7.アマリアの蹂躙
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Side テリア将軍 イエット
国境の戦場にて
『左軍側に神の勇士兵の顕現反応!新手です!』
我がパートナー聖女ヒルデの悲鳴にも近い声が頭の中に直接響く。
いつもは冷静沈着な彼女の取り乱した声が、事態の深刻さをより強調する。
判っていて見たのだが、それでもその光景に目を疑いたくなった。
だからだろうか、状況を理解するまでに数瞬もかかってしまった。
戦場では一瞬の硬直や躊躇が勝敗を分かつ事もあるというのに。
いや、我が軍は今まさに負ける寸前であった。
我が軍の重装巨兵を軽い装甲に変えたのは完全に裏目に出た。
元々軽装甲用で開発された【クドナル】の巨兵の様には動けなかったのだ。
巨兵の挙動の癖も変わり、操る騎士達がそれに振り回されてしまった。
その上、我が左軍の巨兵6機に対し、敵右軍の巨兵は9機だ。
当初6対6で始まった我が左軍と敵右軍の戦闘はお互いを牽制し合う形となった。
それ故こちら側がお互い主攻だと思っていた。
実際こちらの巨兵3機を操る騎士は俺の部下で百戦錬磨の猛者揃いだ。
左軍の将はターオーブの部下を任じたとは云え、配下に砦の守護騎士達が混ざっており、混成部隊ではそこまで練度に期待を持てない。
敵が2手に別れた場合のこちらの作戦は、左軍で敵右軍を抑え、主攻の右軍で敵左軍を撃破し本陣を突くというものだった。
クドナル側はこちらの思惑がそうであると思ってくれれば良かった。
だがこちら真の目的はあくまで守りに専念し膠着させることで敵本陣を突く気は最初から無かったからだった。
巨兵の損傷修復はそれなりに時間がかかる。
陣に設置した野外工場では尚更だ。
今日を乗り切れば、次に起動できるまでにお互い早くとも3、いや5日はかかるので、それまでに護りをより強固にする。
こうして物資不足に陥るまで粘り、クドナル軍を撤退させるつもりだったのだ。
敵本陣を守るのは巨兵3機。
しかし、突如本陣を守備するその巨兵3機がこちらの左軍に向けて動きだしたのだ。
対してこちらの本陣の守りである聖騎士ターオーブと巨兵1機は動かない、いや動けなかった。
この軍の司令官は俺で、ターオーブには本陣の守りの任を与えている。
だから彼は俺の命令無く、勝手に本陣から動くことが出来ないのだ。
それは敵側も同じこと、つまり敵のこの動きは最初から決められていたという事だ。
今にして思えば単純な手だ。
しかし動く気配を見せなかった巨兵3機は本陣の防衛と思い込み、まんまと引っかかってしまった。
その結果が、左軍の巨兵全6機の全滅だった。
向こうは1機もやられてはいない。
それはそうだ、6対9だったのだから。
このまま、敵右軍は本陣になだれ込むだろう。
本陣にいるターオーブの神の勇士兵を持ってしてでも9機の巨兵を同時に相手には出来まい。
昔ならいざ知らず、今や巨兵が3機あれば神の勇士兵を抑えられ、4機あれば倒すことが可能と言われている時代だ。
9機の巨兵が相手では勝負にならない。
右翼側のこちらはまだ健在ではある。
こちらは、神の勇士兵【シスレオカ】を駆る我々と巨兵3機。
対する敵側左翼は敵将の神の勇士兵と巨兵4機。
戦闘力は兎も角、数の上では劣勢だ。
しかし向こうは【シスレオカ】の能力を警戒してか、本気で仕掛けてはこなかった。
自らの軍を囮にして俺を引きつけ、我が軍の左軍を抜いて本陣を落とすのが狙いだったのだ。
急ぎ本陣に戻りたいが、現在こちらも交戦中であり敵将がそれを許してくれない。
そんな中での、数瞬の硬直は本来は命取り。
しかし、幸いな事にそれは敵も同じだったらしい。
ということは、アレは敵も予想外ということだ。
俺の率いるテリア右翼軍と、敵クドナル左翼軍はまるで呼吸合わせたかのように距離を取った。
そしてお互いの視線の先は同じ。
それは敵クドナル右翼軍の側面の森に突如立った光の柱。
神の勇士兵が顕現する証だ。
『ヒルデ、何本だった?』
『3本です』
此処に来て神の勇士兵3騎は戦況を一変させるには十分な戦力。
果たしてどちらかの援軍か、はたまた第3国か。
近隣国で聖騎士を派兵出来そうなのは【ガレドーヌ帝国】、【モス国】そして【アマリア王国】。
帝国が援軍を出すとは聞いていない。クドナル側もモスの援軍では無いからこそ、この反応なのだろう。
だとすれば残るのは只1国。
しかし【アマリア王国】が派兵するなどあり有るだろうか?
