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騎士と聖女の物語  作者: 丁太郎
黒髪の男編
14/36

4.護衛騎士の思惑、女王の思惑

★★★★★

Side カーライル

王城の庭園にて


「カールさん、その二人ってSランク昇進の最短記録を更新するんじゃないかって噂のAランク冒険者、アルジとニースですよね」


 アンがやや興奮気味に聞いてきた。

 アンはメアルの為の情報収集という役目も担っているので、いろいろな情報を知っている。

 女性の世間話からもたらされる情報は馬鹿に出来なかったりするのだ。

 そう言えば冒険者についての情報も得るようにアドバイスしてあったな。

 それにしても前のめりで聞いてくるとは、アンは冒険者に強い憧れでもあるのだろうか。


「最近の彼らを知ってる訳じゃないが、違ってはいないだろう」


 二人の実力を思い出しながら答えた。

 あの2人のコンビネーションは抜群で、敵にしたら厄介この上ない。

 それに、思うにあの2人は他の国でおそらくSランクまで上り詰めているに違いない。

 一緒に行動した当時、そんな気がしたのを覚えている。

 ありえない強さだった。


「ニースさんってエルフなんですよね。エルフは美しいんでしょう、どうでした?」


 そう聞いてくるメアルの言葉より気温の低下が気になる。

 メアルの機嫌にピノの力が連動してくるのだら面倒だ。


「え、そうなんだ。へぇ」


 アンは呑気に答えているが、目は笑っていない。

 まったく、何なんだ。


「本当に勘弁してくれ。エルフは確かに美しかったが、ニースさんはアルジ殿のパートナーだ。公私共にな」


「……そうなんですね。今でも交流はあるんですか?」


 少々不機嫌に答えてしまったからか、メアルから発せられる冷気は途端に霧散し、不安気味にこちらを振り返った。

 そんな脅す様なつもりはなかったので、メアルを不安にさせてしまったのは完全に俺のミスだ。

 気をつけなければならないな。


「いや、騎士になってからは会って無い。騎士になったら直ぐに地方に飛ばされたし、戻ってきてからも中々城下には出れないんでな」


 俺は努めて、メアルを安心させるように柔らかく答えた。

 安心したメアルは少し微笑んでくれた。

 こんなことでメアルを不安にさせるとは俺もまだ精神修行が足りないようだ。

 そう言えば、アルジ殿は天真爛漫なニースさんを自由にさせつつも上手く誘導していたな。

 そんな事を思いつつ、ふと視線を上げれば遠目に、こちらに向かって来る一団が遠目に見えた。

 何かを言いかけたメアルを制して、アンに呼びかける。

 

「アン」


 俺が何を言いたいのか察し、アンの表情が引き締まる。

 その様子を見たメアルも気づいた様だ。


「メアルシア様、続きはまたに致しましょう」


 メアルの姉からメアルシアの侍女に戻ったアンは席を立ち、自分の分のカップを片付けた。

 アンはそのままワゴンの側で待機姿勢を取る。


「カーライル、また、きっと話して下さいね」

 

「はい。畏まりました」


 メアルの言葉はどこか切実さを含んでいて、まるで俺に縋っている様にも聞こえた。

 今のメアルには自由になる時間は余り無い。

 他国に嫁げば、どうなるのかは分からないが、恐らく今日のような気安い会話は出来なくなるに違いない。

 もし、俺とメアルが気安く会話しているのを第三者に聞かて浮気と勘ぐられてしまう危険性は、陛下が我々の事情を知っているここアマリアよりも格段に高い。

 そうなれば下手をすればメアルは処刑される可能性がある。

 そんなリスクを負うことはメアルの為に出来ない。


 <もし、メアルを解放できるチャンスが有るとすれば……>

 

