、できる限り支援をしようとも決めている。

 今回は索敵担当がさりげなく護の支援をすることになっていた。


 日の出と共に護たちは出発した。護とメイアは先頭の馬車、ナヒーリヤとセレスは一番最後の馬車に乗っている。馬には魔道具が装着され、かなりの速度で走っていた。

 

「マモルだったな。俺はキールスだ。よろしくな。」

「ミアノよ。回復なら任せてね。」

「明石宮 護です。よろしくお願いします。」

「護様の侍女のメイアと申します。よろしくお願いします。」

「俺も忘れてもらっては困るぜ!アロッゾだ。俺は戦えないから、露払い頼むぜ!」


 第一馬車に乗り合わせた五人はそれぞれ自己紹介をする。ほとんど歳の変わらない見た目のキールスとミアノ、青年とおっさんの狭間とも言っていいアロッゾが護たちと同じ馬車に乗っていた。

 キールスの職業は『ハイ・レンジャー』という斥候職で、索敵要員兼支援役として護の傍に。ミアノはエトリアと同じ『上級守護魔法師』であり、回復、防御に特化した女性である。

 アロッゾも聖騎士の一人でそれなりの実力者だ。ただし、ネーリンに参加するなと釘を刺されており、御者役でしかない。ちなみに、この面子になったのは偶然である。(キールスを除く。)


「マモル、リヤさんに目をつけられてよく平気でいられるな。しんどくて辞める奴もいるんだ。」

「俺には辞められない理由があるので…。しんどいのは分かります。レベルが面白い位上がってくれるので、それで何とか。」

「分かるぞ。強くなってる実感があるのとないとでは、やる気も変わるからな。最近はあまり実感がなくてやる気がでないぜ。」

「低レベルに比べて、高レベルだと微妙な差異みたいになるわ。でも、それが命取りになるの分かってるでしょ。」


 キールスから始まった会話は、護、ミアノと広がっていく。


「にしても、魔物行進モンパレか。数年ぶりだな。」

「あの事を思い出すわ。私たちには忘れられない出来事をね。」

「あの事?」

「五年前だ、少年。その時あったことから団長は変わったんだ。それまではただの男勝りな女の子だったんだぞ。」

「確か『アルドラの悲劇』ですね。当時リヒト教会、エルデ(土の)教会、フォイアー教会と、冒険者が犠牲者を多く出して鎮めた魔物行進モンパレ。リヒト教会の前団長が亡くなっていた筈です。」


 さらに、アロッゾとメイアが混じってきた。

 当時のことを思い出しているのか、護を除いた三人の目が遠くにさまよう。


「あの時は地獄だった。教会に報せが来た時点で領主が亡くなっていたし、死者は一万を超えていたしな。」

「三教会が揃ったときにはアルドラは壊滅状態だったわ。辺り一面を埋め尽くす魔物が私たちに目を向けた時の恐怖は今でも思い出せるの。……気持ち悪いし、酔いそう。」


 ミアノの顔色が悪い。彼女は目を用意されている窓の外へと向ける。吐き気は堪えたようだ。

 キールスは咎めるように一瞥すると、話を続ける。


「思い出すなよ。……接敵して殲滅戦に入った訳だが、はっきり言って無双するか食われるかの二択だった。次々と襲い掛かってくる上に油断すると前の魔物ごと攻撃をしてくる奴の餌食になったりと、とにかく休む暇がなかった。引き際を誤って食われた同期も何人かいる。」

「とはいえ、最初は順調だったんだぜ!雲行きが怪しくなってきたのはあいつらのボスが確認できてからだ。」

「『ヒュプノスアイ』ですね。単体の強さはそこまでではないのですが、当時現れたのは変異種だったそうです。催眠のレベルが異様に高く、下手な回復魔法では効かなかったとか。」

