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騎士と聖女の物語  作者: 丁太郎
出会い編
2/36

2.コバ村にて

 魔物に襲われた私達を助けてくれた少年。

 心に余裕が出てきた私は少年を観察しました。

 黒髪に黒い瞳、この大陸では珍しい色でした。

 顔立ちは美少年というよりは凛々しくカッコいい感じに整っていました。

 正直に言えば好みです。

 背は高めで靭やかな感じに引き締まった体つき。

 革の胸当てに、同じく革の腕あて脛当てをしています。

 ぱっと見、冒険者さんと思うけど、一人で行動しているのは腕に自信があるからでしょうか。

 魔物に怯まない胆力と、首を跳ねる技量があるのですから不自然は無いですね。

 

「私はこの先の村に住んでいるメアルと言います。あのもし良かったら今夜は私の家に泊まっていただけませんか」


 気がつけばそう言っていました。

 自分でも自分の言葉に驚いています。

 私はどちらかと言えば、積極的な性格ではありません。

 それなのに少年に興味を覚え、お礼にかこつけて話を聞きたいと思ってしまいました。

 

「んー、そうさせて貰えると助かる。俺はカーライル、宜しくメアルさん」


 少年は少しだけ考える素振りをした後、私の申し出に乗ってくれました。

 


「あの、カールさんって呼んでもいいですか」


「ああ、構わない」


「あと、私の事は呼び捨てて下さい。村の皆もそう呼ぶので」


「そうか、宜しくメアル」


 7才の私をさん付けで呼ぶなんて変わった人です。

 でも私を子供扱いしなかったカールさんに好感が持てます。


 話がまとまった所で父の許可が取れていないことに気付きました。

 カールさんには 私の家と言ってしまったけど、正確には父の家ですし。

 

「父様、いいですよね」


 事後承諾になってしまうけど、カールさんは命の恩人なのだから断る筈はないですよね。


「あ、ああ、是非とも泊まっていって欲しい」


 父は私に話しかけられて、ハッっと放心状態から戻ってきました。

 そして直ぐに許可を出してくれました。

 父は馬車から降りました。

 再起動したおじさん達も各々立ち上がります。

 父を先頭に皆、助けて貰ったお礼と自己紹介をカールさんにしました。


 一通り挨拶が済んだときにはもう辺りは暗くなっていました。

 カールさんの魔法のランタンを頼りに私達も松明に火を付けます。


「そうそう。松明を貸してもらえないかな。ランタンがあるからつい持ってこなかった」


 カールさんは、ベルトに下げられた袋からお札を取り出すと父から松明を受け取りました。


「それは?」


 父の質問には答えず、カールさんは札を松明で燃やしました。

 すると、松明の火は青い火に変わったではありませんか。


「これは浄化、再生、治療を司る神【マーリー】の浄化の力が込められている札だ。魔物をこのままにはしておけないだろ?」


 そう言って、カールさんは青い火の松明を分断された魔物の首に当てます。

 その瞬間、魔物の首は一瞬で青い炎に包まれました。

 カールさんは魔物だった胴や四肢全てを青い炎で浄化していきます。

 魔物の血も丁寧に浄化していました。

 ものの数分で魔物だった物は浄化されました。

 浄化の炎が消えた時、魔物だった物は跡形も無く消え去っていました。

 その光景を見て私は心から安堵したのです。

 死んだと判っていても魔物の近くに近寄りたくないですし、屍を乗り越えて行く気もありません

 馬も前に進もうとはしないでしょう。

 それくらい本能的な拒絶感があるのです。


「これが魔物の浄化なんですね」


「ああ」


 以前の人生で魔物の浄化を見たことがあるので初めてではありませんでしたが、この方法は初めて見る方法でした。

 青い炎が揺らめくのを綺麗と思ってしまったのは不謹慎でしょうか。

 

