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騎士と聖女の物語  作者: 丁太郎
出会い編
3/36

3.少女の力

 私メアルは、冒険者のカールさんに話しをしたいと呼び出され、会いに来ています。

 待ち合わせの双子の木の前でカールさんは待っていました。


「お待たせしました」


「いや、無理に呼んだのは俺だ」


「それでお話って?」


 私は話の内容が気になって急かしてしまいました。

 カールさんは私について何か感づいているフシがあります。

 警戒しつつも、内容に興味があったのです。

 そしてもし、私の力に気付いているのなら、カールさんもまた特殊な力を持っている事になります。


「話の前に、場所を変えよう。これを持ってくれ」


 そう言ってカールさんは私に何かを手渡してきました。


「ネックレス……指輪?」


 それは古ぼけた銀の指輪にシルバーチェーンを通したネックレスでした。


「ああ、まだ指輪は大きすぎるからチェーンを付けた。その指輪は鍵になる。落とさないように首に掛けてくれ」


 指輪が鍵?何の鍵?意味はわかりませんが言われた通りに首に掛けました。

 

「掛けたわ」


「では失礼する」


 そう言うとカールさんは私を抱きかかえました。

 所謂お姫様抱っこです。

 早業過ぎて抵抗する間もありませんでした。


「え、あ、あの」


「少しだけ辛抱してくれ」


「は、はい」


 驚きが収まると、次は恥ずかしさが込み上げてきます。

 今、私は顔が真っ赤になっていると思います。

 返事の声もいつもより高いトーンになってしまいました。

 王女つまり正真正銘お姫様だった事もありますが、お姫様抱っこされたのは、初めてだったのです。

 恥ずかして直ぐにでもカールさんの腕の中から脱出したい。

 でも、7才の非力な女の子が暴れても逃れられそうも無く、観念しておとなしくするしかなさそうです。

 カールさんは私を抱きかかえたまま、双子の木の別れた幹の間に入ろうとしたので、私は慌ててカールさんに村の決まりを伝えました。


「あ、子供は森に入ってはいけないの」


「大丈夫、一応森の中では無い」


 私の言葉に取り合う事無く、そう言ってカールさんは分かれた幹の間を通り過ぎました。

 

「え、うそ」


 目の前には開けた広場。

 あり得ない。

 そう、あり得ない事に森の中の開けた広場の中に私達はいました。

 あまりな事に、恥ずかしさは消し飛び、今は驚きでいっぱいでした。


「お願い、下ろして」


 私は下ろして貰い、周囲を見渡しました。

 広場の周囲には木々が生い茂っていて、その奥は暗くてまるで森の奥深くに開けた場所にいる様に思えました。

 背後にきちんと双子の木もあります。

 でもその向こうはやはり暗いのです。

 どう考えても在り得えません。

 双子の木の向こうに木々はなく草原の筈なのですから。


「ここは……」


「大森林とは別の場所と思ってくれ。だから森には入ってない」


 空間移動?それとも多重空間? 

 そんな魔法は聞いた事もありませんでした。

 私の知識では理解できない現象です。

 カールさんは一体何者なのでしょう?

 只の新米冒険では到底説明がつきません。


<どうしよう。これって結構危機かしら>

 

 カールさんの得体の知れなさを思い知らされると、謎の場所に2人きりというこの状況に危機感を覚えました。


「出たかったら、双子の木の間を通れば出れる。その指輪を持っていれば出入りできるから試してみるといい」


 カールさんは私の焦りを見透かしたのか、この場からの出方を教えてくれました。


「はい」


 私は驚きましたが、この状況の不気味さよりも好奇心が勝ってしまい、言われた通りに双子の木の間を何回か行き来して見たののでした。

 実際カールさんが言った通り、いつもの双子の木の見慣れた景色と広場とを行き来できました。

 試しに双子の木の脇を通ったみると広場に出ずに森の中に入ってしまいました。

 図らずも村の決まりを破ってしまいました。

  

 戻ってカールさんの話を聞くべきか?

 カールさんは、はっきり言って異常です。

 15才で冒険者に成りたてなのにあの強さ。

 お金は持っていなさそうなのに、高価な魔法のランタンを持っていました。

 紙切れを私に渡したのも、普通なら紙自体が高価なのに気負いもなく渡してきました。

 実は貴族なのかもしれません。

 でも、ならこの場所は何のでしょうか。

 魔道具で作り出したとか?

 何の為に?

