2.冒険者の出会いと別れ
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Side カーライル
王城の庭園にて
「カールさん……その4人はあの時の……」
「ああ、そうだ」
「ん? メアルはその4人の事知ってるんだ」
俺は今、メアルに強請られて護衛騎士に至るまでの身の上話をしている。
大人しく話を聞いていたメアルとアンだが、エリック達の話をした事でメアルが質問してきた。
メアルは4人の顛末を知っているのだったな。
メアルの表情は少し暗い。
あの件はメアルにとっても無関係では無い。
「知っているという程では……」
おや?心なしかメアルの言葉には冷気が含まれている様に感じる。
少し怒っているのか?
いや、しかし何故。
「へえ、これはカールさんが悪いわ」
「何だ?」
アンの意図が全くもって分からない。
今の一連の話の中で俺に非があったか?
と思った瞬間、頭に直接語りかけてる声があった。
『何なのその魔道士の女!慣れなれしすぎよ!!』
怒り狂う声と共にメアルの頭上に精霊が姿を現した。
ほう、メアルが契約した氷の精霊か。
氷の精霊は俺も初めて見る。
確かピノと名付けたとメアルが言っていた。
その氷の精霊ピノの能力故か、周囲の温度を気のせいでは無く下げていく。
暑い時は便利な存在だろう。
まぁそれはどうでもいい。
話を戻すと、メアルやアンの様子から精霊ピノの声は全員に聞こえている様だ。
『アンタはこの子の護衛騎士でしょうが!なんでピシッと注意しない!「なれなれしいぞ」の一言が言えないなんて、どうせあんな事とか、こんな事とか下心があったんでしょ!』
あんな事や、こんな事とかの下心……。
精霊から色恋の話が出るとは思わなかった。
「ちょっと ピノ、私は別にカールさんの事は何とも」
メアルが慌てている。
メアルからしてみれば、俺は鬼師匠でしかない。
俺の行動を不思議がってはいるが、そこに負い目を感じているだけだ。
せめて優しいお兄さんくらいに思ってくれれば嬉しいが。
そんなメアルだが、無茶苦茶を抜かす精霊と契約してしまった様だな。
可哀想に。
『誰が可哀想だって凍らせるよ?』
む?思考で話しかけてしまったか?
それとも思考を読み取れるのか、気を付けないとだな。
しかし、昔話で責められても困る。
別段やましい事も無い。
「メアルと出会う前の話だ。勘弁してくれ」
「カールさんも男って事だよ。モテる人の方がメアルもいいでしょ」
「おい」
やれやれ、そう言えばここにも一人、要注意人物がいたな。
「私は別に、カールさんがモテようが、女好きだっても構わないわ」
メアルよ。それはフォローなのか?
先程より言葉に含む冷気が強くなっているし。
『やっぱこんな男は凍らせよう』
「一応護衛なんだからやめてあげて。それに女好きのカールさんでも受け入れるなんてメアル偉いわ」
「え、好きにしたらいいと思っただけよ」
メアルも心情的にはあちら側なのか。
ここに味方はいないらしい。
しかし、ここまで騒ぐ程の内容か?
メアルの言葉から感じる冷気も周囲の温度も更に降下中だ。
俺にはどうにも理解できないが、このまま放っておくと収集がつかない。
勿論、昔話をしただけで氷漬けにもされたくはない。
それに故人の名誉も守ってやりたい。
なのでフォローすることにした。
「変に勘ぐるな。彼女は誰に対しても距離感が近いだけで別に何も無い。それに恋人がいた」
「え」
「そうなんだ」
『へぇ』
3者3様の反応だったが、途端に周囲の温度は上がった。
少しは怒りが溶けたようだ。
何故俺がご機嫌を伺いながら身の上話をしなければならないのか?
全く持って謎だが、今は話を進めよう。
「それで『誰?その恋人って。 まって! そうよ きっとエリックね』」
話を続けようとしたが、ピノに遮られた。
精霊様はディリーの恋人の正体に興味津々の模様。
「んー違うんじゃない? エリックって他の3人より育ちがいいでしょ。貴族のご子息様なんじゃ。ってことで私的にはギリアンだと思う。ディリーは魔道士だからやっぱ戦士系に憧れるでしょ。シーフなんて影があってカッコイイよね」
ピノの予想にアンが反論してきた。
アンは自分の好みを言っているだけではなかろうか?
