レベリング ~その1 対初心者殺し戦~
展開が…こんなはずじゃなかったのに…
「起きてください、護様。」
「う、うん。おはよう。」
メイアの一言で目覚めた護は、薄暗い中、身を起こす。隣にはもう一人少女が眠っていた。そうセレスである。結局、彼女は自室に戻らず、護たちの部屋で眠っていた。
狭いベッドの上で二人に密着されてしまい、眠れない夜を過ごしてしまった護は、目の下に隈を残してセレスを起こさないように気をつけながら、そっとベッドを離れる。
服を着替えると、メイアと共に教会の出入り口に向かう。宿舎から出る際に、ケレスから「頑張るんだよ!!」と珍しくエールを送られてしまった。おそらく、護がナヒーリヤに扱かれに行くことを、護の顔色から察したのだろう。
「待っていたぞ、護。さて、出発するか。」
堂々としたナヒーリヤが護を待ち構え立っている。また、護を観察していた後ろの聖騎士と修道女たちの目が出発の一言で、悟ったようになる。そして、移動が始まった。
「護、しっかりついてこい。もし、どこかで力尽きたら、分かってるよな?」
そう脅しを貰い、護はステータスをフル活用してもギリギリで走る聖女たちに必死でついて行っていた。
今、走っているのは、王都から少し離れた街道である。森を切り開いてできたその道は、森から魔物が出てきて、時折被害が出る場所でもある。
「シャアア~!!」
「はっ、はっ、『ファイヤ』!」
木の上から襲い掛かってきたヘビ型の魔物を、護は火で迎撃し、ナイフで首を咄嗟にはねる。首を刎ねられたヘビの死体はメイアが『アイテムボックス』で回収する。
(これで何度目だ!!一歩でも立ち止まれば置いて行かれるぞ!)
護は一度も足を止めずに魔物を迎撃していた。そうしなければ置いて行かれる。そして、一度も聖女たちが戦闘している様子は見られない。彼が襲われる理由は事前に渡されたアイテムが原因だろう。
走り始めた当初、ナヒーリヤは護に一つの袋を首に吊るすように命令されていた。護は『真理眼』を使おうとしたのだが、「余計な詮索をすれば、殺す。」と脅しが入ってできなかった。
肝心の中身は何かというと、「魔寄せの球」というアイテムが十個ほど入っている。効果は一個でも半径三十メートルの魔物をおびき寄せるというもの。おまけに魔物は一種の泥酔状態になり、ナヒーリヤたち強者が近くいても、恐怖で逃げださなくなる。一歩間違えれば、都市すら落とせるような魔物を集めることができ、危険なため、入手できるのは一握りの人間だけだ。
そんなものが十個も入った袋を持っている護は、まさに魔物からすれば惹きつけてやまない状態なのである。一歩間違えれば命を落とすやり方だ。メイアたちがいるので問題ないが。
ひたすら走り魔物を仕留めながら、小さな町が見えてくる頃には護の体力は限界だった。走っているだけで精いっぱいで、魔物を仕留めきれず、メイアが代わりに処理することが多くなっていた。
そんな中、隊列を崩し聖女たちが左右に道を開く。そして立ち止まる。
「護、それでラストだ!!ひき殺されるなよ!!!」
(ナヒーリヤが何か…言ってるみたいだ。………!?)
