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移動商人の私が、嫌われ者のお姫様に転生してしまった件  作者: なずな
レグラント王国:婚約者編

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第51話 崩壊

ヴァルハイト公爵家の次男"ミハイル"との婚約が決まってしまったマリアンヌ。

その2年後なんと親友のシャルリナが突然結婚してしまうのだった。

レグラント王国歴518年。


マリアンヌ・エインワーズは20歳になっていた。

レグラント王国は15歳で成人を迎えるため、十の位が変わる20という年は、女性にとっては婚期の期限とも言われている。


そんなマリアンヌは、一週間後に自身の結婚式を控えていたが表情は暗い。


彼女はとある部屋の前で立ち止まると、扉をノックして中へ入った。


「マリー!準備が忙しんじゃない?」


その部屋はロット家のシャルリナの部屋。

彼女はゆったりとした服装でベッドに横たわっていたが、マリアンヌの入室に気が付いて上半身を起こした。


「具合はどう?シャル」


マリアンヌはベッドの近くに腰かける。


「ごめんね~さすがに結婚式には出られそうにないなぁ、マリーのウェディングドレス絶対綺麗なのに」


シャルリナは申し訳なさそうに笑って言った。


シャルリナは結婚してすぐ第1子を妊娠し、無事に去年男児を出産している。

政略結婚ではあったが夫との夫婦仲も良く、マリアンヌも一緒に世間話をしたりする。


出産して数か月後、シャルリナは急に体調を崩して倒れた。

産後の体調不良と言っていたが、それからずっと彼女は大半の時間をベッドの上で過ごしている。


「シャル…私たち…結局このまま飲み込まれていくのかしら…」


マリアンヌは俯きながら呟いた。


シャルリナはそんな親友の姿を悲しげに見ながら、ふと窓の外の空を見た。


「マリー、私は今幸せだよ。夫にも子どもにも恵まれて、大好きな親友がいて、夫のおかげで大切な弟が家の為に犠牲にならずに人生を生きることができてる。あの泣き虫のクロが立派な騎士になって、もしかしたらあたしがなりたかった"最強の騎士"になるかもしれない…」


