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騎士と聖女の物語  作者: 丁太郎
黒髪の男編
18/36

8.守りたい者

★★★★★

Side カーライル

庭園の東屋にて


 心地よい風が吹き、メアルの髪が風に舞う。

 メアルは少し恥ずかしそうに乱れた髪を払った。

 

 それは嘗て一度だけ見た光景だった。

 昔メアルがアリーシャだった頃、姉妹でたった一度だけ開いた茶会にて今のメアルの様に髪を払う仕草を見せた。

 俺はナリータ王女の護衛騎士としてその茶会に居合わせた。


 そんな事を思い出したのは、やはりこの地にいるからか。

 よくよく考えればおかしい事だ。

 何度も転生を繰り返したからか、いつの間にか俺は手段が目的となっていた様だ。

 

 ”守りたい”


 かつて守りたい者を失った俺は、何者からも守れる強さを求めた。 

 何度転生を繰り返してもその為に生きてきた。

 しかし、肝心の守るべき者はいつの人生でも居なかった。

 だからいつの頃からか、強さを求めるのは守る為の手段だった筈なのにそれがが目的となっていた。


 メアルの持つ色。

 済んだ空のように青い瞳に水色がかった美しい銀の髪。

 この色は【初めの聖女】しか持ち得ない組み合わせの色だ。


 彼女(アリーシャ)を守りたいと思った俺は、メアルに出会った時に気づかなかった。

 彼女の色の特別さに気付きながら初対面だと思っていた。

 メアルが転生者であろう事には直ぐに気付いたのにだ。

 

 そしてメアルから神の勇士兵(エインヘリアル)【ルアメットゥーナ】の話を聞き、彼女がアリーシャの転生した姿だったと知った。

 なのに事もあろうか俺はかつてアリーシャを守りたかった事すら忘れていた。 

 当時の俺にあったのは強さを求める思いだけだったから、メアルを助けたいと思ったのは自分でも不思議だった。

 俺は自身の事すら忘れていたのだ。


 俺の最も古い記憶、アリーシャを守りたくて守れなかった記憶はいつの間にか自ら封印してしまったのだと思う。

 だから最初の記憶は何故か不思議な能力を持つ名も無き男だと思っていた。

 この地で再び騎士となり、あの日の夢を見るまで。


 そして、あの日以降の全てが繋がったのだ。


 そうだ、俺は遂に出会った。

 かつて一命を賭してでも守りたいと思った人と。

 こうしてみると、メアルと出会った当初、何故か気になったのも当然の事だった。


 しかし、出会った時に感じた事を今も感じた。

 メアルが髪を払った仕草にアリーシャではない、もっと別の懐かしさを感じたのだ。

 きっとそれは更に古い記憶のメアルの姿と重なったに違いない。

 ならばアリーシャを守りたいと思ったのもまた、忘れてしまった過去に起因しているのかもしれない。

 そしてその失われた過去の記憶に俺の能力も関係があるに違いない。


 俺達には遥か昔に出会っていた。

 その時何が起こったのか、お互い思い出す日は来るだろうか?

 判らない。

 しかし今回の出会いで何かが変わった気がするのだ。

 それはメアルにかけられた呪いを断ち切った先にあると俺は考える。

 アリーシャの時には届かなかった。

 今の俺の力が届くも判らない。

 だが彼女を守るために俺はこの400年積み重ねてきたのだ。


<メアル。君を今度こそ守ってみせる>

 

