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騎士と聖女の物語  作者: 丁太郎
黒髪の男編
11/36

1.駆け出し冒険者

カーライル編です

◆◆◆◆◆

Side カーライル

メアルの護衛騎士になって数日後


 アマリアの王都【リリーノ】は平野の都市だ。

 その都市の中心にアマリアの王宮はある。

 王宮と言っても高い城壁には複数の尖塔が建ち、王宮中央には更に一際高い巨大な尖塔がそびえ立つので、王城の様に見られている。

 しかし城壁の内側に入れば、豪華かつ華美な宮殿に目を奪われるだろう。

 そんな王宮の庭をメアルと2人で歩いていた。

 

 メアルの護衛騎士になって数日。

 メアルは俺に色々と聞きたいような素振りだが、その機会はなかなか無い。

 養女とはいえメアルは王女になってしまった。

 義姉のアンが侍女として付いているし、そもそもメアルは忙しい。

 俺は護衛騎士として付き従っているが、役割に徹し2人きりでの話は今まで出来ていなかった。

 それが今日は、どうしたことかメアルに散歩できる時間的余裕があり、しかもアンも所用で外している。

 庭なので人目はあるが、会話の内容までは聞かれはしない。

 この状況は偶然なのではなくアンの演出なのだろう。

 お節介な事だ。 


「カールさん」


 俺の前を行くメアルが歩きながら話しかけてきた。

 立ち止まって会話をし、あらぬ噂を立てられる危険を避ける為だろうか。

 メアルの言葉からは少し緊張を感じる。

 周囲に人の気配は感じない。

 少しだけなら以前の様に話しても大丈夫だろう。


「どうした」


「ゆっくり話すのも久しぶりですね」


「そうだったな。それにしてもしばらく見ない内に大きくなったものだ」


「それを言ったらカールさんだって随分と大人になったわ。だって、あれから7年だもの」


「そうだな…もう7年か」


「はい……」


 前に会ったのは【スタ】の町で、7年も前の事だ。

 お互い変わるのも致し方がない。

 メアルは美しくなった。

 お披露目をすれば、求婚者が後を絶たないだろう。

 あんなに小さかったのにな。

 一緒に訓練した日が懐かしい。

 その2人が今では王女様と、その護衛騎士として王城で仲良く散歩とは。

 人生分からないものだ。


「ところでアンはどうした」


 俺に何か聞きたいだろう事はメアルの様子から察せられる。

 何を聞きたいのかも、まぁわかる。

 だが、俺にもわからないから答え様もない。

 俺の方でもメアルと話す内に何か判るかもしれないので、世間話や昔話をしながら時間を稼ぐ事にした。


「アンには用事を頼んであるの」


「そうか。散歩の時間はどれくらい取れる?」


「今日はお休みなの。だから時間はたっぷりあるわ」


 たっぷり、ね。

 これは、覚悟したほうが良さそうだ。

 実際、メアルの向かう先は東屋だ。


「時間があるなら聞いておきたいことがある」


「なんでしょう」


 メアルの緊張が強まった。

 大した事ではないのだが。


「以前に渡した短刀は気に入ってくれたか気になっていたのだが」


 その言葉を発した途端にメアルの視線があらぬ方向に向いた……気がする。

 不思議なものだ、俺からはメアルの後ろ姿しか見えないのに強くそう感じるのだから。


「………………………はい、とっても」


「なんだその長い間は。まさかと思うが包丁代わりに使ってないよな?」


「大丈夫! 刃こぼれ一つしなかったから」


 メアルよ、その返答は肯定だ。


「やれやれ、刀が泣くな。今度手入れしてやろう」


「それが、この王宮に上がる前に封印されてしまって鞘から抜けないの」


「ああ、まあそうだろうな」


「だから、大事には保管しているけど……ごめんなさい」


「謝らなくていい」


 そんな話をしている内に東屋に到着した。

 俺は椅子を引いてお姫様を座らせた。

 俺は その背後に立つ。


「美しい庭ね」


「ああ、そうだな……メアルは……このままどこかに嫁ぐ事になっていいのか?」


 俺はメアルよりも先に聞きたい事を聞くことにした。

 きっと俺はこの後長く話さねばならないだろうから。


「嫁ぐ事になっても、きっとそう長い事ではないから……」


 そう言ってメアルは空を見上げた。

 メアルの呪いか。

 メアルは人生を諦めている……特に今回の彼女は色々と振り回され過ぎた。

 

