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騎士と聖女の物語  作者: 丁太郎
騎士と聖女の絆編
35/36

2.傭兵団という生き方

★★★★★

Side:聖女カチュア

モス国首都バーキンにて


 私とフラン様はアマリアからの追手を警戒しつつ【モス国】の首都【バーキン】に来ていた。

 お互い手荷物で持てるだけの金貨は持ってきているものの、それで一生食べていける程でもない。

 だから当面は冒険者として稼ぐと前々から決めていた。

 となれば地方都市で活動するより首都の方が依頼も多くて稼ぎやすい。

 そしてそうするうちに仕官への道が開ければいいと思っている。

 冒険者上がりの聖騎士は割と多い。

 殺す事に慣れている冒険者は貴族のお坊ちゃま聖騎士様よりも実践に向いているからとフラン様は言っていた。

 どの国も聖女を喉から手が出るほど欲しているから私が聖女だと売り込めば直ぐにフラン様と共に仕官出来る筈。

 でも、軽々に聖女であることを明かすのは危険で、フラン様を不意打ちで害して私を攫うなんて事も考えられるし、【アマリア王国】に自らの所在を教えてしまう様なものだ。

 恐らく【アマリア王国】では私達の出奔を認めず、既に追手を差し向けて居るだろう。

 そしてそれは元同僚の23騎士団の誰かだ。

 あそこはそういった事も行う部署だから。

 フラン様を殺し、私を連れ帰る命令を受けている筈だ。


 本当はここ【モス国】で士官できるのが一番良い。

 私は【風の神クテレ】の聖女で、ここ【モス国】は【クテレ】を信仰する国だからここの騎士団に入りたい気持ちはある。

 この国は近く聖地奪回の軍を起こすから売り込むなら今がチャンスだし、ここなら正規の騎士団に入れるだろうし。

 しかし、私達はモスでの仕官はしないと決めていた。

 そう決めた最大の理由はここが【アマリア王国】から近いから。

 暗殺を防ぎきれないと思うのだ。

 だから【アマリア王国】の影響が及ばない遠方の大国で仕官をするつもりだった。

 目指す地は6強国【ミレー王国】。

 そこで駄目なら最西の大国と言われている6強国【魔導王国ジ・エル】まで行くつもりだった。

 この2国ならアマリアの外交圧力が及ばないし、そこまで捜索の手を広げるとは思えなかった。

 【ミレー王国】は他の大陸国家との海洋貿易が盛んであり、【魔導王国ジ・エル】はアマリアと同じく魔道具制作が盛んな国。

 そしてこの2国は地理的に近く常に緊張状態にある。

 傘下の少国家同士の小競り合いは絶えないという。

 活躍の場は十分にあると思う。

 そしてここが最も重要で、距離の遠いアマリアとはほとんど国交がない。

 聖女教会がアマリアへの反発から魔導王国に拠点を構えていると言われているのもそれらの条件があったからだと思う。

 これらは聖女学園で学んだ基礎知識なので実際の所は知らないけど、大きく間違ってもいないはずだ。



 【バーキン】に来てから2ヶ月、ここで冒険者登録をしてコツコツと依頼をこなす日々を送っている。

 今日は馴染みになりつつあるいつもの酒場は止めて、新たに見つけた酒場に来ていた。

 勿論ひとところに馴染みすぎないようにと追われる者の用心である。

 それと祝杯を上げるため店の雰囲気を変えたかったというのもある。



「おめでとう、これで一応ここでの目的は達したね」


「Eランク昇格おめでとうございますフランさ「フィアラね」…」


 フラン様に遮られて軽く睨まれてしまった。

 理解っています。

 今の私達は冒険者フィアラとチェリアなのだからフラン様と呼んでは駄目だって事は。

 偽名を使っている意味が無いですよね。

 でも今までの癖はそうそうには抜けないのだから仕方がないじゃないですか。


「癖がなかなか抜けなくて。でも理解っているわ()()()()