『愛があれば身分なんて関係ないじゃない。ディリーは言葉遣いが丁寧なエリックに憧れたはずよ。なによりイケメンなんでしょ』
ほう、氷の精霊が熱く愛を語るか。
ピノの言葉にメアルは驚きつつ、顔を赤らめている。
そうか、精霊は契約者の影響を受ける。
メアルの恋愛観が本来冷めた性格のピノに入ってしまったのか。
「でもさー。貴族のご子息で合ってるなら、許嫁とか既にいそうじゃん」
『そんな人が冒険者やってるって可笑しいでしょ。そうだったとしてもエリックはディリーの為に家を捨てて冒険者になったんだわ』
エリックの物語が勝手に出来上がっていく。
もし本人が聞いたなら、恥ずかしそうに苦笑したに違いない。
エリックのそんな表情が脳裏に浮かび、俺も苦笑してしまう。
そんな俺の様子にはお構いなしにピノとアンで盛り上がって議論が白熱していくが、メアルは顔を赤くするだけで話には加わっていない。
何か言おうとして、躊躇してを繰り返している。
メアルの様子からすると、メアルがピノに与えた影響は大きそうだ。
「メアルはどう思う?」
アンは白熱するあまり、義妹に対する言葉遣いになっている。
急に振られたメアルは慌てて答えた。
「え、私? 私は……じゃあ誰も選んでないからウェウルで」
『ちょっとメアル。クイズじゃないのよ?』
ほう、どちらが正解なのかとか言い争っていた気がするが、クイズじゃなかったのか?
正解しても何も出ないけどな。
このままでは夕方になっても話が終わらない。
そろそろ正解を出して先に進もう。
「確かに恋愛に生まれは関係ないかもしれん。だがピノ、不正解だ。エリックには別に婚約者がいるし。その婚約者もディリーの知り合いだそうだ」
『うそ!』
「ほらー、そうじゃないかと思ってたのよ。やっぱギリアンでしょ」
「アン、その読みは正しいが、回答は不正解。ギリアンはディリーの兄だ」
「あら? え、じゃぁまさか」
「そのまさかのウェウルがディリーの恋人だ」
「おーメアルが正解だ」
『えーウェウルぅ? 一番無いんですけど!』
予想が外れたピノは悔しそうだ。
思った以上に感情豊かなのは、元々なのか、メアルの影響からなのか。
後者なら、本当のメアルは情熱的なのだろう。
メアルの慌てぶりを見た限り、それは正しい気がする。
そしてメアルの好みをピノが暴露してしまったなら、それは恥ずかしいだろう。
メアルの好みは礼儀正しいイケメンって事になるな。
「俺には何とも言えんな。2人が恋仲になった経緯までは流石に知らん」
「気になったんだけどさ、ウェウルさんはカールさんに嫉妬しなかったの?」
「アン蒸し返すな。ウェウルには『慣れなれしいのは誰にでもだから我慢してくれ』と言われていたから諦めているんだろ」
「カールさん……それって」
「いやはや呆れるわー。それは言葉通りの意味じゃ無いから」
『そーよ、解ってないわね。それは ”馴れ馴れしいのは誰にもだから勘違いするな”って言ってるのよ!』
「ほう? そうだったのか」
確かにそう捉えることもできるかも知れない。
しかし3人?全員に呆れられるとは。
「メアル、これは先が長いわね」
『ホントにね』
「もうアン、ピノ、知らないわ」
なんと言うか、アンとピノはなんだかんだで波長が合っているようだ。
メアルは何やらまたも顔を赤くしている。
「流石にそろそろ話を続けていいか?」
怒っている訳ではないが、敢えて有無を言わせない口調で言った。
彼女達(精霊も含む)に合わせていると話が進まない。
「カールさんお願いします」
3人?はお互いの顔を見合わせたあと、代表してメアルが答えた。
さて、まだまだ先は長いな。
アンの入れてくれたお茶を立ったまま一気に飲み干して喉を潤すと、俺はまた話し始める事にした。
★★★★★
Side カーライル(カーライルの回想)
冒険者になって2ヶ月後
「カール そっちはどうよ?」
その呼びかけに口に指を当てる仕草で答えた。
呼びかけた主も、慌てて口に手を当てる。
俺はハンドサインで誘導しながら安全と思える場所まで移動した。
「大声を出さない様に言った筈だ……それと、ここから近くに巣穴がある」(小声)