 

<逃げた方がいいかな?>


 でも村も家も知られています。

 悩んで、でもやはり好奇心が勝ちました。

 カールさんは悪い人では無いでしょうから、戻って兎に角話を聞いてみよう、という結論に達したのでした。


「戻ってきたな」


「ええ。話を聞いてないもの」


「警戒しないでくれ。メアルに危害を加えたい訳じゃない。此処に来たのは俺の用があったからだが、話をするのにも都合良かった。だから敢えて秘密の場所を教えたんだ」


 此処がカールさんの秘密の場所なのは分かります。

 でもこの場所が都合が良いとは?

 それは誰にとってかしら?

 それによっては話の方向が変わってきます。


「カールさんの事を信じるわ。でも判るように話して」


「そうだな、では君は何才だい?」


「えっと、7才。言ったと思いますが」


 なんで今更そんな事を聞くのでしょうか?


「言い方を変えようか。君の最も古い記憶で君はなんと言う名前だった?」


<え?これって……やはりカールさん気付いている……>


「………」


「答えたくないか。まぁいい。メアルも疑問に思っているだろうから教えておく。俺()転生者だ」


「カールさんが転生者……」


「ああ、俺には前世の記憶が有る」

 

 カールさんは私と同じく転生者……

 だから私の事も判ったと?

 でもそうならなんとなく判ります。

 そうなら、引き継いでいるのは記憶だけではないという事ですね。

 

「その受け入れの早さはやはり」


 私があっさり納得した、その様子で、バレてしまいました。

 私が転生者である、と確認してカールさんはどうしたいのでしょう。

 単に仲間が欲しいという訳では無さそうです。


「あの……その……私……」


 どうしましょう。

 もう隠す意味はないのでしょうが……


「済まない。転生者の確認が本題ではないんだ」


「では何を……」


「俺が前世から引き継いだのは記憶だけじゃ無いと言えば判るか?」


 案の定カールさんは私と同じく記憶以外に能力も引き継いでいるのね。

 つまりカールさんは私の能力を知りたがっている?

 どう答えましょうか。


「カールさんが強い理由も、新米冒険者なのに高価な物を持っている理由や、こんな場所に出入り出来る理由もなんとなく判ったわ。それで私にどうしてほしいの?」


「警戒するのは無理もないか。メアルにこんな話をしたのは単に興味を持っただけ、昨日魔物に何をしようとしたのかをね」


「それは……」


「7才の女の子の態度では無かった。あれは戦いの中に身を置いた事が有る者、それも相当の修羅場を潜ってきた者」


「そこまで判るなら、私がしようとしたことも判るでしょう?」


「なんとなくは。此処は閉鎖空間だから見られる事もないし、外に被害も出ない。だから思い切り試してみるといい」


「……」


「俺は用が済んだら此処から出ていく。薬草取りも此処に用があるからついでに受けた依頼でな。本当は此処に来るのが目的だった。指輪は貸しておくから気が向いたらでいい」


「何故なの?」


 カールさんにしてみれば、私が転生者仲間だからって秘密の場所を貸す義理も理由も無いはずです。

 私は結局何も明かして無いのだから尚更の事。

 それとも目的は別にあるのでしょうか?


「メアルにまとわりついているモノ。それに抗いたいのだろう?なら今から出来ることを見極めて能力を伸ばせばいい」


「何故それを……」


 私が最も話したくなかった事。

 その秘密を言い当てられた事に動揺し、つい認めてしまいました。

 カールさんは表情を変えませんでした。


「話はおわりだ。指輪は預けた」


 カールさんは私の質問には答えず、奥の方に歩き出しました。

 私は慌てて後を追います。


「答えて」


「メアルが教えてくれたらな」


「それは……」


 私の秘密と持つ力を教えたらカールさんは教えてくれるでしょうか?

 カールさんなら同じ転生者として判ってくれそうです。

 でも裏切られたら……


「なら今は何も考えずにこの場所を利用すればいい」


「いいの?」


「ああ、いいさ。言いたくないなら言わなくていい。元々は俺が手を貸したくなっただけだ」


「ありがとう」


「それから此処は時の進みが遅いとか、そういう便利な修行場ではないからな。普通に時が過ぎる」

 

「お日様は本物なの?」


「ああ、太陽や月、天気は外と全く同じだ」


「では今はお昼ね」


「そうなるな」


「出入り口は双子の木の間だけ?」


「ああ正解だ」


「ここで指輪を無くしたら出れなくなっちゃうの?」


「いや、指輪が必要なのは入る時だけだ。でもここで無くしたら二度と入れなくなるな」


「大事にします」


「まあ、此処で落としても目立つから直ぐに気付く」


 私は試しに指輪を地面に置いてみました。

 カールさんも立ち止まってくれました。

 置いた瞬間、指輪が光りだしました。

 とても眩しい光です。

 これは気づかない訳がないですね。


「確かにこれなら気付かない方がどうかしてるわ」

 

