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騎士と聖女の物語  作者: 丁太郎
騎士と聖女の絆編
34/36

1.幽霊聖騎士の決断

★★★★★

Side:聖女カチュリア

メアルシアが襲撃を受けた地にて


「まったく」


「フラン様機嫌を直して下さいよ」


 パートナー聖騎士のフラン様がぼやく気持ちも解らないではない。

 私達の所属はアマリア王国第23騎士団。

 騎士でありながら諜報部門というかなり特殊な団で、通称”幽霊騎士団”と呼ばれている。

 一応王宮内の部署でありながら、その場所を知るものはごく一部の上、団を統括する団長以外殆どデスクにいることがない。

 私もフラン様も団員の総数すら把握できていなかったりする。

 さすが諜報騎士団だなと素直に思う。

 というのも、第23騎士団は少々特殊で、騎士団長の管理下にない。

 私達23騎士団は陛下の直轄で王族の指示で動く。

 もっとも陛下や殿下方から直接指示を受けるなんて殆ど無くて、宰相からの指示がほとんどだけど。 


 そんな第23騎士団こと幽霊騎士団に私が配属になってしまったのは、私が風の神【クテレ】の聖女だったからだと思う。

 私の使える力の中に、気配を薄めたり、移動を高速にするものがあるから隠密行動向きと判断されたと言ったところかな。


 私と契約した聖騎士フラン様も変わり者だ。

 フラン様は男爵家に生まれた立派なお貴族様。

 でもフラン様は貴族令嬢の嗜みに全く興味を示さず、剣にのみ興味を示したらしい。

 どういった経緯でここに配属される事になったのかは教えてくれないので判らないけど、優秀な方だとは思う。

 私とフラン様が幽霊騎士団に配属されて、そこでパートナーになって、いくつかの任務をこなした。

 配属されて数ヶ月で私達は単独行動を許される様になった。

 

 幽霊騎士団と言われるだけあって通常は王宮努めだけど、王宮にいることは本当に少ない。

 実際、報告書を作成して提出する時だけだったりする。

 そのタイミングは各々まちまちなので、他の団員と顔を合わせるのは本当に稀。

 でも面白事に、この幽霊騎士団は全員聖騎士と聖女で構成されているらしい。

 それは近衛である第1、第2騎士団の他は、ここしか無い。


 私達、幽霊騎士団員達は有益な情報を集める為に城下に出たり、在野の聖女を探してスカウトしたり、魔物が出たら先行偵察に行ったりと、ほとんどを王宮の外で過ごす。 

 私は元々街娘なので城下街での活動に苦はないけど、フラン様もお貴族様なのに違和感なく溶け込んでしまえるのがなにげに凄い。

 贔屓目無しで言えば、フラン様は美人というより愛嬌のある顔でスタイルも普通で容姿で目立ちはしない。

 すこしくせ毛で濃栗色の髪なんてはどこにでもいるし、言葉遣いや態度も全く平民として違和感がない。

 それでいて、貴族としての振る舞いもできるのだ。

 私は貴族の世界は判らないので貴族にまぎれての諜報活動はとてもじゃないけど無理。

 兎も角、フラン様は変わり者だけど、ここでの任務には適材だと思う。

 私にも気さくに接してくれるので私としても楽だ。


 因みに私の顔もまた、酷くもないけど美しくも無く、可愛いねと声を掛けられることもない。実に平凡な容姿同士のコンビだった。

 親友エリィことエリィーサは、同じく同郷の聖女だけど磨けは光るタイプの美人さんなので、羨ましい限りである。

 

