4.(補足話)テリア本陣にて
★★★★★
Side:ヴェルノ・バークイ
テリアの陣中、移動牢屋の中にて
<どうしてこうなっちまったんだか>
俺は只々親父の指示通りに動いただけだと言うのにな。
なのに今、俺は捕虜を入れておく移動式檻に入れられている。
まったくもって信じられねぇ連中だ。
こんな事になってるのは、クドナルの奴らに捕まったからでは無く、今回の軍事演習の指揮を執るターオーブってジジィの指示で、不当に拘束されて自国の檻に入らされているからだ。
一応天幕の中に設置されているので晒し者にならずに済んでいるのがせめてもの救いだけどな。
しかし、手枷をはめられ用を足すにも監視が付くのは不便極まりねぇ。
あくまでも俺は親父の指示に忠実に従っただけなんだ。
だから、親父が手を回してくれるまでの辛抱。
此処を出たらターオーブの奴にはそれ相応の報いを受けて貰うぜ。
いかに俺が不当な扱いを受けたかを親父に言えば、こんな男の首など簡単に飛ぶ筈だ。
今は敢えて屈辱的な扱いに甘んじて、檻から出たその時には逆にターオーブをこの檻に入れてやる。
その時は天幕等張らずに雨ざらしにしてやるぜ。
それにしても、帝国の新型巨兵の実戦試験と言われたから喜んで協力してやったのに、何だあれは。
見た目に関しては、まだ隠しておきたいので【タイタンⅡ】に偽装するというのは判るけどな。
だが肝心の性能がてんで駄目だ。
正直 【タイタンⅡ】よりパワーが上がった位しか違いが判らんかった。
こんな事になるなら、断ればよかったぜ。
失敗作ではいくら俺がエース級の騎士といっても勝ってこないだろ。
はぁ、先の事は親父が何とかするだろうから心配してないが、暇で暇で仕方がねぇわ。
これも帝国のお些末な新型とターオーブの奴のせいだ。
そもそもこの話を俺に振ってきた親父のせいでもあるか。
<ったく、やってらんないぜ>
そもそも俺がこの話に乗ったのは功績を挙げて聖騎士になりたいからだった。
聖騎士になれば聖女があてがわれる。
俺が欲しいのは【水精のニー】
嘗て【テリアの双璧】と呼ばれたギルバートって奴のパートナーのエルフだ。
エルフは総じて美しいと聞いていたが初めて会った時には衝撃が走ったもんだ。
だが、あの女は俺の申し出を鼻で笑いやがった。
だから親父に頼んでギルバートの奴を嵌めてやったのだ。
奴らが今どこにいるか親父に頼んで調べて貰ってはいるが、一向に見つからない。
でも見つからないだけで死んでないに決まってる。
あの女を手に入れる為には俺はまず聖騎士として認められる必要があった。
あの美しくも気の強い女にはギルバートなんかより俺の方が相応しい。
俺が国から聖騎士として認められれば、靡くに違いない。
そもそも俺には権力も財産もある上に、カッコいいからな。
しかし、今回の件は帝国のお粗末な新型のせいで大きな汚点になっちまった。
まったくもって忌々しいぜ。
<しかし暇だぜ>
あまりにも暇だった俺はこんな羽目になることになった発端である親父の言葉を思い出していた。
★★★★★★
Side:ヴェルノ・バークイ(ヴェルノ回想)
ブエイ砦にて
「ヴェルノ。喜べ、お前にチャンスを持ってきてやったぞ」
「あん?親父なんだチャンスって」
でっぷりと太って見苦しい親父との食事は、はっきりいって苦痛なんでさっさと終わらせたかったのによ、この日はやたらと上機嫌な親父が俺に帝国からの話を持ってきやがった。
「お前は聖騎士になりたいんじゃろう?」
「ああ、それだけの実力が俺にはあるのに功績を挙げる機会がねえ。それもこんな所でくすぶってるからだろ。でチャンスってのは?」
戦場に出る機会があれば俺はすぐに活躍できる。
だが、親父の奴が俺をこんな砦の巨兵隊隊長に任命しやがったせいで機会に恵まれなかったのだ。
俺が隊長になってから一度だけクドナルの連中がこの砦目指してやってきたことがあった。
しかし親父の奴は決して出撃を許可しやがらなかった。
それは親父が臆病者だからだ。
巨兵が出撃したら、親父を守る巨兵の数が減る。
親父はそれをひたすら恐れた。
結局折角訪れた功績を挙げるチャンスも、援軍として現れた【破砕のデリカット】に全て持ってかれた。
猛将と呼ばれているデリカットは敵の巨兵12機を瞬く間に屠ってクドナル軍を壊滅してしまったのだ。
