6.いつもの夢
★★★★★
Side カーライル
模擬戦のあった日の夕方
「お、帰ってきたな」
「ああ、急に済まなかったな。助かった」
模擬戦を終えたので護衛の任務に戻るべく、メアルの部屋に無向かった。
そして代わりに護衛の任についていた同僚に詫びを入れた。
「いいさ。極秘任務だったんだろ」
「ああ、まあな」
「では任務の引き継ぎ頼む。姫様に何か知らないか聞かれたぞ。戻ったと伝えたらどうだ」
同僚の騎士は俺の返事を待つこと無く去っていく。
やれやれだ。
メアルが心配している……ね、顔をみせてやるか。
ドアをノックするとアンが出てきた。
そう言えばアンは休暇らしい休暇を取っていないな。
アンにもやって貰いたい事もある。
「あ、カールさん戻ってたんだ」
「アン殿、誰が聞いているかわからない。気をつけてくれ」
「そうですね。気をつけます」
王城内にも関わらず気安く話しかけて来たアンに注意をした。
オレは騎士で、騎士は準貴族に当たるからだ。
冒険者上がりの俺は騎士領暮らしなので貴族感は正直無い。
だが、支給されている騎士の制服は上等な物で、とても庶民に用意できるものではない。
騎士の制服で城下に出れば人々の見る目には畏れを含んでいるのだ。
アンはあくまで平民の侍女なので、もし誰かに聞かれて『メアルシアが他国に嫁ぐ際にアマリアの品位を下げるような侍女をつけるのはどうか』など上に思われたらアンの折角の努力が無駄になる。
気を緩めていい場所では無いのだ。
周囲に人の気配はないから実際誰かに聞かれてはいないが、そういった慣れによる怠慢が日常化するのは不味い。
「メアルシア様に挨拶するのですね」
「そうだが、その前にアン殿に頼みが2つある」
「え?」
驚くアン。
「なにも驚く様な事じゃない。 一つは今度の休暇の時にでも冒険者登録をしておいてくれ。くれぐれもメアルシア様には内密にな」
「ええ!? ……それはメアルシア様の為ですか?」
「ああ、そうだ。それで申し訳ないが一人で行って貰わなければならない。休みが合わないし2人同時に抜けるのはバレるからな」
「大丈夫です。護衛にちょうどいいのがいます」
アンが何か思いついたのか、悪戯っ子が浮かべるような笑みを見せた。
「そうか。それと一つ聞きたいのだが、メアルシア様の好きな食べ物なんて知らないか?」
俺の言葉を聞いた瞬間、アンがより一層悪戯っ子の笑みを強めた。
「知っておりますとも。 メアルシア様は甘いケーキがお好きで御座います。最近城下で流行っているケーキ屋のケーキをとてもとても食べたがっておりましたわ」
「そ、そうか。ケーキ……だな」
「明日にでも地図を書いてお渡ししましょう」
「ああ、頼む」
「では、メアルシア様に取り次ぎます。少々お待ち下さい」
アンが部屋の中に入っていった。
なんと言うか……ケーキを買うことで決まってしまった。
しかも『買ってきてほしい』と言う間もなく自分で買いに行くことになってしまった。
再び扉が開き、中に通された。
扉は開いたままだ。
王女の部屋に護衛とは言え、男が入っているのだから密室にできようはずもない。
なのでここでの関係性を崩さず主従としての会話だ。
「カーライル。無事戻ったのですね」
俺が部屋に入るなりメアルに話しかけられた。
メアルはソファーから立ち上がり出迎えてくれた。
「はい、無事戻れたのもメアルシア様に頂いたご加護のおかげです」
模擬戦で魔導球に走った魔力衝撃から守ってくれたのはメアルがかけてくれた”守り”で、それがなかったら無傷とはいかなかっった可能性が高かった。
そのお礼を恐縮させないよう食べ物でと思ったのだが、メアルは人気店のケーキが食べたいらしい。
「ふふ、お役に立てて良かったです」
「メアルシア様はずっとソワソワしておいででしたわ」
「アン!」
アンの言葉にメアルは慌てた様子を見せた。
”守り”までかけてくれたのだからこれ以上の心配など無用の事だ、もっと信用して欲しいものである。