 先ずは村での穏やかな生活を破壊された。

 次に【スタ】で始まった新生活、それらの環境に慣れた頃にアマリア王家の思惑で新しい家族と引き離される事になった。

 それからずっと王女としての教育を受け、やりたい事も出来ない始末。

 メアルは不満を言いはしないだろう。

 言っても意味がないからだ。

 彼女にいくら大きな力が合ったとしても抗いきれるものでは無い流れがある事を、メアルは繰り返す人生の中で悟ってしまった。

 しかし、俺の勘は彼女の思う展開にはならないと告げている。

 今はメアルに余計な期待をさせたくないから話さないが、そうなっても良いように準備だけは裏で進めるとしよう。

 そして、俺は彼女の人生に関わる気満々な事に今更ながら内心可笑しくなってしまった。 

 だからか、つい言ってしまった。


「そうか、俺も護衛騎士として最後まで付き合おう」


「…………どうして……」


 メアルの声は若干震えていた。

 やはりそう聞かれるか。

 俺には本来、彼女にそこまでしてやる義理は無い。


「それが仕事だからな」


 そんな理由では納得するまい。

 しかし、そんな理由でしか説明出来ない。


「カールさんはどうして……私の護衛騎士になろうと思ったの?カールさんなら思うように生きていける。自由に冒険者をやっていられたわ。それにカールさんには色々してもらった。でも私は何もお返し出来ない。何も出来ていない。なのにどうして……」


 メアルの疑問は尤だ。

 だから俺自身 なんでだろうな? と思っていた。

 だが、彼女の言葉に回答を得た気がした。

 彼女の不安そうな、何かを求めて祈るような、そんなを気持ちを彼女の言葉から感じ取った。

 そしてその途端に感じた思いが俺の"答え"なのだろう。

 

<この子を守ってやりたい!>


 その思い。

 理由なんてその思いだけで十分だ。


「冒険者は好きだからやっていた訳じゃない。俺はずっと俺の望むようにやってきた。そしてその結果、今俺は君の後ろに立っている」


「カールさん……」


「メアルは俺の弟子だからな。弟子の成長は師としては気になるものだ。そんな弟子が王宮に囚われてしまった。ではその場合どうしたら手っ取り早いと思う?」


「それが護衛騎士……なの?」


「正解だ。君が王家に引き取られたと聞いた時、王家が君をどうするか直ぐに見当がついた」


 俺の思いを素直に言ったところで彼女には重荷に違いない。

 彼女がそれを知る必要はない。

 寄り添って守ってやれるだけで俺はいいのだから。


「私は弟子として頼りないですか?」


「ああ、まだまだだ。だからメアルの護衛騎士となった。この身分なら君に稽古を付けても問題にならない。俺はこう見えて完璧主義者でな。メアルを一人前にするまでは離れるつもりはない」


「その……その為に私の呪いに巻き込まれる事になってもですか?」


「なってもだ。俺の命だって明日の保証が在るわけじゃない。だから今居たい場所に居るようにしている。それが今は君の背後だな」


「………カールさんの変態」


「自覚は無い。が、君が言うならそうなんだろう」


「私って面倒な人に教えを受けてしまったんですね。カールさんは思っていた以上に奇特な人です」


 メアルの言葉からは、疑問や不安が消えた。

 その代わりに今の彼女の言葉には大きな呆れが含まれていた。

 それでいい。


「それは光栄だ」


「カールさん……ありがとう」


 取り敢えずは納得してくれた様だな。

 内心胸を撫で下ろしていたら、急にメアルがこちらに振り向いた。

 ふぅ、どうやら予感的中だ。

 


