第二章プロローグ
第二章開始…
「せ、聖女が戻ってきたぞ!!」
食堂に一人の聖騎士が走りこんで来て、そう叫ぶ。その途端、一気に食堂内が騒がしくなった。
「お、遠征が終わったんだな。半年ぶりになるのか。」
ガンドルフは憂鬱そうに低い声で呟く。聖女の帰還が嬉しくないようだ。
護は急激に実年齢まで年老いた様子のガンドルフに、聖女とはどんな存在か不思議に思う。
「リヤお姉さんが…帰ってくるのですね。」
「リヤお姉さん?セレスのお姉さんが聖女?」
「血は繋がってないですけど…。でも、いつも妹のように可愛がってくれるのです。」
「ナヒーリヤはセレスを本当に可愛がってるさね。…それで、あの子にもセレスが攫われたことを知らせたからねぇ。」
おそらく激怒しているのじゃないかねぇ、と言外に態度で続けるエトリア。
護は、聖女が二人居ながら今回のことが起こったのはどういうことなんだ、と怒られるのであろうと予想を立てる。帰還の一報で騒がしくなったことからも、かなりいろんな意味で強い人なんだろうとも。
この予想は当たっているのだが、まさか身体で体験する羽目になるとは想像がつかない護であった。
「メイア、聖女ってどんなことをしているんだ?」
あまりにも周りが反応していたので、そもそも聖女とは?という質問タイミングを逃してしまっていた護はメイアに聞いてみる。セレスにも聞けれたが、人柄よりどういう立場の人なのかを聞くのは、第三者であるメイアの方が良かったのである。
「端的に申しますと、魔物退治のスペシャリストです。聖女は聖騎士の更に上の階級である職で、ナヒーリヤ様はその中でも最年少でなられています。リヒト教会の最高戦力であり、聖騎士団を取りまとめる団長でもあります。はっきり申しますと、私よりも強いですよ。」
「メイアより強いって、どんな戦いをしてきたんだ…」
レベルが上がるほど、強敵と戦わなければ上がらなくなる。また、命を失うリスクがどんどん高くなっていくのだ。その中を潜り抜けてきた猛者であり、修羅と言っても過言ではない。
そんな、女性が帰還してくるのだ、大騒ぎになるのは当然と納得する。だが、今回は様子が違った。
「大通りがざわつくのが恒例なのですが、静かですね。」
護たちは入り口へ移動中、メイアがそう呟く。
「嫌な予感しかしないぞ。絶対怒ってるぞ、これは。」
「覚悟を決めるしかないさね。半殺しで済むよう祈ろうかね。」
『堅牢』の二人がお通夜モードに突入しかけている。嵐の前の静けさのように異様に静かなのが不気味に感じ得てしょうがないといったところだ。
セレスはそんな二人に苦笑いしている。彼女が一人でふらついているときに攫われてしまったので、二人がもし罰則を受けるのならば止めようと思っていた。それで丸く収まるとは考えていないが、半殺しは回避できるだろうとも。
護たちが入り口に着くと、教会に入ってきている一団が目に入る。また、その場は沈黙が支配していた。
先頭を歩く一人の同年代の少女の目が、護たちを捉える。そして、早足で護の目の前に立った。
じっと見つめられて戸惑う護。すると、少女が口を開いた。
「お前が護か?」
「は、はい。」
「妹の恋人なんだってな。」
「違います。」
「あぁ?妹からの手紙からしてそうだと思っていたんだが違うのか?お前のことがびっしり書いてあって、てっきりそうかと思っていたぞ。セレス、どういうことなんだ?」
(こ、怖い!!はいと言っておけばよかった。この展開は不味い…)
護の勘が今すぐ逃げろと警鐘を鳴らしているが、今逃げるという選択肢は鼻から存在しない。下手に動けば死ぬ未来が見えるからだ。
「リヤお姉さん、まだ違います。…でも、いつかはそうなる予定です。」
