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移動商人の私が、嫌われ者のお姫様に転生してしまった件  作者: なずな
レグラント王国:婚約者編

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第60話 称号

エマは自分の生まれ、そして彼女の最愛の人である"ソフィア"について話し始めた。

その話には当時のフェルディナンド公国の王族に関する事情も含まれていた。

聖歴521年。

ソフィアとエマが王宮に入って1年ほど経った頃です。


ヴァレンタイン侯爵家から一通の手紙が届きました。

母からでした。


内容は第二子が産まれたこと。

その子を''エリン''と名付けたこと。


それだけでした。

エマも''おめでとうございます''の一言だけを手紙に綴って送りました。


どうやら母は産後1ヶ月で騎士に復帰したようです。

どこまでも剣のことばかり、父のことも顧みない。

もちろん自分の娘のことも。


良くもまぁ、第二子を設ける気になったものだと思いました。


エマは幼い頃から母が好きではありませんでしたが、嫌いでもありませんでした。

無感情でした。


エマにとって母親は騎士の師であり、超えるべき壁であり、それ以上でも以下でもない存在。


ヴァレンタイン家の親族に対しても同様でした。


その為エマは自分より11歳離れた妹のことも、特に興味を持たなかったのです。


しかし、エリンは違ったようでした。




聖歴526年、5歳になったエリンを連れて、母が王宮へ訪れたのです。


エマは6年ぶりに顔を合わせました。


16歳になった自分の娘を見ても、何一つ表情を動かさない女騎士に、エマはなにも驚きませんでした。

むしろ驚いたのは、初めて会う自身の姉に対して、強い怒りの感情を向けてくる妹に対してでした。


エリンはエマと同じ茶髪に赤煉瓦色の切れ長の瞳をしていて、同年代の子たちと比べると体がとても小さく感じました。


しかしその小さい体からは想像できないほどの大きな感情を向けられていました。


理由はすぐに分かりました。


エリンはどうやら自分が"ピュルフォルテ"になり、侯爵位も継ぎたいと考えているようでした。


母によると、悲しいことにエリンにその才(・)はない。

はやくおまえ(エマ)が実力を示して、現実を分からせなさいと。


フェルディナンド公国の成人年齢はレグラント王国とは異なり18歳です。


エリンはエマが成人するまでに強くなるのだと豪語しているとか。


気は進みませんでした。

それでもエマは、5歳の妹相手に母から言われた通り相手をするしかありませんでした。


憐みの心から少し手を抜いてしまったことが、かえってエリンを傷つけ、闘争心を煽ってしまったのかもしれません。


それからエリンはより一層剣術に励むようになったそうです。


エリンと会う前、エマは少しだけ期待をしていました。

妹が自分と立場を変わってくれるならば、ソフィアと一緒に生きたい人生を歩むことができるかもしれないと。


やはり夢物語でした。




エマがそんな願いを自分の奥底だけにしまい込み、必ず"ピュルフォルテ"になると誓う出来事が、翌年に起こります。


聖歴527年。

前の王妃が数年前に亡くなり、新しく若い王妃が王宮入りして、彼女と王との間に子どもが生まれたのです。


王の血を引く二人目の子ども。

王と王妃、双方の子どもであり生まれた時から王族であると認められる子ども。


ソフィア・フェルディ第1王女の立場も意味も、その瞬間から失われたのです。

形骸化された王女。


母が侍女であり何の後ろ盾もない王女に、存在意義などありませんでした。


でも、彼女の騎士が"ピュルフォルテ"であれば。

彼女をぞんざいに扱うことが難しくなるはず。


エマは生まれて初めて、"ピュルフォルテ"になりヴァレンタイン家の侯爵位を継ぐことを決めたのです。

決めたからには、自分の密かな願いは永久にしまい込まなければなりません。


爵位を継ぐということは、エマは男(・)性(・)と結婚して子どもを産む。

ヴァレンタイン家の騎士として剣を握り続けなければならない。


でもそれがソフィアを守る為にエマにできる唯一の方法なら、覚悟は決まっていました。

そしてエマは、ソフィアに対する特(・)別(・)な(・)感(・)情(・)と一緒に、願いを心の奥底にしまい込んだのです。




聖歴528年。

エマ・ヴァレンタインは3人目の史上最年少として"ピュルフォルテ"になりました。


1人目は最初の"ピュルフォルテ"と呼ばれる、初代ヴァレンタイン侯爵家当主。


2人目は北西の辺り出身の騎士だったと言われています。


多くの公国民が見守る中で、エマはソフィアにその称号を与えてもらったのです。




ソフィアはエマと共に国中の孤児院を周り、子どもたちと触れ合ったり女神さまの神話について話して回りました。


ピュルフォルテは単なる称(・)号(・)であり、役(・)職(・)ではありません。


まだ爵位は継いでいなかったエマにとって、王宮で安全に過ごす必要のなくなった第1王女と孤児院に出かけることは簡単な事でした。


ソフィアはとても喜んでいました。


窮屈な王宮の室内で過ごすよりも、こうして外で自然や子どもたちと触れ合う方が楽しいと。


エマもソフィアがずっと幸せに笑ってくれているならば、それで十分だと思いました。




そうしてずっと、月日が過ぎると思っていました。


ソフィアに想いを伝えることができなくとも、彼女の"親友"であり続けることができると。


彼女の綺麗に輝く亜麻色の髪を、一番そばで触れられる幸せが続くと。




聖歴533年。

ソフィア・フェルディは20歳に、エマ・ヴァレンタインは23歳になり、爵位の話や結婚の話が出てくるようになった頃でした。


その日はとても天気の良い日で、ソフィアの大好きなお花畑にでも出かけようとしていた時でした。


王都に緊急事態を知らせる鐘の音が鳴り響きました。


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