「カールごめんー」(小声)
相変わらず馴れ馴れしいエリックの所の女魔道士ディリー。
許可してないが、勝手に俺のことを『カール』と呼んでいる。
俺はソロのままのだが、すっかりパーティーメンバーの様な態度で接してくる。
というのも共同で依頼を受けることも数回あったからだ。
俺もエリック達も冒険者になってニヶ月。
既にいくつか依頼をこなしていた。
そして今回もエリック達と共同で依頼を受けたのだが、厳密に言えば今回はエリックに頼まれたが正しい。
依頼の内容が、【イーター】の討伐だったからだ。
現在拠点にしてる都市【キノ】の近くにある村からの依頼で、難易度はFランクの新人には少々荷が重い。
依頼の推奨ランクはEだったが、今回は2チーム合同という事で依頼を受ける事が出来た。
【イーター】とは、言ってしまえばトカゲだ。
しかしこのトカゲは、蛇のような口と顎を持ち、瞬きする間も無く獲物を丸呑みしてしまう。
大型になると牛ですら飲み込むという。
その敏捷性に慣れていなければ、命を落としかねない。
名前の通り貪欲で、捕食できる大きさなら何でも喰らおうとする。
音も無く近づいてくる狡猾なハンター、それが【イーター】である。
しかし一方で【イーター】は憶病でもある。
周囲の音に敏感で、複数の人間が居ると逃げてしまう。
俺がディリーを窘めたのはそういう理由があった。
もしここで逃げられてしまうと面倒な事になる。
別の地に移動してくれるなら有り難いが、憶病なコイツらは基本的に巣の場所を縄張り内のどこかに変えるだけだ。
俺の知る限りでは、【イーター】の縄張りは結構広い。
折角運良く巣を見つけたのだから、一から探し直しはしたくない。
因みにこいつが魔物化すると相当厄介だ。
魔物化の基本で身体能力はかなり上がる。
只でさえ素早いコイツが魔物化すれば、更に俊敏になるのだ。
しかもその場合、コイツは最大で全長60メタ(6m)まで大きくなる。
人間の大人なども余裕で一呑みである。
生身では手に負えないので、中型巨兵が必要になる。
今回の討伐対象は家畜である生後1ヶ月位の仔牛を飲み込んだと言うので、人間も子供くらいなら飲み込めるサイズだろう。
このサイズなら然程成熟はしていないとみていい。
推奨Eランクというのも個体が小さいとの推察の上での事に違いない。
しかし慣れた冒険者なら1人でも問題ないが、新米冒険者には厳しい相手だった。
俺たちは仔牛が襲われた草原の近くで巣穴の捜索を開始した。
ヤツの習性から考えれば草原に巣穴を掘っている可能性が高いからだ。
最初1−2−2の3チームに分かれて捜索を開始したのだが、ディリーは1人で俺の元に現れた。
更に手を分けたのだろうが、危険と判っていないのかもしれない。
冒険者の行動は自己責任だから、単独行動をして不測の事態に陥ろうと知ったことでは無い。
とは言え、とばっちりを受けるのは御免蒙りたい。
今回の所は何事も起きていない様なので不問しよう。
注意するなら一緒にいるはずのギリアンにも言わなければならない。
「急ぎ合流するぞ」
巣穴も発見できたので、合流を急ぐことにした。
今も探索しているだろう彼らに、これ以上一人で動き回られると危険だ。
【イーター】に感づかれたら目も当てられない。
巣穴を見つけた時に合図には凧を使う事になっていた。
本来は凧での合図は実用性が高いとは言えない。
平地でなければ発見出来ないし、天候や風に左右されるからだ。
しかし今回は場所も平野で且つ、音を出したく無かったので凧を使うことになったのだ。
幸い天候に恵まれ、そこそこ強い風が東より吹いているので問題は無かった。
今回の【イーター】討伐依頼で巣を探したのは、罠を張って待つのは非効率だからだ。
先ず、【イーター】は死肉を食べない。
動くものしか捕食しないのだ。
生きた囮を使えばいいが、買うのは高くつくし生け捕るのも手間だ。
なにより、討伐対象は1匹とは限らない。
そんな理由から巣穴を探す事にしたのだった。
子供がいたならしっかり駆除しなければならないからでもある。
☆☆☆☆☆☆
