6.アンの義妹
あの事件から早2年。
私も10才になっていました。
今、私は自室で夜空を見ながら、この町に来てからの事を思い返しています。
私はアンの両親の養女として引き取られる事になりました。
孤児院に行く筈だった私を何故と思ったけど、それはアンが説明してくれました。
アンの実家は"ウェイン商会"という名で商売をしています。
王都の大商会とも取引のあるスタの町有数の商家です。
実はコバ村の特産品を買ってくれていたのが、ウェイン商会だったのです。
また、この町を治める評議員の一員でもあり、先の魔物の件を知って私を引き取ってくれることになったそうです。
アンはあっけらかんとそう言いますが、アンが私の事を知ってお義父様に頼んでくれたのだと私は思っています。
アン、お義父様、お義母様も皆優しく接してくれ、生活に不自由はありませんでした。
アンには兄が2人居います。
でも2人共王都の学校に入り寮生活中なので、会ったのは夏季休暇の時くらい。
そのお義兄様の2人も優しく接してくれました。
ただ、2人とも多少言葉がしどろもどろで笑ってしまいます。
アンには普通に話せるのにです。
ディック兄さんは、暫くこの町に居たけど、王都で商売を始めると言って、スタを旅立っていきました。
カールさんから貰ったお金はディック兄さんに渡しました。
驚いていたけど、涙ながらに受け取ってくれました。
王都で成功することを祈っています。
ディック兄さんは、お金の代わりに、森に入れなかった私が知らない村秘伝の採取ポイントを詳しく教えてくれました。
カールさんにも振舞った、お茶の葉にする希少ハーブやトーガラの実なども含んでいます。
もう村は無いし、ひょっとしたらスタの市場に多少でも影響が出るかも知れません。
なにより、その知識が失われてしまうのは悲しい。
ディック兄さんに聞いた、採取ポイントについては少しでも役立て欲しかったのでお義父さんに託しました。
しばらくしたら、あのお茶を飲めるようになって、ちょっと嬉しもあり、寂しくもなりました。
父はあのお茶が本当に好きだった。
このお茶を母も大好きで父はお茶を飲む時、懐かしそうに優しい表情になるのです。
私は、父の話越しでしか母を知りません。
母は父にとても愛されていてきっと幸せだった筈です。
それをどうしても思い出すのです。
その後のミランは言うと、タジンの所に居候しています。
ミランは孤児院に入るのを拒み、警護隊に入るためにタジンさんに居候させてほしいと願い倒したのでした。
その熱意にタジンさんが折れ、居候させて貰えることになったのでした。
更にタジンさんの口利きで、警護隊の雑用として雇っても貰えました。
タジンさん夫妻の間には子供がいません。
だからかミランは夫妻にに可愛がられている様です。
そしてつい先日、正式に養子になることが決まりました。
私としても、とても嬉しいことでした。
私の話に戻すと、私は大抵アン義姉様と一緒にいます。
義姉様なんて呼ぶとアンは怒ってそっぽ向いてしまいますが。
私はアンに、村での生活や幼馴染達の事など、在りし日の皆の話を色々な話をしました。
アンにとっては知らない人達の話なのに、付き合ってくれました。
当然、転生や呪い、聖女の力については話していません。
でも、カールさんとの出会いのエピソードや、みんなの仇をカールさんが取ってくれた話はしてしまいました。
厳密には、根掘り葉掘り事情聴取を受けたといった方が正しいでしょうか。
私が、市場でカールさんのお腹をポカポカ叩いていた事を、何故かアンが知っていたのです。
それで、ここでの生活に慣れて来た頃、アンに追求されたのでした。
「メアルの想い人って黒髪の冒険者さんなんでしょ」
いきなりそう切り出された時、私はアンと2人でお茶を飲んでいました。
いきなり不意討ちを食らった私は、お茶が気管支に入って咳き込んでしましました。
アンはいきなり爆弾を放り込んでくる人だったのです。
それを最初に思い知らされたのがこの質問です。
きっと、いままでは様子見だったのでしょう。
私は、他人の間違いだと誤魔化そうとしました。
必死にポーカーフェイスで接しようと努めましたが、出だしに赤くなってまったので、躱しきれませんでした。
