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今日も女装パブ『マドモアゼル』で、お気に入りのブランド『クリームブリュレ』の服を着て接客している。
「あら? 鏑木くん? 鏑木くんじゃない?」
凛と澄んだ声。間違いない、上司の山川さんだ。
「山川さん。いらっしゃい」
「なに普通に挨拶してるのよ? あなた、女装男子だったの? そういう趣味がバレたら、普通は慌てるものよ?」
「慌てるもなにも。キレイなものが好きってだけじゃいけないんですか?」
昔から、キレイなものが好きだった。お気に入りを封印しなければいけないほどのやましい趣味じゃないと自覚している。
「いけなくはないけど。あなた、そっちの人だったのね」
「そっちってのはよくわかりませんが。僕は女装が趣味なだけで、女性が好きですよ?」
「あら? そうなの? あたし、てっきり……。ごめんなさい、誤解してたわ」
「かまいませんけど。この手の店でそういう差別発言は控えた方がいいですよ。そっちよ人も中にはいるかもしれませんし。それより、山川さんこそ、どうして女性パブなんかに来たんですか?」
「あたし? あたしはただ、このお店の外装がすごく好みだったから、なんとなく入ってみたの。はじめてだから、ドキドキしちゃった」
山川さんは、みんなに名刺を配った。
それから、ゴシック調の革張りのソファに腰を下ろした。
すぐ僕が隣をキープした。
「あ、ウィスキーダブルで」
すぐに注文してくれたけど、指名料は入らないよね。
「それより鏑木くん、すっごく似合ってる。あたしなんかより余裕でキレイ」
「ここではシュウと呼んでください。キレイだと言ってもらえて光栄です。山川さんも男装したらバエそうですね」
男装か、と山川さんがため息をつく。
「実は、このお店に来たのは理由があって。今日彼氏に振られましたっ」
え? 山川さんが?
「すごく意外なんですけど」
「だよね、そうだよね。あたしもそう思う。だけど、世の男はあたしなんかよりか弱くて儚げな女子を好むものなのっ。だからこのお店で憂さを晴らそうと思って」
お手拭きで手を拭いながら、山川さんが泣き真似をする。
「どぉ〜せあたしは一人でも生きていけそうですよぉ〜だっ」
「だったら僕とつきあいます? 今なら彼女いないので」
「え? いいの? シュウくんすごくキレイなのに。彼女いないの?」
「自分よりキレイな男の側にいると鬱になるそうです」
「あ〜、そういう子いるわぁ。じゃあ、お言葉にあまえて、シュウくんとつきあっちゃおうかなっ」
「本当ですよ? 会社でもそう接しますよ?」
「あ〜、そういうの夢だったわぁ。おなじ会社できゃっきゃしてみたかったの」
山川さん、意外と乙女なんだな。
つづく




