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 僕は自分の左手につけていた腕輪をはずした。


「とりあえずこれが婚約指輪の代わりでいいですか?」

「うん。そのキレイな腕輪、前から素敵だなと思っていたの」

「ここ『マドモアゼル』で働いて、はじめてもらったお給料で買った物なんですよ」


 その分、思い入れがある。会社でも気にならない程度のシルバーの腕輪は細身で存在感を消している。


 そのため、見る人によって評価は様々だ。


 会社で注意されたことは一度もないので、ちょうどいいっていうことなのだろう。


「でもいいの? そんなに想いの深い腕輪をもらっちゃって」

「かまいませんよ。桃子さんは僕の特別なんですから」

「お店でいちゃつかないでくれる? シュウちゃん」

「アキナさん……。僕たち、結婚するんです。詳しい日取りが決まったら、招待状届けますので。今(・)日(・)だ(・)け(・)我慢してください」


 その口ぶりだと、とアキナさんは目を細めて微笑んだ。


「『マドモアゼル』はもう卒業するのね?いいわ。ここまでお店を盛り立ててくれた恩人だもの。ご祝儀弾んじゃうんだから」

「ありがとうございます」

「でも、いいの? 女装が趣味なんでしょう?」


 それなら、と僕が答える。


「これからは女装男装カップルとして、堂々とデートしちゃいますから、ご心配なく」


 女装するからって差別されたことはなかった。


 単に相手にされなかっただけなのか、はたまた女装が板についていただけなのか、手ひどい言葉を投げつけられるようなことは、これまで一度だってなかったのだから。


「それに、これからはほかの趣味も探していこうと思っているんです」

「へぇ? どんな?」

「おいしい紅茶をいれるとか、その程度からはじめてみますよ」


 そう、きっと美味しいのでしょうね、と言いながらアキナさんが寄ってきてハグをした。


「シュウちゃんがしあわせでよかった。あたしなんて、女装趣味のおかげでバケモノ扱いされてきたもんだから、ね」


 そう、アキナさんはほんの少しだけ骨格がたくましい。それだけ。


 みんな、他人の趣味をどうこう言う前に、時分の趣味を作ればいいのに。


「だったら今夜は、シュウちゃんのラストデーってことで。どんどんボトル空けてもらいなさいよ」

「はいっ。お客さんにのろけたらダメですか?」

「いいんじゃない。その方が、あなたのファンも納得するでしょう?」


 女装パブ『マドモアゼル』にたどり着けてよかった。


 僕のことを受け入れてくれるアキナさんがいてくれてよかった。


 お店でちやほやされるのも、今夜で最後。


 楽しんで接客しようっと。


     つづく

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