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異世界で1人別行動   作者: 狩野 猟
巫女編
13/138

閑話 ~その頃の勇者は~

か、閑話その二・・・

~王城 テラス~

 月明りに照らされ独特な静寂の中、一人の青年が佇んでいた。腰には長剣が鞘に収まっている姿が様になっている。もし、年頃の女の子が見れば、顔が整っているのも相まって一目惚れするかもしれない。

 

「護、元気そうで良かった。隣にいた二人の女の子は彼女かな。主人公らしい手の早さと言えばいいのか。」

「どうかされたのですか?勇者様。こんなところで一人で佇まれておられるなんて。」


 龍志が後ろ振り向くと、白のドレスを着た第二王女が立っていた。第二王女の名はルマノ・アスタイト。今年で15歳になる女の子だった。15歳で既にわがままボディかつ雰囲気が大人であり、龍志も初めて会ったときは歳下とは思えなかった。

 

「思い出していたんだ。護のことを。」

「確か、護さんは勇者様と一緒に来られてそれで…」

「そう離れ離れに。でも、今日いたんだ。パレードの中にね。」

「教えてくださいませんか。護さんのことを。」


 龍志はルマノに護が幼馴染であること、一緒に遊んだり学んだりしたこと、自分が表で目立ち、護が後ろから文句を言いながらも支えてくれたことを伝える。

 ルマノは一通り龍志の話を聞き終えると、頭を下げる。

 

「申し訳ありません、勇者様。勇者様にとって大事な親友を追い出してしまい…」

「大丈夫だよ。この国の事情は大体分かってきたから。それに約束を果たすまでは生き残ってみせる。」


 龍志は笑って頭を下げないでとルマノに言う。ルマノは顔を上げると龍志の瞳の中に覚悟といった強烈な意志が映っているのをみた。

 

「強いのですね。勇者様は…」

「いや、まだまだ弱いよ。団長さんからはひよっこ扱いされているし、レベルもまだまだ低いし。それと、王女さん、俺のことは勇者様じゃなくて龍志でいいよ。勇者と呼ばれるにはまだまだ弱いからね。」

「でしたら、私のこともルマノと。対等に言ってください。」

「分かったよ、ルマノ。」

「!!」


 龍志は胸を押さえて真っ赤になるルマノを心配する。そして、失礼なことだったと内心反省する。

 対するルマノは当然ながら対等と言える相手が少なく、龍志の態度は快感と驚きをルマノの中に響かせる。

 

「大丈夫です。りゅ、龍志さん。是非ともこのままで。」


 胸を押さえたままルマノはそう言う。しかし、龍志には心配されたままだったので、さらに一言言おうとすると、

 

「龍志~。どこなのよ。パーティー終わっちゃたわよ。」

 

 遠くから由奈の声が聞こえたことで、ルマノは思わず驚き黙り込んでしまう。

 龍志からすればやっぱり、失礼だったのかなと思ってしまった。

 

「失礼しました。王女様にため口なんて言ってしまい申し訳ありません。」

「違うのです、龍志さん。私、対等な方があまりにもいなくて、それで驚いてしまっただけなのです。」


 ルマノが、頭を下げようとする龍志を抱きしめる。ちょうど胸で抱え込む位置だ。

 龍志は驚いて離れようとするが、ルマノもセレス並のステータスを持っており、かなり強く抱きしめられて抜け出そうにもできない。


「~~~!!」

「ひゃっ!?」


 龍志は息ができなくなってきたので、なんとか開放してもらうともがく。ルマノから艶やかな声が聞こえても、なおさらもがいてしまう。抵抗空しく解放されずその内ぐったりしてしまった。

 

「何しているのよ!!龍志を離しなさい!!」


 由奈が二人を見つけ、ルマノにそう言う。由奈の顔は真っ赤になっており声は震えていた。

 ルマノは抱きしめていた龍志を解放する。解放された龍志は顔色が青く、意識がない。

 

「ご、ごめんなさい!!龍志さん、しっかりしてください!」


 ルマノが龍志をゆするが、気を取り戻す様子はない。二人は慌ててとりあえず侍女を呼び、部屋に運ぶ。

 その間に龍志の顔色は青から普通の色に戻っておりしばらくすれば目も覚めるだろう。

 由奈はジト目で安堵しているルマノを睨む。腕を組み、堂々としている姿を見れば由奈がどう思っているのか一目瞭然だろう。

 

