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騎士と聖女の物語  作者: 丁太郎
二国の争い編
25/36

3.困惑する将軍

★★★★★

Side:クドナル公国将軍ワイト・ビネガー

執務室にて


「テリアの巨兵と交戦だと!? 何時のことだ?」


 部下より報告を受けて怒鳴ると共に目眩がした。

 何だってこのタイミングでと言いたくなる。

 交戦日を部下より聞き出だすなり上層部より回ってきた書類を引っ張り出して内容を確認する。


「あの……将軍」


「なんだ、まだいたのか」


 邪魔されてついギロリと睨んでしまった。

 悪いのは顔を青くしている部下ではないと理解っているが、私の悪い予感が当っていない様にと祈るのを邪魔されて苛立ってしまったのだ。

 今は部下よりも書類の確認が優先される。


「報告ご苦労でした。下がって良いですわよ」


「は、それでは失礼します」


 耳だけで我がパートナー、聖女ジェシアがフォローしてくれたの確認する。

 その時丁度目的の部分を見つけた。


「ビネガー様、報告しに来た部下を脅すだなんて……どうされました?」 


 ジェシアのおっとりとした声は聞こえているがそれどころではなく、書類の一点に視線は釘付けだ。


「ジェシア、直に招集がかかる。その前に茶を一杯くれ」


 先ずは落つ着こう。ジェシアは何も言わずに準備中だったお茶を淹れてくれた。


「ビネガー様、顔色が悪いですわ」


「ああ、大変な事になった」


「ヤツらとの戦闘はいつもの事ではありませんか」


「それが起きた日が問題なのだ」


 お茶を飲んで落ち着きを取り戻した私は、何も言わずに書類をジェシアに渡す。

 暫し書類に目を通してしたジェシアだったが、問題の部分にたどり着いたらしく目を大きく見開いた。


「う、嘘ですわよね」


 少し震えた声に事態の深刻さを認識したと理解する。


「我々の管轄外ではあるが、対応を間違えればアマリア王国との全面戦争もあり得るぞ」


「よりによって、アマリアの姫の通過日程に重なるだなんて」


「今は調査が先だ。無事に通過したか引き返した事を祈るしかないな。何にしろモス国にも報告は必要になるし、アマリアへの対応はモス国へ任せるべきだろうな」


「そうですわね。でも、もし万が一、戦闘に巻き込まれていたら」


 ジェシアが最も考えたくない事態を口にした。

 その声は震えている。


「アマリアの姫はモス国第二王子に嫁ぐ為、モス国に移動中だった。運悪くモス国に至る道はテリア側ではなく、我が国の国境近くを通っている。しかし此処がモス国の属国である以上、モス国に庇護してもらうしかないだろうな。大国同士の話し合いで済んでくれればいいが」


「きっと無事だと信じましょう」


 ジェシアは自らに言い聞かせるかのようにつぶやいた。

 本当にそうあって欲しいものだ。

 そんなやり取りの後、案の定緊急会議の招集がかかった。



☆☆☆☆☆



「兎も角、至急調査部隊を派遣すべきです。アマリア王国への対応をするにしても情報がなければ始まりません」


「アマリアはモス国へ秘蔵の姫を差し出す途中だったそうだな。ならモス国の庇護がある以上恐れる必要はないのではないか?」


「いや、対応を過って帝国と組まれると厄介この上ない。ここはテリアに罪を押し付けるべきだ。そもそも侵攻してきたのは憎き奴らではないか」


 緊急に招集された会議だったが、上層部はあまりにもアマリア王国への認識が甘いと感じた。

 この国はクテレを信仰しない他国を侮る傾向がある。

 私は調査部隊を派遣し情報を得るべきだと主張したが、同意は得られなかった。

 理由はテリアが侵攻してきた以上、戦地に調査断を派遣するのは危険だという意見と、アマリア国を舐めるている者が大半を占めていたからだ。

 現アマリア女王に限らずアマリア王国は歴史的に見ても他国への侵攻を行っていない。

 経済力にて属国を増やすことはあって基本的に戦争による拡大政策は取らない国だった。

 経済力のある大国なので、その武力も相当なものだろうがアマリアが六強国に数えらるのは経済力そのものにある。

 だからこちらから攻め込む愚を侵さなければ大丈夫と言う認識を持つ者が多いのだ。

 だろう…で方針を決めるのは危険極まり無いが、テリア憎しが勝っているこの場では、テリアに全責任を押し付けるべきでアマリアへの対応は後回しにという空気になってしまっている。