「ご心配おかけしましたがこの通りです」
俺はくるりと一周その場で回ってみせて怪我など無いことを見せた。
「もう、アンもカーライルも誂って!」
メアルは頬を膨らませたが却って逆効果だと思う。
俺もアンも妹を見るような暖かな目になってしまう。
「メアルシア様申し訳ございません。ではこれより護衛の任に戻ります」
俺は騎士の一礼を優雅にすることで返した。
「これからも宜しくいお願いしますね」
そう言うメアルの声には身内に対する甘えた怒りが含まれていた。
☆☆☆☆☆
今日の仕事は終わり、騎士寮の自室のベッドに腰掛けた。
ベッドの他には机とクローゼットがあるくらいのだが、それぞれの質はいい。
広さも1人に与えられるにしては十分広い。
俺は城勤めになる前は、アマリア王国第38騎士団に所属し、アマリア属国サウステンド王国方面の防衛に当たっていた。
そこでの功績が認められ第21、第10を経て第4騎士団に転属してきたのだが、現在の第4騎士団に入るまではこの部屋の半分に満たない部屋を2人で共有する感じだった。
メアルの部屋の5分の1程度だが、この部屋も十分貴族の部屋といっていいのではないだろうか。
休憩中であっても緊急事態に対応できる様にしておくのが王宮勤めの騎士というもの。
だから汚れていなければ夜間に着替えなどしないし、着替えはどうせ早朝の訓練後にすることになるので、何度も着替える奴は本当のお貴族様くらいだ。
俺はブーツも脱がずにベッドに寝転がった。
実際は冒険者ギルドで買った札で《洗浄》の効果を得ることが出来るがあと2〜3枚しか残っていないので非常用に温存している。
確か 洗浄、清浄を司るのは【フィーリーズ】、浄化、再生、治療を司る女神【マーリー】の妹神だ。
メアルの為のケーキを買いに行くついで冒険者ギルドで補充しておくか。
それはそうとして、少し寝るとしよう。
今からなら鐘2回分くらい(約4時間)は休める。
ここは……どこだ……
ああ……そうか………………
いつもの………………夢………か…
そう…これは…夢だ。
今は過ぎ去った過去を見ているに過ぎない。
俺は最近よくこの夢を見る。
俺が再びアマリアの騎士になったからなのか、再びこの城にいるからなのか。
時代は人類にとって暗黒時代、後に【初めの聖女】と呼ばれる少女によって人類が魔物の脅威に立ち向かえる様になった頃。
そこでの俺は歴史に名を残すことも無い、只の一騎士に過ぎない存在だった。
そこそこは強いという自負もある。
しかし、俺は第一王女アリーシャの護衛騎士どころか、第二王女ナリータの護衛騎士にもなれなかった城の警備騎士に過ぎなかった。
王女姉妹が顕現させる神が遣わした偉大なるエインヘリヤルを操るパートナー騎士の選抜試験にも参加したが3回戦で負けてしまった。
その時の相手がアリーシャ王女のパートナー騎士になった男、
ジークハルトだった。
俺はアリーシャ王女のパートナー騎士になりたかった。
何故かは判らない。
それが俺の使命のように思えたからだった。
しかし俺はジークハルトに負けた。
試合で完膚無きまでに叩きのめされたのだ。
せめて護衛騎士の一人になりたかったが、それすらなることが出来ない程度だったのだ。
俺が城の警護をしている時、アリーシャ王女は14歳にしてジークハルトと共に最前線で魔物を狩った。
一方ナリータ王女はまだ実戦に耐えれるだけの長時間の顕現が出来ずにいたのだった。
アリーシャ王女は17歳の時、父王が病没したことにより王位に就いた。
この頃にはナリータ王女もパートナー騎士と共に戦地に立つようになった。
彼女らの他にもエインヘリヤルの秘法は他国にも公開され人類が魔物の脅威に立ち向かえる様になってきた。
アリーシャ陛下の即位と共に護衛騎士の追加選抜があった。
俺は鍛錬を重ね実力を上げていた為、なんとか合格することが出来たが配属されたのはナリータ王女の方だった。