「何か聞きたいことがあるようだな」


 諦めてメアルに聞いた。

 どうぜ長話になるからお茶でもほしい所だ。


「はい。弟子のお願いを聞いてほしいの」


「その願いとは?」


「カールさんが私の護衛騎士になるまで事を聞きたいの」


 確定だな。


「なんでまた聞きたいんだ?」


「私の護衛騎士がどんな人なのか知りたくて。本当に信用できるのか判断する為にも」


 嘘つくな。

 その目は俺を推し量っているものじゃない。

 どうみても好奇心で聞いている様にしか見えない。

 だからか失礼な物言いにも不快感はない。


「説得力が無いが、まぁいいだろう。喉が乾く程度までくらいならな」


「そろそろアンがお茶を持ってくるから、最初からでお願いします。さぁ席について」


 メアルめ、最初からそのつもりだったな。

 その証拠にイタズラが成功した子供の様な目をしている。

 メアルの嬉しそうな表情に、喉まで出かかった文句を封じられてしまった。

 やれやれ 俺の負けだな。

 俺の話など面白くないのだが、聞きたいというのなら聞かせてやろう。


「気遣いは嬉しいが立場上そういう訳にはいかない。このまま話させてくれ。その席はアンに譲ろう」


「アンもカールさん謎の人だからって聞きたがってるわ」


「揃って奇特なことだ。ではそうだな冒険者登録した日から話すか」


「それ以前はどうしてたの?」


「ああ、孤児院にいたよ。赤子の時に孤児院前に捨てられていたそうだ」


「ごめんなさい」


「気にしてない。親には親の都合があったんだろう。それに知っているだろ、俺も転生の記憶を持つ者。そんな人生は何度も経験したし今更何とも思わないさ」


 俺は俺の転生に関してメアルに話していないことがある。 

 俺はある日突然、心臓が苦しくなって倒れ、そのまま死んでしまう。

 毎回死に方は同じだが、死ぬ年齢がまちまちで法則が判らない。

 兎に角、大抵30前で死ぬので老衰で天寿を全うしたなんて事は一度も無かった。

 今回もいつまで生きていられるのかわからないから思うように生きようと思っている。

 当然、今後もメアルに話すつもりは無い。


 そうして俺が転生を繰り返す理由は今の所不明だ。

 だが、なんとなく俺は何かを探している気がする。

 それが何かは未だにわからないが、いつの人生でもそれを探し続けている。

 最古の記憶は400年前。

 その時から、俺は何かを求め探し求めていた。

 恐らくは最古の記憶の以前に失った何かを。

 

「はい……」


「ところでアンは転生の事は知っているのか?」


「いえ、私から話した事は無いわ」

 

「わかった、気をつけよう。さて話下手だが聞いてくれ」


 遠目にアンがワゴンを押しながらこちらに向かって来るのが見えた。

 彼女が来る前に転生については話してしまおうか。

 そしてアンが来たら先ずは紅茶でも貰おう。

 丁度冒険者ギルドへの加入辺りからはアンにも聞かせる事になる。

 当時の気持ちや、出来事を思い出しながら口を開くのだった。



◆◆◆◆◆

Side カーライル(カーライルの回想)

冒険者登録をした日


 

 やっと冒険者になれる。

 長い15年だった。

 何度も転生を繰り返している俺だが、毎回自由になれるまでが長い。


 今回の俺は孤児で、赤子の時孤児院前に捨てられていたそうだ。

 親を知りたいとも思わない。

 いつからか、親は転生の為の条件だと割り切っていた。

 だから望みもしないし、恨みもしない。


 そして15才になった今日、俺は孤児院を出た。

 別にもっと早くに孤児院を出ても良かったが、冒険者登録出来るのが15才からだった。

 それならば、15才までは体を鍛えながら孤児院にいて幼少の頃育ててくれた親代わりの者に恩返しのつもりで出来る事をしようと思ったのだ。

 

 さて、まずは冒険者登録をして冒険者としての身分を得る。

 暫く依頼をこなしてランクを上げ、この都市以外でも依頼を受けれるようにしよう。

 そこまで済んだら最寄りのアジトに向かう。


 ここアマリア王国の地方都市【キノ】から国境近くの町【スタ】まで3日歩き、その【スタ】から更に北に1日向かった大森林に前世にて作ったアジトがある。

 そこで前世では果たせなかった自分専用の刀を打つのだ。

 