極めつけに私が他人の空似と言張る女の子の髪色を指摘されました。
アンに、私の髪色と背丈が一致する女の子はこの町にいないと言われてしまったのです。
私の髪色はそもそも大変珍しいのでそれが決定打になってしまいました。
ここはアンの私室で他に誰もいません。
話題の転嫁を狙えない状況の上、逃げ場もありません。
私はアンの策略にはまり、アンに勧められるまま扉から遠い側の上座に気にせず座ってしまったのです。
アンはきっとこのタイミングを狙っていたのです。
「まぁ、ステキ! メアルの王子様はカッコイイねぇ。将来はその人につくていくんだー、うっらやましー」
目を輝かせたアンに誂われて恥ずかしかったけど、決して会わせてとは言わないのはアンらしいと思う。
私はアンの言葉を否定しませんでした。
15才になったら私も冒険者になりたいと思っています。
養って貰ったお礼は冒険者として稼いで返したいと思っています。
アンの言葉を否定しないのは、私は確かに<カールさんと一緒に冒険出来たらいいな>と淡い想いも持っているからなのです。
それにしても、あれからカールさんと会っていません。
仇を取ってくれたという事は無事だってことです。
実はカールさんに近況を伝えたくてキノの冒険者ギルドに手紙を出してもいます。
会いに来てとは言いませんが、せめて返事くらいくれてもいいのに。
そういえばカールさん代わりではないけど、あのガキ大将のズルさんはやたらと私に会いに来ます。
アンには「一生の思い出に一回だけデートしてあげたら?」と言われてしまいました。
でもズルさんにも「メアルに振り向いて貰いたいなら、デレデレしてないでもっとシャキっとしな」って言ってるのも知っています。
ズルさんが本当にそう思っているなら申し訳無いでのですが、ズルさんの事はなんとも思っていないのでデートの誘いに応じられません。
ごめんなさいズルさん。
アンは言葉遣いこそキツイけど、とっても優しくて世話焼きさんだと思う。
その世話焼きアンは他人の恋愛感情には敏感なのに、自分へ向けられる好意には鈍感です。
私によく会いにくるのは、ズルさんだけではありません。
ミランもよく私に会いに来ていました。
けれど、それは私がよくアンと一緒にいるからで、ミランの本当の目的はアンです。
ミランは私を出しにしてアンに会いに来ているのです。
それはもう呆れるくらいに、わかり易い態度でした。
恋するミランを見るのは、それはそれで新鮮でした。
ミランも両親を魔物に殺されました。
心に傷を負っていない訳がありません。
きっとアンの気っ風の良さと、太陽のような明るさ救われて、そして恋したのでしょう。
アンとミランの出会いのエピソードもミランから聞いていました。
教えてもらった交換条件で、私もアンの好みとかの教えてあげましたけどね。
アンとミランの出会いも、またアンらしいと思いました。
ミランは力は強いが気が弱く争いを好む性格ではありません。
だから、この町にきて直ぐにガキ大将ズルさんに目をつけられました。
私の時の様に子分に囲まれたミランを助けたのもアンでした。
「ズル、あんた達一回シメなきゃ判らないようだね」
アンはその一言で、蜘蛛の子を散らした様に悪ガキ達を退散させました。
「その一言に痺れてしまったんだ」とはミランの言です。
王子様の窮地に颯爽と現れた勇ましいお姫様。
物語なら普通は逆でしょう。
恋愛にも色々な形があるものなのね、と思ったのは内緒です。
以来、ミランは私に会いに来るふりしてアンにアプローチを重ねています。
ミランがこんなにも情熱的だったなんて意外です。
只、アンは鈍いのでミランの控えめなアプローチでは気付かないでしょう。
「メアルは、ミランにも言い寄られてるのか。モテモテだねぇ。義姉として嬉しいわ」
なんてミランの前で言っていましたから。
人の恋路の手助けは、お節介意外の何者でも無いって思うので私は見守るだけです。
ミラン、道は遠いけど頑張ってね。
その恋が成就しますようにと、愛を司る神【アディーテ】に祈っておきます。
私の祈りが神に届いた事は有りませんが、要は気持ちです。
因みにズルさんには、アンがしっかり釘を刺し、ミランへの嫌がらせは無くなりました。