アリーシャ陛下は各国をまとめ魔物の脅威に立ち向かうべく同盟を呼びかけ、同盟の盟主となった。
同盟発足の調印式にはナリータ王女も出席していたので、護衛騎士の一人として俺も間近で見ることが出来たのだった。
そして運命の日がやってきた。
その日はアリーシャ陛下、ナリータ王女姉妹の誕生日だった。
しかし、人類はまだ窮地を脱する手段を得たばかり。
誕生パーティーを行う訳でも無く、その日もアリーシャ陛下は人類復興の一環として魔道具の研究や執務に勤しんでいた。
アリーシャ陛下は先日完成した魔道具の制作方法をナリータ王女に説明する為、研究室に呼んだ。
その後の歴史を知った今になってみれば、その魔道具とは【魔導袋】だったのだと思う。
【魔導袋】は物流や保管を大幅に増大できる偉大な発明だ。
俺も護衛騎士の一人として研究室に付いて行ったが、中に入る事は許されなかった。
それはアリーシャ陛下の護衛騎士も同じで、研究室には姉妹2人だけだった。
ナリータ王女が出来てきた時、その時はアリーシャ陛下は確かに生きていた。
ナリータ王女を見送り、会話を交わしていたのだからそれは間違いない。
そして、それが生きたアリーシャ陛下を見た最後となった。
夕方、交代時間間際に急にナリータ王女がアリーシャ陛下の執務室に行くと言い出し、共にアリーシャ陛下の元に向った。
いつもは2人の護衛騎士が従うのだが、この時に限り俺1人だった。
もう一人はナリータ王女に用事を申し付けられ外していたのだ。
だから、ナリータ王女がアリーシャ陛下の執務室に行くと言い出した時、いつもなら止めたのだがその日は何故か俺も良しとしてしまった。
部屋に向かう途中、ナリータ王女が立ち止まり、急に思い出したかのように俺に用事を申し付けた。
俺が外せば護衛がいなくなってしまうのに、ナリータ王女に「もうすぐお姉さまの執務室なので問題ないわ。貴方が来るまで待っているから用が済んだら執務室まで来て頂戴」と言われて疑問を持たずに了承してしまったのだ。
何の用事だったのかはっきりしない。
誰かに言伝を伝える簡単な用事だったのだと思う。
……………また、この光景を見なければならないのか………
用事を済ましアリーシャ王女の執務室に向っていた。
今にして思えばこの時の俺はきっとナリータ王女の魔法で催眠かなにかの影響を受けていたのだろう。
俺はナリータ王女の言動を全く不審に思わなかったのだ。
アリーシャ陛下の執務室の前で部屋から出ていたナリータ王女に合流した。
「ご苦労さま。執務室で待っているつもりだったけど。用事も済んだしお姉様も忙しそうだったから」
そう言うナリータ王女にも全く疑問を持たなかった。
本来2名いるはずの扉を守る護衛騎士が1名しかいない。
その事も何故か不審に思わない。
自室に戻るべく歩くナリータ王女について行くと、途中アリーシャ陛下のパートナー騎士ジークハルトと陛下の護衛騎士にすれ違った。
アリーシャ陛下に呼ばれて執務室に向っているのだろう。
ここで先程、護衛騎士が1人しか居なかった事に合点がいった。
彼らとすれ違って少し歩いた所で急にまたナリータ様が立ち止まった。
「お姉様に伝え忘れた事がありました。直接でなければなりませんから戻ります」
有無を言わせない口調だった。
執務室の前には2人の護衛騎士が揃っていたが、2人は身が入っていないというか、心ここにあらずと言うような感じがした。
とは云え戻ってきたナリータ王女を不思議には思ったのだろう、王女が話す前に話しかけてきた。
「ナリータ様どうされました?」
「お姉様に伝え忘れた事があったのです」
「ご承知の通り、今はジークハルト殿が入室したばかりです」
「ええ、先程すれ違いました。ですがジークハルトも居た方が都合が良いのです。兎も角取次を」
「畏まりました」
護衛騎士の一人が扉をノックした。
通常なら直ぐに取次の為、陛下の侍女が出てくるはず。