 俺は思い描いたその一瞬に賭けるために準備を進めるだけだ。


 兎も角俺たちはまた、ここでの関係性に戻った。

 話は途中になってしまったが、これで満足はしてくれないだろうからどうせいずれ話すことになるだろう。


 俺の立ち位置からではメアルの表情を読み取れないが、恐らくゲンナリしているに違いない。

 こちらに向かってくる一団の中にその原因がある。

 メアルはため息をつきながら前方を見つめると、椅子から立ち上がり一歩下がってこちらに向かってくる一団の到着を待った。

 こちらに来るのは第一王女ミリンダと第二王女サーラン、彼女等の護衛達だ。

 養女のメアルと違い、実子の王女である2人の方が身分が上の為、メアルは立って出迎えたのである。





「殿下方、ご機嫌麗しく」


 メアルの挨拶に対し、サーラン王女は会釈を返したが、ミリンダ王女は不満げにメアルを睨んでいた。


「メアルシア。今、侍女とお茶をしていた様に見えたが」


 メアルの挨拶を無視し、ミリンダ王女は咎める様に言い放った。

 ミリンダ王女の言葉遣いは王女というよりは騎士だが、普段からこの口調で基本騎士服を着用しているので、それがミリンダ王女の性分なのだろう。

 

「はい、私が頼みアンと一緒にお茶を楽しんでいました」


 アンが息を飲んだ。

 本当は、アンがメアルを庇いたいに違いない。

 だが今、ミリンダ王女はメアルに話しかけているので、侍女でしかないアンから話かけることは出来ない。

 当然俺もだ。

 下手に割込めば、ミリンダ王女は我々のしつけについてメアルを更に問い詰めるだろう。

 しかし我々の心配を他所にメアルは、ミリンダ王女の高圧的な物言いにも物怖じせず毅然とした態度で答えた。

 

「侍女と一緒に茶を飲むなど……メアル、自分の立場を弁えているのか。他国に嫁ぐそなたの失態はアマリアの威信に傷を付ける事になるのだぞ」


「申し訳ございません」


 メアルは余計なことは言わず素直に頭を下げた。

 その時、ミリンダ王女と視線が会う。


「カーライル。その方もなぜ注意しなかった」


「私が陛下より与えられた役目は護衛です」


 きっぱり言っておく。

 俺は警護することが仕事であって、教育係ではない。

 危険なことをしない限りは注意することは無い。

 それに、ミリンダ王女の難癖に付き合うつもりもなかった。


「く、減らず口を」


 ミリンダ王女に人事権は無く、直属の上司でも無いので、これくらい言っても問題はないだろう。


「ミリンダお姉様、そんなに目くじらを立てなくともいいではありませんか。わたくしもたまに侍女とお茶を楽しみますよ。 メアルシアお姉様、お楽しみの所をお邪魔してしまって申し訳ございません」


 そう言ってこの場を諌めようとしたのはサーラン王女だ。


「サーラン、またこの者を姉だなどと」


「わたくしも何度もお答えしています。何度言われても変わりませんよ」


 そう言ってニッコリと笑うサーラン王女にミリンダ王女は何も言えなくなってしまった。

 そもそもミリンダ王女の言い分は些か弱い。

 公的な場では無く、個人でお茶を楽しんでいただけだ。


「メアルシアお姉様、私もご一緒しても構いませんか?」


「ええ、勿論です。ミリンダ様、サーラン様どうぞおすわりになって下さい」 

 

