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騎士と聖女の物語  作者: 丁太郎
黒髪の男編
13/36

3.王都へ

★★★★★

Side カーライル

王城の庭園にて


「カールさんは魔物を倒した後どうしたんですか?」


 メアルから質問を受けた。

 メアルを助けたエピソードより話は進み、今はメアルの村を襲った魔物を退治し、仇を討ったた所の話をしている最中だった。

 俺はDランクに昇格もしていた。


 村で遭遇し、襲ってきた男女の話は伏せる事に。

 アイツは村を襲った魔物と関係が有るように思えたが、メアルには知らせない方がいい気がしたのだ。

 

「どうしたも、受けていた依頼をこなして【キノ】に戻ったが」


「私、【キノ】のギルドに何度も手紙を送ったんですよ」


「【キノ】に着いた後、直ぐに王都に向い、しばらく滞在していた。だから手紙を見たのは随分経ってからだ。済まなかった」


「…いえ、こちらこそごめんなさい」


 一応は納得してくれたが、その件をメアルは根に持っていそうだな。

 いやずっと心配してくれたのだろう。

 冒険者は危険な職業だから。


「あ、私も質問いい?」


「…いいだろう」


「カールさん冒険者登録できる15才になった日に冒険者登録したんだよね。エリック達も同じ日に冒険者登録したで合ってる?」


「ああ」


「そもそもの疑問なんだけど、なんでカールさんだけそんなに強いのさ? 聞いていた感じでは随分と冒険者としての知識もあるみたいだし」


 なるほど知識や能力については誤魔化しきれない部分だな。

 そこまで隠してしまっては辻褄が合わなくなってしまう。

 アンは聡い。

 メアルの持つ癒やしの力、俺がメアルを気にかける理由も含めて本当は聞きたいことがあるのだろう。

 メアル次第になるが、今後のことを考えれば教えた方がいい。

 ここ数年を見る限り、アンは信用できる。

 ちらりとメアルを見れば、メアルは少し困ったような不安そうな雰囲気を出している。


「アン、ここまで首を突っ込んだなら、そのうち話す事になるだろう。だが今じゃない」


「その答えで十分」


 俺の答えに対しアンは晴れ晴れとした表情で言った。

 その横顔には覚悟が見て取れた。

 彼女の覚悟は、町娘が王女の専属侍女になっている時点で判っている。



 アンの質問に対し、氷の精霊ピノが反応しなかった。

 ピノは契約者が望まない事はしない。

 即ち、メアルがアンを巻き込む事を望んでいないということだ。

 だが、アンに秘密にし続けるには無理が有る。

 何も知らないまま巻き込む方が可哀想というものだ。

 告げるなら早いほうがいい。

 だがあの様子ではメアルの心の整理には少し時間が必要だ。

 現にメアルは不安そうにしたままだった。

 



「さて、続きを話すぞ」


 頷く2人を見ながら、俺はまた話だした。




★★★★★

Side カーライル(カーライルの回想)

【キノ】の冒険者ギルドにて


「Dランク冒険者カーライル殿、貴殿はCランク昇格試験の受験資格を有すると判断し、冒険者ギルド【キノ】支部として試験参加許可を出すものとする」


 なにやら仰々しい物言いだが、なんのことは無いCランク昇格試験の受験許可が出ただけのことだ。

 受験資格を得るために面倒な依頼を押し付けられ、今その依頼の完了手続きをしたところだった。

 流石に受験資格の件は忘れていないようだ。

 