 メアルを見ながら改めてそう己に誓った。


 また風が吹き、メアルの被っていた日除けの帽子が飛ばされる。

 その帽子を咄嗟に掴みメアルに渡した。


「カールさん ありがとう」


 いい天気ではあったが流れる雲は早い。


「どういたしまして。しかし風が強くなったし体を冷やすといけない。ここまでにするか?」


「これくらいは大丈夫だわ」


「本当にカールさんはメアルに過保護だね」 


 む、そんなつもりは無いのだが。


「大丈夫ならいい。残りはそんなに長い話じゃない」


「カールさん、ひょっとしてだけど”魔光苔”の依頼者ってラウルさんじゃない?」


「ああ、そうだ。よく判ったなアン」


「まぁね。不人気な依頼って時点でなんとなくそうかなって」


『2人で進めてないでちゃんと説明しなさいよ』


「そうだわ。アンとカールさんには知り合いでも私とピノは会ったことないもの」


「そうだったな、済まない。 ラウルはこの国の貴族をパトロンに持つ魔道士で錬金術師、魔道具研究家で巨兵設計者でもある男だ」


 魔力を必要とする事には何でも研究する狂った男。

 それがラウルソーデンという男だ。

 ラウルとの付き合いも古く、前世からかの付き合いになる。

 正確に言えば5つ前の前世からか。

 それぞれの人生で関わり、それらが同一人物と判ったのが前世でだ。

 あいつも気付いていたなら言えばいいものを、どうでもいいので黙っていたらしい。

 ま、興味のないことはどうでもいいというのは実にラウルらしいし、ずっと気付かなかった俺も俺だった。

 そして各地にある俺の隠れ家空間や魔道具は、たいていこの男の研究成果によるものである。

 そしてアレの開発も。

 その開発もそろそろ大詰めの筈。

 その為に2年間ラウルの素材集めに付き合ってやったんだ。


「あ、判りました。アンとカールさんがこの城に入るために使ったコネはラウルさんですね」


「厳密には、ラウルのパトロンの伯爵だな」


『伯爵の方がラウルって男より偉いんじゃないの? どうして伯爵が力を貸してくれたのさ?』


「ラウルは伯爵にとっても金の卵なのさ。だから資金提供だけでなく様々な便宜を図ってくれる。実際俺とアンが今ここに居るのも伯爵の推薦があったからだ」


『持ちつ持たれつってやつか。私とメアルと同じね』


「ええ、おかげで助かっているわピノ」


 主従の間違いだろうが、メアルの魔力を貰うピノと ピノの力で快適に過ごすメアル、持ちつ持たれつなのは間違っていないか。

 

「決闘の一件でラウルと知り合い、以降ラウルに気に入られて指名を受ける様になってな。それから2年くらいは王都で活動していた」


 転生者ということを隠すため、この時知り合った事にしておく。

 

「音信不通だった頃ですね」


「メアル、返事が出来ずに済まなかった。だが手紙を受け取ったのは【キノ】のギルド支部に戻ってからなんだ」


『アルジとニースとはそれからどうしたのさ?』


「アルジとニースの2人はラウル専属と見られるのを嫌がって、あれ以降組むんだ事はない。なにせラウルの依頼は安い。俺も他者の普通の依頼と合わせて受けないとならないくらいだったからな。兎も角縁がないのかそれから見かけても無い」


『そうなんだ』


「カールさん、そもそも王都に拠点を移したのにどうして【キノ】にもどったのさ?」


「王都には試験を受けるだけのつもりだった。次々に依頼を寄越すラウルのせいでなかなか帰れなかっただけだ」


「でも戻ったんでしょ。なにかキッカケがあったの?」


「ああ、Bランク試験に出された課題を終えて王都に戻る道中、メアルを見かけた」


「え、私を?」


 メアルは気付いていないだろうな。


「ああ、俺を抜いていった馬車の窓が開き、窓から顔を覗かした女の子がいた。覚えがあるだろう」


「ええ、たしかに王都に近づいた時に窓を開けて顔を出したわ。私その時にカールさんとすれ違っていたんですね」


「メアルが俺に気付かなかったのは仕方がない、俺はメアルの後方に居たし、君は王都の景色に気を取られていたからな」


「でもよく私と判りましたね」


「メアルの髪の色を見間違えはしないさ」


「そう言えばメアルの髪の色は珍しいからね」


「ま、それで不審に思い確認の為に【スタ】に向ったんだが、途中【キノ】のギルド支部に寄った時にメアルからの手紙を受け取った。ギルドには王都に送って貰えるように頼んであったのだが、なんせSランクでもない一冒険者の頼みだ。サボられても文句は言えない」


