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 化粧を済ませた頃、裏口から二人の人影が入ってきた。


 一人は電動キックボードの小柄な人で、もう一人はノッポのショップ店員だ。


 二人は僕たちを見るなりあっと声を上げた。


「この前はぶつかってすみませんでした。お怪我なかったです?」


 小柄な猿渡くんは、心底心配そうに僕の顔をのぞき込んだ。


「はい。大丈夫ですよ」


 ショップ店員の方は、僕と桃子さんに名刺を出した。


 犬飼(いぬかい) 源治(源治)と書かれている。


「今日から週末だけお店にでてもらうタリちゃんとゲンちゃんよ」


 アキナさんの紹介で、僕たちも名刺のやり取りをした。


 みんな、それぞれの仕事をしていながら、週末だけ趣味の女装を楽しもうっていう。


 いい仲間になれそうかな?


「その服、お互い交換していたのですね」


 ゲンさんはそう言って優しそうに微笑んだ。


「山川さんも、とてもお似合いですね」


 タリさんは桃子さんが見ている前でも堂々と着替え始めた。


 このお店のルールとして、自分で持ってきた服に着替えることが許されている。


 うっかりすると、ただの変態になってしまわないよう、アキナさんからのチェックは厳しい。


 そこへ、シマさんが合流してきて、楽屋はてんやわんやになった。


 僕は、桃子さんの手を取って、お店に向かい始めた。


 お店の掃除をしなければならない。


 でも、本当は男装した桃子さんがあんまりキレイすぎて、ふれたくなっていたのだ。


「桃子さん、好き」

「ちょっ。こんなところでぇ」


 桃子さんはあわてたけれど、僕の気持ちはおさまりそうにない。


「いっそ、結婚したい。桃子さん、好きです」

「わかったから。ね?」

「わかったってことは、結婚を前提としたお付き合いをするということでいいんですよね? 僕、お店を閉めたら指輪買いに行きますよ?」

「なんでそんなにあせるのよ?」

「だって、こんなに好きになったの、桃子さんがはじめてだから。無くしたくない想いなので」


 支離滅裂なことを言って桃子さんを困らせる。


 結婚しても、お互いの装いを変えてデートするのもいいかもしれない。


「わたしも。秀くんと結婚したい。あ、本名の方の秀くんと、ね」

「うれしいな。しあわせですっ」


 でも、いいのかな、と桃子さんがささやいた。


「シュウくん目当てのお客さんの夢を壊すことにならない?」

「もしかしたら、今夜でこのお店を卒業することになるかもしれません。でも、それでも僕は桃子さんに夢中なんです」


 桃子さんへの想いが、すらすらと口からあふれてきて、まるで詐欺師にでもなったような気分だった。


 そう思わなければ、気持ちが暴走してしまいそうで怖かった。


 怖いほどしあわせってやつを、この年ではじめて味わったよ。


     つづく

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