 私は指輪を拾います。

 不思議なことに拾い上げた瞬間、指輪から発する光は消え、古ぼけた銀の指輪に戻りました。

 これが銀なのか実際の所はわかりませんが。


「さて、俺はあそこに見える小屋に用がある」


 そう言ってカールさんはまた歩き出しました。


「待って」


 私も再びカールさんの後を追いました。


「あの小屋には何があるの?」


「昔、かつての俺が暮らしてしただけで、大した物は無い」


「それって何年前なの?」


「質問ばかりだな」


「……ごめんなさい」


 カールさんに言われて私は謝っていました。

 『何も教えてくれないのに自分は聞くのか?』そうカールさんに咎められていると思ったのです。


「いや、謝るほどのことでは……そうだな此処には100年ぶりか」


 カールさんは教えてくれました。

 本当にどうして私に優しくしてくれるのでしょう。


「どうして……」


「さて、着いた」


 カールさんは教えてくれる気はないようです。

 私は気を取り直して目の前の小屋を見ました。

 小屋は丸太で組まれたもので、100年も主不在だったというのに朽ちた様子は見られません。

 風雨にさられているので多少の汚れはありますが、気にならない程度のものです。

 これなら私の家より上等です。

 

「100年前の家に思えない」


「そうだろう。保存の魔法がかかっている」


「え、時間を司る神なんて」


 私は驚きの声を上げました。

 そんな神など居る筈ないからです。

 神々の最終戦争以降、神々は人の前に姿を表さなくなったと言われています。

 もし時間を司る神がいるのなら、今でも、人界と神界は繋がって居るでしょう。

 少なくとも時間を司る神だけは世界に君臨しているでしょう。


「いや、腐敗を司る神【バーロ】だ」


 カールさんは私の疑問に答えてくれました。

 その答えに盲点を突かれたと思いました。

 腐敗させないために腐敗の神の力を借りるなんて。

 なるほどと納得もしてしまいました。


「納得したか。メアルは神々に詳しいんだな」


「それなりには……」


「将来は聖女になりたいのか?」


「そんな事思ったことも……無いわ」


 カールさんは尻窄みに答えた私を見て、笑みを浮かべました。


「ゆっくり考えればいい。 で、ここまで着いて来たということは掃除を手伝ってくれるということか?」


 カールさんはそう言うと小屋の玄関扉を開けました。

 当たり前だけど鍵は掛けて無いようです。

 ここに忍び込める泥棒などいないのですから。


 扉を開けた瞬間、ホコリが舞いました。

 私は距離があるから被害を受けませんでしたが、カールさんは顔の前の空気を手で払いながら咳き込んでいます。


「いきなり開けるから」


「すまん。流石に留守が長すぎたか」


「マスクになるようなもの持ってないの?」


「無いな」


「では、水は?」


「裏手に井戸がある」


 小屋の裏側に回って見ると手漕ぎポンプ付きの井戸がありました。

 カールさんがポンプを動かします。

 やがてポンプの給水口から濁った水が出てきました。

 暫く水を組み上げ続けると濁った水は澄んだ色に変わっていきました。

 良かった水は確保できそうです。


「ふー、疲れるな」


 カールさんは汗を拭っています。


「少し待っていて下さい。掃除道具を取ってきます」


「手伝ってくれるのか。助かる」


 なんでしょう、昨日はあんなに頼もしいと思ったのに今はとても頼りなく感じています。

 カールさんの生活能力は高く無いのですね。

 私は、この場所を貸してくれるお礼として小屋の掃除を手伝う事にしました。

 自宅からバケツ、雑巾、ホウキなどを持ってくると、早速お掃除を開始します。

 小屋はさして大きくないので、2人で手分けしてお掃除。

 カールさんには私の指示に従って貰ったので、時間を掛かることも無く、生活出来るようにはなったと思います。

 ぶっきらぼうな物言いなのに、素直に従ってくれるのギャップに笑えてしまいます。 


「カールさん、食事はどうするの?」

 