光の柱が消えて、その場には巨大な騎士達が立っていた。
先頭に立つのは女性型の神の勇士兵。
女性を意識させる柔らかな流線型のヘルム、顔はアイガードが下げられていて判らないが、影のみとなった口元の輪郭は美しい女性を思わせた。
騎士鎧の姿ながら、優美なボディーライン、鎧でも再現されている胸の膨らみが女性型であることを強調している。
その女性型の神の勇士兵は神々しい金のオーラを纏い、片手剣と騎士盾を持っている。
両隣に立つ神の勇士兵は男性型で中央の彼女より背が高いが、同じ様な統一感のある騎士鎧で、手には騎士盾と長柄のハルバードを持っていいる。
3騎に統一感が有るのは同じ神の元にいる神の勇士兵だからだろうか。
中でも先頭の女性型神の勇士兵は突出して神々しい。
ネームドに違いないだろうが、アマリア軍の情報は謎に包まれており、公表も現女王が即位した際に顕現させた男性型の神の勇士兵の姿しか判っていない。
今此処にいるネームドに関する情報は無い。
突如現れた神の勇士兵の集団の中心に立つ、ネームドの頭上に”光”を意味する【セレイブ】の紋章と"向かい合う2人の祈る乙女"を形どる紋章が浮かび上がった。
それはアマリア王室の紋章である。
アマリア王国軍で間違いないようだ。
『我々はアマリア王国先遣軍の【輝く薔薇】騎士団。 我が国の王女【メアルシア】の命を奪った【クドナル公国】に鉄槌を下す軍である』
【アマリア王国】のネームド神の勇士兵の声が頭に直接響く。
そして【アマリア王国】の参戦を高らかに宣言した。
この戦場にいる全ての者にその宣言は届いただろう。
声を発することが出来る程の力を持つ神の勇士兵は多くはない。
ネームドと呼ばれる様な強大な力を持つ者達だけだ。
当然、ヒルデの【シスレオカ】でさえ、それだけの力は無い。
『ヒルデ、声の主について【シスレオカ】に心当たりがないか聞いてくれ』
『確認します』
【シスレオカ】は戦を司る神【ラーファル】に属する神の勇士兵なので【セレイブ】に関する情報について期待はできないが、神の勇士兵としては古参の英雄だ。
ひょっとしたら知っているかも知れないと期待しての質問だった。
『まさかそんな!』
『ヒルデどうした?』
『……将軍……判りました』
驚くヒルデの声は振るえていた。
それほどの者だというのか。
『【シスレオカ】はかつて……400年前、彼女と一緒に魔物を狩ったことがあると言っています。彼女の名は………【サンシェリー】……で、まず間違いないと………』
<!?>
『なんだと!なんてことだ…そんな事があるのか!?』
【サンシェリー】と言えば、【初めの聖女アリーシャ】の【白銀のルアメットゥーナ】と並び、知らぬ者がいない有名な神の勇士兵だ。
【初めの聖女アリーシャ】の妹にして姉の死後、アマリアの女王として魔物と戦い続けた人類の守護者【大聖女ナリータ】の神の勇士兵、それが【黄金女帝サンシェリー】。
ナリータ中心で魔物が大討伐が行われた時、多くの神の勇士兵を従えた姿は正に女帝の様だったと後の世に伝わっている。
【ルアメットゥーナ】が白銀に輝いているオーラを纏う様に【サンシェリー】は黄金に輝くオーラを纏うと言われていた。
【セレイブ】の眷属の一柱で神格は第1位……【セレイブ】の長女神だ。
過去に【サンシェリー】を顕現させたのは大聖女ナリータ王女のみ。
素性が謎のままの【ルアメットゥーナ】と違い、【サンシェリー】は歴史上判っているネームド神の勇士兵の中で最も神格が高い。
この場に現れた【サンシェリー】は伝承にある通り、黄金に輝く強いオーラを纏っている。
両隣の2騎など比較にならない存在感だ。