俺達は無事合流し、巣の近くに来ていた。
エリック達は緊張した表情で巣穴を見つめている。
草原に開いた穴、まるで落とし穴だが、それが【イーター】の巣だ。
俺の気配察知からすると巣には何かがいる。
エリック達には打ち合わせ通り無言で待つように視線で合図した。
彼らも頷きで了解を意を示した。
今から巣の周囲に罠を張るのだが、この瞬間が一番危険だ。
もっと経験を積めば、そのうち彼らにも任せられるようになるだろうが、今は危険と判断し俺がやることにしたのだ。
俺は無音で刀を抜き、巣穴に近づく。
近づきながら空いた手で腰の袋から札を数枚取り出した。
これは捕縛を司る【アンテベード】の札だ。
使えば対象を地から生える蔦で絡め捕縛することが出来るタイプの札で、予めギルドで買っておいた物だ。
巣の前に着くと、穴の周囲を囲むように札を起動させた。
神の力を宿した札の起動は ”請願の儀” を行うのだが、簡単に言えば起動の合言葉を言うだけ。
魔力を持たない者が言っても起動するのだから呪文というのは相応しくない。
やはり合言葉と表現するのがしっくりくる。
但し合言葉は札に血を一滴捧げた者だけに反応する。
俺の合言葉に反応した札は地に沈むかの様に消え、代わりに巣穴を囲むように蔦が生え出した。
この蔦は血を捧げた者に絡まる事はない。
今回は俺とエリック達4人の血を予め札に捧げておいた。
振り向けば、エリック達も武器を既に抜いている。
俺が合図を出すと、エリックとギリアンが恐る恐る近づいて来た。
2人は緊張していて足取りは慎重に、視線は巣穴から離れない。
俺は俺で彼らが来る前に袋から煙玉を取り出した。
これも、火の神の眷属神で煙を司る【キンチ】の札を利用した冒険者道具の一つ。
投げやすいように石を札で包んだだけの物だが、今回は事前に作っておいたのだ。
当然血も一滴前もって捧げてある。
血を捧げるのは札の所有者兼使用者を決定する事になるので、冒険者たるもの買ったその日の内に血を捧げておくものだ。(登録とも言う)
俺、エリック、ギリアンで穴を囲む。
アーチャーのウェウルと魔道士のディリーに視線を合わせれば、2人も頷いた。
穴に煙玉を落とし起動させると、直ぐに穴から煙が吹き出した。
煙は風に流され、こちらの視界を遮る事はない。
天候は我々に味方していた。
「来るぞ」
俺が注意を促した瞬間、【イーター】が穴から飛び出して来た。
驚き、巣穴から飛び出した哀れな【イーター】は直ぐに蔦に捕縛され身動きが取れなくなった。
いくら暴れても蔦の拘束から逃れる事が出来ずにいる。
我々の接近に気付かなかったのは、風が絶え間なく吹いていたおかげと、奴が食後の昼寝でもしていたからだろう。
必至に蔦から抜けようとしている【イーター】を観察してみた。
背中のみ緑色だがあとは土色の鱗に覆われた体に短いが太く鋭い爪の生えた4足が生えている。
それだけ見れば大型のトカゲに見える。
しかし、ほとんど全てが口と思える平べったい大きな頭は体とのバランスが取れていない。
頭身でいえば短い尻尾までいれても3.5頭身くらいか。
そのアンバランスなフォルムが【イーター】の特徴だ。
その大きな頭にある大きな口を大きく開けている。
確かに仔牛くらいなら飲み込めそうだ。
とは言え、コイツは個体としてはやはり小型だった。
「まだ繁殖期前か」
「ええ、他に出てきませんし1匹だけでしょう」
「それで、どうする? これ俺らにも絡まってこないよな?」
「どうかな…カーライルさんどうしましょう?」
既に打ち合わせ済みだったのだが、2人とも記憶から飛んでしまった様だ。
蔦が我々に絡まって来ることはない様にしてあるし、拘束が成功したなら殺るのは2人の役割のはずだ。
思いの外、簡単に捕縛出来、簡単に殺せる状態になった為に2人は躊躇しているというのもあったかも知れない。
敵の反撃があるなら自らの命を守る為に必至になれるが、無抵抗の命を狩るのは”命を奪う”という強い意志が必要だ。
いざその場面にきて躊躇するのは新人冒険者あるあるで上がるネタでもある。
しかし札の効果がそろそろ切れる。