 【スタ】でメアルに再会し、【コバ】村を襲った魔物を狩ったのも面倒な依頼をこなす途中でのことだ。

 依頼の内容は秘匿契約を含むので詳しく話せない。

 秘匿契約って単語が出る時点で面倒依頼と判ってもらえればいい。 


 今、俺の前にはギルドの受付カウンター越しに愛想笑いすることもない、無愛想な男がいる。

 こいつは冒険者登録をした日に対応してくれた男だ。

 あの日と変わらず無愛想で事務的に対応している。


 実はこの支部にも受付嬢はいる。

 しかし、何故か俺がカウンターに向かうとこの男と話す事になる。

 俺の専属担当なのだろうか?と思ってしまう程に毎回だ。

 そんな制度は無いのだが。

 だから俺はこの男以外のギルド職員に話しかけた記憶が無い。

 そういえば、話しかけられたのもこの男だけのような気がする。

 オカシイとは思うが、それも今日限りと思えば許せるというものだ。

 因みにこの男の名前を俺は知らない。

 興味も無く、覚える気も無いからだった。


 受付の男は仰々しいセリフを事務的に言い、手の平サイズの木札を差し出してきた。

 受け取って見れば、Cランク受験許可という文字と番号、印章2つが焼印されている。

 番号は俺のタグ番号、印章は冒険者ギルドの印章とキノ支部を示す印章だと説明を受けた。

 どうやらこれが受験票らしい。

 さて、この男の顔もしばらくは見ないで済む。

 というのもCランクからは試験は王都の冒険者ギルド本部で行われるからだ。

 どうしてかは知らないが、伝統らしい。

 確かに人が多く集まる王都の方が依頼は多く、多くの冒険者を必要とするだろう。

 だから王都に有力な冒険者を集める為なのかも知れない。

 Cランク以上を目指すなら地方にいるより王都で活動したほうが早いとも言われている。


「世話になった。もしメアルという子から手紙が届いたら王都のギルドに届けてくれ」


 受付の男に挨拶をし、背を向けたところで声を掛けられた。


「判りました。しかし優秀な貴方にはできれば戻って来て欲しいものです」


 俺は「手紙の件頼んだぞ」とだけ答えておいた。

 

 取り敢えずギルドを出て定宿に戻ると、そこには俺を待つ少女がいた。

 年齢にして12〜13才と思われた。

 少女は付添もおらず、1人。

 初対面だが、何となく彼女が何者で何のために俺を待っていたのか心当たりがあった。

 宿に併設する食堂で話を聞くことにした。

 彼女は俺の予想通りエリックの元婚約者と名乗った。

 彼女の容姿についてはあまり記憶に無い。

 正直俺にはどうでもいい相手だ。


 彼女の目的は聞くまでもなくエリックの最後ついてだろうと思ったが、話を聞くとやはりその通りだった。

 俺がエリックのタグをギルドに送ったのを突き止めたのだろう。

 彼女の実家も冒険者としての功績で爵位をもらった家なら、ギルドの幹部にコネがあっても不思議じゃない。

 

 エリックの最後の姿が思い出された。

 できれば彼らのあんな姿は見たくなかった。

 言っても仕方がない事だ。


 エリックは婚約者と数回しか会っていないと言っていた。

 だから、エリックの不幸が伝えられても然程ショックを受けないのではと思っていたが、在りし日のエリックの話を聞く彼女は涙を流しながら聞いていた。

 そんな彼女に彼らの最後の姿を伝える事は出来なかった。

 とても話してやれる状態では無かったのだ。

 俺が伝えたのは、発見時にエリックのパーティーは全滅していた事と、タグの回収しか出来なかったことだけだった。


 冒険者だからこうなる場合があることも解っていたつもりだった……泣きながらそう言う元エリックの婚約者に俺が掛けてやれる言葉はない。


「エリックの分まで長生きして幸せになってくれ」


 そう言う他無かった。


☆☆☆☆☆


 翌日、深酒のせいでガンガンする頭を無理やり起こし、ムカムカする胃にトーガラ粉のたっぷり効いたスープを流し込む羽目になった。

 二日酔いでなければ舌鼓を打ったんだろうが、そんな余裕は無い。

 本当は”解毒の札”を使おうとして、在庫を補充し忘れるという致命的ミスを犯していた事に気づいた時、思わず王都行きを明日に延期しようかと思った程ひどい二日酔いだった。

 

 因みに”解毒の札”は俺の必需品となっていて、使用頻度も一番高い。

 俺にとって”解毒の札”は対二日酔いの切り札なのだ。

 なので、このミスは大変に痛い……いや気持ち悪い。


 トーガラ粉スープは、メアルに馳走になったのを気に入り、俺が宿の女将さんに頼んで再現して貰ったものだ。

 女将さんも気に入ったらしく、改良を続け今ではすっかり宿の人気メニューになっている。

 酒に呑まれている奴が多いって事の証明だった。

俺も普段は深酒はしないのだが(せいぜい週に1回くらいだ)、昨夜はやはりエリック達の話をしたのが影響したのかも知れない。

 このスープは確かに二日酔いで死んだ胃に大変よく効く。

 しかしそれ以上にこのスープは旨い。

 今は味わう余裕もないのだが。

 (メアルにもぜひ馳走したいと思っている。)