「そうだったのか。…妹よ、この男でいいのか?こんな弱っちい奴に妹を預ける訳にはいかねぇ。」
「私は護さんがいいんです。強くても弱くても関係ないです。」
ナヒーリヤは肩の金髪を払いのけ、護を強く睨む。護の背中は冷や汗でびっしょりだ。
「妹はああ言っているが、護、お前に妹をこのままでは預けられない。理由はシンプルだ。それは…」
ナヒーリヤは『アイテムボックス』に手を入れると同時に息ができないくらいの殺気を放つ。そして、こん棒が護に向かって振りぬかれる。
護は咄嗟に両手で受けるしかなかった。一瞬光と風の障壁がこん棒から身を守るが、ほとんど変わらない速度のまま護の腕に直撃する。そして、受け止めようとしたメイアごと吹き飛んだ。
腕は完全につぶれ、感覚がない。身体中の骨が砕け、内臓の破裂や出血と激痛で意識が飛びかける。メイア特製の『夜見纏い』と、メイア本人が護の代わりに地面への激突を庇わなければ即死だった一撃。
(ああ、死ぬのか、早かったなぁ。)
時間の流れが遅くなり身体が冷めていく中、そう思いながら護の耳にはメイアが必死に呼びかける声と、セレスたちが慌てて駆け寄ってくる音を最後に途切れた。
「護様!?お目覚めになられたのですね!!」
メイアが目に涙を溜めて目が覚めた護を抱きしめる。
強く抱きしめられて最初は困惑していたが、護は意識が途切れる前の出来事を思い出した。
ベッドに横たわったまま、自分の腕を見てみる。あのとき、腕は完全にひしゃげて感覚すらなかった筈だが、元通りになっている。手を握ったり離したりしてみると、元の感覚のままだった。
腕全体の確認がてらメイアを抱きしめ返す。メイアの身体がビクッと震え、抱きしめる力強くなった。…かなり痛い。
「メイア、痛いんだが。」
「すいません、護様。でも、嬉しいのです。護様を失いたくありませんから。」
「心配かけてすまない。メイアがいなかったら死んでいた。」
「お役に立てて光栄です。」
メイアは護に口づけをする。護もそれに応じた。
すると、部屋の隅から不機嫌なオーラが溢れだした。元凶はナヒーリヤだ。
「護、妹がいながら、侍女ともできてんのか。頭の中が花畑なことで。言っておくが、死にかけのお前を救ったのは俺だ。これを使ってな。」
ナヒーリヤは空になった瓶を取り出す。護を全快させたにしてはかなり小さい。
「この中に入っていたのは、『万能薬』と呼ばれる薬だ。効果は見ての通り。白金貨3枚する。あの状況でセレスが泣きついてこなければ、お前は一生、そこの侍女に頼らないと生きていくことすらできない身体になっていた。妹に感謝するんだな。」
ナヒーリヤはさらに続ける。
「俺はお前を現時点では認めない。だが、護を選ぶなと言っても妹は頑固なところがあるから聞かないだろう。だから、護に言っておく。お前には二つの選択肢がある。一つ目は妹と関わらないことだ。お前から距離をとれば、傷つくだろうが妹は諦めてくれるだろう。二つ目は、強くなり妹を守れ。俺が預けてもいいと思えるほど強くなれば、何も言わない。さぁ、どっちを選ぶ?」
彼女の目は強い意志が宿っている。
また、護はどちらかを選ばなければならなかったが、心の中では実質一つだ。
「強くなる方で。」
「その答えを即答するか。賢明だな。……今のお前は弱い。今回は勝利し妹を助けられたが、次回も勝てるような相手だとは限らないぞ。おまけに、逃げる力もないのであれば、あるのは死と凌辱だ。妹が目の前で壊れていくのを見たくなければ、強くなれ。」
「……」
「怪物の脅威から守れ。お前が本当に妹とその侍女を愛そうというのであればな。…俺が直々に鍛えてやるよ。本当にその気ならついて来れるはずだ。」