切れればこんな悠長なことはやってられないが、やはりこの2人にはまだ荷が重いか。
「……俺がやる」
俺の決断に2人から反対の声は上がらない。
異論も無いようなので【イーター】の横に位置取りを変えると刀を上段に構え、一気に振り下ろす。
【イーター】は先にも述べた通り、頭部が胴より大きくまるで胴の短い蛇に4足がついたような形状の生き物だ。
正直首が在るのかは分からないが、頭の付け根を首と言っておこう。
俺は【イーター】の首を一刀両断した。
その平べったいほぼ口だけの頭がボトリと落ちる。
【イーター】は蔦に絡まれたまま抵抗することも出来ず、あっけなく討伐は終了した。
☆☆☆☆☆
「何から何まで済みません」
「いや、問題ない」
エリックが俺に謝っているのは、俺がイーターの胴を背負っているからだ。
というのも今回、遺体の回収も依頼の内容に含まれていた。
皮を剥いだり、食ったりと食料、素材としての価値があるのだろう。
大型だった場合は予め荷馬車を用意するのだが、今回は依頼書の推奨ランクや、直に話を聞いた感じから必要は無いだろうと考え、荷馬車手配はしていない。
そして実際その予想通りだった。
俺が首を落としたので、せめて遺体の回収はやらせて欲しいと言ってきたエリックだったが、胴が重くて背負うことが出来なかった。
残り2人も言うに及ばず(ディリーはそもそも頭数に入れていない)なので、結局俺が背負っている。
もっと細かく切断して皆で背負う案も出た。
しかし重さにして10キラム(100kg)位、背負えない重さではなかった。
正直余り細かく切断しては格好がつかない。
なにより、首の切断以外は傷もない状態だから、そのままのほうが依頼者も喜ぶだろう。
首からの血の流れが止まり次第、血が垂れないよう切断面に麻切れを巻きつけて縛り、背負える様に縄を掛けていく。
頭の方も同じ様な処理を施した。
結局、頭はエリックが、胴は俺が背負うことで決まった。
「アンタ達だらしないぞ。カールを見習いなよ」
ディリーが幼馴染達を誂っていた。
「「「面目ない」」」
男3人は本当に申し訳なさそうにしていた。
「そう言ってやるな。これから鍛えればいい」
「カールて優しいねー。ホントに報酬は頭割りでいいの? アタシらほとんど何もしてないし」
「カールさん。今回は僕たちは本当にいただけで役に立てませんでした。本来なら全部カールさんが持っていくのが筋です」
「いや取り決め通りでいい。それが気になるなら……そうだな戻ったら1杯奢ってもらおうか」
「カールさんありがとう」
「それでいいなら、大盤振る舞いで私のお酌もつけちゃうよ」
「いや、それはいい」
「なんで断るのよ」
「自分のペースで飲みたいからだ」
「そりゃディリーに合わせたら、のんびり飲めんわな」
「まったくだ。そもそもお前のは”お酌”じゃなくて”強要”だし」
「ウェウルも兄貴も酷いぞ」
そんな会話をしながら村に着き、依頼者より報酬を貰うと、俺達は【キノ】に戻った。
【イーター】退治の依頼達成により、俺もエリック達もEランクに昇格した。
これで、冒険者としては脱初心者として扱われ、この都市より離れた場所の依頼も受けれる様になった。
その晩、昇格祝を兼ねて約束通り俺はそれぞれから一杯奢って貰った。
楽しい酒を飲ませて貰ったが、それがエリック達と過ごした最後の夜になった。
☆☆☆☆☆
翌日、俺がギルドに顔を出した時、丁度エリック達が出ていく所だった。
彼らは、遠出出来る様になったので常設依頼である大森林での薬草取りの依頼を受た。
俺は、昨日の深酒で胃が重かったのが祟り、その日は大森林行きの依頼を受けることが出来なかった。
大森林での薬草取りは常設依頼ではあるが、乱獲防止の為に1人3組までしか受ける事が出来ない。
それは、大森林の近くにある村との取り決めでもあるらしい。
往復合わせて10日位の日程が必要な依頼なので人気がある依頼とは言えないが、年をとったベテランか、エリック達の様な遠出したがりのEランクに成りたて冒険者が受けるのでこの日の依頼は全て他の冒険者に取られてしまった。
翌日、俺も大森林での薬草取りの依頼を受けることが出来た。