 なんとか復活した俺は”解毒の札”を大量に補充し王都へ向かう事にした。

 当然早速1枚使ったのは言うまでもない。

 そして本来なら乗り合い馬車を乗り継いで王都へ向かう予定だったのだが、馬車乗ると二日酔いがぶり返しそうなので次の都市まで歩くことにしたのだった。

 

 【キノ】から乗り合い馬車で王都【リリアーノ】まで行く場合、うまく乗り継げれば10日くらいと聞いていた。

 歩きの場合は速い者で6〜7日といったところだ。

 さて乗り合い馬車の場合、()()()襲ってこない。

 アマリアでは乗合馬車は国営である。

 主要な街道の巡回も定期的に行われており、モンスターに襲われる事も皆無ではないもののほぼ安全に旅が出来る。

 護衛の兵士も付くので滅多な事は起きないのだ。

 怖いとすれば、突如 ()()が湧いた時くらいか。

 それにしても、王国の王都周辺で魔物が湧くことは極々稀で、どうしようもない天災に見舞われる様なものだからその時は諦める他ないだろう。


 話を戻すが、流石に乗り合い馬車(=アマリア王国)相手に強盗を仕掛ける無法者はよほどの馬鹿で無い限りいない。

 だが、歩きの場合はこの限りじゃない。

 モンスターへの対処も必要だが、結構な頻度で山賊や追い剥ぎが待ち構えていたりする。

 だから、徒歩ならパーティーを組むのが定石なのだが、俺は多少気配を読めるので避けて通るのは得意だった。



☆☆☆☆☆



 王都まであと2日位だろうか。

 中継都市を出て暫く進んだ山道で前方より複数の男の気配がする。

 ここまで何のトラブルもなくやってこれたがとうとう遭遇してしまった。

 迂回しようかとも考えたが、その時異変に気づいた。

 先程感じた気配の数が減っていく。

 誰かが山賊を倒しているようだ。

 問題なのは、山賊共を倒している何かの気配を感じられないということだった。

 

 アンデッドか?

 もしそうなら冒険者の身としては狩らなけれならない。

 俺は気配を殺し、前へと急いだ。


 驚いた事に、山賊を狩っているのは一人の男だ。

 剣士にしては得物が短い。2本の短剣を右手は逆手持ち、左手は順手持ちしている。

 短剣もこの辺では見かけない形状のものだ。

 

 見える位置まで来て漸く僅かながらの気配を感じられるようになった。

 一応は生きているらしい。

 


 とは言え、山賊達にとっては死神そのもの。

 男を意識する事すら出来ずに狩られていく。

 山賊どもには仲間が勝手に倒れていくように見えるに違いない。

 実に恐るべき手練だ。


 遂に一人となってしまった山賊が正面から心臓を突かれて倒れた。

 気配を感じるのは仕掛ける一瞬。

 僅かな殺気を感じるだけだ。


 剣士というより暗殺者だな、などと思っていたら、男の気配が完全に消えた。 

 やれやれだ。

 

 俺は直感の赴くまま刀を抜いて前に突き出した。


「へえ、僕が見えるんだ」


 刀の切っ先に何かが居る。

 その何かが声を発した。

 何かというのも失礼だな。 


「いや?ただの勘だ」

 

