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騎士と聖女の物語  作者: 丁太郎
黒髪の男編
15/36

5.模擬戦

★★★★★

Side カーライル

模擬戦当日の朝


「カーライル様、メアルシア様がお出かけになります」

 

 メアルの部屋の扉の前で警護中、部屋から出てきたアンにそう告げられた。

 確か、今日の予定は午前は部屋で読書だった筈だ。

 もう少ししたら、俺は新型巨兵の模擬戦に向かわなければならない。

 そろそろ交代が来る頃なのだが。

 そんな事を思っている内にメアルが出てきた。


「カーライル、予定とは違いますが少し散歩します」


「は、了解致しました。しかしもうすぐ交代の者が参ります。もう暫くお待ち頂くか、アン殿に言伝をお願いしてもいいでしょうか?」


「……では、直ぐ戻るつもりですが一応アンに残ってもらいます」


 ということは俺に用があるで間違いない様だ。


 メアルが向かったのは庭の花壇だった。

 俺は冒険者に関係のない植物には詳しく無いなので何の花なのかは判らないが、綺麗で色々な花がバランスを考えられて植えられており、綺麗だった。


「見事ですね」


「はい……本当に……」


 メアルは花を鑑賞しているが、正直俺はそこまで眺めていられない。

 飽きたのと護衛として油断無く周囲に気を張り巡らせる必要があるからだ。


「……カーライル。私に隠し事がありますね」


 暫く花を眺めていたメアルは振り向く事無く、静かに問いかけてきた。

 

 さて、どの事を指しているのか。

 心当たりが複数あって返事に困る。

 素直に考えれば、最近護衛を抜ける頻度が多い事を指していると考えるべきだろう。

 その場合は話せる事は多くない。

 ふむ、どう答えるかな。


「最近、外すことが多いからですか?」


「はい、私に何も報告がありません」


 メアルの口調は拗ねて咎める子供のようだった。

 やれやれ、あまり時間がないのだがなぁ。


「報告……しないのでは無く出来ないのです」


 俺の答えにメアルは振り返った。

 怒りと不安が混じったような表情だ。


「できない……とは?」


「先日の訓練時、ミリンダ王女と試合をしましたよね」


「はい、その件と関係あるのですね」


「実はその話が陛下の耳に入ってしまいまして」


「え!? それでまさか……引き抜きとか……」


「いえ、それはありませんが、ある任務を命じられました」


「そうですか……私に知る権利は……無いようですね」


「残念ながら……しかしそれも今日で一段落つく予定です」


「明日からはいつもどおりに戻るのですね。無事に戻ってきますよね?」


 メアルの声のトーンが弱々しくなった。

 その表情も怒りは消えている。

 その表情からは、俺がメアルの元から引き離されるかも知れない不安に、俺が裏で危険なことをしているのではないかとの心配が見て取れる。

 俺が任じられそうな任務は”戦い”しか無い。

 メアルは聡いから俺に任務が与えられたと聞けば、ある程度は察してしまう。

 メアルを心配させてしまうのは本意ではないが、心配してくれるのは嬉しく思う。

 取り敢えず、今はメアルを安心させるとしよう。


「私はメアルシア様の言うところの”鬼”ですから、そこは信じて頂きたいものです」


 俺の返事にメアルシアは一度目を見開いて、そしてニコリと笑った。


「ふふふ。そうですね。鬼のカーライルですものね」


「そういう事です。必ず御前に戻ります」


 俺はメアルの前に跪き、力強く答えた。

 俺が答えを受けてメアルの表情からは不安が消える。


「はい……信じます。わたくしの護衛はカーライルしかありえませんから」


「ありがたきお言葉です」

 

 俺が立ち上がった時、丁度交代の護衛がこちらに走ってのが見えた。

 メアルも気付いた様だ。


「武運を祈ります」


 メアルがそう言った時、メアルが一瞬光った気がした。

 いや、気がしたではない。

 確かに一瞬だが弱い光だが光った。

 メアルに変わったところは無い。

 メアルに異常が無いなら今は先を急ごう。


「有難うございます。では行って参ります」


 俺は走ってきた騎士と護衛を交代し、足早に巨兵訓練所に向かった。


 

