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騎士と聖女の物語  作者: 丁太郎
出会い編
7/36

7.アマリア王女

 天蓋付きのとても豪華で大きなベッド。

 アマリアの王宮の貴賓室でしょうか。

 ここに案内されて早3日。

 私は一級の調度品に溢れたこの豪華な部屋で軟禁状態でした。

 食事もこの部屋に運ばれてきます。

 豪華で味は美味しいのですが、メイドさんに後ろで見られているので気を遣います。

 私は町娘なのでマナーは気にしない様にしました。

 この生活で困る事が2つあります。

 一つ目は、この部屋に無い設備を使用したい時。

 羞恥に耐え、申し出なければなりません。

 そして、メイドさんの付添の元でその部屋に向かわねばなりません。

 さすがにその部屋にまで一緒に入ってくる事は無いですが。

 いくら付添が女性とはいえ、恥ずかしいものは恥ずかしいのです。

 まだ知り合って3日、メイドさんとは最低限のやり取りしかしないので、はっきりいえば他人様でした。


 困った事のニつ目は暇という事。

 ()()()()()()()以外で部屋より出ることを禁止されています。

 勝手に出ていかない様、扉の向こうにメイドさんが常に控えています。

 もし何らかの方法で脱出できたとして、部屋に居ないことが見つかれば大騒ぎになりますし、その時担当したメイドさんの責任なるでしょう。 

 私の行為で誰かが罰せられるのは控えなければなりません。

 私も罰を受けることになりかねませんし。

 そして嫌なことに、定期的にメイドさんがご機嫌伺いしてくるので、抜け出せば直ぐに発見されてしまうのです。


 暇なのですが、やれる事は多くはありません。

 本でもあればいいのですが、あいにく全くありません。

 私の素性を詳しく調べられていた場合、元は村娘だった事と知られている事になります。

 下手に字が読める事を知らせるのは怪しまれるかも知れないと思い、メイドさんに本を求めることはしませんでした。

 スタの町で暮らした2年で覚えたと言ってもいいのでしょうが、ここは慎重に行くことにしたのでした。


 なので、私の出来る事の一つ目が自己鍛錬です。

 といっても部屋を荒らせないので、瞑想くらいでしょうか。

 下手に聖女の力など使っているときにメイドさんが入ってこようものなら……考えないようにしましょう。


 出来る事のニつ目は思索。

 といってもこれは意図せずとも、気になるのでどうしてもしてしまいます。

 題材は今の高待遇で軟禁されている理由や、アンやカールさんの事。 

 この3日間、何度も考え、想像しました。

 そして当たり前ですが答えが出る筈もありません。

 今日も既に何回か思いにふけっています。


 最後が窓から外を眺める事。

 正直これが一番暇が潰せるかもしれません。

 この部屋の窓から見えるのは王宮の庭園でした。

 その遠くは王城の外城壁でその向こうにある町並は外城壁に遮られ見ることは叶いません。

 庭園は綺麗ですが長時間は眺めていられません。

 ですが空と雲は何時までも眺めていられます。

 結果、私は一日の大半を空や雲、星や月を眺めることに費やしました。


 それから更に3日、今日も窓から外の景色を眺めました。

 今日は庭園を誰かが歩いています。

 女性が2人に侍女と思われる数名と護衛の騎士も付き従っていました。

 となれば、この2人は貴人でしょう。

 騎士や侍女の身長との比較から、貴人の2人は成人女性より背が低く、内一人は私と同じ年くらいと思われます。

 思い当たるのは、この国の第一王女様と第二王女様。

 であれば、身分の低い私がじろじろ見るのは不敬でしょう。

 