 400年前から変わらず、俺にはいくつかの能力が在る。

 何故そんな力を持っているのか判らないが、特殊な力を持っている事を何故か知っていた。

 その能力の中に《収納の力》がある。

 ここでは無いどこかに物を収納できる力だ。

 俺の意思で自在に出し入れできるのだ。

 そして、その収納空間に初めから入っていたものが幾つかあった。

 魔道具であったり、様々な素材であったりだ。

 素材の中に名称も判らない黒いインゴットと白いインゴットがあった。

 刀鍛冶の人生を歩んだこともあったが、普通の作り方では俺の持つ黒と白のインゴットで刀を打つどころか、炉で溶かす事すら出来なかったのだ。

 ついでに言えば、傷一つ付けることも出来ないでいた。

 そうしてその素材の扱い方が判らずに長らく手つかずでいた。

 

 転機は直ぐ前の前世で、ある魔道士との出会いで訪れた。

 その男は錬金術に長けていたのだ。

 男とは直ぐに意気投合した。

 不思議な雰囲気を纏った男で、まるで長年の友のような錯覚に陥るのだ。

 俺はその男の依頼の品を集める仕事をし、男から錬金技術を教わった。


 その知識を得て、突然に道が開けた。

 しかし前世ではそこで俺の時間は終わってしまった。

 だから今回は先ず、そのインゴットで俺専用の刀を打っておきたい。


 俺にある武具は(収納空間にあった)ひと振りの刀だ。

 防具は無い。

 お金は実は収納空間に保管されている前世の分を持っている。

 良い防具を買うのも容易いが、新米冒険者が良い装備をするのも目立つので考えものだ。

 都市の地理は頭に入っているので、孤児院を出た俺は先ず武具屋に向かった。

 俺が買ったのは革の胸当て、腕あて、脛当て。

 動きやすさを追求した結果そうなった。

 程度が良くサイズが合う中古の3点セットだった。

 新米冒険者には丁度いい。



◇◇◇◇◇

 (アンが合流した。茶を飲みつつ話を進めた)



 今、俺の目に前にある建物が地方都市【キノ】の冒険者ギルドだ。

 目抜き通りにある立派な建物は年代を感じさせる。

 冒険者になるのに身分証明は必要ないが、孤児院からの身元保証書があれば話は早い。

 犯罪歴も歴も無いし、直ぐに登録もできるだろう。


 建物の入り口の扉は開き放しにされている。

 人の出入りが激しいからだろうが、見ていた限り人の出入りは無い。

 さて、入るとしよう。

 

 建物の中は思ったより明るい。

 部屋の壁には幾つもの魔法の光を灯す燭台が設置されていた。

 

 ロビーには誰もいない。

 クエストボードと呼ばれている依頼が張り出してある大きな掲示板、そこにも冒険者はいない。

 この都市の冒険者は思ったよりも少ないのかもしれない。

  

 普段からこんなものなんだろうか?と思いながらカウンターに向かう。

 カウンターには受付と思われる若い男がいた。

 こういうのは若い娘が相場だと思ったんだが、ここはそうでは無いらしい。


「こんにちは。今日はどの様なご用件ですか?」


 特にこちらに興味があるような感じもなく、決まり文句なのだろう言葉を放ってきた。

 正に放ってきたが言い得て妙な感じだ。

 こちらも受け付けの男に興味は無かったので顔もはっきりとは思い出せない。

 

「冒険者登録をお願いしたい」


 そう言いながら、孤児院が出してくれた身元保証書を男に渡した。


「お借りします」


 男は身元保証書を確認しながら何か書類に書き込んでいる。


「これはお返しします」


 男は身元保証書を返してきた。

 それを受け取ると、今度はどこから取り出したのか、カウンターの上に水晶のような玉を置いた。

 犯罪歴を調べる魔法珠だった。

(俺が冒険者になるのはこの人生が初めてでは無い。

 だからこの玉が何なのか知っていた)