『アマリアに【サンシェリー】を顕現できる大聖女が…』
アマリアはこちらの味方では無いが、少なくともあちらの敵とこちらの敵は同じく【クドナル公国】だ。
これは起死回生のチャンスだった。
今はお互い距離を取り牽制中の状況。
今度は逆にコイツらをこちらが抑えてやればいい。
クドナル左軍の巨兵9機がアマリアの神の勇士兵へ突撃を開始した。
クドナルの巨兵9機 vs アマリアの神の勇士兵3騎。
計算上では互角の戦力だ。
ただ突出しているであろう個がその中にいる。
ある程度接近したクドナルの巨兵達が副兵装の投槍を【サンシェリー】に向かって一斉に投擲した。
あの投槍は刺さった部分から風の爆発を起こす。
その全てが【サンシェリー】を狙っている。
投槍の投擲に呼応する様に神の勇士兵【サンシェリー】が盾を前に突き出した。
その盾が光る。
その盾から無数の光の筋が放射され、投擲された全ての槍を貫き、更に一番近くにいたクドナルの巨兵3体をも貫いた。
槍は目標を貫く事無くその場で爆ぜる。
そして前のめりに倒れていく3機の巨兵。
『た、倒れたクドナル巨兵の魔力反応……全て……消失しました』
ヒルデの報告は今の一撃で巨兵3機の魔導球が破壊された事を意味している。
【サンシェリー】の強烈な一撃により、クドナルの巨兵達は足が止まってしまった。
盾の放つ光線の威力に不用意に飛び込めなく無ったのだ。
戦力バランスが崩れ、クドナルの右軍の勝ち目は薄くなった。
今、この戦場におけるイニシアチブをたったの一撃で【サンシェリー】が手にした。
その【サンシェリー】は巨兵達を嘲笑うかの様に悠々とした動作で剣を天に向かって突き上げた。
そして、その瞬間【サンシェリー】の背後に更なる複数の光の柱が立った。
その数9本だった。
アマリアは今回 聖騎士12人を投入してきたのだ。
その数は余りに暴力的だった。
先に3騎だけ顕現させたのはクドナルの巨兵をおびき寄せ、逃さない為。
その気になれば、我が軍もクドナル軍も同時に蹂躙できる戦力なのだ。
そして先程【サンシェリー】はアマリア王国先遣軍と名乗った。
であれば、アマリア本軍は別にいるという事である。
クドナルがアマリアの王女を害したというのが本当かどうかはこの際どうでもいい。
アマリアが本気で【モス国】と事を構えるとも考えにくい。
狙っている落としどころが有るだろうが、それはクドナルの弱体化に繋がるだろう。
そして、我が軍はアマリア軍に敵対しないことが重要だ。
守りに徹するべく、部下たちにハンドサインを出した。
そこから先は戦闘とは言えなかった。
【サンシェリー】はその場から動く事無く、剣を地に突き刺し、柄頭に手を乗せている。盾はいつの間にか消滅していた。
残った6体の巨兵は瞬く間も無く11騎の神の勇士兵に駆逐された。
11騎の内の5機がそのままこちらに向かってくる、クドナル軍本陣の方には4騎が向かった様だ。
アマリア側に帝国の属国である我々と共闘の意志は恐らく無いだろう。
こちらとしても、アマリアと共闘は帝国との条約もあるので出来ない。
今一番嫌な展開は乱戦に持ち込まれる事だ。
作戦を変更し、密集隊形を取り防御に専念する事にした。
そして下手に動かず留まる。
クドナルの将もこちらの思惑を察したのか、乱戦に持ち込むべく突撃を敢行してきた。
神の勇士兵を先頭に楔の様な隊列でこちらに迫る。
神の勇士兵には神の勇士兵で食い止めるしか無い。
『ヒルデ《神気の鎧》だ』
『了解、行きます』
我が部下の巨兵を含む我が隊に全騎が神気を纏った。
神の勇士兵【シスレオカ】は生前、防衛戦に長け、指揮能力が高い将軍だったという。