「それで私の家に来たのか」


「メアルの最後の手紙で王都に向ったのは知ったが、事情を知りたくてな。アンの実家に赴き、運良くアンに会ってアンの実家の商会の王都行きの商隊に加えてもらった」


「そうそう、そうしてカールさんと私は王都に来て ラウルさんのコネで王城に入れることになったのよー」

 

「互いにメアルの元に辿り着くのに5年掛かってしまったがな。もっと早く会えると思っていたんだ、済まない」


 俺の言葉にメアルは微笑んで首を振った。


「あの時、とても嬉しかったの。私は2人にそこまでしてもらえるような人間じゃないのに」


 メアルは俯き、肩を震わせた。

 思い出して感極まってしまった様だ。

 そんなメアルの背中をアンが優しく撫で、取り出したハンカチでメアルの目元を優しく拭った。


「二人はどうして……」


「私はメアルに命を救って貰って、でもその所為でメアルがこの国に縛られてしまったから。だからせめてメアルの側に居たいって思ったんだ。メアルの為に何かしたいと悩んでいた時カールさんがやって来て、即座にメアルの護衛騎士になると言い出した時、私も専属侍女を目指すって決めたんだ」


「ありがとう………アン………」


 メアルはアンの手を両手で包む様に握り額に付ける。

 まるで祈りを捧げるように。

 やがてメアルは冷静さを取り戻した。


『で、あんたは?』


 折角いい感じで纏まったのに氷の精霊様は騙されてくれないようだ。

 正直何故と言われても”守りたいと思ったから”以外に理由などない。 

 何故守りたいのかは、きっと過去に理由があるのだろうがそれを伝える事は出来ないし、うまく伝える事も出来はしない。


「カールさんきちんと教えて…ほしいです」


 メアルそれは反則だ。

 そんな切実に請われては応えない訳にはいかないだろう。


「初めて会った日……君が魔物に襲われていたあの日、君を見て”守ってやりたい”と思った。理由は判らない、兎も角そう思った。それは君がアマリア王宮に囚われたと知った時も、そして今も変わらない。君を守ってやりたい、それだけなんだ」