「ならいいのだけど。もう少し自然に呼んでねチュリア」


「善処します」


 フラン様……いえフィアラはよく言い間違えないと思う。

 こういう所も優秀なんだなと関心してしまう。

 頭では私は前の名前を捨てて、今は「チェリア」なんだって理解っているけど、気を抜くと直ぐにカチュアに戻ってるのだから、完全にチュリアになりきるまでにはまだまだ時間がかかりそうだった。

 

「それで明日早速?」


「そうね。Eランク以上でないと登録拠点から出てはいけないルールだったからね。どうせミレーに行入国したらまたF戻りだけど。それでもここに長居は無用よ。速やかにミレーを目指しましょう」


 冒険者証が身分証明になるのは、一般の事情とは異なる。

 犯罪者や政治犯が冒険者登録をする場合もあるのだけど、それが許されるのは問題があった場合、冒険者ギルド内で処分する権限を有する事と、そうしてでも人手が欲しいからだ。

 他国への入国の際もその国の冒険者ギルド冒険者登録をする条件付きで入国が許可される。

 全て冒険者という人的資源が欲しいから。

 なんといっても生存率が高くない職業No1なのが冒険者だから。

 魔物でなくてもモンスターは十分に脅威なので、モンスターの討伐や商隊の護送や護衛、危険な場所でしか手に入らない薬草や、ダンジョンでしか取れない希少鉱物の入手など、冒険者に求められる事多い。

 そしてそれらは命がけなのである。


 冒険者ランクについて言えば、Eランクで国替えするのは割と一般的でFからEはすぐあがるけど、EからDに上げるのは試験資格を得るために1年間の活動実績が必要となる。

 そしてランクが上がるにつれ他国に逃げられたくないとギルドも思うようになるので、その国が肌にあうかどうかをEランクの内に見極めるのだとアマリアの冒険者達から聞いていた。

 ただFランクでも入国させてくれるけど、あまり良い顔はされない。

 冒険者実績が無いと宣言しているのと同じだからで、なるべく目立たない様にしたい私達は早く【ミレー王国】に行きたい気持ちを抑えて【モス国】でEランクにあげたのである。



「では予定通りですね」


「だね」


 フィアラはそう言って、ジョッキになみなみと注がれていたエール酒を一気に飲み干した。

 私はそんなにお酒は強くないので、果実酒のソーダ割りを一口飲んだ。

 聞いたこともない果物なのでモス特有なのだろう、甘酸っぱいがソーダ割りなので飲みやすくて私は好きだ。

 フィアラはソーダの刺激は好きだけどこの果実酒は甘すぎて好まない。


 丁度会話一区切り着いたところで注文した食事が運ばれてきた。

 焼いた肉の脂の匂いが食欲をそそる。

 葉物の野菜と一緒に食べたいなと思うが、モス国の今の季節は蒸し暑くて生野菜の保存が難しいらしくメニューに載らないのだ。

 なので干し野菜を使ったスープとか煮物で野菜を採っている。

 

 私の食は細いのだけど、フィアラは本当によく食べる。

 それでいて全く太らないという反則体質の上に出るところは出ていて引っ込んで居るところは引っ込んでいるくびれボディまで兼ね備えている。

 それに引き換え、太りやすくて出るべき所が慎ましい我が体の…悲しくなってきたので考えるのを辞めよう。

 これもきっと酒のせいだ。


「相席いいですか? お嬢さん方」


 いきなり話しかけれ驚く。

 驚いて椅子から少し飛び上がってしまった

 考えに集中していて近づいてくるのに気づかなかった。

 フィアラがすこし呆れた表情をこちらに向けた。

 お酒ですでに顔が赤いから多少恥ずかしくても顔色に変化がないのはせめてもの救いかな。


「驚かせて申し訳ない」


 長い髪はストーレートでそれを無造作に後ろで一つ縛で束ねた華奢な色付き丸メガネの男だった。

 場には似合わない上等なシャツやスラックス、にこやかな笑みを浮かべるこざっぱりした姿は軽薄なナンパ男しか見えなかった。


「お兄さん何でここの席なのかな。空いてるテーブルならいっぱいあるからそっちに行って。で、なるべくここから遠くにしてね」


 フィアラの言う通り、空いているテーブルは多数あった。

 ナンパ目的かと思うのと同時に警戒心が湧き上がる。

 でも、アマリアからの追手なら態々声を掛けてこないだろうし…であればやはりナンパだろうか?