「その通りだ。見た目は変わらないから、何故、ボスがあいつなのか疑問に覚えながら接敵したところな、解くのに時間がかかる催眠を受けちまった。リヤ団長がな。」

「!!」


 護はそれを聞いて驚く。五年前のナヒーリヤの実力がどれぐらいか分からないが、それでも強かったのは間違いない。敵対すれば脅威という言葉で済まないだろう。


「それはつまり…」

「そう言うことだ。それで…おっと、マモル。お客さんが来たようだぞ。しばらくすれば接敵するから準備してくれ。」


 キールスがそう言うと、アロッゾが笛を鳴らし、馬車の速度を落とす。どうやら魔物が現れたようである。

 護は御者台に顔を覗かせてみると、確かに米粒のようにしか見えないがいる。目を凝らして見ないといけないぐらい距離が離れているのに、キールスは一度も外を眺めずに見つけていた。おそらくスキルの類なのだろう。

 速度を落とした馬車から飛び降りる護とメイア。馬車が近づく頃には倒しきらないといけない。護は魔物に駆け寄って近づき正体を確かめる。


「『クラッパー』か。レベルは20ちょっとが三体。急ぐか。」


 見た目は一メートルのトカゲ。下手な攻撃を弾く鱗を持ち、かぎ爪は鋭い。アマチュアキラーのような特殊な攻撃をしてくることは無いが、ステータスが護と同等である。


(一発で倒すなら、急所狙いしかないよなぁ。心臓の位置は分からないとなると…)


 護に気づいたクラッパー一体がドシドシと近づいてくる。対する護は左手をかざす。


「『ショック』」


 直撃しスタンしたクラッパーに急接近する。そして、目にナイフを突き立てた。


「!!!……『ファイヤーソード』!」


 相手の爪の振り下ろしで腕に衝撃を覚えながらも、イメージを保持し炎の刃で脳を焼く。切り裂かれていないのは流石素材にこだわっているメイア特製装備だからだ。

 だんだんと馬車の音が近づいてくる。時間はあまりない。メイアに回収を任せ、二体同時に相手取る。

 一体の爪を回避し、二体目のとびかかって噛みつくのを利用し短槍で貫く。致命傷になっておらず、二体目は血をまき散らしながら後退する。

 再び一体目の爪が迫る。護の足を掬うような攻撃に護は短槍を自分の前の地面に突き立て防御。痛みで及び腰になっている二体目に踏み込むと、


「『アイシクルエッジ』!!」


 はぼゼロ距離からの氷の刃を空いた口からぶち込み、脳天を貫く。

 隙だと見た一体目の噛みつきを足で蹴り飛ばし、怯んだところを短剣でこちらも目から焼き払う。脚に爪が引っ掛かり血がにじむ。

 回収すると丁度馬車がやってきて、護とメイアは飛び乗った。再び速度が上がる。


「お疲れ様。怪我はしてない?」

「足のひっかき傷だけです。」

「お姉さんが治してあげるね。『ライトヒール』」


 ほのかな光が護の傷を癒す。数秒もしない内に治りきった。初撃の打撲も痣一つない。打撲は自然に治るため、黙っていたが分かっていたようだ。

 黙っていた傷も治してもらった護はミアノにお礼を告げる。


「最初にしては上出来だぜ!!目標は馬車の速度を落とさなくても、殲滅できるようになることだ、とリヤ団長が言っていたぞ!」


 アロッソは護にそう告げ、豪快に笑う。勿論、ナヒーリヤはそんな事は言っていない。ただし、これから向かう戦場のことを考えると、出来てもらわなくては、という思いからの発破だ。


(次の課題か。格上が出てくると間に合いそうにないからなぁ。どうするべきか…)


「マモル、話の続きなんだが…聞いているか?」

「すみません。続けてください。」


 キールスが護の意識を自分へと戻し、過去の話を続ける。


「リヤさんが洗脳を受けて、一番近くにいた元団長に襲い掛かったんだ。元団長は初撃で頭に直撃を受けてそのまま亡くなった。それで相手が何をしたのか全員気づいたのさ。敵味方関係なく暴れるリヤさんから距離をとることが優先された。」

「逃げ遅れた人に障壁を張っていたんだけど、直ぐに割られてかなり不味かったわ。幸いなことに元団長以外で死者は出なかった。でも、一撃を受けて吹き飛ぶ人が何人も出たの。」

