↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/12

緋色の目

「ここは、あんなにおっかない化け物が他にもいるんだろ? 怖くはないのか?」

「あぁ。あの程度ならそこら中にいるし、恐怖はない」

「……じゃあ、山奥はもっと怖いの?」

「さっき言っただろう。この世に存在してはいけない者……神からも見放され、自然にかえる事も、死ぬ事も生まれ変わる事も、何も許されぬ奴らがいる」

「も、もしその封印が解けたらどうなるんだ?」

「お前さんは、随分と好奇心旺盛だな」


 質問攻めにしたからか、佐祇璃さんはいい加減うんざりしたように大きく息を吐いた。

 いろいろ話し過ぎたと彼女も反省しているかも知れない。そんな空気を感じる。


「とにかく、早く霊魂を見つけねば……おや?」


 佐祇璃さんの足元から、ぐにゃりと何かを踏み、一歩後ろに下がる気配がした。

 ここは人の世にも近い、比較的穏やかな森の中で、足元は土や木の根や石ばかりのはずだ。それなのになぜ、足を取られるほど柔らかいものがあるのだろう。


 おいらには見えないが、佐祇璃さんが足元に目をやると、そこには人間の男が倒れていたらしい。

 着物は古く、おそらく乱世を生き抜いた者だろう、体は半透明で、肉体が無い事が一目で分かると佐祇璃さんが教えてくれた。


「これが霊魂だ」

「ええ!?」


 つい大きな声を出してしまい、慌てて口を押さえる。まさかこんなに簡単に見つかるとは思っていなかった。


「目は……あぁほら、緋色だ」


 先程おいらにした様に、倒れている男の目もひん剥いてるみたいだ。

 男の目は、緋色に輝いているらしい。


「霊魂って……触れるの?」

「あぁ。特にこの地ならば、お前さんでも触れるぞ」


 触るか?と言われたが、首を強く振る。冗談でも触れたくはなかった。


 好奇心がある割にそう言う所は慎重だな、と言われ、佐祇璃さんは、よっこらしょと米俵でも担ぐように霊魂を抱え、再び歩き出した。



 *



「おい、起きろ。起きろったら」


 深い森の奥にて、佐祇璃さんは座るのに丁度いい木の根に霊魂を座らせ、彼の肩を掴み激しく揺さぶる。

 その様子を、おいらは耳をすませて 窺っ(うかが)ていた。


「寝付きのいい奴だな」

「その人、本当に目を覚ますのか?もう死んじまったんじゃ……」

「何を言う。元から霊魂なのに死ぬも何もないだろう?」

 

 更に霊魂を乱雑に揺さぶる。その衝撃で霊魂は意識を取り戻したのか、ハッとした息遣いが聞こえた。


「あ、起きた」

「うわぁぁあ!? 鬼だ!!」


 叫んだ男の声には、ハッキリと恐怖の色が混ざっている。

 霊魂だからか生まれつきなのか分からないけれど、どことなく声に力がなく弱々しい。


「落ち着け、騒ぐな」

「た、助けてくれ!!」

「何もせぬ。静かにしろ」


 恐怖に支配される霊魂と、どうやってこの場を収めようか悩む佐祇璃さん、そして状況についていけず彼女の背中にしがみつくおいらと、それぞれ違う反応を見せた。


 *


「失礼しました。まさかここが禁足地で、貴女が番人様とは思わず……」

「そんな事は良い。それより、お前さんの名は?」

「佐吉と申します」

「佐吉か。神の目を貰うなんて、随分と面白い経験をしたようだ」


 ようやく息が落ち着いた佐吉さん。そんな彼の瞳を、佐祇璃さんはチラリと見た様だ。

 その話題に触れて欲しくないのか、佐吉さんは気まずそうに気配を消し、沈黙が流れる。


「おや? その目は……お前さんも■■■殿と縁があるのか」

「……っ! 貴女、■■■様を知っているのですか!!」


 先程まで力なかった佐吉さんの雰囲気がガラリと変わった。縋り付く様な、切羽詰まる声が闇に響く。


「あのお方は、あのお方は今、どうなさっておいでですか!? 村は、皆は!!」

「落ち着け」


 佐祇璃さんの涼やかな声が、彼の興奮をピシャリとはね除けた。


「あの方はすでに堕ち、この地にいらっしゃる。今はこの餓鬼を捕まえる事に必死でな。もし見つかれば、こいつもお前さんも無事じゃ済まないだろうよ」

「あの方が、堕ちた……?  私のせいで、あの方が、ここに……」


 ドサリ、と佐吉さんのへたり込むような音がした。

 尋常ではない絶望の気配が周囲の空気を凍りつかせ、おいらは思わず佐祇璃さんの服を掴む力を強める。

 佐吉さんは激しく震え、嗚咽をもらし始める。


 やがて、後悔の混じった重い口を開いた。


「っ……あの方は、心優しいお方でした。こうなってしまったのは、きっとあの美しい御心が、人間の欲で汚されてしまったせいでしょう」


 佐吉さんが暗い声で話し始めた時、目こそ見えないけど、おいらは自分から伸びる影が、ゆらゆらと蠢いた、そんな気がした。


お読みいただきありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。