 

「まあ、そんな事言わずにさ。折角だから楽しく食事しないかい?」


「放っていてくれたほうが楽しいんだけど」


「いやー厳しいなぁ。そこをなんとか」


 手を合わせて拝んでいる軽薄男は左手だけ手袋をしていた。

 あれ?ひょっとして 聖騎士?

 心臓がバクバクしだす。

 ちらりと見れば、フィアラの目が少し細められていた。

 フィアラも男が聖騎士だと思ったようだ。


「ま、解っちゃうよね。俺聖騎士なんだよね」


 なんと、こちらの様子を察してか男の方からばらして来た。

 こんなに堂々と言って大丈夫なんだろうか?思わず周囲を見回した。


「あ、大丈夫。ここはそういった場所だからね」


「それはどういう」

「レイトまたナンパかい?あんたいい加減にしないと吊るすよ」


 思わず男の言葉に反応してしまった私の質問は、女性の大声で遮られてしまった。

 どうやら目の前の男の知り合いらしい。

 男の名前はレイト、聖騎士レイトっと…ん?どこかで聞いた名だった。

 どこだっただろう?思い出せない。


 声の主はスカズカと歩いてきて男の首根っこを掴んで持ち上げた。


「お、おい!ライザ!」


「アンタ達済まなかった。相棒が失礼したね」


 男をひょいと脇にどかして謝ってきた女性は燃えるような赤髪、つり上がった目に赤い瞳は凛々しく、なにより背が高くて女性というより美丈夫って感じだ。

 相棒と言っていたけど力関係は今の様子で一目瞭然だった。


「レイトとライザ…」


 そう呟いたフィアラを見ればフィアラが驚きの表情を見せていた。


「ん?それを知ってるってことは、なんだ関係者かい。ってことはスカウトだったのか」


 そう言って大女ことライザは私達に断りも無く席に座った。


「え?」

「あんた」

 

 私の驚きととフィアラの批難は同時にあがったけど「まぁいいじゃない」とライザは取り合わない。


「マスター、いつものな」


 なんて大声で言っているし。

 私達はどうやら2人の縄張りに入ってきてしまったようだ。

 気まぐれで入った酒場だったけど失敗だったかもしれない。


「じゃ、俺もお邪魔しますよっと。 あーマスター俺もいつもので」


 軽薄男ことレイトもライザの図々しさに便乗してきた。

 ご満悦な表情が憎たらしい。


「ま、一杯おごるからさ。兎も角まずは腹ごしらえさせておくれ。話はそれからさ」


 周囲を探ればどうやら周囲の客はお仲間らしい。こちらを伺いつつも特に動く様子もない。

 そしてあることに気付いた。

 フィアラも恐らく気付いているだろう。

 周囲の客は全て男女のペアだったのだ。

 

 直ぐに並々と継がれたジョッキが運ばれてきた。

 というか大きい!通常の倍はありそうだった。

 その大きいジョッキを軽々と受けとった大女ライザは一気に呑み干した。


「ふう、まどろっこしな。5杯ほど一気に持ってきなよ。これしきじゃあ足りないってわかってるんだろ」


「勘弁してくださいよ。そのジョッキはライザさん専用の特注なんですから」


 そんなやり取りをジョッキを運んできた男と交わすライザの飲みっぷりのよさに呆気に取られてしまった。

 因みにレイトの方はまぁ普通の飲みっぷりだった。






「ふう、取り敢えずは満足した。では話をすすめるか」


 ライザは飲みっぷりだけでなく食いっぷりも豪快だった。


「じゃ、お嬢さん方まずは自己紹介だ。俺はレイト、こっちの呑んべえは相棒のライザ。気付いているっぽいけどちっとは名の知れた傭兵さ」


「傭兵団『ゼノ』のレイトとライザで合ってる?」


「せーかい」


「へぇ、二人は見たことろ冒険者かい?にしちゃ傭兵に詳しいじゃないか」


「まぁね」


 フィリアは言葉を濁した。

 下手なことを言って揚げ足を取られるのを警戒している様だ。


「それで冒険者の私達に何の用が」

「勿論スカウトさ」


 フォローするつもりで用件を促してみたら即座にレイトから答えが返ってきた。

 いきなりスカウトってあり得るのか?

