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移動商人の私が、嫌われ者のお姫様に転生してしまった件  作者: なずな
レグラント王国:婚約者編

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第40話 孤独な皇太子

王国騎士団長カールに声をかけられ、しぶしぶライオネルと一緒に実家に帰省をしたギルバート。

ギルバートを待っていたのは望まない縁談だった。

廊下での一件以来、ルシウスとレティシアの散歩は無くなった。

ルシウスは与えられた部屋で過ごす以外は、訓練所で鍛錬をしているらしい。


レティシアは椅子に座ってあの日のルシウスの顔を思い出していた。

クリスタが心配そうな顔でレティシアに近づく。


「姫様、ルシウス殿下に言われたこと気にする必要ないですよ」


「あっ、大丈夫だよ違くて…」


レティシアは優しく返事をする。


―なんであんなに寂しそうな顔してたんだろ…私には分からない貴族や王族の家族関係とか…


「ねえクリスタ、今から訓練所に行ってみない?」


レティシアはクリスタを見上げながら言った。




訓練所ではいつものように王国騎士団が鍛錬をしている。

レティシアはその様子を見ることは結構好きだった。


二人はどんどんと奥へ進む。

ルシウスがいるのはテオドールも鍛錬していたあの場所だろう。


案の定、ルシウスはゼノと向かい合って剣を振るっていた。


「ルシウス殿下!」


レティシアは横から大きな声で話しかけた。


ルシウスとゼノの動きが止まる。

ゼノはレティシアの方を向いて丁寧にお辞儀をしたが、ルシウスは背中を向けた。


「帰れよ、姫が来るとこじゃないだろ…」


ルシウスは背中越しに弱弱しい声で言う。


「レティお話がしたくて!」


レティシアはもう一度大きな声で言った。


「帰れってば!」


レティシアに背中を向けているためルシウスの表情は見えないが、彼の出した大きな声は震えていた。

ゼノが申し訳なさそうにお辞儀をする。


仕方がないのでレティシア達はそのままアルキオネ宮に戻ることにした。




レティシアは食事も済ませ、今日はもう着替えて眠りに着こうと思っていた時だった。

マリアンヌに声をかけようとしたとき、誰かが扉をノックした。


「クリスタ?どうしたの?」


レティシアは自室に帰ったクリスタが再び戻ってきたのかと思い、扉をゆっくりと開けながら言った。


しかしそこに立っていたのはクリスタではなく、ゼノだった。


「姫様、このような時間に申し訳ありません。少しだけお時間いただけないでしょうか」




レティシアとゼノは向かい合って座った。

マリアンヌが二人の前にそっと温かいお茶を置く。


ゼノが慌てた様子でマリアンヌを見る。


「そんな、私は結構です」


「冷めないうちにどうぞ」


マリアンヌは優しく微笑んだ。


「お話って?」


レティシアがお茶の入ったカップを持ち上げながら言った。


「ルシウス殿下の事を許していただきたいのです」


ゼノは神妙な面持ちで口を開く。


「ガルディニアが実力主義国家であることはご存じですか?」


「うん、なんとなく知っているよ」


レティシアは少しだけカップに口を付けた。


「ガルディニアには名目上、皇太子になりうる王子が4人います。殿下は一番下の第4王子なのです」


―名目上?


レティシアはゼノの言葉が少し引っかかった。


「帝国内に気を許せるものはいません。例え血のつながった兄弟であっても」


ゼノは目の前のお茶の入ったカップに目線を落とした。


「殿下は第1王子と第2王子とは母親が異なり、第3王子とだけ同じ母から生まれましたが、ガルディニアの炎魔法を受け継いで生まれたのは殿下だけでした。第1王子は早々に王位継承権を放棄し、平民の暮らしをしていますが、名目上"王子"であることは残っています」


ゼノは再び顔を上げてレティシアを見た。


「殿下は生まれた瞬間から、兄弟と王位継承権をめぐって血生臭い戦いを強いられている運命なのです。姫様の事を…」


そこまで言うとゼノはまた視線を下に落としてしまった。


「大丈夫だよ、レティに聞かせて」


レティシアが優しく声をかけると、ゼノは悲しい眼をしながら顔を上げた。


「側室の子である姫様の事を、ご自身に重ねていたようです。事前の情報では王子たちとも仲が良くないとうかがっておりました」


―そっかそれで、テオドールとの事をあんなにしつこく聞いてきたんだ…


レティシアは最初の頃の自分の状況を思い出した。


―でも私にはマリアンヌがいた…


レティシアは隣で立っているマリアンヌをそっと見た。

彼女も悲しそうな顔で話を聞いている。


「ゼノはいつから殿下のそばにいるの?」


レティシアの質問にゼノは少し戸惑った顔をした。


「私は殿下の正式な専属騎士ではなく、いえ、ガルディニアでは王族自体が強くあらねばならないので専属騎士を付けること自体珍しく…」


ゼノはそこまで言うと、お茶の入ったカップを持ち上げ一気に飲み干した。


「その、殿下が1歳の時から特別にそばにいまして…本来許されないのですが私ならと…」


ゼノの声色は明らかに動揺していた。


「言いたくないなら大丈夫だよ」


レティシアは動揺するゼノをなだめるように言う。


「いっいえ、姫様はいずれお知りになることかと思いますし…」


ゼノはレティシアの隣に立っているマリアンヌをちらりと見た。


「あっマリアンヌは大丈夫だよ、安心して」


レティシアが優しくゼノに微笑みかける。


「私が…」


ゼノは背筋を伸ばして両手を膝の上に置くと下を向いた。

そして意を決したように顔を上げてレティシアを見つめる。


「私がガルディニアの第2王子なので、特別に一緒にいます」


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