第23話 白城とあやめ
「冷寒、あやめはどうなった?」
彼は冬の神・凍宮白城、彼が話しかけたのは冬の神護衛官・雪谷冷寒だ。
「まだ1週間しか経っていない」
「1週間も、だろ?」
「それより、やばいことが起こっている」
「どうした」
「秋の神と雪の神が接触した」
「それがどうしたんだ」
「あそこは櫻様とあやめを狙ってい…」
「はあ?そんな奴らが会っただと?」
「らしい」
「チッ」
白城は眉間に皺を寄せた。
「そもそも、賊なんか櫻の力で堕とせるじゃないか」
「白城、そいつらは賊じゃない」
「は?」
「そいつらは皇邸お抱えの者たちだと判明した」
「皇邸…?なんで天皇が出てくるんだ」
「そんなの俺に言うな」
「誰に言えばいいんだよ?」
「捜査部長に言ってくれ」
「捜査部長なんてどうせ怠け者だろ?」
「いくらなんでも怠け者呼ばわりはやめろ。職員に聞かれてたら給料落ちる」
白城は吹き出した。
「給料かよ…地位落とすわけじゃないのか…」
彼は、自分の護衛官を鬱陶しいと思っていた。でも、いて欲しい。
これは彼の我儘だ。
「なんか言ったか?」
四季春夏秋冬晴曇雨雪の神たちは護衛官の献身によって成り立っている。
それは暗黙の了解だ。
「何もない」
「そう言うだろうな、とは思っていた」
この世界の全ては誰かの献身で成り立っている。
そのことはあまり知られていない。
春夏秋冬も天気も、生贄にされた者たちがいるから巡り続ける。
知ろうとしないのが人間の悪いところだ。
* * *
「お父様、婚約を取りやめにしてくれませんか?」
ー櫻、様
「許さない」
ー櫻様、櫻様、
「その代わり、女皇になります」
ーごめんなさい
「…権力か?」
ー私、戻れません
「金か?」
ー櫻様のところに、戻れません
「私をそのような不届者だと思っていたのですか?」
ー私、地位を盤石にします
「お前がわざわざなりたいと言うとはな…」
ーでも、そうすると戻れないんです
「私だって国は大事ですから」
ーそれでも、許してくれますか?
少女は自分の生きる意味が欲しかった。
ー櫻様、
"心"が欲しかった。
ー庭の桔梗の花は咲いていますか?
それは語るに近い助けを求める声。
ー昔、言ってくれましたよね
世界はそんな声を聞いてくれない。
ー桔梗の花が咲いたらきてと言ってくれましたよね
ずっと国の長の人形を演じてきて、神に献身をして、人形に戻った少女。
ー桔梗の花は咲きましたか?
少女は苦難を乗り越えて、現在を生きていた。
ー桔梗の花は枯れてしまいましたか?
そんな少女は世界に献身をし続けている。
ー櫻様は今、どんな景色を見ていますか?
この世界は残酷で悲しくて苦しい世界。
ー誰といますか?
そんな世界に、彼女は献身をし続けている。
ー櫻様、桔梗の花はどうなりましたか?