多分、「ミランはメアルの幼馴染だから下手なことするとメアルに嫌われるよ。あんたなんかよりよっぽどメアルはミランと仲が良いんだからね」とか何とか言ったんだと思います。
ミランは「何かライバル宣言された」と苦笑していました。
ミランにしてみれば正直ズル達に囲まれたところで怖く無かったと思います。
もっと、もっと恐ろしい経験をしたのです。
子分さんたちに囲まれた時、ミランはきっと困惑していただけでしょう。
叩きのめしてタジンさんに迷惑がかからないか、と迷っていたんだと思います。
ミランは争いは好みませんは決して弱くはないのです。
回想から戻って来た私は、窓を閉めベッドに腰を掛けました。
私が貰った部屋は1人で使うには広く、あまり物を置かないので寂しい感じがします。
この部屋一つとっても、良くしてもらっているとわかります。
感謝してもし足りません
私は幸せだと思います。
だから思い返せば、この町で暮らすようになって、あっという間に時が過ぎたように思えました。
それもアンのおかげ。
有難うアン、貴女は私にとっても太陽です。
そして大切なお義姉さん。
明日は一つの節目の日です。
だから少しだけ感傷的になっているのかもしれません。
明日、私は検査を受けなければなりません。
この国では10才になった女の子に聖女の才能の有無を検査することが義務付けられているのです。
もし聖女の才能が在りなら身柄は国の預かりとなります。
年1回、国より検査員と役人が派遣されて行うこの検査は、正式名称を"アマリア王国 聖女適正審査"と言うのですが通称【聖女検査】と呼ばれ、そちらの呼び方が一般的でした。
国の検査とは別に、聖女教会によるスカウトもありますが、聖女教会のスカウトは不定期で対象年齢も12才です。
ですから基本この国に候補者を探しくる事は滅多にありません。
聖女教会は聖女を斡旋しているので、各国とのパイプが強い組織です。
しかしアマリア王国が、聖女教会よりも早い10才で国独自の検査を義務付けているのは、国外に聖女を出さないよう囲い込む為です。
世に6強国と言われる大国だからできる事でした。
アマリアに匹敵する大国で且つ隣国のガレドーヌ帝国でも独自の聖女検査を行っていると聞きます。
只、才能の開花が遅い子もいるので、そういう子は結局聖女教会に持っていかれる事になります。
アマリア王国と聖女教会は昔から仲が悪く、それは全国民も知る事実でした。
独自の聖女検査も、仲が悪いからやっているのか、独自に検査をしているから仲が悪くなったのかは判りませんが、とにかく仲が悪いのです。
【初めの聖女】の出生国であるアマリアに、聖女教会の本部が無いのは、そういった事情があるからでした。
さて私の場合は、検査を受けずともすでに結果が判っています。
聖女の力の本質は神との交信力の強さです。
言い換えれば、外に向かう強い祈りの力。
検査では、その祈りの強さを、検査用の水晶を通じて測るのです。
だけど私の祈りで水晶は光る事はありません。
そして聖女教会のスカウトでも検査方法は同じです。
だから、検査と言っても気負う必要は全くありません。
なのに、今夜は少し胸がザワザワします。
まだ寝たくありません。
少し話がしたいと思って、私はアンの部屋を訪ねました。
「おや、メアルどうしたのさ。また寝れないなら一緒に寝よか」
私が、引き取られて間もない頃、私はよく悪夢にうなされました。
あの夜の光景を何度も夢に見るのです。
私は夜寝れなくなりました。
転生を繰り返し、人の生死を何度も見たし、自身も何度も死を経験したのにです。
しかし私は、私に親しい人の死を間近で見たことが無かったのです。
この手で人を殺した事は有っても、兄弟、家族とも言える人達が目の前で惨殺されるのを見たことが無かったのです。
夢の中で皆が私に助けを求めてきます。
聖女の力を持ち、回復の魔法まで使える私に。
そして責めるのです。
なんで助けてくれなかったのか、魔物を倒してくれなかったのかと。
そんな私の異変に気付いて、助けてくれたのもアンでした。
アンは私と一緒に寝てくれました。
そして私がうなされると私を抱きしめてくれたのです。
アンに背中から抱きしめられて、アンに守られて私は安心して眠れる様になりました。