☆☆☆☆☆

 


 巨兵訓練所は王城の敷地内の北側に在る。

 ここは軍用施設が多いエリアだ。

 従って、極めてセキュリティの厳しいエリアでもある。

 俺も巨兵訓練所にたどり着くまでに幾つかの検問所を通過してきている。

 巨兵訓練所は研究所と格納庫と繋がっており、高い壁に囲まれた大きな施設だ。

 巨兵数機が同時に戦闘訓練を行えるだけの十分な広さもある。

 当然、外からは訓練所の中の様子は分からない。

 俺はこの巨兵訓練所に新型巨兵の件でここ数日何度も来る羽目になってしまった。

 今日が最後であってほしいものだ。 

 俺は、格納庫に入っていった。




 巨兵開発者達に連れられながら、簡単に最終打ち合わせを済ます。

 そして新型巨兵【パラディン】プロトタイプの前に立った。


 アマリアが開発している次期主力巨兵の試作機だ。

 人間をそのまま巨大化したような体型で、まるでフルアーマーを着た巨人のようだ。

 巨兵といえば人形でありながら何処か人間離れした体型なので、この【パラディン】は巨兵というよりも神の勇士兵(エインヘルヤル)の様に見える。

 巨兵としては軽量型に分類され、機動力を重視しているように見えるが、現行主力機の【ディフェンダー】よりパワー出力値が高い。

 技術的な部分は機密事項になるし、当然俺に判るはずもないが、パワーと機動性を合わせ待つなら汎用性が極めて高い機体と言える。

 そしてアマリアの誇る人工ミスリルを装甲に惜しげもなく使っているらしい。

 試作機なので外装鎧の造形は今回の模擬戦次第で変わるかも知れないと言われたが、後のことなんて正直俺にはどうでもいい。

 塗装はダークグレー一色だが、これはアマリアでは試作を現す色らしい。

 開発者達は教えてくれなくてもいいことまで教えてくれる。

 いつも話が脱線しがちで面倒な連中だった。



 【パラディン】の準備は出来ている

 あとは俺が同化するだけなのだが、陛下の到着が遅れていてもう少し時間がかかるとの伝令があった。

 時間を持て余した俺は少し、【パラディン】の動きについて考えていた。

 地方勤務時代に乗っていた【ディフェンダー】より関節の可動域も広く、体型も自然だ。

 しかし、それでも人間と同じ動きが出来る程の可動域は無く、何より俺が生身で動く速さでは動けない。

 つまり巨兵の攻撃には速さではなく重さが重要なのだが軽量級の【パラディン】にはそれを補うギミックが施されている。

 新開発の大容量の魔導球と機密事項の装置を採用されているからなせる技らしい。


 【パラディン】の装備は片手槍とカイトシールドがメインウェポンで、腰に佩いている片手長剣がサブウェポン、更に予備に盾の裏側に短剣が装着されているのだが、いかんせん俺に合った武器とは言えない。

 戦い方はいつもの通りとはいかないだろう。


 考え事をしていると、こちらに向かっている足音が聞こえてくる。

 音から察するに男女のペアだ。

 振り向けば、やはりというか近衛騎士の戦闘服を着た男と聖女の戦闘服を着た少女だった。

 今日の模擬戦の相手だろう。


 【アマリア王国】の近衛は3軍に分かれている。

 陛下の護衛を主な任務とする第一軍【白輝の聖盾】騎士団、第一王ミリンダが引き継ぎ再編した第二軍【輝く薔薇】騎士団、そして王宮の警備を担う第3軍【聖輝】騎士団の3つだ。

 聖騎士と聖女で構成されるのは、第一軍、第二軍のみで第三軍は聖騎士予備軍というところか。

 ちなみに俺の所属は王国第4騎士団で近衛第3軍の下で王宮警備するのが主な任務だ。

 メアルの護衛騎士に任じられた時に所属させられたのだが、護衛の交代要員と隊長、副隊長くらいしか顔を覚えていない。

 結構人数はいる筈だけどな。


「貴様が新型オモチャの操縦者か」


 近衛騎士の方が階級が上なので仕方がないが見るからに今年成人(16才で成人)しました、というような少年の顔立ちを残した者に上から目線で言われるとゲンナリする。


「はい、今日はよろしくお願いします」


「はん、僕もついてない。初の大騎士での任務がこんなオモチャ相手とはね。エリィーサの力を発揮するまでもないだろうな」


 ふむ、わざわざ挑発しにきたのか?