依頼無しでもよかったのだがどうせなら依頼を受けていきたい。
道中は乗合馬車では無く歩きで行ったが、道中で山賊や追い剥ぎ、狼やモンスターに遭遇することもなく【スタ】の町に着いた。
通常では【キノ】から【スタ】までは3日歩く。
しかし理由は分からないが、何故か急がないとならない気がして、俺は3日目の早朝には【スタ】に着いていた。
そのまま直ぐに大森林の向かうつもりだったのだが、強行軍だったのと【スタ】の市場で立ち食いしたのが悪かったのか、腹が満たされて流石に睡魔に襲われてしまった。
仕方がないので宿で仮眠をとることにした。
時間にして1刻半(3時間)程か、時計塔の3の鐘(午前10時)で目が覚め俺は何かに急かされるように大森林に向けて出発した。
日が落ちる少し前、俺は今まさに魔物に襲われようとしている一団を見かけた。
そして、その一団の中で一人の少女に目が止まった。
恐怖に飲まれた大人達の中、魔物に立ち向かおうとする意志を少女から感じた。
不思議なことだが、先程までの焦燥は感じなくなっていた。
(メアル達には言えないが、俺はこの子の危険に間に合うように急いでいたのかもしれない。何故ならその時俺が感じていたのは安堵だったのだ)
魔物は狼の魔物だった。
既に犠牲者がいるらしく、狼本来の大きさでは無い。
少女を助けるべく魔物の前に進み出た。
(今生で)初めて魔物に相対したが怖くは無かった。
飛びかかって来た魔物に対しては冷静に対処し、すれ違いざまに首を斬り落とした。
胴だけで暴れて血を撒き散らされても困るので四肢も切り落とす。
魔物を処理し終えると、改めて襲われた一団に向き直った。
そして、俺はメアルに出会った。
(本人を目の前にして言えないが兎に角気になった、の一言に尽きるだろう。強大な力を内に秘め、それでいて儚い美しい少女、そして彼女の持つ唯一の色)
「私はこの先の村に住んでいるメアルと言います。あのもし良かったら今夜は私の家に泊まっていただけませんか」
(俺とメアルの転生の事を知らないアンがいるので、メアルの力に興味を持った事、俺のアジトや本当の目的、メアルの訓練の事は伏せる事にした)
メアルの申し出を受けるべきか、少し迷ったが受けることにした。一晩泊めてもらうことで、助けた件はチャラした方が気が楽だった。
「んーそうさせて貰えると助かる。俺はカーライル、宜しくメアルさん」
俺は以前の依頼での戦利品である魔法のランタンに火を灯した時、松明を持ってきていないことに気づいた。
魔法のランタンは明るいが、火の明かりではないので、浄化の炎を作り出す事が出来ない。
我ながら間抜けな事だ。
魔物を倒したはいいのだが、浄化しないのは不味い。
冒険者は浄化の札の所持義務があるので、札の方は俺も持っていた。
結局メアルの父親ウェルノ殿から松明を借り、魔物を浄化することにした。
冒険者としては恥ずかしい限りである。
浄化の札を使って松明の炎を浄化の炎に変え、魔物は浄化した。
さて、作業も終わったかと言うところでウェルノ殿が魔物が現れる前に悲鳴が聞こえた事を教えてくれた。
生きているとは思ってはいない。
魔物がここまでやってきた以上、そこには犠牲者の亡骸が有るだけだろう。
俺は魔物が現れたという方向を調べることにした。
犠牲者は直ぐ見つかった。
魔物の残り気とでもいうのか禍々しい感じの残滓を、前に進むほどに強くなるのを感じたからだ。
そして、再会した。
物言わぬ身となった4人(の残骸)だった。
エリック達だと分かったのは血まみれになった装備や、服に見覚えがあったからだ。
(彼らの状態をメアル言うのは、躊躇われるのでか割愛した。メアルも魔物に村を襲われている)
拾えたタグは エリックとギリアンの2人の物。
血塗れのタグに掘られた名前を見て、犠牲者が彼らで間違いないことが確定した。
ウェウルとディリーのタグも回収してやりたかったが、探した限りは見つからなかった。
魔物の浄化跡からは出てこなかったので、タグごと食われた訳ではないだろう。
それにしても大森林の手前の林のこんなところで4人は何をしていたのか?
