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騎士と聖女の物語  作者: 丁太郎
黒髪の男編
17/36

7.アルジとニース

2020.10.14 一部、修正と加筆しました

★★★★★

Side カーライル

再び庭園の東屋にて


「カールさんがケーキ買ってきてくれるなんて思いもしませんでした。有難うございます。またお願いしてもいいですか?」


「今回はアンに踊らされただけだ。できればアンに頼んでくれ」


 俺がお礼として買ってきたケーキを堪能したメアルに誂われた。

 ここまで含めてアンの計画かと思うと少々腹立たしい。

 そのアンはメアルに2杯目のお茶を淹れている。

 その手付きに迷いはなく、優雅で洗練されている。

 アンの努力が見て取れた。


「メアルもそれくらいにしないと、続きを話してくれなくなっちゃうよ」


「うふふ、そうですね」


「やれやれだな」


『とっととこの前の続きを話しなさいよ。エルフ女と知り合ったんでしょ』


 いつの間にかメアルと契約した氷の精霊ピノがその肩に座っていた。

 気温を調整しているのか、すぐに周囲の空気が少し涼しくなった。


「おかげで面倒事に巻きこまれたな」


「冒険者同士の諍いに巻き込まれて勝負を受けることになった所からですね」


「冒険者ギルドって新参者をいびる気質なの?」


「冒険者ギルドに限らず、そういう下らん連中は何処にでもいるさ」


「んー、そうですよね。ここにもそういう人いますからね。誰とはいいませんが」


「アン……」


 アンが賛同した。

 アンが言っているのは間違いなく、あのお姫様だろう

 それに対しメアルは心配そうな声を上げる。

 自分の不甲斐なさでアンに苦労をかけていると思ったのか、それとも巻き込んだ事を後悔しているのか。


「メアル、気に病むな。どんな世界にもいる輩だ。それに当分はちょっかい出しては来ないだろう」


「この前カールさんが容赦なく鼻っ柱をへし折りましたからね。胸がスッとしました」


『確かにねー。 キャンキャンうるさいから何度凍らせてやろうと思ったか』


「アン、ピノ、ありがとう。 でも程々にね」


 ピノが結構メアルに懐いてる事にすこし驚いた。

 契約を結んだのだから不思議ではないのかもしれないが。

 

 メアルがアンとピノを心配する気持ちも判る。

 不用意な発言を誰かに聞かれて不敬罪に問われても困る。

 アンは流石に名指しで非難していないので罰せられはしないだろうが。

 尤も持ち込み品を含め周囲に盗聴用魔道具が無いことも確認しているので何の問題もない。


「それはカールさんに言った方がいいと思うよ。メアルを虐める相手に容赦がないんだから」


「そこまで無分別じゃない」


「その……カールさんも手加減してあげて下さいね」


 メアル……そこは否定だろう……


「例の試合の件を言ってるなら、十分手加減していたさ。だがあれ以上の手加減は流石にあからさまになり過ぎる」


 皆は俺と比較している為、ミリンダ王女の剣を弱く感じているが、彼女は決して弱くはないし、剣の素質も高い。

 只俺には通用しないだけだ。

 とは云え、ある程度は本気でやらないと流石に俺も勝てない。

 その辺のさじ加減は微妙で難しいのだ。

 俺は今までの転生を繰り返す人生の中で、誰かに何かを教えるような事は無かったし、気にならなかった。

 メアルに出会うまでは。

 なんにせよ俺はやりたいようにやるだけ。

 今生ではメアルを守りたいと思っている。

 だから守るだけだし、敵対するなら排除する、それだけだ。


「そう…なんですね」


 何故だろうメアルの声には呆れが含んでいる様に感じる。


『へぼ姫の話はもういいからさー』


 ピノがさっさと話せと促してきた。

 氷の精霊が好奇心旺盛だとは驚きの事実だ。


「邪魔が入らない内に話すとしよう」


 メアルは基本忙しい。

 今日を逃せば次はいつになるかはわからない。

 その間、メアルに何度も強請られるのだ。

 できれば今日で済ましてしまいたい。

 俺はやれやれと思いながら続きを話し始めた。



★★★★★

Side カーライル(カーライルの回想)

ダンジョンの入り口付近にて

 