 私達の秘密に気付いている?

 しかフィアラは左手を隠していない。

 刻まれた聖騎士の証は私の風の力で不可視にしているからバレる筈がない。


「意味がわからないわ。兎も角他を当って頂戴」


 フィアラは話をぶった斬る様に言い放った。

 確かに話を続けるほどに沼に嵌っていく気がするので私としてもそれがいいと思う。

 しつこい様なら力を使ってでも逃げるべきか。

 <眠りの風>を使えばなんとかなるかな。


「魔力がアンタの左手に纏っているのが見えているんだよね。それでその魔力はそっちのお嬢ちゃんから出ているね。あ、こっちは魔力の動きが見えてるから変な事は考えなでおきな」


 先程から驚きの連続だ。

 見えていたなら最初からバレていたってことだ。

 それにしても魔力が見えるなんてライザは何の神の巫女なのだろうか。


「流石は『赤瞳のライザ』ね」


「不可視の力ってことはお嬢ちゃん風の巫女か」


「お嬢ちゃん? 私にはチェリアって名前があるわ!」


「お、やっと名乗ってくれたね。よろしくチェリア」


 子供扱いされて思わず名乗ってしまった、偽名だけど。

 即座にしまったと思ってフィアラの方を見たら思い切り顔を顰めている。

 あちゃーやっちゃったわ。


「それで、ここには騎士と聖女ばかりのようだけど皆お仲間?」


 フィアラの問いにライザがニヤリと笑って頷いた。

 隣のレイトはウンウンと何度も頷いている。

 なんか軽い。


「【傭兵団ゼノ】は聖騎士と聖女だけで構成されているって聞いてたけど本当だったなんてね」


「珍しいだろー。数多の傭兵団があれど、大騎士だけの傭兵団は世界に5つ。俺らはその中の一つさ」


 傭兵団ゼノについてはアマリアにもその勇名が轟いていたので知っている。

 場所は忘れたけど、傭兵でありながら戦局をひっくり返して小都市国家に勝利をもたらしたとか、その団長は大国の将軍にも匹敵する強さらしいとか。

 でもしかしライザなら判るがレイトからはそんな感じはしない。

 尾ひれがついているのか、自ら流した噂なのかは知らないけどどちらかだろう。


「まずはご尊名をお聞かせ願えませんか騎士様」


 レイトが軽薄そうな笑みをフィリアに向けている。

 なんとも胡散臭い笑みだった。

 フィリアが表情を消した。警戒しつつも観念はしたようだ。


「フィリアよ。今はこの娘と一緒に冒険者やってるわ。前衛兼斥候よ」

「私はチェリアです。その、魔術師として後衛とサポートをしています」


「なるほど、それだけ聞ければ十分」


「いいんですか?」


 私達はアマリアから追われる身だ。

 もちろん言うつもりはないけど、それにしても何も聞かずに引き込もうとするなんて。

 だから思わず聞いてしまった。


「ああ、構わないよ。聖騎士と聖女なんて人が羨む立場で有りながら傭兵になるようなのは事情持ちばかりさ。いちいち聞く気も無いね」


 カラカラと笑いながらライザがまた特性ジョッキを空けた。


「俺の故郷でゼノはあぶれ者を指す言葉さ。俺たちは国からあぶれた者の集まりなんだ。君たちからも同類の感じがしたんでね」


 レイトが相変わらずの軽薄な笑みを浮かべているが目は笑っていなかった。にやけた口はデフォルトなんだろうか。

 さてフィリアはどうするつもりだろう?