「とりあえず、疲れで様子が落ち着くのを待った。当然、魔物相手に防戦になるから、怪我人と死者がその間に多く出た。でも、武器が壊れ、素手で相手を薙ぎ払うリヤさんにも限界が来た。」

「私たち魔法に長けた仲間で、洗脳を解こうとしたの。でも、洗脳が強固で、Lv8以下の魔法は効果が無かったの。おまけに効いても少しずつで、時間がかかった。最終的にリヤさんの拳で怪我を負った人が続出したけど、解除できたわ。」


 ミアノとキールスの話はまだ続く。


「リヤさんが正気に戻って真っ先にしたのは、フュプノスアイに向けて、全力の魔法を放つことだった。それで塵すら残らずに消し飛んだのを見つめた後、慟哭と共に項垂れてしまったんだ。洗脳状態の時のことを覚えていたみたいだから、仲間を傷つけたことや元団長の死がリヤさんを苦しめた。」

「戦いはボスを倒したことで魔物が散りじりになって終わったわ。でも、リヤさんの心はボロボロになってしまったの。セレスちゃんの言葉でも、彼女は部屋から出てこなかった。」


 精鋭たちの顔色が優れない。それが当時の痛ましさを物語っていた。


「リヤ団長が自分たちの前に出てきたのは元団長の埋葬の時だ。彼女の顔を今でも覚えている。獣のように獰猛だった。それで、墓の前で告げたんだぜ。『俺が団長になる。誰も失わないように、強くなる。必ず。』ってな。その時、次の団長がナヒーリヤに決まった。」

「何人かは出ていったわ。殺した奴を団長にするのかって言ってね。まぁ、元団長と付き合いの長い人たちばかりだったけど。」

「俺たちはリヤさんが再起してくれたことが嬉しかった。それにあの人は頑固だから何言っても聞かなかっただろうしな。どうであれ団長になっていただろうし。」

「それからは、鬼の厳しさでひたすら強さを求めたの。聖女になってからも、私たちじゃ太刀打ちできない魔物を一人で傷だらけになりながら倒したこともあるわ。その時は後で怒ったけどね。」


 ミアノは微笑みを浮かべる。それにつられて護たちも笑った。


「セレスお嬢に溺愛するようになったのもその頃からだ。魔法を一緒に練習したり、戦い方を教えたりな、本当に楽しそうにしていた。」

「家事の方は全然ダメだったけどね。」

「リヤさん、戦闘に力を振り過ぎて、女の子らしいことは全部セレスから教えてもらったみたいだし。見ていて面白かったぜ。後でぶん殴られて痛かった…」

「馬鹿なことするからでしょ。」


(へー。あの怖いナヒーリヤにも可愛いところあるんだ。一歩間違えれば死が見える人だけど。)


 キールスが「あっ」と声を上げる。注目が集まった。


「マモル、この話をしたって、リヤさん本人に言うなよ。確実に俺たちが絞られるから。余計な話をするなって、絶対に言って絞めてくるからな。」


 キールスが言ったことにミアノとアロッゾが頷き、護たちは苦笑いを浮かべる。実にナヒーリヤがやりそうなことだった。本人からすれば、喧嘩を売っているのと同じだ。たちまち、後悔するような技を繰り出してくるだろう。


 この後、休憩を何回か挟みながらも道のりを着実に消化していく。

 魔物と何回か接敵するものの、護は退けられていた。ただ、格上は倒しきれない時も多く、メイアに手伝ってもらうこともしばしば。手伝って貰う度に、デートでの貢物を要求される。まだ金欠と言っても過言ではない護は、その一言で奮発するしかなかった。

 また、レベルも上がり、それなりに戦えるようになってきたのを、護は実感する。

 

 一行は野宿予定地の森に着く。そして、締め出された護は、やることもなくふらふら歩いていていると、セレスと再会した。ちなみに、メイアは天幕内で荷物整理などをしている。