「カールさん……」


「何の事はない、これは俺の勝手なお節介。俺は俺の好きな様にやっているだけだ。だから俺の事を気に病むのは時間の無駄だしメアル、君は君の思う通りにすればいい」


「でも私は……」


「大丈夫だ。俺は俺の勘に従って生き延びてこれた。その勘がそんな日が来ると告げている。君が自由に生きれる様になるまでは守るさ。絶対にな」


 メアルがいい淀んだ事情、呪いについては聞いた限り、楽観できるものではない。

 しかしメアルを不安にさせたくなかったし、俺の勘は大丈夫と告げているからそのまま俺の思いを伝えた。


「そうだよ。メアルなんとかなるよ」


 アンはきっとこの先の他国に嫁ぐ未来についてだと思っているのだろう。


「アン、カールさんありがとう」


「礼を言うのは自由になった時にしてくれ。さて俺の昔話も終わりだ。お姫様が風邪を引く前にお開きにしようか」


「うん、それがいいね」


『昔ばなしは終わりなのねー。浮いた話の一つでも出てくるかと思ったのに案外つまらない人生だわね』


 そう言い残してピノは姿を消した。

 つまらなかろうと知ったことか。


「カールさんピノが酷いこと言ってごめんなさい」


「気にするな。そろそろ戻ろう」


 メアルは俺の言葉に頷いたが、立たせるために差し出した手を取らなかった。


「アン、先に戻っていて」


「判った。早めに戻ってくるんだよ」


 既に片付けを手早く澄ましていたアンは、そう言い残して先にカートと共に行ってしまった。

 俺が手を差し出したままの間抜けな状況になっていた。


「カールさん、歩きながらでいいからもう少しだけ」


「ああ、もう少しだけ付き合おう」


 俺が了承し満足したのか、そこでようやく手を取って席を立ってくれた。

 ゆっくりと歩き出す。

 歩きながらと言っていたが、メアルから話しかけては来ない。

 そして無言のままのメアルは屋敷に戻らず、花壇の方へ向かった。

 メアルが俺に何を話たいのか判らないが、そんなに言い難い内容なのか。

 兎も角メアルが口を開くのを待つしか無かった。


(わたくし)が自由になったら……カーライルはどうするのですか?」


 花壇に着き暫く花を眺めていたメアルがこちらを見ること無くポツリと俺に問いかけてきた。

 そう言えば模擬戦の時もこんな感じだった。

 場所も同じだ。

 口調も王女としてものになっている。


 その時になったら俺はどうするだろう?

 メアルが今の環境や呪いから開放され、戦いに身を投じない穏やか生活に戻れたら……


「さて、今は考えておりません。ですがきっと今までと同じ様に彷徨うと思います」


「誰かを守る為に……ですか?」


「恐…らくは……守りたい思う何かを探すでしょう……」


 それはメアルとの別れを意味する。

 俺が望むのは嘘偽り無く彼女の幸せだ。

 しかし、そこに俺の居場所は不要だとも思う。

 俺は戦いしか能がないから。

 そこまで考えると何故か気が重くなった。

 俺が望む彼女の幸せの為だというのに。


(わたくし)では駄目でしょうか?」


「メアル…」


 メアルの不意の発言。

 それは予想外で思わず本名を口にしてしまった。


(わたくし)は…自由になってメアルに戻っても、ずっとずっと側でカーライルに守っていて欲しいのです」


「……」


「ずっと(わたくし)を…では駄目……ですか?」


 不安げな問いに、フッと笑いたくなった。


「仰せのままに。それを貴女様が望むなら」


「本当に?」


「約束致します、その時は私も失業して暇しているでしょうから。ですがメアルシア様が私を必要としなくなったら直ぐに言ってく下さい。それまでは私の命が尽きるまでお守り続けましょう」


「それは大丈夫ですわ。カーライルを必要無くなるなどあり得ませんし、(わたくし)がカーライルを死なせはしません」


 メアルはこちらを振り返って、とたんに明るい声で「何度でも回復させますから」などとにこやかに言い放った。

 不思議と俺の心も軽くなる。


「……そんなに危険な目に何度も会うおつもりですか? なかなかハードワークですね」


「だって(わたくし)には…普通の生活なんてきっと無理なのです。それに(わたくし)の夢は冒険者になって”カールさん”と一緒に冒険することですし。もう約束したのですからずっとずっと守って下さいましね」


「ええ、了解致しましたとも」


「それと、あの………」


「どうしました?」


「だから(わたくし)と、その……契約しませんか?」


「騎士と聖女の契約を……」


「はい…」


 周囲に気配は無い。

 メアルもそれが判っているからこの願いを口にしたのだろう。


「今は止めておきましょう。契約を結べば騎士の手の甲に契約印が現れるのはご存知ですね」


「言われてみれば、そうでしたね」


「もしバレれば私の契約者は誰かと言う事で調査され、貴女様は至尊の大聖女としてアマリアに生涯縛られる事になりましょう。アルジ殿も印を隠すのがなかなか面倒だ言っておりました」 