明日の朝、教会の入り口で待つ旨をナヒーリヤは伝えると、部屋から出ていった。
(強くなれ、か。それに、聖女直々の特訓かぁ。地獄のようなコースなのは間違いないな。)
「護様、大丈夫なのですか?聖女様の鍛錬はスパルタと有名です。それこそ、脱落者は数えきれないぐらいに。」
「それは…。逃げたいのはやまやまだが、ここで逃げたら確実に駄目な気がする。しかも、セレスの想いに応えられないことになる。そうなったら、神様に殺されるだろうな。」
「二人で出ていくこともできますが、なされないのですね。」
護は苦笑いした。二人で旅をしながら生活する、そういった生き方もできる。しかし、それは違うという感覚があった。だから逃げない。並びに、ちっぽけな護の自尊心がナヒーリヤに存在を証明しろ、と叫んでいる。
メイアは強く護を抱きしめ直すと、
「護様の決断ですので、私はそれを支えるだけです。でも、無茶はしないでください。」
「約束できそうにないと思うぞ。」
「できる限りです。」
そうやり取りする。しばらく抱きしめ合った後、もうそろそろ夕食の時間のようなので食堂に向かうために動き出した。
「すまなかった。だから、機嫌を直してくれ。」
「護さんへあんな酷いことした姉さんを許すなんて…嫌です。」
機嫌が明らかに悪そうなセレスに、かなり困った様子で謝るナヒーリヤがいた。
少し頬がやせて見えたガンドルフたちにどういう状況なのか護は聞く。
それによると、護が眠っている間からセレスのナヒーリヤに対する態度はあんな感じらしい。ナヒーリヤに対して冷たい行動をするのは中々ないらしく、今回もおそらく二人が仲直りするまでには時間がかかるだろうとのことだった。
「護さん!!」
セレスが護がいることに気づき、近寄って抱きしめてくる。柔らかい感触がして少しドキッとしまう。
「大丈夫ですか、護さん。……姉さんに悪いことされませんでしたか?」
「されてない。」
その一言でセレスは胸を降ろす。護を解放すると、今度は顔を赤くした。さっきの抱きしめたことが大胆で恥ずかしかったのだろう。
ナヒーリヤの据わった目が護を捉える。セレスが懐いているのがかなり気に食わないようだ。その目は如実に、「明日は容赦しねぇぞ。」と訴えかけている。
「護さん、夕食はまだでしたよね。私も…姉さんのせいで、まだなんです。…一緒に食べませんか?」
「あ、ああ。」
(ナヒーリヤの視線が更にきつくなっている…。俺、特訓中の事故とかで殺されないよな。)
セレスが護の手を引っ張ってカウンターに連れていく。そして、いつもより距離が近い。それに誘発されてかメイアが腕を組んでくる。
食事が出てくるまでの間、二人はベットリ護の横から離れなかった。また、ナヒーリヤの視線が外れてくれない。無言の圧力を感じてしまう。
二人に挟まれて食事をする護は温かい食事に癒されながら、なんとかナヒーリヤの視線を耐えきった。
部屋に戻ってきて、護は深くため息をつく。ナヒーリヤの視線は結局、食事どころか浴場でも感じた。ちらっと見た時、深い闇を称えた目をして低い壁から顔だけ出して見てくる様子はホラーだった。SAN値があるなら、確実に減っている。
「護様、大丈夫ですか?お疲れのようですが。」
「メイアは感じなかったのか?ナヒーリヤのあの視線。」
「ずっと護様を見ていたようですね。あそこまでユニークなお方だとは思っていませんでした。」
「それは俺も同感だ。セレスへの愛と、俺に対する敵対心が強すぎる。」