 話が脱線したけど、要は私とフラン様の仲も相性もいいと言いたかったのだけ。

 フラン様と私で中型の魔物を狩った事もある。

 勿論私の神の勇士兵(エインヘリヤル)【ヒショーグ】の力を借りてのことだけど。

 あの時は参った。

 本来は偵察して位置を探るだけの任務で交戦禁止だったけど、私の失敗で魔物に気取られてしまったのだ。

 止むを得ず、というか恐怖の余り顕現させてしまった。

 結果はオーバーキルだったけど。

 その後は怒られはしたけど、お咎めはなかった。

 本来は、魔物の規模を見極めた上で騎士団で討伐するか、冒険者ギルドに依頼するか決める予定だったらしい。

 神の勇士兵(エインヘリヤル)の情報は国家の最高機密扱いなので、広範囲に徹底した人払いをした上でなければ顕現はさせてはならないのだ。

 しかし、その時は緊急事態という事もあって叱責だけで済んだのだった。

 もともと無茶な任務ではあったし。


 今回は第2騎士団「輝く薔薇」騎士団の行軍に同行している。

 第2騎士団は、ミリンダ第一王女殿下が率いる近衛騎士団。

 それを言い渡された時、正直焦った。

 出発が翌日なんて急過ぎる。

 そしてそれに対応できたのもこの幽霊騎士団団長の無茶振りが毎度だから。

 嬉しくないけど。


 戦場に急行する為中々の強行軍だった。

 第2騎士団団長のミリンダ殿下は王女なのにタフだなと思う。

 私達は連れて来られた理由も理解らず必死に付いていった。

 といっても馬に乗れない私はフラン様の馬に同乗させてもらったのだけど。

 召喚馬は疲れ知らずで2人も乗せているのに疾くて驚きだ。

 私も馬に乗れるようにならないと。


 野営の時、初めて行軍の目的を知らされた。

 他の団はどうか知らないけど23騎士団は情報が早い。

 【クドナル公国】と【テリア王国】の戦争の事は勿論知っている。

 だけど、その2国の争いにメアルシア王女が巻き込まれていたのはその時初めて知った。

 メアルシア王女、云えメアルとは面識がある。

 私は国境近くの街【スタ】の出身だけど、メアルはある日、同郷のアン姉の義妹になった人だ。

 アン姉は【スタ】の街の子供たちのボス的存在で、アン姉のお陰で、男の子達からいじめられる事は無かった。

 そのアン姉を通じてメアルを紹介されたし、何度かは会話を交わしたこともある。

 初めて会った時、すごく綺麗な娘だと思ったのを覚えている。

 彼女は水色がかった銀髪という不思議な髪を持っていて神秘的ですらあった。


 聖女検査の日、私は聖女として見出されて故郷を出ることになった。

 その時、メアルは聖女としてではないけど、養女の王女候補として見出されたと聞いている。

 あれだけ綺麗な娘だったから別に不思議には思わなかった。

 そしてこの事は他に漏らさないように、陛下直々に口止めされているので私の胸の内に留めている。

 勿論フラン様にさえ喋って居ない。


 私は王都に着くなり、【聖女学園】に入れられて、そこで同じく同郷の”エリィ”ことエリィーサと仲良くなった。

 正直エリィがいなかったら卒業出来なかったと思う。

 そのエリィは第一騎士団に配属され、高位貴族でもある騎士様のパートナーになったらしい。

 らしいというのは、学園卒業以来会えて無いから。

 私がほとんど王宮に居ないのだからまあ当然だけど。


 驚いたのはアン姉がメアルシア王女となったメアルの侍女になった事だ。ついでにあのイジメっ子のズイールが王城の兵士になっていたのも知ったけど、それは今更どうでもいいか。


 メアルシア様はモスへ嫁ぎに行く道中で、クドナルとモスの巨兵の闘いに巻き込まれたらしい。

 専属侍女として同行しているアン姉もだ。


 そして直接一行を害したのはクドナルの巨兵の持つ槍。

 だからアマリアとしては制裁する為テリアと戦争中のクドナル軍を急襲することになったのだ。

 そこまで聞けば、私達が同行しているのは強行偵察のためかと思ったけど、そうではなかった。

 私達がミリンダ殿下に命令されたのは、メアルシア様襲撃の地の調査だった。

 フラン様の考察によれば、戦後の交渉の情報集めといったところらしい。

 メアルシア様がクドナルの手で害されたのがはっきりすればアマリア国の行動に正当性ができるのだとか。

 

