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騎士と聖女の物語  作者: 丁太郎
出会い編
10/36

10.(補足話)女王の思惑、第一王女の嫉妬

最後にアマリア女王と第一王女のセットです

◆◆◆◆◆

Side 女王ルーサミー

メアルが氷の精霊と契約して数日後


 私には2人の娘がいる。

 長女ミリンダと次女サーラン。

 2人共自らが腹を痛めて生んだ子であり、優劣を付けることなど出来ない程に平等に愛している。

 しかし親子の情を優先出来ない立場に私はいる。

 私はこの国の女王として民を導いていかなければならない。


 今から5年前、女王として一つの決定を下した。

 長女ミリンダの王位継承順位を下げ、次女サーランを王位継承権1位にしたのだ。

 その決定のかなり前からそう決断するだろうと分かっていた。

 ミリンダに聖女の資質が無いとはっきりしたあの日から。

 親としては、ミリンダをそのまま女王にしたかった。

 ミリンダはその為の教育も頑張っていた事を知っていたから。

 しかし、この国を統べるのは聖女でなければならない。

 それは人類を救った【初めの聖女】様の御代からの決まりであり、この国の誇り。

 違えることは許されない事だ。 


 幸いミリンダは自ら剣の実力で、この国に残る事が国益につながる事を示した。

 外交カードとしての他国との婚姻は別に養女で構わない。

 それはこの国が散々取ってきた手段だ。


 そして、サーランは予想通り聖女だった。

 しかも期待した通りのエインヘリアルを授かった。

 サーランは古の大聖女、ナリータ様と同じ色を持って生まれた。

 授かった力も同じ。

 間違いない、サーランは大聖女様の生まれ変わりなのだ。


 サーランが5才になった年、同じ色を持つ事を理由にナリータ様のミドルネームを授けようとした時、大臣達から反対の声が多数あがった。

 ナリータ様もアリーシャ様に次いで偉大な女王だからだ。

 しかし、アリーシャ様、ナリータ様の色は王家の血の中でも現れる事が稀で、髪と瞳、両方持つ者はサーランが初めて。 

 結局、大臣達の反対を押し切りサーランに"ユニシス"を与えたが、その判断は間違っていなかったと証明された。 


 しかし、母としては心配だった。

 サーランはミドルネームを与えて以降沈みがちになった。

 そして聖女検査以降は以前に増して暗くなった。

 偉大な女王と同一視される重圧からかも知れないが、私はサーランの様子から違う可能性を感じていた。


 代々王位を継いだ者のみに伝えられるある日記がある。

 その日記の内容とサーランが暗い理由は関係あるのではないかと思っている。

 その日記は大聖女ナリータ様の日記だった。

 そこにはナリータ様の、いえ、この国の犯した罪と懺悔が綴られていた。

 だからこそ、この日記は、女王のみが国を統べる者、贖罪を継ぐ者として継承されてきたのである。


 この国の罪故に聖女教会と長く対立する事になっている。

 しかし対外的にこの国の罪を認める訳にはいかない。

 【初めの聖女】アリーシャ様は、救世主として全世界で最も尊敬されている大聖女様。

 聖女教会はアリーシャ様を崇めていることもあって、アリーシャ様に関する資料を公開しない我が国を、批難しているのだ。


 私は母としてサーランを救いたい。

 この王城から逃してあげれたら、あの子の心も休まるのかも知れない。

 しかし、女王としてそれは出来ない。


 現在サーランのエインヘリアルの名を敢えて公表していない。

 更にミリンダが、この国で毎年行われる剣術大会で優勝して、サーランのパートナー聖騎士に選ばれた。

 新型巨兵の開発も大詰めに入り、サーランが即位するまでには完成できるだろう。

 新女王即位と共にそれらをまとめて発表すれば、どれだけ国威を国内外に示せるだろうか。

 私は母としてでは無く、国を、民を守る為に女王としてサーランに接しなければならないのだ。





 私は執務室に居る。

 娘たちの事を考えながら、見るべき書類に目を通していた。

 ある養女に関する書類だ。

 書類にサインをしようとペンにインクを付けた時、ふと彼女との出会いの日を思い出した。

 