疲れでナヒーリヤの忠告を聞きそびれた護だったが、自分に向かって高速で近づいてくる存在に気づく。
体長が一メートルぐらいの猪が護に突進してきていた。ビッグボアの若い個体のようだ。普段の護なら後れを取らない相手だが、度重なる戦闘で、体力の消耗、魔力の枯渇、精神の疲労が溜まっていたため、判断が遅れる。
「うおっ!危なっ!!」
咄嗟に突進の進路から身を外し躱す。突進を躱されたボアは勢いを落として器用に曲がり再び護に突進を仕掛ける。
護は足を止め、『アイテムボックス』から短槍を取り出すと、ボアに狙いを定める。そして、自らボアに突進をかけた。
「!!」
ボアが回避行動する前に、お互いの勢いでボアの頭に槍が突き刺さり、身を貫いた。ボアの突進の反動で護は地面を削りながら後退する。護の身体が少し軋み、手足が痺れた。
「はぁ、はぁ、ゴホッゴホッ!」
「大丈夫ですか、護様!?」
「大丈夫だ。はぁ、はぁ、少し休めば問題ない。」
精鋭たちも止まっているし、これで休めるかと思ったのだが、ナヒーリヤはそこまで優しくない。
「護、もう少しで町に着く。遅れるなよ。」
「……まじか。」
「あともう少しです。頑張りましょう、護様。」
ナヒーリヤたちが走り出した。もう走りたくないという思いを切り捨てて、護も後に続く。
町に着くと同時に倒れかけた護はメイアに支えてもらう。何も食べてないのに吐き気がするに加え、息をするだけで、横隔膜が痛い。唯一の救いは、魔物からのダメージを負っていないことぐらいだ。
(うわっ、LP減ってるよ…。後レベルが上がってるな。)
一団は公園まで歩く。そこで腰を下ろした護はステータスを開きながら確認する。
明石宮 護(男・17歳・人族?) 職 Lv29
LP 176/217 MP 24/182
STR 249 AGI 257
TEC 211 END 230
INT 197
一般スキル 剣術Lv3 短剣術Lv4 体術Lv3 盾術Lv2
槍術Lv2 調合Lv1
魔法(火・水・風・土・光)Lv3(雷)Lv2
料理Lv2 不屈Lv3
職スキル アイテムボックスLv3 浄化Lv2
エクストラ 完全なる図書館の司書 真理眼 言語理解
一気にレベルが上がったが、身体の感覚にずれがない。無我夢中で走ったり、戦ったりした結果、ずれを感じる暇もなく無意識に調整できてしまったようだ。
「おいおい、この程度でへばってないよなあ、護。」
嫌味を言うようにそう言ってきたナヒーリヤは、どうやら騎士たちに休憩の指示を終えた後のようだ。精鋭たちがそれぞれ休んでいる。
ナヒーリヤは護から、「魔寄せの球」を回収すると、護の隣に座る。そして、護をまじまじと見つめた後、舌打ちをした。
「ちっ。殺し損ねたか。微妙に強くもなっているようだし、面白い逸材ではあるが……。セレスが懸想している相手でなかったら、認めてやったのに。」
「いつもこんなことを?」
「いや、これは入隊記念の挨拶といったところだ。護は入隊していないとはいえ、俺たちと行動するからな。どれぐらいできるか、知る必要があった。結果は、他の奴に比べたらマシというところだな。」
「良いのか、悪いのか分からないんだが。」
「そのままの意味だ。あの街道を気をつけたら一人で突破できる実力はある、とだけ言っておこう。帰りはお前は走ることだけに集中しろ。俺たちがいつもやってるところ見せてやるよ。」
ナヒーリヤは護にポーションを渡すと、精鋭たちを集める。護は一口に飲み干すと、メイアと共にナヒーリヤの後に続く。
「お前ら、帰りはいつも通りにするぞ。全員準備はできたか?」
『問題ありません。』
「門を出たところからスタートだ。ルートの変更はなし。もし追いつかれた奴は、罰ゲームだ。」
門へ移動しながら、精鋭たちは二つのチームに別れる。門に着きすぐに一方が全力で走りだした。数秒遅れて後発のチームも全力で走りだす。ポカンとしている護は置き去りになってしまう。
「あれがいつもやってることだ。護、お前は朝食に間に合うように帰って来い。もし遅れたら容赦しないぞ。メイア、競争だ。」
ナヒーリヤとメイアも護を置いていくように走り出してしまった。
(置いて行かれるだと!?ちょっと勘弁してくれ!!)
護も慌てて走り出す。もうすでに、前には誰もいない。森の中は前半魔物を狩りながら進んだこともあって、敵に遭遇することはないが、人の気配も全くない。
(朝食の時間まで後、どれぐらいだ?日の出からしてもうそろそろだ。ヤバイ、殺される!!)