 そういう事情で、今私達は最初にメアルシア様が襲われた森の中にいて、フラン様が 「まったく」 とぼやいたところ。


「私達だって聖騎士と聖女だっつーの」


「それはそうだけど…フラン様は戦に出たかったですか?」


 フラン様だって聖騎士なら戦場に立ちたかっただろうか。

 私は正直いえば、今回の命令を受けて内心ホッとした。

 戦は恐い、死ぬかもしれない。

 死なない為には相手を殺さなければならない。

 それはそれで恐ろしい。


「まーね、こんな調査なんて私達でなくてもいいでしょ。強行偵察ならまだ我慢できたんだけどね」


「だったら早く澄ましてしまいましょうよ。結構気味が悪いところですし」


「なんだカチュは怖がりだねえ。たしかにここで護衛陣は全滅って聞いてるから陰気な感じがするのも当然だけどさ」


 フラン様の言葉を聞いて私は周囲を見回した。

 なんか誰かに見られているような気がする。


「フラン様…視線を感じませんか?」


「ホントに怖がりだなあ。気のせい気のせい」


 フラン様はそういって放置された馬車を調べている。

 馬も殺されたのか、馬車の前には大きな黒いシミが有る。

 馬車の積み荷は全て持ち去られたのか綺麗サッパリなかった。


「遺体でも残ってれば襲撃者の素性が少しは判ったかもしれないけど」


「詮索を恐れて、遺体を全て運んだってことでしょうか」


「そうなるかな。周囲を見た限り戦闘は激しかったようだし」


「た、たしかに…周囲の木々に結構刀傷がありますね。でもクドナルは何を考えてこんな事を」


「ん? カチュ、これはクドナルと決めつけるのは早いって。どちらかと言えば、この襲撃とメアルシア様の最後は別件な気がするよ」


「この襲撃から逃れるために先行して、戦争に巻きこまれたって事ですか?」


「かもね。ま、もう一つの現場を見てから考えよっか。カチュも怖がってて仕事にならないし」


「怖がってっいうのは違うけど、先に進むのは賛成です」


 フラン様が札を何枚が取り出して周囲にばらまくと、札は光を放ち、そして消えた。


「フラン様 今の御札は?」


「浄化の札よ。死者の魂が安らかに眠れるようにね」


 冒険者ならお馴染みの御札をフラン様は持ってきていたのか。

 私は周囲を見回した。

 心なしか、このばの陰鬱さが薄れた気がする。

 視線も感じなくなった……気がする。



☆☆☆☆☆



「見事なまでに抉れてるじゃないの」


 もう一つの現場は森を抜けてすぐの場所だった。

 森を抜けるなり見えたのは地面に刺さった巨大な槍。

 ここはクドナル公国領内だけど、戦に忙しくて回収している暇が無のかも。

 刺さった槍を中心に地面が抉れている。


「これは痕跡なんかないんじゃ。木っ端微塵ってやつですね。そろそろ戦闘が始まるかもですし、もういいじゃないですか」


 私は抉れた地面の中に散らばる馬車だったらしきモノを指さしながら言ってみた。

 こんなでは痕跡どころじゃないし、肉塊一つ残ってなさそうだ。

 森と違って陰鬱さはない。

 だけど、ここは戦場と近いから、私達も巻き込まれてしまう可能性がある。


「仕事はキッチリ済ます性分なんだよね。カチュ行くよ」


「わかってましたよ」


 爆心地に向かって抉れた地面を降りていくフラン様に私も続いた。


「これは間違いなくメアルシア様の馬車だね」


 足元に転がる木片を拾って、フラン様が言った。

 覗き込むと、その木片にはアマリア王家の紋章の一部が描かれていた。

 向かい合う2人の祈る乙女。

 木片には王家の紋章の乙女の顔の部分が描かれていた部分だった。


「メアルシア様もアン姉も此処で……」


「アン姉?」

 

 メアルシア王女の事は話せないけど、アン姉についてなら問題はないかな。

 ということでアン姉とは同郷で故郷では随分と面倒を見てもらったと説明した。


「そっか、王女の専属侍女と同郷だったのか。悪いこと聞いたね」


「いえ、そんなつもりでは…」


 フラン様に謝まらせてしまった。

 ただ懐かしかっただけで、そんなつもりじゃなかったのに。


「ん?」


 気まずい雰囲気も一瞬で、フラン様が怪訝な声を上げた。


「ど、どうかしました?」


「カチェ、あれ」


 フラン様が指差す先を見たけど、特に何もない。

 強いて言うなら土があるかな?