だが俺は言いたい、あの時俺が聖騎士で神の勇士兵を駆っていれば、デリカット以上の功績を挙げていたさ。
それ以降チャンスを失って以来ずっとくすぶっていたが、どうやらやっと日の目を見れるらしい。
「帝国の依頼があってなーーーー」
饒舌に語る親父の話とは帝国の新型巨兵の実戦データを取るというものだった。
国境近くで軍事演習中にクドナルの巨兵と遭遇し止む無く交戦するというシナリオだ。
もちろん新型巨兵なんていうのを公表できないから、見た目は【タイタンⅡ】に偽装する事になっている。
しかも軍上層部から来た話ではないので、この件を知るものはごく限られた者だけだというのだ。
そこで新型の威力を見せつけ敵の巨兵を数体打ち破っても、あくまで【タイタンⅡ】での功績になる。
勿論通常の【タイタンⅡ】でもそれだけの功績を上げる自信があるが、楽ができるならそれに越したことねぇ。
俺はその話に飛びついた。
☆☆☆☆☆
目の前にクドナルの巨兵がいる。
<やっと遭遇できたか、長かったぜ>
国境付近で軍事訓練を始めて数日が経っていた。
軍事訓練の指揮を執るのは聖騎士ターオーブって年をとった奴だった。
どこかで会った気がするがどうにも思い出せねえ。
まあ、そんな事はどうでもいいけどな。
こんな奴の指揮下に入るのも気に食わねえが、少しの辛抱と思って耐えた。
ターオーブの奴は国境を超えるのを厳しく禁止してきた。
国境を超えなきゃ敵さんに会えないだろうがよ。
悪態を付きたいのを堪えて数日耐えた。
そしてこの日は天が俺にチャンスをくれた。
今回の演習では、巨兵8機を持ってきていたが2機はドック入になった時の予備で、巨兵3機の小隊2隊に分かれて行っていた。
この日は早朝の演習で、且つ森林近くだったからか運良く濃い霧が発生していたのだ。
このチャンスを活かして俺は俺の指揮下にある巨兵2機を従えて国境を超えた。
国境を超え、しばらく荒野を進むと徐々に霧は晴れてきた。
そして何かが近づいて来る音がする。
それは徐々に大きくなり、巨大な人形の影が見えてきた。
何かも何も無い、敵の巨兵に決まっている。
さて、割と直ぐに敵さんに会えたってーことは、向こうもこっちに備えていたって事だな。
ひょっとしたら帝国が情報を流してお膳立てしてくれたのかも。
ま、俺が活躍できるなら何でもいいさ。
霧が晴れた時、敵の巨兵が顕になった。
細身で軽装甲だ。
片手槍とラウンドシールド持っている。
一定の距離でお互いに対峙した。
数はお互い3機。
問答無用で仕掛けてきてくれれば、後で言い訳しやすいんだが、こないならこちらから仕掛けされて貰おう。
どっちが先に仕掛けたかなんて要は勝てば問題ないさ。
あんな軽装甲なんてヘビーメイスの一撃で粉砕だ!
先ずはこれだ。
俺は腰に取り付けられている副兵装の鉄球を投げつけてやった。
これは火炎の神【エンテカ】の力が組み込まれていて、当たれば爆発を起こす。
俺が投げた鉄球は敵の中央にいる巨兵目掛けてすごい勢いで飛ぶ。
流石は新型、すごいパワーだぜ、とこの時は思った。
しかし鉄球は敵の盾で勢いを反らせれ明後日の方向に弾かれた。
<なんだ、何故爆発しねぇ?>
この時の俺は知らなかった。
あくまで演習で来ているので鉄球に魔力が込められていない事に。
<整備の奴らめサボりやがって、後で首を撥ねてやる!>
悪態を付きなから、主兵装のヘビーメイスを構えた。
敵もこちらに負けじと槍投げて来た。
左側の背に装着された棒は折りたたみの投げ槍になっていて、あの槍の先端に当たると風の爆発を起こすのだ。
クドナルと何度もやり合って来たジジィどもが厄介だと言っていたな。
俺は他とは違うって所を部下共に見せつけてやるとするか。
飛んでくる敵の投槍は3本。
それぞれ狙いは別々で、我々1機につき1本だ。
俺も盾で同じ様に弾こうとした。
が、盾にもろに当たり、爆発した。
俺はとっさに踏ん張り衝撃に耐えた。
俺でなければひっくり返ってしまったに違いねぇ。
流石に重装巨兵、衝撃に飛ばされはしねえが盾が変形しちまっった。
これではもう役に立たねぇし、格好悪ぃんで捨てた。
俺が盾を捨てた事で部下の2機が盾を構えたまま前に出て俺を庇おうとした。
あん?コイツらに飛んだ槍はどうなったんだ?
