第8話 次代四季の神 鳳凰寺緑沙
花の清々しい香り
鳥のさえずり
風の雄叫び
月の光に誘われて
静かな森に贈る夜
のどかな世界は美しくて
この世は儚い
敵も味方も平等に回るもの
春夏秋冬だ。
* * *
初めて教本を読んだ少女は目を細めた。
彼女は鳳凰寺緑沙。
春夏秋冬にはそれぞれに神がある。そして、その頂点に立つのが【四季の神】だ。春夏秋冬の神が死に、次の神が立ち上がった時に力を受け渡す。
少女の祖父は【四季の神】である。
図書館の中で鳳凰寺家の人間だけしか見れない唯一の本。それが先祖代々の【四季の神】が書いてきた教本だ。
緑沙は今、それを見ている。
小さな三つ編みが2つ、風で揺れる。
春の暖かい風だ。
今は春。春の神がもたらした暖かい春。緑沙は春が好きだ。心も体も温めてくれる。
「ずっと春ならいいのに」
冬は、寒くて心まで凍る。
夏は、暑くてとけてしまいそうになる。
秋は、美しい葉の色を見せなくなる前兆。
だから、春が一番ちょうどいい。
「春だけの世界ならよかったのに」
春だけの世界なら、戦争なんて起きていなかったかもしれない。誰かを傷つけようとなんて思わなかったかもしれない。
でも、それでも
傷つける側は傷つけられる側のことなんて考えないのだから。
だから、世界は傷つけあっているのかもしれない。
「緑沙お嬢様。秋の紅江紅葉様の御臨終が近いそうです」
「そんなこと、伝えなくていいわ」
「あ、あと…」
伝えにきた男は息を吸って吐いた。
「鳳凰寺神老様の御臨終も近いそうです」
鳳凰寺神老は緑沙の祖父で現・【四季の神】だ。
つまり、次代の【四季の神】が血族から選ばれる。
緑沙が神老の屋敷に着いた頃には神老は息耐えていた。
今、次の【四季の神】が決まる。
《ねえ、緑沙ちゃん》
ーな、なに!?
《お願い、話だけ聞ける?》
ー黙って!何で私に話しかけてくるの?
《あなたはね、》
ーだからねえってば。話しかけないでよ
《今日から【四季の神】なの》
ー神様なんて無理だよ!
《運命なんだから文句言わないで》
ーあなたは誰?何で私が神様?
《一気にきかないでよ》
ーあなたは、誰なの?
《緑沙ちゃん、私はね》
ーもう、呼ばないでよ。私の名前、呼ばないでよ。
《私はね、天使よ》
ー天使なんているわけない
《それがいるのよ》
ーそんなはずないよっ!私が【四季の神】な訳もないし!
《あなたは新しい【四季の神】なの》
ーだから、私に神様なんて務まんないよ。もう、やめて
《上からの命令よ。それでも抵抗するならあなたの体を乗っ取るわ》
ーじゃあ、これだけはきかせて。何で私が選ばれたの?
《…さあね》
「緑沙が選ばれてしまったか…」
緑沙の父は言った。
* * *
その頃、冬の神・凍宮白城はぼーっとしていた。
花舞櫻が帰った後からずっとぼーっとしている。
「白城、そろそろだ」
「ああ」
冬の国には内通者がいる。そして、動くとしたらあやめが攫われたこの一週間のうちだろう。
「起こるとしたら、何が起こるんだ?」
「よくて籠城戦。悪くて爆破」
「爆破か…可能性はあるな。俺が内通者側だったら爆破して一撃で倒す」
「爆破されたら守れない」
「そりゃあそうだ。お前でも無理だとわかった上でやってくるだろう。それでも……椿…いや櫻と再会するためにここは切り抜ける」
「はっ」
ー椿、椿。妹に…なって、ほしい
心臓の音がうるさい
ーあやめ。今、どこにいる?
最愛の女は
ーあやめ。最後に会ったのは13年前か。
椿じゃなかったのかもしれない
ー小さい頃のあやめしか、俺は知らない
実は
ーそれでも、君を探したい
その従者のほう、だったのかもしれない
まだ見たこともない大人のあやめに胸を馳せる。
ー君は、俺の星なのだから
* * *
葉葉明也。
数十年前、先代春の神・花舞胡春を裏切った男だ。
そんなことは知っていた。
秋の神・紅江紅葉は病のため、床に臥せていた。
そして今日、葉葉明也という男が見舞いに来たのだ。
「初めまして。雪の神、葉葉明也と申します」