 気配を隠すのをやめたのだろう。

 男が急に目の前に姿を現した(様に見えた)。

 男の喉元には俺の刀の切っ先が突きつけられている。


 男が使った気配を消す技は、風の精霊使い達が使う透明化の魔法とは全く質が異なる。

 透明化の魔法は文字通り体が空気と同化したかの様に透明になり、見えなくなる。

 対して男の技は厳密には見えているのに認識できなくなるものだ。


 歳にして16,7才か。

 大体俺と同じ位だな。


「君さ、何者だい?」


「只の冒険者だ。で、お前は伝説の暗殺者か何かか?」


「まさか、僕は旅の剣士さ」


「じゃあ、殺し合う必要はないな。俺は山賊じゃ無い」


「そうだけど。でもさ君……見たよね」


 やれやれだ。

 向こうは殺る気満々だ。


「今から消えても無駄だぞ?もう覚えた」


「あ、っそう」


 一瞬殺意を見せた男だったが、俺の言葉を受けて何食わぬ顔で2本の短剣を腰のベルトに吊るされた革のナイフホルダーに仕舞う。

 顔を見た以上、認識の外に外れる技は格段に効きにくくなる。

 人は観たいものだけを認識する。

 認識すべき顔と姿を確認した以上、俺には通用しない。

 尤も盗賊どもは男と対峙し、顔を見た上で殺られたのだろうが。


 一応は敵意を消し武器を仕舞った相手に対し、俺も刀を引くべきだろう。

 しかし俺が刀を引いた瞬間、男が俺の喉を狙う蹴りを繰り出してきた。

 こういうのをお約束っていうんだろうな。

 靴のつま先には仕込んであったのか、いつの間にか鋭利な刃が飛び出している。

 殺す気満々の蹴りだ。

 俺は男の放った蹴りを足首を掴んで防ぎ、ついでに軸足を刀の峰で払った。

 更に同時に掴んでいた足首を突き出すように離しつつ、少し距離を取るべく後方に跳ぶ。

 男は完全にバランスを崩し、背中で着地した。


「うぐ!」


 背中から地面に落ちて男は痛みに顔を歪めている。

 いや、顔を歪めながらもいつの間にか抜いた短剣の1本を俺に投げて来た。

 俺の腹辺りを正確に狙った一撃だったが、無理な体制から腕力だけで投げた為、さして速くもなかった。

 なるほど、鍔が無く、切っ先の方が幅広の変わった短剣だと思っていたが、投げるためか。

 重心バランスを考えて作られた短剣が綺麗に回転しながら俺に向かって来る。

 これ以上襲ってこられても面倒なので、短剣を打ち返す事にした。


 キィーン


 軽い金属音と共に短剣は打ち上げられ、男の顔の直ぐ横の地面に刺さる。

 

「うわ!」

 

 これには男も驚いたようだ。

 とは言え、この結果は出来過ぎだった。

 多少狙って打ち返したが、顔のすぐ横に刺すなんて芸当は流石に出来ない。

 もっとも脳天に刺さっても個人的には構わないのだが。


 男としても短剣投げで俺が倒せるとは思っていないだろう。

 牽制の一手で短剣を投げ、俺が短剣を裁く間に起き上がり体制を整えるつもりだった筈だ。

 だが、背中を強打したダメージが思いの外大きく起き上がれなかったに違いない。


「俺の剣が……」


 なんだ驚いたのはそっちか。

 今、男の顔にすぐ側に刺さっている短剣は刃だけだ。

 打ち上げる際に切断したからだが、柄の方も近くに転がっている。

 通常は斬ったのなら打ち返す事は出来ない。

 俺の特殊な力によるものだった。

 

「さて、言い残すことは?」


 遺言くらいは聞いてやる事にした。

 執拗に命を狙ってきたのだ。

 当然殺される覚悟もあるだろう。


「ちょ、ちょっと待って。降参するよ」


「今更だな」


「いや、本当に降参。勘弁して下さい」


 男は寝転がったまま、両手を開き大の字になった。

 攻撃はしません、という意思表示らしい。

 何度も命を狙って来て虫のいい話だ。

 しかし、ここでコイツを殺したらコイツと山賊の遺体の後片付けを俺がしなければならなくなる。

 俺が殺ったのならいいが、山賊を殺ったのはこの男だ。

 なら、この男に片付けさせるべきだろう。

 遺体を放置してゾンビ等の下級アンデッドになられても後で通るものに迷惑をかけることになる。

 とは云え、ここで男を許してまた襲ってこられても面倒だ。

 ここは、特大の釘をさしておかねばならない。


「次は無い。手を上げたままこちらに背を向けて立て」


 男は素直に俺の指示に従った。


「ねぇ君さ、ひょっとして実は有名な騎士なんじゃない?」


 この状況で平然とそんな事を言う男のイントネーションは帝国訛りだが、わざとらしい感じもする。

 ネイティヴではないのか、それとも帝国人を装いたいのか。

 でもしかし、男の思惑などどうでもいいし、関係ない。

 

