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道中でコンビニを見つける度、佳菜子が入りたいと駄々をこねるので、自宅に着くころには23時半を過ぎていた。
シンクに放置していた食器類を片付けるため、佳菜子はダイニングへと向かう。そのまま自室に戻ってもよかったのだが、なんとなく祥太朗もその後に続いた。佳菜子はSサイズのゴム手袋をはめて洗い物を始めた。
「どうたった?母さんたちのラブラブエピソードは」
お気に入りのカップを丁寧に洗いながら、佳菜子が聞いた。
「千鶴は興奮して死にそうになってたな。俺もだいぶお腹いっぱいだったよ」
でしょ?と佳菜子は笑った。
「あと、素材をそのまま食うってのがいちばんヒットだったな、俺的には。腹、壊さねぇのかな」
「んー、野菜はほら、バーニャカウダだと思えば。あと、生魚はお刺身ってことで。もしくは胃の中で調理してるのかもよ。なーんて」
「バーニャ……何それ」「オシャレな野菜スティック?みたいな」「じゃあ野菜スティックって言えよ!」
「アンタ、突っ込みが早くなったわね……」
「なんか今日1日で鍛えられた気がするんだよな」
コンビニで買ったペットボトルの緑茶を一口飲む。
「いやー、それにしても、千鶴ちゃん可愛かったわねぇ。女の子とあんな風におしゃべりしたの何年振りかしら。本当にお嫁に来てくれたらいいのにー」
食器はすべて洗い終わり、手袋を外し、乾いた布巾で1つ1つ丁寧に拭いていく。祥太朗はそれを食器棚に戻していった。
「まだ早すぎるだろ。何言ってんだよ」
「えー?だって母さん、父さんと結婚したの16の時よ?あんた産んだのだって19だったんだし」
「そうだけどさ。俺らにも俺らのペースっつうもんがあるんだよ。母さんたちのはレアケースなんだからな。まぁ、でもさ、なんか微笑ましい話だったな。父さんの天然ぶりにはびっくりしたけど」
「ふふ、なんか可愛いでしょ。人間の姿でいることが普通なわけじゃないからね、世間の常識とかには疎いわけよ。まぁそれはあたしもだったけど。オジサン家の一件でこれはまずいと思って、お互い勉強したのよ」
「母さんは父さんから字を教わったんだよな。16の手習いか。すごいよな、それでいま作家だろ?」
「まぁ、わからないのは漢字とかだったし、それに、先生がいいもの」なぜか佳菜子が得意顔だった。
「はいはい、ごちそうさま。俺寝るわ、お休み」
まだ中身の残っているペットボトルを持って、祥太朗は自分の部屋へ向かった。
部屋に戻り、部屋着に着替える。嵐のような1日だったなぁ。後半の内容が濃すぎてなんか霞んじゃった感があるけど、俺、一応告白したんだよな。それに……キス……したよな。千鶴の唇の感触を思い出す。すっげぇ柔らかかったなぁ。しかし、父さんのあれは反則だよなぁ。つうか、やることやってんじゃん、父さん。
そして、今日は一度だけ水の量を増やす魔法が成功したことを思い出し、おもむろに飲みかけのペットボトルの中に人差し指を入れる。入れる際に一瞬「抜けなくなったりして」という考えがよぎったが、祥太朗の人差し指はそんなに太くはない。
「何が違ったんだろうなぁ」
ベッドに座り、ペットボトルを少し傾ける。緑茶が指先に届いたところで目を瞑る。増えろ。増えてくれよ。さっきは増えたじゃねぇか。なんでだよ。増えろよ!
飲み口の小さいペットボトルではかき混ぜるのが難しく、ボトルの方を揺らしながら、祥太朗は念じ続けた。しかし一向に量は増えない。またきっと塩味の緑茶が出来上がったのだろう。もはや舐める気力もなかった。
「やーめた。今日はもう寝よ」
ベッドサイドにしっかりと蓋を閉めたペットボトルを置き、ベッドの上に転がった。
父さん、本当に俺らの近くにいんのかよ。もう俺怖がったりしねぇよ。こんなに会いたいって思ってんだから、顔見せてくれたっていいだろ。せめて、声だけでも……さぁ……。
瞼がだんだんと重くなってくる。電気……消さないとな……。
ずっしりと重い身体を起こして電気のリモコンを探す。
どこに置いたんだったっけ。机……いや、枕のとこか……なんだよ、わざわざ起きなくてもよかったじゃねぇか。
リモコンで部屋の電気を消すと、室内は暗闇に包まれた。家の前を通る車のヘッドライトが、カーテンのわずかな隙間から漏れる。いつもならカーテンをきちんと閉めに行くのだが、祥太朗はもう限界だった。
ヘッドライトに照らされた室内に大きな影が映し出されたことも気付かず、祥太朗は深い眠りについた。