 私は窓から離れる事にしました。  

 その瞬間、第二王女が振り返り、目が合った気がしました。

 流石に距離があるので、私は見られたかもしれませんが目が合ったというのは自意識過剰でしょう。

 私は窓から少し離れ、空の景色を眺める事にしました。


 そんな時、背後で扉が開く音が聞こえました。

 私が振り向くと、部屋に入ってきたのは知らない男性でした。

 身なりは、給仕さんというよりも執事さんという感じがしました。

 若く有能な感じの方ですが、何より顔立ちが丹精で整っていました。

 さて、ここに来てから初めてのパターンです。

 何処かに連れて行かれるようですね。


「メアル様、長らくお待たせしまして申し訳ございませんでした。これより部屋を移動します。私についてきて下さい」


 予想通りの言葉に「はい」と返し、執事さんの案内で移動しました。


 この城は400年前に過ごした場所。

 城の地図は全て覚えていると思っていたのですが、移動中の現在位置が全くわかりませんでした。

 長い年月で忘れてしまったようで、軽くショックでした。


 そうして案内された部屋は、先程よりは狭い部屋でした。


「今日はこの部屋でお過ごし頂きます」


「わかりました。有難うございます」


「何かございましたら、ベルを鳴らして下さい。明朝は早めにお伺いしますのでお早めにお休み下さい。それでは失礼いたします」


 執事さんは綺麗な一礼をして退出しました。

 部屋に一人残された私は、取り敢えず部屋を見渡しました。

 部屋は狭くなり、ベッドや調度品の質は明らかに落ちています。

 とは言え、これでも私には上等過ぎて落ち着きません。

 貴人だった人生も経験しているのですが、今生での生活に体が馴染んでいるのでしょう。

 部屋には、出入り口の扉の他に扉が2ヶ所あります。

 開けようとしましたが、どちらも鍵が掛かっていました。

 少し、部屋を確認しましたが時間を潰せそうな物はありません。


 今までは仮に貴賓室に留められていたのでしょう。

 では、この部屋はどういう意図なのでしょう。

 先程執事さんは 『今日はこの部屋で』と言いました。

 であれば、臨時の部屋と思った方がいいでしょうか。

 一体私をどうするつもりなのか?

 取り敢えず、明日の朝が早い理由はなんとなくですが、わかります。

 明日の結果次第では、この部屋の主になるのかもしれません。

 できれば、解放して欲しいところですが、それは敵わぬ望みでしょう。 

 明日行われるだろうイベントを思うと気が重く、自然と、ため息が出てしまいました。

 気分転換に窓から見える景気を確認しましたが、ここから見えるのは広場だけでした。

 広場には木一本植えられておらず、人も誰も居ません。

 他は特にめぼしいものも無く、城壁が見えるだけです。

 城壁が近く、部屋の階が先程より下層の為、窓から見える空は狭くなってしまいました。


 それでも空が見えるなら、文句はありません。

 空を見上げ雲を眺めながら、いろいろ考えてしまいます。


 もしここで飼い殺される事になったとしても悔いはありません。

 もしあの時アンを救わなかったとして、私は結局はあの家にいることは出来なくなったでしょう。

 私自身が耐えられなかった筈です。

 助ける力があるのに保身に走って、私を救ってくれた大切な人を見捨てた事になるのです。

 見捨てたあとで間違いなく後悔します。

 

 だから、アンを助けられて嬉しかったし、後悔もありません。

 アン達と一緒に居られなくなる結果も受け入れられました。

 

 それにしても此処まで連れてきてどうしたいのか。

 といっても回復魔法しか取り柄の無い私の使い道なんて、宮廷治療師にする以外にはないでしょうけど。

 私はこの国で聖女になる資格を法的に失ったので、それくらいしか思い浮かびません。

 流石に何故、契約なしに回復魔法を使えるのか研究対象として人体実験されるとかは無いと思います……思いたいです。


<カールさん助けて……>


 人体実験とか思った時、あの人の顔が思い浮かび、助けてほしいと思ってしまいました。

 ここから連れ出して欲しい。

 一緒に連れて行って欲しい。

 でも、そんな事になったらカールさんは誘拐犯としてこの国に居られなくなってしまいます。

 そもそもカールさんは今私が此処に居ることも知らない筈です。

 

<カールさんと一緒に冒険したかったな>

 

 漠然と夢見ていた冒険者になる道は、閉ざされてしまいました。

 カールさんから借りた魔道具も指輪も宝の持ち腐れになりそうです。

 今となっては、これらが私とカールさんを繋ぐ接点。

 お借りしているだけなので、返さなければなりません。

 だから私はカールさんに会う必要があります。

 それが、今の私の拠り所なのです。

 でも、会って返してしまったら、そうしたらその後は……

 カールさん……会いたい……でも会いたくないです。



◇◇◇◇◇



 翌朝。

 ノックの音が聞こえた時、私は既に起きていて、自分で出来る身支度は終えて居ました。

 扉の向こうにから複数の気配を感じています。

 暫く待つと扉が開き、昨日の執事さんが入ってきました。

 他の方々は廊下で待機しているようです。


「お早う御座います。メアル様。よくお休みになられましたか」


「お早うございます。おかげさまでスッキリ目覚めました」


 執事さんに挨拶に返すと、執事さんは直ぐに要件を伝えてきました。


「今日は、さるお方が貴女のお話をお聞きしたいと所望しています。そのために先ずは支度をさせて頂きます」


 私を改めて審査するということでしょう。

 そして、審査する"さる方"の身分が高いから、今のままでは会わせられないという事ですか。

 何にせよ私に拒否権は無いでしょうから返事も一つです。


「宜しくお願いします」


 私が返事をした直後、執事さんは手を2回打ち鳴らしました。


「初めての経験でしょうが、係の者が全て行いますので全て身を任せていただければ大丈夫です」


 執事さんの言葉と共に、メイドさん達が色々な器具をもって入ってきました。

 