 聖女の力も無しに回復魔法を使った少女。

 少女の名前はメアル。

 王宮に保護される事になった経緯は中々に重い内容だった。

 彼女は大森林の側にあったコバ村の出身。

 しかし8才の時、魔物に襲われて村が壊滅。

 その時に親を失い、スタの町で商家の養女となる。

 そして10才までスタで過ごす。

 聖女検査の日、死ぬ寸前の義姉を回復魔法で救った。


 検査官より報告を受け保護を裁可をした当時、私はメアルは聖女の力を隠していると思っていた。

 私は彼女は既に契約が済んでいるのではないかと。

 でなければ、回復魔法を使うことが出来ないからだ。

 魔導師では回復魔法が扱えない。

 彼女には王国の聖女になる気が無く、真面目に祈らなかったのだろう。

 ただ、その時不測の事態が起き、隠していた力を使わざるを得なくなったと考えるのが自然だった。


 取り敢えず希少である回復魔法の使い手として王宮で保護し、いずれは騎士団に入れてはどうか、という意見もあった。

 しかし、私は彼女の処遇は会って最終判断をする事にした。

 力があろうとも本人の意思次第では、国にとって却って害悪になりかねないからだった。


 彼女が力を隠しているのなら、私が直に会うことで、私が契約する神の勇士兵(エインヘリヤル)【ヘインリー】が何か感じ取ることが出来るかも知れないという思いもあった。

 英雄【ヘインリー】は神話の時代、魔界より攻めてきた軍勢を退け、その際魔神を討ち取ったという人界の英雄。

その最後は泥酔時に橋から転落しての溺死だったという。

 死後、生前の勇猛さを戦乙女に認められ、光、聖を司る神セレイブの戦士となった。

 神の勇士兵(エインヘリヤル)としては古株のヘインリーなら同眷属の仲間を知っている可能性はある。 


 彼女を初めて見た時の事は今も鮮明に覚えている。

 執務室に入ってきたメアルを見て驚いた。

 こんな事があっていいのかと。

 彼女の持つ色は、【初めの聖女】アリーシャ様の色と全く同じだったのだ。

 アリーシャ様ついての情報は、王家で秘匿されたものが多いが、髪色、瞳の色、神の勇士兵(エインヘリヤル)の名などは、多くの文献が残っている為、貴族や有識者であれば直ぐに気付くだろう。


『俺には判らぬ。魔力はあるようだが、仲間の力は感じられん』


 結局ヘインリーは判断できなかった。

 彼女が回復魔法を使える以上、何かの神の力が働いているはず。

 ただ、へインリーでも判らない神の力なのだろう。

 神界には数多の神々がおわし、人類が知るのはその全てではない。

 神の勇士兵(エインヘリヤル)についても逸話の残っていない英雄も多い。


 しかし、聖女である事を隠しているのであれば、メアルに聖女になる意志は無いという事。

 使う気も無く、判らない力ならば、メアルの力は取り敢えず無いものとして扱う事にした。

 さてその場合、回復魔法の使い手よりも、彼女の持つ色の価値の方が高い。

 他国であってもアリーシャ様の色を知らない王族、貴族などいない。

 【初めの聖女】様は聖同盟の盟主であり、世界の救世主なのだ。

 そしてその色を持つアマリア国の()()となれば、こぞってその血を欲するだろう。

 モス国の第2王子辺りが丁度いい。

 婚姻を契機にモス国と軍事同盟を結べれば、帝国への大きな牽制になるだろう。

 