森の終盤で護は気づき全力疾走に切り替える。結局、地味に上がったステータスのおかげで間に合ったがLPを回復していても、さらに減っている護であった。ちなみに、ナヒーリヤとメイアの競走はメイアに軍配が上がったようである。ナヒーリヤがメイアに水薬を渡していた。
「ランクアップの手続きか。待ってろ。」
受付のオッサンが受付を離れ、内部へと入っていく。護とメイア、そしてナヒーリヤの三人でそれを見ていた。周りから視線が集まる。「聖女が冒険者ギルドに!?」といった声も聞こえてくる。
護たちは朝食の後、冒険者ギルドに来ていた。目的は二つ。一つは護のランクアップ。二つ目は依頼を受けるためである。ナヒーリヤが同行しているのはセレスから一緒にいるのを拒否されてしまった腹いせ、また、彼女を慕う精鋭たちから、護を優先しろと言われたからである。精鋭たちが一時の休息を求めるためにそう言ったと疑うナヒーリヤだったが、護を優先することはセレスに繋がるため、目を瞑った。
「確認したがランクアップできるぞ。坊主、ギルドカードを出せ。」
確認を終えて出てきたオッサンに護はカードを渡す。カードは照合する時とは異なる水晶にかざされた。すると、色がたちまち白から青に染まっていく。ほんの数秒で護は白から青、つまり雑用から一般級へのランクアップだ。
「ランクアップは終了だ。坊主、返すぞ。」
オッサンは護にギルドカードを返す。護たちが依頼を取りに行った後、退屈そうな様子に戻るが、その目は護をしっかり見ていた。
「えーと、あった。これだな。護、これを一人で倒してもらう。」
ナヒーリヤは一つの依頼書を護に渡す。書かれていた内容は『初心者殺しの討伐』。そこには蜘蛛の絵が添えられており、この蜘蛛を討伐することが依頼であるのが直ぐに分かる。
「名の通り初心者殺しだ。こいつを討伐できるようになって初心者を卒業となる。これぐらいは出来てくれないと話にならないからな。」
「護様には少し早いのでは?それにソロではなくてパーティー推奨の魔物ですよ。護様一人では厳しい相手です。」
「あんな蜘蛛ぐらい一人で倒せて当然だろ?俺やあんたも一人で倒したはずだ。今の護が相手するには丁度良いぐらいの強さなんだよ。パーティー推奨なのは死亡率を下げたいギルドが言っているだけだしな。」
メイアが心配している理由は、アマチュアキラーは蜘蛛型の魔物の中では最弱に位置するが、攻撃は毒や糸を使い、硬い外殻のせいでろくなダメージが通らないことで有名だからだ。さらにソロの場合、糸や毒を受ければほぼ死が確定するようなものである。
「いざという時は、俺たちが助けに入れば問題ないしな。そんなに心配するような強さじゃないのは、あんただって分かっているだろ。」
「それはそうですが…」
「やってみよう。」
「!?……かしこまりました。護様がそうおっしゃるのであれば。」
主の意思ということで渋々下がるメイア。すぐさま助けに入れるように注意を払うようにするしかないと決心する。
(メイアが心配するほどの相手なのか。でも、引き下がるわけにはなぁ。避けられない戦いになりそうだし。)
護には戦わないという選択肢は最初からなかった。メイアには悪いかもしれないが、ナヒーリヤが出した課題なのだ、セレスに大丈夫と伝えた以上、自分で解決すると決めていた。それが今回、護の中で絶対と思うことなのだ。
「話は決まりだな。とっとと行こうぜ。」
「討伐の前に準備はしないといけません。いいですよね。」
「まあ、それぐらいはいいだろう。最終的には、そんなもの必要ないぐらい強くなってもらうがな。」
