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 桃子さんとは一旦駅でわかれた。


 まだ二人の関係をオープンにしたがらないから、しかたなく本屋に入ってうろつく。


 ほうほう。女性誌は華々しくていいな。表紙のモデルのメイクも勉強になる。さすがに買わないけど。


 その代わりにおしゃれな男性誌を手に取って会計をすませた。


 桃子さんが男装するための参考書にするつもりだ。


 そこからゆっくりと会社に向けて歩き始めた。


「あっ!!」


 電動キックボードと軽く接触してカバンを落とす。


「すみませんっ!!」


 小柄な男性は女顔だった。


 よく見ると、洋服もレディースっぽい。この人も女装したら栄えるだろうな。


「大丈夫です」

「でも、怪我していたら悪いので、これ」


 と言って名刺を差し出してきた。なるほど。猿渡(さるわたり) 亘流(わたる)さんね。建築士か。おかたい仕事だな。


「じゃあ、僕のも」


 言って、名刺を猿渡さんに渡した。


「会社、うちのと近くなんですね。あ、遅刻しちゃう。それじゃ、なにかあったら連絡してください」


 猿渡さんはぺこりと頭を下げると電動キックボードで走り去って行った。気をつけろよ〜。  


 会社に行くと、さっきよりもばっちりメイクの桃子さんと再会する。


「おはようございます」

「おはよう」


 なんだろう、この背徳感。背中がぞくぞくする。


「あら、ボタン取れかけてるわよ」


 よく見ると、背広の袖部分についているボタンがぶら下がっていた。


「さっき、電動キックボードとぶつかったから、その時かな?」

「電動キックボードとぶつかった? 怪我はない?」

「はい。なんでもありません」


 けど、そんなに心配してる姿をほかの人に見られたら、きっと恋人だとバレてしまうだろう。


「あたし、縫いつけてあげる。背広脱いで」

「いいんですか? じゃあ」


 お言葉に甘えて上着を脱ぐ。


 なるほど。桃子さんはソーイングセットを持ち歩く人なんだ。また一つ知るのとができた。


 しかも、手際がいい。


「はい、できた」

「ありがとうございます」


 なるべく感情を表にださないようにお礼を言った。


「このお礼は、お弁当で」


 ささやくように桃子さんに告げると、自分のデスクに荷物を置いた。


 今日は朝から盛りだくさんだな。


     つづく

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