 魔物について判っている事は多くはありません。

 だけど判っている事もあります。

 魔物を殺しても憑いた魔を消す事は出来きません。

 そして放置してしまうと、魔は他の容れものに取憑いてしまいます。

 ですから、そうなる前に魔を浄化しなければならないのです。

 一応、魔は人には憑かないとされています。

 でももし、この場で不用意に近づいて魔が馬に乗り移ってしまったら大変な事になります。

 カールさんによって浄化され文字通り消え去った魔物を見て、皆もやっと安堵の表情を浮かべました。

 

 カールさんによれば、浄化の札はどの町でも必ず売っているもので、誰でも買うことができるとの事でした。

 そして冒険者は所持を義務付けられているのだそうです。

 冒険者は依頼によっては魔物討伐の依頼を受けることがあるし、そうでなくても万が一魔物と対峙したときの為らしいです。

 

 当然冒険者で対応できる魔物はサイズが中型までに限られるのですが、流石に魔物討伐の依頼となるとAかSランク冒険者パーティー、場合によってはそれが複数必要になります。

 尚、魔物討伐に限り、報酬は国や各領主、ギルドから報酬が出ますから私達のような貧乏村でも魔物討伐の依頼は出せるのです。

 ですが、スタの町には冒険者ギルドは無く、最寄りのギルドへはスタから王都側に向かって3日程歩いた場所にある、地方都市【キノ】に行かなければ有りませんでした。


 魔物が発生しやすい大森林に面したこの地域は防衛費がかさむ割には目立った特産品が無く、貴族達にとって旨味のない土地。

 ですから、領主のなり手がなくてスタは自治を認められた経緯があるのでした。

 この土地に住む者にとって魔物は今でも身近な恐怖なのです。

 それでも、ここのところ、スタの警護隊の活動により大きな被害は出ておりませんでした。


「そうだカーライル殿、魔物が現れる前に悲鳴が聞こえたんだ。ここよりそう遠くは無いと思うが、ひょっとして仲間ではないか?」


「いや俺は一人だが……わかった、見てこよう。暫く待ってくれ」


「わかりました」


 カールさんは父に松明を返すと、魔物が現れた方の林に入っていきました。

 ここは林なので木々の密度は高くありません。

 でも広いのでした。

 直ぐにカールさんのランタンの光も闇に消えていきます。


「さて、ここであった事は村の皆には話さないように」


 カールさんがこの場を去ると父は護衛の皆に魔物の事を秘密にするように言いました。

 皆の不安を煽りたくないという気持ちは判ります。


「そうだな、あの兄ちゃんのおかげで何事もなかったんだ。皆を怖がらせる事はねえ」


「魔物になって間もないだろうに矢が効かなかったな。正直死ぬと思った。確かに魔物は死んだんだから息子達を不安にさせたくない」


「実際の魔物があんなに怖いものだとは……口に出すのも恐ろしいな」


「ああ、もう二度と会いたくないし、思い出したくもない」


 皆、父に同意しました。

 私は父達の会話を聞きながら、青い火を纏った父の松明を見ていました。

 効果が切れたのか火はいきなり元の火に戻りました。

 もう少し見ていたかったと思ったのは子供っぽいでしょうか。

 カールさんが折角「大人びている」と言ってくれたのに。


「メアルも秘密にしてくれ」


「はい、父様」


 私も念を押されてしまいました。

 幼馴染達に下手に吹き込まないようにといった所でしょう。

 カールさんが一刀で首を跳ねたなんて言ったら、単純な男の子達の事、自分達も出来るとイキリだすに違いありません。

 なので私も父の意見に賛成でした。

 カールさんが異常に強いだけで、魔物は本来人の手には余る存在なのですから。



◇◇◇◇◇



 暫く待っているとカールさんが戻ってきました。

 カールさんは無表情。

 やはりというか生存者は居なかったのでしょう。


「どうでした」


 父の問いかけにカールさんは首を横に振っただけでした。


「そうですか……」


 父もそれ以上は言いませんでした。


「冒険者さんでした?」


 万が一、村の仲間だったら……

 私は黙っていられず聞いてしまいました。


「ああ、拾えたタグは持ってきたよ」


 タグ……ランクと名前が彫ってある識別プレートの事。

 やはり犠牲者は冒険者だったみたいです。

 村への被害が無い点は安心しましたが、カールさんは冒険者仲間を失った事なります。

 