しかし少し待っても侍女は出てこなかった。
「お姉様!? 扉を開けなさい、早く!」
いち早く反応したのはナリータ王女。
陛下の護衛騎士がその声に反応し扉を開けた。
開けられた扉の向こうには仰向けに倒れたアリーシャ陛下を抱き起こしているジークハルトがいた。
陛下の胸に短剣が刺さっている。
短剣は心臓の位置に刺さり、目には光が無い。
手には力がなく、だらりと下がっている。
はっきりと判ってしまった。
アリーシャ陛下はもう……
ジークハルトの傍らに血塗れの剣が転がっている。
侍女もまた倒れていた。
侍女の手には短剣が握られており、血溜まりが出来ている。
恐らく彼女も生きてはいない。
ジークハルトに斬られたのだろう。
陛下の侍女は室内での護衛を兼ねた手練だった。
ジークハルトといえど手加減出来なかったに違いない。
「きゃー! お姉様!」
ナリータ王女が悲鳴を上げた。
悲鳴を聞きつけた他の騎士達もすぐに駆けつけてきた。
「ジークハルトがお姉様と侍女を!」
ジークハルトを指差し、ナリータ王女が叫ぶ。
それまで呆然と状況を見つめていたが、その声で俺に怒りのスイッチが入った。
「違う! 私ではない! 私が入った時には既に……そしたら侍女がいきなり襲いかかってきたのだ」
そんな声が聞こえたが、この時の俺にはどうでも良かった。
俺は抜刀した。
俺より先に他の騎士達数名が部屋なだれ込み、ジークハルトをとり抑えようとする。
俺はゆっくりとジークハルトに近づいた。
ジークハルトが剣を拾った。
「犯人は私ではない!私の前に部屋に入った者と侍女が共謀したに違いない!」
「あんなに陛下と仲が良いナリータ様が犯人だとほざくのか。観念しろ、痴れ者め!」
「お姉さまへの思いが叶わないからなのね。だからこんな事を……それに侍女も巻き込むなんて」
ナリータ王女の言葉が更に俺の怒りを増長させた。
とり抑えようとした騎士の一人をジークハルトが切った。
「現行犯だ! 無理なら殺しても構わん」
騎士の誰かが言った。
それなりに役職にある者かも知れない。
騎士達が一斉に抜刀。
「その目! そうか、そうだったか……許さん…許さんぞ……ナリータ・ユニシス・アマリア!」
ナリータ王女を見たジークハルトはそれまでの困惑した表情から怒りと憎しみに染まった表情に変わっていった。
「大罪人から殿下を守れ!」
騎士達がジークハルトに襲いかかる。
しかしジークハルトはパートナー騎士に選ばれる程の者、
襲いかかる騎士達を次々に切伏せた。
最後に残ったのは俺一人。
俺は静かにジークハルトに向って歩く。
俺は許せない。
何故かは判らない。
アリーシャ王女を初めて見た時、守りたいと思った。
守らなけれれば、今度こそは守らなければ、と。
俺が守りたかった。
だがそれは叶わなかった。
俺は俺が不甲斐ない故に守れなかった自身に怒っている。
この状況の真相などどうでもいい。
俺はこの生で唯一の大事な約束を守る。
それだけだ。
『大事な妹です。必ず守って下さい』
『は、一命に替えましても』
俺がナリータ王女の護衛騎士に任命されて、陛下となったアリーシャに初めて言葉をかけられ、そして俺は誓った。
今、ジークハルトが彼女が守ってほしいと願ったナリータ王女に凶刃を向けようとしている。
俺は約束通りに一命に替えて守るだけだ。
ジークハルトの剣が俺の胸を突いてきた。
血に濡れ過ぎた剣では切れ味が落ちるからだ。
躱さないので剣は俺の胸に刺さった。
心臓に達している。
熱い塊を体の内部に直接打ち付けられたような痛みと衝撃。
しかし、俺はまだ止まれない。
約束を守るまで死ねない。
俺はそのまま踏み込む。
ジークハルトの剣が俺の背中に突き抜け、剣の鍔が胸に当たった。
これで俺の間合いに入った。
左手でヤツの剣を握る右手を掴む。
もう逃さない。
剣をジークハルトの首筋に当てる。
「き、貴様!」
言葉を無視してそのまま剣を引く。
ブシュ! ブシュ! ブシュ!