「フラン様は何を見つけたのですか?私には何も」


「草かな?」


 草……え?草? 

 

 

 私達は問題の場所に急いだ。

 爆心地の近くにそれは在った。

 爆心地の近くに草が土に混じって落ちていた。

 生えてイルので花無く、根ごと落ちている。

 土もなんか変だった。

 抉れた周囲とこの土は完全に異なる。

 此処だけ変わった土が纏まって落ちていた。


「カチュ、血だ…」


 フラン様は土を触ったりして調べていたが

 フラン様が調べている所だけ土が黒く固まっている。

 血溜まりがあったということになる。


「こんな所に血溜まり…」 


「これはひょっとするかもしれないよ」


「フラン様、それって」


「うん、王女達は生きているかもしれない」


 フラン様が一つの可能性を告げた。


 この血溜まりは間違いなく槍の爆発の後に出来ている。

 しかも血溜まりがこの場所にしか無くて他に血の跡がないから急ぎ治療したとわかる。

 なら、王女はこの爆発を生き延びたってことに。


「でも…こんな跡ができる程の爆発の中心部にいて生きてるなんて…」


「この土にヒントがありそうね」


 フラン様の考えでは この異質な土は元々の地面の土で、強力な結界とかで爆発を防いだ際、一緒に保護された。

 結界が球状なら草混じりの土が爆心地の近くにまとまって落ちていても辻褄が合う。

 まとまった量だから風で多少は散ったとしてもこうして残っていた。

 しかし爆発を防いだのはいいけど、怪我をしてしまい、血溜まりが出来た。


「フラン様のお考えの通りだったとして、一体何処へ」


「うーん、そこからどうしたのか全くわからないわね。他に血の跡もないし、空でも飛んだとしか考えられないね」


「瞬間移動とか」


「そんな便利な魔法は聞いたこともないけど、ぷつりと痕跡が消えてる以上、それもあり得るかな。そもそもこの状況だけでも異常だし、何でもありかも」


 我ながら子供っぽい発想だと思ったけどフラン様は否定しなかった。

 この爆発を防いだのが本当ならそれだけでもあり得ない事をやってのけた事になる。

 王女にそんな力があったら、他国に嫁がせないと思うし、侍女のアン姉にそんな力は無いはずだ、あったら侍女なんてやってないだろうし。


「フラン様は王女の護衛騎士を知ってますか?」


「ん?ああ、知ってるわよ。一緒の団だったこともあるし」


「どんな方でした?」


「すごく強い騎士だったけど、カチュが考えてるような力は持ってないと思うよ?」


「そうですか。 じゃお手上げです」


「王女が実は聖女だったとしても、こんな防ぎ方はしないだろうしこれ以上は此処を調べてもしょうがないわね。陣まで帰ろっか」


「はい」


 フラン様がそう言った時、遠くの方で光の柱が3本上がった。


「始まったわね…」


「フラン様、こっそり見にいきませんか?」


「いや、止めとく」


 そう言って光の柱を見つめるフラン様は少しだけ忌々しそうだった。



☆☆☆☆☆

 

 私達は殿下達の帰還を待ってから帰陣することにした。

 あそこは第2騎士団の居場所で居心地が悪い。

 流石にあからさまに見下してきたり、暴言を吐かれたりはしないけど、私達を余所者の感覚でいるのがやはり理解ってしまうのだ。

 敢えて夕暮れ前に帰陣すると、狙い通り殿下達は既に戻ってきていた。

 