「護さん、その…一緒に薪を拾いに行きませんか?まだ…足りないみたいなんです。」

「分かった。大体、天幕の方の準備も終わっているし行こう。」


 護の腕に柔らかな感触を押し付けてくるセレス。護は思わず鼻の下が伸びそうになるのを堪えた。香水でもしているのか、爽やかながらも甘いににおいがする。最近の彼女は、距離が近い。


(理性が溶ける…。うっ、くらくらする。)


「きゃっ。…姉さん。」

「やるなら帰ってからにしろ。護も遠征中だ。妹の傍にいていいが、手を出していいとは言っていないからな。」


 護とセレスの間に割って入ったのは、鎧を脱いでワンピースっぽい服を着たナヒーリヤだった。二人でいることに気づき、話しかけてきたようだ。

 また、護はナヒーリヤの服装からどこかの部分がまな板であるのを改めて確認してしまった。


「護、変なことを考えていないか?」

「イエ、ナンデモナイ。」

「……」


 セレスの目が怖い。護の目線がどこに向かっていたのか、ずっと見ていたので分かっている。


「お前ら、森の中に入るのだったら、気をつけるように。魔物が何体かいるようだしな。」


 そう言い残して、ナヒーリヤは去っていった。


「女の人を…見る時は気をつけてくださいね。」

「……気をつける。」


 セレスの微笑みに護は目をそらしながら答えるしかなかった。


 二人で森深くに入っていく。日が傾き始めており、足元は薄暗い。しばらくすれば暗くなってしまうだろう。

 黙々と乾いた枝を拾い、護の『アイテムボックス』に入れていく。そして、充分拾い集め終わった時だった。


 ガサッガサッ!


「護さん。」


 セレスの注意を促す声と同時に、物音から現れたのは一匹の狼。体長は大型犬ほどしかないが、その瞳は赤く、獰猛。背中の一部の毛が硬質化しており、針状になっている。動物ではなく魔物だ。


「『真理眼』」


 護はナイフを構えながら、ステータスを見る。


ニードルボルク Lv37

 LP 268 MP 253/345

  STR 476 AGI 501

  TEC 261 END 364

  INT 347

一般スキル 魔法(風)Lv2

特殊  硬質化


(これは逃げた方がいいな。アマチュアキラーの時よりも性質が悪い。反撃の水薬(カウンターポーション)を使うか?…いや、リスクが高すぎる。)


 護のステータスを大きく凌駕している。STR、AGIが約倍ある以上、まともに戦える相手ではなかった。


「セレス、逃げるぞ。勝てない相手だ。」

「分かりました。護さ…」


 セレスが護の同意するのを遮り、魔物がセレスに向かって飛び掛かる。セレスは反応できずに押し倒される。


(速い!!)


 狼はそのままセレスの首に噛みつこうとするが、エトリアの光の結界が阻む。爪なども結界が守ってくれているのか傷はない。

 しかし、アマチュアキラーの時よりも損耗が激しいのが分かってしまう。

 セレスは必死にもがいているが、体重と力の差故に振りほどけない。結界も薄くなり始めた。


(とにかく引きはがさないと!)


 護は魔法を行使する。選んだのは風の鉄槌(エアハンマー)。面積をある程度小さくし、その分密度を上げた風の砲弾が、狼に直撃する。

 狼は吹き飛び、解放されたセレスは慌てて護の後ろに下がる。セレスの顔が青白くなっており、呼吸も荒い。パニックに陥っていた。

 セレスの冷たくなった手を握り、護は逃走を図る。後ろに土で壁と落とし穴をいくつか作り少しでも時間が稼げるように祈る。


 オッオーン!!