<余計なお世話だ、邪魔すんなよ!俺を庇おうなんて100年早ぇ!俺はこれから大活躍すんだよ!!!>
俺は完全に前に出られる前に、お節介な部下どもより前に駆け、敵巨兵に接近戦を挑もうとした。
ところがだ、敵どもは投げやりの第2陣を準備してやがった。
再び2本の投槍が飛ぶ。
狙いは……2本とも……
<俺かよ!!!!!>
焦るな!新型巨兵なんだ。なんてことはねぇ!
槍の1本はメイスで柄の部分を弾き軌道を反らした。
槍はどこかに飛んでいった。
パワーは【タイタンⅡ】よりあるな。
それを使いこなす俺も流石だぜ。
しかし同時に飛んでくる2本目を躱す事が出来なかった。
俺のイメージでは弾くのと、躱すのは同時に出来ていたというのに。
これは俺のせいじゃねえ。
新型が遅ぇんだ! 遅すぎだ。
折角のすごいパワーもこれじゃぁ活かせねぇ。
いくら俺がエース級だと言ってもだ。
<ぐふ!>
衝撃が全身を走ったが、魔導球はなんとも無かった。
だが見れば、左もも部の装甲が弾けていた。
意識したが左足が全く動かなかった。
なんてノロマでヤワな新型なんだ!
こんな出来損ないを俺に充てがうなんて!!
こんな出来損ないでは、俺の実力を発揮なんて出来るはずねぇ。
動きが遅すぎるのは致命的だろうが!
何とか動こうとするも、やはり左足が動かず体勢を崩しちまった。
辛うじて肩ひさを付く感じで持ち超えた。
が、しかし先程槍を投げなかった奴が投げやりを構えていた。
この為にわざと投げなかったのか!
ヤベぇ!この体勢では只の的だ。
「おい!お前ら出番だ!俺を守れ!!」
よく考えれば、叫んだ所で俺の声は聞こえはしねぇんだが、兎に角追いついた部下共が俺を庇うように盾を構えて前に出た。
投げられた槍は辛うじて部下の盾に阻まれ、俺への直撃は回避された。
<畜生!>
動けねぇなんて!これじゃぁ活躍できねーだろ!!
一瞬頭に血が登ったが、直ぐに不味い事に気がついた。
敵は投槍を放っただけで全くの無傷が3機。
それに対し、こっちはエースの俺が不良品をつかまされたばっかりに健在なのは2機。
しかも1機は今ので盾がひしゃげちまった。
その上で俺を守りながら戦わなきゃならねぇ。
<お前ら、命がけで俺を護れよ!>
お前ら有象無象の命がいくら失われようが替えが効く。
だがエースの俺の命が失われるのは国家、いや世界の損失なんだからな。
敵の巨兵はこちらを半包囲する用に正面と両サイドに分かれて接近してきやがった。
守りの2機をひきつけ正面の1機で俺を仕留める気か!
なんて姑息な奴らだ!!