 私達は殿下の天幕に直行し、警備の騎士に取次を頼む。

 そのまま中に案内されるかと思いきや、殿下が出てきた。

 出てきたのはミリンダ殿下ではなく、第二王女のサーラン殿下で私達に着いてくるように言うと、別の天幕に案内された。

 この天幕も魔道具で設置と解除が楽なので中々広い。

 どうやら通されたのはサーラン殿下の天幕の様。

 天幕の外に警護の騎士はいるけど、中には殿下とフラン様と私の3人だけ。

 確かに大っぴらにできる報告では無いけど、護衛を入れないで大大丈夫だろうか。

 帯刀していなくともフラン様がその気になれば素手で殿下を害する事なんて造作もないだろうし。

 私達を信用しているのか、それとも簡単に制圧できるという自負なのか。

 私は聖女だけど、殿下の聖女としての力がどれだけのものかはっきりとは理解らない。

 私だけでなく大抵の聖女は互いの実力を見極めることが出来ないと思う。

 私達は神々の力を借りるだけで力を発動しなかったら、ただ魔力を持っている人というだけなのだ。

 ただ殿下の魔力は私なんかより遥かに高いし、王族だしで何らかの護身の魔法を持っているのかも知れない。

 或いはそういった魔道具を持っているとか。

 私は今回の調査の必要だと、王家から渡されている魔道具の筒を握りしめながらそんな事を考えていた。


「団長は今、お忙しいので代わりに(わたくし)が聞きましょう」


 サーラン殿下の言葉に従い、フラン様が報告を始めた。


「結論から申し上げますと、メアルシア様は生きている可能性があります。カチュお願い」


 私はフラン様の言葉を受けて握りしめていた魔道具に魔力を流す。

 すると魔道具の先端にはめ込んだ水晶が光り、テントの幕に映像を写していた。

 この魔道具は魔力を通しているものの見えている光景を記録し、後で今みたいに再現できるもの。

 これを開発したのは伯爵家をパトロンに持つ魔道士で、3ヶ月ほど前に献上された物だ。

 何故そんな事を知っているかといえば、当人から聞いたから。

 任務で様々な情報を集める為に、私もフラン様も身分を偽り、冒険者ギルドに登録している。

 というか23騎士団員は皆しているはずだ。

 ある日、冒険者ギルドに奇妙な依頼が出ていたのを不審に思って受けてみたのが魔道士ラウルとの出会いである。

 依頼の内容は「求む魔力」という極めてシンプルなもので供給魔力量に応じて報酬金額が変わるというもの。

 聖女は高級取りなのでお金に困ってはいないけど、変わった情報が手に入るかもと思い依頼を受けてしまったのだ。

 そんな訳で当時の私はこの魔道具の動作試験に散々付き合わされる事になったのだ。

 だから今回の任務で大変見覚えのあるコレを渡された時、ラウルの無茶振りを思い出して少々げんなりしたし、全く知らないふりをして使い方のレクチャーを受けたのはとても面倒だった。 

 そんな経緯があって、今回の任務で私がフラン様の調査に同行していたのも、この場にいるのもこの魔道具を扱うのに魔力供給者が必要だからだ。


 フラン様が映像に映る爆心地の不審な部分の説明とどうしたらそうなるのかの考察を説明した。


「そう。彼は約束を守ってくれたみたいですわね」


 映像が止まった後、フラン様の報告を聞いたサーラン殿下はそう呟いた。

 この場合の彼とはメアルシア様の護衛騎士のことだろうか。

 たしか名前はカーライル……


『魔力だけはカール君を頼れないからねえ』


 その護衛騎士の名を思い出した瞬間にあの腐れ魔道士ラウルの言葉を思い出した。

 もしかしてカール君って騎士カーライル?


「魔道士ラウルと騎士カーライルに繋がりが?」


 私も思わず呟いてしまった。

 言ってしまってからはっとしたけど時既に遅し。

 私の言葉に殿下は大きく目を見開いたのだ。


「カチュリアといいましたか。どういうことですか?何故2人の名がでるのかしら?詳しく話なさい」


 やってしまった。

 わたしが知っている筈もないこの魔道具の開発者の名を知っていて、さらに騎士カーライルとラウルとに接点がある可能性を言ってしまったのだ。

 魔道具の開発者の名を広めてしまうと、他国から狙われる可能性が高くなるので警戒されて当たり前だ。

 こうなったら、魔道具開発のところは誤魔化しつつ話すしか無い。


「あの、この魔道具を見てなんとなく知り合いの魔道士を思い出しまして…それが魔道士ラウル・ソーデンですけど……仕事の一環で冒険者ギルドに登録してますとその男の出す依頼がちょくちょく目に入るんです。変わった依頼が多いものですから。ちょっと調べてみると魔道士ラウルは変わった依頼ばかり出すことで有名だったのです。それで変わり者なら何か変わった情報が入らないかと依頼を受けたことが事があるのです」