護は、メイアがナヒーリヤに対してとげとげしい態度をとっていることに気づく。感情をむき出しにしている訳ではないが、言葉のトーンなどから不機嫌になっているに間違いない。まだ、怒りを爆発させてないだけマシなようである。もし、この二人が喧嘩しだしたら、護に止める術などない。
依頼を受け、メイアが護の腕を引いて、冒険者ギルドを後にする。そして、薬屋で解毒薬や、水薬をいくつか買った後、西門から討伐に出かける。
依頼の場所は今朝の街道から少し外れた村である。そこでは、果物が栽培されているのだが、その果物の木にアマチュアキラーの巣ができてしまったらしい。幸いに、収穫時期ではない。しかし、手入れができなくなっており、荒れ放題になると収穫にまで響いてしまう。そのため、早く駆除をしてほしいとの依頼だ。
メイアが護をお姫様抱っこし、その後を大笑いしながらもしっかりついてくるナヒーリヤが走って一時間もしない内に村にたどり着いた。村は三人が現れた途端、暗い雰囲気から明るくなる。
「お待ちしておりました。冒険者様と……これは聖女様!?…はっ、無礼をお許しください。」
三人に気づいた村長らしき人物がナヒーリヤを見てすぐさま、驚きの大声を上げる。そして、失礼だと思ったのかそれを謝った。周りの村人たちも大物が来ていることに気づきざわめいている。
「気にしてねぇよ。それに俺はこいつの付き添いだ。倒すのはこいつだ。」
ナヒーリヤはそう言って、護を村長らしき人物に押す。護は自分が依頼を受けた冒険者であり、依頼書を見せる。
「付き添いであれ、聖女様がおられるとは心強いです。」
「俺は魔物を倒す以外、能がない人間なだけだ。」
村長だと改めて自己紹介された後、果樹園の方まで案内される。その間の話で、果樹園は広く、魔物もちらほら現れるらしい。大抵は元青クラス冒険者や兵士だった人間で対処できるレベルの魔物だが、たまにアマチュアキラークラス以上のも出てくるようで、その時は依頼しているそうだ。
五分ほど歩いた頃、所々に女性の腕の太さはある白い糸が、蜘蛛の巣状に果樹数本に渡って張ってある。村長は立ち止まると、
「ここからは私どもの手には余ります。この糸の主は確認したところLv30のかなり年を経たもののだと、鑑定持ちの元兵士が言っておりました。お気をつけて。」
元来た道を引き返していった。
残された三人は奥へと進んでいく。道は草が生い茂り始め、このまま放っておけば荒れ果ててしまうのが感覚的に分かる。
蜘蛛の巣に引っ掛かり糸で巻かれて繭になった魔物の間を通り過ぎ、しばらくして一番背丈の高い果樹にたどり着く。今回の目標はその木にいた。
「キィー!!」
「来るぞ!!」
アマチュアキラーが糸を噴出口から吐き出してくる。三人はそれぞれ散開した。護は武器を構え唱える。
「『エアハンマー』……と『エアカッター』」
風の塊がアマチュアキラーに直撃する。その衝撃で木が揺れ、落下してきた。また、攻撃をしてきた護にヘイトが生まれる。護を不快な鳴き声で威嚇する。
護は周りの糸に絡まらないようにするため、風の刃で切り裂く。一瞬の抵抗の後、糸が切れる。護のINTでは、ギリギリだ。
(さて、ここからが本番だ。ステータスを確認しておくか。)
「『真理眼』」
アマチュアキラー Lv30
LP 321/342 MP 257
STR 431 AGI 243
TEC 311 END 300
INT 245
特殊 糸Lv4 毒Lv3 体重増加Lv3
(エアハンマーで十分の一もいかないのかぁ。厳しいな。規模が大きい分、燃費が悪いし。けど、何とかなりそうだ。)
相手のSTRが高すぎるため、今回も受けをしくじるとピンチに陥ることになりそうだ。それに吹き飛ばされて巣に捕まれば、自力ではほぼ勝てない。
「くらえ!『エアハンマー』」