とたんジークハルトの首から心臓の鼓動に合わせて盛大に血が吹き出した。
その光景がだんだんぼやけて来た。
力も入らなくなり、倒れた。
焦点が定まらないが恐らく見えているのはアリーシャ陛下だ。
「許さ……い………決して………アマ……ア…を」
もう何も見えなくなったがジークハルトの呪詛の様な言葉がかすかに聞こえてきた。
刹那、何かを思い出した気がした。
もう何も考えられられい俺はそのまま闇に溶けていった。
・
・
・
・
目が覚めた。
周囲の気配を探ったが別段異常もなさそうだ。
体を起こす。
窓から見える空はまだ星空で夜明けまでまだ時間がありそうだ。
また、あの夢を見た。
それは俺の記憶する最初の人生の記憶。
そして何故か前世の記憶を持って俺は生まれ変わった。
最初の人生の死ぬ間際に俺は覚醒したのだと思う。
理由は判らない。
しかし生まれ変わった俺は何故か自然と自分の持っている能力を知っていた。
守りたいものを守れなかった俺は強くなりたかった。
俺は何度も生まれ変わり、それぞれの人生で強さを求めて己を鍛えた。
そしてこの人生でメアルに出会った。
会った瞬間、守ってやりたいと思った。
その瞬間は理由は判らなかった。
メアルがアリーシャと重なって見えたからかもしれないが、もっと別の更に大切な何かの様な気もした。
そしてメアルはアリーシャの生まれ変わりだった。
彼女からは幼いながらも何か力を感じていたが彼女から話を聞いて驚きつつも合点がいった。
思えば、アリーシャ王女からも感じた力だ。
今の彼女に俺がつきまとう必要は正直無い。
村娘として生きる彼女の人生に戦いしか能の無い俺は必要ないとも思った。
しかし、メアルは自身の呪いに抗う何かを欲していた。
だから俺は生き残る一助になればいいと、彼女に今まで積みあげてきた研鑽の成果を彼女に教えることにした。
エインヘリヤルの応用は聖騎士だった人生の時に発見した事だがそれも教えた。
それはエインヘリヤルの顕現を応用し、鎧として身にまとうという方法。
聖女自身に鎧をまとうことも出来るが、契約を結ぶ聖騎士にも纏わせる事が出来る。
俺は転生したどの人生でも、もう聖騎士になるつもりも無かった。
もう無くしてしまった思いだ。
しかし、ある人生で思いに反して聖騎士になった。
そこで偶然発見した方法だったが、それがメアルを魔物から守ったのだからこれも運命か。
もし運命というものが本当にあるなら、運命はメアルを再び歴史の表舞台に出そうとしているのかも知れない。
メアルがアマリアの王族に目をつけられたと知り、再びあの王宮で騎士になる事を目指した。
そして、度重なる転生を経て今、かつてなれなかった”守りたい人”の護衛騎士になった。
メアルにその事を告げるつもりはない。
そのために力をつけてきた。
今度は…今度こそは力がありながらも翻弄される彼女を守ってみせる。
★★★★★
Side サーラン
いつもの夢
これは………いつもの………………夢…………
私は今日もあの夢を見ている。
以前は怖かった。
でも、私はメアルシアお姉様に心を救われた。
メアルシアお姉様に抱きしめられたあの日から私はこの夢が怖くなくなった。
今は、前世の自分の悪行を見つめなおし、戒めとして今生に活かせればと思っている。
そもそも何故、私はアリーシャお姉様を害したのだろう。
わかっている、それは嫉妬だ。
あの時代、人類は本当に滅びの一歩手前にいたのだ。
その滅びから人類を救う手段、”エインヘリヤルの秘法”をお姉様は生み出した。
それは一種の”神降ろし”だった。