 どうやらコイツが噂の大型新人だな。

 今年の新人の中にいきなり近衛1軍に入団した男がいるとは聞いていた。

 お貴族様で親の威光とも噂されるが、真偽は正直興味ない。

 だが、見た所天狗になるだけの技量は持っていそうだ。

 そしてエリィーサとは隣にいる聖女の事だろう。

 こちらも今年、学院卒業の大型新人らしい。

 近衛に配属されたということは、【セレイブ】眷属の神の勇士兵(エインヘルヤル)を顕現できるのだろう。

 アマリアの近衛の聖女は【セレイブ】眷属でなければならない決まりがある。


「それで、何か御用でしょうか?」


 面倒だがわざわざ虚勢をはりにきたのだろうから付き合ってやるとしよう。


「貴様に用など無い。新型というオモチャを見に来ただけだ。 どうにも武骨で優雅さに欠けるじゃないか。 僕の相手にはふさわしくないな。 そもそもこんな貧弱では本当に戦えるのか?」


 戦えなかったら、模擬戦を行うわけがない。

 わざわざ大声で放った男の言葉で場の空地が変わった。

 周囲にいる開発者達が怒るのは無理もない。

 彼らは新型巨兵の開発に知恵を絞り、工夫と努力を重ねてきたのだ。

 一言も発していない聖女エリィーサは先程から居心地悪そうにしている。

 彼女はまともな神経をしているのだろう。パートナーがこんなで可哀想に。


「ま、対戦すればわかるでしょう」


 適当にあしらったのが判ったのか、男のこめかみに青筋が浮かぶ。

 やれやれ、こんな怒りっぽいヤツが本当に強いのか?

 折角の大型新人の聖女様が宝の持ち腐れにならなければいいが。


「トェンポールス様、そろそろ戻りましょう?」


 場を収めるためか不安そうに聖女エリィーサが トェンポールスという名前らしい不快な近衛騎士に話しかけた。


「ふん、そうだな。 こんな薄暗くて汚い場所に連れてきて悪かったな。戻るとしようか」


「はい」


 聖女エリィーサの提案が通り、ここから去ってくれる模様。

 聖女さまさまだ。

 

「そう言えば陛下より思い切り破壊していいと賜った。せいぜい残り僅かの人生を楽しめよ。 じゃあな、くははは」


 トェンポールスは笑いながら、聖女様は恐縮しながら去っていった。

 2人が去った後、開発者達は大層悔しがり、俺を激励した。


「【パラディン】の力、見せつけてやって下さい!」「勝てない時はなんとか一矢報いて欲しい」等など。


 先程の様子なら、魔導球の破壊を狙ってきそうだ。

 即ち、俺を殺す気だ。

 お貴族様なら一平民上がりの騎士を殺したとして咎められないのだろう。

 しかも今回はあくまで模擬戦で、模擬戦中の不幸な事故で片付けるつもりに違いないのだ。

 ま、負けるつもりはない、メアルとの約束があるからな。

 

 

☆☆☆☆☆



 新型巨兵【パラディン】試作機に同化させてもらい格納庫から巨兵訓練場に出てきた。

 巨兵への同化は同化の為のキーと魔道士の呪文が必要になる。

 呪文が必要なのは同化の時だけで、解除の時は必要ない。

 それは動力用魔力切れによる強制解除の場合も同じだ。

 

