第48話 少女の夢
マリアンヌを取り戻すため、エインワーズ邸に到着したレティシア達。
そのころ、エインワーズ邸宅内では…
「マリアンヌ!マリアンヌ!どこにいるんだい?!大変だよ!」
エインワーズ邸内の廊下を、大声を出しながら歩き回る女性。
明るい茶髪に少し太った彼女は、現エインワーズ伯爵夫人でありマリアンヌの実の母である。
「マリアンヌ!そんな事してるからおまえは!」
夫人は自室で本を読んでいたマリアンヌを見つけると、大股で近づいて本を取り上げ床に投げ捨てた。
マリアンヌは声を一切あげることなく無表情で立ち上がると、投げ捨てられた本を拾い汚れをはたいて近くの戸棚に直した。
「マリアンヌ!お前がそんなんだから、公爵家との縁談が白紙になった!1年待ったのに!」
夫人は顔を真っ赤にしてマリアンヌを責め立てるように足で地面を叩く。
「そうですか…」
怒りを撒き散らす母を目の前にしても、マリアンヌの表情と声には何の感情も乗っていなかった。
「くだらない!こんなことなら勉強なんてさせるんじゃなかった!お前がそもそも口答えするような女だから男に愛想つかされる!」
夫人は大声で捲し立てながら、部屋の壁やテーブルを蹴る。
その拍子にテーブルに飾られていた花瓶が倒れ、床に破片と水が飛び散った。
マリアンヌはそんな母を、ただ無言で見ていた。
11年前、レグラント王国歴511年。
とある貴族の邸宅の庭。
様々な色の花が咲き誇る庭で、2人の少女は草の上に座り花冠を作っていた。
とても上手に作っている緑髪の長髪の少女が、13歳のマリアンヌ。
彼女の隣でぐちゃぐちゃにしながらも必死に花冠を作っている、ウェーブかかった濃い緑色の長髪で水色の瞳を持った少女の名前は''シャルリナ''。
「あーもうだめだ!上手くできないっ、マリーはどうしてそんな器用なの〜」
シャルリナは自身の作っていた花冠を地面に投げ出すと、大の字になって寝転んだ。
「シャルってばまた諦めるの?」
マリアンヌはそんな彼女を見ながら嬉しそうに笑った。
「あたしには向いてないんだよ〜だ」
寝転んだままシャルリナは口を尖らせながらマリアンヌを見る。
「シャルは剣を振るってる姿の方が素敵だものね」
マリアンヌは愛おしそうにシャルリナを見つめる。
シャルリナは照れくさそうにマリアンヌから視線をそらした。
「ねぇさま〜」
すると、邸宅の方から小さな少年が何かを両手で抱えて2人の方へ走ってきた。
濃い緑色の髪に水色の瞳を持った細くか弱そうな少年は、2人の前まで来ると恥ずかしそうに両手で抱えていた籠をシャルリナにつきだした。
シャルリナは上半身を起こすと、少年の持っていた籠を受け取る。
そして中身を確認すると、少年をみて満面の笑みを送った。
「ありがとうクロ!あたしの弟はお利口さんだな〜!」
シャルリナは少年の頭を両手で鷲掴みにすると、勢いよく撫で回した。
「ねぇさまっやめて、ボサボサになっちゃう……」
少年は恥ずかしそうに目をつぶりながらも、どこか嬉しそうだった。
「クロは今日のお稽古はもういいの?」
姉にぐしゃぐしゃにされた髪を恥ずかしそうに直している少年に、マリアンヌは優しく話しかける。
「えっと、今日はもう終わったので、ねぇさま達と食べてきたらってお母様からそれを貰って……」
少年はもじもじしながら答え、マリアンヌと視線を合わさない。
そんな様子をシャルリナはニヤニヤしながら見ていた。
「クロ〜ほんとかな〜?クロから母さまに頼んだんじゃないのかな〜?」
シャルリナはニヤリと笑いながら弟に疑いの視線を向ける。
「えっと!その、違くて……」
少年は顔を真っ赤にして俯いたまま黙り込んでしまった。
「あはは!ごめんごめんからかって!ほら、クロもここ座りな。3人でマリーの好物のサンドイッチ食べよう!」
シャルリナは大きな口を開けて楽しそうに笑いながら、弟を自分とマリアンヌの間に座らせると、受け取った籠を地面に置いて上にかけてあった布巾をとった。
籠の中には色とりどりの野菜が挟まれたサンドイッチがいっぱいに詰まっていた。
マリアンヌは思わず感嘆の声をあげる。
そんな彼女の様子を少年は頬を赤くしながらちらちらと見ていた。
「ねぇマリー、今度市井にでも行こうよ、美味しいものたくさんあるよ」
シャルリナは嬉しそうにサンドイッチを頬張るマリアンヌを愛おしそうな目で見ながら言った。
マリアンヌはその言葉を聞いて申し訳なさそうに俯いた。
「だめか~うちに遊びに来るのも怒られるもんね」
シャルリナは申し訳なさそうな表情で笑うと、空を見上げた。
「貴族の役目ってなんだろね…。女と男で分ける事なのかなぁ~。隣のフェルディナンドでは女騎士もいるし貴族の女性が事業をする事だって当たり前にあるらしいよ~」
シャルリナはどこか遠い眼をしながらそう言うと、そのまま上半身を倒して再び草の上に大の字になって寝ころんだ。
マリアンヌもサンドイッチを頬張りながら空を見上げる。
「王子と仲良くなって新しい法でも通してもらう?」
シャルリナは空を流れる雲を目で追いながら呟いた。
「何言ってるのシャルったら。王子はまだ2歳でしょう。大きくなられる頃には私たちもうとっくに結婚させられてるわ」
マリアンヌは変なことを言い出したシャルリナをおかしそうに見ながら笑った。
二人の間で黙々とサンドイッチを食べながら会話を聞いていた少年は、なにやら少し考えこむと、何かを思いついて食べるのをやめた。
「僕が頑張って騎士団長になったら、二人の夢も叶えられる?!」
シャルリナは弟の突拍子もない提案に目を丸くして数秒固まると、大笑いしながら草の上を転げまわった。
「どうして笑うの?!ねぇさま!」
少年は顔を真っ赤にして叫ぶ。
「だって…確かに王子が大人になるよりは早いかもだけど、弱虫のクロに騎士は難しいぞ~!」
大笑いをして少し涙目になりながらシャルリナはそう言うと、自身の弟に手を伸ばしてそのまま草の上に勢いよく倒して寝転がせた。
弟の方へ体制を横にすると、彼の顔を両手で包んで自分の方へ向かせる。
「クロは自分の生きたいように生きればいい、ぜーーんぶあたしが、姉さまが守ってあげる」
シャルリナは恥ずかしそうに顔を赤らめる自身の弟の頭を、愛おしそうに撫でた。
マリアンヌもそんな二人の様子を、この時間が永遠に続けば良いと思いながら、愛おしそうに見つめていた。