「何をしていたのか、説明してもらおうかしら。」

「えっと、ですね…」


 ルマノは龍志に対してどういった感情と行動をしたのか説明する。

 その話を聞いても由奈は態度を変えることはなかったが、雰囲気はいくつか和らぐ。

 

「へー、あんたは友達がいないという訳ね。」

「認めるのも何か悔しいですがそうです。」

「それで龍志に友達になってほしいとお願いしたのね。分かったわ。もしあなたが、その、好きで近づいたなら燃やそうかと思っていたけど、そうじゃないならいいわ。」


 由奈の口から物騒なことが出てきたのをルマノはスルー。下手につつくと燃やされるのは確定である。火傷は王女の立場である以上進んで負いたくない。

 

「私でいいなら、友達になってあげる。私も勇者ほどじゃないけど賢者になっているみたいだし、立場は問題ないでしょ。」


 由奈は迷わずに言う。同情もあるが、ルマノが龍志だけと距離を詰めるのは面白くない。また、目の前の巨乳ライバルは自分の経歴に方向性は違えど似ていると思ったのだ。

 

「いいのですか?」

「いいも悪いも、私は決めたわ。後はあなたがどうするか、よ。」

「ぜひ、お願いします。」

「ため口でいいわ。」

「ええ。よろしくね、由奈ちゃん。」

「こちらこそ、よろしく。先に言っておくわ。龍志は私が狙ってるんだから、もし狙うなら恋敵よ。」


 由奈は顔を赤くしながらつんとした様子でそう言う。

 それを見たルマノは由奈の可愛いしぐさに微笑みを返すだけだった。

 龍志は目覚めると、仲良く話している二人が目に入る。自分が気絶している間に何が起こったのか分からなかったが、二人を見てほほえましく思うのであった。


~翌日~

 夜明け前、王城の食堂の台所には桃花が料理人と一緒に調理していた。

 

「モモカ、朝早くから済まねえな。」

「いいえ~。私も物好きでしているだけですし~。それに甘い食べ物は飽きましたから。」

「そうか。レシピまで提供してもらってありがてえ。」


 桃花は鶏よりも一回り大きい卵を数個、手慣れた様子で割ると、塩とコショウを入れてかき混ぜていく。

 甘いものに飽きたというのは、三日ほどまで砂糖がふんだんに使われた料理ばかりが出てきて、まさに太ってくださいと言わんばかりだったからだ。太るのは嫌、ということで女性陣の中で桃花、るかが交代で料理を作っている。由奈は謎の物体を作ってしまったので、道具に触れることさえ禁止されている。

 ちなみにコショウを何気なく使っているが、アスタイト国内での生産は少ない。そのため高価なものなのだが桃花は迷わず使っていた。なお、砂糖は貴族が普通に生活の中で使えるまで生産されている。

 そして事前に油を敷いて温めておいたフライパンに溶いた卵を注ぐ。注いでは巻き、注いでは巻きを何回か繰り返してできたのは、卵焼きである。

 他にもバランスよく野菜等が揃うように料理を作っていく。献立も桃花とるかが手伝うようになってから、バランスがとれるようになった。

 また、食事だけではなく生活習慣自体が改善している。それこそ地球よりも健全な生活をしているといっても過言ではなかった。

 

「おはようございます~」

「おはよう、桃花さん。今日もありがとう。」

「おはよう、桃。今日は卵焼きじゃない。へえ、フライパン届いたのね。」

「おはようございます。桃花様。これが二ホンでの食べ物なのですね。美味しそうです。」


 食堂に現れたのは、龍志、由奈、ルマノの三人。しばらくすると、猛、るか、そして妃様も席に着く。

 

『いただきます。』


 勇者組は手を合わせて、ルマノと妃様は黙祷を捧げてそれぞれ食べ始める。

 

「美味しいわ。流石ね。最近はいかに甘いかばかりでうんざりしていたから本当にありがとうね。」


 そう言ったのは妃様。名前はレミィ・アスタイト。元侯爵家であり、三児の母でありながらその体はルマノ並みに女性であることを強調している。

 時折、ばいーんという擬音語が似合いそうな胸を見て、由奈が死んだ目になる原因の一つである。

 

「パレードも済んだし、もうそろそろ行くのよね?」

「はい。旅の途中で鍛えながら、魔族の国、カザニアへ。」

「寂しくなるわね、ルマノ。」

「はい。でも、それが龍志さんたちの使命だから。」


 レミィは龍志へ視線がいっているルマノをじっと見つめる。そしてニヤリと笑うと、

 