護はナヒーリヤが自分のことを認める時は一生こないのではないか、と思ってしまうほど彼女の行動は強烈だった。出会いから半殺しにしてくるほどだから、当然の対応かもしれない。同時にメイアがあれをユニークと表現できるのは、強者所以であるからだろうかと思ってしまう。
疲れに任せるようにベッドに寝転がる護。メイアは椅子に座り、『夜見纏い』の点検に入る。ナヒーリヤの攻撃で傷んでおり、その修繕をする。
お互い沈黙の中、一時間ぐらい経った頃、扉がノックされる。
メイアが出てみると、セレスがパジャマ姿で立っていた。
「すいません、護さん、メイアさん。しばらく部屋に…居させてもらえませんか?」
「護様、どうしますか?」
「別に構わないが、こんな遅くに珍しいな。どうしたんだ?」
セレスは部屋に入ってくると事情を説明する。セレスの部屋は今、ナヒーリヤが占拠しており眠れないそうだ。いつもは姉妹でシェアして眠っているそうだが、護のことで喧嘩しており一緒に寝るなんて嫌だ、とセレスが飛び出してきたらしい。
「護さんにあんなことして、反省しないお姉さんは嫌いです。」
「落ち着こう、セレス。」
「護さんは死にかけたのに、怒らないのですか!?……ごめんなさい、護さんに当たってしまいました。」
かなり頭に血が上っているらしく、思わず護に強い口調で言ってしまったことを謝るセレス。そのおかげで、少し熱が冷めたようだ。
「俺は、ナヒーリヤの主張も分かる。ナヒーリヤはセレスのことを大切に思っているからこそ、今の体たらくな俺を認めたくないだろう。だから、怒ったりできない。」
「…でも、認めないのは姉さんが思っているだけで、私は違います。……護さんが好きなんです。誰にどう言われようとも護さんがいいんです。……この想いだけはずっと失いたくないから。護さんが瀕死の時、怖かったです。大切な人がいなくなるのが…こんなに怖いとは思っていませんでした。」
護はベッドに腰かける隣の少女もナヒーリヤも似たような性格をしているのだと感じる。お互い引けない一線があり、そこでせめぎ合っているのだと。特に、大切な人に関しては。
ナヒーリヤによる精神的な疲れが、少し和らいだ護はセレスの手を握る。その手は冷たい。
「ありがとう。俺だって、二度とセレスが攫われたり、誰かを失いたくない。だから、強くなる。それこそナヒーリヤに認められるようにだ。大丈夫、やってみせる。」
「護さん…」
セレスの頬が赤くなる。それに、さっきまでの怒りは完全に引き、距離が近くなる。そして、影が重なろうとしたその時、
「護様、それはセレスさんとのお付き合いを認めるとのことでよろしいのでしょうか?」
「「!!!」」
冷たさを帯びたメイアの一言で二人の距離が戻る。あのまま行けば、唇が重なっていただろう。また、その状況はメイアにとってはあまりにもつまらなかった。
「……今度は、してくださいね。」
「護様、認めてはいますが、ここまで堂々と二人の世界を作られると、嫉妬してしまいそうです。ですので、私も混ぜてください。」
顔を赤く火照らせたままのセレスといつの間にか近づいてきたメイアの両方から、頬にキスを貰った護は頷くしかなかった。
A:なんちゃってQ&Aを再開するぞ。
Q:おー。にしても、これまたかなり強烈なキャラが登場しましたね。
A:物理系に傾倒していくのが教会の聖女、聖母なのだ。そして、キャラも濃くするのだ!!
Q:間違っていると思いますよ、それ。普通、教会とかで祈ったりする方が正しいですって。
A:祈るのはセレス(巫女)の仕事だから、この世界ではな。間違っているか?
Q:(そうだった…)この世界の設定、頭おかしいと思っておきます。
A:良い誉め言葉だな!
Q:……。(褒めてない!!)
さて、二章は護のレベリング章+@となっていく予定です。