 彼女たちの護衛が動き、椅子を引く。


「いや、私はもう行く。サーランあまりのんびりするなよ」


「はい、ミリンダお姉様」


 ミリンダ王女はサーラン王女ではなくメアルを一瞥すると自身の護衛を連れて戻っていった。

 頭を下げながらメアルとサーラン王女はミリンダ王女を見送り、席に着いた。


 予定外の来客に慌てる事無く、アンがサーラン王女の分のお茶を準備し始める。

 急な飛び込み参加も予測していたのか、カップも多めに持ってきている様だ。

 ポットからお湯が注がれて、茶葉のいい香りが立つ。

 このポットは魔道具でお湯の温度を一定に保ってくれる。

 だから、ここに来てから結構の時間が経っているが、来たときと同じく丁度いい温度の茶が入れられる。

 ただしこの魔道具は安い物でも平民の平均給与の約1年分だ。

 今アンが扱っている王宮で使われる様なデザインや細工の凝ったポットは一体いくらするのやら。

 アマリア王家の財力がこんなところでも伺える。


 お茶が改めてテーブルに置かれた。

 メアルが毒味として先に口をつける。

 それを見てからサーラン王女もお茶の匂いを楽しみ、口を付けた。


「美味しい。これは飲んだ事がありません。メアルシアお姉様はいつもこんなに美味しいをお茶を飲んでいるのですね」


「お褒め頂き有難うございます。このお茶は北の大森林で取れる葉から作ったものです。希少な茶葉なのですが、アンの実家が扱っており、アンの好意で特別に頂いた物なのです」


 アンが入れたのは【ラーベダ】のハーブティなのだろう。

 確かにあの茶は美味しかった。

 メアルからも貴重なもの聞いていたので、それだけサーラン王女に感謝の意をアンが示したと言えるだろう。

 アンの感謝はひいてはメアルの感謝ということになる。


「そうですか、それでは毎日は無理そうですね。希少なものを頂き、有難う存じます」


 こうしてメアルとサーラン王女のお茶会は和やかに過ぎていった。



☆☆☆☆☆



「えい!」「えい!」


「脇が甘いですよ!」


 あのお茶会から数日後、今日は2人を訓練する日だ。

 現在修練場にてメアルとアンに木剣の素振りをさせている。

 メアルやアンに稽古を付ける師範役も俺が買って出ていた。

 大国の姫様が武術の稽古をするのも、代々聖女が国を治めるアマリア王国故だろう。

 といってもこの戦乱の時代、貴人であっても武術を身につけねばならないのは、どの国にあっても同じかもしれない。 


 今2人に行っているのは短剣で無く、長剣を扱うための訓練だ。

 短剣も扱えるようにはするが、まずは長剣から扱える様になって欲しい。

 特にアンは一端の剣士だと言えるレベルにはしなければならない。

 というのも現在メアルの護衛は俺だけでなく、女性騎士2人と俺と他の男性騎士の計4人。

 そして茶会や、自室など女性しか入れない場所もあり、どうしても俺が側に控えられない場合もある。

 今の所は必要に応じて女性騎士に護衛を頼んでいる。

 しかし、他国に嫁ぐことが決まっている養女のメアルの専属の護衛は俺だけで、他の3人は他にも騎士としての仕事を持っている。

 あくまで一緒に他国に行く騎士は俺だけだ。

 大国アマリアがそれでは少なすぎるとも思うが、逆の立場ならあまりに多くの家臣を連れてこられても迷惑なことだろう。

 送る側の国は家臣を少なくするのが常識のようだ。

 戦力的な視点からというのもあるそうだ。

 だから、メアルが他国に嫁いだ時に信用できる女性の護衛としてアンには護衛も出来るようになってもらわなければならない。

 まぁ 目的はそれだけではないが、それについてはまだなんとも言えない。

 

 素振りしている二人の姿勢にブレが目立つ様になってきた。

 そろそろ休憩させた方がいいか。


「休憩にしましょう」


 俺の言葉を受けて、二人がその場にしゃがみ込む。

 俺は苦笑しながら二人にタオルを手渡す。

 