「もう此処にいても仕方がねえ、さっさと帰らないか」


「そうだな、よし出発しよう」


 ビルおじさんの呼びかけで兎も角村に帰ることになりました。


「スタの警護隊とギルドには俺の方で話しておく」


「それは助かります」


 カールさんの申し出は魔物の件でしょうか。

 魔物が出た以上、報告して街道の巡回を強化するべきです。

 魔に憑かれたのが一体だけとは限りません。

 魔物にとって自分以外の生物は食料だから魔物同士で共生はしないとされていますが、ここに居なくても他の場所にいないとは限りません。


 残りの道を進む最中、私は被害者が村の仲間では無いと安堵したことに罪悪感を覚えていました。

 私にとっては仲間で無くてもカールさんにとっては仲間だったかもしれないからです。

 カールさんは父の勧めで荷馬車乗り、私の隣に座っています。

 兎も角、謝ろうと思いました。


「あの、ごめんなさい」


「大丈夫だ、気にしないでくれ。メアルは……」 


「はい」


「メアルは優しいな」


 そう言われて、思わずカールさんの横顔を見つめてしまいました。

 カールさんの横顔は少し寂しそうに見えました。



◇◇◇◇◇◇



 無事村に着くと、村の皆が広場に集まっていました。

 荷馬車の到着が遅いので様子を見に行くかどうか相談中だったようです。

 馬車が無事に付き皆安心すると今度はカールさんの存在が気になる様で、父に視線を送っています。

 皆の目は「そのよそ者は誰なのか」と父に訴えていました。

 

 父はカールさんはスタの町で知り合った冒険者と説明し、カールさんは依頼を受け大森林に薬草を取りにきたのだと説明しました。

 冒険者と聞いて、皆の表情が和らぎます。

 この村に冒険者が来るのは実は珍しくはありません。

 ただ、父達と一緒に現れたのが不審だっただけなのです。

 

「皆、遅くなって済まなかった、道中で狼に出くわしてしまって時間を食ってしまったんだ」


 父が皆に遅くなった理由を言えば、


「狼か、尾行(つけ)られては無いよな」


 と、心配する者がいます。

 と言うのも、狼には仲間を殺した相手の後を尾行し、油断した時に一斉に襲いかかるという復讐する習性があります。

 そしてそれは年数が経っていても忘れない執念深さで、忘れた頃に復讐してくるたちが悪い恐ろしさを持っているのです。

 はぐれ狼ならそういった危険はありませんが、群れの狼は追い払うか、全て狩りきらないとならないのが鉄則です。


「ああ、大丈夫だ」


 イルギスおじさんが自信たっぷりに答えました。

 それが演技と知っている私は、内心苦笑していました。

 カールさんがいなかったら私達は食べられて、捜索隊も犠牲になって、最終的には村が全滅していたかもしれません。

 むしろその可能性は高かったと思えます。

 そのカールさんには道中お願いしているのでカールさんも話を合わせてくれました。


「遅くなったけど、酒もしっかり買ってきたんなら始めようよ」


 そう言ったのは護衛役だったビンデおじさんの息子のディック兄さん。

 つい数カ月前に18才になり、成人して酒盛りに参加出来る様になったばかり。

 今回が初参加なのでさぞかし待ち遠しかったのでしょう。

 