<騎士だったら正々堂々と動ける奴を狙いやがれ!>
3対2ではこちらがかなり不利だが、そこは重装巨兵。
損傷を受けながらも何とか耐えていた。
そろそろホントにヤベぇんじゃと思い始めた時、急に敵どもが距離を取った。
理由は直ぐに判った。
鉄球が飛んできて、それを避けながら敵が後退していからだ。
戦闘が始まったのを察したもう1隊が駆けつけてくれたのだ。
クドナルの連中は数に5対3では不利を悟ったか、卑怯にも後退していく。
こうして俺の思い描いた展開になること無く戦闘はおわっちまったのだ。
更に俺は引きずられて帰投するなんて、格好悪い役をする羽目になっちまった。
☆☆☆☆☆
「何でいきなり前に出たんです!」
「はぁ? 部下の分際で上官の判断に意見すんじゃねーよ!首飛ばすぞごらぁ!」
魔導球より出るなり食って掛かってきた部下に蹴りを食らわせてやった。
俺は不良品を充てがわれて機嫌が悪いんだ。
「おい! 俺の機体を整備したのはどいつだ! 鉄球に魔力が込められてなかったぞ。俺を殺すきか!」
「隊長、演習で実際に魔力を込める訳無いでしょう。何を聞いてたんですか。それにこちらから仕掛けたのは問題です。命令違反ですよ!」
「あん?オメーはさっきの聞いてなかったんかよ!上官を批判すすんじゃねーぞ!」
割って入ってきたもう一方の部下も蹴り飛ばす。
「いいから整備したやつ連れてこいよ!!!」
こいつだけは首を撥ねねば気がすまねぇ。
最初の鉄球が爆発すれば、流れは変わっていた。
俺ほどのエースなら、出来損ないな新型でも3機を潰せたんだ。
それだけにこいつだけは絶対に許せねぇ。
あと反抗的な上に、使えねぇー部下共も騎士では居られなくしてやるぜ。
<てめえらが巨兵に乗ろうなんぞ100万年早ぇんだよ!>
「ヴェルノ・バークイ! これはどういう事だ」
「チッ」
声の主は聖騎士のジジィ、ターオーブだった。
ジジイのくせに、眼光は鋭く精悍でガッチリしてやがる。
気に入らねぇぜ。
ジジイはいつまでも現役でいんじゃねーよ。
後進に譲りやがれ。
だが今、この場では奴の位が一番高ぇ。
能力が俺より劣るくせに運良く聖騎士になれただけで威張りやがる。
思わず出た舌打ちにジジイが目を細めた。
「まぁいい。これよりお前の査問を行う。連れてけ」
俺の両脇に奴の連れてきた騎士が来て俺の両腕を拘束した。
「は!? 何しやがんだ!放せ!! 何で俺が!! 俺が何をしたって言うんだよ!? 親父に言いつけるぞ!!」
「理由か?勿論、今回の戦闘について話して貰う為だ。いいから連れてけ」
流石の俺も戦闘後で疲れていて、抗えなかった。
まぁいいさ。
今回は帝国からの依頼でやった事。
ジジィがどんなに威張ろうともどうせ俺を罰せはしない。
今だけはおとなしくしててやるか。
☆☆☆☆☆
やれやれ疲れたぜ。
連れて行かれた先で俺が言ったのは、たったの2つ。
霧で方角を見失った事と、そしたら敵と遭遇し交戦せざるを得なくなった。
これだけだ。
故意であることの証明なんてできる訳がねぇ。
そういうふうに徐々に方角替えたからな。
結果、とりあえず俺は天幕での謹慎を言い渡された。
そうだ、親父には【タイタンⅡ】や新型の欠点について知らせてやらなきゃだな。
二度とあんな不良品には乗りたくねぇし。
敵の巨兵は機敏に動いていたっけな。
ならこっちだって同様に動けなければ、勝てるものも勝てなくなるなんて子供でも判る理屈だろうが。
どいつもこいつも馬鹿ばっかだな。
国境を超えて攻撃を仕掛けたんだ。
怒り狂ったクドナルの奴らは直ぐに攻め返してくる筈だろうし、それまでに改良しなきゃ全滅すんじゃねえか?
逆にそれまでに改造できりゃ今度は俺の大活躍で間違いなしだ。
「おい!」
「お呼びでしょうか?」
俺は今回連れてきた俺付きの召使いの一人に親父への伝言を言いつけた。
装甲を軽装に替えさせろと。
親父でも判る様に理由もつけて。
☆☆☆☆☆
「ヴェルノ・バークイ。将軍の命により、今を持って貴様の任を解き、拘束とする」
<はぁ?急に呼び出したと思ったら何言ってやがんだ?>
この前の様に両脇に騎士が二人立った。
今回は前の時の様に疲れ果ててはいねえが……
「抵抗するなら斬って構わん」
ターオーブのジジイの言葉で背後に居た騎士が抜刀しやがった。
<マジか!こいつら正気かよ!!>
こうなりゃ是非もねぇ、奴の言葉に従うしかなかった。
<覚えてやがれジジイ!てめえは絶対に許せねぇ!>
★★★★★
Side:ヴェルノ・バークイ
再びテリアの陣中、移動牢屋の中にて
「思い出してもやっぱ腸煮えくり返るな、クソジジィが」
腹は立つが腹も減る。
しかし、外が騒がしいな。これから始まんのか。
おいおい俺抜きで大丈夫だろうな。
この陣まで敵が攻め込んできるなんて事ねえぇよな?