自らを依り代に祈りと契約で生み出された”巨人”の力は凄まじくかった。
私もお姉様からその秘法を学んだけど、契約して顕現出来るようになるまでにはかなりの時間がかかった。
お姉様は双子の姉で本来なら私も同等に力を持っていていいはず、なのにお姉様はいつも私の遥か上にいた。
尊敬し憧れた。
でも同時に比較され嫉妬が芽生えた。
だから、きっと私に”魔”がついたのだ。
私は嫉妬につけこまれて取り憑かれ、魔物を駆逐しようするお姉様を排除したのだと思う。
事が成ると、私は正気に戻った。
そしてお姉様を失った悲しみと痛み、自身の行いへの後悔と罪の意識で苦しむ人生を送った。
お姉様を殺したあの日は私達の18歳の誕生日だった。
そして、その日を敢えて選んだ気がする。
私はお姉様の執務室に向かう途中、護衛騎士に用事を押し付け1人になった。
その際、護衛騎士には強い催眠を施し、疑問に思わないようにもした。
この催眠の力は、私の力ではなかった。
私にそんな力はない。
”魔”に取り憑かれて使えるようになった”魔”の力だった。
一人になった私は一人でお姉様の執務室に向かった。
催眠の力があるのだから一緒に連れて行ってもどうにでもなるけど、護衛騎士達は精神鍛錬もしているためか催眠が解け易い。
どうせ執務室には一緒に入れはしないのだけど、万全を期すために1人になりたかった。
執務室の扉が開いた時に出迎えたお姉様の侍女には、事前に長期間をかけて催眠を何度も何度もかけてきたので私の言うことは素直に信じる様にしてあった。
執務室に入り、お姉様の侍女にこの部屋に置いてない銘柄の茶を要望して侍女を部屋から出した。
この時同時に、外にいる護衛騎士にお姉様のパートナー騎士であるジークハルト・レインドリーをこの部屋に連れてくる様にと侍女に言伝した。
これはジークハルトにお姉様殺しの罪を全て背負って貰う為。
彼はお姉様に惚れていた。
放っておくと真実を突き止めて反逆しそうだった。
この時間ジークハルトはいつも騎士棟の執務室にいるので、呼んでくるにしても時間がかかる。
因みに私の護衛騎士に申し付けた用事も、間違って宰相が来ることがないように、私が相談事あるので暫く邪魔するなというような内容を伝えさせるものだった。
他にお姉様の部屋に来る者がいると計画が台無しになるし、タイミングは全て計算づく。
そして私はお姉様を殺害した。
簡単だった。
お姉様の最後に私はお姉様への嫉妬による憎しみを語った。
それに対しお姉様の最後の言葉は『……ナリー……ごめんね……』だった。
事が成り、あとは後始末するだけ。
まずはお姉様の亡骸を床に仰向けに横たえた。
侍女が戻ってきた時、「お姉様は疲れて寝ているだけ。だからそのままにしてあげて。もしお姉様に近づく者がいたらお姉様の休息の邪魔をしないようその者を殺しなさい」と指示を出して執務室を出た。
1人残った方の護衛騎士に陛下の命だからジークハルト以外には入れないように言っておく。
部屋の前で少し待つと私の護衛騎士が戻ってきた。
後はジークハルトがこの部屋に入れば計画通りとなる。
自室に戻るふりをする途中、ジークハルトとすれ違ったのでジークハルトが陛下を抱きお起こしただろうタイミングを見計らって、再度お姉様の元に戻った。
執務室の扉が開いた時、そこには思い通りの光景が広がっていた。
そして私はジークハルトに罪を押し付けた。
多くの者を道連れにして、恨みの言葉を吐きながらジークハルトは死んだ。
これが私が前世で犯した罪だ。
ふと思う、私は転生しメアルシアお姉様に救われた。
ではジークハルトは?