 こちらはそのつもりでもアマリアがどう判断するのかが判らない以上、油断をすべきではないというのに。

 これも六強国の一つ【モス国】という大国の庇護下にある弊害なのだろうか。

 私は発言する気を無くし、結論が出るのを見守った。

 結局モス国に開戦の許可を求め、速やかにテリアに宣戦布告することとなった。

 アマリア王国については、アマリアから働きかけがあればテリアに責任があると返す事となった。




「それが上層部の決定なのですか」


「ああ」


 俺は一言だけ返す。 

 ジェシアは不安そうだが、我々は決定に従う他無いのだ。

 

 数日後、モス国からの承認が降りた。

 渋々だったが条件付きで許可されたと聞いていた。

 そしてそうあって欲しくなかったが、我々に出撃命令が来た。

 この度のテリア討伐軍司令殿からは、調査をしたがったのだから丁度いいだろうと言われた。

 自身は戦地に立たないから言いたい放題だ。

 正直、散々交戦を唱えた者に振って欲しかった。



☆☆☆☆☆



「王太子殿下がお越しになられる…ですか?」


 出征準備に追われる中、軍最高司令閣下に呼び出されて聞かさされたのは、モス国の皇太子が急遽訪問される、だった。

 

「うむ」


「まさか、私にその警護の指揮を執れと言うのですか?」


「心配せずとも有りえんよ。君は準備に忙しいだろう。どちらも疎かになっては困る」


 流石にそれは即座に否定された。

 それはそうだ。

 警護に専念出来る者が担当するに決まっている。

 応対もこちらの王族があたるのだ。

 警護担当もそれなりの爵位を持つ将軍が当たるのが当然か。

 出征が無くとも男爵家次男の俺に回ってくる筈も無かった。


「これは失礼しました。では何故私は呼び出されたのですか?」


「うむ、忙しいところ申し訳無いが、この度の出征に殿下が参陣されるとの意向を示されたのだ」


「は!?」


 殿下が参陣? 嘘だと言って欲しい。


「ま、驚くのも無理はない。今までテリアの賊どもの討伐にモス国が直接介入してきたことなど無いからな」


「モス国の南征への影響ですか?」


 モス国は現在大規模な軍事行動を準備している。

 それはモス国の悲願である聖地の奪回の軍である。

 250年程前だろうか、モス国は現在よりも南方に在った。

 しかし、竜人族を名乗るトカゲが攻めてきて、風の神が住まう場所とされる嘗ての王都は奪われてしまった。

 その際、当時の王族もトカゲ共に殺されたという。

 辛うじて生き延びた第3王子は北方に逃れ新生モス国を作ったのだ。

 以来何度も聖地奪回の南征軍を起こしているが250年経った今でも悲願は成就されていない。

 今回の遠征は第13次聖地解放軍。

 王太子を総大将にして過去最大規模の遠征が行われる予定なのだ。

 その総大将である王太子がこのタイミングでこちらの小競り合いに参陣する理由は何なのだろう。