「ねえ、勇者君、ルマノを連れて行ってほしいのだけど。」

「何言っているの、お母さん!!」


 ルマノが珍しく口調を厳しくしてレミィに抗議する。当の本人は柳のように受け流した。

 

「可愛い子には旅をさせよ。とも言うし、ルマノには世界を知ってほしいのよね。それにね、勇者君はおそらく心折れる体験をすることもあると思うのよ。だから、支えてあげる人が必要なのよ。」

「それなら、騎士団長が・・・。」

「彼だけじゃだめよ。ルマノが必要な状況がくるわ。」


 確信して話すレミィにルマノは黙り込む。母の勘は嫌というほど当たるので反論できないのだ。

 

「駄目かしら。勇者君?」


 龍志はレミィの問いかけに難色を示す。

 

「俺たちが未熟なばかりに危険にさらしてしまうかもしれません。それでも?」

「大丈夫よ。ルマノは王族の中で二番目に強いし、そう簡単には足手まといにならないわ。」

「言いたいことは分かりました。でも、確認させてください。ルマノはどうしたいんだ?」


 納得は一応したものの、龍志はルマノにそう問いかける。本人の意思を尊重しなければ、飲み込める話ではなかった。

 ルマノは一瞬たじろいだ後、意志ある目と共に答える。

 

「ついて行きます。きっと、龍志さんたちに何かあれば後悔しますから。」

「決まりね。ということで、私の娘をよろしくね。」


 レミィは優雅にウインクをすると、夫に言わないといけないわね、と呟き食堂を後にする。リーゼンボルトは妻が言い出したことに驚くことになるのだが、私の勘がそう言っているのと聞き納得するのであった。

 ともあれ、こうして勇者パーティーに第二王女のルマノが加わることになった。



~アズべリア郊外~

 

「四匹のビッグボア討伐を行う。龍志、ルマノ、由奈の三人と、猛、るか、桃花の二つの班に別れてだ。俺は後者のグループを見るから、王女様そちらはお願いします。」

「分かりました。」


 郊外に訪れた龍志たちは騎士団長であるグンガイの指示で二手に分かれてビッグボア討伐をしようとしていた。ビッグボアはその名の通り体長が大きく、最低でも成人男性ぐらいはある魔物だ。突進以外は攻撃手段として持っていないが、その質量からもし当たればタダでは済まない。

 もちろんステータスがあれば受け止めることもできるのだが、龍志たちにはまだできないことである。

 さて、二手に別れて最初にビッグボアを発見したのは龍志たちである。気配をある程度消して動いていたので、まだ気づかれていない。今は茂みに隠れている。

 

「龍志さん。私は見ているので、試しに二人で戦ってもらえないですか?」

「私と龍志で?」

「はい。二人がどう戦うのか見たいので。危なかったら助けに入りますから。」


 ルマノはそう提案した。自分がベストを尽くせるために二人がどれくらい戦えるのか実際に見てみる必要があったのだ。

 

「由奈、やろう。」

「分かったわ。」


 由奈が魔力を練り上げていく。龍志の方も光の矢を一本用意する。

 

「いつでもいけるわよ。」

「分かった。……3,2,1、今!!」


 光の矢が、ボアの片目を射抜く。そして、龍志は続け様に闇魔法でボアの影を使って拘束する。

 ボアの力が強く、一瞬で拘束は解けてしまうが、由奈が作った風のギロチンはボアの首を切断した。

 龍志は一応油断なくボアが死んでいるかどうか確認する。死んでいるのを確認すると、二人を手招いた。

 

「ビッグボア討伐は今回が初めてですよね?」


 ルマノは確認のつもりでそう尋ねる。想像以上にあっけなく終わってしまったからだ。

 龍志と由奈はキョトンとした後、笑顔で頷く。

 

「魔法だけで倒すとこうなるんだ。由奈が威力が乗った魔法を使うためにかなり集中しなきゃいけない以外は魔物相手だと不都合なことは少ないんだよ。」

「疲れるけど、早く終わるから、龍志たちの怪我を減らせるのよ。」


 由奈が自信満々で龍志の後に続く。由奈の魔法のレベルは1だが、賢者の補正が威力を増大させていた。

 

「とりあえず、血を抜かないと。」


 龍志はそう言うと、ボアの足に縄を固定し折れなさそうな枝に通し、魔法袋(アイテムボックスの道具版)から動滑車を取り出しそれにつなげる。そして、また違う枝に引っ掛けると、引っ張りだした。動滑車のおかげで明らかに持ち上がらなさそうなボアの巨体が三人で上がる。