「相変わらずカーライルは鬼です。いままでの教官はもっと優しかったですよ」


 タオルを受け取りながらメアルは苦情を言ってきた。

 メアルから訓練の苦情を聞くのは8年ぶりだろうか。

 懐かしい。

 あの時と違い、メアルの言葉使いがお姫様モードなのも、俺の言葉遣いが丁寧なのも周囲には他の騎士達もいるからだ。

 お互い主従として対応しなければならない。

 しかし大分慣れたとは言え、使い慣れない言葉遣いは疲れる。


「これしきでへばるとは。メアルシア様とアンはもっと体力が必要ですね」


 メアルの苦情には涼しい顔で受け流しておく。


「カーライル様。私は兎も角、メアルシア様にここまでする必要ありますか?」


「必要だと思うからやっている。手の平にマメ一つできないのだからそれほどキツくも無いな」


 養女とは言え、他国に嫁ぐ姫の手の平が剣ダコだらけなのもどうかと思うので、訓練後に特殊な軟膏を使ってケアをしているのだ。


「薬で出来なくしているだけではないですか」


 そうともいうが、メアルの苦情は再び無視する。


「それよりも今は訓練服で行っていますが、最終的にはドレスやハイヒールを身に着けたままやってもらう予定です」


「「え?」」


「何を驚いているのです?一番動きにくい格好の時、戦えなくてどうしますか。今は動きのブレを見る為に訓練服にしているだけです。アマリアの姫や侍女として恥ずかしくないようになってもらいますよ」


 ドレス姿で訓練をする発言に驚く二人に理由を説明する。

 お姫様がドレス姿の時に戦えないのなら、こんなに訓練させても意味はない。

 ひたすら守られていればいい。

 だが、俺の思惑はそれだけではない。

 そのための準備も進める予定だ。


「カーライル、来月にはお披露目があるでしょう?その時に筋肉痛では困るわ」


「なる程、その近辺は体力維持だけにとどめましょう」


「無しにはならないのですね」


「勿論ですとも姫様」


 そんなやり取りをしながら2人を休憩させていると、ミリンダ王女が訓練上に来て、またもやこちらに向かってくる。

 ミリンダ王女も訓練服を着ているので、訓練しに来たのだろうが、出来ればこちらには構わないでもらいたいものだ。

 メアルとアンは立ち上がろうとするも、立ち上がれずにいるので手を貸した。

 ミリンダ王女はメアルのことが気に入らないのは判っている。

 が、見かける度にわざわざ絡みに来るのは頂けない。

 尤も俺自身も嫌われていそうだからターゲットは俺で、メアルはむしろとばっちりを受けているだけなのかもしれないが。

 ならば、俺が矢面に立った方がいいだろう。


「メアルシア。養女とは言え、アマリアの者がこれしきでへばるとは情けない。恥を知れ」


「ミリンダ様申し訳ありません」


 頭を下げるメアル。

 また変な言いがかりをつけてきたものだ。

 よし、二人にはもう少し休憩させることにしよう。


「ミリンダ様。発言の許可を頂けますか?」


「……許可する」


「アマリアの姫たるミリンダ様の武を模範としたく、メアルシア様にお見せ頂きたいのです」


「ほう、つまり私に試合をせよと。相手はカーライル、貴様か?」


「私でなければ瞬間で終わってしまいます」


 笑って答える。

 今ここにいる騎士達ではミリンダ王女の相手にはならない。

 休憩がてら俺とミリンダ王女の試合をメアルとアン、特にアンに見せておきたい。


「小癪な。だがその提案は受け入れる。貴様の鼻っ柱を折ってやろう」


 こうして俺はミリンダ王女と試合することになった。



 審判はミリンダの護衛をしている騎士。

 今回はお互い訓練用の木剣になった。

 お互い寸止めが出来る技量を持つので実剣でも良かったのだが、それはミリンダの護衛騎士達が反対したのだ。


「始め!」


 開始の合図と共に、ミリンダが一瞬で間合いを詰めてくる。


 シュッ!


 ミリンダの初撃は胸を狙った突きだった。

 その突きはまさに電光石火。

 音のほうが後からくるかと錯覚するくらいの鋭い突きだ。


 しかし残念ながら俺には届かない。

 俺が半歩下がったからだが、木剣且つ訓練ということでミリンダ王女の踏み込みが丁度半歩分甘いのだ。

 そんな甘い突きで俺に勝てると思われては困る。


 ガシン!