「この玉に手を当てて下さい」


 極めて事務的な口調だ。

 俺は魔法珠に手を当てるが当然ながら何の反応も無い。

 犯罪歴があると 審判を司る【ザーイザル】の力で見抜かれ、

 捕縛を司る【アンテベード】の力で全身を麻痺される。


「問題はありませんね。それでは登録手続は完了です。プレートを発行しますのでしばらくお待ち下さい」


 プレートとは冒険者タグの事だ。

 冒険者としてのランクと名前が刻まれたプレートになる。

 名前を刻む作業に少し時間がかかるのだろう。


「了解した。ところで此処はいつもこんなに冒険者がいないのか?もっと溢れかえっていると思っていたんだが」


 俺に話かけられて、男は面倒臭そうに俺に視線を向けてきた。

 受付には向かない男だ。


「普段は賑わってますよ。ただ今は緊急事態につき動ける冒険者は緊急出動してもらってます」


「魔物か」


 魔物の脅威は今更話す事は無いが、冒険者が総出で駆り出されるとなると40メタ(4メートル)位の中型だろう。

 依頼主はおそらく此処、冒険者ギルドだ。

 この都市を治める領主が兵を出さずにギルドに依頼したって所か。

 ここの領主は、正直領民からの評価は高くはない。

 爵位は確か伯爵だ。

 伯爵位にあってこの規模の都市を持つ領主なら、中型の木の巨兵の所持許可くらい得ているだろうに。

 使うのが勿体ないなら、そんな所に税金をかけるなと言いたい。

 冒険者何人掛かりで魔物討伐に挑んでいるのかは分からない。

 しかし男の落ち着き様からすれば、問題ないのだろう。


「察しがいいですね。ところで話かけられるとその分プレートの支給が遅れます」


「済まなかった」


 やれやれ、俺は男の邪魔しない様、クエストボードの方に向かった。

 クエストの物色をし始めた時、ギルドに入ってきた1団がいた。

 4人組で男3人女1人の組み合わせだった。

 全員若く、俺と似たような年齢と思われた。

 装備は真新しく使い込まれた様子はない。

 案の定、彼らは俺と同じく新規登録に来た新米だった。

 関わることも無いだろうと思い、俺は最低ランクでも受けれるクエストを探していた。

 しばらくすると、こちらに近づいてくる足音が聞こえてきた。 


「あの済みません」


 男に話しかけられ振り向けば、他にいないのだから当然だが4人組の中の1人だった。

 俺と似たような革装備で腰には片手剣が吊るされている。

 革の盾、革の兜、全ての武具は真新しい。

 男の顔は整っている。

 同時にまだ幼さを残しいて美少年という表現がピッタリな男だった。


「何か用か?」


 俺の方には用は無い。

 思わず突き放す物言いになってしまった。


「あなたも今日新規登録ですよね」


「ああ」


「折角お互い同じ日に登録したんです。これから祝に飲みませんか?」


 俺は少年の言い分に少し呆れた。

 彼らは冒険者登録してまず依頼を受ける訳でもなく、記念の祝杯を上げるつもりなのだ。

 彼らはあくせく稼ぐ必要は無く、衣食住には困らない環境なのだろう。

 見た所4人とも装備は真新しい。

 自分の金で買ったとも思えない。

 

 俺も今日依頼を受けなかったからといって、明日の飯に困るわけでも無い。

 話しかけて来たなら、敢えて無下にする事もない。

 気まぐれにその誘いに乗ってみた。


「いいだろう。俺はカーライル。登録が終わったら付き合おう」


「俺はエリック。宜しくカーライルさん」


 俺はエリックから残りの3人を紹介された。

 彼ら4人はお互い幼馴染で4人でパーティーを組むつもりらしい。

 エリックと同じく革の装備で武器はショートソードの男がギリアン。

 シーフ役で、サブアタッカーという所か。

 ソフトレザーの胸当てに半弓を持つ男がウェウル。

 見た通り、ミドルレンジアタッカーでレンジャー役といった所か。

 最後にパーティーの紅一点、真新しいローブに身を包む女性がディリー。

 珍しい女性魔道士だ。

 戦闘では主にサポートだろうが、アタッカーに転じればダメージディーラーとしては一番威力が高そうだ。


 一般的に魔道士の才持ちは圧倒的に男性が多く、女性は魔道士に向かないと言われている。

 その代わりなのか、女性には巫女や聖女として神と交信できる能力を持つ者が少数ながらいる。

 そしてその能力を持った男性は歴史上いない。

 ディリーは聖女の力こそ無い様だが女性には珍しい魔道士としての才があるのだろう。 


 そしてパーティーリーダーで剣士のエリックがアタッカー兼タンク役だ。

 パーティーとしてはバランスが取れている。


 俺も剣士として自己紹介した。

 我々の自己紹介が終わるのを待っていたのか、自己紹介が終わった途端に受付の男に名前を呼ばれた。

 冒険者タグを受け取ると、これから注意事項の説明があるから待つようにと言われた。

 飲み会はもう少しお預けの様だ。

 

