第10話 過去〜冬の日々
『あやめさん』
『はい、何でしょう』
『椿の従者になってくれないか?』
『私の主人は風吹様です』
『風吹には話を通しておいた。その上で椿を守ってくれないか?』
ーなぜ私が…
今の主人を捨てさせるほどの力が小娘にあるのだろうか。些か疑問だった。
しかし、会ってみればその疑問はすぐに消え去った。
『初めまして、菜草あやめさん』
ー私はこの方にお仕えしたい
そう思えた。
『初めまして。菜草あやめです。凍宮椿…様とお伺いしておりますが…』
『はい。凍宮椿です』
2人の栄光の時はここに始まった。
まだ2歳の少女と6歳の少女。
2人の息はぴったりだった。
『白城お兄様』
『どうした?椿』
『あやめちゃんはどこ?』
『冷寒と一緒に訓練をしている。見に行くか?』
『見に行くっ!』
冬は季節に似合わぬほど暖かかった。
あやめの面倒も見てくれる白城。
あやめが訓練中でもついてきてくれる椿。
あやめを弟子にしてくれた冷寒。
あやめは初めて愛情というものを知った。
それと一緒に今までの環境がおかしかったことも気づいた。
ーいつまでも椿様のそばに居たい。
あやめにとって冬のみんなは救世主だった。
ある時はピクニックに行ってサンドイッチを食べた。
ある時は冷寒に太刀筋が良いと褒められた。
ある時は白城が作った氷の宝石をもらった。
ある時はみんなでスケートリンクに行った。
ある時は椿と一緒に舞を踊った。
ある時はみんなで笑い合いながらお菓子を食べた。
幸せだった。
しかし、突如として幸せは消え去ったのである。
凍宮白城8歳、凍宮椿3歳、菜草あやめ7歳、雪谷冷寒15歳の冬のことだった。
あやめたち4人の幸せを妨害したのはあやめの前の主人だった。