 実際アルジは食事中でも右手のグローブを外すことが無かった。


「では、もう暫くお預けですね」


「私としてはメアルシア様が契約するなら女性騎士の方がいいと思いますが」


「……何故でしょう?」


 メアルが少し強めのトーンで聞き返してくる。

 そんなに俺と契約を結びたいというのだろうか。


「メアルシア様の神の勇士兵(エインヘリヤル)が女性型だからです」


 巨兵の場合は自分の体型と異なる体になる違和感はあるが、それでも自身の意のままに動くことが出来る。

 しかし神の勇士兵(エインヘリヤル)の場合は複雑で面倒だ。

 例えば袈裟がけに剣を振るとする。

 その時実際の挙動はエインヘリヤル自身、つまり英霊の動作で実行され、操る騎士の思う動作とはズレが起きる。

 要するに他人に指示を出す様な感じになるのだ。

 当然体型も違えば、染み付いている所作も異なる。

 動きのズレは例え同じ流派であっても無視は出来ない。

 動きのズレや感覚のズレが大きいほど戦闘では致命的な結果となるのだ。

 単純な動作ですら速さや角度にズレができるので操作難易度は巨兵の比ではない。

 それに武器の問題もある。

 騎士の得意武器が英霊の不得手な武器なら動きは間違いなくギクシャクするので通常は英霊の得意武器に自分を合わせる。

 尤も顕現できる武器は英霊の愛用する武器以外はその英霊が知る一般クラスの武器になるのでその点からも英霊に合わせる必要がある。

 ましてや性別まで異なるとなれば、更に動きの違和感は大きくなる。 

 更にその上、契約する聖女を介して繋がるため聖女とシンクロ率が低いとそれは動作レスポンスに現れる。

 神の勇士兵(エインヘリヤル)を動かすという事は 聖騎士、聖女、英霊の3者の相性が極めて重要となるのだ。

 それらは訓練によって3者の息が合うように訓練していくしかない。

 だからメアルは女性騎士と契約した方が、障害が減る分合理的だ。

 

 そう説明をすればメアルは「そうなのですね」と返した。

 ヘインへリアルの秘法を生み出した張本人が知らなかったらしい。

 それは逆にそれらが気にならない位、3者の息が合っていたという事だ。

 俺としては女性型の神の勇士兵(エインヘリヤル)を動かす苦労は既に経験済なので、例え【白銀のルアメットゥーナ】になれるとしても勘弁してほしい。


 むくれる妹を宥める兄の心境でメアルに接しながら何とか共に部屋まで戻った。



☆☆☆☆☆


 

 メアルの部屋の扉が開き、出てきたアンに呼ばれた。

 今日はこれからメアルのお披露目会だ。

 

「カーラライル、どうですか?」


 部屋に入るなりメアルに話しかけられた。


「メアルシア様とてもお綺麗です。見惚れない男などいないでしょう」


 最上級のドレスやアクセサリに身を包んで居るからではない。

 それらはメアルの美しさを引き立たせる脇役に過ぎない。

 そんな想いを込めて素直に思った事を言った。


「女性でも見惚れますわ」


 アンもほうと息をついた。

 俺達の言葉にメアルは頬を赤く染める。


「それはカーライルもですか?」


「エスコートする陛下が羨ましい限りです」


 ここに居るのは我々だけでなく、メアルの身支度に関わった侍女達や、護衛騎士の応援として同僚もいる。

 俺の立場で迂闊なことは言えないので冗談で返した。


「メアルシア様、陛下をお待たせ出来ません。カーライル様、メアルシア様をお願い致します」


「了解した。護衛は任せてくれ」


 これから陛下と合流し迎賓館に向かわなければならない。

 迎賓館は当然ながら城内には無いので城から出る事になる。

 今、城下は各国からの来賓や自国の貴族が集まり、警備のために騎士団も兵士もフル稼働中だ。

 冒険者ギルドにも治安維持の依頼が行っているくらいなのだ。

 今回のお披露目によほど力をいれている現れだった。


 俺は護衛騎士の一人としてメアルの後に居ることを許されている。

 今日はメアルのお披露目と嫁ぎ先の相手国へアピールが目的。

 メアルはモス国第二王子あたりでは無いかと言っていた。

 