護の第二射は前脚の攻撃で相殺される。衝撃でダメージが入るが、直撃ほどは出ていない。アマチュアキラーは護との距離を詰めてくる。
「近寄られてたまるか!」
護は風の刃で安全圏を確保しつつ、距離を保つ。MPがやや苦しいが、近接戦は毒や糸が回避が難しく、リスクが高いとメイアから言われていた。その助言に従って護は必死に走る。
そんな護に対してアマチュアキラーは糸を護の前方の木に吐き、脚で手繰り寄せることで近づこうとする。護との距離が先ほどまでの半分になった時、糸が風で切断され、落ちる。地面にはパイクが用意されていて、貫いたのは外殻がなく、柔らかい腹に刺さった一本だけだ。それでも効果があった。
「キキィー!!」
「お、効いている?LPも50以上減っているし、出血もしているみたいだ。」
咄嗟に思いついた方法だったが、功を制したようだ。追撃で風の鉄槌を喰らわせる。その衝撃で土の杭が折れ、再び動けるようになってしまったが、緑の血が出血している。
「キキィー!キキィー!」
怒り狂ったアマチュアキラーは出血を無視して近くの切られていない糸に移動し、体重をかけてしならせる。木が軋み、護は何をしようとしているのか察する。
「嘘だろ!?」
「キキィー!!!」
ドンッ!!と言えばいいのだろうか、そんな疑音語が似合いそうな音を立ててアマチュアキラーが突貫する。護は避けたが、処理しきれていなかった糸に引っ掛かる。かなり粘着性が高く、力づくでは離せないのが直ぐに分かり、『アイテムボックス』から剥離薬を使用する。すると、糸が溶けるように外れ動けるようになった。
「護様!!」
メイアの悲鳴が糸解除直後、隙のあった護が吹き飛び木に激突したことで上がる。
幸運なことに、走ってきたかいがあったのか、衝突した木に巣はなく蜘蛛のテリトリーから外れているようだ。
「ゴホッゴホッ!痛っ!」
「キキィー」
「!!」
蜘蛛が前脚を振り下ろしてきたため、護は転がりながら回避する。息が上手く吸えず、苦しみにあえぎながらも連続で振り下ろしてくる脚を避けた。
そんな護に業を煮やしたのだろうか、蜘蛛の魔物は攻撃の仕方を変える。
「護様、避けてください!!」
メイアの声が響くが、牙あたりからまき散らされた液体に護のズボンにかかる。たちまち穴が開き、護の足を侵食する。皮膚は溶け肉も溶ける。ドルケに切られたときは熱かったが、こっちは正真正銘の激痛だ。
(何これ!?痛すぎる!!)
護は解毒薬を足にぶっかける。痛みが激増して悲鳴と涙がでるが構っていられない。同時に水薬も使用した。毒による侵食は止まり傷口も塞がりかけている。だが、立つことすら難しい。痛みに慣れた護ですら、痛みで立てない。
動きが止まった護に容赦なく毒の牙で噛みつこうとするアマチュアキラー。その前に光の結界が現れ、拮抗する。
「あの結界、俺の時にも出たな。あの魔力の感じだと、エトリアが張ったのか。…かなり器用な魔法だ。条件発動の魔法なんて俺も習得していない。俺も妹に張れるよう聞いてみるか。」
「聖女様、離してください。エトリアさんの結界が発動されたとはいえ、危ない状況なんです。今すぐに助けに行かなければなりません。」
「離さないぞ。これからあいつの真価が見れるんだ。瀕死になるまで離してたまるか。」
ナヒーリヤの怪力にメイアは捕まっていた。護が毒に侵された時、助けに入ろうとしたのをナヒーリヤが羽交い絞めにしたのだ。
メイアの殺気がナヒーリヤに向けて放たれるが、どこ吹く風だ。増々、ナヒーリヤに対して嫌悪感が積もっていく。
「そんなにピリピリすんなよ。ほら、護が立ったぞ。」
「護様…」
二人の視線が向く先で護が立っていた。同時に光の結界が崩れる。