「影響というより、訓練の様だ。殿下は此度が初陣だからな。尤も殿下よりも今回は聖女様方を戦の雰囲気に慣らすのが最大の目的なんだろう」


「クテレ正教 第1位であらせられる大聖女様方ですか。確か今は12才だったと思いましたが……参陣されると?」


「ああ、通常では未成人の聖女様を戦地に出す等、有りえん事だ。それだけ今回の南征が本気ということだな」


 クテレ正教が誇る、三つ子の巫女。

 彼女たちは7歳にして風の神【クテレ】から眷属神を授けられ、位にして第1位という最高位の聖女になった。

 そして10才の時、クテレ神殿側は渋ったが三つ子の大聖女達はモス王室に召し抱えられた。

 特に次女の力が最も高く、その為か昨年、正式に王太子の婚約者となった。


「是非も無い……ですね」


「ああ、そうだ、我々に拒否権など無い。殿下の護衛はこちらで手配する。君には殿下方を特別ゲストとして迎えて貰う」


「ゲストの人数と日程を教えて下さい」


「ああ、他言無用に頼むよ。先ず日程だがー」


 殿下の予定までに本陣を設営し、殿下達用の高級天幕を用意しなければならない。

 王族が戦場に出てくるなど、この国では先ず無い。

 だから、一見普通の天幕に見えて実は最高級の天幕などありはしないのだ。

 とは云え、最低限には整えなければならない。

 軍最高司令閣下の話を聞きながら気が遠くなる思いがした。



☆☆☆☆☆




「……ビネガー様、お茶をお淹れ致しますわ」


 殿下の参陣をジェシアに伝えたところ、その返事が今のお茶を淹れてくるだった。

 現実逃避したくなる気持ちはよく理解できる。

 先程の私もそうだった。 

 

 しばらくしてジェシアが戻ってきた。

 ジェシアに促されるままにティータイムを取ることにした。


「伯爵家令嬢だったジェシアでも殿下に謁見するのは緊張するのか?」


「今は貴族令嬢ではなく、ビネガー様のパートナーですわ。でも…そうですわね。当然緊張しますわ。こちらの生殺与奪を握られているのですもの。しかも戦地で出迎えなければならないだなんて」


「ああ、正直胃が痛い。ジェシアは殿下に拝謁したことは」


殿下にはご挨拶したことが御座います。当時殿下は10才でしたわ。あれからもう10年、懐かしいですわね」


 ジェシュアはやはり伯爵家のご令嬢だけはあるか。

 ジェシアは12才の時の聖女の才を開花した。以降は聖女の修行の為、伯爵家を出たが血縁がなくなった訳ではない。

 聖女を排出するのは大変名誉な事なのだ。

 伯爵としても聖女となった(ジェシア)を最大限に利用し、今でも公式行事に伴っている。

 だからジェシュアが殿下に拝謁する機会があったとしても不思議ではない。

 不思議なのはそんなジェシアが俺の元に来たことだろう。

 パートナーとなって早18年、私の妻になってからでも15年経つ。

 私の白髪と皺は増える一方ななのにジェシアはあの頃と全く変わらない。

 これも聖女の力なのだろうか。

 

