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騎士と聖女の物語  作者: 丁太郎
出会い編
9/36

9.(補足話)妹の苦悩

今回はアマリア王国第2王女サーランです。

◆◆◆◆◆

Side 王女サーラン

メアルと初めて会った日


<また、あの日の夢……>


 何故……


 何故……私は……


 あんな事をしてしまったの……


<ずっと見なかったのに最近は毎日……>


 朝目覚めた時、一筋の涙が流れた。

 何の涙? 

 私には悲しむ資格は無いというのに。

 最近はもうずっとこんな朝を向かえる日々を過ごしている。

 

 ベットから降りて、カーテンを開けると朝日が差し込む。

 本来は清々しいはずの光。

 なのにその光は私を憂鬱にさせる。


 そして夜は私に恐れを抱かせる。

 私は夜寝るのが恐ろしい。

 だって、恐ろしい夢を見るから。

 悪夢の中の私は、それはそれは恐ろしい表情をした悪魔の様で、いえ私は確かに嫉妬や妬みに狂った悪魔だった。


 そして、私は罪を犯す。

 私の行為はあまりに罪深く、決して許される事では無かった。

 

 悪夢が教えてくれる。

 

 "生まれ変わってもその罪は決して許されない"


 私の犯した罪は、私の前世での行いだった。

 私が前世の記憶を持っているのは、私の前世の罪があまりに大き過ぎるから。

 きっと今、生きているのは罪の償いをする為。


 私は前世での名前は ナリータ・ユニシス・アマリア。

 【初めの聖女】こと、偉大なる姉アリーシャの双子の妹。


 姉は魔物により滅亡寸前だった人類に戦う術を与えた人。

 姉の生み出した エインヘリヤルの秘法。

 それは巨大な魔物ですら討果す事が出来る、神の力を授かった英雄霊を顕現させる奇跡。

 姉は滅びゆく各国に対して魔物に対抗するべく同盟を呼びかけ、その秘法を惜しげもなく公開して人々に戦う力を与えた。

 その力は誰でも使える訳では無かったけど、確かに魔物に打ち勝つ術を人類は手に入れた。

 姉は後の世に、聖女の第一号、【初めの聖女】として語られる大聖女となる。

 また同盟が発足された年を聖同盟歴元年とし、聖同盟歴は今でも使われている。

 同盟自体はもう既に失われてしまったけど。


 姉の功績はそれだけではない。

 数多の魔道具の開発に尽力し、特に【魔導袋】は今のアマリアの財政に大きく貢献してくれている。

【魔導袋】は袋の容量の以上の物を収納できる便利な袋で、中に入れた物の重さは無くなり、入れた時の状態を保ってくれる。

 食料を入れておけば、腐ったり、芽が生えることが無く保存しておける。

 


 姉アリーシャと私が17才の時、アマリア国王である父が病死。

 姉が王位に付き、アマリア国女王になった。

 そして姉と私の18才の誕生日に、私は姉アリーシャを殺した。

 この王城のある一室で。

 そして、その罪を姉のパートナーとして姉のエインヘリアルを駆った騎士ジークハルト・レインドリーに擦り付け、処刑した。

 

 私は、姉が王位について半年立った頃から姉が妬ましくなった。

 あんなに慕い、敬っていた姉を恨むようになっていた。

 姉は私より全てが優れていた。

 私だってセレイブの聖女としてネームドエインヘリアル【サンシェリー】を顕現できる実力を持っていた。

 サンシェリーはセレイブ神の眷属で黄金に輝く女神。

 でも、その力をもってしても姉のエインヘリアル【ルアメットゥーナ】の力には敵わなかった。

 サンシェリーはルアメットゥーナについて、"彼女"は特別な存在と言った。


 歪み、狂った私は姉を殺し、代わりに王位についた。

 そして全てが終わった後で唐突に正気に戻った。

 その日以降、人類の宝と言うべき姉を殺した大罪を犯した事に苦しむ様になった。

 

 私は、せめてもの罪滅ぼしに姉を神格化し、姉の残した魔道具の技術で王国を豊かな国にしていった。

 その富で疲弊した世界を復興させる為。

 それが姉の望みだったから。


 