アマチュアキラーが前脚で薙ぎ払う。護は間合いから離れきれず、ナイフで流そうとする。結果、吹き飛びはしなかったものの尻もちをついてしまう。
蜘蛛の追撃を護は魔法で、礫で威力を殺し、指輪で風の結界を張り逸らさせる。
「『エアハンマー』!」
護は蜘蛛の下からそれを発動させた。蜘蛛は一瞬浮くが元に戻る。まだ体重増加の効果が切れていないようだ。舌打ちを一つして次の策に移る。
「『メルト』」
蜘蛛の足元がたちまち緩くなり、沈めようとする。完全に沈む前に蜘蛛は糸で木にぶら下がり回避しようとする。護は糸を切ったが、蜘蛛は脱出してしまった。
(沈められるかと思っていたけど、惜しい!痛ぇし、早く終わらせたい。なら次は…)
距離をとれた時に色々試して地味に相手にダメージを与える。蜘蛛の前脚を利用して吹き飛び距離を稼ぐ護。地面や木に打ち付けられ、その度にLPが削れる。口の中を切ったのか血の味がするし、左肩は外れ、息をするだけで痛い。咳き込むと血が混じる。それでも毒に比べたら、まだ動ける。
護のLPは54/216となっており、現在進行形で減少中だ。ちなみに、毒の時、184あったのが一気に114まで減っていた。
「『エアハンマー』!…きた!!」
LPを代償に仕掛けるチャンスがやってきた。何度かひっくり返せないかとチャレンジしていたのだが、スキルのせいでひっくり返せなかった。だが、スキルが切れひっくり返せたのだ。糸で復帰しようとするアマチュアキラーに、
「させるか!『ファイヤーランス』!」
MPを消費し、噴出口を糸ごと燃やす。外した時の火事が怖かったため、使用するのを止めていた火魔法を、確実に当てられるこのタイミングで使う。噴出口は焼けて使えなくなっていた。
護はナイフを地面に突き刺し、土を纏わせる。そして脚に気をつけながら弱点である腹に突き刺した。
「キキィー!!」
護は何度も突き刺す。右手だけなので動きはぎこちない。それでもひたすら続けた。
そしてしばらくすると、蜘蛛の動きが止まる。同時に土の長剣は解除され、短剣に戻る。
『真理眼』でLPが0であるのを確認する。激しく胸を上下にさせながら、その場にへたり込んでしまう。『アイテムボックス』から水薬を取り出し、飲み干して回復する。痛みが和らいだ。
「できたじゃねぇか。」
「護様、お手当をしますね。」
戦闘が終わり二人が護に近づく。ナヒーリヤは護に優しい眼差しを向け、メイアは護の左肩を嵌め直す。そして治りきらず、痛々しい足の傷へ水魔法で包む。その水は血で赤黒く染まるが、染みることによる痛みはない。
メイアが解除した頃には護の傷は全快していた。
この世界において、回復魔法と呼ばれるものはそれぞれの属性にある。例外は土と風、雷属性で、これらには存在しない。イメージとINT、MPさえあれば発動可能である。護はまだできないが、メイアには水薬節約のためできるようにしていた。ちなみに最低でもLv4相当の技術だ。
「ありがとう。」
「恐縮でございます。護様、敵の攻撃がいくら読めるからといって傷を負いながら利用するのは、見ていて心臓に悪いです。」
「すまない。」
「説教は後だ。護の治療も済んだことだし、素材だけ回収して村に戻ろうぜ。」
アマチュアキラーの亡骸を『アイテムボックス』に回収したあと、村に戻る三人。村長に亡骸を見せると、感謝の意と依頼完了の証明をしてもらった。
帰りの途中、反省ということでナヒーリヤは護へ改善点と良かった点を伝える。ナヒーリヤからしてまだまだと言わざるを得ないが、一応見込みがあるのは認めるから覚悟しろとのことだった。
ナヒーリヤの言葉に護が内心でガッツポーズを決めるのであった。
メイアは始終無言だったが、背負っている護が喜んでいるのを感じるとポーカーフェイスから穏やかな表情になるのであった。ナヒーリヤがドヤしてすぐさま消えてしまったが。
