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騎士と聖女の物語  作者: 丁太郎
二国の争い編
23/36

1.旅立ち

★★★★★

Side:メアルシア

王宮の自室にて


 今日16才になってしまいました。

 それはこの国では成人を迎える年齢であるのと同時に、私に掛けられた呪いの発動まであと2年を意味します。

 養女の王女である私は、誕生日を祝って貰うこともなく明日【モス国】へ出立しなければなりません。

 長年過ごしたこの部屋も今日で最後、そう思うと少し寂しい気もします。

 この部屋には約6年居たことになるのですが、最後の1年はアンとカールさんのお陰で本当に心休まる楽しい1年でした。

 

「メアル」


「アン、どうしたの?」


 今、この部屋には私とアンの2人きりだからか、アンは妹として私を呼びました。

 城内にあってはこの部屋であっても侍女に徹して私に接してきたアンが一体どうしたというのでしょう。

 昔の関係に戻ったのは、庭園にあるいつもの東屋での身内だけの茶会の時だけだったのに。


「今日だけ、いえ今だけはそう呼びたかったのよ」


「今だけ?」


「そう」


 アンが浮かべる悪戯っ子の笑みを見て、アンの意図が理解ってしまいました。

 私は【スタ】でアンと暮らした2年を思い出して、懐かしさと嬉しさがこみ上げてきました。

 

「あ、バレちゃった?」


「ええ、アンは隠し事に向いてないわ」


 本当に……

 一緒に暮らした2年で2回あった私の誕生日。

 アンは2度ともサプライズを仕掛けようとして、自らの表情で知らせてしまって成功しませんでした。

 そして今年もです。


「あらら、また失敗か。でもメアルも毎回泣くよね」


 アンに言われて私は嬉し涙を流していることに気づきました。

 私も毎回同じ反応をしていると指摘されて思わず、泣きながら苦笑するという器用な事をしてしまいました。

 そんな私の涙をアンは義姉として、ハンカチで拭ってくれます。


 スタの町でアンや家族に祝ってもらった誕生日は私にとって忘れる事が出来ない大切な思い出です。

 【コバ】村では貧しくて誕生日を祝う風習なんて有りませんでしたし、この城に来てからも同じでした。

 ミリンダ王女は盛大に誕生日会を祝っているようですが、サーラン王女はまだお披露目のしていない為、身内だけで祝っていると聞いています。

 真に王族でもそうなので、お披露目前の養女など全くなにもありません。

 そしてお披露目されれば直ぐに他国に嫁がされるのです。

 一般市民から見れば、毎日の食事や生活が既に贅沢なのでしょうが、贅沢とかそういう事では無く、祝ってもらえる事が嬉しいのです。


 転生を何度も繰り返した私は、勿論誕生日を祝って貰った事も皆無ではありません。

 しかしながら誕生日を祝うのは、ある程度豊かでなければ出来ません。

 しかも私は誕生日の度に自身に掛けられた呪いを意識させられるので心から喜べませんでした。

 