 王都の冒険者ギルドにて雑魚冒険者に絡まれている2人冒険者の騒動に巻き込まれ、決闘につきあわされる羽目になった。

 勝負の方法は冒険者らしく、どちらが先に依頼を達成するかだ。

 この方法は冒険者ギルド伝統の決闘方法で、ギルドに入会時に説明も受けている。 


 決闘に選ばれた依頼は王都に尤も近いダンジョン【廃坑迷宮】で採れる【魔光苔】の採取だった。

 【魔光苔】は魔道具作成に必要な錬金素材として有名だ。

 王都の辺りでは【廃坑迷宮】内でしか取れないとの事。

 その【廃坑迷宮】は元々ミスリルが採掘が行われていた普通の坑道だった。

 150年前に廃坑になり放置されていたのだが、30年程前ダンジョン化したという。

 ダンジョン化して幾つもの坑道が繋がり更に変化し、元の坑道の地図は意味が無くなった。

 入り口は幾つもあるが何処から入っても行き着く最奥は同じ。

 依頼品の【魔光苔】は最奥のボスを倒した向こうに生えている。

 ボスは【岩食いトカゲ】と呼ばれる獰猛なトカゲだ。

 長く大きな口を持ち、岩を噛み砕く強靭な顎と鋭い牙を持つ。

 岩ごと獲物を噛み砕いたというのが名前の由来になっている。

 とは云え、怖いのは正面の獲物に食いかかる時の瞬発力だけ。

 硬い皮を持つわけでも無く、持久力が無いので正面に立たない様に回り込む事を繰り返しバテさせればいいだけだ。

 バテた【岩食いトカゲ】はほとんど動けなくなるので、楽々トドメをさせる。

 

 罠やモンスターやボスの強さのなどからギルドが下したダンジョンの難易度は Dランク推奨で決して高くはない。

 因縁をふっかけてきた連中がCランクなので、奴らにしても楽勝だろう。

 依頼報酬が余り高くないのでやり手のない依頼をギルドが押しつけた様にも思えるが、単純にスピード勝負としては都合がいいという点も確かにある。

 広いダンジョンで遭遇できたなら邪魔することも出来るだろうが、このダンジョンは最奥に至るルートが多いのでよほどの縁がなければ遭遇はしまい。

 

 王都より歩いて半日ほどの東にある街【エイスト】が【廃坑迷宮】へ至る最寄りの街だ。

 元は大きな街では無かったが廃坑がダンジョン化したことにより発展し、ダンジョン発生より30年後の今では結構大きな街にとして賑わいを見せている。


 王都周辺地域は魔物の発生率は0ではないものの多くはない。

 また、大型化して最大で20〜30メタ(2〜3m)なので中型巨兵がなくても冒険者が複数パーティーいれば狩ることもできた。

 大森林が近い【スタ】周辺に比べれば危険度はかなり低い地域だと言える。


 対決のスタートは【エイスト】の街の門からだった。

 ダンジョンは不定期に道が変わり古いマップは役に立たない。

 一応最新マップは街で売っているが、高価な上にどこまで信用できるか判らない。

 マップ屋が集めた複数の情報から作成されているからだ。

 因みに今回の勝負では購入したマップの持ち込みは禁止されており、ダンジョンの自力踏破の速さを競う事になっている。

 当然攻略難易度は上がり、危険度は増す。

 冒険者となれば喧嘩も命懸けだ。


 勝負は既にスタートしており、今は複数あるダンジョンの入り口の内の一つの前にいる。

 お互いの挨拶や役割分担などは【エイスト】へ向かうの道中済ませている。


 今回の騒動の当事者 冒険者チーム”アルジとニース”。

 アルジ殿は年齢にして30前半といったところか。

 精悍な顔つき、ダンジョンを前にして過度な緊張も無く自然体だ。

 ロングソードとショートソードの中間位の長さの剣を左右の腰に下げているので双剣使いなのだろう。

 一方のニースさんはエルフであり人間の一般女性より若干背が高いが、アルジ殿の肩位の身長なので小柄に見えてしまう。

 見た目は20才くらいに見えるがエルフは見た目で年齢を判断できないので不明だ。

 年齢を尋ねるほどの興味もないし、意味もない。

 ニースさんはダンジョンを前にして楽しそうにしている。

 好奇心は旺盛そうだ。

 エルフなので精霊魔術と弓の達者と思われる。

 事実彼女の装備は半弓だった。

 