 理由は教えてくれないけどフィリアは戦場で活躍したがっている。

 もしこの誘いを断ってどこかの国に仕官したとして都合よく戦争になるとは限らない。

 【アマリア王国】の支配圏の大陸東部は比較的平和だった。アマリアより東の少国家郡の地域はそうでもないけどアマリア傘下の国家にはちょっかいを出してこない。

 ここより南の【ミレー王国】と南西にある【魔導王国ジ・エル】は大陸南部の覇権を争っているけど大国同士で直接は対峙していないと聞いている。

 しかし、傘下の小国同士は常にどこかしらで小競り合いを繰り広げている。


 当初の予定通り【ミレー王国】に仕官したとしても大国の腰は重いからフィリアの願いは叶わないかもしれない。

 でも傭兵ならどうだろう。

 国に縛られない彼らだからこそ立場に囚われずに戦地に行ける。

 そして【傭兵団ゼノ】は大陸で五指に入る有名な傭兵団。

 そのメンバーとして武名を轟かせる事は可能だと思う。

 フィリアならもちろんそんな事は理解っているはず。

 なんにしても私は、フィリアについていくだ。

 私はフィリアのパートナーだから。

 

 フィリアに視線を向けるとフィリアも私に視線を向けた。

 フィリアは私の意見を聞きたいのだと思う。

 でも私の答えは決まっている。

 どこまでも付いていくだけだ。

 だから私はその意味を込めて軽く頷いた。

 フィリアはそっと目を伏せた。

 正しく伝わった様だ

 すぐにフィリアは視線をレイトに向けた。

 その瞳には迷いが感じられない。

 どうやら肚を決めたらしい。


「条件があるわ」


「取り分についてかい?」


「それは大前提の条件を呑んでくれたの話ね」


「あーいつものだな。構わないさ」


 いつの間にか新しいジョッキを持っているライザがフィリアの条件を聞きもしないで許可を出した。

 ジョッキは空になると自動的に次が運ばれてくるシステムになったらしい。


「あーあれだろ? 仕官先が決まったら抜けるとかだろ。それだったらライザの言う通り問題ないよ。ただ仕事中に抜けるのは無しだけどな」


 レイトがフォローするように言った。

 周囲のお仲間さん達も苦笑いを浮かべている。

 ひょっとしなくてもお約束の展開なのだろうか。


「え、ええ。そのとおりだけど」


「仕官が決まって抜けるやつもいるけど、今残ってるのは結局堅苦しいのが苦手でここに馴染んだ連中ばかりさ。こいつらも最初はアンタと同じ条件を出してたね」


「じゃ条件おっけーって事で入団してくれると考えていいのかな」


 レイトが胡散臭い満面の笑みを浮かべた。



☆☆☆☆☆



 まさか条件をすんなり飲むとは思わなかった。

 と、後日フィアラが私に漏らした。

 あの後歓迎会と称して朝まで宴会は続いた。

 傭兵って皆呑んべえなのかと思ってしまった程だった。

 おかげて解毒の札のお世話になったのは言うまでもない。

 昼過ぎに起きてきたライザさんだけはシャッキリしていたっけ。


 【傭兵団ゼノ】がモスに来ていた理由は【クドナル公国】と【テリア王国】の戦に参戦するためだったらしい。

 しかし、アマリアのまさかの参戦でその思惑が潰されてしまったのだそうだ。

 モスの計画している聖地奪回の聖戦はまだ先の話なので、私達が加入しなかったらモスに来たのは完全に無駄足になるところだったとレイトさんが言っていた。




 あの後私達はすぐにモスを離れ、【ミレー王国】首都【ナストン】に移った。

 そこを拠点に【ミレー王国】傘下の小国や都市国家の依頼を受けていた。

 私達の初陣はある小国の国境紛争で領内侵犯を度々繰り返す巨兵の捕獲。

 侵犯してきた巨兵3機だったけど、それら戦闘不能にするのは傭兵団ゼノにとっては朝飯前だ。

 なんと言っても神の勇士兵(エインヘリアル)6体もいるのだ。

 捕獲した巨兵の操縦していた騎士も勿論拘束した。