「じゃ、改めてメアル誕生日おめでとう」


「ありがとうアン。とても嬉しいわ」


 二人で笑って、それからすスタでの思い出話をして、私は一時アマリアの王女として課せられた使命を忘れる事ができました。


「今日は特別にケーキを用意したんだ。しかもメアルお気に入りのあのお店のだよ」


「わぁ」


 思わず喜びの声を上げてしまい、直ぐに恥ずかしくなりました。

 いつもでしたら微笑んでいられたのですが、今の私は姉に祝ってもらって素直に喜ぶ妹になっていました。


 アンは私にお茶を淹れると、ケーキ運んできます。

 目の前に置かれたケーキは以前カールさんが買ってきてくれたなかで一番気に入っったものでした。

 アンはその時の様子を覚えていてくれたようです。

 私はアンに勧められるままにケーキを口に運びました。

 毒味も無く食べ物を口に入れるのは、養女とは云え王女として在るまじき行為です。

 でもいいのです。

 私は嬉しかったし、アンを当然信じています。


「とても美味しいわ。でも一番人気で開店すぐに売り切れてしまうのに……ありがとうアン」


「えへへ。お礼は私じゃなくてカールさんに言ってあげて。夜明け前から並んでくれたんだからさ」


「え!」


 私は驚きました。

 滅多に休暇を取らないカールさんが今朝だけ休暇を取ったのは明日の出発の準備の為だと思っていたのです。

 ほんの数刻だけで休暇と言うのも変ですが、カールさんはいつもそんな感じで1日まるまる休暇を取る人では在りません。

 まさか私の為のケーキを買うために休暇を取って並んでくれたとは思いもよりませんでした。


「初めてバースディサプライズ成功かな」


「本当ね。アンもカールさんに感謝しないと」


「じゃ、2人でお礼言っとこうか。呼んでくるよ」


 そう言ったアンは、完全に昔に戻って悪戯っ子の笑みを浮かべていました。

 カールさんは、私の部屋に入りたがりません。

 それは私が男を部屋に連れ込んだと噂になるのを防ぐ為なので、こんな理由で部屋に呼べば窘めてくるかもです。

 ここは部屋にはアンも居るし扉を少し開いておけば大丈夫、と押し切るしかないですね。


「カールさん。ケーキとても美味しかったわ。並んでくれてありがとう」


 にっこり笑ってそういえば、何故かカールさんはため息をつきました。

 王城内で素を出している事に対してでしょうか。

 でもカールさんもどうやら私達に合わせてくれるようです。


「できれば知られたくなかった」


「うふふ、カールさんが買ってくれたケーキは格別です。でもカールさん直接祝ってくれればそれだけで嬉しいですから、無理して並ばなくてもいいのですよ」


「いや、少し恥ずかしかっただけで無理という訳では。メアルに喜んで貰えたんだから並んだ甲斐があったさ」


「カールさん理解ってないなあ」


「む?アン、何がだ?」


『ふう、あんたそれくらい理解りなさいよ』


 (わたくし)が契約した氷の精霊ピノがいつの間にか姿を現し、カールさんに悪態をつきました。

 この子は呼び出していないのに自分の意志で姿を出すことがあります。

 自由で気まぐれと思っていたのですが、今、あることに気付いてしまいました。

 ピノはカールさんが気に入っているのか、カールさん相手にしか悪態をつかないし、自身の意志で姿を見せたりしません。

 でもそれって……


「ピノ、大丈夫。恥ずかしいわ」


『メアル…あんたももう少しアピール「ピノ!」』


 慌ててピノの言葉を遮ります。


「青春だわ」


 アンはアンで1人納得して何度も頷いています。


『はぁ、あんた達処置なしね。勝手になさい』


 ピノはぷいとヨコを向いてそのまま消えてしまいました。


「で、カールさんさ、メアルの誕生日のお祝いなんだから直接祝ってあげて」


 アンの言葉に(わたくし)耳まで赤くなっていくのを感じました。


「あ、ああ、そう……だな。 あー、うん、メアル」


「は、はい…何でしょう」


「誕生日おめでとう」


「あの、その…カールさん…ありがとうございます」


 カールさんに祝って貰うのが恥ずかしくて言葉がすんなり出てこなくなりました。


「あ、ああ」


 でもそれはカールさんもでしょうか。


「んー青春だね」


 最後にしみじみと感慨深い感じでアンが言いました。 



☆☆☆☆☆



 夜、ベッドに入ったものの、昼間にふと感じた疑問が頭から離れず眠くなりませんでした。

 明日は朝早くから身支度があるので眠不足になるのは困るのですがどうしても気になるのでした。


 どうして、今生ではこんなに安心していられるのでしょう。

 呪いの発動まであと2年。

 今までは呪いに怯え、誕生日は最も嬉しくない日だったのに。

 そこで私は気づきました、今生が特別なのでは無いと。

 コバ村で暮らしていた頃も誕生日は憂鬱だった事を思い出したのです。

 コバ村での生活では、祝って貰うことは無くても誕生日だけは意識していました。

 貧乏な村で文字の読み書きが出来るのも、暦を読めるのも父だけ(勿論私抜きです)でしたが、アマリア王国の戸籍登録する関係上、流石に皆自分の誕生日は知っていました。

 

 コバ村の時には感じていた不安をスタでの生活以降では感じなくなっている?