 カールさんも誘われていましたが、未成年だからと断っていました。

 参加しないならと、私はカールさんを自宅に案内する事にしました。

 父より目で合図を送られましたし、何より私が招いたのですから。


「父も直ぐ来ると思うので取り合えず入って下さい」


「お邪魔します」


 カールさんは礼儀正しくて、私が促すまで家に入ろうとはしませんでした。


「どうぞ」


 私が椅子を引くと、カールさんは意図を察してくれ着席してくれました。


「お茶入れて来るから、座って待っていて下さい」


「お構いなくと言いたいが、実は喉が乾いているんだ。とても助かる」


「ふふふ、すぐに淹れますね」


 思わず笑みで返してしまいました。

 あんなに強いのにまだ少年ぽいところがあって、それが何故か嬉しかったのです。

 きっと、カールさんがまだ完全に大人になりきっていないと感じたことで親近感が湧いたのだと思うことにしました。


 私は、我が家で出せる最高のお茶を淹れる事にしました。

 このコバ村ならではの、大森林ので取れる特別なハーブで淹れるお茶。

 ハーブの名は【ラーベダ】

 このハーブは気分を落ち着かせる効果があるのですが、その効果以上に、お茶として淹れると大変美味しい人気の物なのです。

 乾燥させ茶葉としてスタの町に持っていけば、少量でも高額で買ってくれる幻のお茶として有名なのです。

 実は大森林でこのハーブを採れる場所を村人達は知っていて、秘密にしています。

 とは言え、量が取れない希少なものなので、私達でさえ毎日は飲めません。

 村人にとっても貴重なお茶。

 下手に流通させて探しにこられても困るので、信用出来る商人さんに少量を卸すだけにしているのです。


 調理台はカールさんのいるテーブルからが死角になりこちらが見える事はありません。

 火種を保管している壺の蓋を開け、火ばさみで中の灰を少し避けると炭が出てきました。

 息を吹きかけると炭は赤く光りました。

 これなら直ぐに火を起こせそうです。

 今回は乾燥ハーブで淹れますが、できれば生のハーブを水出しで作ったお茶を飲ませてあげたいと思いました。

 水出しの茶を湯煎で温めて飲むと更に美味しいのです。

 ハーブが採れる時期は限られるので、今は手に入らないのが残念です。



 お茶を淹れ終わったのでカールさんが居るテーブルまで運び、カップをテーブルに置きました。

 いい香り。

 うん、美味しく淹れれたと思います。


「なるほど、その台はメアルの為か。そうか……」


 カールさんは、テーブルの脇に置かれた足踏み台を疑問に思ったようです。

 7才の私はテーブルや調理台よりも目線が低いのです。

 だから足踏み台がないと、テーブルの上に物を置けません。

 因みに私の椅子も固めのクッションで座面を底上げしています。

 私に母親がいない事を察せられてしまったみたいです。


「自慢のお茶です。冷めないうちにどうぞ」


「美味い」


 カールさんは直ぐにお茶に口をつけてくれて、笑顔で美味しいと言ってくれました。

 その笑顔を見て、美味しさを共感できて、私も嬉しくなりました。

 私も自分のお茶を飲みます。

 私のは、勿体なくて二番煎じのお茶ですが。

 淹れるのが2度目となれば、当然薄いですがそれでも美味しいです。 


「ふう、美味し」


「ふう、ほっこりするな」


 私が息をつけば、カールさんも息をついてくれました。

 