「では、終わった頃に伺います」


 執事さんが一礼して出て行きました。



 

 全ての身だしなみが終えた時、盛大にため息をつきました。

 疲れた、の一言です。

 昨日鍵の掛かっていた扉の向こうは浴室と衣装室だった様で、私は服を脱がされると浴室に連れていかれました。

 全身を磨かれて、髪の手入れからセット、ドレスの着付けまで全てメイドさん達がやってくれました。

 私が王女だった時は、時代が時代だったので自分の事は全て自分でやっていたので時代が変わったのねと思ってしまいました。


 メイドさん達は自分たちの仕事に満足したのか、誇らしげな表情をしています。

 中にはうっとりとため息をついている方もいます。

 そして、まるで見ていたかの様なタイミングで執事さんが入ってきました。


「失礼します。準備ができたようですね」


 執事さんと目が会い、そして執事さんが黙ってしまいました。

 どうしたのでしょうか。

 私は黙って待ちます。


「失礼……それでは、陛下にお会い頂きますのでご案内致します」


<え? 陛下?>


 耳を疑いました。

 同時に、であれば此処まで身支度を整えさせられるのも判ります。

 準備や陛下の都合で6日も掛かったのでしょう。

 回復魔法が使えることがこんなに大事になるなんて。

 一町娘が女王陛下に謁見……急に緊張してきました。

 貴人だったのは昔、現在の礼儀作法には詳しありません。

 礼儀正しくなんて出来るわけがないのです。


「緊張なさらずとも大丈夫です。メアル様の礼儀が問われる事ははありませんよ」


 移動中の廊下で、私の緊張する様子に気付いたのでしょう。

 執事さんは立ち止まると優しく話してくれました。

 

「はい」


「陛下の質問に素直に答えていただければ大丈夫です」


 執事さんの言われる通りに素直に答えられれば苦労の無いことか。

 とは言え、今の所バレている能力は回復魔法だけです。

 であれば "わからないけど何故か使える"で 押し切るのみでしょう。

 実際、私も契約していないのに何故ルアメットゥーナの力を使えるのか判らないのですから。

 ただ、その名をここで出す気はありません。

 私の持つルアメットゥーナの力に付随する能力は、回復魔法と光属性魔法、そして強い状態異常への耐性です。

 嘘はつかずに全てを語らないだけ、それでいきましょう。


 やがて、ある扉の前に辿り着きました。

 扉からして豪華です。

 扉の向こうに女王陛下がいるに違いありません。


 執事さんが扉を4回ノックします。

 暫く待っていると、中から男性が出てきました。

 女王陛下の補佐官でしょうか。

 

「陛下がお会いになられます」


 その人は、私達を確認すると主の意志を確認すること無く私達を中に招きました。

 既に私達が来る事が決まっているからでしょう。 


 扉の向こうをチラ見した所、そこは執務室の様でした。

 流石に謁見の間ではありません。

 多少の無礼が許されるのは、執務室で会うからということでしょう。


 執事さんが一礼して、入室したので、私もそれに習いました。

 執事さんは入り口で立ち止まります。 

 部屋の奥のデスクがあり、美しい女性が書類に目を通しています。

 この方が陛下で間違いなさそうです。

 暫く、執事さんと黙っていると、陛下は書類を置いてこちらに視線を移しました。


「クロードご苦労様でした」


「はは、勿体なきお言葉」

 