いつしか悪夢を見ないようになったのです。
「ううん、少しお話したかっただけ。お邪魔していい?」
「お、ガールズトークいいねえ。入って入って」
アンの部屋に入れてもらって、ベッドに腰掛けました。
アンはあんなに姉御肌なのに凄くカワイイものが好きで、部屋はピンク色で溢れています。
でもそんなアンのギャップも私は好きです。
殺風景な私の部屋とは対照的です。
私は白を基調とした落ち着いた感じを好んで、アンには渋いねと言われました。
「アンは将来どうするの?」
そういえば聞いた事が無かったので聞いてみました。
「そうだねえ、親父の仕事を手伝って、キャラバン率るとかいいね。世界中色々な場所を見たいんだよね」
「世界を旅したいのね。とってもステキだわ」
「でしょ。まあメアルの冒険者もそうなんじゃないの?」
「冒険者ギルドって国別で違うギルドだから、国を変えるとランクが一番下になるの。細かいルールが違ったりで大変ってカールさんが言ってたわ。だからこの国の中だけの活動になっちゃうと思うわ」
「そっか、メアルの王子様がそう言ってたか」
都合がいいからカールさんから聞いた事にしているけど、本当は前世での知識でした。
「カールさんは王子様じゃないわ」
「ええーだって、追いかけて冒険者になるんでしょ?」
「放っておけないというか、心配だからです」
「なんじゃそりゃ。カールさんとメアルの関係ってどういう関係なのさ」
「んー、カールさんは単独で魔物を倒せるほど強いけど、生活の方がダメな人なの。放っておくとろくな食事しないだろうし」
「メアルそれはあれだ、押しかけ女房ってやつだ。メアルも世話焼きだったんだねえ」
「そう……なのかな。とにかく気になるの」
「そっか、いいんじゃない。8才上だっけ?」
「7才で出会って、その時冒険者になって間もないと言っていたからそうだと思う」
「私にもそんな王子様が現れないものかねぇ」
「世界を見て回るんでしょう、各地にいっぱいいるわ」
「お、各国に一人づつか、逆ハーレムもいいね」
「うふふ」
笑った私に、アンが優しい目をした。
やはり私の不安に気付いてる。
「アンには敵わないわ」
「そりゃ泣き虫の妹を持つ姉だからね」
「もう誂うんだから」
「あはは、でも茶化すくらいがいいんでしょ。明日が不安なんだよね」
「うん……明日検査受けても何もないってわかっているけど」
「けど不安なんだね」
「私に祈りの力が無いのは判っているわ。神の声が聞こえたことなんて無いもの。でもザワザワするの」
「久しぶりに一緒に寝よか」
「うん」
私は久しぶりにアンに抱きしめられて寝ました。
アンに抱きしめられて、いつの間にか私は眠ってしまいました。
◇◇◇◇◇
次の日、私は聖女検査を受けるべく義父に連れられて教会に来ていました。
アンも見守りに来てくれました。
アマリア王国は古来より【聖王国】とも呼ばれています。
それは、この国の王家が 聖・光を司る神【セレイブ】を信仰していて、光の教えを説く【セレイブ正教】が国教となっているからです。
とはいえ、信仰の自由は認められているので、セレイブへの信仰を強要されることはありませんが。
仮にもしそんな事をしたら、他の神の加護を受けれなくなってしまうでしょう。
魔道具にしろ、日々の生活にしろ、色々な神の加護で成り立っているので大問題に発展します。
だから、この町でも神を祀る神殿が小規模ながら複数あったりするのです。
私が連れられてきた教会はセレイブ正教の教会でした。
国主導で行う検査なので当然と言えば当然です。
神殿の中には既に検査員の神官さんと監督員の役人さんが居ました。
今年検査を受けるのは私を含め7人。
皆親に連れられて、不安と期待が混ざった様な表情を浮かべていました。
私はアン以外の女の子と仲良くなる機会を持たなかったので、仲のいい子は一人もいません。
余り外出はせず、自分から積極的に話しかけないので当然だったのですが。
皆、緊張していて話をしている子は居ませんでした。
神官さんの方をじっと見つめているだけです。
正確には、神官さんの前の台に置かれた水晶ぽい玉にでしょうか。
あの玉が今後の人生を左右するのですから、熱い視線を送ってしまうのも当然です。