<一緒にため息なんて、これってミラーリング……カールさんも私に親近感をもってくれているの?>


 私は恥ずかしさを誤魔化す為に別の話題を振りました。


「父がそろそろ、夕食を持ってきてくれます」


 そう言った直後、タイミング良く玄関扉が開き父が入ってきました。

 これで私の顔が少し赤くなったのを誤魔化せそうです。

 父の持つ大きめのお盆には、お盆いっぱいに食べ物が乗っています。


「カーライル殿。命の恩人だというのに饗しもせず申し訳ない」


「長ともなればいろいろと大変だろう、一晩泊めて貰えるだけで十分だ」


「そう言ってもらえると助かります。酒のつまみのようなものばかりですが良かったら食べて下さい」


「ご厚意感謝する」


「私はまた戻らなければならないので失礼します。後の事はメアルにやらせますので」


「こちらは気にしないで大丈夫」


「では、メアル後のことは頼んだよ」


 カールさんの言葉に父は申し訳なさそうな表情を浮かべつつ私に世話をするよう申し付けました。


「はい父様、任せて下さい」


 父は頷くと、カールさんにお辞儀して宴会の方に戻っていきました。

 カールさんを気にして今日はまだお酒を飲んでいないみたいでした。


「気にせず飲んでくれて構わなかったんだけどな」


 ぽそりと言った、カールさんの小声の呟きは、しっかりと聞こえました。

 言葉遣いは少々ぶっきらぼうですが、カールさんは優しい人です。


「カールさん、とりあえず食べましょう」


「ああ、頂こうか」


 私はカールさんと色々と話しながら食事を楽しみました。


◇◇◇◇◇


 外からハメを外す大人達の笑い声が聞こえます。

 厳しい生活の中、この一時は何より大人たちの楽しみなのです。

 私達はと言えば、腹を満たし、再びお茶を飲んでいました。

 食事をしながら私はカールさんについて色々質問し、教えて貰いました。

 当然私のことも、支障が無い範囲で話しました。

 カールさんは率先して質問してくるタイプでは無いので、専ら私が質問したり勝手に話すのですが、カールさんはそんな私に合わせてくれました。

 しばらく色々と話すうちに、私も固さが抜けてきました。

 


 カールさんは冒険者登録出来る15才になったので登録してまだ数ヶ月の新人さんというので驚きです。

 あれ程に強いのにです。

 あの変わった剣は、この大陸より東の国の"刀"という武器だと教えてくれました。

 私はそれを知っている気がするのですが、どうしてなのか、やはり思い出せませんでした。


「メアルはとても7才とは思えない位にしっかりしてるな」


「そう……かしら」


 自覚があるけど、誤魔化すことにします。

 

「ああ、そう言えば魔物にも動じていなかった」


「あ、あの時は必死だったから。でも助かった後で凄く怖くなって座り込んでしまったわ」


「そうだったな。でもあの時俺が止めなければ何かするつもりだっただろう」


「え…」


 鋭いです。

 誤魔かせないかも知れません。

 言っても大丈夫でしょうか、と迷うけど決心はつきません。

 黙ってしまった私に助け舟を出してくれたのは、話を振ってきた本人のカールさんでした。


「ま、いいさ。詮索して済まなかった」


「いえ、気にしないで」


「気が済まんから、お詫びに何か聞きたいことがあったら答えよう」


 その言葉を聞いた時、カールさんの寂しそうな横顔が思い浮かびました。


「では、お言葉に甘えて。カールさんが林の中で見つけた方達は知り合いでは無かったの?」


「何故そう思う」


「カールさんの横顔が寂しそうだったから」


「ふう、メアル、君は本当に7才か?」


「正真正銘7才です」


 今生では、ですけどね。カールさんの寂しそうな横顔が気になって聞いてしまいました。


「やれやれ、表情に出ていたのか。そうだなメアルの精神年齢は大人だし、なら話してもいいか」


 そんな前置きから始まった話は、案の定なかなか滅入る話でした。

 魔物の犠牲になった冒険者はやはりカールさんの知り合いだったのです。

 冒険者ギルドの支部が在る都市【キノ】は、スタの町から王都の方角に3日程歩いた距離にあるこの地方最大の都市。

 冒険者ギルドの支部があるだけありこの地方の交通拠点として栄えている都市です。

 そのキノのギルドでカールさんは冒険者となりました。

 カールさんが冒険者の登録をした時、たまたま一緒に登録をした冒険者が4人いました。

 お互いが幼馴染同士という4人で、4人でパーティーを組むつもりだと、カールさんに話してくれたそうです。

 それが魔物の犠牲になった人達だったのです。

 カールさんはその4人と元々知り合いではありませんでしたが、4人組のリーダーが気のいい人で、同じ時に登録した仲間として一緒に食事をしたり採取依頼をこなしたりと、仲良くしてくれたそうです。


