第34話 剣術の実力
レティシアの婚約者である"ルシウス"を出迎えたライオネル達。
ルシウスはとても好戦的な性格で…
アルキオネ宮の客間は、ライオネルの助力もありとてもきれいに整えられていた。
白色の可愛らしい長方形のローテーブル、左右には白地に黄色のお花の装飾の付いた二人掛けのソファーが一つづつ。
テーブルの短辺側には同じデザインの一人掛けソファーが一つづつ。
ライオネルがかっちりしたデザインのものを選ぼうとしていたため、エマが阻止して選んだものらしい。
ルシウスは二人掛けソファーの真ん中に足を組んで座った。
反対側にはライオネルが静かに座る。
レティシアとテオドールは一人掛けソファーに腰を下ろした。
「このアルキオネ宮では、姫の部屋と執務室以外は自由に過ごしていただいて構いません。それ以外の場所へは私かテオドールの同行が必須になりますので。週に一度、こちらの部屋で4人で食事をとりましょう」
ライオネルは確認事項を淡々と述べると立ち上がった。
「それでは私は失礼します」
「ライオネル殿下」
立ち去ろうとするライオネルをルシウスが引き止める。
「この後訓練所を拝見したいのですが」
ライオネルとルシウスの視線が数秒交差する。
「私は行けませんので、弟とお願いします」
弟の部分を強調するように言うと、ライオネルはギルバートを連れて部屋を出ていった。
前からテオドール、ルシウス、レティシア、そしてそれぞれの従者であるクリスタ、クロードと長身の少年が後ろに続き、訓練所までの道のりを歩いていた。
一切会話の無い異様な空間に、レティシアは息が詰まりそうだった。
ルシウス・ガルディニアはその名の通りガルディニア帝国の皇太子である。
年はレティシアの一つ上の5歳。
第4王子でありながら生まれた瞬間から彼が皇太子になった理由は、王子たちの中で唯一彼がガルディニアの炎魔法を持って生まれてきたから。
レティシアとの婚約はいわゆる人質としての政略結婚。
レグラント王国は天然の国境線によって守られてはいるが、ガルディニア帝国の軍事力ははるかに高く、氷魔法は炎魔法と相性が悪い。
ルシウスは歩きながらちらりと後ろを見ると、前を歩いているテオドールに話しかけた。
「姫には専属騎士はいないのですか?あんな幼い侍女では心もとなくありませんか?」
丁寧に敬語で喋っているが、所々馬鹿にしたような声色が伝わる。
テオドールは振り向きもせず答える。
「必要ないので。それに彼女は立派な護衛ですよ」
それを聞いてルシウスは鼻で笑った。
「騎士でもないのに護衛なんて、この際訓練所で見繕ってはどうです?俺に勝てた騎士とかを」
テオドールは振り返ることなく無言で歩き続ける。
―すんごい腹立つ!後ろから蹴ってやろうかな
レティシアは怒りに震えながらも、当たらないように足で蹴る動作をした。
訓練所に到着すると、いつものように王国騎士団が整然と並んで剣を振るっていた。
テオドールは集団の先頭で号令をかけながら剣を振るっている男性の方へ歩み寄ると声をかけた。
「カール団長、急用なんだけどいいですか?」
「王子、どうされましたか?」
男性は優しい声色で返事をすると、号令をかけて騎士団員を並ばせた。
テオドールがレティシア達の方を向いて手招きをする。
レティシア達が近くまで来ると、テオドールが片手を挙げて男性を紹介する。
「こちら、わが王国騎士団の現騎士団長のカール」
「ご紹介に預かりました。レグラント王国騎士団団長のカール・ヴァルハイトにございます」
カールは丁寧に片手を肩に添えて深々とお辞儀をした。
濃い紫色の長髪を後ろでしっかりと一つに結んでおり、彼の優しい青い瞳は騎士というよりも穏やかな内政官のようにも見える。
「ガルディニア帝国皇太子のルシウス・ガルディニア」
ルシウスは名乗ると、カールに向かって片手を差し出した。
カールは差し出された手を数秒見つめると、笑顔で頭を下げる。
「レグラントでは挨拶で目上の方と手を触れることはできませんので」
そう言うとカールは笑顔のまま顔を上げた。
―そんな文化あるんだ、気を付けよ~っと
レティシアは二人のやり取りをぼ~っと見る。
ルシウスは不満そうに手を引っ込めると、綺麗に並んでいる騎士団員たちへ視線を向ける。
「何人か私と手合わせ願いたいのですが」
ルシウスの視線は獲物を見定めるような目であった。
「同年代のものですと、見習い騎士たちになりますが」
カールは笑顔で対応する。
「別に大人でも構いませんよ、ライオネル殿下も私と同じ年で既に大人の騎士と手合わせしていたと聞きましたし」
ルシウスは不敵に笑いながらカールを見た。
カールは少し考えた後、数人の団員たちを前に出させた。
「模造刀で、くれぐれも魔法の仕様は無しでお願いいたしますね」
レティシア達は、ルシウスが大人の騎士を次々と伸していく様子を見せられていた。
―わぁ~暇だな~
レティシアの興味はとっくに失せており、ルシウスの様子ではなく訓練所の壁や後ろで控えている騎士達一人一人の顔を見たりしていた。
レティシアの視線が一人の見習い騎士で止まる。
―あの子、兄さんに似てる…
無表情で立つその少年は、クリーム色の短髪に黒い瞳をしていた。
年はテオドールと変わらないくらいだろうか、少し幼くも感じる。
周りの同年代の見習い騎士たちが恐ろしそうな顔でルシウスの様子を見ているのに、彼は全くの無表情だった。
いつの間にかルシウスに挑む騎士はいなくなっていた。
ルシウスは顔に付いた汗を袖で拭いながら、レティシア達の方へ得意げな顔を向ける。
「もう終わりみたいですが、どうです王子?」
テオドールに不敵な笑みで話しかける。
クロードがテオドールの耳に顔を近づけた。
「王子、挑発に乗る必要はありませんよ。けがをされては…」
「クロード」
テオドールは片手でクロードを振り払うと、模造刀を片手にとって前に出た。
「負けて泣かないでくださいね」