 全員にタグが行き渡ったところで、注意事項の説明が始まった。



 先ずは、冒険者のランクについて。

 冒険者のランクはF〜AまでとAの上にSランクが存在する。

 今日登録したての我々はFランクだ。

 Eランクへの昇格は依頼達成を積み重ねていけば、自動的に上がるのだが、D以上は昇格試験があり、試験は1人年1回と決められている。

 だから1年の間に数ランク上げるなんてことは出来ない。

 最初の年にDランクまでは上げれるがそれ以降は年1回の昇格試験まで待つ必要があるのだ。

 とは言え実際には登録日からSランクまで至った冒険者の最短記録が現在8年との事だ。 

 また、Fランクの内は準冒険者としての扱いになり、登録したギルドの都市から拠点を変える事が出来ない。

 それどころか、活動範囲も制限を受ける。

 ダンジョン探索なども当然ながら許可されない。

 Eランクから正式に冒険者と見なされ、行動範囲などの制限を受けない。

 


 次に冒険者タグについて。

 材質はミスリルの様なミスリルではない様な不思議な白銀色の金属だ。

 後で説明を受けたがこれはアマリア王国の誇る人工ミスリルらしい。

 人工ミスリルは軽く魔法を弾く性質を持つミスリルを人工的に作り出したものだ。

 ミスリスの持つ独自の輝きは無いものの、ミスリルに近い性能がある。

 人工ミスリルについては聞いた事はあったが見たのはこれが初めてだった。

 売ると中々高額らしい。

 しかし再発行手数料は高く、ペナルティーも科せられると注意された。


 タグは表がランクを表し、裏は名前と登録番号が彫ってある。

 Fランクの場合、タグの表には何も掘られていない。

 Eランクにになるとタグの左端に星マークが一つ掘られる。

 ランクが上がる毎に星は増え、Aランクで星5つだ。

 Sランクは新規に本物のミスリスでタグが作り直される。

 星はタグ中央に1つ。

 

 それから依頼を受ける時のランク制限や依頼失敗時のペナルティー、魔物討伐について、魔物についての報告義務、魔物浄化の札の所持義務、死亡した冒険者に遭遇した場合のタグの回収義務、報酬の支払いについて、冒険者口座とタグ払についての説明を受けた。


 タグ払は冒険者ならではの特典と言える。

 冒険者として登録すると漏れなくギルド内に個人口座が開設され、依頼達成の報酬は口座に振り込まれる。

 その口座だが、タグと組み合わせてツケ払いができる。

 冒険者ギルドと提携している店ではタグで身分証明すればツケが効く。

 そして後日、口座から引き落とされる。

 店側、ギルド側両方の手数料が掛かる上、羊皮紙による購入証明書に金額とサインが必要になる為そこまで便利とは言えない。

 その羊皮紙にタグのナンバーと氏名を焼印する魔道具を店側は持っている。

 羊皮紙に魔道具を置き、魔道具の上にタグの名前と登録番号が掘られた側を当てると羊皮紙に登録ナンバーと登録者名が焼印される仕組みで正規の証明書の証となる。

 冒険者ギルドがある都市の冒険者御用達の店は、たいていタグ払いが可能だ。

 タグ払いを可能とするために冒険者タグには焼印魔道具が反応するように細工が施されている。

 それもあって、タグを売るようなバカは滅多にいない。

 勝手に買い物をされてしまうからだ。

 因みに口座残高以上の買い物をしてしまうと、ギルドへの借金になり、最悪取り立て依頼をギルドより出されるなんて不名誉な事態になる。

 