あの玉に向かって祈りを捧げて光れば素質在りと見なされて、国の保護の元で聖女教育に入ります。
そこで実際に聖女になれる者はさらに一握りとも言われ、毎年5人聖女に成れば豊作と言われています。
今日の検査は第一関門といった所でしょうか。
聖女になりたい子達にとって、今日は自分の人生を左右する一大イベントなのです。
聖女になりたくないなら、祈るふりをすればいいのです。
敢えて手抜きできる検査方法を取るのは、聖女としての人生を強要しない為。
聖女となれば、高位貴族並に遇されますが、戦いに身を置く人生になります。
だから、この検査でその気があるのか振るいに掛けるのです。
他に夢がある子達は祈るふりをします。
そして検査官がそれを責める事は絶対にしません。
個人的には10才の女の子に覚悟を問うのはどうかと思いますが。
でも、たいていの女の子は聖女に憧れています。
いえ、聖女に憧れるのではないでしょうか。
どの国も聖女を求めていて、聖女の待遇は裕福な貴族並にとてもいいのです。
聖女の所属数で国の軍事力バランスが変わってしまいます。
国家にとって、聖女の保有数はとても重要な要素でした。
因みにアマリアは国力があり、聖女の待遇も他国より良いのです。
アマリアに匹敵する待遇を用意しているのは帝国くらいでしょう。
聖女になれば、社交界デビューも許されますし、下級貴族より高い地位も与えられます。
アマリアでは階級は伯爵位と同格と破格な待遇なのです。
また聖女を娶る事を望む貴族も多く、上手くいけば貴族に見初められる事も珍しくありません。
もし、近衛騎士のパートナーの聖女に成れれば最高の栄誉も手に入るのです。
だからそんな夢物語に憧れ、聖女という手段に賭ける女の子は実に多いのです。
10才前の女の子が(主にセレイブ教会ですが)、教会で祈りを捧げている姿はよく見る光景なのでした。
(私は一度も教会で祈った事はありません)
また、聖女に嫌がらせするような貴族令嬢は居ませんした。
それは聖女は神の力を顕現できる恐ろしい力を持つものだから。
怖れの対象でもあるのです。
聖女を害したら公爵家ですら取り潰しになるというのが共通認識ですが、実例は知る限りありません。
ここにいる子達は皆聖女になりたいんだろうなと思いました。
皆、水晶?を見つめる眼差しは真剣です。
そんな事を思いながら私も見つめていました。
私が着いたことで、聖女検査が始まりました。
先着順で一人づつ順番に祈りを捧げます。
来るのが最後だった私の順は一番最後です。
とは言え、先に祈り終わっても全員が終わるまでは帰れませんので、待つことには変わりありません。
1人目、2人目は反応せず、3人目の子の時、玉が光りました。
それはとても眩い光でした。
なかなか強い祈りの力だと思います。
「セレイブ様より使徒を授かりました」
祈りが終わった時、その子はそう言いました。
その言葉に教会は騒然となりました。
それはそうです。
この場で神との契約が成されるなんて、私も聞いたことがありません。
通常では聖女について学び、祈りの力を強める訓練を経て、契約の儀に臨んで契約に至るものなのです。
この場で契約が結んだならば、この子は聖女への道が確約されたも同然です。
しかもかなり強い力を持っていそうです。
等級は1級か、或いはネームドを授けられた特級かもしれません。
更に言えばセレイブはこの国の国教。
この国の最精鋭である近衛3軍の中でもエリート中のエリート騎士団【白輝の聖盾騎士団】に配属される可能性もあります。
白輝の聖盾騎士団の大騎士はセレイブの使徒限定と聞きますから。
しかし、高ランクの聖女の誕生に立ち会うとは思いませんでした。
この国が聖女教会と仲が悪いといえど、聖女の格付けだけは聖女教会と同じ基準にしているようです。
力の差を測る目安として物差しのメモリを同じにする為です。
ただし、自国の聖女の実力を秘密にするために聖女教会の格付け認定を受けてはいないようです。
監督官さん指示の元、配下の役人さん女の子を別室に連れて行行きました。
授かった使徒の名前を確認するのでしょう。
新聖女さんが別室に案内されて、場が落ち着くと検査が再開されました。
4番、5番目の子は光りませんでした。
次の6番目の子の時、光りました。