「セレス、魔法は?」

「はぁはぁ」


 セレスは護の言葉が聞こえていないのか、息を荒く吐くばかり。走ってはくれるものの、手を離せばたちまち止まってしまうだろう、と護は思った。

 狼が護の時間稼ぎ(ブロック)を風でぶち壊しながら近づいてくるのが聞こえる。このままでは、拠点に戻るよりも、狼に襲われる方が早い。ならば、と直感で護は選択をする。

 足を止め、セレスの青白い顔を両手で挟み、触れ合うほど顔を近づける。ぼんやりとしていたセレスの瞳と護の強い意志を持った瞳が交差する。そして、叫ぶ。


「セレス!!しっかりしろ!!戦え!!」

「!!……護さん?…私…」


 再起動を果たしたセレスの目には、目と鼻の先で安堵の表情を浮かべる護と背後から飛び掛かってくる狼が映る。危機が迫る中、セレスの思考が加速する。

 時間がコマ送りのように流れる間、普段使い慣れたイメージに沿って魔力を弾けさせる。魔力は光の散弾となり、護越しに狼への反撃となった。  


「ギャン!」


 散弾が命中し血だらけながらも狼は構える。片目が先ほどの攻撃で射抜かれたにも関わらず、その闘志は衰えない。むしろ、増している。本能で理解しているのだ、この目の前の敵を殺せば強くなれると。

 魔物に視線を移し、護はセレスを後ろに庇うように立ち、槍を構える。短剣では手負いと言えども、速度が圧倒的に勝る相手には分が悪い。完全に距離を詰められると、勝てない。距離を稼げる槍の方がマシという判断だ。

 それに、セレスの攻撃が効くと分かった以上、護の役目は守りだ。魔法の時間さえ稼げればいい。


「グルルっ」


 セレスが目を閉じイメージし始めた時、狼の疾走が始まる。


「『アースウォール』!」


 乱立させる護の土の壁を器用に避けながら、急接近してくる狼に、護は更に魔法を重ねる。


「『ヘッドウインド』」


 狼に人なら立つのがやっとの逆風ヘッドウインドが襲いかかる。おかげで速度がいくらか落ちる。それに対し、狼は自分を包むように風を発生させ、速度を取り戻すどころか、加速までしてきた。


(風じゃ駄目か!これならいけるか?)


「『ボグ・ダウン』!」


 狼の風の疾走は直線的でどこに足がつくのか想像がつきやすい。護はそこに泥で滑りやすい場所を作る。

泥にはまる狼。しかし、護のINTが足りないのか深さが足りず、一度止まったが抜け出してきた。そして護との距離がゼロになってしまう。


「ガァ!」

「!!」


 飛びかかるのではなく、足を狙っての体当たり。狼の顔あたり、足の毛が硬質化しており、喰らえば確実に刺さる。

 護はセレスがいる以上、引く訳にはいかない。槍を突き出す。回避されてしまったところを、追いかけるように穂先を合わせる。

 顔に直撃したが、硬質化した毛に防がれる。その上、力任せな突進を喰らう。大半は「夜見纏い」が防いでくれた。しかし、数本刺さり、吹き飛ばされてしまう。


「セレス!!」


 がら空きになったセレスに狼が迫る。光の結界は失せており、守ってくれるものはない。護の声にセレスは目を開く。そして唱えた。


「『エレメンタル・リアライズ』!!」


 五色の輝きをした玉の中で凛々しく立つセレスが、狼を捉える。


「『バースト・ランス』」


 五色の球はそれぞれ炎、水、光、風、雷の属性の槍となりて狼に殺到する。視認による回避がほぼ不可避な光の槍が勘によって回避しようとした狼の足を貫き、雷と炎が焼き、風によって勢いが増した後、駄目押しの水によって鎮火と風穴が空く。狼の魔物はもはや毛は硬質化していたところ以外焦げてしまい、一部原型をとどめていない。


「「……」」


 二人は荒々しく息を吐き、へたり込む。戦闘独特の雰囲気とアドレナリンが切れ、周りが更に暗くなっていることに今更ながら気づく。

 高揚感が過ぎ去り、疲労が到来する。かなり心地よい。命のやりとりを何度もやってきたため、護には慣れてきた感覚だ。中毒性があり、ハマると戦闘狂まっしぐらになってしまうだろうとぼんやり考える。