 先日、彼らは大森林でしか取れない薬草の採取依頼を受けて都市を出ました。

 彼らが都市を出る前日にもカールさんは一緒に食事をしたそうです。

 そして、カールさんも大森林での採取依頼を1日遅れで受け、この村で情報を得ようと向かっている道中、私達に会ったのです。

 彼らは大森林に近いあの林でも薬草が採れるのではないかと探索していたのではと推察されました。


「その、直ぐにお友達とわかったの?」


「ああ見覚えがある装備だったからな。タグで事実の確認もしたよ」


 装備でってことは、顔は無かったのでしょう。

 随分と雑に食い荒らしたのは魔物が私達に気付いたからなのかも知れません。

 これ以上の想像は、しないほうがいいですね。


「思い出させてしまってごめんなさい」


「冒険者だから彼らも覚悟していた筈だ。そして実力以上の不運に見舞われた、それだけの事さ。気にしないでいい」


「……はい」


「さぁ、今日はもうお開きにしよう」


「カールさんの寝室の用意をするわ。カールさんは父の部屋で寝て」


「いや、そういう事だったら遠慮するが」


「大丈夫。外での酒盛りの日は、父達は外で酔いつぶれて朝まで帰ってこないの」


「なるほどね、じゃあ甘えようか」


 

 こうして私の長い一日は終わりました。



◇◇◇◇◇◇



 朝、日の出と共に私は目が覚めました。

 やはり昨日は疲れていたのでしょう。ぐっすり寝てしまいました。

 あんなに怖い目に合ったのに眠れたのは、ハーブティーのおかげなのか、カールさんがいる安心感なのかは分かりません。

 どちらでもいいか、と思いつつベッドから降ります。

 

