第47話 叱責
マリアンヌと結婚してほしいという話を持ってきたライオネルとギルバートと激しい言い争いをしたクロード。
2人が去った後、部屋に残ったクロードとテオドールは…
ライオネルとギルバートが部屋を出て行った後、クロードは自身の首元を直すと静かに座った。
テオドールは体ごとクロードの方を向くと、肩ひじをテーブルについて頭を乗せる。
「今食べても血の味しかしないぞ」
テオドールは頭を乗せている手の小指で自身の頬をつつきながら言った。
クロードは黙ったまま何も言わない。
テオドールは呆れたように一度ため息をつくと立ち上がり、近くの戸棚から布巾を取ってクロードの顔の前に突き出した。
「とりあえず拭けよ」
クロードがそれを受け取ると、テオドールは再び椅子に腰かけさっきと同じ体制になる。
「兄さまもギルも優しいな、クロード。考えてもみろよ、あの二人にとってどうでもいいことだろ。わざわざお前に話しに来てくれたんだぜ」
布巾を受け取ったものの、黙ったまま口も拭かず下を向いているクロード。
「なあクロード。お前とオレは言うて長い付き合いだし、お前の気持ちもわかるよ」
テオドールは片足を床から少し浮かせて小さく丸を描く。
「ギルにも信念がある。オレからは言えない。ギルはちゃんと筋通してる。真の騎士だと思うよ。でも、お前のそれは単なる嫉妬だろ」
クロードは手にしていた布巾を強く握りしめた。
「お前が一番半端野郎だ、昔から」
いつも明るく元気なテオドールとは思えない、重々しい声が狭い部屋に響いた。
「今のお前を見て、お前の姉さまは笑ってくれるか?」
テオドールのその言葉を聞いた瞬間、クロードは勢いよくその場に立ち上がった。
「オレは良いよ別にお前が半端野郎でも。騎士になった理由も、騎士団に入らずオレの専属騎士になった理由も、結婚を渋ってる理由も、何一つ真剣に向き合ってないお前でも」
クロードは既に血がにじんでいる自身の唇を再び強く噛みしめる。
「どうせお前とはオレが王宮を出るまでの付き合いだろ。お互いその後はどうでもいいもんな」
テオドールは鼻で笑いながら吐き捨てるように言った。
「大好きな姉さまに顔向けできるようには生きろよ」
「王子!」
クロードはその場で叫ぶと肩を震わせた。
テオドールは椅子からゆっくりと立ち上がると、自身よりもずっと背の高いクロードに歩み寄り鋭い視線で彼の顔を覗いた。
「なら行けよ、けりつけてこい、半端野郎」
クロードはテオドールの視線に思わず目をそらす。
それでもテオドールは決して視線をそらさない。
「行け」
クロードはさらに視線を横に向ける。
「行け」
今度は顔事横を向く。
「行け」
そしてそのまま目をぎゅっとつぶった。
「行けよ!クロード・ロット!!!」
テオドールは怒号すると、クロードのお尻辺りに勢いよく蹴りを入れた。
クロードはそのまま体制を崩して壁に倒れ込む。
倒れ込んだクロードは怒りや悲しみ、色んな感情が入り混じった顔で涙を流しながら、テオドールを見上げた。
「行ってこい、終わるまで帰ってくんな」
テオドールは鋭い視線のままそう言うと、顔をゆがめて涙が出るのを必死に耐えていた。
「王子…」
クロードは弱弱しい声で呟く。
「なんだよ…」
テオドールも釣られて少し声が震える。
「私は行って来ても良いのでしょうか…」
クロードは再びテオドールから顔背けて下を向いた。
テオドールは一度大きなため息をつくと、クロードの前にしゃがみ込み両手で彼の顔をそっと包むと自分の方へ向かせた。
その時にはテオドールの瞳からも涙がこぼれていた。
「行って来いよ、オレは待ってる」
八重歯を見せながら笑うテオドールの顔は、いつものように輝いていた。
同時刻、レグラント王国の市井、ロスト商会を出たあたりの露地付近。
クリスタはいつものようにレティシアを抱えて風のように道を走っていた。
彼女の後ろにはローブを着たエマが続いている。
「ねぇ~クリスタ~私もいるのにもう少し加減して走ってくれない~?」
エマが前を走るクリスタに話しかける。
「うるせえ!ついて来れるくせに!嫌味にしか聞こえねえよ!」
クリスタは前を向いたまま荒々しく声を上げた。
エマはふわりと加速すると、クリスタの隣に並んだ。
「姫様抱えてないあなたの方が流石に速いわよ~」
悪気の無い微笑みがクリスタに向けられる。
「姫様どう思いますか?!この女!」
クリスタは苛立ちで眉間にしわを寄せながら、自身の腕の中にいるレティシアに話しかけた。
レティシアはめんどくさくなり愛想笑いをした。
そして数分前の出来事を少し思い出す。
エマがレティシアに自身の名前を明かして騎士の誓いをたてた後、マリアンヌの状況を端的にエマに説明すると、すぐにエインワーズ家に向かうことになった。
エマはレティシアに"マリアンヌ様を取り戻したら、その後私の話を聞いてくださいますか~?4人で"と言ってきたので、レティシアは快く頷いた。
フェルディナンド公国の貴族だったエマから語られる話は、おそらくかなり重々しい話なのだろう。
そしてフェルディナンド最強の騎士であったエマは、戦争の際に前線で戦っていたに違いない。
レティシアがこの一年見てきた可愛いものが好きで、いつもレティシアの髪を愛おしそうに梳いてくれるエマの姿からは想像もつかない。
レティシアがそんなことを考えているうちに、あっという間にアルキオネ宮の裏口から貴族の居住空間へとたどり着いた。
そして、一つの邸宅の前で足を止めると、クリスタはレティシアをゆっくりと地面に下ろす。
「ここが、エインワーズ伯爵家…」
緑を基調とした外観で、正面に家紋の入った旗を堂々と掲げるその家を、3人は討ち入りにでも入るのかのような表情で見た。