 俺は伸び切ったミリンダの手の小手の部分に剣を振り落とす。

 ミリンダは急ぎ手を引き、小手への直撃は避けたものの、木剣を打ち据えられ落としてしまった。

 俺は半歩前に出て剣をミリンダ王女の喉元に突きつける。


「く!」


「踏み込みで躊躇しましたね。終わりますか?」


 俺は敢えて穏やかに言いながら剣を引いた。

 これで負けず嫌いのミリンダ王女は俺の挑発に乗ってくるだろう。

 以前の手合わせではまだメアルの護衛騎士に就く前だったので軽くあしらう程度にしたのだが、今回は徹底的にやることにした。

 ミリンダもメアルにつっかかる暇があるなら鍛錬でもしていろとのメッセージを込めて。


 世の中は広い。

 アルジ殿とニースさんの様に強者はまだまだいる。

 俺でも本気のアルジ殿の剣技の前では無事には済むまい。

 腕一本くれてやるくらいの覚悟が必要だ。


「まだだ! もう一回」


 案の定、剣を拾いながらミリンダが吠えた。








「どうですか?参考になりましたか。メアルシア様、アン」


「カーライルが本当に鬼なのは改めてよく判りました。わたくしミリンダ様が可愛そうになって最後にはせめて一本取って欲しいと内心応援してしまいました」


「カーライル様はあんなに激しい試合をして息一つ上がっていないなんて凄いですね」


 ミリンダ王女は汗と言っていたが、最後の方は半泣きだった。

 プライドもズタズタになっただろう。

 途中でやってきた近衛騎士団長の命令で、この場にいる騎士には箝口令が敷かれる事態になった。

 まぁ当然の指示だとは思う。

 今回は、徹底的に彼女の剣を児戯を制するかの様に、速さ、正確さ、キレ、力強さ、スタミナ、全てで圧倒した。

 最後、ミリンダ王女は木剣を杖代わりにして去っていった。

「もういい、まだまだ未熟なのはよくわかった……」と言い残して。


 2人の感想を聞く限り、あまり参考にならなかった様だ。

 しかし間近で見るということが大事なので、今はその程度の感想でも良しとしよう。



☆☆☆☆☆



 ミリンダと模擬戦をした3日後、俺は陛下に呼び出されてしまった。

 要件は間違いなく先日のミリンダ王女との試合の件だろう。 

 やれやれだ。

 陛下の執務室に入り、声がかかるまで頭を下げて待つ。

 書類に目を通していた陛下だったが、一段落したのか意識がこちらに向かう気配がした。


「カーライル頭を上げなさい」


「はっ」


 顔をあげると、陛下と目が合った。

 こちらを見据える表情は厳しめだ。

 

<ふむ、やりすぎだったか>


「質問に答えなさい。先日、その方はミリンダと剣術の試合をしたと聞きました。間違いありませんか?」


「間違いありません」


「ミリンダは手も足も出なかったようですね」


「観戦者にはその様に見えたかもしれません」


 取り敢えず、取り繕ってみたが、陛下は頷くだけだった。


「その方からみてミリンダの剣はどうですか?」


「ミリンダ様はお強いですが……」


 言っていいものか迷ったが陛下に続きを促された。


「続けなさい」


「では……慢心故に先日は私から一本も取れない結果になった様に感じられました」


「ミリンダの剣は騎士団の中でもトップクラスですよ」


「だからでしょう」


「判るように説明なさい」


「はい、……ミリンダ様の剣は素直過ぎるのです。今までそれで通用してしまったからなのか、型通りの動きしかしません」


「簡単に言いますが、王家の剣は基本型で32、実践型で50あります」


「失礼を承知で申し上げますが、それだけしか駆使しないから私に通用しなかったのです。更に応用せず、隙を誘おうともせず、ただただ真っ直ぐで理解りやすい剣では、どんなに早く鋭くともいずれ見極められ、通用しなくなるでしょう。私に言わせれば型で満足して進化しようとしないのは慢心です。ですが、それが王家の剣ということであれば十分にお強いと思います」