 そんなこんな説明を半刻(1時間)程受け、無事冒険者となった。



◇◇◇◇◇



 無事冒険者登録できた俺とエリック達はその夜、夕食兼酒宴のため冒険者がよく集う店に来ていた。


「乾杯」


「「「「カンパーイ」」」」」


 何故か俺が乾杯の音頭をとる羽目になった。

 この店はギルドの受付が教えてくれた場所で、安くて美味いと聞いた。

 宿も兼ねているので今日はここで一泊する事にした。

 運良く1部屋空きがあったのだ。


 飲酒に年齢制限はないのだが、一応大人の飲み物とされている。

 一方でこの国の成人は16才なので、そういう意味では俺やエリック達がこうして飲んでいるのは勧められる行為では無い。

 しかし、そんな事を言う野暮は貴族位だ。

 結婚も16才以上からなのだが、実際は年を誤魔化して結婚してしまうなんて事はありふれている。


「カールさん。アンタ イケる口だねえ」


 真っ赤な顔をしてそう言ってきたのは魔道士の少女ディリーだった。

 最初の一杯目で既に顔が真っ赤だ。


「アンタは飲み過ぎるなよ」


「大丈夫だって」


 そう言いながらディリーは一気にエールの入ったジョッキを空け、追加を頼んでいる。


「おいおい、ホントに明日大丈夫だろうな。休みたいとか言うなよ」


 シーフ役のギリアンもディリーの飲みっぷりを心配しているが、心配している当の本人も出来上がっていた。

 

「いつもこんな感じなのか?」


 どう見てもコイツらは初めてじゃなさそうだ。

 

「まーね」

「大体はこんな感じですね」


 俺の問に答えたレンジャーのウェウルと剣士のエリックの顔も赤い。

 

 しばらく彼らに付き合い、飲んでいたが急にエリックが真面目な表情で話しかけてきた。


「カールさん。同じ日に冒険者になった仲ですし、お互い協力しあいたいのだけど、どうでしょう」


「ああ、宜しく頼む」


 確かに依頼によっては人手が多い方がいい場合もあるだろう。

 迷うほどの事でもない。

 それに、もし危害を加えようとしてきても、この4人なら瞬殺できる。

 その判断は油断でもなんでも無い、事実としての認識だ。

 


◇◇◇◇◇



 翌日。


「飲みすぎたな……」


 胃が重い、頭が痛い、二日酔いだ。

 アイツらに合わせて飲みすぎた。

 仕方がない、酒を飲んだのは初めてだからな(今回の人生では)

 なので勿体ないが、昨日ギルドで買った解毒の札を使ってしまった。

 毒、薬を司る神【シアラン】の加護受けた札だ。

 冒険者ギルドでは、冒険に役立つ様々な札を売っているが、解毒の札は必需品といってもいい。

 安価で買えるのも嬉しい所だ。


 札を頭に貼る。

 札が一瞬だけ熱くなり、俺の感じていた不快感が綺麗さっぱり無くなった。

 使い終わり、力を無くした札がスーッと塵になって消える。

 酔いというのは毒が回っているのと同じ、つまり酒は毒ということなのだろう。

 その毒である酒を司る【バルガス】と【シアラン】が夫婦神というのがまた面白い。

 酒は毒であるのと同時に薬でもあるのかも知れない。

 





 昨日待ち合わせに決めた場所、ギルド前に行くと既にエリックがいた。


「遅くなって済まない」


「カールさん、俺も来たばかりですよ」


「他は二日酔いか?」


「ははは。恥ずかしながら」


 笑い声とは反対にエリックは申し訳なさそうな表情だった。


「あれだけ飲めばな」


 エリックは控えめに飲んでいたが、残り3人はどんどんエスカレートしていった。

 そんな3人を他の客やベテラン冒険者達は何か温かい目で見ていた。

 まるで通過儀礼を受ける子供を見るような目だった。

 彼らもこれで学んだだろう。


「カールさんも結構飲んでいたけど、流石ですね」


「いや、解毒の札を使った」


「え、酔いって解毒できるんですか?」


「ああ、いざという時に役立つ。直ぐ取出せる様にしておくといい」


「なる程、そうしますよ」


「取り敢えず今は来れない3人に必要だな」


「全くです。3人のところに行ってきますよ」


「そうか。では俺は先にギルドに入っている」


「わかりました。では後で」


 取り合えず中に入った俺はFランクでも受けれる依頼を眺めていたが、その中にゴブリン退治の依頼があり、その依頼を受けることにした。

 

 

続く

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