3番の子程の眩しくは無く、光の色は黄緑でした。
あの黄緑は恐らく 風を司る女神【クテレ】です。
なかなか珍しいですね。この国ではセレイブが最も人気が高く、次いで戦の神【ラーファル】です。
更に言えばラーファルの聖女はこの世界で数がもっと多くいます。
戦闘向きの加護や能力が多いので、生き残る為にラーファルを信仰する女の子が多いのも道理です。
信仰の順番が可笑しい気もしますが。
クテレは六強国【モス国】が国教として強く信仰していますがこの国ではあまり重用されないかも知れませんね。
この子は光っただけらしく、祈りが終わっても別室に連れて行かれる事はありませんでした。
そしてついに私の番がやってきました。
私はまともに祈っても光らない事を知っているので、祈るふりをしました。
表面上は必死に祈るふりをしています。
祈っているふりは大変でした。
集中している様に見せなければいけないし、何といっても時間を持て余します。
何時まで続くの?と、ずっと焦れていましたが、神官さんの「もういいですよ」のお言葉を聞いて内心ホッとしました。
無事、私は検査で資質なしと診断されました。
アンを見ると目が合います。
アンは微笑んでくれたので私も微笑み返します。
これで全員の検査が終わったのですが、3番目の子は帰ってきませんでした。
監督員さんが6番目の子は残るようにと指示をした上で、検査の終了を宣言しました。
この宣言が出た以上、私がこの国で聖女になる事はありません。
これも法で定められたルールです。
検査から開放され、私は見守ってくれていたお義父様とアンの元に向いました。
その時、異変が起きました。
その光景はスローモーションに見えました。
あの時と同じです。
見知らぬ男が私を後ろから跳ね除け、お義父様に向かって走っていきます。
私は倒れながらも、その男の手にナイフがあるのが見えました。
御父様もアンもその男に気付き……
「止めて!」
私の叫びは男に届きません。
男はナイフをお腹の横で構え、お義父様を刺殺しようとしています。
お義父様は反応出来ずにいます。
しかしお義父様と男が重なる瞬間、間に割り込む者がいました。
「アン、ダメー!」
私の叫びはまたもアンに届きません。
私が床に叩きつけられたまさにその時、3人が重なったのが見えました。
男が後ろに飛のきました。
私の目に写っているのは、胸の下辺りに深々とナイフの刺さったアン。
私の目の前が真っ白に。
「いやぁぁぁぁぁぁ」
ゆっくり膝をつくアン。
<死んじゃやだ、死んじゃやだ、死んじゃやだ!助けなきゃ、助けなきゃ、助けなきゃ、助けなきゃ!>
この時、カチリと私の中でスイッチが入りました。
今、私にとって世界はスローモーションです
先程の動揺が嘘のように消え、冷静な自分がいます。
私は迷いませんでした。
アンを助ける以上の優先事項なんてありませんでした。
私は迷わなったから、力を使いました。
私の中から力が湧き上がります。
私は急ぎ立ち上がり、崩れ落ちそうになるアンを支えました。
アンに話しかけます。
「アン、しっかり、今治すわ、必ず助けるから、今治すからだからしっかり気を持って、お姉ちゃん!」
「メアル………アンタ光って……みえるよ」
<わかっているわ>
でもそんな事はどうでもいいのです。
アンを助けられるならそれでいい。
私はアンに刺さったナイフを握り、ナイフに力を流します。
私の力を流したナイフは、私と同じく光り出します。
その光をナイフを通じてアンの中に流し込ませます。
<これでいいわ。ゆっくりよ、位置は心臓の近くだけど大丈夫。痛みは麻痺出来てる>
私はゆっくりナイフを抜いていきます。
私がナイフを抜き終わった時、アンには刺し傷が全く残っていません。
完全な治癒を施しました。
私は完全に治癒できた事に安堵すると、力の使用を止めました。
「アン、もう大丈夫よ」
「メアル……私本当に?」
「ええ、もう大丈夫。保証するわ」
アンはゆっくりと立ち上がってナイフが刺さっていたはずの場所を確認しだしました。
触ったり、体のあちらこちらを動かしたりジャンプしたり。
服に穴が開いた以外はもう大丈夫です。
アンは異常が無いこと事を確認すると床に落ちたナイフを拾って見つめました。