 私は前世の記憶を持ったまま、再びアマリアの王女として生を受けた。

 しかも、私が授かったミドルネームは前世の時と同じユニシス。

 私が前世と同じ髪と瞳の色を持っているからだった。

 ナリータの名も偉大な大聖女としてアリーシャと共に後世に伝えられていたのだ。


 瞳や髪の色だけ無く、容姿が前世の私そのままであることは育つにつれて分かった。

 10才で行った聖女検査でもやはり、私に与えられたエインヘリアルはサンシュリーだった。

 その名を教えたのは母である陛下にだけ。

 現時点での公表は敢えて避けている。


 サンシェリーは私を『ナリータ』と呼ぶ。

『ナリータの元に遣わさるのは我以外におらぬ』と言う。

 私が許されない者である事実を突きつけてくる。


 私はフルネームで名乗る度、鏡に映る自分の姿を見る度に自らの罪を思い出させられる。

 その度に罪を忘れるなと言われている気になる。

 私の人生は、前世の贖罪の続き。

 でなければ、同じ容姿でアマリア王女に生まれて来る筈がない。



 暫く、朝日を浴びていたが、侍女達が部屋に入ってきた。

 私は身だしなみを全て侍女達に任せ、鏡を見ること無く部屋を出た。

 そしてミリンダお姉様と朝食後の紅茶を楽しんで居る時、陛下の執事であるクロードが来て、執務室に来る様にと、陛下からの伝言を伝えられた。


 執務室で陛下から、陛下の養女となったメアルシア王女を紹介すると言われた。

 今、陛下の養女は3人居る。

 その内の一人、メアルシア王女は成績が特に優秀と聞いている。

 

 恐らく、近くお披露目の舞踏会を開くつもりで、事前に私達に顔合わせするつもりなのだろう。

 優秀との評価が正しいなら、きっと彼女の嫁ぎ先はモス国。

 メアルシア王女は私と同じ年齢だけど、私のほうが生まれが遅い。

 メアルシア王女を姉として接しなければならない。

 ミリンダお姉様は恐らく気に入らないだろうから、その辺りは私がフォローしようと思う。




 ノックの音が聞こえ、件の女性が入ってきた。


<え?>


 彼女の動きがスローモーションに見えた。

 その人の髪をみて心臓が跳ね上がるのが分かった。

 その人の瞳の色、顔立ち……眼差し……


 知ってる。

 

 私は知っている……この人を知っている。


 メアルシア王女が目の前に立った時、私は心臓を握りつぶされる感覚に陥った。

 今、目の間にいる人は、私が慕い、敬い、目指し、そして恨み、妬んで、遂には殺してしまった人、アリーシャお姉様だった。

 水色がかった銀の髪に澄んだ蒼い瞳、美しさも当時と同じ。

 

<何故?どうしてアリーシャお姉様が……私、私を断罪しにきたの?……お姉様にはその資格がある>


 この日の為、きっと今日お姉様に出会う為に私は此処にいる。

 私は逃げる事が出来ない。

 私はアリーシャお姉様に殺されたとしても文句は言えない。


 あの時の光景、実の姉に短剣を突き刺した瞬間の光景が脳裏に蘇る。


『ナ、ナリー……どうして……』


『お姉様、私…お姉様が妬ましかったの。同じ日に生まれたのに、双子で同じ能力の筈なのに、お姉さまは全て私より優れていた。でもお姉様がいなければ……私はもう苦しまないで済むわ。お姉様のおかげで人類の危機は去った。だからお姉さまはもう眠っていいのよ……おやすみなさい……』


『……■■■……■■■■……』


 あの時、姉は一筋の涙を流し最後に何か言った。

 その言葉を何故か思い出せない。

 恐らく、私を呪う言葉に違いない。

 私は呪われて、断罪されるために今ここにいる。



「久しぶりですねメアルシア。貴女は成績優秀と聞いています」


「有難う御座います。これも陛下のおかげで御座います」



 陛下とアリーシャお姉様が話をして、お姉様が頭を下げた。

 その声も、やはり記憶にある声と同じだった。

 

 怖い……怖い……

 これから、私は断罪される……

 その思いが私を支配して、それからの陛下の話は聞こえなかった。


「頭をお上げなさい。貴女には近日中にーーー」


 私の視線はアリーシャお姉様に釘付け。

 アリーシャお姉様が何かを話している……

 隣で、ミリンダお姉様が怒声を上げている……

 わからない、何も考えられない。

 私はアリーシャお姉様の一挙手一投足も見逃すまいと視線を外すことが出来ない。

 今度は私が胸を刺し貫かれる番だと思うと怖くて堪らない。

 そうなっても当然の報いだというのに。

 でも、怖かった。

 呼吸も出来ない程に。

 怖い…逃げたい……でも体が動かない。



「ーーサーランはどう思いますか?」


 陛下が何かを聞いてきた。

 でも、なにも考えられない。


「……陛下……私もお姉様と同じです……」


 かろうじて、ミリンダお姉様が何か言っていっただろう意見に賛同すると、返事が出来た。

 陛下とミリンダお姉様が何かを言った。

 何を言ったか理解する事が出来ない。


 アリーシャお姉様が口を開いたのが分かった。


「陛下、力を使ってもいいでしょうか?」


 その声だけが、はっきりと聞こえた。

 ああ、遂に私は……お姉様に……滅せられる。

 私は抗うことも逃げる事も出来ない。


 アリーシャお姉様の体が光った。

 その光は暖かく、優しかった。

 

<あれ? どうして……私に癒やしを>


 この光は、アリーシャお姉様の治癒魔法。

 かつて何度もかけて貰った。

 幼い頃夜怖い夢を見て寝れなかった時、魔物を初討伐で緊張していた時、それから……それから……

 お姉様は私と同じ日に生まれたのに、ずっと守ってくれた……

 

 ああ、懐かしい。

 この温かい光。

 私に巣くった恐怖が薄れていくのがわかる。


 『大丈夫』


 アリーシャお姉様の優しい声が頭に響いた。

 

 『大丈夫よ。安心して。貴女を責めるものなどないわ』 


 許して……くれるの?