 何度同化しても慣れないものだ。

 そんな事を思いながら周囲を見渡した。

 巨兵訓練場は周囲を高さ150メタ(15m)の分厚い壁で囲われているが、壁の上は階段状の観覧席になっていて、訓練場の様子が判るようにしてある。

 そこに貴賓席が設けられており、陛下が座っているのが判った。

 陛下の周囲にはその他おエラいさんがいる。

 貴賓席から少し離れた場所に 机と椅子が設置されていて巨兵開発者チームが何名かがいる。

 開発責任者のお偉いさんもいるようだ。

 あの一団が今回の司令部で、模擬戦の指示が旗やら銅鑼やらで出される事になっていた。

 現在の指示は、『指定位置に向かえ』だ。


 訓練場内を見渡すと近衛騎士団長もいた。

 近衛騎士団長は近衛第一軍の騎士団長兼、全騎士団の最高責任者でもある。

 隣に一人フードを目深に被った小柄な人物がいるが、近衛騎士団長のパートナーの聖女だろう。 

 予め近衛騎士団長が審判を務めると聞いていたので不思議はない。


 巨兵訓練場の中央に進みながら、同化の感覚を確かめる。

 巨兵の手は俺の手、巨兵の足は俺の足。

 まるで急に巨人の体を手に入れた様な感覚だ。

 騎士になって以来何度も乗っているのだが、毎度不思議に思う。

 巨兵に組み込まれている魔導球は直径7〜8メタ(70〜80cm)しかない。

 その魔導級に俺の肉体は吸い込まれているというのだ。



 所定の位置に着いてしまったので立ち止まる。

 暫く待つと、前方より馬車が走ってくる。

 奴は貴族らしいから、ここまで歩かずに馬車来たらしい。 

 俺の位置から前方500メタ(50m)位の場所で馬車は止まり、先程の2人が降りてきた。

 聖女エリィーサの手を取って馬車から降りるエスコートをしている仕草は手慣れた様子で腐っても貴族なのだなと関心した。


 2人を降ろした後、馬車は去っていった。

 馬車が訓練場から出たのを確認したのか、騎士団長がいた位置で光の柱が立った。

 位置は俺とトェンポールスの中間位。

 本来は近衛騎士団長の神の勇士兵(エインヘルヤル)も国家機密になるはずだが、近衛でもない俺に見せていいのだろうか。

 

 近衛騎士団長の神の勇士兵(エインヘルヤル)は実に騎士らしい姿だった。

 白い全身甲冑も実に【セレイブ】の眷属らしい。

 騎士盾にはセレイブの紋章が浮き出ていて腰に長剣を佩いている。

 青いマントをしているが、外見情報で神の勇士兵(エインヘルヤル)の素性に思い当たるものはない。

 と言っても、もそもそも神の勇士兵(エインヘルヤル)に詳しく無いのだが。


 騎士団長の神の勇士兵(エインヘルヤル)を観察していると、前方でも光の柱が立った。

 光が消えた時姿を現した神の勇士兵(エインヘルヤル)もまた、【セレイブ】眷属であることが判る。形状こそ異なるが、白い甲冑、騎士盾、そして長剣、近衛騎士団長と同じく ”騎士”タイプの神の勇士兵(エインヘルヤル)だった。

 マントはしていないが、ヘルムの後頭部から出た伸び晒しの長い赤髪が風に靡いている。

 やはり思い当たる神の勇士兵(エインヘルヤル)は無いが、近衛騎士団長よりも放出している聖気が強い気がする。

 魔導球と同化している状態でも判る。波動とでもいうのだろうか。

 


 目の前のトェンポールスである神の勇士兵(エインヘルヤル)が剣を抜く。

 