 執事さんの名前がクロードと判明しました。


「クロードは下がりなさい。貴女ははこちらに」


 クロードさんは一礼した後、退出しました。

 私は部屋の中央に進み、頭を下げました。

 頭を下げた姿勢のままで暫く待ちます。


「頭をお上げなさい」


 私は頭を上げると陛下と目が合いました。

 先程、チラ見で美しい人と思いましたが、改めて美しいと思いました。

 私がこの国の王女アリーシャだった頃、この国の頂点は男性でした。

 しかし現在のアマリア王国は女王制。

 そして今、目の前にいる女性が第29代女王 ルーサミー・ウェッティワイプ・アマリアその人でした。


 私は陛下の声を待ちます。

 発言を許されていませんし、私の方に用がないからです。

 私は連れてこられただけです。

 そんな私の様子を見ている陛下の表情は厳しい感じです。


「貴女の発言を許します。貴女の名は?」


「発言のご許可有難うございます。私の名はメアルと申します」


「メアルは礼儀正しい子ですね」


 かつて人生の知識からの礼儀作法について引っ張り出して対応していますが、今の所は問題無いようです。

 昔とさほど変わっていないのでしょうか。


「有難うございます」


 余計な事は言わずに感謝だけ述べます。


「貴女は今日より私の養女となります」


 流石に、その展開を考えておらず、驚きました。

 補佐官の方も驚いている様でした。

 連れてこられた時と同じく私に拒否権はありません。

 返事を出来ずにいると陛下は続けて私に話しかけてきました。


「貴女の生い立ちは調べてあります。養父母にも今まで掛かった養育費以上の十分な恩賞をとらせましょう」


 アン達を人質に取られていると考えていいのでしょうね。

 どちらにしろ選択肢が無いのですから、それなら義父達が恩賞を貰えたほうがいいでしょう。

 勝手に私の人生を決められる理不尽に対する怒りはありませんんでした。

 何度も転生を繰り返しましたが、私に呪いが付きまとう以上、思い通りの人生など夢のまた夢なのです。


「有難う御座います。お願い致します」


「では貴女の母は今日より私です。貴女は今日より、そうですね……メアルシア・アマリアと名乗りなさい」


「はい 陛下」


「宜しい、では下がりなさい」


 私は一礼して退出しました。

 その後は、廊下で待っていた執事のクロードさんに連れられ、昨日から居た部屋に戻ってきました。

 皆、今回の決定は晴天の霹靂らしく、今後の対応がまだ未定なので暫くはこの部屋で待機と言われました。


 一人になった所で、考えます。

 私は回復魔法の使い手だから王宮に保護された筈です。

 それを、そちらの質問は全く無しで、養女にするといい出しました。

 家臣の方々も驚いて居ました。

 しかし、陛下の狙いを私はなんとなくわかってしまいました。


 アマリア王国の持つ秘密。


 おそらくはその秘密を守る為に王族を他家に出す事が出来ないのです。

 私はアリーシャだった時、多くの魔道具の開発も行いました。

 それらの開発は一人の天才魔道士と共同で行ったのですが、その技術を門外不出にしているはずです。

 そしてその技術でアマリア王国は大陸有数の経済力と軍事力を持つ強国になり得ているのです。

 では、外交カードとして他国との婚姻をどうするのか?

 アマリア王家はスパイを恐れてか、他国から伴侶を迎える気は無ありません。

 国内の信用出来る者を伴侶に迎える事で血脈を保っている筈です。

 現女王の夫も元近衛騎士団長です。

 しかし、それでは他国の王室との結びつきが弱くなるので、養子、養女を取って育て、その子らで他国と婚姻関係を結ぶのでしょう。

 養子、養女になる条件は私にはわかりません。

 ただし、私に限れば、私の髪と瞳の色が始めの聖女アリーシャと同じであると、女王には分かった筈です。

 つまり陛下は、私の持つ回復の力よりも王女にする方が国益になると判断したという事です。

 私はこれより、王女のとしての教育を受け、いずれは他国、おそらくは6強国の1つ、【モス国】辺りに嫁がされる事になるでしょう。

 隣国、ガレドーヌ帝国は戦争により国土拡大を続ける野心多き国。

 その帝国を牽制したいアマリア王国としては、帝国との関係強化を務めるよりも、帝国に近い位置にあるモス国と関係を強化したい筈なのです。



 次の日から私の王女教育が始まりました。

 アンに手紙を書くことすら禁止され、外界との交流は一切出来ない隔離された生活になりました。

 