 アリーシャお姉様は私を間違いなくナリータと判っている。

 それでも恨まないというの?


 『大丈夫よ。貴女はもう十分に苦しんだわ。だからこの人生で苦しむ必要はもう無いの。安心していいのよ』


 また私を気遣う優しい声が響いた。

 温かい光に心が癒やされていく。

 

 私は許されない事をしたのに。

 私の罪は前世で終わったと言ってくれる。

 ああ、アリーシャお姉様は変わっていない。

 優しいままのお姉様だ。


 涙が溢れてくる。

 私は、頷いて答えることしか出来なかった。

 


◇◇◇◇◇


 

 私はメアルシアお姉様、いえアリーシャお姉様と仲直りできた。

 お姉様が許してくれたかと言って、私の罪が消えたわけではないと思う。

 でも、不思議と以前の様に怖く無くなった。

 お姉様が当時と同じ様に、優しく微笑んでくれるから。

 

 折角、再びお姉様と巡り合ったのに、お姉様とは長くいられない。

 お披露目が済めば、お姉様はどこかの国の王子と婚約を結ばされるだろう。

 

 私としては、この国に留まって欲しい。

 今度こそ、姉孝行したいと思っている。

 ただ、詳しくは話してくれなかったけど、お姉様にはお姉様の問題があり、そうもいかない様だ。

 

 今の私には権限は無い。

 だから受けいれるしか無い。

 せめて、お姉様が嫁いで行くまでの短い間、仲良く過ごしたいと思う。


 ミリンダお姉様はメアルシアお姉様の事が気に入らない様で、メアルシアお姉様と仲良くする私を叱ってくる。

 ミリンダお姉様は、聖女としての私のパートナーである聖騎士なので従いたいところだけど、こればかりは受け入れられない。


 メアルシアお姉様も私も前世の事を周囲に秘密にしている。

 実は、伝説の大聖女が2人もこの国に揃っている。

 その事実を陛下にも話せないのは心苦しい。

 お姉様から エインヘリアル【ルアメットゥーナ】の事は秘密にしていたいと頼まれているので私が話す訳にはいかない。

 

 だた、ルアメットゥーナを知っているサンシェリーには、『懐かしい気配だ』と言われたので判っているのだろう。


 ただ、陛下のエインヘリアルが感づいているかは判らない。

 基本、エインヘリアルが他のエインヘリアルについて教えてくれる事はない。

 それは例え同眷属であっても知らない英雄霊が多いというだけのことだけど。

 ただ、ルアメットゥーナについては特殊としか、私も教えてもらえていない。 

 だから、陛下のエインヘリアルがルアメットゥーナを知っていたとして名前すら教えてもらえているかという所だと思う。

 それに、そもそもメアルシアお姉様から聖女の力、即ち大いなる御霊の加護を感じないので気付いていない可能性もある。

 私の場合は、それでありながら前世のお姉様が大騎士を顕現できる事を知っているからわかるだけの事。




 朝、自然と目が覚めた。

 よく寝たと思う。

 ベットから降りて、カーテンを開けると朝日が差し込む。

 清々しい光を浴びて気分がいい。


「今日もいい一日になりそうだわ」


 さて、今日はメアルシアお姉様とお茶会の約束をしている。

 お互い忙しい身、あと何回一緒に過ごす時間をもてるだろうか。


 そんな事を考えていたら、いつものようにメイド達が部屋に入ってくる気配を感じだ。

 着替えと身だしなみをする為に振り返った時、唐突にアリーシャお姉様の最後の言葉が蘇った。


『……ナリー……ごめんね……』


 そうだ。

 お姉様は、最後に私に謝った。

 お姉様はそういう人だった。

 今のお姉様は、影がある。

 私と違い、何度か転生しているのだと思う。

 きっと傷つきながら、でも変わらずにここに辿りついたに違いない。

 

 私は、お姉様が望む人生を歩ませてあげたい。

 何度か会ってわかった事が有る。

 お姉様はきっとあの黒髪の護衛騎士の事が好き。

 お姉様がその護衛騎士を見る時の眼差し。

 まず間違いない。

 何とか成就させてあげたい。

 

 なんとか陛下にアプローチしてみよう。

 これは、罪滅ぼしでは無い。

 メアルシアお姉様への感謝の気持ち。

 私がこんな風に考える事が出来るのもお姉様のおかげだから。




続く

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