 それと同時に痛みも相対的に増したので勘弁して欲しいとも。


「護さん、ごめんなさい。私、頭の中が真っ白に……」


 痛みを我慢して近づき、護はセレスを抱きしめる。そして、泣き始めたセレスが落ち着くまで待った。

 しばらくして、泣き止んだセレスが護の足が血だらけになっているのに気づき、謝罪の追加をする。後、涙が再び溢れ始めてしまった。


「セレス、その回復魔法ってどんなイメージでしているんだ?」

「グスッグスッ……回復魔法ですか?光で包み込んで…こんな感じですけど。」


 セレスは左足に手をかざし、光を集める。多くの光で傷口が見えなくなった後、傷はなくなっていた。

 護は負傷した右足に手をかざす。イメージするのはメイアがしたような水による回復。

 水が発生し、傷口に触れた途端、染みる痛みでイメージが解除されてしまった。


「護さん、光でやった方がいいですよ。……水とかは失敗すると…傷口を広げてしまうだけです。」

「そうみたいだ。メイアの治療が印象深いからできるかなと思っていたんだが、今の俺じゃ無理かな。」

「イメージがおそらく……はっきりしてないのだと思います。光を集めて傷口にいっぱい触れ合わせて、癒していくんです。」


 セレスの言われた通り、護は光を集める。そして光を傷口に当たるように誘導し、傷口の塞がった足を想像した。すると傷がみるみる塞がっていき、完全に治った。


「できましたよ。護さん、おめでとうございます!」

「ありがとう。にしても、魔力の消耗が激しいな。」

「無駄もあったようですから…慣れてくれれば少し減らせますよ。でも、他の用途の魔法に比べて…魔力の消耗は確かに多いです。」


 この世界の回復魔法は魔力消費が高い上に、イメージがしづらい。比較的光魔法が傷を治すのには多く利用されている。物理的な要素がなく、不要な痛みを生むことはないし、乱雑なイメージでも効果がある。解毒には水魔法を用いることが多い。

 また、回復魔法を完璧に使いこなせるのは人体に博識な人間、つまり医者である。護たちはそこまで詳しくないため、この世界準拠の効率と精度でしか使いこなせない。


 閑話休題。


 二人が戻ってきた頃には、辺りはすっかり暗くなっていた。ナヒーリヤとメイアを先頭に多くの面子が寄ってくる。二人の帰りが遅く心配していたのだ。

 護は『アイテムボックス』から回収した、残骸を取り出す。セレスと共に戦闘をした旨を伝えた。


「まさか大当たりを引くなんてな。」

「護様、セレスさん、ご無事でよかったです。お怪我は…治されたようですね。」


 感心したように頷くナヒーリヤとそっと一息をつくメイア。ナヒーリヤは護の方に近づいて、


「『ニードルボルク』は今のお前が一人で遭遇したら確実に死ぬ相手だ。セレスと一緒で良かったな。妹は…傷一つないみたいだし、よく守った。」

「あー、ありがとうございます。」

「疲れているだろう、簡易シャワーを一番最初に使わせてやる。今日はしっかり食って休め。私は妹と話がある。」


 ミアノに案内され、一際立派な天幕に入る。そして、足元は簀の子のシャワーで埃や泥、血を流す。ちなみに、頑固な血の汚れすら落としきる石鹸に脱帽する護であった。


プニョプニョ


 ふと目線を下に落とすと、水は簀の子に空いた隙間から流れ落ち、スライムが吸収しているのが見える。スライムによって綺麗になった水は、魔法袋に回収しているようだ。

 シャワーを終え、メイア特製の替えの衣服を着た護は天幕を出る。

 その後、夕食の時に護はメイアに小言を貰ってしまう。淡々と無表情で言ってくる姿は周りも恐怖を覚えたようだ。所々で悲鳴が上がったとか。

 そんな事を露知らず天幕の中で、護とメイアは口づけを済ますと、眠りに落ちていった。


A:なんちゃってQ&Aを始めるぞ。

Q:おー。ナヒーリヤの過去と戦闘ですか。

A:おや、質問は無いのかね。

Q:(腹立つな…) 会話途中で戦闘をぶっこむんで、何というか。

A:流れとしては悪くないと思うのだが。

Q:……


 過去のことは基本口伝もしくは本で知ることになります。長編になると一話丸ごとになるかもしれませんが、話者もしくは著者の独断偏見が混じっていることに…。

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