 レイトさんによれば、彼らを人質にして賠償交渉を進める目的なのだとか。

 フィリアはあまりに呆気なく終わった初陣に物足りないと溢していたが私はホッとしていた。

 それから幾つかの依頼をこなし、気づけば傭兵団に入って数ヶ月経っていた。

 傭兵団の皆に慣れて団に馴染んできた頃、ライザさんが傭兵ギルドのある依頼を受けた。




「で、戦じゃなくって魔物退治なんだとさ」


 揺れる馬車で依頼を受ける経緯を語ってくれたのは現在御者役についているゲイルさんだ。

 ゲイルさんは副長さんの次に古参のメンバーで喋らせなければなかなか渋いオジサマ聖騎士様である。


「ライザも姉御肌だからギルドに泣き付かれて断れなかったんだろうねぇ」


 ゲイルさんのパートナーのクゥアリィさんが変わった形のパイプ(キセルというらしい)を吹かしながら推察してたけど、たぶん正しいと思う。

 クゥアリィさんは煙で輪っかをつくっている。

 器用な人だ。

 美味しいからとそのキセルを勧められて一口吸った事があるがむせて咳き込んでしまった。

 苦いし、どこが美味しいのか理解できない。

 皆にもフィアラにも笑われたしもう二度と吸わないと思う。 



 今馬車に乗っているのはフィアラと私とゲイルさん、クゥアリィさん、それから仮眠を取っているジェフさん、とそのパートナーで同じく仮眠中のピシェルファさんだ。

 馬車と言っても荷馬車に幌を着けたもので、野営道具やら食料やらを積めば5人座るのがやっと位だ。

 幌も前後は空いているので御者のゲイルさんとも話が出来た。

 

「フィアラ、チェリア、クゥそろそろ寝とけよ」


 ゲイルさんも中々面倒見がいい人だと思う。

 歩きで馬車の警護をしているレイトさん、ライザさん、副長のサブさん、サブさんのパートナーのセテキーヌさん、聖騎士ズンキルさんとパートナーのベトスファさんの3組と交代になるから今のうちに寝ておけとのアドバイスをしてくれた。 

 荷物のない歩きは別に苦にならないからいいのだけどね。

 それに聖騎士と聖女だらけの一団だから安心していられる。


 隣からフィアラの寝息が聞こえ始めた。

 早すぎでしょうよ。

 フィアラはどこでも寝られる人で羨ましい。

 逆に私は寝付きが悪い。

 はぁ、私にすっと寝られるようになる日は来るのだろうか。

 


 移動する事3日、私達は目的地に着いた。

 と言っても何もない荒野だ。

 草木くらいは生えているので何もないというのは言い過ぎか。

 ここは荒野と砂丘の境らしい。

 すぐ先は砂の世界が広がっている。


 で、私達は今回の作戦の説明を受けた。

 ターゲットはこの少し先の砂丘に住む砂トカゲ。

 砂に潜り通りかかった獲物を丸呑みするトカゲが魔物化したのだ。

 知能が低いため元の習性以上の行動を取らない為発覚が遅れたのだ。

 やがてトカゲがこつこつと巨大化して商隊のキャラバンが襲われるまでになって発覚した。

 しかも目的の小国へ行くのにこの砂丘を通る以外のルートが無いらしい。

 迂回しようとすると強いモンスターの群れの中を通らなければならないらしく、商隊が無事に通り抜けるのは無理なのだとか。 

 つまりは魔物化した砂トカゲを倒すしかないのだ。



「おいおいマジか。神の勇士兵(エインヘリアル)で落とし穴掘るのかよ」

「そんな事の為に顕現させないでよねー。普通に囲んでボコればいいじゃん」


「…面倒……」

「そーねー」


 騒いだのはズンキルさんとベストファさんで相槌うったのはジェフさん、とピシェルファさん

 確かに聖騎士と聖女という特別な立場になってしかも神の力を使って工兵みたいな事をするの嫌だと思う。

 私だってさすがにどうかと思う。

 フィアラも少しだけ眉を潜めた。

 新参なので表立って反対はしないけどこれは内心は反対だと思っているっぽい。


「土系の聖女様はいませでしたっけ?」


 