見た所薬草は無い。
今となっては知る術も無く、知る意味もない。
彼らも冒険者。
こうなる可能性があることは、分かっていての行動なのだろう。
もう少し探してやりたかったがメアル達をあまり待たせても悪いので戻ることにした。
「エリック、ギリアン、ウェウル、ディリー……運が無かったな……ゆっくり安め」
実力云々は言わない。
人の身で敵わない相手など、この世界にはいくらでもいる。
そんな相手に出会ってしまったのは運のなさ故だ。
冒険者を含め、旅をするものは運を司る神【ラキス】の札を買うか、神官より加護を受けるものだが、それでも絶対は無い。
4人の為に俺は 平静、安寧を司る神【スレターセ】と光・聖を司る神【セレイブ】の札を使う。
死霊系の敵が出た場合、怖いのは恐怖を撒き散らす事だ。
その対策として持っていた札だった。
まさか彼らを死霊にさせない為に使うことになるとは。
2枚の札を起動させると白と黄色い光の粒子が雪のように彼らに降り注ぐ。
【セレイブ】がこの場の不浄を払い、【スレターセ】が4人の魂が受けた恐怖を沈め、平静な眠りを与えてくれるだろう。
4人の返事は当然ながら無い。
しかし、降り注ぐ光の中に4人が感謝する笑顔を見た気がした。
これで彼らが生者を憎み、彷徨い続ける闇の者になることは無いだろう。
そこでふと、最後に一緒に酒を飲んだ時の事の会話が思い出された。
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『カールさんは何故冒険者になろうと思ったんです?』
『孤児院出身だし冒険者が手っ取り早く稼げると思っただけさ。エリックこそいい家の出だろうに』
『やっぱり分かりますよね。でも僕の家は男爵家ですが代々冒険者家系なんですよ。今は引退してますが父もAランク冒険者でした』
『冒険者家系の貴族家なんてあるんだな』
『珍しいですよね。爵位は祖父がSランク冒険者として功績を上げ、何かの報奨として貰ったらしいです。なので僕も将来冒険者になるのは、子供の頃から当たり前の事と思ってましたし、僕の誇りでもあるんです』
『なるべくして冒険者になったんだな。でギリアン達とは?』
『貴族といっても名ばかりで、一般家庭より多少裕福な程度です。だから幼少の頃は普通に町の子供たちと遊んでましたよ。ギリアン達とはその頃からの付き合いです。』
『名ばかりと言うが、許嫁もいるって言ってただろう』
『はい、許嫁と言っても僕が幼い頃に祖父が決めた婚約でして。相手は同じく男爵家のご令嬢ですが、祖父の親友で冒険者時代にパーティーを組んでいた方のお孫さんなんです。僕はまだ3回ほどしか会ってないし、挨拶くらいしかしたことないですよ』
『それは、大変だな』
『貴族家同士の約束になっているので、あと5年、彼女が18才になったら結婚しないとですが、それまでにSランクは無理でもAランクにはなりたいんです』
『Aランクか。頑張れよ』
『ありがとう』
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結局エリックはAランクに成れなかったな。
だが冒険者なんてそんなものだ。
こうして多くの冒険者達が夢を果たせぬまま日々脱落していく。
「俺は行く。じゃあな」
俺は4人を残し、メアルの元に戻った。
続く