 ジェシアが提案した現実逃避のティータイムも終わり、また現実に引き戻された。


「ジェシア…さあ、仕事の再開だ」


「ええ…理解っておりますわ」


 お互い、ため息の混ざった会話と共に、殿下の参陣の準備という厄介事が追加された出陣準備に戻ったのだった。



★★★★★

クドナル本陣にて


 本陣の設営が終わって1週間。

 こちらと同じく荒野に陣を置いたテリアとのにらみ合いが続いている。

 尤もお互い巨兵の準備が出来ていないだけなのだろうが。

 兎も角、遂に殿下の参陣される日になり、無事馬車が到着した。

 馬車は装甲馬車と呼ばれるものだ。

 重装甲の車体の為、専用の4足の馬形ゴーレム2頭で牽引している。

 魔力供給や制御役の魔道士用が乗る御者台も装甲で覆われて部屋になっており、しかも交代で回せる広さが有る。

 当然、王族の乗車室は余裕で10人以上乗れる広さがあるので

馬車自体が通常のものより大きい。

 当然牽引するゴーレムも通常の馬よりは大きいがこのゴーレムは一体で馬10頭に匹敵する力を持っているので、重厚な見た目に反し、通常の馬車よりも速いのだ。


 その走行馬車の扉を御者が開いた。

 俺は跪き頭を下げているので、音や気配で察しているだけだが恐らく殿下が馬車から降りてきた。


「ふぁー、やっと着いたー」


「ネスレ!お行儀が悪いです」


「三つ子なんだからお姉さんぶらないでよね」


「礼儀の問題です!姉だからとか関係ありません」


「お姉ちゃん達、喧嘩はやめなよ。取り敢えず降りようよ」


 馬車の中で女の子達が喧嘩しだした。

 殿下の御前ということで静まり返っていた場が一気に騒がしくなった。

 彼女達が第一位の聖女様達ということだろう。

 この場で大聖女である彼女たちを窘められるのは殿下くらいなのだが注意する気はないようだった。

 あるいはいつもこの調子で諦めているのかもしれない。


「ゴール様ありがとー。とぅ!」


「もう、ネスレ! 馬車はそうやって降りるものじゃないっていつも言ってるでしょ! あ、ありがとうございますマキシム様」


「お姉ちゃん達、静かにしないと。 ありがとコーミ」


 三つ子といっても性格は随分と違うな。

 それぞれのパートナーにエスコートされながら馬車を降りたようだ。


 総司令閣下からは殿下は大聖女様のパートナー聖騎士2名を護衛騎士として連れてくる聞いている。

今の聖女様達の話からすると、殿下が連れてきたのは

 殿下直属の近衛騎士団 団長のマキシム・カッフェ卿と同じく近衛騎士コーミ・バイセ卿という事になる。

 カッフェ卿は一兵卒から騎士、そして近衛騎士に、更に殿下直属の近衛の団長にまで上り詰め、その際カッフェの家門と伯爵位を授けられた御仁である。

 バイセ卿は女性で有りながらバイセ伯爵家の当主である。

 モス国のバイセ家と言えば、武門の家系として高名だ。

 彼女の槍術は天才的と聞く。


 聖女様方も馬車を降りると暫し待つと私の前に殿下が立った気配がした。

 殿下の両脇はカッフェ卿、バイセ卿で固められ、御三方の後ろに聖女様方が控えている。

 流石にここでは聖女様も静かにしていた。


「そなたが将軍か?」


「は、この度の討伐軍の指揮を任されております、ワイト・ビネガーと申します」


「ご苦労。顔を上げてくれ」


「は」


 顔を上げれば、そこには若く線の細い優しげな青年が立っている。

 モス国王太子 ゴール・ラーソリュブ・ブレン殿下。

 一見優男で武芸には明るくなように見えるがモス国内で1,2を争う剣技を持つと聞く。

 いや剣技だけでなく槍、弓など大抵の武器でも一流なのだ。 


「まずは聖女達を落ち着く場所に案内してくれないか。話はそれからにしよう」


「はは、では早速ご案内致します」

 

 戦地移動用の重装馬車とはいえ王族用はクッションや乗り心地は極上級だ。

 しかし、さすがに馬車での長旅でまだまだ幼い聖女様方は疲れただろう。

 殿下や騎士殿達は鍛えているのか微塵に疲れを感じさせないのは流石だ。

 私は部下にもてなしの準備を命じると自ら殿下たち用の専用天幕に案内したのだった。



☆☆☆☆☆



「ふむ、今はお互い巨兵の組み立て中か。開戦の予定は?」


「こちら側はあと3日で全機組み上がります。偵察のよりの情報を考えれば敵側も早くてあと3日といったところでしょう。調整を考えれば、考えられる予定日は当初の開戦予定より4日遅れて今日より7日後でしょう」