昼過ぎにギルドで報酬を貰った後、教会に戻った三人。三人は普段よりも騒がしくなっているのに気づく。
丁度教会から出てきた修道女の少女が三人の元へ駆け寄ってくる。
「何があった?」
「聖女様、イウド辺境伯領で魔物行進が起こったようです。状況についてはまだ詳しい情報が届いていませんが、冒険者、フォイアー教会の騎士団が対処中。規模が大きく、今回のボスは赤ランク、つまり師団級のモンスターが率いている可能性があるとのことです。」
「ケレスと爺さん達は?」
「宿舎の食堂におられます。」
ナヒーリヤは早足で歩く。その後に護とメイアも続く。
(魔物行進かぁ。ろくでもないのは想像がつくぞ。)
数多の作品において出てくる出来事の一つ。無双できる程の能力があれば滾るのかもしれないが、今の護は雑魚である。出来ることは雑魚狩りぐらいしかない。
「団長が戻ってきたぞ!!」
精鋭の一人がそう言うと、慌ただしかった食堂が静まりかえる。
ナヒーリヤが全員から見える位置に立つ。そして、静かながら強い言葉を放つ。
「お前ら、祭りの準備は出来ているのだろうな?火の教会騎士団は屈強な野郎どもの集団だが、師団級はあいつらには荷が重すぎる。明朝、日の出を持って出立をする。それまで、装備や道具、物資を整え、休息しろ。」
『了解』
食堂は再び喧噪に包まれる。主に食料、水薬などの確認をしているようだ。
三人はケレスとアクスドーラ夫妻がいる方に近づく。
「ナヒーリヤが戻ってきたさね。」
「詳しい情報は?」
「中隊級が十体、それ以下は多数。おそらく一万以上だね。被害は村がいくつか飲み込まれたのと、町が一つ崩壊した。辺境伯が住む都市まであと四日の位置というところの平原で冒険者及び教会騎士が戦闘開始。今のところ騎士団長の采配で中隊級が一体討伐できたとこまでは聞いているね。」
ナヒーリヤの質問にケレスが答える。メイアたちと同じ黄ランクの魔物が十体、それ以下が万単位とかなり大きな規模であるのを聞き、ナヒーリヤは獰猛な笑みを浮かべる。
「久しぶりに稼ぎ時のようだな。護、お前も連れていく。死ななければ、いい経験が積めるぞ。」
準備をしておくようにと、だけ言い放ち精鋭たちに指示する。あっという間に姿が見えなくなってしまった。
「護様、行かれるのですか?魔物行進は危険度がいつもの倍以上にありますが。」
メイアの問いをあえてスルーし、ケレスたちに護は質問する。
「ナヒーリヤの中では決定事項になっているようだし、拒否権はあるのですか?」
「「「ない(さね、だろ、ね)。」」」
即答された。護も同感である。ナヒーリヤならばセレスのことも引き出しにして脅迫してくるに違いない。
そうでなくとも、力も圧倒的に向こうが上である以上、引きずってでも連れていかれるのは明白だ。
「それに俺自身行ってみたい。見ておかないと後悔しそうだし。」
「はぁ、護様、承知しました。このメイアが全力で守りますので。」
準備しなければいけないものは山ほどある。今すぐ取り掛かるべきだろう。
「メイア、準備したいから手伝ってくれ。」
「かしこまりました。」
護とメイアは自室に戻っていった。
A:なんちゃってQ&Aを始めるぞ。
Q:護がなぜか一人で戦っている…。確かにスパルタと言えばいいのかなぁ。
A:ナヒーリヤの基準では単騎生存が前提にあるからな。一人で乗り切れなければ話にならないという思想がある。それが彼女の強さの秘訣だな。
Q:人って協力して初めて本領発揮する生き物な筈ですけど?
A:ナヒーリヤも必要とするのかはおいおい分かるだろう。
Q:待っておきます。(さて、どうなることやら)




