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騎士と聖女の物語  作者: 丁太郎
黒髪の男編
22/36

(幕間)帝国宰相

★★★★★

Side 帝国宰相デッカルト・アルドーヌ

メアルシアのお披露目の後日


「アマリアはそのメアルシア王女をどこかの国へ娶らせるつもりなのだな」


「その様に感じられました」

 

「そうか、ご苦労だった。下がって良い」


「はは」


 私は陛下への報告を終え、陛下の執務室より退出した。

 陛下は3年前、若干13才で即位し、病める状態にあったこの帝国を立て直した若き英才。

 現在16才になり、そろそろ正妃を迎える必要が出てきた。

 しかし聖騎士でもある陛下は、自身のパートナーの聖女様を溺愛し、現在後宮の主人はその聖女様と言う状況だ。

 私としては今回お披露目された【アマリア王国】のメアルシア姫が相応しいと思ったのだが、アマリア側の対応や、報告した時の陛下の態度から見て、それが成る目は無いだろう。

 しかしながら、【初めの聖女アリーシャ様】と同じ色を持つアマリアの姫の持つ政治的意味は大きい。

 例え聖女としての才能を持たぬ姫だとしてもだ。

 覚醒が遅いだけかも知れぬし、姫の子、孫、子孫が覚醒するかも知れない。

 アリーシャ様の血を引く子孫を我が国に迎えるのが重要だったのだ。


 現在アマリアとの仲は良好とは言えないものの悪くも無く、交易も盛んである。

 婚姻によりアマリアとの関係を強化し同盟を結べれば、南の【モス国】への大きな牽制になり、心置きなく西方の侵攻に専念できる。

 これ以上考えても致し方がない事ではあるが、あまりに惜しい。


 確認が必要になるが、逆にもしアマリアが姫をモスに差し出すつもりなら、こちらとしては策が必要になるだろう。

 実際【モス国】と我が帝国は直接対峙している訳では無いのだが、我が国の属国である【テリア王国】とモス国の属国である【クドナル公国】の仲が最悪に悪い。

 そうなるに至った歴史背景が当然あるのだが、あの2国間は常に緊張状態にあり、幾度となく小競り合いが続いてるのだ。


【モス国】は近く聖地奪回の軍を起こすべく、軍備を増強中と密偵から報告を受けてる。

 だとすれば【モス国】も【アマリア王国】との婚姻による関係強化は望んでいるに違いない。

 万が一この様な状況で属国2国による戦が起これば、モスが正式に介入してくるかも知れず、下手をすれば帝国は六強国【アマリア王国】【モス国】2国を相手にしなければならないのだ。

 更に西の六強国【ビラン連合国】が参戦すればいくら帝国が強国と言えどひとたまりも無い。

 陛下もその辺は判っておられる筈だ。

 しかし、それでも政略結婚という手を取ろうとしないのは、陛下の過去に原因がある。

 兎も角、陛下が信じる女性はただ一人、素性のしれない少女であるパートナーの聖女様だ。

 

「困ったものだ」


「何かお困りですかなアルドーヌ卿」


 まだ廊下であるにも関わらず、思索に耽り過ぎてしまった。

 思わず漏れた一言に、背後から聞き覚えのある声を掛けられた。

 いくら思索に耽っていたとは云え、まるで気配を感じ取れなかったのは不覚だが、如何せん相手が悪い。

 私に声を掛けた人物は【剣聖】の称号を各国が与えた唯一の者だからだ。


「ビアンキ卿、いつもながら心臓に悪いですぞ」


「これは失礼した。私がすれ違っても気付かない程に考え込まれていたので邪魔をするのも気が引けたのだが、お声を上げられる程お困りの様子に思わず声を掛けてしまった次第。許されよ」


 なんと、すれ違っていたというのか。

 全く気付かなかった。

 いや、姿を認識出来なかったと言うべきか。

 気配を完全に消し、居ながらにして空気と化すことが出来るとは聞いていたが……この男がその気になれば私を殺すなど造作もないだろう。



 4年前、この国は先帝の暴政により内乱となる寸前だった。


 剣聖ワイヤー、各国から剣聖の称号を受けるこの男が当時皇太子だった殿下に初めて謁見を申し出たのがこの頃だった。

 私も、殿下の御代にアルドーヌ家の将来を賭け、殿下に便宜を図ってきたが武門の家系ではない当家では軍部を掌握する事が出来なかった。

 しかし、剣聖との謁見より僅か1年で殿下は軍部を掌握し、国を傾かせた暴君である先帝を廃する事に成功した。

 それを成せたのも、剣聖ワイヤーが殿下に味方したからだ。


 剣聖ワイヤーは諸国を旅し、各国に数多くの弟子がいた。

 当然剣聖の弟子はこの国にもおり、それらの力が軍部にまで及んでいたのだ。

 殿下は即位後、失われていた由緒正しき武門の家名ビアンキを与え、剣聖はワイヤー・ビアンキと名乗るようになった。

 以降、剣聖は陛下の相談役となり、帝国の武を仕切る者となったのだった。

 剣聖はこの国に2名のみだった【剣聖の10傑】と呼ばれる高弟の残り全員をこの国に呼び寄せた。

 今や剣聖と10傑により、この国の軍部は完全に掌握されているといっても良い。

 私はその状況が危ういとも思っているが、それを表立って陛下に告げる事は出来ない。

 私も功績を認められ宰相となったが、それ以上に陛下の剣聖への信頼は厚い。

 まともに諫言しても退場するのは私になるだろう。

 いや、剣聖は少なくとも今は帝国に仇成す存在ではない。

 今問題なのは陛下が正妃を娶る気がないことだ。


「いえ、私こそ挨拶もせず失礼致した。陛下になんとか正妃を娶る気になって頂けないかと心配した次第でして」


「ははは。確かにそれは難題ですな」


「左様、ビアンキ卿がご紹介した聖女様にしか心を開かれないご様子。せめて聖女様を正式に正妃となさって下されば良いのですが……いや、これは臣として出過ぎた考えですな」