 聖女様方を天幕まで案内した後は、直ぐに会議用の天幕に移動し、殿下に状況の説明をすることになった。

 殿下、カッフェ卿、バイセ卿、私の4人だけで後は人払いをしてある。

 私は両軍の現在の状況を説明した。

 殿下に開戦を予定日を訊かれたので、巨兵の準備状況から7日後と答えた。 

 昨今の戦は巨兵や神の勇士兵(エインヘリヤル)同士が戦い、兵士で雌雄を決する事は無い。

 では歩兵や騎兵、弓兵などは不要かといえばそうでもない。

 相手の巨兵の組み立てを妨害、本陣の防衛、給部隊の護衛、占領戦なら占領地の治安維持、戦の内容に応じて様々な役割がある。

 巨大兵器で雌雄を決するとは云え、それだけでは戦は出来ないのだ。

 敵の巨兵が出来る前に巨兵を組み上げ、敵を蹂躙できれば楽に勝てるのだろうが、実際はそう簡単ではない。

 神の勇士兵(エインヘリヤル)もいるし、敵も馬鹿ではない。

 動かせる巨兵だけでも応戦してくるだろう。

 お互いに牽制しあい、結局だいたい同じタイミングで巨兵が仕上がるのが常だ。


 それにそもそも一般的な戦争は戦線布告後、2国間外交にて開戦予定日と開戦場所を指定する。

 そうしなければ戦の神の加護を得れないからだ。

 戦の神【ラーファル】は武器無き者を屠るのを厭悪する。

 それに騎士も戦闘準備中の敵を襲うのを潔しとしない。

 私としては難儀なことだと思う。

 何であれ、勝ちは勝ちだし負けは負け。

 負ければ明日はないのだから勝ち方に拘るのは合理的ではない。

 巨大兵器で雌雄を決する戦場では兵の力など無きに等しい。

 全ては将の采配に部下全員の命が掛かっている事を将は忘れてはならないのだ。


「敵将については判っているのかな?」


「は、当初、聖騎士ターオーブが演習の指揮をとっていた様ですが宣戦布告後、将軍イエットが合流したと物見より知らせを受けております」


「ほお」


 イエットの名に反応したのは殿下ではなくカッフェ卿だった。


「知っているのか?マキシム」


「はい殿下、殺りあったことは無いですがね。【不死身のギルバート】の副官だった男ですよ」


「ふむ」


「上官だったギルバート将軍の失脚後、軍団の跡を継いだ様です。パートナーはヒルデ、聖女教会出身のラーファルの聖女、大剣を扱う大騎士を持つ様です。私も直に当たるのは今回が初めてですが粘り強い戦ぶりは厄介だと聞いております」


 カッフェ卿の説明は大雑把だったので補足する。


「双璧の1人を派閥争いで失う愚かな国に置くには勿体無い男ですわ」


 バイセ卿が敵将を褒めた。

 確かに勇名を轟かせたギルバート将軍の右腕だった男。

 有能だろう。


「なる程、取り敢えず【破砕のデリカット】が出張って来なかったなら上々だ」


「そうですな」


 殿下は満足した様に頷くと、またこちらに視線を戻した。


「さて将軍、我々は基本的には不干渉でいるつもりだ。今回は気がかりな事があるので参陣させて貰ったよ。君たちが潰れてもらっては困るのでね」


「……アマリア……ですか」


 殿下の耳に報告が入っていて当然だ。

 そしてその懸念も判る。

 

「仕掛けてきたのはテリアだし、不可抗力なのも判るが、如何せん事が起きた場所が悪い。そちらの動きは判っているかな?」


 モス国の言いたいことはモス国からすれば当然だ。

 折角アマリアと同盟を結ぶ運びになったのに、アマリアの姫の安否次第では敵対関係になってしまう。

 そしてその可能性はかなり高いとモス国では考えているのだろう。

 アマリアが本気で攻めてくれば、モス国は聖地奪回どころでは無く、更に帝国が便乗してくればモス国といえど無事とはいかなくなる。

 だからモス国でも当然アマリアの動きは必死で探っているだろう。

 殿下の質問は、こちらに状況が見えているのかの確認と、我々の諜報能力を試す発言と思われた。


「アマリアの姫の安否は目下不明です。アマリア軍も現時点では動きは無いようです」


 上層部に調べる気が無い様だったので私の方で独自に調べさせていた。

 おかげで何とか答えることが出来た。

 もしかすれば、私が調査させていたことも殿下はご存知なのかも知れない。


「こちらで把握している情報と同じか。今回私が気になっているのは嫁ぎに来たのが只のアマリアの姫では無いと言う点だ。【初めの聖女】様と同じ色を持つ姫に何かあれば、アマリアは黙ってはいないだろう」