 それを見た近衛騎士団長が手を上げた。

 手を振り下げた時、模擬戦が開始される。

 近衛騎士団長が神の勇士兵(エインヘルヤル)になっているのは万が一の時、間に割って入るつもりだからなのだろう。


 騎士トェンポールスは剣を構えた。

 盾を全面に出し、初撃で突きを繰り出す構え。

 アマリア騎士団の基本の構えだ。


 それに対し、俺はメインウェポンの片手槍を逆手に持ち、機体横の地面に突き刺し、棒立ちのまま。盾も構えない。

 俺の構えを不審に思ったのか、近衛騎士団長は中々上げた手を振り落とさない。

 仕方がないので槍を一回抜いてもう一度地面に刺した。

 これで、いいから早く始めろという意志は示せただろう。

 果たして近衛騎士団長は諦めたのか手を振り落とした。



 <さてと、俺も真剣にやるか>


 まずは様子見なのか、流石にいきなり飛び出しては来なかった。

 近衛騎士団長は邪魔にならないように後ずさりしながら我々と距離を取った。

 我々の互いの距離は500メタ(50m)のまま。


 俺が動かないので焦れたのか、トェンポールス側に変化が起きた。

 トェンポールスの神の勇士兵(エインヘルヤル)の剣が輝く。

 聖女エリィーサが剣に何か力を与えた様だ。

 何かを狙っているな。

 次に防御の強化をかけたのか、鎧が一度淡く光った。

 聖女エリィーサは黙々とバフ(強化)をかけていく。

 

 やがて全ての強化が終わったのだろう。

 トェンポールスが攻勢に出るようだ。

 ほん少し、構えた剣を後ろに引いた。


 <突きか>


 これはこちらを試している?

 態々少し剣を引いたのを見せた様にも思える。

 しかし、この距離でどうしようというのか。


 トェンポールスはその場から動かず、その場で剣を突き出した。

 腰と手の動きだけで繰り出された突きだが、剣の切っ先がこちらに飛んできた。

 聖女が剣に付与した力は魔力を刃に変えて飛ばすというものの様だ。

 魔力の刃は真っ直ぐ巨兵の胸をめがけて飛んでくる。

 そこは魔導球が格納された位置だ。

 俺は人工ミスリルの盾で飛んできた魔力刃の腹を叩く。

 ミスリルは魔力を弾くと聞いていたが、巨兵の開発者達の話によると、少し違うらしい。

 ミスリルは魔力弾くのでは無く、魔力を通す方向が決まっているらしい。

 人工ミスリルは天然と比べるとその性質は半分程度だが、基本同じ性質になるよう作られている。

 強度も天然に劣り、更に言えば天然より重い。

 (それでも鉄よりは断然軽いのだが)

 そのミスリルの性質を利用し、人工ミスリル装甲は裏側からは魔力を通し、外側からは弾く様にしてあるそうだ。


 バチーン!


 盾も当然同様なので、魔力刃が人工ミスリルの盾に弾かれて四散する。

 ただし天然ミスリルと違い、魔力全てを弾けるわけではない。

 弾けなかった分は魔力の衝撃となって盾にダメージを与える。

 ただ、これは牽制の一手なのだろう。

 威力も弱く、さしたるダメージは無い。

 油断は禁物だが、この程度の威力なら正直直撃しても大丈夫かもしれない。

 

 俺が魔力刃を弾いたのを見て、

 トェンポールスは次々に魔力の刃を飛ばしてきた。

 

 俺は地面に突き刺した片手槍から手を離し、盾で弾けるものは弾き、躱せるものは躱した。

 距離があるのと、直線的にか飛んでこないので躱しやすい。

 直線敵に飛ばしてくるのが意図的なのか、それしか出来ないのかは分からない。

 後退しながら躱すので、地面に突き刺した片手槍から100メタ(10m)くらい離れてしまった。

 トェンポールスとの距離は約600メタ(60m)か。

 こちらはサブウェポンの長剣を腰の鞘に収めたままで、右手は素手だ。

 

 遠距離攻撃を仕掛けてきたトェンポールスも魔力の無駄遣いに飽きたのか、魔力刃を飛ばすのを止めた。

 そして盾を突き出した構えのまま先程より深く剣を引いた。

  

 威力の強い魔法刃を飛ばしてくるつもりだろうか。


 それは一瞬だった。飛び出したのは魔力刃ではなく、大騎士本体だ。

 魔力刃より速く、跳躍で飛び出してきた。

 地を一蹴りだけ。

 それでこの速度で、正に一直線に飛んで来る。

 盾は前面出しのまま。

 突き構え取った剣の切っ先の狙う先は、間違いなく俺の宿る魔導球だ。

 トェンポールスは最初からこの一撃で屠るつもりだったのだろう。

 魔力刃を飛ばしていたのは、これだけの速度の跳躍をする為に蹴り足を強化する魔力を貯めるための牽制に違いない。

 これは聖女の力量を褒めるべきだ。


 剣を突き出してくるのはギリギリのところの筈。

 さて上手く動いてくれるか。

 なにせ巨兵の体は俺の生身の体の様には速く動いてはくれない。 

 