 怒るかもしれないが、お座敷剣法なら十分に強い。

 そう堂々と言い切った俺に対して向けた陛下の表情には呆れが含まれていた。

 しかし戦いに正道など無く、正確な型を駆使しても通用しない相手はごまんといる。

 その時、何が出来るかがその者の強さなのだ。


 陛下は暫く考え込んでいたが徐に口を開いた。


「貴方は、近衛騎士になる気はありませんか? メアルシアと共に他国に送るにはあまりに惜しい。給料も上がりますし、強力な聖女を付けると約束しましょう」


「メアルシア様の護衛騎士から外されるのでしたら、この城にいる意味はありません。メアルシア様が他国に嫁いでもその国の騎士になるつもりもありません。私の望みはあくまでメアルシア様の護衛騎士です」


 はやりなと思った。

 しかし、陛下からの呼び出しを受けた時点でこのパターンは予想していたので、用意していた回答を出す。 

 メアルの護衛騎士としてしか剣を振るうつもりはない。

 それに騎士を辞める権利は陛下でも奪うことは出来ない。

 今、メアルから俺を強引に引き離すのは得策ではないから利益をちらつかせ引き抜きの勧誘をかけてきたというところか。


「そうですか、残念です。では引き続きメアルシアの護衛をなさい」


「は、有難うございます」


 俺は退出の指示を待ったが、陛下からの言葉がかからない。

 陛下がこちらを見て微笑んでいる。

 何か企んでいそうだ。


「ところで、カーライル。貴方には護衛とは別の特別任務を与えます」


「何なりと」


 やれやれ、護衛騎士で居続けるのを許可する替わりにやってもらいたいことが有るということだろう。

 俺に断る事は出来ない。

 これまで断れば、そもそもアマリアの騎士では居られない。


「現在開発中の巨兵が有るのは知っていますね?」


「はい」


「実はプロトタイプが完成しました。ですので模擬戦によるデータ収集を行います。貴方にはそのプロトタイプ『パラディン』に搭乗し、神の勇士兵(エインヘリアル)と戦って頂きます」


「了解しました。ですが質問の許可を頂きたく」


「許可します。話しなさい」


「有難うございます。では3点程…… 一つ目ですが、この模擬戦を陛下はご覧になられますか?」


「そのつもりです」


「2点目ですが、対戦相手はミリンダ様ですか?」


「いえ、近衛騎士の中から選ぶ予定です」


 陛下の回答に内心安堵した。

 相手がミリンダ様だった場合、非公式な訓練での試合と違い、陛下がご覧になられる模擬戦で絶対に勝つ訳にはいかない。

 近衛騎士にも面目はあるだろうが、勝っても大した問題は無さそうだ。

 常識で言えば、巨兵が1vs1で神の勇士兵(エインヘリアル)に勝てはしない。

 しかし敢えて神の勇士兵(エインヘリアル)と模擬戦をするというなら、性能に自信があるのだろう。

 そして勝てそうな搭乗者ということで俺が指名されたといった所か。

 それならば、3つ目の質問をしていいか。


「3点目、本気に勝ちにいっていいのですか?」


「勿論です。データ収集の内容には耐久性も含まれます。壊しても構わないので本気で戦いなさい。それだけの性能を引き出せるならアマリアの新型巨兵は六強国中最強と言えるでしょう」