<あ、カールさんは?>


 私は急ぎ着替えて、居間に向かおうとしました。

 そして扉を開けようとした時、急に身だしなみが気になりました。

 扉をそっと開け、居間の方を覗くと誰も居ない様です。

 良かった、カールさんはまだ寝ていますね。

 私は調理場に向かい水瓶のフタを開けると、水は余り入っていませんでした。

 水瓶を抱えて外に出て、村の近くにある湧き水で瓶いっぱいに水を満たします。

 ついでに瓶の水を鏡代わりに髪が乱れて居ないか確認しました。

 さて、水いっぱいの瓶は重いけど、父はまだ酔いつぶれていそうだし何とか頑張って運びますか。


「朝から精が出るね」


 急に話しかけられて驚きましたが、知っている声でした。


「急にびっくりするわ。 おはようミラン」


「ごめんごめん、おはようメアル」


 声の主は幼馴染の一人ミラン。

 護衛役だったザックおじさんの息子で、ディック兄さんが成人したので、現在村の子供組の年長で10才。

 因みに、ロヨイとリカレイは8才で3人とも私より年上ですが、年が近いので兄さんは付けずにお互いに呼び捨ての間柄。


「ミランは珍しく早起きね」


「おかげで珍しいモノ見れたよ」


「珍しいって?」


「メアルが一所懸命髪を整えているところ。昨日冒険者を泊めたんだってね」


「それと、これとは」


「母さんは中々カッコいい人だったって言ってたけど」


「確かに……カッコイイけど……」


「へぇ、こりゃあいつらに強力なライバル登場だ」


「ロヨイとリカレイが? それは無いと思うわ」


 あの2人は騎士への憧れに夢中のお子様だからあり得ない、という思いで私は白けた表情を見せます。


「はは……メアルは冷めてるなぁ。でもねあの2人も……いやごめん」


 ミランは何か言いかけて止めました。

 二人の気持ちを勝手に代弁するのを傲慢だと思ったのでしょうか。

 もしロヨイとリカレイが……そんな素振りはないのですが、万が一、ミランの想像どおりだとして私はどうするつもりもありませんでした。

 私にとって2人は仲の良い兄弟の様なものなのです。

 それに、私と一緒にならない方が2人は幸せになれるとも思っていました。

 どちらにせよ私は15才になったらこの村を出ていくつもりでです。

 その事は私一人の秘密。

 ミランは村に残るつもりらしいですが、ヨロイとリカレイも15才になったら村を出ると豪語しています。

 騎士になる為、先ずは王都で冒険者になるのだそうです。

 冒険者になれるのがちょうど15才からだから。


「ミラン、お客さんがいるから私は戻らないとだけど……」


「ああ、引き止めてごめん。ん?だけどって?」


「ふふふ、瓶が重たいな。悪いと思うなら持ってほしいなー」


 にっこり微笑みます。


「は、はは。勿論持たせてもらうよ。メアルには敵わないな」


 ミランは顔を引き攣らせながらも、水瓶を持ってくれました。

 軽々と持つ姿にやはり男の子なのね、と思いました。

 丁度、優しくて力持ちのミランが来てくれて助かりました。

 先の事は兎も角、今は朝ごはんを作らないとなりません。

 父も二日酔いでしょうし、軽めに豆ペーストのスープにしましょうか。

 


◇◇◇◇◇

 


 ちょうどスープが出来上がったタイミングで、カールさんが起きてきた様です。

 欠伸をする声が聞こえます。


<割と朝は弱いのかしら>


 父も青い顔をして帰宅したようです。

 2人が揃って気の抜けた挨拶をしています。

 うん、見事に酒臭いです、ここまで漂って来ます。


<完全に二日酔いだわ、あれが必要ね>


 私は父の分のスープに、【トーガラ】の粉末をたっぷり入れます。

 トーガラの木の真っ赤な実を乾燥させて粉末にすると、とても辛い香辛料になります。

 その粉をスープに入れて飲めば、二日酔いで死んだ胃が復活する森の知恵、それがトーガラ粉なのです。

 トーガラの木はこの地方では大森林にしか生えていません。

 あ、でもあの林にも生えていました。

 魔物の被害にあった冒険者さん達は、トーガラの実を取ろうとしてたのかもしれません。

 トーガラ粉があるから村の男達は二日酔いになるまで飲むのです。

 

 私がスープを器に盛っていると、カールさんの欠伸の音がまた聞こえました。

 ………カールさんのスープにもトーガラ粉を入れましょう。

 スッキリ目覚められる筈です。

 


「カールさんおはようございます」


「……メアル……おはよう」


<うん、しっかり寝ぼけているわ>


「父様、おはようございます」


「おはよう……メアル……」


<こちらもテープルに突っ伏しちゃって、まぁ>


 私は真っ赤になったスープを突っ伏す父の前に置きました。


「メアル、ありがとう……」


「カールさんもどうぞ」


 席についたカールさんにはやや赤いスープを置きます。


「メアル、ありがとう……」


 2人が全く同じ応答をしたので思わず笑ってしまいそうになりました。


「さあ冷めないうちにどうぞ」


「ああ、頂きます」


 カールさんがスプーンを口に運び、そして……


「うぉっ、辛」


 思った通りの反応に、笑みが出てしまいましたが、これは仕方がない事でしょう。


「うふふ。眠気は飛んだ?」


「ああ、完全に目が覚めた」


「朝弱いのね」


「面目ない。辛いがとても美味い。メアルは料理が上手なんだな」


「有難う。口に合ってよかった」


「かーーーーーーーーーーーーーー!」


 そんな会話をしていると、父の方からも奇声が聞こえてきます。

 いつものことなので私は驚きませんが、カールさんは驚いたようです。


「父様」


「ふう、すまん。二日酔いにはやっぱトーガラだな。胃が動きだしたよ」


 そう言った父は汗びっしょりです。

 トーガラ粉には発汗作用もあります。

 汗と共に酒気が受けていくのが判ります。

 それにしても入れすぎたでしょうか。

 