「おい!誰かいねえか! 俺が出てやってもいいんだぜ?」
聞こえねぇのか無視してんのかわかねぇが、何度叫んでも誰も出てこねえ。
「……大丈夫だよな?」
俺の問だけが虚しく天幕内に響いた。
戦争の裏方、ある整備兵の嘆きです
★★★★★
Side とあるテリアの整備兵
テリアの陣にて
「魔導球への魔力充填は完了しています」
「4、5、6番いけるか?」
「4番は行けますが、5番は膝関節部の点検が、6番は加えて右腕の装甲換装がまだです」
「馬鹿野郎!テメー殴られてーのか!さっさと終わらせろ!」
「はい!!!!」
「整備長、中型巨兵起動しました」
「おう、だったらとっとと(外した)装甲持ってかせろや。あとお前、手が空いたならこっち手伝え」
「整備長鉄球無しでもいいでしょうか?」
「あーん? 言い訳ねーだろ! 鉄球はどうした?」
「魔力充填中です」
「1兵につき、2つでいいから魔道士に急がせろ」
「整備長!将軍がお呼びです」
「あー、今忙しいって言っとけ!」
「し、しかし」
「いいんだよ!待たせときゃ。これ以上俺を怒らせんるんじゃねえ!」
「は、了解です」
はぁ、親方の機嫌がすこぶる悪い。
というのも軍本部から無茶な指令書がきたからだ。
発端は先日の早朝演習だった。
その時行われた巨兵の軍事演習がまさかの実戦になってしまった。
しかもその戦闘で我が国の誇る巨兵【タイタンⅡ】の3機が損傷を受けた。
3機の内2機の損害は警備だったが1機は中破だった。
中破したのはもうこの野外工場ではどうにもならない。
それにこの機体は……おっと、整備長から箝口令が出ているんだった。
演習が終われば直ぐに帰れると思っていたのに、許されずそのまま陣で待機する嵌めになった。
聖騎士ターオーブ様の指示で追加の仮設工場が設営された。
そのまま戦争になるんだと思うとカンベンして欲しかった。
軽傷の2機の修理が終わった頃、軍本部からの指示書が届いた。
上からきた命令はメチャクチャだった。
物資が届き次第本来重装の【タイタンⅡ】を全機軽装甲に替えろと言ってきたのだ。
中破した奴を除く7機と新たに来る3機、合わせて10機全てだ。
しかも物資の到着予定日から3日で。
開戦予定日はお互いの行軍や準備が遅れた影響で数日遅れるらしい。
だから本当なら開戦予定日まであと3日のところ、実際は7日程ある。
なのに3日で仕上げなければならないのだ。
では残り4日で何をするのか言えば調整だ。
これは時間がかかる、騎士一人一人に合わせてチューンナップするから。
正直よくそんな余裕があるなと思う。
組み上がり次第、調整なんてぜずにとっとと攻め込めばいいのでは?と思うけど、戦争にもルールがあるらしい。
戦うのは騎士同士だから戦闘開始前の不意討ちで功績を挙げてもそれは不名誉な行為なのだとか。
上からの指示書を見た巨兵整備30年の整備長は当然激怒した。
『上の連中は全然解っちゃいない。軽い装甲つけたら素早くなると思ってやがる』
そう言って拳骨で机を叩き折ったのだ。
整備長の怒りは最もだ。
重装甲を付ける為にはその分のパワーが必要になるのは当然だけど、そのパワーを出し、更に重装甲の重さに耐える為により関節の強度が必要になる。
従って関節自体もゴツく重くなる。
体が重ければ、動作における慣性や遠心力が大きくなってバランスを取るのが難しく、可動部にかかる負荷も大きくなる。
その為、動作の加速度(素早さを)を敢えて抑えているのだ。
設定を替えた所で微調整程度で対して効果は無い。
バランスを取るのは操作する騎士の役目とはいえ、急に動作特性が変われば戦場で十分なパフォーマンスは発揮出来ないなんて一整備兵でしかない俺にだって判る。
だけど、上の命令には従わなければならない。
だからこそ、親方の機嫌がすこぶる悪い。
今、巨兵の整備の現場は怒号が飛び交っている。
到着した3機を組み上げつつ、他7機の巨兵の装甲を下ろし、点検して装甲を付け替える。
装甲の付け替えが終わったら終わったで、魔力出力の調整や、動作加速度などが変わるから調整も大変なんだけど、兎も角先ずは装甲を付け替えないとならない。
交換する装甲が届いて3日、ここ3日は徹夜続きで誰も寝ていない。
今はこの野外整備工場こそが戦場だ。
何故こんな事になっているのか?