 巨兵1体の価格を考えれば、無茶は出来ない。

 しかし陛下直々に壊しても構わないとの仰せであれば、少々手荒にしてもいいだろう。

 太っ腹な陛下に感謝しようか。


「お答え頂きありがとうございました」


「日時は追って沙汰しますが、まずは新型巨兵に慣れてもらいます。その結果を見て来週中には模擬戦を行う予定です。話は以上です。下がりなさい」


「は、失礼致します」


 俺は臣下の礼を取り退出した。



☆☆☆☆☆



 陛下の呼び出しがあった2日後に俺は新型巨兵に搭乗させられた。

 機密保持契約を結ばされた上で基本性能やギミックの説明を受け、動作訓練に3日程費やした。

 新型巨兵に慣れたと判断され、7日後に模擬戦を行うことになった。

 以降開発者達はデータを取るための準備に追われ、巨兵を搭乗しての訓練はできなくなった。

 そして、模擬戦を翌日に控えた日に俺は休暇を取り、久しぶりに王都内に出てきた。


 買い物や散歩目的ではない。

 久しぶりにある男に会う為だった。

 その男とは前世からの付き合いだが、王都で再会したのは冒険者として男の依頼を受けたからで、気まぐれと偶然の結果だった。

 男の今世での名はラウルソーデン、面倒なのでラウルと呼んでいる。

 魔道士で且つ錬金術士、魔道具に関する研究三昧の生活を送っている男だ。

 ラウルのパトロンがこの国の伯爵で、ラウルの口利きにより俺もアンも王宮に潜り込むことが出来たのである。

 尤も、ラウルには散々無茶な採取依頼を受けさせられメアルの手紙を見るのが遅れる結果になったので、それ位の便宜ははかってもらってもバチは当たらないだろう。


 王都の外れにその男の屋敷はある。

 建てられた年代がわらない古い屋敷で、大きくは無いが、一人で住むには十分過ぎる大きさだ。

 そして庭は無い。

 しかし、地下に広い研究室があるだ。

 

 5年ぶりに訪れたが、手入れされている。

 誰か雇ったのだろうか? 前は所々傷んでいた建物が修復されていて驚いた。

 そう思ったのは正解だった。

 玄関扉の横の紐を引けば、ベルが鳴り、思ったより直ぐに扉が開いた。

 出迎えてくれたのは、以前は居なかった女性で服装からするとメイドの様だ。


「どちら様でしょうか?」


 今の俺は騎士服では無く、冒険者時代に着ていた私服なので俺を騎士とは思うまい。

 平民騎士とはいえ騎士に叙任されれば、身分は最下級貴族と同等の身分となる。

 だから下手に騎士服を着てくると周囲を萎縮させてしまうのだ。


「ラウルにカーライルが来たと伝えて欲しい。以前依頼した物を受け取りに来た」


「確認致しますのでこのままお待ち下さい」


 そう言って、メイドは扉を閉めてしまった。

 彼女とは初対面だし信用されていないかとも思ったが、さして待たされる事無く再び扉が開いた。

 

 そこには久しぶりに会う胡散臭い笑みを浮かべる男、ラウルが立っていた。


「やぁ、誰かと思えばカール君じゃないか。いやいや懐かしいねぇ。今日は依頼を受けに来てくれたのかい?」


「俺が冒険者を休止してるのは知ってるよな」


「ははは、勿論さ。ちょっとした冗談じゃないか」


 建物は兎も角コイツは相変わらずだなと思った。

 俺を君付けするが、今生でもコイツのほうが年上なので気に入らないが仕方がない。


「早速だが」


「まぁまぁ、まさか友人の要件を玄関先で済ますなんて出来ないよ。入ってくれ」


 出来れば玄関先で済ましたい、とは流石に言えなかった。

 






