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移動商人の私が、嫌われ者のお姫様に転生してしまった件  作者: なずな
レグラント王国:婚約者編

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第37話 揺れる瞳

庭を散歩していたらルシウスの顔面に棒を直撃させてしまったレティシア。

そのまま二人は一緒に散歩することになり…

ルシウスとレティシアは隣に並んでアルキオネ宮の庭を歩く。


―気まずいし、会って一言目にブス呼ばわりしてきたガキと話したくない


レティシアは表面は笑顔で歩いているが、絶対に自分からは話しかけまいと無言を貫いていた。


ルシウスは相変わらず不機嫌な顔をしているが、隣のレティシアをちらちらと見ていた。


「姫は、王子と仲がいいのか…」


ルシウスはぼそっと呟いた。


―あ?話しかけてきたと思ったら何?


突拍子もない質問にレティシアは心の中で怪訝な顔をした。


「テオお兄様とは政務でおしゃべりするくらいには…」


―アリスに会いに行ってるだけだけど


「殿下は…レティの事が好きではないので…」


―あと2年で殺されそうだけど!


レティシアは幼気な姫を演じながらルシウスの方を見た。


だが、ルシウスの反応はレティシアが思っていたものとは違った。


驚いた表情で彼の赤い瞳は寂しそうに揺れていた。


「そう、なのか…」


ルシウスは絞り出すようにそう言うと、また前を向いて歩き始めた。


―どういう感情??


レティシアはルシウスの感情がつかめず、とりあえず前を向いて歩く。


それから二人は無言で歩き続けると再び最初の場所に戻ってきた。


ゼノがレティシアの前に歩み寄る。


「姫様、素敵な時間をありがとうございました。またお誘いしても良いですか?」


悪意のない笑顔を向けられたレティシアは断ることもできず頷いた。




それから二人は毎日顔を合わせていた。

特に喋ることもなく、無言で歩く不思議なお散歩だったが。


散歩から自室に戻ったレティシアは勢いよく自身のベッドにダイブする。


―耐えられない!何が楽しくてこんな罰ゲームみたいな!


うつ伏せのまま手足をばたつかせるレティシア。


丁度その時、扉をノックしてマリアンヌが入ってきた。


マリアンヌを見たレティシアの顔が一気に明るくなる。


「マリアンヌー!!」


ルシウスが訪れる前ぶりのマリアンヌに歓喜したレティシアは、猛ダッシュでマリアンヌの胸に飛び込む。


突撃してきたレティシアをマリアンヌは優しく受け止めた。


「姫様、お変わりなく元気でしたか?」


マリアンヌはいつものように優しく微笑む。


「レティ元気だけど寂しかった~!」


レティシアはマリアンヌの胸に顔をこすりつける。


マリアンヌはそんなレティシアの頭を優しく撫でた。


「姫様、今日は週に一度のお食事会だと聞きました。本日は私も同行しますね」


「やった!楽しみ!」


レティシアは満面の笑みで顔を上げた。


―あれ?


レティシアにはなぜだかマリアンヌの顔がどこか寂しそうに見えた。


―そういえばあの時もこんな顔してた…


約一年前、レティシア達が市場の問題に苦戦していた頃。

マリアンヌは急用だと言って数週間実家に帰っていた。


再びアルキオネ宮に戻ってきたとき、何事もなかったというマリアンヌの顔はどこか寂しそうだった。

今レティシアの目の前にいるマリアンヌも、その時と同じ顔をしている。


「姫様、支度しましょうか。髪を綺麗にし直しましょう」


マリアンヌは微笑みながら言うと、鏡の前にレティシアを誘導した。


「マリアンヌ、エマは?」


マリアンヌがいる時も、いつもはエマがレティシアの支度やお色直しをしてくれている。

ここ数日は二人ともいなかったので、クリスタが不器用なりに頑張っていたが。


マリアンヌはブラシを手に持ちながら答える。


「事情があって、2か月間戻らないそうですよ。どんな事情かは教えてくれませんでしたが」


マリアンヌの返答に窓の拭き掃除を熱心にしていたクリスタが反応して近づいてきた。


「姫様に何も言わずにどっか行ったんですか?」


クリスタは怪訝な顔をして詰め寄る。


「私もレイモンドから聞いただけだから何とも…」


マリアンヌは申し訳なさそうに答える。


クリスタは不満そうな顔つきになった。


「クリスタはエマの事情に心当たりないの?」


レティシアがクリスタの方を振り返りながら聞いた。


「あたし、エマの事なんも知らないんですよ。ただ昔剣術をやってたからギルバート様と同じくらい強いとしか…」


クリスタは斜め上を見ながら口をとがらせる。


エマの強さについて、レティシアに今更驚きはない。

マリアンヌは衝撃を受けて固まっているが。


漁場に行く道中で人間の魔物に出会った時、いとも簡単に倒してしまったエマ。

クロードやテオドールの反応からただ者ではない事は察していた。


レティシアは、エマから何か話してくれるまで詮索しないと決めている。

突然2か月もいなくなることは寂しかったが、今は受け入れるしかなかった。


「分かった。エマが戻るまでクリスタが頑張らないといけないね!」


レティシアはクリスタを見ながら笑って言った。




アルキオネ宮の客間は週に一度の食事会の為、テーブルと椅子が準備されていた。

片側に椅子が三つ、反対側に椅子が一つ。

3つの椅子の扉に最も近い方には既にテオドールが座っており、後ろにクロードも控えていた。


テオドールは部屋に入ってきたレティシアの二つのおさげをまじまじと見る。


「今日は馬鹿っぽい花はつけてねぇの?」


何の悪気もなく言われるので余計に腹が立つが、レティシアはにっこり笑うとテオドールの隣の席に座った。

レティシアの後ろにはマリアンヌが立ち、クリスタは扉付近に控えている。


「あれからどうよ、仲良くやってるのか?」


テオドールが片肘をテーブルにつけて顔を乗せながらレティシアを見る。


「毎日お散歩してます」


「はあぁぁ?」


レティシアの返答にテオドールは心底嫌そうな顔をした。


「婚約者と散歩するのはレグラントでは悪いことでしたか?」


いつのまにかルシウスが澄ました顔で部屋の入口に立っていた。


そのまま澄ました顔で入ってくるとレティシアの向かい側の椅子に座る。


テオドールは気まずくなって視線をそらした。


「王子は魔物討伐にも行かれているとか」


ルシウスは涼しい表情でテオドールに話しかける。


「政務ですから」


テオドールは嫌そうな顔で答えた。


「姫とは仲が良いのですね」


「別に、仲良くはないですよ…」


テオドールは少し照れ臭そうに答える。


「へぇ…」


返答を聞いたルシウスの目は何故かぎらついていた。


「すまない、遅れた」


丁度そのタイミングでライオネルが小走りで部屋へ入ってきた。


ルシウスがもう席についていることに気が付くと、いつもの冷徹な表情になり少し速足で一番奥の席に着いた。


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