第一話 春の国 花舞櫻
「櫻様、次は帝州です。一度、夏の御屋敷で休ませてもらいましょう」
「そうだねあやめちゃん」
「こちらですよ、櫻様」
「あやめちゃん、きょうもありがとう」
まだ地面が銀色に埋め尽くされている中に2人の少女たちがぽつんといた。
1人は花舞櫻。現在の春の神の妹。
もう1人は菜草あやめ。櫻の従者。
「いえいえ、私は櫻様のためにいるのですから」
「ねーえー、あやめちゃん」
「どうされました?」
「ごちょうにいさまはけっこんしないの?」
「あんなの、性格的に無理じゃないですかね」
「さくら、ごちょうにいさまが…」
「彼奴は我々を見捨てたんですよ」
『五朝兄上!助けて…』
まだ7歳の少女は兄を見上げた。
『………』
『ねえ!兄上!⬛︎様が…⬛︎様がぁ……』
思い出したくもないのに我々を見張るように側についている記憶。永遠に途切れることのない記憶だった。
そこへ品のいい女性が話しかけた。
「ようこそいらっしゃいました」
「夏の神様の従者の蛍丘ゆり様ですね」
「その通りです。お話中申し訳ございませんが、お部屋の準備が整いましたので、案内しますね」
「お、おねがいします、ゆりさん!!」
「ふふっ。素直ですね。うちの上司はわがままですよ」
「夏の神様……陽虫朝日様でしたよね?」
「はい。覚えていただけるなんて光栄です」
ゆりさんは口に弧を描いた。
「夏の神様なんですから当たり前です」
「とりあえず、お部屋を案内します。ついてきてくださいね」
「あの、こちらのお部屋は?」
「朝日様のお部屋です」
「ゆりさん。あさひさん、そのうち、あえる?」
「わかりません。あの子の気分が乗れば………」
「さくら、かみさまじゃないけど、いいの?」
「櫻様。貴方はほとんど春の神と化しています。神様は貴方様のことが大切だったのでし
・・・・・・・・・・・・・・
ょう。現に風吹から力を奪っていますから」
「そうですよ、櫻姫様。貴方が春を呼んでいることには変わりないのですから」
「さくら、わるいひと。それでも…」
「櫻様は悪い人なんかじゃ、ありません」
「ゆりー誰の声ー?」
面倒くさそうな声が聞こえてきた。
「朝日!出てきなさい!春の神様の妹さんよ」
「あなたが春の神の妹さん?」
「はいっ!」
櫻は名前を呼ばれたことが嬉しくて元気に返事をした。
「はなまい、さくら、です」
「花舞家の櫻さんですか…よろしく」
「よろしくお願いします」
「あ、そうか。私は陽虫朝日」
「夏の神様ですね!」
陽虫朝日。いつも面倒臭そうな人。新緑の香りが目印。
「んじゃ、ゆり、あとは頼んだ」
(ええええええええええええ!!!)
櫻は驚いて目を丸くした。
2026/06/19頃更新予定