 因みに彼らに敬称をつけるのは、彼らの実力に対する敬意だ。


 今回の即席パーティーでは、戦闘時は俺とアルジ殿が前衛でニースさんは後方支援兼遠距離アタッカーだ。

 なんと水の精霊魔法で《回復》も使えると言っていた。 

 非戦闘時では先頭をアルジ殿、次いでニースさん、後方の備えは俺だ。

 ニースさんは専門ではないが簡単な罠の解除もでき、正に万能だった。

 尤も今回の勝負はタイムアタックなので宝箱があったとしても無視するし、【廃坑迷宮】には扉で仕切られた小部屋などもが無いと情報を得ているので、その手の専門家のシーフの技能は必要無い。

 つまり、はっきり言えばこの2人だけで全然問題ない。

 俺は全くもって巻き込まれただけなので、基本は2人に任せるつもりだし、彼らもそのつもりのようだ。

 下手に2人の連携を乱されたく無いのもあるだろう。

 お互いの思惑が一致し、役割が決まると次はリーダーだ。

 この即席パーティーのリーダーはアルジ殿で決まった。

 それに関しアルジ殿は「ランクから考えればカーライル君がリーダーになるべきだが」と言ってきたので「アマリア王国おいては……だろ?」と返し、2人は肩を竦める一幕もあった。

 彼らには強者の風格があった。

 隠しているつもりなのだろうがね。


「さて、カーライルとやら、よろしく頼むぞ」


「ああ、よろしく」


「やれやれ愛想の無いヤツじゃのう」


「いいじゃないか。早速入ろう」


 アルジ殿に促されてダンジョンの中に入った。

 ダンジョンは名の示す通り坑道だった。

 床は多々凹凸のあるものの平らで歩きやすい。

 通路の幅も広く、大人3〜4人が横並びで歩けるくらいの余裕は有る。天井までの高さもそこそこ有り、武器を振り回すのに不都合はない。

 壁や天井は木枠で補強され、崩れない様にしてある。

 ダンジョン化した時点で落盤は起きないと思うが、坑道の趣はそのまま取り込まれてしまったようだ。

 空気に淀みは無い。

 通常の坑道であれば換気は重要だのだが、そこはダンジョンなので問題ないらしい。

 人を奥に誘おうとしているダンジョンの意志を感じられる。 

 流石に明かりはないのだが、ニースさんが光の精霊を召還しているので問題無かった。


 難易度が低めな為、当然このダンジョンの踏破者はそれなりに多い。

 だから地図を買えない替わりに情報料を払い事前に聞き込みはしてある。

 ダンジョンは最奥のダンジョンコアがある空間までこんな感じで、一番悪辣なトラップで剣山が仕込まれた落とし穴程度聞いている。


 俺は2人の後をついて行くだけ。

 背後の警戒も怠らないが、正直暇だ。

 巻き込まれてダンジョンに来ることになったものの、俺は正直必要ないだろう。

 それくらいアルジ殿とニースさんのペアは完成されたパーティーだった。

 2人で完結してしまう。

 あっという間にダンジョンの終盤に来てしまった。


 少し広い空間に入ったので休憩を取ることになった。

 一本道の途中なのでモンスターが湧いたり奴らが妨害しにきても来ても直ぐに気付くし、迎撃できる。


「ほむ、ヤツラと遭遇しないかのう。雑魚ばかりでつまらん」


 水を飲みながらニースさんがボヤいた。

 確かにここまでに遭遇したのは【土人形】や【ゴブリン】、【大蜘蛛】など、さほど強く無いモンスターばかりだった。


「ああ、向こうから来てくれれば手っ取り早いんだがな」


 アルジ殿も頷いた。

 2人は妨害しに来て欲しいようだ。

 ギルドの本部でボコボコにするのは不味いが、ここでなら心置きなく出来る。

 ここはもう死地で全て自己責任だからだ。 

 2人にしても不本意ながら参加しているので帰れるならとっとと帰りたいのだろう。


 ダンジョンの中にも関わらず風が吹いた。

 そよ風程度であったが風はニースさんに向って吹いている。

 風の精霊の力か。


「ふむ、暫くは誰も来そうもないか」


 精霊魔法を使用するニースさんは精霊を使役していても不思議じゃない。

 

「カーライル、お主精霊魔法が珍しいって顔しておるぞ」


 暇だったからかそう言って精霊魔法について教えてくれた。


「そもそも精霊とは自然のエネルギーが意志を持った存在なのじゃ。だから精霊が世界を動かしていると考える連中もいるようだが全くの間違いじゃ、例えば水中には風の精霊がいるはずもないが風の精霊の力は借りることが出来る。通常よりも弱くなるがの」