 そろそろ夕暮れ時、掃除も終わり今日のところは帰ろうとした所で気になって尋ねました。


「冒険者だからな。今日の分の保存食くらい持ってきてる。明日からの分は狩りでもするか」


 カールさんの答えははざっくりしたものでした。

 結構ノープランなのねと半分呆れました。

 この人大丈夫かな?と本気で心配になってきます。


「今日も家で食べません?」


「いや、それは悪い。それに今からここでやる事が有る」


「わかりました。今日は帰ります」


「ああ、今日はありがとう」


 カールさんが笑顔でお礼を言ってくれました。

 私は顔が赤くなるのを悟られないように走り去りました。

 はしたないかも知れませんが、体は7才の子供なので問題ありません。

 と思います、たぶん。 



◇◇◇◇◇



 私は今日もこの場所に来ていました。

 既に家事をこなし、夕食の下ごしらえも終わっています。

 それでもお昼までにはまだ時間があります。

 今日は、カールさんの夕食を差し入れに持ってきていました。

 野菜と鹿のロースト肉を小麦と豆を挽いた粉を卵で溶いて焼いた生地で挟んだものを、木の実で作ったペーストソースで味付けしたものです。

 放っておくと禄な食事をしないだろうカールさんに、美味しいと言って欲しくて、作ってしまったのでした。


 小屋に近づくとカールさんが上半身裸で小屋裏から出てきました。

 井戸水で体を拭いたのか、濡れています。

 その状況下、カールさんと目が合いました。


「来たな」


「こんにちは。何故裸なの?」


 知り合って3日目、私もカールさんの扱いに慣れてきたのかもしれません。


「刀鍛冶だった人生もあってな、そもそも此処には刀を打ちにきた。工房は暑いんだ」


「カールさんは鍛冶屋さんでもあるのね」


「研ぎも出来るからな。自分の武器は自分で作るさ」


「もう出来たの?」


「まさか、そう簡単じゃない。炉が使えるか調べただけだ」


 昨日掃除した際に入れて貰えなかった部屋がありました。

 そこがカールさんの工房だったようです。

 小屋の煙突から煙が出ています。


「とにかく、服を着てください」


「わかった、ところでそれは差し入れか?」


「服を着てくれたらあげます」


「それは有難い」


 カールさんは目を輝かせて小屋に入っていきました。

 初日はもっとクールな人と思っていましたが、そのイメージはだいぶ崩れてきました。

 それとも私が餌付けしてしまったのでしょうか。


 カールさんは服を着たらしく、小屋の入り口から顔を覗かせると私に手招きをしてきました。

 

「お邪魔します」


「いちいち挨拶はいい」


「親しき仲にも礼儀有りだわ」


 気がつけば対等に話しています。

 それを許してくれるカールさん。

 不思議な人です。


 小屋に入るとテーブルにお茶が淹れてありました。


「口に合うかわからないが、冒険者の茶だ」

 

 多少の解毒効果がある薬草で作ったお茶で、生水を飲まないとならない時はこの葉を口に含んで飲むか、お湯を沸かせるなら茶葉代わりにすると、カールさんが教えてくれました。

  