 距離が40メタ(4m)まで詰まり、トェンポールスが溜めに溜めた剣を突き出した。

 剣の切っ先が更に加速して迫る。


 俺もまたこの瞬間を待っていた。

 半歩下がりながら体を全体を斜めにする。

 トェンポールスの必殺の突きは真っ直ぐに胸を貫こうとしたが為のに体を斜めにされ逸らされる。

 切っ先は少し胸の装甲を掠り、吸収出来なかった魔力が魔導球に衝撃を与えた。

 魔力を帯びていた剣の魔力をを人工ミスリルの装甲が弾こうとすることも計算に入っていて、弾いた魔力が切っ先の逸らすのを助けてくれたが、同時に思っていた以上に魔導玉に衝撃を受ける結果になった。

 無事に済んだのは幸いである。


 トェンポールスは剣を突き出した為、突き手を前に出すように半身を捻った。

 だから今まで突き出していた盾は横を向いている。

 俺は伸び切ったトェンポールスの右の手首を左手で上手に掴む。

 盾は邪魔なので突きを躱すと同時に放り捨てている。

 そして右手の肘を腰を捻りつつ落としながら突き出されているトェンポールスの右脇に下から差し込んだ。

 後は簡単だった。

 トェンポールスの体が俺の腰に当たった瞬間、左手を下に引きながら腰を跳ね上げた。

 

 

 不思議な感じだが、刹那の攻防の一瞬、目からの視点とは別に俯瞰して周囲が見えた。

 全ての動きもスローモーションに見える。

 大騎士の足がキレイな孤を描き背中から落ちる。


 ズーーン!


 盛大な音が鳴った。

 俺がトェンポールスを投げたのだが、同時に第3者の視点で見えているのが不思議だ。

 これもこの巨兵のギミックだろうか。

 

 トェンポールスは恐らく何が起こったのか理解できていまい。

 急に視界が回り、気がついたら空が見えていたといった感じではないだろうか。

 

 俺はトェンポールスの掴んでいた右手首を握る力を強めた。

 

 メキョ という音と共に手首が潰れ持っていた剣が落ちる。

 大騎士の手首を砕いたからと言って、トェンポールスや聖女の実体の手首が砕ける訳でも痛い訳でもない。

 ただ大騎士にはダメージになるので回復に暫く時間がかかる。

 人間よりは圧倒的な速度で回復するが、聖女エリィーサが回復魔法を使えないなら最低でも3日は右手は治らない。


 トェンポールスは未だ状況が理解らず、動かけない様だ。

 大物ルーキーはまだまだ経験が足りないな。

 

 仕上げに俺は回り込んでトェンポールスの腹の上に腰を降ろしマウントポジションを取った。

 そして指先を真っ直ぐに伸ばした手刀を大騎士の心臓部に向かって突き出し、装甲に当たる寸前で止めた。

 

 ドドーーン!


 そこで模擬戦終了の合図である銅鑼が鳴った。

 近衛騎士団長を見れば手を上げている。

 近衛騎士団長の合図を受け、銅鑼を鳴らしているのは司令部にいる係官で、音量増幅の魔道具を使って大音量にしている。

 陛下の貴賓席の周囲には万が一の為に結界が貼られていて、その結界の効果でさしてうるさく聞こえないらしい。


 俺は立ち上がり、トェンポールスから離れた。

 模擬戦が終了したのを聖女エリィーサが理解したのだろう、そのまま大騎士化を解いた。

 トェンポールスは地面に仰向けになったままだ。

 漸く事態を理解したのかトェンポールスの顔が赤くなっていく。

 起き上がって何やらわめき散らし始めた。

 