神の勇士兵としての能力も攻めより、守りのスキルが強力だった。
スキル《神気の鎧》は自身のみばかりか、部隊単位でダメージ軽減できる神気を纏わせる事が出来る。
敵神の勇士兵もこちらのスキル使用に合わせたかのようにスキルを使用した様だ、神の勇士兵の腕と肩が二周り程膨れ上がった。
『ヒルデ、ぶつかったと同時に《衝撃反射》!押し返すぞ!!』
【シスレオカ】の幅広の大剣と敵将の神の勇士兵の戦斧がぶつかり火花が飛ぶ。
「ぐ!!」
叩きつけられた大戦斧の一撃は物凄いパワーだった。
今までの牽制し合う展開と違い、死にもの狂いの一撃に一瞬耐えきれずに押されそうになるが、直後にヒルデの放った《衝撃反射》が、敵神の勇士兵の攻撃で生じた衝撃を敵軍に跳ね返す。
しかし、衝撃は余りに大きく全てを反射するには至らなかった。
そのため部下の巨兵達は数歩後退してしまった。
とは言え、さすが元は重装用の巨兵だ。
軽装甲をつけていても重いのが此処では幸いしたようだ。
むしろ敵軍の方がダメージは大きいだろう。
4機の巨兵の内、半分が衝撃に耐えれずひっくり返ってしまっていた。
残り2機もバランスを崩し、膝を付いた。
敵軍の目論見は無事に挫くことが出来たようだ。
敵の突撃は食い止められ、アマリアの死神達はもうそこまで迫っている。
もう立て直す時間は無く、敵将に挽回の策はありはしないだろう。
”戦場では何が起こるか分からない”
かつての上官の口癖がふと脳裏をよぎった。
そして数瞬後、本当にその通りだと思い知る事になった。
★★★★★
Side クドナル将軍 ワイト・ビネガー
戦場にて
「なんだアレは!?そんなのアリか!!」
思わず叫んでしまったが、許して欲しい。
もう少しで勝つという所で突如アマリア軍が乱入。
しかもアマリアの近衛軍の上、神の勇士兵12騎など誰が予想できようか。
しかも隊長だろう神の勇士兵が尋常ではなかった。
我がパートナー、風の神【クテレ】の聖女ジェシアと契約する神の勇士兵【ダンダルフ】には、かの神の勇士兵の情報が無かった。
アマリアの参戦理由については正直心当たりがある。
しかし本戦の原因になったあの遭遇戦にアマリアの姫が巻きこまれた事をアマリアに把握されているという事だろうか?
こちらの調査では一行の安否は不明だったはずだ。
まさか調査に出した者が手を抜き調べなかったのか?
尤もアマリアから通過の予定があるとの報告は受けているので、我が国の領内で巻き込まれたなら、真偽はどうあれ我が国に責任を追求してくるか。
そもそもテリア側の訓練がわざわざ国境付近で行われた事も異常だし、まさか、帝国がアマリアを動かす為に?
『味方右軍、巨兵の魔力反応は全て消失! アマリア大騎士5騎がこちらに来るわ!』
悲鳴の様なジェシアの報告に我に返った。
考えている余裕は無い。
アマリアの目的はクドナル軍なのだ。
『アマリア大騎士4騎が本陣に向っているのを確認!』
見れば、アマリア軍の隊長騎は2騎を従えてその場から動いていない。
『こうなれば乱戦に持ち込み撤退の機を探る。ジェシア《破陣》の準備! テリア軍に突撃する』
部下達にハンドサインで指示を出しつつテリア軍に向けて駆け出す。
万が一、アマリア軍がテリア軍ごと我々を駆逐するとしても、テリア軍を道連れに出来るし、アマリアも帝国と対峙せざるを得なくなる。
そうなれば、アマリアは、背後にいる帝国とモスを相手にしなければならなくなり、クドナルから早期に手を引こうとするだろう。
こうなった以上、あの方々にもご出馬頂こう。
であれば、まずは目の前にテリア巨兵どもの中に食い込み乱戦を仕掛ける。
真正面のテリア将の神の勇士兵が何か神気を使ったか?