 エルフ達は精霊と契約を結び自身の魔力を与える替わりにその精霊の力が発揮出来ない場所でも力を揮える様にしているのだそうだ。

 エルフは精霊と契約を結んで精霊魔法を使用しているのだが、厳密には【精霊神】(と呼ばれるより大きな力をもった意志)を信仰し、その上で眷属である精霊と契約を結んでいる。

 つまり【精霊神】は人間が信仰する神々とは成り立ちが異なる”神”と呼ぶべき存在で、人間の信仰する神々は【神界】にいるが、精霊神はこの世界、即ち【人間界】にいるらしい。

 つまりニースさんのような精霊使い達は、信じる神が違うだけで人間の聖女達と同じってことか。

 ただし同じ亜人でもドワーフなどは人間界の神々を信仰してる。

 彼らが信仰しているのは ”酒”か”鍛冶”を司る神の2択だが。

 知る限り独自の神を信仰しているのはエルフだけだ。



「ところでカーライル君、君の武器は変わっているな。見せてくれないか?」


 精霊の話が一段落したところでアルジ殿が俺の刀を見たがった。

 気になっていたようだ。

 俺は刀を鞘ごと渡す。


「ほお、美しいな」


 そう言ったのは横で覗いたニースさんだ。

 

「確かに…これはブレードか? それにして変わった形状だ」

 

 たしかに俺の武器”刀”はいわゆるブレードとは異なる。

 ブレードはもっと薄く、刀身の幅が広い

 

「それは東方の武器を真似た特注さ」


 俺の刀について詳しく話すつもりはないので、オリジナル武器だとだけ言っておく。


「そうか、いつか行ってみたものじゃのう」

 

「アルジ殿にお願いすればいいさ」


「じゃとよアルジ殿()


「おいおい余計なこと吹き込まんでくれ」


 そんな他愛のない会話をしている時だった。

 突然ダンジョンの感じが変わった気がした。

 刺してくるような張り詰めた空気感。

 気がしたではなく間違いなく変わった、悪い方向に。


「む?」

「なんじゃ?ダンジョンが変わった?」


 二人も感じたようだがこの現象に遭遇したことが無いようだったので注意を促すことにした。


「ああ、気をつけてくれダンジョンの難易度が上がった様だ」


 そうこれはごく稀に起るダンジョンのレベルアップ現象だ。

 起る条件は不明。

 しかし少なくとも難易度が下がったという事例はなく、確実に手強くなる。

  罠ももっと悪辣なものが増えたかも知れない。

 ダンジョンには常識が通じないとはよく言われるが、この現象もそう言われる原因の一つだ。

 俺も(転生してきた中で)ダンジョンには幾度と無く潜ったが、ダンジョンが生きている様に感じるのはこういった時だ。


「なるほどこれが……」

「その……ようじゃな。カーライルお主よく判ったのう」


「知識として知っていただけだが、ダンジョンが発する殺気が強くなった」


「ほう、この空気感がダンジョンの殺気なんじゃな」


「ああ、殺気と捉えるとわかりやすいな」


「これは少しは楽しめそうじゃな。 唐突じゃがカーライル、呼びにくいから今後はカール坊と呼ぶ」


「勘弁してくれ。変える前のがマシだ」


「お主がなかなか出来るのは判るが坊が抜けるには10年早い」


「はは、ニースは頑固だから折れた方がいいぞ。俺は普通にカール君と呼ばせて貰おう」


 呼び方を変えたのは少し俺の実力を認めたからか、それとも連携を強化した方がいいと判断したからか。

 しかし坊や扱いは勘弁して欲しい。


 ダンジョンの殺気に揺らぎが出来た。

 これはモンスターが湧く前兆だ。

 俺は刀を抜く。


「敵か」


 アルジさんも僅かに遅れて反応した。


「ダンジョンの殺気を感じとれるとナルホド、便利じゃな」


 ニースさんがダンジョンの空気感、即ちダンジョンが放つ殺気の感じ方を理解したようだ。


「湧くぞ」


 地面から浮き上がって来たのは、【ロックドール】

 体の表面は凹凸もなく磨かれてツルッとした感じの岩石でできた動く人形だ。

 【土人形】の上位モンスターだ、それが10体。

 坑夫を気取ってか手に持っているのはスコップやツルハシだった。

 体が硬いので斬撃が効き難く、推奨ランクAランクのダンジョンモンスターとされているが、ゴーレム系は再生能力が無いので、まだ対応はそう難しくない。


「厄介じゃな」

 