「そんなに大事な姫を出す気になったのは何故でしょうな」


「聞いたところ、聖女としての力を持たないらしいわ」


 カッフェ卿とバイセ卿の会話は耳に入らなかった。

 殿下のこの度の参陣は聖地奪回の南征に先立っての実戦訓練だと我が国では思っていた。

 しかし、殿下の言葉から察するに参陣の本当の目的はアマリアが動いたときに抑える為。

 つまりモス国ではアマリアが動くと考えているのだ。

 【最初の聖女】様への攻撃を黙っている訳はないと。

 しかし正式にモスが軍を動かせば間違いなく大戦に発展してしまう。

 そうなれば南征どころか国家の存亡がかかる戦いになるだろう。

 だから殿下は我が国への訪問を装って少数精鋭で参陣されたのだ。

 モス国の誇る最強の聖女様方を引き連れて。

 アマリアとの全面戦争になる前に小競り合いで停戦にする為に。


 だが、大丈夫、大丈夫だ。

 今の所、アマリアが軍を発したという情報は入っていない。

 今からでは我が国来るまでに最短でも20日はかかる。

 それまでにテリアとの戦いを終わらせれば良いのだ。


 今回の作戦(わな)にテリア将軍イエットは恐らくかかる。

 ギルバート将軍だったら見破られたかも知れないが、副官だったイエットは破天荒なギルバート将軍の足りない部分を補うセオリーを重視する性格と聞いているからだ。

 作戦というほど大層なものではない。

 単純な引掛けだ。

 私はこのいつもの小競り合いを早々に勝利の内に終わらせる。

 そしてアマリアの動向に備えるのみだ。 



「我々が知らぬ情報をお教え頂き有難うございます」


「貴国の上層部はアマリアを甘く見ている。ここに来る前に釘をさしてきた。兎も角そういう事だから我々はいざという時までは動かない。 テリアに対しては将軍のお手並み拝見させて貰うよ」


「はは、敵を打ち破って見せましょう」


 状況報告を終えて殿下を天幕にお送りしようとした時、外から部下に呼ばれた。

 殿下に断って外に出れば、なにか周囲が騒がしい。


「どうした」


「その……」


 はっきりと言わない部下の顔色は悪い。

 何か良くないことが起こったのは間違いない。


「何があった、はっきり言え!」


 もう一度問えば、部下も意を決したようた。


「その、殿下がお連つれなさった聖女様のお一方の行方が分からなくなりました。 目下お探ししているのですが、どこにも見当たらないのです」


「何だと? 先程天幕に案内したばかりだろう。兎も角探せ!」


 殿下達にどう報告すれば、と頭を悩ませた時、背後からため息が聞こえた。

 振り返れば殿下だった。

 今の話を聞かれてしまったようだ。

 しかし、殿下の感情に揺れはなく、どちらかと言えばこちらを気遣う雰囲気だった。


「私のパートナー、ネスレが迷惑をかけているようだね。恐らく姿を隠す術を使っているのだろう。あの子には後で言い聞かせておくよ」


 殿下は申し訳無さそうにそう言ってため息をついた。


 姿を隠された聖女様は結局こちらの捜索では見つからなかったが、夕食前に天幕に戻ってきた。

 その時殿下にこってり絞られた様で、それから2日だけは大人しかった。

 その後はまた消えられても困るのでジェシアを側に置いたが、かなりネスレ様には振り回されたようだ。

 帰ったらジェシアには宝石を一つ贈ることで手を打って貰った。とんだ散財である。



☆☆☆☆☆


 

 開戦当日、巨兵に騎士が次々に同化し、仮設工場より出てくる。

 モス国が誇る巨兵【カムシーン】

 荒野の熱き風の名を冠した軽装タイプの巨兵で、その名に恥じぬ高い機動力を持っている。

 主兵装は片手槍で副兵装として折りたたみ式の爆撃投げ槍を持つ。

 我が国ではモス国より払い下げられた【カムシーン】をそのまま使っていたが、2年前に全機に更なる軽量化を施した。

 それが【バリ】と名付けられた現在の我が国の主力巨兵だ。

 バリとは我が国で東から西向かって吹く強い強風の事で、西にあるテリアに猛威を振るう意でつけられたのだ。

 

 今回私は部隊を2つに分けることにした。

 あからさまにそう見せれば恐らく合わせてくるだろう。

 そこが狙い目だ。 

 

 しかし、さぁ行くぞというタイミングで軍本部から急使が到着した。

  

 『7日前アマリア正規軍が布告も無く王都を発ち、南下を開始した』


 それは恐れていた報告だった。


「将軍!」


「ジェシア、大丈夫だ。アマリアがこの戦に間に合うことはない。まずは目の前の敵を叩き潰すぞ」


「え。ええ判りましたわ」


 俺は殿下への報告を本部からきた急使に任せ、ジェシアに神の勇士兵(エインヘリヤル)の顕現させるのだった。



続く

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