 血の匂いで他の魔物や動物が寄ってきそうだが、ルマノが結界型魔道具を使用しているため現れなかった。

 しばらくして血がほとんど抜けきった後、ルマノがボアを収納する。そしてノルマの二匹目を探し始める。

 すぐに見つかった二匹目はルマノも加わり、楽に終了して同様に血を抜くと拠点に戻るのであった。


 一方、猛たちのチームはというと、ボアが可哀想なほどに滅多打ちされていた。

 

「おらあ!!」


 猛のガントレット装備の拳がボアの横腹に刺さり、体制が崩れる。そこをすかさず、桃花のメイスが側頭部を急襲し追い打ちをかけ、とどめとばかりにるかの長剣がボアの脳を貫く。

 

「はあ、はあ。終わったわね。」


 るかはそう呟くと長剣を倒れたボアから引き抜き、血を払う。

 

「二体目の方は問題なさそうだな。一体目の時は所々冷や冷やさせられたが。」

 

 見物に徹していたグンガイがそう告げる。彼の言う通り、一体目の時、桃花が突進を直撃で受けそうになるなど、冷や冷やさせられる一面が何回かあったのだ。グンガイが咄嗟にフォローしなければ、死にはしないこそすれ大けがを負っていた可能性があった。

 

「あ~、あの時はごめんなさい~」

「二体目は上手く狙いを分散できていて、素材も無駄にしないように立ち回れていたから、よくできていたと思うぞ。」


 頭を下げて謝る桃花にグンガイはフォローする。下手に自信をなくされては戦えなくなるためだ。

 

「龍志たちも終わって戻ってる頃だろう。こちらも足早に撤収するぞ。」


 猛たちは手早く、処理を済ませるためテキパキ動き始めた。二回目ということもあって動きが早い。

 処理が終わり猛たちが戻ると、既に狩り終えて談笑をしている龍志たちが目に入る。

 

「グンガイ団長、お疲れ様です。そっちはどうだった?」


 龍志はそう尋ねる。

 

「大変でしたよ~。」


 桃花を中心に何が起こったのか伝える。

 

「グンガイ団長、ありがとうございます。」

「何、龍志にお礼を言われることじゃないさ。お前らを戦えるようにするのが俺の仕事だ。まだまだ強い相手はいくらでもいる。生き残ってもらうためにももっと強くなってもらうぞ。」

『はい。』


 パーティーは猛も含めて返事をする。強くなることは生き残る上で必要だと既に体験している。

 

「ところで、そっちはどうだったんだ?」

「それは…」


 ルマノが説明する。

 それを聞いた団長は大きく頷き、桃花とるかは苦笑い、猛は舌打ちをする。

 

「問題ないようだな。これなら冬になるころにはギルドランクで青いや、緑は堅実かもしれないな。」

「緑というと確か中堅になるのだっけ?」

「そうですよ。由奈ちゃん。私も一応緑に該当する実力です。通常ならば最短でも一年はかかりますが、流石勇者や賢者といった超級職ですね。」


 龍志はどう反応するか迷った顔をする。ステータスがどんどん伸びるのは嬉しいことなのだが、振り回される自分がいるのも確かなのだ。

 今のところ身体能力を一番引き出せているのは猛かるかのどちらかだろう。魔法なら由奈一択である。龍志は手札の数では一番だが、その分扱いが難しい。桃花は魔法で回復しながら殴れるため、持久力はステータス以上になる。

 

「あとは、全員で挑むときの連携も練習しないといけないな。」


 龍志たちのパーティーはレベルを上げるため、二手に別れて行動することが多い。そのため、連携といった点ではまだちぐはぐした部分がある。もちろん、龍志と由奈、猛たち三人といった即席のコンボをすることはできるのだが、タイミングが合わないなどしてパーティー全体に組み込めないことが多かった。

 

「それは旅の中で、ですよね?」


 龍志がそう聞く。

 

「そうだな。俺としてはまだ王都で強化したいところだが、貴族連中から風当たりが強くてな。断って下手に敵に回したくない。」

「それについては同感ですね。」


 るかが団長に相づちを打つ。他の面々も同じ気持ちを抱いていた。護が理不尽に追い出されて記憶が新しい。護には教会という居場所があったが、自分たちに同じような機会があるとは限らないのだ。下手をすれば失敗したとして消されかねない。