 その間は確かに色入有りました。

 スタからの帰り道で狼の魔物に襲われました。

 折角狼の魔物から助かったのに今度はマッドベアの魔物に村を襲われて、父、ロヨイ、リカレイ、村の皆を失いました。

 仇はカールさんが討ってくれましたが、生き残りは3人で村の復興は不可能でした。

 アンの実家に拾われてスタで生活するようになって……

 そうか、そうでした。

 カールさんと出会ったあの日です。

 あの時から私の中から呪いへの恐怖が無くなったのです。

 カールさんとの出会い日からカールさんと一緒に冒険者ができたらいいなと思うようになり…それから15歳になるのが待ち遠しくさえなりました。

 その後、私はアンを助けるのと引き換えにアマリア女王の養女となり、冒険者になる夢を諦めざるを得ませんでした。

 そしてアマリア王宮での生活は始まったのですが、呪いにより18歳で死ぬ運命と理解っていて、どんどん残り時間が少なくなっていくのに恐怖も不安も感じなくなりました。

 それは今もです。

 

 私は今も大事に預かっている古ぼけた指輪、チェーンを通してネックレスにしてあるそれを見つめました。

 いつものネックレスとして肌身放さず身につけていて、それは寝る時でもです。

 この前のお披露目の時でさえこっそり身につけていたくらいです。

 カールさんより預かったその指輪を見ているだけで、何故か安心感できました。

 理由は理解りません、兎も角呪いだけでなく、様々な不安も指輪を眺めているだけで安心できるのです。

 きっとこの指輪がなかったら王宮での生活は乗り切れなかったに違いありません。

 この指輪は私のお守りなのでした。

 私が安心していられるのは、きっとこの指輪のおかげ。

 本当はカールさんにお返ししなければなのですが、未だ返せないでいます。

 カールさんも返してほしいとは言ってきませんでした。


 きっと指輪は私とカールさんを繋ぐ縁そのもの。

 だからこの指輪は手放してはいけない物。

 そして、カールさん守られているから私は安心できるのです。


 今も落ち着いてきて、急に眠くってきたので指輪のネックレスをつけ直して、目を閉じました。



☆★☆★☆



 見送りは実にあっさりしたものでした。

 陛下も殿下方も見送りに来てはくれましたが、政治的な話しか言われませんでした。




「あそこに住んでいたんだねー」


 一緒に馬車に乗るアンが遠ざかっていく王都を窓から眺めて呟きました。

 馬車の中は私達だけなので気楽な会話を楽しんでいます。

 

「アンとカールさんが側に居てくれる様になってからは楽しかったわ」


「【モス国】に行ってもきっと楽しいよ」


 アンはそう言ってくれました。


「ふふふ、2人共側に居てくれるならどこでも同じね」


 私も賛同します。

 ふとアンが眺めている反対側の車窓を見れば、カールさんが自身の召喚馬に乗って並走していました。

 並走と言っても徒の護衛兵士も居るので進みはゆっくりとしたものです。

 護衛は兵士だけでなくカールさん以外の騎士が20名程居ます

 結構厳重な警備体制なのですが、アマリア国内では襲われる事もないでしょう。

 因みにカールさん以外は、モス国の護衛団に合流するまでが役目です。


「私も馬に乗ってみたいわ」


「あー私も」


 こんな会話もモス国に着いたら出来なくなるかも知れません。

 第二王子が成人する2年後までに私も王子妃になる為の教育を受けなければなので忙しくなるでしょう。

 何より、モス国では風の神【クテレ】を信奉する【クテレ正教】が国教なので、クテレ聖典を読めることは王族の必須技能と言われました。

 古語なので私も読めませんし、詰め込み期間が2年間では正直厳しいと思います。

 アンと気軽に会話できるのも最後の機会かもしれないので、思い切り楽しむ事にしました。

 アンもきっとそのつもりでいるに違いありません。


「どうせなら召喚馬と契約できないかな」


「そうだね、休憩時にカールさんに聞いてみようか」


 きっと第二王子妃になれば、そんな自由は無いと思います。

 恐らく、一切に表に出ること無く飼い殺しになるに違いありません。

 彼らに必要なのは【初めの聖女】色を持つ私の血筋であって、聖女の力が無い(事になっている)私自身ではないはずです。

 子を成して、その血をモス王家に取り込ればそれでいいのでしょう。

 気がかりなのは、私が死んだ後のカールさんとアンの事です。

 私が18才の誕生日に呪いによって死んだ時、思惑とおりにならなかったモス国が2人の処遇をどうするかが気がかりでした。

 アンは「カールさんが呪いから守ってくれるからそんな心配必要ないよ」と言って笑うのみなので、この移動の中でカールさんにアンの安全を頼んでおかなければなりません。


 いつの間にかアマリアの王都は見えなくなっていました。

 空は快晴で、季節的に考えてもモスに着くまで天候に大きな変動はないでしょう。

 ずっと快晴のまま移動出来るはずです。

 ですが私にはどうにも、スッキリしないのでした。


続く

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