 おそらく「こんなのは騎士の戦いではない」「やり直ししろ」とか騒いでいるのだろう。

 怒れるトェンポールスを聖女エリィーサが宥めている。

 先程右手首を砕いたから、万全の体制での再戦などできないのだが、それも理解できていないに違いない。


 ただ聖女エリィーサの格は思った通り高いと思う。

 聖女エリィーサが契約する神の勇士兵(エインヘリヤル)は下手をすると眷属神かも知れない。

 あの距離をひと跳び、それも一瞬で詰めてくるなんて常識の外という他無い。

 

 その一点でだけでも通常のでの戦い方ではなく、組打ち術で戦う事を選んだのは正解だろう。

 逆に剣術での打ち合いでは、勝機を掴むのは難しい。

 使い慣れない剣だとしても、コンビを組んで間もなくシンクロ率が高くないトェンポールス達に剣技で負けるとは思わない。

 しかし聖女の補助が徐々に埋めがたい差を広げていってしまうだろう。

 2人が態々会いに来てくれたのは幸いだった。

 聖女の格が高いのを肌で感じ取ったのだ。

 経験の浅い2人は奇をてらう戦法にまんまと嵌ってくれた。

 2人が経験を積み息が合って来た時に再戦したら、結果は変わるだろう。

 尤も再戦などするつもりは無いが。


 さて、模擬戦も終了したが、新型巨兵の性能を試すという点では武器を使っていないので不十分だ。

 折角の新技術である巨兵の動力である魔力を武器に流して他属性に影響されにくい【セレイブ】の聖なる力を武器に付与できる機能を全く使わなかったのだ。

 神の勇士兵(エインヘリヤル)を投げ飛ばせるだけの動作レスポンスを示せただけで良しとしてくれればいいが。

 

 そんな事を考えながら、司令部を見れば『同化解除』を示す赤い旗が振られている。

 『退場』ではなく、その場での同化解除では期待出来ない。

 仕方がなく巨兵との同化を解くと、近衛騎士団長も神の勇士兵(エインヘリヤル)化を解いていてこちらにやってきた。

 ついでにトェンポールスと聖女エリィーサもやってくる。


「貴様!無手でなどと俺を愚弄する気か!」


 近衛騎士団長が何をかを言う前にトェンポールスが突っかかってきた。


「それが最善だと思っただけです」


 余計なことは言わず受け流すことにした。


「カーライル、さっきの技、あれは何だ」


 トェンポールスが更に喚く前に近衛騎士団長が質問してきた。


「あれは、当家に伝わる組打ち術の投げです」


 本当はそんな大層なものでは無いが、代々伝わる武術であるかの様に言った。

 近衛騎士団長はそれを信じた様だ。


「なる程、キレイな投げだった。武器を使わなかったのは投げを狙っていたからか?」


「陛下には勝ちに行くと言ってしまいました。だから分が悪い剣術での戦いを避けました」


「そうか、それなら今度は分が悪いという武器を使って私と模擬戦だ」


 はぁ、そうきたか……


「は、了解しました」


「団長、もう一度やるなら僕にやらせて下さい。このまま引き下がれません」


「駄目だ」


「何故です」


「お前は今回の目的を履き違えている。今回の模擬戦は新型巨兵の性能を調べるために行っている。いきなり魔導球を破壊しようと技を繰り出すお前にはこれ以上任せられんし、どちらにしろ今のお前達には無理だ」


「それは、コイツが武器を取れば僕だってそんな手は……」


「お前にはまだ早かったか。カーライル教えてやれ」


 近衛騎士団長がため息混じりに俺に振ってきた。

 見れば聖女エリィーサの方は判っているようだ。

 心配そうにこちらを見ている。


「エリィーサ様は回復魔法を使えますか?」


 俺は直接トェンポールスに説明するのを避け、聖女エリィーサの方に話しかけた。


「……」


 簡単に自身の能力をバラす訳にはいかないだろう。

 だが、この無言は肯定と同じだ。


「であれば、やはりトェンポールス様との再戦は無理でしょう。投げた後、右手首を砕きましたから。いくら神の勇士兵(エインヘリヤル)といえど、直ぐには治らないのでは?」