 こう言っておけば、この魔道具がラウル作だから思い出したわけではない、魔道具関連なのでなんとなく思い出しただけだと思ってくれるだろう。


「貴女とラウルの繋がりは理解りました。それで騎士カーライルとラウルの接点とは?」


 とりあえずラウルの研究に参加させられていたのは秘密にできそうだ。


「はい、確証は無いのですが、以前ラウルが『カール君』という者の名を出した事があって、それを今、思い出したのです。カール君がひょっとすると騎士カーライルで魔道士ラウルの魔法か何かで生き延びたんだとしらと辻褄が合うのではと思いまして」


「……成程。話は理解りました。で、貴女方は理解っているようなので(わたくし)から改めて言う必要はありませんね」


「はい、心得ております」

「わ、わたしもで口外致しません」


 他言無用の念押しにフラン様が間髪入れずに応答する。

 やや遅れて私も答える。

 反応の速さは聖騎士のフラン様には到底及ばない。

 

「報告ご苦労様でした。団長と陛下には(わたくし)から報告しておきます。貴女方には団長より指示を受けておりますのでここで伝えます。今日は交代で見張り任務に就き、明日王都に戻るように。以上です」


「「は、畏まりました」」


「見張りの交代までは休憩です。もう下がっていいですよ」


 フラン様と私は深く一礼し、貸与されて魔道具を返却してから退出した。

 そして私達に充てがわれている天幕に入った。

 こちらは一般騎士用なので男性4人がなんとか寝れる広さしか無いし、魔道具でもない組み立て式だ。

 私達は他団でしかも女性ということで2人で使わせて貰えるが、第2騎士団の聖騎士達は見張りもあってか共用天幕が何組かあるだけなので少々可愛そうだ。

 彼らのパートナーの聖女達も2人につき天幕1つと聖騎士達より格段と待遇が良い。

 騎士達は当然野営慣れしているけど、私達聖女もまた、聖女学園で幾度となく野営訓練を受けているのでこの程度で音を上げる者は居ないと思う。


「フラン様、丁度時間ですし食事にしましょう」


「そうね」


 このような戦地にあっては一斉に食事を摂ることはない。

 大軍なら兎も角、計40人にも満たないのだから、リスクを考えれば食事も交代制なのも頷ける。

 普通なら火を使う時間が長くなって、敵に発見されやすくなるのだけど、ここは聖騎士と聖女で構成された近衛でもある第二騎士団。加熱する魔道具もそれを使うのに必要な魔力もあって、煙が立つことが無い。

 ああそうだ、一人だけ例外がいた。

 第二騎士団の副団長のレガッス様は騎士ではなかった。

 レガッス様は魔道士である。


 私はここ数日おなじみのスープを作る為、加熱の魔道具を使ってお湯を沸かした。

 お湯を沸かしながら先程のサーラン殿下の呟きについて考えていた。

 殿下はメアルシア王女が生きていると確信しているみたい。

 内容から騎士カーライルがメアルシア王女を守る事を殿下に約束したんだと思う。

 もし本当にメアルシア王女が生きているなら、今頃どうしているだろう?

 安全な場所にいるだろうか?

 丁度私と同じ様に食事の支度をしているかもしれない。

 生きているなら、もうメアルシア王女ではなくてメアルと呼ぶべきかな。

 王女はクドナル公国に殺された、だから第二騎士団がこんな所にいるし、陛下も行軍している。

 メアルシア王女が殺されたという所を今更変更は出来ないなんてことは私でも理解る。

 でもまぁいいか、メアルがどう生きようと私達にはもう関係ないんだから。

 

 お湯が湧いたので、調理に専念し、野営食の粉末スープの元を熱湯に放り込み、かき混ぜる。

 調理なんていうのも烏滸がましいかもしれないけど、粉末スープの元を作っているのは王宮の料理人達でとても手間が掛かっているらしいから、そこからしたら調理といっていいよね。