 会場へは馬車で移動する。

 馬車と言っても馬車を引く馬は本物では無い。

 馬型のゴーレムだ。

 いざという時死傷すること無く走り続け、動力の魔力が尽きるまで最高速を維持したままで走り続ける事が出来る。

 要人の移動では必須の物だ。

 故に御者は魔道士だ。

 御者台も障壁魔術を張る魔道士も同乗し2人体制で馬車を動かすのだ。

 馬車の周囲を警護する我々騎士の乗り物もまた生きた馬ではなく魔道具により召喚された馬だ。

 俺の馬も召還馬だが、支給されたものでは無く、古くから俺が愛用している黒馬で名をリクリムと言う。

 名も無い黒馬に名を与えてくれた人は以前買っていた黒猫の名だと言っていた。

 音も無く近づいてくるのがそっくりらしい。

 確かに俺のリクリムは音も無く走る。

 闇夜に走れば誰も気付かないだろう。

 一瞬、彼女の顔が浮かんだ。

 もう遥か昔の事だというのに彼女の顔を鮮明に思い出すことが出来きた。

 かつての俺は彼女を最後まで守ってやることが出来なかった。

 俺に出来たのは共に滅びる事だけだった。

 

 

 流石にアマリアの王都内で王族の馬車を狙うような不埒な者は居なかった。

 事前に国境での入国審査や王都への入場検査が厳しくなり、兵士や騎士の見回りも強化されている。

 特にアマリアの魔道具の秘密を知りたい国は多い。

 テロ以外にもスパイ対策もいつも以上に強化されている。


 特に何事もなく馬車は進み迎賓館に着いた。

 馬車から降りる陛下、第一王女、メアルをサポートするのは近衛騎士団長だ。

 本日の騎士団長は陛下の護衛騎士でもある。


 こんな諸国の来賓を呼んでいる場でも騎士の礼服の第一王女は正に男装の麗人だ。

 こんな時でも騎士である事に拘る頑なさは大したものだと思う。

 将来の女王となる第二王女は今日は居ない。戴冠式までお披露目することは無いだろう。

 唯一城に残る第二王女の為の護衛もまた平時より強化されている。


 今日の主役はメアル一人。

 そう考えれば第一王女の衣装を陛下が認めたのも頷ける。

 俺はドレスに詳しくはないが、陛下のドレスもまた豪華で威厳に満ち溢れなながらも落ち着いた仕上がりでメアルを引き立たせる事を意識し配慮されていると思われた。


 俺は馬車から降りたメアルの背後に立ち、歩き出す陛下やメアルに続いた。

 一度控室に陛下達が入り、俺を含む護衛騎士数名が部屋の前を警護する。

 残りの護衛騎士は部屋周囲の配置組と巡回組に別れて行動中だ。

 尚近衛騎士団長は部屋の中で警護している。

 彼は陛下の護衛騎士であると同時に高位の貴族なので同室を許されていた。


 やがて宰相の使いが陛下に目通りを願い出てきた。

 陛下達に入場を乞う為だろう。

 第一王女の護衛騎士が陛下に取次ぐ。

 使いが部屋に入って間もなく陛下が部屋から出てきた。

 いよいよの様だ。

 

 会場への扉の前で暫く待機すると、突如扉が開いた。

 会場には数多の貴族が居る。

 騎士団による事前の警護会議では帝国の宰相を始め、6強国のみならず中堅国の要人が揃っている。

 誰が誰か大雑把に把握するだけでも一苦労だった。

 が、帝国の宰相だけは判った。

 態々帝国の青い礼服に身を包み、帝国のエンブレムが刺繍されたマントまで羽織っているのから間違えようが無い。

 流石に偽物という意味のないことはしないだろう。


 皆静かに陛下の入場を持っている。


 「代29代国王 ルーサミー・ウェッティワイプ・アマリア陛下、御入場」


 進行役が陛下の入場を知らせ、その宣言を受けて陛下はメアルの手を引いて会場に入る。

 メアルを見た会場の貴族達から感嘆の声が漏れる。

 陛下とメアルの後に続くのは第一王女 そして護衛騎士である 近衛騎士団長と俺達だ。


 陛下が近衛騎士団の手を借りて優雅に上座中央の一際豪華な椅子に座る。

 次いで第一王女が陛下の右隣の席に座るが、彼女はドレスではなく騎士の礼服の為、補助の必要は無く一人で座った。

 そして2人が座ったので俺がメアルの補助をしてメアルを陛下の左隣の席に座らせる。

 その後俺はメアルの左隣後に立った。

 陛下の席の右隣に近衛騎士団長、左隣に先に会場入りしていた宰相が立っている。

 第一王女の右隣後に彼女の護衛騎士、この一団の左右と後ろをその他の護衛騎士で固めている。


 さてここからは各国の要人や、自国の貴族達の挨拶の時間だ。

 陛下は都度にメアルの紹介をしていく。

 衆目をあつめて一気に紹介すれば楽なのだが、警護の点や格式を考えればあり得ないことらしい。

 面倒だが個人面談で紹介するしかないし、この場はあくまで外交の場なのだ。

 それぞれの国で話す内容も変わってくるのだろう。 

 