アンの手には血の一滴もついていないナイフが握られています。
「すごい」
アンがポツリと呟きました。
私は、ここで凶行を働いた男が気になって振り返りました。
教会出口付近で男は取り押さえられています。
「メアル今のは」
お義父様がようやく発した言葉は私の力に対する疑問でした。
色々起こりすぎて、直近の疑問が口から出てきたみたいです。
「えっと……わからないの夢中だったから」
私はそうとしか答えられないので、そう答えました。
精霊との契約か、神との契約なしに治癒魔法を使うことは出来ないとされています。
魔道士の魔法で治癒魔法は存在しないのです。
私は唯一の例外ですが、力の源が私自身わからないので何の力なのか答えようがありませんでした。
「そうか、ありがとうメアル。おかげでアンを失わずに済んだよ」
お義父様はそれの以上の追求はしないでくれました。
でも監督官さんの方はそうはいかない……ですよね。
アンを、義姉を絶対に死なせたくありませんでした。
だから後悔はありません。
私は監督官さんの方に向き直ります。
監督官さんの告げた言葉は予想通りでした。
「メアルさん。聖女候補としてではありませんが、貴女は王宮で保護します」
そう言われては、私達に拒否する術はありませんでした。
◇◇◇◇◇
数日後、私は王都へ向かう護送馬車の中にいました。
私は聖女検査の日、あの場所でアンやお義父様と引き離されそうになりましたが、絶対に逃げない事を条件になんとか1日だけ待って貰ったのでした。
アンの刺した男は警護隊を通じて、国教砦の兵士さんに引き渡されたと聞きました。
何でも商売上のトラブルでお義父様に恨みがあったそうです。
普段は護衛がいるお義父様も、聖女検査の場では関係者以外立ち入り禁止の為につれて入れませんでした。
関係者以外立ち入り禁止なのは、重要な意味があってのことでは無く、見世物ではないからという理由からでした。
男はそれを利用して、関係者を装いお義父様を刺殺しようとしたのです。
実際、関係者になり済ませたのだからチェックは杜撰といってもいいでしょう。
聖女検査で判るのは適正の有無だけなので、情報統制もそこまで厳重にしていられないのかも知れません。
私は2年間養って貰いました。
恩に対するお礼をお義父様、お義母様に伝え、アンと最後の夜を一緒に過ごしました。
その夜はアンとは色々話をしました。
私は、離れ離れになっても生涯アンは私の姉だと、素直な気持ちをアンに伝えました。
アンも私を生涯妹だと言ってくれました。
こうして私は2年間のスタでの生活に別れを告げる事になったのです。
来た時と同じ、魔道具と短刀を持って。
とカッコよく言ってみましたが、短刀は鞘から抜かない様に封印魔法を施されてしまいました。
この地方で発掘されたの聖女候補達は、先ずは地方時キノに集められまとめて移動するとの事でした。
警備は厳重で聖女候補と判るとその日から騎士が必ず2名が護衛に付けられます。
他国からの略奪を恐れてなのか、流石に検査の時と違って移動は厳重な警備体制で行われます。
それは、騎士団の仕事らしいです。
らしいと言っているのは、私の場合は法によって既に聖女候補ではないと決定した身なので、別に輸送されていたのです。
私は今、監督官の役人さん達と一緒の馬車で一足先に王都に向かっているのです。
ところで私ってどういう立場になるのでしょうか。
本気で祈ってみても私に反応する神はいません。
なのに治癒魔法を使える特異な存在です。
この世界に治癒魔法を使える者少ないので、私は貴重な存在の一人という事になります。
とは言え、保護される程だろうか?
私の治癒魔法はかなり上位の力という自覚があります。
それをアンの治療で惜しげもなく見せてしまいました。
それで、回復師として保護されたのであればいいのですが。
王都が見えてきました。
王都に中心に高くそびえる王城が見えます。
王都の外周を覆う城壁は、記憶のものより覆うエリアが広大になっていました。
400年で王都はかなり広くなっていました。
しかし遠目に見える王城は、記憶にあるモノと同じでした。
かつて人類最後の希望の砦と言われたこの地が私の出発点。
アマリア王国 王都【リリアーノ】
私は此処に帰って来たのです。
続く