「お互い詮索は無しだ」


「わかった。ところで君さ冒険者だと言うなら僕の護衛する気ない?報酬は弾むよ」


「断る」


 本当になんなのだ、この男は。

 この状況で出てくる台詞じゃないが、これも隙きを誘う為のものかも知れない。

 なので間髪入れずに断った。


「即答! 襲ったのは悪かったよ。でも君が強いのは気配でわかっていたから試しただけなんだ。見てただろうけど僕は双剣使いさ。君に1本切られちゃったんでもう本領発揮出来ないよ」


 2本無いと本領発揮出来ないというのは嘘だ。

 コイツの強みは認識の外から襲えるという暗殺者的なスタイルにある。

 短剣1本あれば余裕で立ち回れるし、敵から得物を奪うことも容易だろう。


「どういう神経をしてるんだ?本気だろうが、遊びだろうが関係ないし、そもそも自業自得だ」


「ほんと突然襲って悪かった。この通り」


 男はこちらに背を向けたまま手を合わせて懇願している。

 

「護衛は断る。それよりも山賊共の後始末をしてもらおうか」


「え? アレだけの数を僕一人で?」


「数は知らん。お前がやったんだから当然だ」


「ねぇ、手伝ってくれるよね」


 俺は答えずに気配を消し、男の側から離れた。

 面倒な男と関わるのは御免蒙りたい。


「あれ? ねぇ?」


 そんな声が聞こえてくる。

 どうやら上手く撒けそうだ。



☆☆☆☆☆



「やっと見つけたよ」


 男の襲撃を受けた夜更け、野営していると前方の闇から声が聞こえてきた。

 聞き覚えのある声だった。

 敢えて街道から離れた場所で野営したというのに……

 俺は盛大にため息を付く。


「その態度はひどくないかい?」


「むしろ当然の態度だと思うが」


 先程の男がまたも目の前に姿を現した。

 武器は抜いておらず、敵意も感じられない。

 だからといって油断できる相手でもない。


「さっきは本当にごめんって。でも君も気配を消して近づいてくるから悪いんだよ? 気配を消しいる正体不明の人物が近づいてきたら誰だって敵だと思うでしょ」 

 

「敵だと思うなら今は何故襲ってこない?」


「残念ながら君に僕の技は通用しないしさ。剣の方でも勝てる気がしないよ」


「ま、いいさ。で、遺体は埋めてきたんだろうな」


「あ、うん、まぁ、ね」


 その答えに全てを察し考えないことにした。

 男は焚き火を挟んで俺の正面に腰を下ろした。


「許可していない」


「許可いるの?へえ。 で、そろそろ機嫌直してくれないかな」


「……」


 何をか言う気も失せた。

 こういう手合いはこちらの都合はお構いなしだ。

 絡まれたのが運の尽きだった。


「ああ、そういえば自己紹介してなかったね。僕は…テス。君は?」


「さあな」


 当然名乗らない。

 名乗って待っているのは面倒事の予感しかなかった。


「つれないね。じゃ、君は君でいいか」


 男はテスと名乗ったが当然本名ではないだろう。

 テスの目的に興味はないし。巻き込まれたくもない。

 しかし、この場を放棄しても付いてくるだろうから、このまま夜が開けるのを待つことにした。



「おい、起きろ」


 呆れた事にテスは寝ている。

 俺に殺されるとは考えないのだろうか?