 そういった想像が思いつくほど、王国の貴族たちは信用できない部分があることを肌で感じていた。まだ王が善人であることが唯一の救いであるかもしれない。

 

「出立の準備が終わり次第、移動になる。今のうちに王都でしたいことはやっておけ。変装は忘れずにな。」

「冒険者ギルドに向かってみたいけど、どうしようか?」


 龍志がメンバーに尋ねると、由奈、桃花が手を挙げる。

 

「登録されるのですか?」

「折角だからね。由奈と桃花もするのかい?」

「龍志がするのだから当然よ。」

「私も~です。」


 ルマノとしては名前でバレるのではないかと思ったが、龍志たちが上級であることを思い出す。

 中級以上になってから登録する場合、自己申告の形になる。というのも、登録アイテムでなれる冒険者という職が初級であるため、中級以上からは冒険者になることは実質不可である(アイテムが起動しない)。ただ、それだと力ある存在が仕事を求めてきた相手を取り込めなくなってしまう。そこで救済措置として書類作成と、血による登録をしている。血にも魔力があり、本人確認のために利用するのは充分だ。

 自己申告ということは別に本名で登録する必要はない。今回はそれを利用しようと考えたのだ。

 

「私も念のためについて行きますね。」

「ルマノがいてくれたら、何かハプニングがあっても安心ね。」


 猛とるか、団長は鍛錬するために戻り、龍志たちは前持って準備してきた小道具で変装すると、冒険者ギルドに向かうのであった。



「おい、坊主、いい度胸しているじゃねえか。女置いて失せな。」


 入って早々、顔を赤くした大男が絡んでくる。酒臭いことから酔っているのがすぐ分かる。

 

「お断りします。通してくれませんか?」

「女置いて失せろと言ってんだろうが!!」


 大男はそう怒鳴るが、龍志は女性陣を後ろにかばうようにして動じない。その様子に苛ついて大男が拳を振り上げようとした時、背後から殺気がほとばしる。

 大男の首にはナイフが向けられ、笑顔ながらも目が笑っていない女性の顔が龍志には見える。

 

「ギルド内で暴力行為をした場合、運が悪ければ死にますよ。」

「よ、酔ってたんだ、許してくれ。」

「もう三回目なんですけど。今回はギルドマスターに報告します。」

「それだけは!!」


 大男をよそにナイフを納めた受付嬢は同僚にギルドマスターを呼んでくるように伝えると、龍志たちの元へと歩いてくる。

 さっきまでの様子とは一変して受付嬢の笑顔は可愛いものだった。新米冒険者ならノックダウンしてもおかしくないが、龍志の気持ちが動くことは無い。大男への殺気と可愛い女性陣に囲まれて感覚が麻痺しているためだ。

 龍志たちは案内されるがままに受付で登録を偽名等ですます。三人が年齢の割に中級職以上であることに驚かれたこと以外には特に…、虎視眈々という目をしていたのを無視して冒険者ギルドを出ていった。

 

「さっきの方はアイナさんですね。」

「知り合いですか~?」


 ルマノは首を横に振る。そして、なぜ知っているのか話し始めた。

 

「アイナさんはギルドの中では一番強くて年上の受付嬢さんなんです。アイナさんのお歳になるころには冒険者かギルド職員と結婚して引退するのが大半なのですが、彼女は残ってしまったんです。」


 龍志たちはある程度事情を察してしまった。ルマノの続きによると、彼女は性格自体は悪くないらしい。しかし、機会があることに冒険者として力を振わされることが起こり、男達から恋愛感情を向けられなくなってしまった。

 男盛りな部分があるのも相まって、かかあ天下になることは間違いない。そういうのが好みという男性が現れたりもしたのだが、すべて断ってしまったようだ。

 

「それで、龍志を獲物を見つけた肉食動物みたいな目で見ていたのね。…燃やす?」


 由奈は瞳孔が開いた目をして呟く。桃花が由奈の雰囲気がおかしいのに気づき、抱きしめると由奈は元の明るい様子に戻った。

 

「由奈ちゃん~、顔怖かったですよ~」

「ごめんなさい。龍志がどこぞのネズミに取られそうだと思ったから。ついね…」


 ちなみに龍志にはこの二人の会話は聞こえていない。とっさにルマノが龍志を雑貨屋に気を引いたためである。ルマノがフォローしていなければ、龍志と由奈の距離は少し離れたかもしれない。完全な拒絶はないだけ無駄な心配かもしれないが。


 