 この国には 婚姻という外交カードとしての王女が私の他に2人いるそうです。

 会った事はありません。

 会わせる必要が無いからでしょう。

 そして、陛下には陛下の血を引く王女が2人いますが、その2人とも会った事は当然ながらありません。

 私は養女で、外交の為の形だけの王女。

 あくまで王女という立場の家臣と同じ扱いなのです。

 私に宛がわれたこの部屋も、最低限王女として暮らす為の所作、教養を身につける為の訓練部屋なのです。

 だから、そもそも王家の人々と生活エリアと養女王女の生活エリアは違っていて、接点がありませんでした。

 専属の侍女も居ないし、世話をしてくれるメイドも定期的に変わりました。

 私は、かつて貴人だった経験もあるので、順調に教育をこなしていきました。

 いつしか、日々の教育に追われて、私の大切な人々の事を思い出さなくなっていきました。



 そして、月日は流れて行きました。



◇◇◇◇◇



 私は15になっていました。

 既に諦めていますが、冒険者なれる年齢です。

 私は、5年ぶりに陛下に呼び出されました。


「久しぶりですねメアルシア。貴女は成績優秀と聞いています」


「有難う御座います。これも陛下のおかげで御座います」


 私は頭を下げながら白々しい返事をしました。

 この陛下の執務室も5年ぶりです。

 ただし今日は陛下以外に2人の女性がいました。

 おそらく陛下の実子の王女たちです。


「頭をお上げなさい。貴女には近日中に王家主催の舞踏会に出てもらいます。そこで貴女のお披露目をします」


 この時が来た、と思いました。

 陛下は話を続けます。 


「この舞踏会には他国からの来賓を招きます。貴女を見たらきっと后に迎えたいという申込みが殺到するでしょう」


 私の心の奥底で怒りがこみ上げて来るのを必死に堪えました。

 わかっていた事ですし、諦めていたのに、私の中に残る未練が怒りとなって燃え上がるのです。

 だから、つい言葉を発してしまいました。


「恐れながら、発言をお許し下さい」


「控えなさい」


 私の言葉に怒ったのは陛下の隣にいる女性。

 第一王女 ミリンダ・キリアス・アマリア 18才。

 彼女は騎士として一流の剣技を持つと聞いています。

 なるほど気性が激しい性格のようですね。


「構いません。発言を許します」


「陛下!」


「異議は認めません」


「……はい」


 母娘間の話がついたので発言することにします。

 

「陛下に置かれましては、既に私の嫁ぎ先をお決めになられているのではありませんか?」


「……どうしてそう思うのか知りませんが……当たりです。相手の了承はありませんが」


 陛下は肯定しました。

 

「ミリンダ、貴女ならメアルシアをどの国に嫁がせますか?」


 陛下は私にではなく、第一王女に質問します。

 この機に政治教室を開くようです。


「私なら帝国皇帝です」


「帝国にした理由は何故です?」


「はい、現在即位して3年、国内の混乱を収めて間も無く、現在婚約者もおりません。帝国の内情、動向を知るためにもこの婚姻は有意義な筈です」


「なる程。サーランはどう思いますか?」


「…………」


 指名されたもう一人の娘、第2王女のサーラン・ユニシス・アマリアは私と同じ15才。

 彼女は黙っていました。

 というか、今の話を聞いていたのでしょうか?

 先程からじっと私を見つめるその顔色は大変に悪いです。

 その瞬間、私は理解し、この出会いは偶然にしてはあまりに出来すぎていると思いました。

 サーランは似ています。

 あまりにそっくりでした。

 そっくりなのでは無く、きっと本人です。




 サーランは転生者。

 かつて、最初の聖女アリーシャ・メラニス・アマリアの双子の妹だった者。

 王女ナリータ・ユニシス・アマリア……姉だった私を殺した者に違いありません。


 まさか、こんな所で会うことになるとは思いませんでした。

 それは向こうも同じことでしょう。

 彼女が私を殺した場所、ここアマリア王宮で再会することになるとは、これも運命なのでしょうか。

 彼女は何故私を殺したのか、多分彼女自身分かっていないと思います。

 彼女が私を殺したのは、私に掛けられた呪い故です。

 彼女には私に対する嫉妬心があった。

 その嫉妬心は大きなものではありませんでしたが、呪いの影響で増大させられたのです。

 だから、彼女はむしろ被害者だと言えるでしょう。

 正直、私はナリーを恨んでいませんし、逆に申し訳ないと思っています。

 彼女のその後の人生に重荷を背負わせてしまったのですから。

 

 王女教育の中でこの国の歴史を改めて学びました。

 女王になった、アリーは在位半年で()()しました。

 ナリーが後を次いで王位に付き、王国繁栄の基礎を作ったのです。

 彼女は姉アリーシャを神格化しました。

 この国の王位は聖女の力を持つ者のみとしたのも彼女でした。

 ナリーもまたセレイブの使徒を顕現できる大聖女だったのです。

 ナリーは、聖女として魔物の脅威を打払う一方でアリーの残した技術を独占し王国を強国に導いていったのです。

 

 そこで疑問に思い調べたのですが、男性の王族は臣籍降下するか、他国へ婿入りしたりします。

 民間人になった変わり者も居た様です。

 王家の秘密は当然伝えられず、居住スペースも隔離された場所になるようです。

 アマリア王族ははっきり言えば、ナリーの代以降、女尊男卑になったのです。


 今の王家はナリーの血を引いています。

 ナリーは緑がかった銀髪に赤い瞳。

 王女サーランと同じです。

(因みに陛下と第一王女はブロンドの髪とグレーの瞳です)