 その一方で手元に残す事も考える。

 彼女の色はそれだけで王家にとって特別で重要だ。

 どちらの手にしろ先ず最初にするべきことは同じ。

 この子を私の娘にする事が何より重要だった。

 容姿は合格。

 メアルシアの名を与え、王女としての資質は暫く見る事にした。


 メアルの成績は優秀だった。

 まるで既に身についているのでは無いかと思えるくらいに王族教育は順調だった。


 そして先日、5年ぶりにメアルシアに会った。

 そこで、サーランの様子がおかしくなり、メアルシアの回復魔法でサーランが助けられたという一幕があった。

 サーランにとってもメアルシアとの出会いは転機となった様だ。

 あの日の出会い以降、サーランの機嫌が良いと報告を受けている。

 サーランがメアルシアを度々茶会に誘っているとも報告を受けている。

 サーランにとって、アリーシャ様と同じ色を持つメアルシアより回復魔法を受けた事が、サーランの救いになったのだろう。


 実はこの時2人の様子から、私はメアルシアがアリーシャ様の生まれ変わりではないかと思い至った。

 他国に嫁がせる話を進めて本人にも話していたが、もしそうならば、他国に嫁がせるなどとんでもない話だ。

 だから確認の為にメアルシアに聖女検査を再び受けさせることにした。

 しかし期待に反し、誤魔化しの聞かない王家の検査室で改めてメアルシアに聖女検査を受けさせた際、メアルは氷の精霊と契約を結んだ。

 精霊は複数の精霊と契約を結ぶ事は出来る。

 ところが理由はわからないが、精霊は例え下位であっても神と契約を結んだ聖女とは契約を結ぶ事はな無い。

 それからすれば、メアルは神との契約を結んで居ないことになる。

 その場合、メアルは何がしらの神の【加護】を受けている故に回復魔法が使えるという事になる。

 力の強さからすれば【寵愛】かもしれない。

 【加護】や【寵愛】は神側からの一方的的なギフトなので、受ける者に神と交信出来る才能が無い者の場合も有る。


 そう考えれば説明がつく。

 メアルシアは、アリーシャ様の生まれ変わりでは無かった。

 流石に【白銀のルアメットゥーナ】を望むのは高望みが過ぎた様だ。

 ただ彼女の持つ【初めの聖女】の色と総明さは十分に拾い物といえる。


 その事はわかったので、メアルシアに仕えたいと強く希望するアンを専属侍女に付ける事した。

 メアルシアは喜ぶだろう。

 この程度でメアルシアの心を掴めるなら安いものだ。


 更に護衛騎士も最近頭角をあらわしてきている黒髪の騎士、カーライルといったか、あの冒険者上がりの騎士をつける事にした。

 非公式ながら、試合で遂にミリンダが一本も取れなかった剛の者。

 素性調査報告書に書いてあった、単独で魔物を狩れるという実力、胆力も本物かもしれない。

 強い聖騎士になれる男をつけるのは勿体ないかもしれない。

 しかし、カーライル本人よりメアルシアの護衛騎士を望む要望も上がっており、直接本人に理由を聞いてメアルシアに付ける気になった。

 それだけ与えてでもメアルシアの忠誠を得る方が得策と判断したのだ。


 さて、その上でメアルシアをモス国に嫁がせるかどうか。

 聖女検査の結果は兎も角、容姿以上の何かが彼女には有るような気がして手元に置いておきたい気持ちも有る。

 モス国との友好はそこまで差し迫って必要は無い。

 メアルシアでなくても別の養女でも構わないのだから。


 

◇◇◇◇◇



 夕食時私は久しぶりに娘達ミリンダとサーランと夕食をとった。

 その席で珍しくサーランが私に後で話をしたいと言ってきた。

 私に断る理由もなく、またサーランが自分から話してくれた事が嬉しくて夕食後すぐに執務室で話を聞く事にした。


 

「陛下、お時間を頂き有難うございます」


 今、執務室には私とサーランの2人だ。

 それもサーランが要望した事だった。

 サーランが陛下と呼んだ以上、母としてでは無く国王としての私に話があるという事だ。

 少し寂しいが、気を引き締めて臨む。


「サーラン、それでどの様な話ですか?」


「はい……メアルシアお姉様の事です」


「メアルシアの……」


「はい、メアルシアお姉様のお披露目は少し待って貰えないでしょうか?」


「理由は?」


 手元に置くのも考えていた事。

 しかしお披露目も先延ばしにしようとは。

 その場合、最も友好的な彼女の使い方を……サーランはその提案をしたい様だ。


「はい。他国にやるには余りに惜しいと思っています」


「では、メアルシアをどうするつもりですか?まさか全くお披露目しないつもりですか?」


 サーランの考えが私と同じか試してみる。

 手元に置いておく場合、最も効果的な使い方は1つだ。

 ただ、ミリンダはこの策を嫌いそうだ。


「私の戴冠式で、王女の一人で且つ聖女としてお披露目なんて面白いと思いませんか、陛下。」


「来賓達の青ざめる顔が思い浮かびます。帝国の宰相を招いたら面白そうね」


 満足のいく答えが返ってきたので、つい私も冗談が出てしまった。


「私の隣にメアルシアお姉様が立つ。それ以上に効果がある演出があるでしょうか」


「確かに、それなら戴冠式までお披露目はしない方がいいでしょう。しかし世界を欺くのは少々気が引けます」


「……我が国は……いえ、何でもありません。しかし半分は本当です。私の方は仕来りですから【サンシェリー】を顕現させる必要がありますけど、メアルシアお姉様はその必要がありません」


