第11話 過去〜『死ぬな、生きろ』
幸せが消え去ると同時に椿も消え去った。
あやめの前の主人に誘拐された。
ー嗚呼、守れなかった。
毎日泣き叫ぶ。
年上の白城と冷寒はいつも慰めてくれた。
それでも悲しみは癒えなかった。
何度も何度も面会を頼み込んだ。土下座した。
しかし、断られ続けた。
もうあやめは限界だった。
何度も何度も死のうとした。
毎回、白城は言ってくれた。
『死んだら椿には会えない』と。
それがどれだけ心の支えになったかは計り知れない。
白城だって悲しかっただろうに、涙を見せずにあやめを慰め続けてくれた。冷寒だってそうだ。
椿が消えて悲しいのはあやめだけじゃない。白城や冷寒だって悲しい。
そんな自分が嫌で嫌で堪らなかった。本当に死にたかった。
『白城、冷寒…私、椿様を探す!私の主人を探す旅に出ます!』
後悔はしない。
これで白城も冷寒も自由になれる。あやめだっていつでも死ねる。一石二鳥だ。
そう思っていた。
最後に、白城は言ってくれた。
『死ぬな、生きろ』と。
ー嗚呼、こんなにも必要とされていたなんて。
死ぬ時だけ輝くような姫にはなりたくなかった。白城と冷寒と椿は素のあやめを受け入れてくれた。
さっきまで死のうと思っていたのに、世界が明るくなった。
だから、素直に返事ができた。
『わかった。椿様は絶対に見つける』
白城も冷寒もほっとした顔になった。
『頼むからな』
冬の神とその従者は簡単には動けない。
なら、ここはあやめが務めるべきだ。
『椿様は絶対に死なせない。私も椿様がいいよと言うまでは死なない。死ねない』
覚悟を持った7歳の少女は旅立って行った。
何度も何度も死にたくなった。その度に白城の言葉を思い出して生き続けた。
やっとの思いでついたのは春の国だった。
ー門を閉じている。そこまでして私を春に入れたくないのか。
元主人と兄は主人を裏切った。いくら兄でも越せない線はある。
ー見つけたら、ボコボコにしてやるからな
冬の者たちの幸せを殺した者には正当な罰を。
『開けてください開けてください』
喉が枯れても構わず叫び続けた。
『開けてください開けてください開けてください開けてください開けてください開けてください開けてください開けてください開けてください開けてください開けてください開けてください開けてください開けてください開けてください開けてください開けてください開けてください開けてください…』
『椿様…凍宮椿様を返してくださいっ!』
『幸せを、返してくださいっ!』
1度幸せを知ってしまったからこそ幸せじゃない今が苦しい。
ー"幸せ"なんて知らなきゃよかったのに。
知らなければ耐えられたのに。
でも、知ってしまった。
ー"幸せ"を知ったからこそ耐えられない。
ー"幸せ"なんて知らないまま死ねればよかったのに。
"幸せ"は誰にでも巡るわけじゃないから。
あやめも"幸せ"を知らない人間だったのに。
ー"幸せ"が恋しい。
『"幸せ"を知らないまま終われればよかったのに…っ』
あやめは小さくぼやいた。