「アルドーヌ卿は苦労性ですな。されどそう考えられた別の要因がお有りなのではないですかな? 例えば先日お披露目されたアマリアの姫とか」


 ふむ、当然知っているか…


「いや、これは迂闊なことは申せませんな。確かにそれは考えましたが、陛下もアマリア側にもその気は無い様子。こればかりはどうにもなりますまい」


「アルドーヌ卿が陛下の正妃にと考えられる程の者でしたか、アマリアの姫は」


 さて、どうしたものか。

 間者はおそらく知らなかったのだろう、剣聖に伝えたところで問題はないか。

 もしアマリアの姫がモスに嫁ぐ事になった時に、利用させて貰うのに都合が良いかも知れない。


「輝く銀の髪は水色がかり、澄んだ青い瞳を持った姫でございましたよ」


「なんと!」


 常に冷静沈着な剣聖があげた驚きの声に、こちらも驚いた。

 4年来の付き合いではあるが初めて見た。


「これは驚きました。ビアンキ卿も驚かれる事があるのですな」


「これは失礼した。私もまだまだですな」


「ビアンキ卿も驚かれた通り、私を含め、お披露目の場にいた各国の皆が驚きましたよ。この事はビアンキ卿の胸にしまっておいて下され」


「承知した」


 今は【初めの聖女】の色を持つアマリアの姫が居るという情報を知る者は少ないほうがいい。

 しかし、目の前の男は自身の情報網で遅かれ早かれ知られるだろう。

 ならば私が敢えて教え、少しでも貸しを作って置くほうが良い。

 勿論本来なら廊下でする話ではないが、それは相手がこの男だから安心できる。

 剣聖は近くで聞き耳を立てる者が居れば、気付かない事はない。

 更に魔法による盗聴を許す様にこの宮殿は作られていない。

 対策は十二分に取られている。


「そういった事情がありましてな。陛下にご報告したのですが…」


「なるほど、それで困ったと。安心されよ他言はせぬよ」


「それは助かりますな。では私はこれで」


 私はその場を去り、自分の執務室に戻った。

 剣聖がこの情報をどう扱うか。

 例え陛下の信頼厚い剣聖であっても陛下の心を動かすのは難しいだろう。

 陛下は自身より今は亡き弟君を溺愛した元皇后陛下への憎しみからか、そもそも女性を信用していない。

 あの少女だけが特別なのだ。

 

 何にせよ、今はアマリアの姫の嫁ぎ先を探るのが先決。

 アマリア王国には土着の間者を何代も前から何組も潜り込ませてある。

 しかも彼らは自身が帝国の間者であると、知らないのだ。

 尤もこれはアマリアだけにではないのだが。

 しかしながらアマリア王家のガードは固く、なかなか中枢の情報は入ってこないのだった。

 そう、だった、だ。

 遂にアマリア王国騎士団に間者を潜り込ませる事に成功した。

 この間者は私が直に育てた者だ。

 そして剣聖の高弟【十傑】の第10席でもある。

 剣の腕前は一流。

 元々、剣聖の動きをを監視する為に剣聖の弟子として潜り込ませたのだが、丁度剣聖の指示によりアマリアに潜り込まる事になった。

 つまり、私が得れる情報は剣聖の元にも入る。

 逆に剣聖の指示があれば、それはこちらにも知らされるのだ。

 私はそれらを吟味した上で最上の結果を得れる様に動くだけだ。



☆☆☆☆☆



 間者の知らせにより、アマリアの姫メアルシアの嫁ぎ先が【モス国】である事が判明した。

 そしてそれに対し、剣聖の指示は姫の移動時の警護に潜り込み、隙きを見て拐え、だという。


 杞憂が現実となった。

 さて、どうしたものか。

 一番重要なのはアマリアとモスが同盟を結ぶのを壊す事。

 更にその状況が我が国のプラスに働く事。


<ふむ、恨みはないが帝国の為に死んで貰うか>


 間者が剣聖より拐う指示を受けたなら、どちらにせよアマリアを出たどこかで仕掛ける事になる。

 その時に()()()殺してしまえば良い。

 メアルシア姫の護衛騎士は相当強いと情報を得ているが、剣聖の10傑の敵ではないだろう。

 

 それを【クドナル公国】領内で起こせば良い。

 これでアマリアの矛先はモスの属国であるクドナルとなる。

 アマリアもモスもお互い同盟どころでは無くなる。

 上手く転がり、アマリアとモスが戦争になればアマリアは兎も角モスの国力は確実に落とすことが出来る。

 モスの聖地奪回は更に先延ばしになり、我が帝国は心置きなく西征に向かえるという訳だ。


 しかし、剣聖はメアルシア姫を拐ってどうするつもりなのか。

 【初めの聖女】の再来という手札は公表しなければ意味がないが、今更帝国の姫として公表など出来る筈もない。

 すでにアマリアでお披露目されているのだから。

 帝国に嫁がない時点で、害でしかない存在なのだ。

 

 さて自身の弟子が、姫を誤って殺してしまった報を剣聖が受けた時、どうするのか楽しみではある。

 あの男は破門されるかも知れないが、その時は自分の手元に戻すだけ。


 兎も角 【剣聖の10傑】第10席シーンケコッザに命を出さなければならない。





二国の争い編へ続く

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