 ニースさんが毒づく。

 矢や風系の魔法では岩の体に傷をつけにくい。

 しかも凹凸無く磨かれているなら尚更だ。

 彼女には相性が悪いモンスターと言える。

 

「では手伝ってやろう」

「仕方がないの、頼む」


 アルジ殿は気負いなく目の前に迫る【ロックドール】の攻撃を避けながらその胸に双剣を振るってクロスの傷をつけた。

 岩を斬れる技量と刃こぼれしない業物を持てるだけの財力。

 やはり2人は他国では高ランク冒険者だったで間違いないようだ。

 クロス付けられた傷に向ってニースさんが矢を放つ。

 矢は狙いを違えず、クロス傷の中心に刺さった。

 なるほど、クロスに傷を付けたのは矢を刺しやすくするためか。

  

 ボン 


 破裂音、そして刺さった矢を起点に亀裂が入り、胸を砕く。

【ロックドール】 は倒れてそのまま動かなくなった。


 ニースさんの矢に風の魔法を纏わせ、風を爆ぜさせて内部から胸部にある核を砕いたのだ。


 この戦闘で2人が倒したのは6体、俺が4体なので二人のコンビネーションと殲滅速度の高さを見せつけられた結果となった。

 

「カール坊、お主もDランクの器じゃないのう」


「ああ関節を切断できる技量と核を突き刺せるその武器」


「見たことがない体捌きと剣技じゃったな」


「我流だ。俺にしてみれば2人の方が呆れる強さだ。粉々になってるじゃないか」


「それはニースに言ってくれ」


「ちとやりすぎたかの」


「まあいいさ、それよりも」


「ああ急いだほうがいいだろう。Aランクのモンスターが湧くならダンジョンの難易度もA以上だろうしな」


「うむ、じゃがこんな時こそ慎重にな。まトラップについては任せて貰おうか」



 我々は先を急ぐことにした。

 ダンジョンの難易度が上がった以上、色々なトラップが増える前に終わらせてしまいたい。

 モンスターもリポップしたものから強くなってしまうし、徐々にダンジョンが伸びての最奥が遠くなってしまう可能性もあった。


 結果から言えば、ダンジョンの罠は変わらずで、リポップだろうモンスター以外は弱かった。

 ダンジョンの自体は変わらずで敵だけが強くなった感じだ。


 やがて幾つかのルートが合流した空間に出て、奥に1本道が見えた。

 事前情報で聞いていた通り、幾つものルートは最終的にボスの間に続く1本道になるで間違いないようだ。

 そのままボスの間に続く1本道を進んだが、途中何度か強いモンスターに遭遇した。

 つまり俺達の前に奥に向っている者がいるということだ。





 「ぎゃあああああぁぁぁぁぁぁ」


 悲鳴が聞こえたのは、もうすぐ最奥だろうか、という時だった。

 聞き覚えのある声だ。

 この決闘の原因となったCランク冒険者達のリーダー格の男のものだ。

 意外にも俺達より先に進んでいたんだな。

 腐ってもCランクということか。

 ボスを攻略し終えて戻る所でリポップした強いモンスターに遭遇してしまったのかもしれない。


 俺たちがたどり着く前に悲鳴は聞こえなくなった。

 ダンジョンの餌になったか。


 グシャ! グシュ! グチャ! 


 たどり着いた時、そこには3体の【ロックドール】がそれぞれツルハシを何度も振り下ろしていた。

 ツルハシが振るわれた先には見るも無残な姿となった男たちが転がっている。 

 身につけていた防具からみて決闘中だったCランク冒険者たち3人の成れの果てだ。

 ツルハシを何度も振るわれ防具も判別するのが難しかったが。

(詳しくはメアル達の手前省くが、もはや肉塊だった)


 