 王家の中でアリーとナリーの髪色、瞳の色をどちらかでも持つ者は珍しいのですが、両方併せ持つものは大変珍しいのです。

 

 また、男性王族は成人までに王宮から追い出されるので、市井の中に王族の血が受け継がれる事も多々あります。

 私もそのパターンだと思われています。

 兎も角、アリーとナリーの色は王家の血に現れる特別な色とされているのです。


 そして今、この部屋には両方持つ者が2人もいるのです。

 両方、本人なのだから当たり前ですが。




 王女サーランは黙ったままです。

 しかし、今この場ではフォローが出来ません。


「サーラン。どうしました?」


「……陛下……私もお姉様と同じです……」


「そうですか、サーラン具合が悪そうですね」


 陛下、ミリンダ王女が心配そうにしています。


「陛下、力を使ってもいいでしょうか?」


 私は返事を待たずに力を発動しました。

 かつての妹を、罪の意識から開放し救ってあげたかったから。

 

「貴女は、治癒の力を使えるのでしたね。頼みます」


 体を光らせた私を見て、陛下が許可を出してくれました。

 私は手をサーラン王女に向けてかざします。

 使う魔法は 治癒魔法《精神安定》

 恐怖や怒りなど強い感情に囚われた者の心を落ち着かせるものです。

 その魔法にもう一つ、魔法を織り交ぜます。


 私の発する光はサーラン王女に精神に浸透していきます。

 やがて、サーラン王女は涙を流し、頷きました。

 

<……良かったわ>


 しっかりと思いが伝わった様です。

 顔色も良くなりました。


「落ち着いたようですねサーラン」


「はい、ご心配をお掛けしました。もう大丈夫です。メアルシア()()()のおかげで楽になりました」


 あー、その呼び方はして欲しくなかったです。

 案の定ミリンダ王女が顔をしかめました。


「勿体ないお言葉です。サーラン殿下」


 一応フォローをしてみましたが、無駄でした。


「サーラン、この者は王族ではない。それを姉だなどと」


 2度もしゃしゃり出てしまったので、ミリンダ王女には嫌われてしまった様ですね。


「陛下の養女になられているのですから、立場は同じ王女ですわミリンダお姉様。年こそ同じですが生まれた日では私の方が下ですもの」


 治癒魔法の効果なのか、私のメッセージ(秘密)のおかげなのか、元気になったサーラン王女が反論しました。

 私が困るのでサーラン王女には自重してほしいところです。


「ミリンダ止めなさい。呼び方一つで怒るなど狭量に過ぎますよ」


「ぐっ……申し訳ありません。陛下」


 ミリンダ王女は引き下がりましたが、代わりに私を睨みつけてきます。

 内心ため息をつきました。


「メアルシア、礼を言います。またミリンダの無礼、私から侘びましょう」


 陛下が頭を下げました。

 ミリンダ王女もサーラン王女の驚いています。

 私も驚きました。


「母上、頭を上げてください」


 ミリンダ王女が驚きの余り 陛下を母上と呼んでしまっています。


「私には過分なお言葉です。殿下の申されます通り私は養女の身。出過ぎた事を致しました。こちらこそ申し訳ありません」


 私は驚きつつも冷静に頭を下げました。

 陛下は第一王女の無礼を、王女の代わりに詫びる事で私を懐柔しようしているといったところでしょう。

 同時に、ミリンダ王女に王女たる者の失言がいかなる事になるのか教育を兼ねていそうです。

 さすがは大国の女王、なかなか一筋縄ではいかない人の様です。

 

「メアルシア頭を上げなさい。貴女も私の娘ですよ」


「勿体ないお言葉です陛下」


「それで、メアルシアは先程の話。どの国だと思っていますか?」


 サーラン王女の件で話がそれてしまいましたが、私の嫁ぎ先の話をしていたのでした。


「私はモス国第2王子だと思っています」


「何故そう思うのです?」 


 陛下は表情を変えませんでしたが、一瞬ほんの少しだけ目を細められました。

 どうやら同じ意見のようです。

 