「もう5年経つのか」


「ああ、そうだな」


 応接室に通され、コーヒーを飲みながら他愛のない話を始めた。

 5年前、ここは書類やら本やらの置き場になっていた。

 応接室として使える様になっているのが正直驚きだ。


「いつの間にかメイドを雇っているとはな。この屋敷が普通に暮らせる様になっているのが驚きだ」


「ああ、それは彼女のおかげかなぁ」


「だろうな。随分と苦労させたんじゃないか」


「ははは、否定できないねえ。でも彼女は格好こそメイドだが雇ってるんじゃないんだ」


「まさか奥方ってことはないだろ?」


 もしそうだったら青天の霹靂だ。


「よくわかったねぇ。マリエは僕の伴侶さ」


「……よくお前の様な研究バカの所に来てくる人がいたな……いや驚いた。メイドの格好してるからつい」


「まぁ、わからないよねえ。伯爵家との縁で去年結婚したんだよ」


 コイツのパトロンは伯爵家だからきっと断れなかったのだろう。

 なにせ腕のいい錬金術師で魔道具研究者とはいえ、その手の研究は金がかかる。

 無駄になる研究も多いのは長い付き合いでよく知っていた。

 お金の援助をちらつかされれば断れないだろう。

 まぁそんな事情は知ったことではないので素直に祝うことにした。


「そうか、結婚したのか、おめでとう」


「うん、有難う。祝いの品は【赤き迷宮】の【ヘビィゴレムの核】でいいから。無傷のものがいいな」


「だから冒険者は休止中だ。それに祝いの品にしては高価過ぎだし命懸けすぎるだろうが」


 しかも赤き迷宮が有るのはこの国じゃない。

 六強国【ミレー】だ。

 【アマリア】からならいくつもの国を通過しなけれなならない。


「カール君は真面目だねぇ。軽い冗談じゃないか」


「何度もひどい目にあってるかならな。発言者の常識を疑うのも無理はないと思うが」


「相変わらず手厳しいねぇ。ところでカール君の方は無事に想い人の所に行けたのかい?」


「想い人? そんなんじゃ無い。妹の様な弟子だ」


「おや、君がそこまで献身的なんて珍しいからてっきりね」


 ラウルは信用できる男だが、メアルの秘密については話す訳にはいかない。話題を切り替えたほうがいいだろう。


「そんな事より、流石に出来ているだろう?」


「ああ、あれね。勿論忘れてないよ。今年でないと駄目だったんだよね」


「背は低めだから1年位なら誤魔化せるだろうがな」


「こんな物が必要なんて、カール君はろくでもない事考えているでしょ」


「必要にならなければいいなと思ってるよ。大丈夫迷惑はかけない」


「いや、大した事じゃないさ。バレることも無いよ。そういう風に思い込ませたからね」


「……そうか。では コレが残りの礼だ」


 頼んだ物を受け取った俺は 約束していた素材を渡す。

 冒険者時代にダンジョンで得た素材だ。


「おおー! そろそろ欲しいと思ってたんだよー。【緑光石】」


 【緑光石】はその名の通り、緑色に光る石で風属性の魔力をふんだんに蓄えている。

 何に使うのかは詳しく知らないが、遠心分離が何とかラウルが言っていた気がする。


「じゃ、これでこの件は終わりだな」


「勿論、他言は絶対しないよ。興味ないしね」


「だろうな」


 自身の研究が第一なこの男にとって、渡した物を俺がどう使おうが知ったことでは無いだろう。


「さて、ではお暇しよう。細君によろしくな」


「もう、行くのかい」


 早速研究に戻りたいのだろう。

 案の定呼び止められはしない。

 こいつはこういう男なのだ。

 今更呆れはしない。


「ああ、俺も忙しんでな」


「模擬戦だっけね。頑張ってね」


 なる程、今回の新型巨兵開発にコイツも関わってるのか。


「死なない程度にな」


「大丈夫、カール君なら神の勇士兵(エインヘリヤル)にだって勝てるさ」


「筒抜けなんだな」


「ま、魔道具関連の話はね」


「確かに巨兵も魔道具だな」


「そういうこと」


 俺はラウルと奥方に見送られて屋敷を出た……のだが扉が閉まる直前、背後からラウル夫妻の会話が聞こえてしまった。


「あなた【緑光石】手に入ったのですね! 私にも分けて下さい。研究に必要なのです」


「もちろんさ、その代わりーー」


 なる程、似たもの夫婦だったのか。



続く

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