 先程の戦闘と同様に【ロックドール】を倒し、彼らのタグを回収した。



★★★★★

Side カーライル

庭園の東屋にて


 <ここから先の真実はメアルに話さないほうがいいな。400年前を思い出させてしまう>


「割愛するが、アルジ殿とニースさんの活躍もありボスを倒して、【魔光苔】を採取しギルドに戻った」


「最後を端折りましたね、いいですけど。それにしてもCランク冒険者さん達が喧嘩を売った代償が命になってしまうなんて後味は悪いです。」


「折角カール坊で誂おう思っていたのに、ほんとね」


 アンは誂おうとすると思ったよ。


『そのダンジョンは今でもAランクなん?』


 ピノがダンジョンに興味を持つとは思わなかった。

 

「いや、ダンジョンのレベルアップについては分かっていることは少ない。恐らくだが完全なレベルアップが完了する前にボスを倒したのでレベルアップを途中で食い止めてしまったようだな。 今は元のDランク推奨に戻っているようだ」


 嘘だ。

 あの時のダンジョンのレベルアップ、いや活性化の原因は判っている。

 原因を取り除いたから元に戻っただけだ。


「アルジさん達とはその後どうしたんですか?」


「依頼者に【魔光苔】を渡すところまでは一緒だったが、報酬を分配して別れたきりだ。その後は一緒にパーティーを組むこともなかったな」


「折角知り合ったのにどうしてです?」


「それをこれから話すんだが、少し待ってくれ喉が乾いた」


「カールさん気づかないでごめんなさい。少し休憩しましょう」


 メアルが休憩を提案してくれた。

 実際、普段こんなに話さないから少々喋り疲れていた。

 メアルにその点を気遣われたのだろう。


「カールさん少々お待ちを」


 アンがそう言いながら俺に冷たい水をくれた。

 こういう時は温かい茶より冷たい水の方がありがたい。

 

 二人の気遣いを嬉しく思いながら喉を潤す。

 そして休憩しながらダンジョンの最奥での事を思い出していた。




★★★★★

Side カーライル(カーライルの回想)

ダンジョンのボスの間付近にて



「さて、どうする?」


 アルジさんがそう聞いてきたのは対戦相手が死んだ以上、ダンジョンを攻略する動機が弱くなったからだ。

 3人はやはり既にボスを攻略済だったらしく、荷物から【魔光苔】が出てきた。

 但し血に濡れて回収する気になれなかった。

 ここから先に進めば直ぐにボスの間にたどり着くだろうが、ボスがリポップされれば強くなったボスとなっているだろうし、もはや只でさえ安い報酬の依頼に命を賭ける必要がない。

 報酬が安いのだ、違約金を払って依頼破棄したところでたかが知れている。

 信用は失うかも知れないが、異常事態でもあるし報告を優先したとすればギルドも理解してくれるだろう。


 ……してくれるのだろうが……



「面倒じゃし戻って身を清めたいのう。我ら向けのダンジョンでは無くなったしのう」


「確かにボスもゴーレム系に変化していたら打撃系の武器が必要だな」


「…………いや、進もう。放置するとヤバい」


「どうしたカール坊」

「カール君なにがヤバいのだ?」


 二人はこの奥から漂ってくるこの感じに気づかないのだろうか?