「………お答え致しかねます」


 私は敢えて目を伏せて答えました。

 私が対帝国政策の一環としてモスと共同で抵抗する事を述べるのは、またもミリンダ王女の意見にケチをつけてしまいます。

 そもそも正解の無い話なので、意見が対立したところでどうもこうも無いのですが、だからこそ私を嫌うミリンダ様をこれ以上は刺激したくありません。

 私はただ 帝国とモス国どちらと手を組みやすいか比較した時モスの方が利害が一致する分、効果を得易いと思っただけ。

 モス国が欲しているのは、かの国の聖地のみです。

 対して帝国は隙きあらば全ての国を飲み込みたいのですから。

 それはそれぞれの国の歴史が証明しています。


「貴女を養女にしたのは正解でしたね。むしろ他国に出すのが勿体無いくらいです。近々に貴女には然るべきミドルネームを与えましょう」


 陛下も敢えて自らの考えを述べませんでした。

 ミリンダ王女はキョトンとしており、サーラン王女は頷いていました。

 この国の将来の舵取りはサーラン王女に委ねられる事になりそうですね。

 因みに、この世界のミドルネームは王族にのみに与えられるもので基本的に王家が治める土地の地名の何処かです。

 最初の聖女アリーのミドルネーム"メラニス"は、アリー亡き後、新女王となった大聖女のナリーにより、引き継ぐことを禁止されています。

 アリーの神格化の一環なのでしょう。



「ところでメアルシア。貴女の力に興味が湧きました。もう一度、祈りの間で検査をしなさい」


「畏まりました」


 と返事をしたものの、法的にはもう聖女に成れない筈です。


「不思議に思っておりますね。一度聖女検査で除外された者は聖女になれない筈と」


「はい」


「法には必ず例外条項があるものです。聖女検査に関して言うならば、私の権限で覆すことが可能です」


 そうだったのですね。

 しかし、いくら検査しても結果は同じですが。


「私も立ち会い、明日行います」


「畏まりました」


「それともう一つ。貴女に専属の侍女一名と護衛騎士を一名付けます。後日部屋に遣わせましょう。その2名は貴女の嫁ぎ先にも連れて行く事になるので仲良くなさい」


「お心遣い感謝致します」


 この時何故か、陛下の笑みが一瞬だけ悪戯っ子のソレに見えました。

 気のせいでしょうか。



◇◇◇◇◇



 陛下の執務室から退出して、自分の部屋に戻って来きました。

 その数時間後、訪ねて来た者がいました。

 来客はサーラン王女。

 共は廊下で待機させているようで、今、部屋には2人きりです。


「アリーお姉様」


 サーラン王女、いえナリータは、はっきりとそう言いました。


「久しぶりね ナリー」


 先程、私も正体を明かしたので今更隠す必要もありません。


「お姉様はどうして私を恨まないの?……私はお姉様を妬み、殺して王位を奪ったというのに」


「ナリー。その事で私はナリーに謝らないとならないの。貴女をずっと苦しめたわ」


「そんな……責められるべきは私であってお姉様では……」


「ナリー聞いて。詳しくは言えないけど私は18才で死ぬ運命にあったの。貴女はそれに巻き込まれて、いえ私が貴女を巻き込んでしまったのよ」


 ナリーは黙って聞いてくれています。

 ただ、その目には涙が溜まっていました。

 私はナリーの涙を拭いながら続けました。 


「だから私はナリーを恨んでいないわ。逆に申し訳ないの。それなのにナリーは、私の代わりに人類を守ってくれた。この国を発展させてくれた。私の願いを叶えてくれたわ」


「お姉様……」


「感謝しているわ。ありがとうナリー」


 私は泣いてしまったナリーを抱きしめました。

 ナリーの事は気になっていても、今まで私にはどうする事もできませんでした。

 まさか、ナリーも記憶を持って転生しているとは思いませんでしたから。

 ひょっとしたら、記憶を持ちながら転生を繰り返している者は他にも大勢いるのかも知れません。

 それから、ナリーと話し込みました。

 ナリーは転生を繰り返している訳では無く、これが初めての転生とのことでした。

 ナリーには私の力については秘密にする様お願いしました。


「いいの? お姉様の力を陛下に示せば、お姉様は嫁がないで済むわ」


「ええ、願いナリー。ここに留まれば私はまた貴女を不幸にしてしまうかもしれないの」


「……そういう事ならお姉様のお考え通りにします」


 私は因縁のあるこの城で、かつての妹と和解することが出来たのでした。



◇◇◇◇◇



 【祈りの間】

 アマリア王族専用の力を測定する部屋とサーラン王女に聞きました。

 ミリンダ王女もサーラン王女も10才の時、ここで力を測定したそうです。

 結果、ミリンダ王女は騎士の道を志す事になり、サーラン王女は力を示すしか無くなったのだそうです。

 ミリンダ王女に聖女の力があったなら、サーラン王女は力を示さないでいるつもりでした。

 この部屋自体、ナリーが作らせたのですから誤魔化すなど造作もないとの事なのでしょう。

 とにかく、この検査の結果、現在の王位継承権はサーラン王女が一位になっています。

 