 龍志が女性陣に振り回されながら買い物を終えて、王城に戻る。そして夕食を済ませた後、龍志はリーゼンボルト王と二人で浴槽に浸かっていた。

 

「勇者、いや龍志よ。湯加減はいかがかな?」

「丁度良いです。…メイドさんの視線が気になりますけどね。」


 龍志は視線の先にいる水着姿のメイドと目が合う。微笑みが強烈で、咄嗟に目をそらす。身体が反応しそうになったからだ。

 

「はっ、はっ、は。若いな。あの者はまだ未婚者だったな。龍志が手を出しても構わんのだぞ?」


 王がすかさず揶揄う。冗談なのか本気か分からないのが性質を悪くしていた。

 

「王の侍女に手を出すなんてそんなことはできません。勘弁してください。」


 龍志は断る。由奈辺りが死んだ目になって殺しに来る未来は勘弁である。一度あったため二度目を引き起こしたくないと思う龍志であった。

 

「侍女ではお気に召さないか。では、ルマノならばどうだ?我としてはあの娘の嫁ぎ先を考えなければならなくなってきた。下手なところに継がせたくない。それに、勇者である龍志がわが親族の一員になってくれれば心強いしな。」

「それは本人の気持ちを聞かないといけませんよ。もっとも、俺は元の世界に帰るつもりです。別れが決まっているならば、恋をして悲しませるわけにはいかないでしょう。」


 まだ、戻れないことを知らない龍志はそう言う。

 王は納得のいかなさそうに龍志を見るが、意志が固そうなため説得を諦める。

 しばらく沈黙が続いたが、のぼせてきたため上がることに。その時、リーゼンボルト王が龍志に向かって言葉を解き放つ。

 

「ルマノをよろしく頼む。死なせたら、我々を救っても処刑するつもりだ。誰が(・・)敵なのか自分の目で確かめてほしい。」


 父親としての顔と、力及ばず悔やむ男の顔を見た龍志は、強く頷くのであった。

 その後は女性陣がはしゃいで王妃様もろとも侍女に怒られたり、それを男性陣が呆れたりすることはあったが平穏とも呼べる日を過ごすのであった。


~~~???~~~

 

「クソガキが。ああ、巫女様、必ず私が染めてあげますから。」


 時折魔物が男、ドルケに襲い掛かるが剣を振るい退ける。護に負けてから、騎士たちが来る前に逃げたドルケは洞窟に身を潜め傷を癒していた。護への怒りとセレスへの肉欲が相まって狂ったように力を振るう姿は、誰にも近寄りがたいものだった。

 そんな状態に魔物以外でドルケに近づく存在が現れる。その存在からにじみ出る力はドルケなど比べ物にならないくらい強力だ。

 ドルケは近づいてきた存在に力任せで剣を振るう。しかし、簡単に素手で受け止められてしまった。

 存在は侮蔑の混じった歪んだ笑みをドルケに向けた。ドルケは手を出してはいけないことに気づくが相手の手がドルケの頭を鷲掴みしていた。

 

「いい感じで負の感情を出しているおもちゃがいると思ったら、いかにも雑魚臭がしてますね。」


 ドルケを片手で持ち上げると、値踏みをしたように頷く。

 

「ふむふむ。なるほど、光の巫女を強姦しようとしたら邪魔が入ったと。それで憤怒と色欲が同時に出ている訳ですか。面白そうですね。」


 存在はドルケを大雑把に解放する。そして逃げられないようにドルケを拘束すると、『アイテムボックス』から黒色の結晶を取り出した。

 結晶はドルケと融合する。その効果はたちまち現れた。肌の色は褐色に変色し、赤髪は白色に。なにより背中からは赤黒い触手が生え、容貌はもはや魔物である。

 

「上手くいったようですね。どうですか、調子は?」

「コロス、オカス、コロス。」

「中々、いい出来ですね。知能が下がってしまっているようですが、許容範囲以内といったところでしょうか。さあ、どんな喜劇を見せてくれるのでしょう。」


 存在はドルケだったものを解放すると上機嫌で去ってゆく。時折触手が襲い掛かってきたが難なく打ち払い、あっという間にその場からいなくなってしまった。

 そうして生まれた怪物が村一つを滅ぼし、慰みものとなりながらも生き残った女たちが産んだ怪物・・が、更なる悲劇を生むことになる。

 勇者の耳に入るまであともう少し…。



勇者サイドです。え、闇落ちするか?

今のところ予定なし。

王族が地味にごり押ししている回?になりました。

 とりあえず次は人物紹介ですね。

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