 それは全ての命に対して恐怖でしかないモノの気配だ。

 何度も相対してきた、間違えるはずもない。

 奥にいるのは”死”だ。

 それはリポップしたボスが魔に取り憑かれている事を意味する。 

 即ち”魔”が憑いたのはダンジョン本体であるダンジョンコアということだ。

 この2人が魔物を見たことが無いなど流石に無いだろうがダンジョンの中ということで考えてもいないのだろう。 




「………奥から”魔”の気配がする」


 俺の言葉に2人が息を飲むのが判った。

 特にニースさんは顔色が蒼白になった。


「ダンジョンのボスが魔物化……だと……」


「お、お主……言っている意味がわかっておるのか?」


「ああ、このまま放置すれば、徐々に魔に憑かれたモンスターが増殖し下手をすると【ビシュウェールの災厄】がここでも起る」


「!」


「なんだそれは?」


 アルジ殿はあまり歴史に詳しくないようだ。

 ニースさんが説明を始める。


 およそ420年前、突如この世に生きる全ての生命に襲いかかった魔物という災厄。

 その災厄の始まったのが大陸最北にあった国【ビシュウェール】

 どういった理由でかは知らないが、ある日【ビシュウェール】のとあるダンジョンに”魔”がついたという。

 ダンジョンの中のモンスターが狂暴化し入ってきた者を襲って食らう様になったのだ。

 しかし、それを【ビシュウェール】の国も冒険者ギルドも甘く見た。

 ダンジョン内のモンスターが凶悪化して人を喰らおうとも、それはダンジョン内だけのこと。

 問題のダンジョンを封鎖してしまえば問題はないと。

 しかし、その判断が災厄の引き金となった。

 突如、魔に憑かれた大量のモンスター達がダンジョンから溢れ出てきたのだ。

 魔物となったモンスター達は近隣の村や街を襲い、巨大化していった。

 【ビシュウェール】の軍は全く歯が立たず、に3ヶ月と待たずに国は滅びた。

 当然近隣の国々に応援を要請したが100メタ(10m)級にまで巨大化した魔物を討伐する術が近隣の国々にも無かった。

 やがて【ビシュウェール】の大地は黒く染まり、水は爛れ、空気は淀み日の光を通さなくなった。

 そして【ビシュウェール】の地は完全に魔に汚染され魔の温床となった。

 その頃には近隣の国々も魔物に成す術もなく滅ぼされていったのだ。

 【ビシュウェールの災厄】より20年経ち【最初の聖女アリーシャ】が【エインヘリアル秘法】を生み出す頃には人類が滅びる一歩手前にまでなっていた。

 現在人類は対抗手段を手に入れて、かつての版図を取り返していったが、現在でも人類の版図は全盛期の6割程度だと言われており、大森林より北の地は今なお魔物が跋扈する大地と言える。