「息災で何よりです。アルドーヌ卿」

 

「この身をご案じ下さり有難う御座います。帝国宰相デッカルト・アルドーヌ、帝国皇帝ガレドーヌ陛下の名代として参上致しました」


 帝国の宰相とのやり取りはそんな挨拶より始まった。


「今日はアルドーヌ殿に来て頂いたのは我が国の姫を紹介する為です」


 そう話したのは陛下の左隣の宰相だ。


「メアルシア、ガレドーヌ帝国の宰相を務めるアルドーヌ卿よ。ご挨拶なさい」


「お初にお目にかかります。メアルシアと申します。お見知りおき下さいませ」


 他国の、とは言え王族ではない貴族に王族が態々立って挨拶することはない。

 立って挨拶をするというのは対等な相手に対してのみである。

 メアルも座ったまま挨拶をする。


「ご尊顔を拝したくお願い申し上げます」


 跪き頭を下げたまま帝国宰相が陛下に許可を求める。


「許します」


 陛下の許可を受け、顔を上げた帝国宰相はメアルを見て息が止まる。

 その表情は驚きを隠せないでいた。

 宰相を務める程の貴族が表情を隠せないほどに衝撃を与えた様だ。


「陛下、メアルシア様の瞳とその髪は…」


「流石に帝国宰相を務めるアルドーヌ卿ですね。その通りです」


「【初めの聖女】様の再来がアマリア王国に……」


「再来などと恐れ多い事です」


「残念ながら、メアルシアは色だけで聖女としての力は持ち合わせないのです」


 メアルが恐縮し、陛下が補足する。


「だとしても、その色を持つ美しいメアルシア様をどの国も欲しがるでしょうな」


「それは貴国もでしょうか?」


「出来うることならば、陛下の正室に是非お迎えしたい」


「一考しましょう。ところで」


 メアルの紹介を打ち切り、経済に話が移った。

 今メアルはどんな表情をしているだろうか。

 先程話に出ていた【初めの聖女】は他何らぬメアル自身だ。

 正に再来であることを偽っている事を心苦しく思っているだろうか。

 他国がメアルに聖女の力が無くとも欲するのも当然だろう。

 【初めの聖女】の色を持つメアルは強い聖女の資質を持つ子を生んでくる期待が出来るからだ。

 強い聖女の誕生は国のパワーバランスの変え得る。

 しかもメアルはアマリアの姫であり、アマリア王国と関係を持てるのである。

 それを本人も判っているだけにメアルの心情が気になった。


「有意義な時間でした」


 陛下が帝国宰相との会話の終了を告げる。


「アルドーヌ卿、ささやかながら酒や食事を用意しております。是非楽しんでいって下され」


 宰相が締めくくり、帝国宰相アルドーヌはこの場を辞した。

 帝国の次に挨拶に来たのはモス国の外交大使だった。

 メアルが本命ではないかと言っていた国か。

 流石に大国ともなると直接王子を送ってはこない様だ。


 先ほどの帝国の時と同じようなやり取りが交わされた。

 しかし最後の最後に宰相が「是非一度ゆっくり貴国に伺いたいものですな」と締めくくった。


 「それは我が君も喜びましょうぞ」

 モス国の大使はそう返して場を辞した。

 どうやら本当にモスが本命の様だ。

 モス国からの招待を受け次第、宰相がモス国で話をまとめて来る予定なんだろう。


 その後も次々と挨拶を交していく。

 全ての国との挨拶が終わるとメアルの出番は終わりだ。

 この後舞踏会も催されるが、そこまでメアルが残ることはない。

 それが望ましいと陛下が考えているからだ。

 紹介するべき相手に紹介したならそれ以上見せびらかすのはメアルの価値を上げ過ぎてしまう可能性がある。

 メアルの所作、マナーは完璧だとアンも言っていた。

 なによりメアルは俺から見ても美しい。