 このスープに携帯用の硬いパンを浸して食べるのだけど、面倒なので私は先に入れてしまう。

 そこで役立つのが私の風の聖女の力で、硬いパンでも風の刃で細切れにできるのだ。

 勿論コントロールは繊細なので慣れが必要だけど、私はもう慣れたものだ。


「聖女の力を料理に使うのはカチュくらいだね」


「だって便利なんですもん」


 そんなやり取りをして食事を澄まし、見張りの交代になるまで仮眠を取ることにした。

 天幕の中で横になるとすぐフラン様が話しかけてきた


「……カチュ……今夜決行するよ……」


 それは前から2人で決めていた事だ。

  

「はい。何処までもお供します」


 だから私も迷いなく答えた。



☆☆☆☆☆



 数日後、私達は【モス国】のとある辺境の街にいた。

そう、私達は【アマリア王国】から脱走したのだ。

 晴れてお尋ね者なので、アマリアにはもう帰ることは出来ない。

 両親とは聖女検査で見出された時の契約で、法的に縁が切れているのでお咎めはないのだ。

【アマリア王国】は聖女にする縛りは家族ではなくて待遇の良さ。

【アマリア王国】の聖女の待遇はどの国よりもいいのだ。

 だから望んで他国に流れる聖女は居ない。

 でも私は例え貧しくなろうともフラン様と一緒にいる事を選んだ。

 フラン様は不遇だと思う。

 折角聖騎士なのに第23騎士団では表舞台に出ることは一生無いからだ。

 そして一度第23騎士団に入団してしまうと他団への移籍はなくなる。

 つまりそれ以上の出世はなくなる。

 更にアマリアの近衛騎士団に入れるのは【セレイブ】の聖女だけ。

 私とフラン様が契約を結んだのは第23団に入ってからだから、その点を私が気に病む必要は無いけど、アマリアではなかったら諜報騎士団なんかではなくて正規の近衛騎士団に入れたのではと思ってしまう。

 私自身は【アマリア王国】への不満は何もない。

 でも、国に対する忠誠も無かったりする。

 国への忠義とフラン様との絆を天秤にかけたらフラン様の方に簡単に傾いてしまった。


 実は今回の遠征に同行する事が決まる前からフラン様から出奔する相談を受けていたし、私は迷うこと無く一緒についていくと宣言した。

 フラン様は私を巻き込むのに躊躇いがあった様けど、騎士と聖女は運命共同体だと私が言って納得させた。

 フラン様も出奔して迷惑をかける家族ももう居ないそうだからお互い心置きなく出奔できる。

 親友のエリィに会えなくなるけど、それは今だって同じ。

 彼女は彼女で忙しく、私もほとんど王宮にいなくて会えていないのだから私が国外に行っても同じこと。

 いつでも出奔できるように当面困らない程度のお金は常に懐に入れてあるし、冒険者としての身分証明も持っているので困らないはずだ。

 だから今回の事は渡りに船だった。追手に追われる事無く【モス国】の近くまで安全にこれたのだ。

 出奔する当日、見張り番が回ってきた時は都合よく夜も更けた頃だった。

 仕掛はと言っていいのか、実に単純な手を使った。

 私は風の神【クテレ】の聖女だから風を操るなんて造作もない。

 誰も居ないところで木々や草を不自然に数カ所で鳴らしただけ。

 クドナル軍を急襲した当日だけに神経質になっていて、それだけで敵襲かと大騒ぎになった。

 そして私達は斥候に出るふりをして気配を消しつつ出奔したのである。

 

【アマリア】は【クドナル公国】に戦を仕掛けた以上、すぐに【モス国】に働きかける事が出来ないのも好都合で、あっけないほどすんなり【モス国】に入った。

 女性の聖騎士は珍しいので私達が聖騎士と聖女だと疑いもされなかった。

 辺境の街ならそんなものかもね。


 そう言えば、エリィにはギルドに依頼して後日手紙を届けて貰うことにしてある。

 勿論依頼報酬もギルドにお渡してある。

 そろそろエリィの元に手紙が届けられたころだろうか。

 実はエリィとはまた何処かで会える気がしている。

 それが戦場で敵としてで無い事を祈るばかりだ。



続く

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