 それよりも コイツがサボったツケが俺に襲いかかろうとしている。

 

「ん……何? まだ朝には……うん?」


 朝にはまだ早いと言いかけて気づいたようだ。


「お前が埋葬しなかったからだな」


 うめき声がかすかに聞こえ、それは確かにこちらに向かって来ている。

 山賊共の成れの果て、ゾンビが生者の肉を求めてやってきたのだ。


「早すぎでしょ」


 確かにアンデッドになるにしても早いが、あの場所で山賊達は散々殺してきただろう。

 あの場所自体が不浄で陰湿な気を帯びていたのだ。

 なら、日が落ちれば即アンデットとして蘇っても不思議じゃなかった。

 なんなら、ゾンビだけなく、食人鬼(グール)も発生したかも知れない。


「お前の撒いた種だ。自分で刈取れよ」


「当然手伝ってくれるよね」


 俺はため息で返した。



◇◇◇◇◇



「おおー、あれが王都か」


「その様だな」


 なんだかんだでテスと一緒に王都までやってきた。

 あの後アンデッドの襲撃は返り討ちにしておいた。

 結局巻き込まれてしまったが、放置して被害が広がるのもどうかと思い、手伝ってやることにした。

 ゾンビは結構厄介な相手で、既に死んでいるので破壊してしまうまで動き続ける。

 頭が無くなっても体が残っているなら襲ってくる。

 そして動きは遅いが力がある。

 今回は食人鬼(グール)は発生しなかったのは幸いだ。

 生前に強い個体である程、強いアンデッドになる傾向があり、今回は幸いにも居なかった様だ。

 

 どちらにしろ対アンデッドでは短剣使いのテスは不利だ。

 俺のように四肢を切断できるならいいが、短剣ではそもそも長さが足りない。

 しかし、テスはその短剣でゾンビの手足や首を落としていた。

 剣士としての技なのか、スキル等の能力なのかは判らないが、あの短刀は見た目以上のリーチがあるという事になる。

 

 そして、ゾンビに襲われた以降の道中ではモンスターや山賊、追い剥ぎ等に襲われることは無く順調だった。

 テスが暗殺を仕掛けてくるかと思っていたが、途中敢えて隙きを見せても襲ってこなかった。

 案外、俺を殺すのは諦めたのかもしれないが、最後まで油断は出来ない。

 とはいえ、俺の勘はテスにもう危険は感じていない。

 恐らくだが、テスのやろうとしていることに俺が影響無いと判断したのだろう。


 いよいよ城門が近づいてきた所でテスが話しかけてきた。


「僕はここでお暇するよ。 じゃ、またどこかで」


 一方的にそう言い残すと、テスは気配を消して姿をくらましたのだった。



☆☆☆☆☆



 王都の入り口の門の両脇に アマリアが誇る巨兵【ディフェンダー】がハルバードとタワーシールドを持って立っている。

 タイプとしては軽装でも重装でも無い中間のバランス型のようだが、その名の示す通り高い防御性能を持つのだろう。

 巨兵2体のお出迎えは威圧感がある。

 特別仕様らしく、装飾が色々されていて式典用みたいに豪華だ。

 完全に静止しているので、搭乗者は居ないようだ。

 恐らく城門の詰所に搭乗騎士が待機している事だろう。

 

 俺は無事に入場審査を通過し王都に入るとまずは冒険者ギルドの本部を目指した。

 場所は【キノ】の無愛想な職員から聞いている。

 大通りに交差する通りににあるらしいのでそう迷うことはないはずだ。

 しかし、ここが王都か。

 この地に足を踏み入れた冒険者が此処から離れたくなくなるのも判る気がする。

 王都【リリアーノ】は【キノ】なんかと比べ物にならない位に大規模の都市だった。

 人口も100万人以上いるんじゃないだろうか?

 大通りの道幅は巨兵が5体は横並びに歩ける位に広い。

 さすが王都だ。

 ここなら、仕事にも事欠かないだろう。

 大通りの行く先に王城が見える。

 外敵に攻められるなんてことは考えてない都市の作りだと思うが、6強国の中でも最も豊かと言われるアマリアに攻め入る国は、まぁいないな。

 現時点では【ガレドーヌ帝国】でも無理だろう。

 そんな事を考えながら暫く大通りを歩き、目に付いた宿屋の前で止まった。

 大通りに面した立地の宿屋は立派な建物だ。

 しかし宿代が高いだろうことも容易に想像がつく。

 何より、見るからに冒険者の俺はドレスコードを理由に断られるかもしれない。

 

 ギルドを目指す理由はこれである。

 ギルドで先ず何よりも先に安くて飯の旨い冒険者御用達の宿を教えて貰わねばならない。

 