「な、なんだと…」


 トェンポールスは驚き、聖女エリィーサ申し訳無さそうに頷いた。

 投げられたのは聖女の責任ではないので気にしなくてもいいのだが。


「そういうことだ」

 

 近衛騎士団長が締めくくった。

 トェンポールスはこちらを睨み歯ぎしりをしていたが、近衛騎士団長に下がるように言われると踵を返し、いつの間にか迎えに来ていた馬車に乗り込んだ。

 聖女エリィーサも心配そうに後を追った。


「さてカーライル、手加減無しで向って来いよ。武器のデータが取れてないからな」


「は、よろしくお願いします」


 やれやれ宮仕えである以上、そう言うしかなかった。



◇◇◇◇◇



 「お疲れ様でしたカーライル様」


 「ああ、本当に」


 「ヤツを投げ飛ばしてくれてスカっとしましたよ」


 「聖女には悪いことをしたがな」


 「まぁそれは……そうですけどね」


 格納庫にて巨兵との同化を解除した俺は、出迎えた開発者の1人に労われた。

 近衛騎士団長との一戦は戦いというより訓練に近かった。

 近衛騎士団長は剣技だけで戦い、俺はなるべく全ての武器を使用し、それぞれ武器に魔力流して戦う様に心がけた。

 お互いどれだけダメージを受けるのかとか、そういう確認も有り、お互い敢えて躱さなかったりもした。

 格納庫にたどり着いた新型巨兵【パラディン】試作機は結構ボロボロだ。 



 「そうだ、戦闘中に俯瞰視で状況が見えたのだがそんなギミックが入っていただろうか?」


 戦闘中の起きた不思議な現象について訪ねてみた。

 そんな説明は全く聞いていなかったからだ。


 「え、そんな機能は無いですよ?」


 「ふむ、それでは魔導球に多少魔力波を受けたのだが、魔力保護はどうなっているんだ?」


 「魔導球の守りは人工ミスリル装甲と核保護フレームだけですが……」


 詳しく聞いたが魔導球は核保護フレームという言わば魔力を伝達をする為のエーテルで満たされた水槽に入れられている。

 核保護フレームは物理衝撃を吸収するための装置で魔力をより通し易くしてあるので、魔力への守りは人工ミスリル装甲だけだという。

 であれば、魔導玉がダメージを負わなかったは運が良かっただけだろうか?

 そう思った瞬間、心配そうなメアルの顔が脳裏に浮かんだ。


<ああ、そうか。俺はメアルに守られたんだな>


 あの時メアルは確かに光った。

 きっとあの時メアルは守りの力を俺にエンチャントしてくれたのだろう。

 本来巨兵に組み込まれていないあの現象は ”メアルの守り”の効果に違いない。

 ならばトェンポールスとの模擬戦は俺とメアルの2人で勝ったという事だ。

 そうか、メアルに助けられる日がくるとはな。

 その事が嬉しく、そして何故か懐かしく感じた。

 

 その後俺は新型巨兵から解放され、いつものようにメアルの護衛任務に戻った。

 メアルへのお礼は今、城下で最も人気だとアンが教えてくれた店のケーキだ。

 ケーキを買うのにこんなに並ぶとは思わなかったし、男はほとんど並んでいないのでゲンナリした。

 店に入ったら入ったで種類が多く、メアルは何を好むだろうかと迷ってしまった。

 結局店員のオススメを数種類買ってそそくさと退散したのだ。

 こっそりお茶請けに出すのはアンに協力してもらった。

 苦労の甲斐あってメアルは喜んでくれたが、アンの掌で踊らされた気がする。

 この内輪のお茶会で、またも昔話の続きを強請られる羽目になった。


 因みに後日知ったのだが、陛下は純粋に新型巨兵で大騎士を倒しうる人選で俺を選らび、騎士団長は経験を積ませるためにトェンポールスを推挙した。 

 結果本当に殺し合いになってしまい、トェンポールスは1週間の謹慎になったらしい。


続く

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