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上司の山川さんから恋人の桃子さんに昇格してから初めての出社。そりゃ気合を入れてヒゲをそってきましたよ。
「桃子って呼ぶのは二人だけの時にしてね? あと、会社にバレるとなんとなく恥ずかしいから、今まで通り接してね?」
「わかりました」
たまたまおなじ電車で顔を合わせて、どちらからともなく近づいた結果、そんな話にまとまった。
桃子さんは、見た目より繊細でロマンティック。そんな一面を知ることができたのは、女装パブ『マドモアゼル』のおかげだ。
「あとね、わたしにお弁当作ってくれたら、あの趣味のことを黙っていてあげるわ」
「はいはい。そう思って作ってきましたよ」
ぎゅうぎゅうの電車の中で、桃子さんとさりげなく手をつなぐ。
その手は一瞬びくりと跳ねて、それから重なった。恋人つなぎだ。
「あなたの趣味をどうこう言うつもりはないけど、やっぱり隠しておいた方がいいと思うの」
「でも、去年の忘年会では女装してお酒をついでましたけど?」
その時、みんなからカワイイ、カワイイと評判だったので、自信につながっている。
「嘘。あたし、インフルエンザで休んでた時のやつだ。あ〜、見たかったわぁ〜」
「もう見たじゃないですか」
僕がそう言うと、桃子さんはカワイらしい唇をツンととがらせた。
「お店で見るのと会社関係で見るのとじゃ、背徳感がちがうのよねぇ。つまり、今年の忘年会も女装して?」
「いいですよ? その代わり、山川さんも男装してください。僕が指導しますから」
「え〜? え〜っ!!」
カワイイ。桃子さん、電車で見るとキレイよりカワイイの方が比重が多い。
「大丈夫ですよ。山川さん、きっと似合いますよ?」
「そう? ならやってみようかな?」
そうそう、ノッてきた。
「背徳感云々はわかりませんけど。みんなに褒められると自信につながりますよね」
「っていうかあたしたち。朝から電車でこんなにいちゃついちゃっていいのかしら?」
手を伸ばそうと思えば、桃子さんの顔はすぐ近くにある。
うっかり事故にかこつけてキスしちゃうかもしれない。やらないけど。
「いいじゃないですか、楽しければ」
「たしかに。でも、え? ちょっと待って。鏑木くん、あたしのこと手のひらで転がしてない?」
バレたか。
「そんなことありませんよ?」
とぼけてみた。
たかが会社に行くだけなのに、こんなに楽しいと思える恋ってすごいな。
つづく