 いれば穴掘り位楽にできるかもだけど、いたら私達に掘れなんて言わないだろうなと思いつつ一応聞いてみた。


「期待されてもそんな都合良くはいかんわな」

「一応、アタイの契約英雄も戦士だからねえ」


 ゲイルさんとクゥアリィさんの口ぶりからすると、どうやらクゥアリィさんがそうらしい。

 でもやはり穴を掘るなんて能力は無い様だ。


「チェリアはバーンと地面を抉れないのかい?」


 ライザさんの問いかけに首を振って答える。

 私が契約している【ヒショーグ】も武人であって魔道士ではないので、神の力の一つ【風の刃】を剣に纏わせて斬撃を飛ばしたりは出来るけど、【クドナル公国】の巨兵の槍のような風の爆発を起こすような奇跡は持たない。

 仲間であっても明かしはしないけど奥の手だってそういう類の技ではないのでここでは役にたてなさそうだ。


 自ら進んで手の内を明かしたいとは思わないけど、風の刃を飛ばせるくらいは構わないかな。

 そんな思いを込めてカチュアを見れば視線が合った。


「そりゃ無茶振りってものさ」


 レイトさんが肩を竦めた。


「チュリア穴は掘れなくても耕すくらいはできるわ」


 フィアラの思いがけない言葉に思わず目をパチクリとしてしまった。

 うーん。確かに風の刃で地面を切り刻めば、土に空気含ませれて耕す感じになるかもしれない。


「【風の刃】で穴掘りポイントを切り刻んでみる?」


「ええ、できるでしょ?」


「うん、でも魔力使い切るよ?多分」


「魔物退治だからね。別に獲りたいと思わないわ」


「よし、じゃあ決まりだね。フィアラペアは土を切り刻む、サブは囮を捕らえてきな。他3組は穴掘りと攻撃担当、サブは囮を抱えてトカゲを挑発し罠まで誘き寄せて罠に囮を落とし込む。私とレイトは罠に掛かったトカゲに全力魔法を打ち込む」


「全力魔法って…俺らの出番ないだろ」


「もしそれでも魔物が生きていたら後は頼むって事でよろしく」


「囮を捕らえて来るくらいいいけどさ、罠必要?」


「砂トカゲと舐めたら駄目だ。奴らは疾いよ」


「魔物退治で怪我なんてやでしょ。罠で安全に刈れるんならそれに越したこと無いよ」


 レイトさんはそう言うけどこの作戦サブさんにかなり負担がかかるような。速さを活かすなら私の【ヒショーグ】の方が…


 そう考えた時だった。砂丘の方から光の柱が立ったのが見えた。

 生憎砂丘は起伏があって神の勇士兵(エインヘリアル)の姿は確認出来ない。


「皆、予定変更! レイト、ゲイル、フィアラの3人であの光の柱が立ったところへ行くよ。残りはここで待機。サブここは頼んだ、じゃ顕現開始」


ライザさんの指示を受けた私達は散開して顕現を開始した。





 私達が光の柱が立ったと思われる場所についた時、神の勇士兵(エインヘリアル)は既に居なかった。

 その代わりではないだろうけど、魔物だったと思われる巨大トカゲの肉塊が転がっている。

 肉の塊というレベルでバラバラになっていて元の姿が解らないくらいだけど、気持ち悪く無いのはそれらが凍って居たからだ。

 凍ってからバラバラになったらしく血が全く飛び散っていない。

 まさかこんな強力な力をもった聖女がいるなんて。

 『氷精』の称号を持つエルフの大聖女?

 しかしそもそも氷の力を持つ聖女なんて古今東西聞いたこともない。


 周囲を見回したけど聖騎士と聖女の姿も確認出来なかった。

 足跡も無くというか戦闘があった場所の砂地自体が凍りついていて確認出来ない。

 判ることは忽然と姿を消したということ。

 いやまだ近くに潜んでいるかも知れない。


 フィアラもレイトさんもゲイルさんもこの光景に動くことができずにいる。

 圧倒的な力を持っているだろうことは一目瞭然だったからだ。


 暫く動けずにいた時、肉塊に異変が起きた。

 凍った肉塊の表面が光リだしそれは光の粒子になって風に舞う。

 光はどんどん肉塊を溶かしていく。

 やがて全ての肉塊は光の粒子になって風に消えた。

 それが意味しているのは凍らせて砕いただけでなく、魔の浄化も行ったという事。

 私達は魔物の消滅を確認した後、サブさん達の元に戻った。


続く

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