敵軍の巨兵もふくめて何かを纏った様に感じた。
接触まではもうわずか。
『防御系の能力を使ったみたい』
『面白い、ジェシア《破陣》だ!』
両手持ちの戦斧を振りかぶりながらジェシアに指示を出す。
かつて10倍もの敵軍に突撃をかけ、強固な守りの陣を戦斧で吹き飛ばし敵将を討った将軍ダンダルフ。
【黒暴風ダンダルフ】の異名と共に恐れられた力、防げると思うなよ!
テリアの大騎士の大剣とダンダルフの戦斧が交差し火花が散る。
《破陣》の衝撃が暴風となって敵軍を襲う。
衝突の衝撃はテリアの大騎士を後方に押し敵大騎士の足が僅かに後ろに下がる。
〈よし! 崩れた!〉
そう思った瞬間、敵大騎士や巨兵が纏った神気が弾けた。
〈!?〉
これはこちらが発した暴風衝撃を反射したのか。
自らの力が跳ね返り、我が軍を襲った。
全ての力が反射されたわけではないが、それでもこちらの目論見は完全に挫かれた。
ダンダルフは重装の神の勇士兵だが数歩分後退させられた。
部下達の巨兵は2機がひっくり返り、残り2機も片膝をついてしまっている。
それに対し、敵巨兵は 衝撃暴風の大半を反射し、しかも重量級巨兵なのでほとんど影響を受けていない。
こちらの巨兵が軽量級なのがここで裏目に出てしまった。
テリア軍は更に後ずさりながら後退していく。
事ここに至っては覚悟を決めるしかない。
アマリアの神の勇士兵5騎が相手だ。
せめて1騎でも多く道連れにしなければ。
『ジェシア済まないことになった。宝石も買ってやれなくなったな』
『私の事も宝石の事もお構いなく。ワイト様と何処までもご一緒するわ。ご存分にお働きを』
『そうか、済まない。感謝する』
アマリアの大騎士達が直ぐそこまで迫っていた。
【ダンダルフ】を迫るアマリア軍の方に向けたのと、我が軍の本陣から3本の光の柱が立ったのは同時だった。
★★★★★
Side ミリンダ
国境の戦場にて
瞬く間にクドナルの巨兵9機を葬ったところで2隊に分けた。
敵本陣攻略隊に4騎と テリアとクドナルの大騎士が対峙している方の巨兵討伐隊に5騎。
事前の作戦通りだ。
どちらも過剰戦力、直ぐに勝負はつくだろう。
クドナル本陣の投石機が我が敵本陣攻略隊の方に向けられ、投石機による迎撃を開始した。
混乱することなくこちらに対応できてたのは大したもの。
良い指揮官がいるのだろう。
投石機より放たれた石は見るからに通常よりも高く打ち上げられている。
『ほぉ あれがクドナル自慢の《隕石投下》か』
『お姉様、狙いはこちらかもしれません』
『その時の守りは任せる』
『了解です』
高くに打ち上げられた投石は頂点に達し、自然には有りえない一色線の軌道且つ、通常の投石よりも早い速度で降ってくる。
鈍重なテリアの巨兵なら当たるかも知れない。
<そんな物に当たる騎士などいるか!>
隕石に様に降ってくる投石は案の定、敵本陣攻略隊を狙ったものだった。
散開している敵本陣攻略隊を狙うには弾幕が薄い。
投石の着弾点をこちらの行軍速度から予測し合わせてきたのはさすがに戦慣れしている。
だがしかし、我が方に只の1発も当たることはない。
私の部下達も精鋭の聖騎士達なのだ。
あの様に真っ直ぐ落下するしか能のない兵器など何の障害にもならない。
降ってくる投石を躱し、敵陣に向かう敵本陣攻略隊の様子を確認すると、私は巨兵討伐隊の方に意識を向けた。
見れば、クドナル軍はテリア軍に突撃を仕掛け乱戦に持ち込もうとしたが、テリアがその攻撃を押し戻し後退を開始した所だった。
テリア側もよく判っている様だ。
これならこちらの邪魔もしてこまい。
後はクドナル軍を蹂躙し尽くすだけだ。
そして、陛下の率いる本軍のとの合流を待ち、クドナルの首都にむけて見せかけの進軍を開始する段取りだったか。
どうせなら、陛下も徹底的にやってしまう命を出せばいいのに。
なにせ陛下はお気に入りの養女を殺されたのだ。