 父の変化でカールさんはトーガラに興味を持った様です。

 今度市場で探してみると言っていました。



◇◇◇◇◇



 カールさんは父から森に仕掛けてある罠について聞いていました。

 冒険者ギルドで大森林での採取の依頼を受けた冒険者は、ここで罠の位置を教えてもらう様忠告を受けるのです。

 冒険者が無用な怪我をしない為であり、村で仕掛けた罠が無駄にならないようにする為、協定を結んでいました。

 因みに乱獲されないように、村の者しか採らせない秘密のポイントが有り、高級素材等情報も教えません。

 素材採取にくるランクが低い冒険者よりは村の男たちの方が逞しく強いので、それで大したトラブルは出ていませんでした。


「カーライル殿。改めてお礼を言わさせて欲しい。昨日は私達を助けて頂き有難うございました」


「たまたま居合わせただけ。それに一晩の宿と飯をもらったのでお互い様だ」


「貴方は謙虚ですね。では村に立ち寄る事が在れば何時でも歓迎します」


「覚えておくよ」

 

 カールさんは冒険者。

 ここにずっと居る訳ではありません。

 分かっていましたが寂しさを覚えました。


「もう行っちゃうの?」

 

「ああ。そうだ村の入り口まで見送ってくれないか?」


「え、はい」


 カールさんは私の寂しい思いに気付いて言ってくれたのでしょうか。

 一緒に歩いているとカールさんは私を見ずに話しかけてきました。


「メアル。話をしたいのだが少し時間を貰えないか?」


 突然の申し出に驚きましたが、私はカールさんの申し出に素直に頷きで答えました。


「では、手が空いたら此処にきてくれ」


 そういってカールさんが紙切れを渡してきます。

 紙などという上等な物をもっているなんて、と思いながら素直に受け取りました。

 紙をみると、この村のと大森林の簡略地図が書いてありました。

 この村から西に暫く歩いた大森林と平野の境に【双子の木】と呼ばれる木の根本部分から幹が2つに分かれる大木があります。

 地図にはその双子の木を示す絵と、その木に丸印が書いてありました。


「此処なら判るわ」


「そうか、待ってる」


 そう言うとカールさんは、そのまま振り向く事無く村から出て行きました。

 私は姿が見えなくなるまで後姿を見つめていました。


 さて、私は宴会の後片付けを手伝い、その後家事をこなさないとなりません。

 ミランも片付けを手伝っていましたが、ロヨイとリカレイは逃げた様です。

 大人達は森に入って行きました。

 男達は狩りをし、女性達は安全が確保出来ている範囲で木の実や薬草を採リに行くのです。

 森に入れない子供や老人にも家事や繕い物などきっちり仕事があります。

 遊んでいる余裕のある者はこの村にはいません。

 訂正、あの2人がいました。


 テキパキと家事を片付け、まだ日が登り切る前に自由時間が出来ました。

 本来なら、この時間で試したいことがあったのですが、カールさんが話をしたいそうなのでこっそりと誰にも気付かれないように約束の場所に向かいました。


 村の決まりで、子供は森に入ってはいけませんでした。

 ですが約束の場所は森の境界、なので問題ありません。

 それに、双子の木の辺りは、村人が来る場所では無いので誰にも見つからないと思います。

 というのも双子の木は不吉とされているのです。

 ロヨイもリカレイもいつもの秘密基地で訓練してるでしょうし、カールさんと会うのを誰かに見られる心配はないでしょう。

 まるで逢引しているみたいです。

 意識してしまって少し顔が赤くなってしまいました。 


 それにしてもカールさんは何を話したいのでしょうか?

 

<まさか告白?もしそうだったら……なんて……なんて答えよう…………って、それは無いわ>


 だって私はまだ7才ですもの。

 15才のカールさんには、お子様としか見えないでしょう。


 歩いていると前方にカールさんが見えてきました。

 ずっと待っていてくれた様です。

 カールさんは約束通り、双子の木の前にいました。 



続く

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