 この間で祈りを捧げると聖女の力の有無によらず魔法球が光るのです。

 なので、ズルをすると分かってしまいます。

 そして詳しくはわかりませんが、特殊な仕組みにより神との契約を結び易くなっているそうです。

 単純に祈りの力の増幅効果が在ると言うことでしょうか。


 さて、陛下や2王女、更にセレイブの神官さんの立ち会いの元、これから再検査を受けなければなりません。

 私は神官さんの指示に従い、検査球の前に跪いて祈りを開始しました。

 私の外に向けての祈りでは、反応する筈もありません。

 水晶が光りました。

 私の祈りに反応したようです。

 しかし、これ以上の反応はないでしょう。

 

 と思っていたのに球の色が変わりました。

 淡い青のような白のようなそんな色が揺らめいています。


<氷の精霊だわ>


 そう思った時、私の頭上に一粒、氷の粒が出来ました。

 氷の粒は急激に冷気を発すると大きくなっていきます。

 やがて、氷の固まりはやがて小人の形になりました。

 その背中に鳥の羽が生えています。

 それは氷の精霊【ミレー】でした。

 ミレーはその姿から氷の妖精とも呼ばれる精霊です。

 少女の様な小人は羽で飛んでいるというよりは、プカプカと浮いて漂っていました 

 氷の精霊が契約に現れることは稀です。

 氷属性魔法の才を持つ者が少ない上に、氷の精霊は気まぐれと言われる風の精霊以上に気まぐれだからです。

 総じて冷たい性格なのも契約に向いておりません。

 中位の精霊なら大騎士の顕現を行えるでしょうが、下位精霊のミレーでは無理でしょう。

 ですが珍しい氷系の魔法の行使が可能になります。

 ミレーの声が頭に響いてきます。


『貴女の祈りは、どうでもいい雑音だけど貴女の魔力は魅力的。だから契約結んであげる。貴女は力を隠したい。なら好都合の筈でしょ』


 随分と上から目線の語り掛けでした。

 そして精霊には私の思惑がお見通しですね。

 確かに、ここで下位精霊と契約を結んだという結果は都合がいいかもしれません。

 私は契約を結ぶことにしました。


『私の名はメアル。精霊ミレー契約を』


『了解したわ。私に名前をつけて。それで契約完了よ』


『では、あなた名前は ピノ よ』


 名前を付けた瞬間、私に力が流れ込んで来るのが判りました。

 私とピノがリンクした証拠です。

 私の肩にピノが座りました。


『あれ? 冷たくないのね』


『当ったり前じゃない、バカなの? メアルはリンクしてしてるんだから、凍られたらこっちが困るつーの』


 ピノに冷たく罵られました。

 さすが氷の精霊です。 

 氷の精霊が珍しく、周囲の視線がピノに集まっています。


『視線が熱いから消えるわ。私熱いの苦手なのよ』


 そう言ってピノは消えました。


 思いがけず珍しい精霊と契約できましたが、大騎士を顕現出来るだけの力を有しないので聖女の認定にはなりませんでした。

 予定通り私は何処かに嫁ぐことになりそうです。



◇◇◇◇◇◇


 

 精霊と契約して数日が経ちました。

 ピノは余り出てきません。

 流石に氷の精霊、冷めています。


 その日私は読書をしていました。

 王女教育の一環で文字の読み書きができる様になったふりをしたので、堂々と本を読めるようになったのです。

 

 部屋がノックされました。

 扉が開き、入って来たのはメイド服に身をつつんだ一人の女性。

 その女性を見た時、心臓が止まるかと思いました。

 あり得ない事でした。

 だけど、会いたかった人。

 でも、何故、何故此処に…… 


 「アン」


 私は気づけばアンの元に走り、抱きしめてしました。

 

「今日よりメアルシア様の侍女になりましたアンです。よろしくお願いします」


 アンの言葉が信じられませんでした。


「アン、姉さん会いたかった。他に誰もいないんだからそんな堅苦しい呼び方しないで」


「いあーメアル。それが私だけじゃないのよ」


 そう言いつつも、いつものアンの口調です。

 嬉しれと懐かしさで、目に涙が溜まっていくのがわかりました。


「久しいな」


 アンの言葉の直後、そう言って入ってきた男性の声に聞き覚えがありました。


「え」


 驚きの2連続にもう、間抜けな言葉しか出ませんでした。


 この声は……あの人だ。

 ああ、涙ではっきり見えないわ。

 会いたかった……もう会えないと思っていたのに。

 まさか、此処まで会いにきてくれるなんて……

 


「今日より護衛騎士を務めるカーライルだ。宜しく姫さん」


 私の護衛騎士、それはカールさんでした。




続く

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