私としては、王宮より旅立ったメアルシアの事は今更どうも思わないが、それよりもカーライルが巻き込まれて死んでしまった事の方が残念に思う。
そういえば、最近部下になったばかりの者に現場の再調査を命じていたな。
調査はどうなっただろうか。
『お姉様敵本陣より大騎士の反応3』
意識がこの戦いの後の事に向っていたところ、サーランの冷静な声が頭に響いた。
見れば、敵本陣の中から光の柱が3本立っている。
<ち!>
内心舌打ちをする。
向かわせた大騎士は4、敵は3。
負けはしないが万全を期すなら援護に向かうべきだ。
『まだ隠し玉があったとはな。援護に向かうぞ』
『ええ、判りまし……… え?』
『サーランどうした?』
普段冷静な妹が驚いている。
それほど敵の大騎士は驚くべき存在なのか。
<な!>
光の柱が消えた時そこに立っていた大騎士の威容に私も驚かされた。
本陣攻略に向った大騎士達の足も止まってしまった。
そこに立っていたのは3体の人馬。
下半身が馬で上半身が人間という伝説の種族ケンタウロスに酷似していた。
人馬大騎士と呼べばいいだろうか。
4つ足の下半身部も全身を覆う装甲が付いき通常の馬の装甲とは異なっている。
通常神の勇士兵の身長は90〜100メタ(9〜10m)だが、人馬大騎士は更に大きい。
120〜130メタはあるだろう。
その人馬大騎士3騎の内中央の1騎が持つのは長柄の剣だろうか?
見たことが無い武器だった。
左右の人馬大騎士はランスと騎乗盾を持っている
人馬大騎士達は敵陣前列に並べられた投石機の間から前に出てきた。
そしてこちらに駆け出す。
どうやら狙いは私の様だ。
それを阻止しようと、本陣攻略隊の部下達も動き出す。
こちらの大騎士達の剣が光り出す。
我が軍の対大騎士のセオリーである《聖光の刃》だ。
しかし、人馬大騎士達の脚は早い。
こちらの大騎士達との接触の直前、人馬大騎士達は跳躍し、大騎士達を飛び越えた。
『お姉様 来ます!』
私達の左右に控える部下がハルバードを構えた。
サーランも再び盾を顕現させる。
部下達は私の前に出ようとするが剣をひと振りし、私はそれを制した。
先ずは先程の様に盾の一撃で牽制しておくべきだろう。
『敵の素性は分かりませんが、3騎共に強大な力を感じます。眷属神かもしれません』
サーランの言葉に焦りが含まれているように感じた。
言葉通りなら、対応出来るのは私が操る神の勇士兵【サンシェリー】だけだ。
部下達では3騎がかりで1騎を抑えられるかどうかだろう。
一気に極めて状況は不利となった。
先程盾の一撃という手の内を見せてしまったから敵も警戒しているだろう。
牽制くらいにしかならない。
こちらもこれ以上の手の内を晒したくは無いが、使わざるを得ない。
『皆を呼び戻します』
『頼む』
サーランが集結を意味するの魔力弾を2隊の頭上に向って打ち出す。
これは只の合図なので当たったとしてもすり抜けて飛んでいく。
各聖女達は飛んでくる魔力には反応するので指示は伝わるのだ。
2隊が戻るまで持ちこたえれば形勢は再び逆転する。
そう考えた時、敵人馬型神の勇士兵より呼びかけがあった。
『アマリア王国先遣軍軍団長殿に次ぐ。私はモス国王太子ゴール・ラーソリュブ・ブレン。一時停戦を要求する』
中央の神の勇士兵の言葉が直接頭に響く。
この芸当が出来るのは【サンシェリー】と同じく力を持つ眷属神だけだ。
モス国は風を司る神【クテレ】を信奉する国家だ。
クテレは羽の生えた人馬の姿とされているので眷属神が人馬の姿でも不思議はない。
伝説の種族ケンタウロスも風の神の使いだとモス国国教【クテレ正教】では教えているのだそうだ。
本当に戦う気がないのか、人馬騎士達は徐々に速度を落とし、こちらの盾の射程に入らない距離で停止した。
私は中央の人馬騎士と対峙する。
『お姉様、モス国には……』
『ああ、判っている。陛下の命に背きは反しない』