「そして象徴として王宮に留置くのですか?」


「各地に慰問に回って貰う方がいいかと思っています」


 大聖女アリーシャ様とナリータ様の再来。

 それを演出する方がより国威を示し、活気を呼び、兵の士気が上がることは間違いない。

 それに世界を救った大聖女のいる国に戦を仕掛けようとは、いくら帝国でも考えないだろう。

 しかし、実際のアリーシャ様の再来の方はハリボテ。

 効果は望めるがリスクも高い。


 この国は既に世界に嘘をついている。

 今、新たな嘘をついたとしても今更ではある。

 しかし、同時にそこまでしなければならない切羽詰まった状況でも無い。

 現在、帝国とも不可侵条約を締結中。

 そこまで帝国を恐れる必要も無い。

 我が国の戦力も大陸有数なのだから。

 

「わかりました。考えておきましょうサーラン」


 サーランはメアルシアを手元に置いておきたいのだろう。

 サーランの提案は、何度も検討した事ではある。

 同時に、採用する勇気がでなかった案でもある。

 私は結局リスクの低い、他国に嫁がせる方を採る事にした。


 

◆◆◆◆◆

Side 王女ミリンダ

妹サーランの聖女検査の日


 今日、妹が受けた聖女検査で、妹のサーランが聖女だと分かった。

 しかも皆が期待した通りの力を授かった。

 分かっていた事だ。

 だから私に聖女の力が無いと分かったあの日から、騎士になる道を目指した。

 今日の結果から私の王位継承順位はサーランと入れ替わる事になるだろう。

 この国を統べる者は聖女でなければならない。

 サーランの様なネームド神の勇士兵(エインヘリヤル)を持つ大聖女が女王になるなら国にとっては喜ぶべき事だ。

 しかし、私にも意地が有る。

 私に聖女の力が無いからと言って、他国に嫁がされるのは御免だった。

 来る日も来る日も王族の責務を果たさず剣を振るい続けた。

 そして陛下はそれを許してくれた。

 

 結果、3年で私の剣の腕前はこの国内有数になった。

 全てはサーランが聖女検査を受けた今年の剣術大会の為。

 そこで優勝する為に頑張ってきたのだ。

 剣術大会自体は毎年行われる行事だ。

 でも、今年は特別な意味を持っていた。

 サーランのパートナーとなる聖騎士の選考を兼ねているのだ。


 もちろん、聖女が騎士が契約を結ぶに当たり、強ければ誰でもいいという訳では無い。

 聖女との相性や神の勇士兵(エインヘリヤル)との相性があって、それは強さに反映される。

 聖女と聖騎士の相性が高いほどシンクロ率は高くなり、動きのレスポンスが上がる。

 また、聖騎士と神の勇士兵(エインヘリヤル)との相性がいいほど、聖騎士は力を発揮しやすくなって戦闘力は上がる。

 もちろん、相性だけでなく熟練度を上げることである程度はカバーできるのだが。

 

 私はサーランとは血を分けた姉妹。

 私はサーランを可愛がってきたし、サーランも懐いてくれた。

 正直相性は悪くないと思っている。

 エインヘリアルとの相性は契約の儀に臨んで見ないとわからないが、サーランの大騎士は女性型だ。

 なら男どもより私の方が相性が良い可能性が高いというものだろう。





<なんだ、こんなものか>

 

 剣術大会に望んだ感想がこれだ。

 私は聖女の才能が無い代わりに、剣の才能に恵まれた様だ。

 既にパートナーの聖女がいる近衛騎士団長を始めとする聖騎士達は今回参加を辞退しているからか、余裕で優勝してしまった。

 こうして、私は実力を示し、サーランのパートナー聖騎士となった。

 しかし、納得はしていない。

 私より強者である近衛騎士達が出ていないのだから。



◇◇◇◇◇



 私が15歳の時のお披露目夜会は、私のエスコートが副官のガレッスというお粗末なお披露目になった。

 手の平は剣だこだらけで眼光鋭い私に近づく貴族の子息達もいなかった。

 まぁ、私に勝てないような軟弱者はこちらから願い下げだが。

 私は、陛下の近衛騎士団とは別に、王室護衛の騎士団を作った。

【輝く薔薇】と名付けられた女性聖騎士で組織された騎士団。

 その騎士団を率いる私の副官は、宮廷魔術師のガレッス。

 今の所、団で唯一の男だ。

 