 近くで見たりすれば求婚者が王城に殺到しそうだ。

 嫁ぎ先が決まっているなら、アマリアの威光を示して早めに退場させるべきで、断ると決まっている求婚が増えるのは面倒なだけだ。


 つつがなく各国への紹介が終わり、俺を含めた数人の護衛騎士と共にメアルを予め決めてある控室に送った。

 先程の陛下の控室とは別室だ。

 本来は控室は一室に絞ったほうが警護を分散させる必要が無い分望ましいのだが、メアルが少しでも寛げる様にとの陛下の配慮だった。

 王族の控室は複元々数あり、暗殺対策として敢えて分散されている。

 と言ってもそれそれの控室は同じエリアではある。

 今回は過剰な人員数で警護しているので何の問題もない。

 空き部屋には魔道具による監視が入り不要な出入りがあればすぐに我々に連絡が入る様にもなっていた。


 控室では時間差で来ることになっていたアンが食事の支度を整え終えていた。

 この日の為にいつも以上に豪華な食事を会場に用意しアマリアの豊かさをアピールしているので、メアルの食事はいつも以上に豪華だろう。

 尤も護衛の騎士には関係ない話だ。

 たかが数時間の警護で騎士の食事など予定に入れる訳がない。


 その後控室に戻った陛下達の食事が終わるのを待って王城に戻った。

 行きと同じく何事もなく王城に着いた。

 メアルを部屋に送り届け、そのまま扉の前で交代が来るまで護衛任務に着く。

 アンは別の馬車で先に戻りメアルを出迎えた。

 アンは元々迎賓館に行く必要が無かったがメアルの希望で行くことになった。

 流石に陛下と同じ馬車という訳にはいかず、直前までメアルの身支度を手伝い、帰ってきた時の寝支度も整えて合流したのだ。

 今日一番の忙しかったのはアンだろう。

 

 そんな事を考えているとアンが部屋から出てきた。

 

「カーライル様、部屋に異常は無く、メアルシア様もご就寝なされました」


「了解した。アン殿今日はご苦労様だった」


「メアルシア様の希望ですもの。疲れてなんていられません」


「頼もしい限りだ」


「カーライル様にしごかれているから体力には自身がありますよ」


「なら今後もバシバシいくか」


「それはご勘弁を」


 

 そんなやり取りをした3ヶ月後で且つ、予定通りモス国に行った宰相が戻って来て一週間後でもある今日、メアルが陛下に呼び出された。

 俺は陛下の執務室に入ることは出来なかったが大体の予想はついていた。

 陛下の部屋から出てきたメアルは貴族らしく無表情だ。

 部屋に送り、そのまま部屋前の警護につき暫くして出来きたアンにメアルが呼んでいると言われた。


 部屋に入るとメアルは椅子に座っているが表情は無表情で硬い。


「アン、扉を閉めて」


「メアルシア様それはなりません」


 俺は止めたがアンは「了解しました」と言って扉を閉めた。

 この流れでとなれば話は一つしか無い。

 それが決定したと言うことだろう。


「カーライル、(わたくし)は16才になり次第、モス国に向かうことになりました」


 それは案の定な内容だったが余りに余裕がないものだった。

 メアルは成人してすぐ、モス国に向かう事に決まった。

 第二王子の成人(モス国では成人は18才)まで2年あるが、王子の成人と同時に婚姻を結ぶにしてもその前にモス国の国教や政治について慣れて貰う必要があるといった所か。

 兎も角、出立までに我々に残された時間は半年足らずだ。


続く

次からは補足話に入り、この章も終わります。

新章から色々と動き出します。


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