 ギルドには迷うこと無く着いた。

 しかし時間はそれなりにかかてしまった。

 こういう点では王都の広さが恨めしい。

 ギルド本部の建物も大きく、立派だった。

 さすがにキノ支部と同じ筈も無い。

 眺めていても仕方がないのでさっさと要件を済ますとしよう。


 ギルドの扉を開けた瞬間、怒声が聞こえて来た。

 どうやら、男の冒険者が女の冒険者に食ってかかっているようだ。


「ちょっといい女だからって調子に乗るんじゃんねえぞ!Fランクのヒヨッコが!」


「ふ、Cランクくらいで威張るな。それに主らと酒は呑まんと言っただけじゃ。主らは臭いからのう」


「ニース、事実とは云え失礼だ」


「アルジも言うのう」


「なんだと、お前ら巫山戯やがって。おい新参者のお前らに教えといてやる。ここで長生きしたきゃ 俺ら【レッドアックス】に逆らうんじゃねえ」


「なんじゃ名前負けじゃのう。なんなら自慢のアックスをお主らの血で染めてもよいのじゃぞ」


「て、てめえ!」


 うん冒険者同士の交流だな。

 さすが王都のギルドだ、夕方近いのに賑わってる。

 この騒動は、Fランクの2人の内の女冒険者にCランク3人にちょっかいを出したってところか。

 流石に王都のギルドではコミュニケーションも過激だった。

 しかし、それよりも何よりも女の冒険者に目が行った。

 ニースと呼ばれた女冒険者はエルフだったのだ。

 そんな所も流石王都言うべきか。

 【キノ】近辺では、他種族を見ることは無かった。

 ドワーフは比較的人間の国家に紛れているが、エルフは珍しい。

 エルフはこの国より遥か東の森に独自の国を作り、そこから出てくることは滅多に無い。

 国を飛び出す様な はみ出し者のエルフはそうそういないので目の前の彼女は相当珍しい存在だ。

 エルフは森のハンターと呼ばれる位に弓の達者が多い。

 目の前のエルフも半弓を装備している。

 冒険者のロールとしてはレンジャーといった所か。

 そしてエルフなら能力の差はあれど、精霊魔法が得意なはず。

 だからこの女冒険者も、格上冒険者を目の前にしてのこの余裕なのだろう。


 因みに人間の社会に数少ないエルフには有名な聖女も多い。

 特に5人の有名なエルフの聖女は【水精】【火精】【風精】【雷精】【地精】という異名で呼ばれているそうだ。

 彼女達は精霊との契約で精霊の大戦士を呼び出す。

 なので、神の勇士兵(エインヘリヤル)とは違うのだが、一括りにエインヘリヤルと呼ばれているのだ。


 話を戻すが俺には関係ない騒動だし、入り口に立っていても他の邪魔になる。

 さっさとおすすめの宿を聞くとしよう。

 俺はカウンターに向かう。

 カウンターでお目当ての情報を仕入れ、ギルドから出ようとした。

 5人はまだ()()()を続けていた。


「おい、そこの兄ちゃん。取り込み中にチョロチョロしやがって。お前も教育が足りない口だな」


 ん?俺の事か?

 俺の周囲に人は無く、cランク3人内の1人が急に俺に話し掛けてきたようだ。

 が、無視して歩き出す。


「おい、無視すんじゃねえぞ!」


「俺に振ってくるなよ。冒険者なら勝負は依頼でつけろ」


「どいつもこいつも礼儀を知らないようだな。いいだろう冒険者として決闘といこうじゃねーか」


「そうか、頑張れよ」


 改めて立ち去ろうしたが、呼び止められた。


「どこ行く! オメーも数に入ってるんだよ」


「断る。勝手にやれ」


 やれやれ、テスから開放されたと思ったらまたトラブルに巻き込まれたようだ。


「無駄だ、これはギルドのルールに則った正式な決闘だ。断る権利はオメーにゃねえよ」


「それはギルドが認めれば、だろう」


「認めるさ、3対3だしな」


 まあ言って見たももの、Cランク共が言う通りギルドは認めるだろうな。

 数の理由ではないだろうが。


「ククク、その決闘のったぞ。そこの兄さんも諦めて我らと組むしかないのじゃ」


 やたら楽しそうにエルフの冒険者が俺に話しかけてきたのだった。


続く

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