整備長が聞いた話では、こちらの1番兵が中破したのに対し、敵さんの巨兵は無傷だったかららしい。
整備長が誰に問い詰め……いや、聞いたのかは怖いので考えたくない。
嫌なことに中破させた当の本人の騎士殿が『【タイタンⅡ】の動きが鈍いから敵に遅れを取ったのだ』とのたまわって下さったらしい。
自分の技量を棚に上げて。
実際【タイタンⅡ】は元の【タイタン】より重い。
帝国より払い下げられた【タイタン】を更に重装にする為に改造された巨兵なのだ。
パワーを上げる代償に動き出しの反応は【タイタン】より更に鈍い。
俺は騎士じゃないから戦闘の実際のところはわからないけど、重装巨兵には重装巨兵の戦い方がある筈だ。
【タイタン】をそのまま使っていた時だってそうなのだし。
問題は中破させた不名誉な騎士の父親が強大な権力を持った存在だって事。
その権力は何年か前に”双璧”を謳われた多大なる功績があった上級将軍の一人を失脚させた事でも伺える。
そのバカ息子が巨兵乗りの騎士になれたのも、今回の演習に参加出来たのも全て親の七光りだ。
そして先に手を出したのがこちら側で、そのまま敵さんが宣戦布告をし、戦争になってしまった。
このままじゃ負けるってバカの父親が騒いだせいで、今回の無茶振りが起きたのである。
因みにその馬鹿は今回の戦争の指揮を執る将軍様の指示で移動牢屋に入れられているようだ。
本来ならとっくに砦に居るはずなのに、野営地で何日も待機させられて無茶な作業をやらされているのも、全部バカ息子のせいだ。
ぶん殴ってやりたい。
☆☆☆☆☆
「おい、9番兵は後どれくらいかかる?」
「あと半刻(1時間)下さい」
「急げよ!」
そんなやり取りが聞こえてきた。
整備が終わり次第、起動準備が始まる。
すでに2〜5番兵(1番は中破)は調整作業に入っている。
何と言っても臨戦体制なのだ。
作業は早ければ早いほどいい。
今回の発端になった戦闘はお互いの砦からだいたい等距離の場所で起きた。
元々は1つの国だったテリアとクドナルの間に緩衝地帯は無く、国境を超えれば、お互いに直ぐに敵国の領地なのだ。
今回は宣戦布告が向こうからなされ、こちらは損傷した機体の修理の必要もあり陣は移せなかった。
その為クドナル側の侵攻を許し、こちらの陣より一定の距離を置いているけど、クドナルが陣を築いた場所は我が国の領地内だ。
お互い巨兵が組み上がればいつ戦闘が始まってしまっても可笑しくない。
なのに、砦勤務の整備兵がこんな野外で、しかも3日も徹夜で装備換装をさせらる事になるなんて。
ここには作業台も吊り上げ滑車も何も無いのだ。
整備工場でやるべき事をここでやるのは無茶にも程がある。
☆☆☆☆☆
11番兵の起動が成功した。
とりあえず終わった。
これで漸く寝れる、交代制で3時間程だけど。
運良く最初の組に入れた。
しかし、整備長はなんであんなに元気なのか。
全く寝てないのは親方も同じで、ずっと動き回っているのに誰よりも元気だ。
ドワーフがタフとは知識で知っていたけど、ホント整備長を見ていると実感としてマジでタフだな、と思う。
しがない一整備兵としては、整備長と同じマネは到底出来ない。
何でもいい、このまま床でいいから寝かせて欲しい。
何とか仮眠用天幕まで行けば、既に泥のように眠る仲間が床に転がっている。
そして、俺も同じ様に空いた場所に行くと意識を直ぐに失ったのだった。
続く