「頂きます」


 一口、口に含んでみます。

 渋みや苦味は思ったほど無く、独特の風味だけど不味くありません。


「それでそれは、食べ物か?」


「ええ、夕食にーー」


「今、食べてもいいか?」


 夕食にどうぞと言い切る前に言われてしまいました。


「どうぞ」


 そういうとカールさんは私の持ってきたカゴから野菜と鹿肉のサンドを取ると、躊躇すること無く頬張りました。


「美味い!」


 期待どおりの言葉と笑顔を貰い、つい私も笑顔になってしまいます。

 本当に餌付けしてますね私。 


「ふふふ。カールさんは刀が打ち終わるまではここに?」


「今夜、一旦スタに買い出しに向かう。色々と足りない物もあるのが判ったし、魔物の件で報告もある」


 そう言えばそうでした。

 その辺りの事はカールさんがやってくるという話になっていたのでした。


「冒険者ギルドにも戻って報告をするの?」


 そうなれば、此処には暫く戻ってこない事になります。


「いや、ギルドにはスタの警護隊から報告とタグを送って貰う。ここには明日の日没前には戻る」


 スタに冒険者ギルドの支部はありませんが、その代わり警護隊は冒険ギルドや魔道士ギルドとパイプを持っているとカールさんが教えてくれました。

 その地方ならではの連絡網があるという事でしょう。


 私はホッとしている自分に驚いていました。


「いくら強くても無茶はしないで下さいね」


「……ああ、了解だ」


 更に気がつけば、心配までしています。

 私より年上なのに無茶をする弟をもった姉の気分になるのは、カールさんの生活能力の低さからでしょうか。

 この小屋にも調理台がありますが、食器が洗われていません。

 昨日の今日なのに各所がもう散らかっています。 


 カールさんのだらし無さに呆れつつも、お茶を飲んでほっこりしていました。

 なので、まったくもって油断していたとしか言い様がありあせん。

 カールさんが不意に意味深な言葉を投げてきたのです。


「差し入れの礼に、()()()()()にアドバイスしよう」


「え?」


 本当に思いがけない言葉でした。

 それは私の能力を言い当てていたのです。


「メアルは()()()を顕現できる。そうだろう?」


 この人は何処まで見抜いているのでしょうか。

 そんな思いを他所にカールさんは続けます。


「何度も言うが、警戒しないでいい。ただ転生者のよしみだ」


「それを信じろと言うの?」


「俺も君も何故転生を繰り返すのか、理由も判らず足掻いている。この出会いも偶然か必然かも分からない。結果何をもたらすのかもだ。だが俺は君が強大な力を持っていると感じてしまった。だから俺が知る限りの事を教えておこうと思った。メアルが一人でも戦えるように」


 言い終わると、カールさんはお茶をズズズと啜りました。

 そうなのですね、カールさんも転生の理由を判らずに生きているのですね。

 私と同じで足掻いている……ですか。

 私はもう諦めの方が強くなっていますが。

 カールさんのアドバイスで私はまた戦える様になるのでしょうか。


「お行儀が悪いです」


「冒険者だからな」


「一つだけ聞かせて下さい。私に掛けられている呪いについても知っているの?」


「禍々しい力を感じているだけだ。ただ呪いと戦う為にも俺の話を聞いておくべきだ」


 ここまで判っている相手にこれ以上秘密にする必要は無いでしょう。

 私に掛けられた呪い、それは私が18才の誕生日になると私に致死の災厄を振りまく呪いでした。

 私に降りかかる"死"は色々な形でやってきました。

 ある人生では病死、またある人生では事故死、勿論殺されたことだって何度も有ります。

 一番酷いものでは、"魔物に生きたまま食べられる"なんて死に方も経験しました。

 18才になった瞬間から死の影が常につきまとう様になるのです。

 勿論、抗いましたし解呪の方法も探ってきました。

 過去、騎士だった人生で20才まで生き延びたことがありましたが、それが最長でたいていは18才の内に命を落としました。 

 ああ、呪いに関係なく5才位で命を落としたこともありました。

 

 治癒の魔法を学び、いかなる病気も治せる様になりました。

 なので今は病死の心配はありません。

 怖いとすれば事故や襲われることです。

 だから戦う力を増しておくのは重要で先日魔物と対峙してその意識を強くしたばかりでした。


 でも、どうせ今回もきっと無駄という諦めもあるのです。

 それに呪いが無かったとしても、この戦乱の世の中で長く生きてどうなるのでしょう。

 もはや死の呪いより、繰り返す転生の方がよほど呪いなのではとも思っています。

 

 カールさんはひょっとしたら、希望の光?

 この出会いは呪いも転生も何もかも断ち切ってくれる?

 抗おうと、絶望しよう呪いも転生も繰り返されるのなら、それならカールさんを信じてみましょう。

 カールさんの話に乗ってみましょう。

 不思議にそう思えました。


「そう……ですね」


 藁にも縋る思いで出た言葉は掠れていました。

 私の返事にカールさんは無言で頷いて、そして尋ねてきました。


「メアルの信仰する神の名は?」


「……いません」


「それは?」


 カールさんの疑問は尤もでした。

 私はカールさんを信じて、話に乗ると決めました。

 だから、私は私の力の名を告げる決心をしました。


「信じる神はいません。でも顕現出来るの」


「契約もなく顕現できる……そんな事が……」


 カールさんの呟きから戸惑いを感じます。

 普通はあり得ないので、それは尤もな反応でした。


「メアルの神の勇士兵(エインヘリヤル)の名を教えてくれないか?」


「はい……私のエインヘリヤルの名は【ルアメットゥーナ】……」


 私が告げたその名にカールさんも流石に驚いた様で、息を飲むのが判りました。


「驚いた。白銀のルアメットゥーナか」


「流石に……知ってますよね」


「ああ、知らない方がどうかしている。そうか……そうだろうと思っていたがメアルの聖女としての格は特級か……これは失礼した大聖女殿」


「もう、からかわないで下さい」


「いや、本気だ。その名が出るとは流石に思わなかった。よく教えてくれた。有難う」


 そう、有名なエインヘリヤル。

 それが私が顕現できる力でした。

 