 当然、今となっては【ビシュウェール】の地がどうなっているのか知る者はいない。


 そして北から獲物を求めて南下してくる巨大な魔物がたまにいて、各国家が防衛しているのが現状だった。

 ここ【アマリア王国】でも北の大森林より幾度と無く魔物がやってきた。

 【スタ】の街で防衛戦を行ったことすらあるのだ。


 今にして思えばこの国には聖騎士と聖女が多いので、かつての災厄の様な酷いことにはならないだろう。

 しかし、この時はアマリアの聖女の数など知らなかった。

 只、もし魔物が大量に溢れ出れば少なくとも【エイスト】の街や近隣の村々、王都の一部は確実に被害を受けるだろう。


「ニースさんの説明とおりなんでボスを倒して最奥にあるダンジョンコアを浄化する必要がある。 無理にとは言わないが」


「カール君まさか行く気か」


「死にに行くようなものじゃ。3人では足りんぞ」


「引き換えして応援を呼んだ所でここのボスの間は同時に4人までしか入れない。それに時間が経つほどダンジョン内に魔物が増える可能性がある。やるなら今しか無い」


「だが、しかし……」


「カール坊、無謀じゃ」


「そうでもないだろ、聖騎士と聖女のお二人ならな」


「む、気づいていたか」


「素性までは知らんが、そうじゃないかと思ってたよ」


「なる程、しかしこんな場所では顕現はさせれんぞ」


「ああ、実は考えがある」



☆☆☆☆☆



 死して倒れた魔物と化したボスモンスターを見つめながら刀を鞘に収めた。

 エインヘリヤルの気を纏ったアルジさんの持つ松明の炎もまた浄化の炎となって 魔物と化したボスモンスターを燃やす。


 ボスはダンジョンのレベルアップに伴い変わっていた。

【ジャンラーキン】と呼ばれる身長30メタ(3m)の猿のような体型をした大型モンスターだった。

 硬い甲殻に覆われているのでゴーレム系と間違いやすいが、猿の一種だ。

 足は短いが手は長く太い。

 見た目に反して素早い身のこなしの上、豪腕の一撃を貰えば人間など勿論即死だ。

 頭と胸が一体になっており、胸にある大きく避けた口には無数の鋭い牙が生えている。

 空腹時が一番狂暴で人間を好んで食べることから【食人大猿】とも呼ばれることもあるAランク推奨モンスターの中では危険度が高い奴だ。

 それが魔物化し体長は身長40メタ(4m)は超えていた。

 色も黒く変色し、牙はより鋭く、腕はより太く、お大きく開いた口からは止めどなく涎が垂れ、より狂暴になっていたのだ。


「カール坊、お主一体何者じゃ。何故こんな方法を知っておる?」


 戦いが終わるとニースさんが鋭い声を発してきた。

 俺が彼らに教えたのは、出会った当初のメアルにも教えた、エインヘリヤルの力を鎧化して顕現させる方法だ。

 顕現させるのに大きさが必要ないので依代を必要とせず、魔力消費を抑えられる。

 密度を濃くすれば魔力消費は大きくなるものの、より強固な鎧にすることが出来る。

 同様に武器にすることも出来る。

 器用にもニースさんはアルジさんと自身の2人分顕現させた。

 聖女のしてのポテンシャルがかなり高いようだ。 

 エルフの精霊使いで通り名のある高名な聖女が何人かいるが、その内の一人かも知れない。

 ふと、王都に来る途中の街だったか、酒場で耳にした話が思い浮かんだ。

 ”テリアの双璧”と歌われたテリアの将軍の一人と、パートナーの聖女が国を出奔した。

 確か聖女は【水精のニー】と呼ばれた大聖女だった。

 

 なるほど… ()()ス ね。


「冒険者の素性を詮索するのか? ダンジョンを浄化する手伝い賃で教えたんだ。それでいいにしてくれ」


「カール君の言うとおりだ。ニー、冒険者のルールを忘れたのか? 有益な方法を教えて貰えた、それでいいじゃないか」


「しかし、アルジ! こやつは誰も考えなかった秘法の応用を知っており、それすら無しの生身で中型の魔物と渡り合えるのじゃぞ」


 ニースさんは切断された魔物の腕を指差した。

 浄化の炎に包まれている。


「まあ、斬れたんだから仕方がないだろ」


 魔物の腕を切り落とすのは、俺の特殊能力を使ったが、使った瞬間は見られていない。

 

「お主はあまりに異質じゃ、人の身で出来ることを超えておる」


「ニース! 本当にそこまでだ」


「……すまぬ。取り乱した。 許してくれ」

「カール君、非礼を詫びる。済まなかった」


「いいさ」


 そうとも、異質だろうさ。

 俺は俺が守るべき者を守れるだけの力を身につける為、長い時間を費やし続けてきたのだ。

 たかだか10年20年の鍛錬でこの意志を超えれる筈もない。

 アルジとニース、確かに2人は強い。

 戦えば俺でも只では済まない。

 ただ、魔物と戦うというなら話は別だ。

 何より重要なのは生存本能すら生を諦めさせる魔物の放つ気に対峙できる強靭な意志だ。

 折角の技も能力も、魔物の気に打ち勝てる強い意志が無ければ呑まれて終わる。

 

 2人にはまだ単独かつ生身で対峙できるだけの強い意志を持てていないだろうから、エインヘリヤルの秘法の応用方法を教えた。

 浄化してもらう為でもあるが、精霊やら神の気を纏わねば普通は魔物への恐怖に打勝てない。


「できればその方法は秘密にしておいてくれ」


「ああ、そうしよう」


「お主を坊や扱いするのは失礼じゃったな。 我らの方が鍛錬不足だったようじゃ」


「年の功では勝てないさ」


「む、抜かしおる。 やっぱりお主はカール坊で十分じゃ。レディへの礼儀がなっておらん」


「アルジ殿に言ったんだが、そうか自ら認めたか」


「な!」


「うくく、ニースお前の負けだ。リポップされる前にダンジョンコアを浄化しよう」


 アルジさんの仲裁で兎も角ダンジョンコアを浄化することにした。

 無駄話に興じてリポップされたら確かに目も当てられない。


 ボスの間に更に奥へ続く通路があって、その先の空洞にダンジョンコアはあった。

 ダンジョンコアは、成人男性の身長くらいの直径を持つ水晶のような玉だ。 

 それが宙に浮いている。

 破壊すればダンジョンは死ぬのだが、恩恵を受けれなくなるのでそんな事をする冒険者はいない。


 ダンジョンコアはやはり黒く染まっていた。

 浄化の炎をかざせば、あっという間にコアは炎に包まれた。

 

 因みに【魔光苔】はダンジョンコアのあるこの空洞への通路にびっしり生えていたので浄化されるのを待っている間に必要な量をきっちり採取した。

 

 魔は生物にしか憑くことはないと考えられている。

 であればダンジョンも生物といえるのかも知れない。

 ダンジョンがレベルアップしたのも、ダンジョンが”魔物化”したて狂暴になったからかも知れない。

 浄化してダンジョンのレベルが元に戻るならそういう事だ。 

 そんな事を採取しながら考えた。


 尚、ダンジョンコアが浄化される間、笑いを堪えながらアルジさんがキーキー喚く怒り心頭のニースさんを宥めていた。


続く

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