私は妹を安心させた。
『私はアマリア王国第一王女ミリンダ・キリアス・アマリア。モス国王太子殿の要求を受け入れよう』
私の言葉は【サンシェリー】を通して伝えた。
これで全軍に伝わったはずだ。
部下達が警戒しつつも待機の姿勢に変わった。
『受け入れ感謝する。アマリア王国とモス国の友好が不幸な事故により損なわれた事は遺憾に思う。ただしこれ以上の戦闘は両国にさらなる不幸をもたらす事になる故、我が国を含めての話し合いをしたい旨を申し入れる』
『そちらの要望は理解した。私から陛下にお話すると約束しよう。但し、我が国は貴国の第2王子に嫁ぐべく向かわせた王族である王女を貴国の属国である【クドナル公国】領で殺害された。話し合いの結果によっては再侵攻もあり得る事を【クドナル公国】には理解して望む様、私からも要求する』
『貴国の申し入れ、私が確かに伝えよう。ではこれにて御免』
そう言うと、モス国王太子はくるりと背を向け、クドナル軍本陣に向けて歩き出す。
こちらに害意が無い事を確認してから王太子が左右に従えた人馬大騎士も踵を返した。
『アマリア国先遣軍各員に次ぐ。今回の戦闘は終結した。帰投せよ』
敢えて信号弾ではなく全軍に伝わるように【サンシェリー】で話した。
その命を受けて部下達がこちらに歩きだす。
私は、サンシェリーでの会話からサーランのみへの会話に意識を変える。
これだけでサーランが私の意志を察し機能の接続を切り替えてくれる。
姉妹として長年一緒に過ごしてきたからこその高いシンクロ率が成せる芸当である。
『サーラン ご苦労だった』
『お姉さまもお疲れ様です』
この場のクドナル軍を全て駆逐できなかったのは残念だが敵巨兵9機を大破させただけで良しとしよう。
部下達が私の背後に整列したのを見定めて私はサーランに信号弾を打つ様に指示した。
上空に向けて魔力による赤い信号弾が3発発射される。
『お姉様クドナル軍、テリア軍共に各陣に帰投終了したようです』
『もう暫く様子見だ。特にモスの側が顕現解除するまでは安心出来ぬ。サーラン魔力は足りているか』
『私は全く問題有りません。他の聖女達も問題無いでしょう。ほとんど力を使っていません』
サーランの魔力は我が国一高い。
陛下であらせられる母上よりも高い。
そのサーランがそう言うなら問題はないだろうし、戦闘とよべる戦闘は無かったので他の聖女達の魔力も摩耗は最小限といえるだろう。
やがて人馬神の勇士兵3騎が顕現を解除させた。
それに呼応するかのようにテリア軍、クドナル軍も顕現を解除した。
それを見届けた上で我々も顕現を解除した。
用心の為、半数づつの顕現解除にしたが、流石にこのタイミングで仕掛けてくる軍は無い様だ。
「団長全員解除完了しました」
「わかった。陣まで帰投する。召還馬用意」
私の命に従って皆、魔道具【召還馬】を起動させた。
この魔道具は【初めの聖女様】が開発した神界の馬を召還するものである。
魔道具を依代に魔道具に埋め込まれた魔導球に込められた魔力が尽きるまで走ってくれる。
魔道具の使用の波長に合った馬が召還され、契約を結ぶことで以降は同じ馬が召還されるようになる。
人界の馬と違い疲れず、魔力攻撃以外でダメージをうけることもなく、また恐怖し脚を止める事もないので軍馬としては重宝するのだ。
全員が馬に乗ったのを確認し、私はサーランを自分の前に座らせた。
この場でサーランだけが馬に乗ることが出来ない。
というか、乗馬が下手でいくら練習しても上達しないのだ。
何をやらせても優秀な妹の以外な一面である。
「出発」
馬が走り出す。
尾行の警戒の為迂回しながらだが最終的には我が軍の陣を目指す。
と言っても極めて小規模のものだ。
そこで副官のレガッスが待っている。
奴に根掘り葉掘り聞かれるのは面倒だなと思いつつ、そんな思考の余裕が出てきた事に、自分の初陣が終わったのだと実感したのだった。
続く