 420年程前、この世界【イバラーク】最大の大陸【サイガスト】に突如現れた魔物と呼ばれる災厄。

 最大100メタ(10メートル)に及ぶ魔物が世界の各地に発生し、人類はその脅威に全く太刀打ち出来ませんでした。

 襲われる都市や人々。

 あっという間にいくつもの国が滅び、人類の版図が最盛期の10%になるまでさしたる年数はかかりませんでした。

 勿論、人類も抵抗しなかった訳ではありません。

 魔物は、この世界に住む全ての生物の敵です。

 人間、エルフ、ドワーフ等種族の垣根無く共闘しました。

 各種族の持つ技術や知識を出し合い、対抗策として戦闘用巨大ゴーレムも生み出されました。

 しかし、ゴーレムはそもそも戦闘に不向きで魔物に太刀打ちできませんでした。

 いよいよ滅亡のカウントダウンが始まり人々が絶望したそんな時、アマリア王国の王女【アリーシャ】がこの世に生を受けました。

 それが私の最初の人生。

 私は、神の世界と隔たられたこの世界で神々と交信できる巫女達に目を付けました。

 そうして生まれたのが、【エインヘリヤルの秘法】。

 かつて神と人の世界が繋がっていた時代、神の兵士として神々に仕えた人間の英雄達の霊が居ました。

 彼らは神の勇士兵(エインヘリヤル)と呼ばれています。

 そんなエインヘリアルを神と契約を結ぶ事で顕現させた身の丈100メタ(10メートル)の巨大な鎧の騎士。

 巫女は自らの魔力と体を依り代にし、英雄霊を顕現させます。

 ただし巫女は多くの意識を顕現に費やすため体を動かすことができませんでした。

 そこで近接戦闘に長けた戦士と契約を結ぶことでリンクし顕現させる際に共に取り込み体の動きは戦士に任せることにしました。

 巫女と戦士と神の力と英雄霊、全ての力が合わさりエインヘリヤルは強大な力を発揮しました。

 この秘法の誕生により、人類はかつての60%まで土地を取り返すまでに息を吹き替えしたのです。

 しかし、この力を得た権力者達が領土拡大の野心に利用しない筈も無く、人類は国同士が争う戦乱の世に突入しました。

 そして現在に至っています。

 かつての私の願いは魔物から人々を守ることでした。

 確かに人類は滅亡の危機からは脱しましたが、新たな悲劇を生み出してしまったのです。

 

 いつしか神と契約し、神に属する英雄霊を顕現できる巫女を【聖女】と呼び、聖女と契約し共にエインヘリヤルを駆る者を【聖騎士】と呼ぶようになっていました。

 そして現在では、エインヘリヤルは巨兵と区別し、大騎士とも呼ばれています。

 また、一人の聖女が顕現できる英雄霊は神との契約の際に遣わされた英雄霊のみ。

 それぞれの英雄は有名で逸話が残っています。

 死に様がそのまま弱点繋がっている場合もあるので基本英雄霊の名前を明らかにする聖女はいません。

  

 エインヘリヤルを生み出したアマリアの王女アリーシャ。

 【初めの聖女】と謳われたかつての私も大騎士を顕現させることが出来ます。

 ただし神々と契約することも無しにですけど。

 理由はわかりません。

 更に言えば、エインヘリヤルの秘法とは、私が出来ることを他の人が出来る様にしただけのものだったのです。

 秘法の開発には様々な苦労がありましたが、それは別の話。


 強い力をもった聖女が神と契約する際、神は稀に神の眷属である神を遣わされる場合が有ります。

 その場合は、逆に大々的に名前を出すので"ネームド"と呼ばれています。

 そのネームドの大騎士を顕現できる聖女は特に【大聖女】と呼ばれています。

 しかし私の場合、調べた限りでは神にも英雄霊にもルアメットゥーナという名は見つかりませんでした。

 その名を何故私が知っているのかも全く分からりません。

 初めて顕現させたその瞬間、まるでその名を思い出した様に頭の中に閃いたのでした。

 その名は、【初めの聖女】という異名と共に知らない者が居ないほどに有名なのでした。

 

「私は聖女認定されないわ」


「どういうことだ?」


「契約なしに顕現はできる。でも、そもそも私は神と交信することすらできないの」


「それは……驚きの真実だな」


「ええ」


 今より300年程前、聖女の発掘、育成を目的とした【聖女教会】という団体が組織されました。

 聖女教会は世界の国々から聖女候補をスカウトし、育成し聖女を世界の国々に斡旋しています。

 この国にも毎年スカウトが来ています。

 それと、この国も独自に聖女の才能がある者を発掘しています。

 理由はわかりませんが、聖女の力が男性に現れる事は無く、必ず女性です。

 例外はありません。

 だから、この国の女性は10才になると国の審査を受けなければなりませんでした。 

 私の場合は自らバラさない限り、審査を受けても認定されることは無いと過去の人生で実証済みでした。

 