私もお姉様も転生したなら彼も転生しただろうか?
もし転生したのなら私が犯した罪を怖れた様に、最愛の人を殺した私に復讐を誓うだろうか。
彼がお姉様に会ったら彼も救われるだろうか。
いえ、彼に対しては私が決着をつけなければならない。
そう思えるようになったものメアルシアお姉様のおかげ。
私は、今生こそはお姉様の為に最善を尽くさなけれればならない。
★★★★★
Side ???
とある国のとある場所、その男の寝室にて
またか。
またこの夢か。
私はいつもの夢に起こされた。
そしていつものように喉の奥から血を吐き出すような不快感に襲われた。
「これだけは慣れぬな」
ほぼ毎晩の事なのに慣れぬ不快感に苛立ちを感じる。
私の独り言に反応する者などいない。
私の寝室には自分以外はいないからだ。
私のパートナーは後にも先にも只一人。
だから長く生きてきてずっと一人で寝ている。
私にはやらなければならない事がある。
だからその方が都合が良かった。
喉の不快感を消すために起き上がって、テーブルに置かれた水差しよりコップに水を注ぐ。
コップの水を一気に飲み干した。
不快感は完全に無くなった訳では無いが少しは落ち着いた。
窓を見ればまだ外も暗く、月の光が窓辺簿床を照らしていて日の出までには十分すぎる時間がある。
しかし二度寝などする気にはならない、どうせ寝られない。
これもいつもの事だ。
そしていつもの通りにじわじわと怒りと憎しみが湧き上がってくる。
それらはじわじわと、しかしながら確実に増していく。
その怒りが夢で見た光景を思い出させ、その光景が更に怒りと憎しみを増加させる。
幾度と無く見た夢。
いや、夢ではなく、あれは現実にあったあの日の光景。
見る度に心の底より吹き出る黒い炎に精神を焼かれる。
あの目、あの表情。
あの女があのお方を殺したのは間違いない。
許せない。
自分の最も大切な人から全てを奪い、あの一族はのうのうと繁栄を謳歌している。
許さない。
あの日の事を隠蔽し、歪めた。
許せるはずもない。
断じて許さない。
私から、そしてあのお方から全てを奪ったあの国を滅ぼさなければならない。
あの許されざる大罪の恩恵を受けた城も街も国民も……あの国にまつわる全てを許さない。
跡形もなく、一人残さず地上から消し去ってくれる。
その為の努力と苦労を長年かけて積み上げてきた。
長い長い時間だ。
しかし疲弊することはない。
毎晩見るあの夢が力をくれるから、復讐する為の活力をくれるからだ。
ようやく……ようやくここまで来た。
もう少し、もう少しで届く。
あの方の遺産の恩恵を受けて強大になったあの国を滅ぼすのは簡単ではない。
皮肉な事にあの方の偉大な研究がもたらす富があの国を守ってきた。
だが、それも過去の事になる。
あの憎々しい【アマリア王国】を滅ぼし、歴史の中だけの記述にもう少しで変えることが出来るのだ。
「く、くく……」
瓦礫と化した王都に憎い”あの女”の子孫である王族の首を晒した光景を思い浮かべれば、つい笑いが込み上げるというもの。
<お前たちには内部腐敗などという自滅は許さない。私が外部から粉微塵に粉砕し、地獄に突き落とすのだ>
もうすぐだ。
見通しでは今生の内に実現できるはずだ。
「偉大なる【初めの聖女】アリーシャ陛下……私めの復讐を神界よりご照覧下され」
続く