 この頃になると私は近衛騎士団長と互角に戦える様になっていた。

 私は剣術の指導をする側に回る様にもなっていた。



 王宮に転属してきた騎士に非公式な訓練試合で稽古をつけることになった。

 真剣で行われるこれは、騎士団の慣習で洗礼みたいなものだ。

 剣の実力が伴わない者が王宮務めの騎士になる事はないので、お互い寸止めできる技量は持ち合わせている。 


 私が相手をしたのは3人。

 内2人は3合と、剣を交えられなかった。

 そもそも私の威圧で剣筋が乱れるようでは話にならない。

 王宮に来た以上、そんな程度では困るので鍛え直す事になるだろう。


 3人目は黒目、黒髪の男。

 私の威圧を前にして、まるで微笑ましいものでも見るかのような表情を浮かべている。

 その上で抜かしたのだ。

 

「寸止めは不要故、本気で参られよ」


 周囲はざわついていた。

 私も舐められたものである。

 威圧程度で実力を測られるとは。





<何故!>


 余裕綽々で圧倒的に叩きのめすつもりだった。

 なのに、いつの間にか本気且つ、全力で屠りにいっていた。

 なのに、当たらない。

 かすりもしない、剣を合わせられもしないのだ。

 男は躱すだけで攻撃してこない。

 そのくせ息一つあがっていないだ。


「それまで」


 近衛騎士団長のストップがかかった。

 納得がいかない。

 手合わせをしたからこそ判る。

 私はこの男に適当にあしらわれたのだ。

 自分の実力の一端を見せる事すらしない。

 悔しい!


「稽古を付けて頂き、有難うございました」


 男が私に騎士の礼をとり、訓練場から下がろうとした。


「待てカーライル。まだ下がることは許さん」


 そう言ったのは審判を務めていた近衛騎士団長だった。


「次は私とだ」


 近衛騎士団長の言葉はこの男の実力を私が引き出せなかったから出た言葉だ。

 悔しいがその通りでぐうの音も出ない。


「無観客でお願いしたい」


「それ程までに見せたくないか。よかろう」


 騎士達を残し、別の訓練場に向かう2人に「精々無様に負けてこい」と騎士達がカーライルと呼ばれた男に声をかけていた。

 私は審判として2人についていった。


 別室の稽古の顛末は語る訳にはいかなくなった。

 アマリア王国近衛騎士団長が王宮に務めになったばかりの近衛でもない平騎士に本気で負けたなど話せる訳がない。

 陛下にも言う訳にはいかない。


 開始1秒も経たずに勝負が決したなんて言えない。

 私ですら何が起きたのか判らなかった。

 ただ 開始の合図を言った瞬間、カーライルという男の反りの入った剣は近衛騎士団長の首すれすれで止まっていた。

 剣をスッと引くだけで頸動脈を裂くことが出来るだろう。

 男が無観客を希望したのはこの結果を分かっていての慈悲だったのだ。

 

「実力を示さなければお認め頂けない様でしたから」

 

 そう言って男は皆の所に戻っていった。

 カーライル……

 この瞬間から私の目標はこの男に勝つ事に変わった。

 

 この後、近衛騎士団長が団長職を辞退しようし、思いとどまらせるのは苦労した。

 カーライルは強かったが、それは個人の武。

 あの男が人の上に立って組織を纏められるとは到底思えない。

 カーライルでは部下もついてこないだろう。

 騎士団長の跡を継げる人材が居ないと説明して何とか納得させたのだった。



◇◇◇◇◇



 月日が経ち私は18歳になっていた。

 鍛錬に勤しみ、婚約者探しなどには目もくれなかった。

 そんなある日、陛下より養女の王女、メアルシアを紹介された。

 正直、気に食わない、と思った。

 確かにこの容姿を考えれば、陛下が養女にするのも判る。

 しかも、【初めの聖女】様と同じ色を持つのであれば、聖女の力が無くても王宮で保護するだろう。


 何故気に食わないのか。

 陛下は国の為に必要と判断しただけで、養女の王女を育成し他国に嫁がせるのはこの国のお得意芸だ。

 庶民が王女を名乗っている事?

 いや、それも無いかと言えば嘘になるが、それ以上に気に食わない事がある。

 あのカーライルが、この女の護衛騎士の役目を望んでいるという事だ。

 私が実力を認め、近衛騎士団への口利きを申し出たのを、カーライルの奴はこの女の護衛騎士になりたいからという理由で断ったのだ。 

 なんなら、私の騎士団へ特例で迎えてもいいとも思っていたのに。

 

 あれ程の武を持つ男が、なんでこんな容姿だけの女の護衛騎士になりたいのか。

 陛下の決定に異を唱える気はない。

 しかし、私は……メアルシアが気に入らない。

 誰が何と言おうと、気に入らないものは気に入らないのだ。



出会い編 了


黒髪の男編へ続く

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