「とりあえず見せてくれ」


 私はカールさんの要望通り、実際に見せることにしました。

 無言で頷くと広場にで出ます。


「少し離れていて下さい」


 カールさんと距離を取ると私は祈り始めました。

 外なる神に向かってではなく、内なる自身に向かって。

 

 体が光り出すのがわかりました。

 光は膨れ上がり、広がていきます。

 やがて光は、光の柱となって天に向かって伸びました。

 光が収まった時、巨大な騎士が顕現するのです。


 私は顕現の成功に安堵しました。

 今生では勿論、ここ数回の人生では顕現させることがなかったのです。

 顕現させると当然ながら目立ちます。

 だからそんな機会に恵まれませんでしたし、そもそもその時々の人生でその必要も無かったのです。


 眼下にカールさんが小さく見えます。

 いや視覚という意識で感じていると言うべきでしょうか。

 その視覚意識は全方に広がっています。

 そして体はやはりピクリとも動きません。

 体と魔力を依り代にして、力の顕現と維持に意識をの大半を費やしているので仕方がないのです。

 その上、動きの制御をするのは流石に人間業でありません。

 これで戦闘など出来る筈も無く、私に出来る事は他の聖女達と同じくこの体の維持と魔法の行使くらいです。

 久しぶりに力を顕現させているので、魔力消費の感覚がつかめていません。

 これは体で覚えるべきことなので、覚え直すしかありません。

 でも転生前の経験でコツは判っているので、練習すれば直ぐに慣れるでしょう。


 <魔力にまだ余裕があるけど消費にムラがあるわ。今後の課題ね>


 私は顕現を解き、カールさんに感想を求めました。


「どうです?」


「恐るべき7才だ。圧倒的な力を感じた」


「どうしたしまして」


「伝承では白銀のルアメットゥーナは白銀に輝く美しい女性騎士ということだが、本当だった」


「ありがとう。それでカールさんのアドバイスは何ですか?」


「その前に一つ質問だ。力を顕現させていた時、体は動かせるか?」


「いえ、ピクリとも」


「そうだろうな。余りに強大な力を制御するからな。意識を回せまい」


「なら、どうすれば?」


「簡単だ。そこまでの力を使わなければいい」


「?……意味が分かりません」


 私は意味がわからず、首をかしげてしまいました。


「身を守るだけなら、そこまで強大な力は必要ないだろう。ならば顕現させるイメージを精々自身を覆う鎧程度にすればいい。それなら動かすのは自分の体だし、訓練すれば鎧の維持も無意識で出来るだろう。だが神の力で作った鎧は最高の守りになる」


「確かにそれなら欠点は魔力を消費するくらいね」


「要は力の使い方だ。使いこなせれば、武器を振るいながら魔法も使えるようになる筈だ」


「そうかしら?」


「先ず試してみてはどうだ」


「そう……ですね」

 

 そんな力の使用方法は考えた事もありませんでした。

 私は半信半疑でカールさんの言う様に鎧をまとうイメージでルアメットゥーナの力を顕現させてみます。

 

 私の体が光り、光が収まった時、私は鎧を纏っていました。

 青いスカートにスリットが入っていて動きの邪魔はしなさそうです。

 胸、手、脛から足の甲、額を守る鎧は白銀に輝いています。


「身長はともかく、神話に出てくる戦乙女のようだな」


 戦乙女とは英雄の死後、その魂を神の兵として神界に導く者達の事です。

 美しくも気高い乙女達ととされているので悪い気はしません。

 身長の事以外は。


「まだ7才よ。これから伸びるわ」


「頑張れ。牛の乳がいいらしいぞ」


 カールさんはいい人と思っていましたが、訂正します。

 カールさんは意地悪です。


「とりあえず成功だな」


「はい、ありがとうございます」


「メアルが秘密の力を見せてくれたから、俺も見せるとしよう。顕現はまだ解かないでくれ」


 そう言ったカールさんはいつの間にか刀を持っていました。


「え? いつの間にどこから」


 そういった直後、カールさんの手から刀は消えています。


「これが俺の収納する力だ。よく判らん謎の場所にしまった物を瞬時に出し入れ出来る」


「凄い……」


 そう言った次の瞬間カールさんの手には銀の腕輪と青いイヤリングが一対がありました。


「それは?」


「鎧を顕現出来るようなったのいいが、武器もとなると大変だろう?」


「という事はその腕輪とイヤリングは武器ですね」

 

「ああ、武器に変化する。とりあえず身につけてくれ」


 そんな事がありえるでしょうか?