マリアンヌはずっと黙って俯いている。


「あとはマリーが、息苦しくなく夢を叶えられたら一番よかったのに…。クロだったら、マリーが何をしたって許したと思うんだけどな…」


シャルリナは遠い眼をしながら呟くと、ずっと俯いたままのマリアンヌを見た。


「案外マリーなら尻に敷けちゃうかもよ!マリーは頭が良いからちょいちょいって手綱握ってさ」


シャルリナは面白おかしく身振り手振りを交えながら笑いかけた。

マリアンヌは顔を上げて、シャルリナを見るとそっと微笑んだ。


「うん。頑張ってみるね」


二人は数秒見つめ合いながら微笑みあうと、マリアンヌが静かに立ちあがり部屋を出ていった。


シャルリナはマリアンヌが立ち去るのを見届けると、彼女の去った後を愛おしそうに見つめて呟いた。


「あたしの大切なマリー、ずっと愛しているわ…」




マリアンヌとミハイルの結婚式の前日。


一つも準備を手伝おうとしない未来の夫に最終確認をするため、マリアンヌは一人で公爵家を訪れていた。


名前も知らない侍女にミハイルの部屋に案内され、軽くノックをして扉を開ける。

刹那、マリアンヌの目に飛び込んできたのは信じられない光景だった。


ベッドに服を着ていないミハイルと見知らぬ女性が横たわっている。


マリアンヌの脳裏に電撃のように自身の父親の過去の姿が次々と浮かぶ。


みだらな服を着た女と酒で酔っ払って帰ってきた父親が、翌朝にはその女とベッドで横たわっている。

そんな自身の夫の姿を見ても、母は全く興味ない様子で宝石を買いあさったりお菓子を食べたり自堕落な生活を送っている。


マリアンヌはこの結婚に望みなんて一ミリも抱いてはいなかった。

だが、自身の心から軽蔑する両親のようにはなりたくないと願っていただけだった。


ミハイルがマリアンヌに気が付き体を起こすと、固まっている彼女を見て大きなため息をついた。


「ミーくんどうしたの~?」


ミハイルの隣に寝ていた女が徐に体を起こす。

そしてマリアンヌの姿を見つけると、勝ち誇ったように鼻で笑った。


「ごめんなさ~い、明日だったけ~?」


マリアンヌは無言で手に持っていた書類を近くのテーブルの上に置くと、部屋の扉の方へ歩いていった。


「なんだよ?文句あるなら言えよ。どうせ俺より何でもできるくせに、嫌みったらしい女だよな」


ミハイルは吐き捨てるようにマリアンヌへ言葉を投げつけた。


「失礼します…」


マリアンヌは体半分だけ振り返ると、少しだけお辞儀をして立ち去った。




翌日、マリアンヌは感情を失った顔で鏡に映る白いドレスを纏った自分を見ていた。

その姿は結婚式を迎えた花嫁のものとは到底思えない。


侍女に呼ばれて、マリアンヌは会場へと足を運んだ。


会場には沢山の貴族が集まっていた。

公爵家とレグラント王国建国時から続く家であるエインワーズ家の結婚式だ。

取り入ろうと多くの貴族が足を運ぶのは当然のことである。


会場の傍らで、公爵とカールが顔を真っ青にして話し合っている様子が見えた。

マリアンヌはただならぬ気配を感じて、二人の方へ近寄って行った。


「ミハイルがいなくなった?!どういうことだカール?!」


「すみません、昨日ギリギリまで騎士団の仕事で遅くなったので、ミハイルの事を確認していないのです…」


二人の会話が聞こえてきて、マリアンヌはその場に立ち止まった。


「どうする?!もう当日だ!!エインワーズ家だけじゃない、公爵家にも泥を塗る行為だぞ!!」


公爵はひどく取り乱し頭を抱えている。


すると突然、誰かが会場のドアを勢いよく開け放って入ってきた。

会場中の視線がその人物に集まる。


どこかの使用人のようであったその男は、手に握りしめていた紙を広げると大きな声でその場で読み上げた。


「ミハイル・ヴァルハイトはマリアンヌ・エインワーズとの結婚を拒否する!愛するアリアとともに王都を離れ幸せに暮らす!」


男は読み上げ終わると手紙を地面に叩きつけ、そのまま走り去っていった。


会場は大きくざわつき始めた。

次第に人々の視線は白いドレスを纏ったマリアンヌへと向けられる。


マリアンヌの中で何かが壊れる音がした。


彼女はゆっくりと会場の人々を押しのけながら出口へと歩いた。




マリアンヌは白いドレス姿のまま、裸足で貴族の居住区域を全速力で走った。


彼女が目指す場所はただ一つ。

親友がいるロット家。


髪も白いドレスも全てボロボロになって、道行く貴族に悲鳴を上げられながらも、一心不乱に走り続けた。


ロット家の扉を叩いて開けてくれたのは、シャルリナの夫だった。


彼はマリアンヌの姿を見て驚いて固まったが、優しく彼女を家の中に入れると近くの部屋の椅子に腰かけさせた。


そして彼はそっと毛布を持ってきて、ボロボロのマリアンヌに掛けると使用人が持ってきた温かいお茶を握らせた。


数十秒の沈黙が流れる。


マリアンヌは今にも消えてしまいそうな声で言葉を発した。


「シャルに…会いたい…」


シャルリナの夫はその言葉を聞いて瞳を大きく揺らすと、俯いて一筋の涙を流した。


「ごめんなさい、マリー嬢。ごめんなさい。それはできません」


彼はそのまま床に膝をついて崩れ落ちた。


マリアンヌは生気を失った顔で不思議そうに彼を見た。


「シャルは…シャルは…三日前に…この世を去りました…」


彼は絞り出すようにそう言うと、声を必死に押し殺して涙を流し始めた。


マリアンヌはそのまま天井を仰いだ。


「はっ…」


そしてそのまま大きな声で笑い始めた。


「はははははははははは」


狂ったように笑うマリアンヌの両目からは、結婚式のための化粧と混じった真っ黒な水が流れ続ける。


ひとしきり笑うとマリアンヌは徐に無表情で立ち上がった。


手からカップが離れ、床に落ちて破片とお茶が飛び散った。


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