 今まで転生してきた中でもそんな物があるなんて聞いたこともありませんでした。

 カールさんはどうにも言い出すことが突拍ありません。

 またも半信半疑ですが、受け取って身に付けました。


「それぞれ変化させる時だけ手に当てて少し魔力を流す必要があるが、変化させた後は必要ない。戻す時も同じだ」


 言われた通り、腕輪を触れながら魔力を流してみます。

 すると腕輪が長い棒に姿を変えていくではありませんか。


「それは錫杖という」


「これは杖なの?」


 断面が六角形の長い棒の一方の先端にいくつものリングが付いていて、地を突けばシャランと涼やかな音が鳴りました。

 しかし私には長過ぎます。

 身長の倍以上の長さがありました。


「魔法の杖と同じで威力の増幅ができる。勿論打撃武器にもなる」


 私は頭上に光に輪を生み出し、空に向かって飛ばして見ました。

 

「光属性が得意か。珍しいな。いや、君は"初めの聖女"様だったな。その光輪を魔物にお見舞いするつもりだったんだな」


 カールさんが驚き、勝手に納得していました。

 私はカールさんに頷きで答え、錫杖を腕輪に戻すと今度はイヤリングの方を試してみます。

 イヤリングは変化し、手には短い棒の様な物があります。


「これは……剣の柄?どう使えば?」


「それは大気に漂う魔力を光の刃に替える魔導具で、魔導剣と呼ばれている。柄の一部にボタンがあるだろう?押している間だけ刃が出る。自傷しないよう気をつけてくれ」


「あ、はい」


 ちょうど人差し指が当たる辺りにボタンがあり、押し込むように握るとブィンという音と共に金色に光る刃が現れました。

 イヤリングは2ケ。

 ならば双剣で使う事もできます。

 私は騎士の人生だった時、双剣使いでした。

 都合が良すぎです。


 近接戦闘出来る装備が整ってしましました。

 近接戦闘が得意な聖女がそうそういるとも思えませんから、一般的にはあまり実用性のある使い方ではないでしょう。

 しかし、私には大いに役にたちそうです。

 単独で中型の魔物にも立ち向かう事も可能になるかもしれません。


「剣は2本有るのね。でも……杖もだけど、長いわ」


「大人用の武器だ。今後の成長に期待だな。特に身長の」


「確かに腕輪もブカブカだし大人用ですね。意地悪カールさん」


「怒るな。子供用の魔導武器が有るはず無いだろう」


「それはそうですね。で、これも貸してくれるの?」


「ああ、だから返す日まで生き延びろ」


「あ……はい」


 嬉しかった。

 カールさんが結局何者なのかは判りません。

 これだけの魔導具がいくらするものか見当もつきませんが、1個だけでも売れば一生遊んで暮らせるに違いありません。

 それを会って間もない私に貸してくれるのです。

 私に、呪いに負けないように生きろと言ってくれます。

 涙が……


「さて、では訓練するか」


 内心感動していたら、カールさんの方より鬼のようなセリフが聞こえてきました。

 感動は消し飛びました。

 カールさんは意地悪で、更に鬼です。



◇◇◇◇◇



 カールさんのシゴキの結果、私は鎧を維持出来なくなって、四つん這いで荒くなった息を整えていました。


「経験が有るのも判るし、センスもある。あとは場数とスタミナだ」


「私が7才って知ってますよね」


 いくら、知識と能力を前世から引き継いでいると言っても体は7才で子供の体力しかないのに。

 カールさんの訓練はスパルタでした。


「回復魔法まで使いこなす規格外の7才に遠慮は要らないだろう」


「カールさんは意地悪だわ」


「それも生き延びて欲しいからだ。敵は容赦してくれない」



◇◇◇◇◇



 次の日、私は筋肉痛になりました。

 痛みを堪え、ぎくしゃくする体でまた秘密の広場に来ています。

 カールさんは言っていた通り スタの町に向かった様でした。

 一瞬は躊躇いましたが、勝手に小屋に入ると案の定、昨日より散らかっていました。

 ため息が出ます。

 ほんと、生活に関してはダメな人。

 勝手に掃除するのもどうかと思いましたが、魔導具のお礼に掃除することにしました。 


<ふう、2日でここまで散らかすなんて。才能があるのかしら>


 こうしてその日は掃除で一日が終わりました。

 そして翌日より掃除や洗濯のお世話をしながら、みっちり戦闘訓練でシゴカれる事になったのです。



続く

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