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移動商人の私が、嫌われ者のお姫様に転生してしまった件  作者: なずな
レグラント王国:市井編

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第27話 子犬の別の顔

市場の漁場の問題を解決するため、エマと共にパゴス宮を訪れたレティシア。

ライオネルを説得するため立ち向かうが…

レティシアとライオネルの距離はわずか数十センチ。

お互いの息づかいが聞こえそうな距離だ。


視線をぶつけ合う両者の間には、永遠とも感じられるような沈黙が流れる。


―何か言ってよ~!


レティシアは限界寸前の心境の中、負けじと視線をそらさないように耐えた。


「殿下~いいでしょうか…」


床に正座し続けているギルバートが恐る恐る口を開いた。


ライオネルから先にレティシアから視線を逸らすと、彼は小さくため息をついた。

レティシアは緊張で心臓がバクバクしている。


「僕この後王子に会いますけど、姫様と一緒に行かれて話されては?」


ギルバートは言葉を選びながら慎重に話している様子だ。


ライオネルはギルバートをじとりと見る。


「ちょうどいい、ついでに相手してやるよギル」


ライオネルはそう言うと立ち上がり、椅子の後ろの壁に立てかけてあった剣を手に取った。

銀色と白を基調としたシンプルなデザインの剣だ。


「何してる、全員ついてこい」


颯爽と執務室を出るライオネルに、ギルバートは慌てて立ち上がりついていく。

レティシアとエマもその後を追った。




レグラント王国には騎士団がある。

王都を守るために作られた、王国一の騎士団だ。

彼らは日々、王宮内にある訓練場で鍛錬を行っている。

騎士団長になることは、騎士を目指す全ての貴族の子息にとって、最も誉れ高いことだとされている。


ギルバートやクロードは王子の専属騎士であるため、王国騎士団には所属していないが、訓練場で団員たちと肩を並べて鍛錬をしているようだ。


今日はどうやらテオドールと一緒に鍛錬を行う予定らしい。


レティシアは訓練所の建物の扉をくぐると、すぐそこに広がる大きな空間を見て思わず感嘆の声をあげた。


たくさんの騎士たちが綺麗に並び、掛け声に合わせて模造刀をふるっている。


レティシア達がさらに奥へと足を踏み入れようとしたとき、一番後ろを歩いていたエマがその場でピタリと止まった。


「殿下~姫様~、私はここで待っていますね~」


3人が後ろを振り返ってエマを見る。


レティシアが声をかけようと口を開く前に、ライオネルが言葉を発した。


「分かった。待っていろ」


エマを不思議そうに見つめるレティシアに、彼女はいつものように微笑んだ。




たくさんの騎士たちが並んで鍛錬をしていた奥に、簡易的な木の柵で仕切られた空間があった。


そこには模造刀を握りしめ、激しくぶつかり合うテオドールとクロードがいた。


あの抜けていて素直で可愛らしい王子の面影はどこにもない。

テオドールの剣を振るう一つ一つの動作が、速すぎてレティシアには目で追えなかった。


「テオ」


ライオネルが横からそっと声をかける。


ライオネルに気が付いたテオドールは一瞬で明るい笑顔になると剣を振るっていた手を止めた。


「兄さま!」


それと同時にクロードも手を止め、ライオネルの方を向いて丁寧に敬礼をする。


無邪気な子犬のようにライオネルに駆け寄ってきたテオドールの額には、程よい汗がにじみ出ていた。

そして、ギルバートの隣でちょこんと立っている、場違いな小さな姫を見つける。


「はあ?!なんでいんの?!」


途端にレティシアに向かって猫のように威嚇するテオドール。


―相変わらずのブラコンだ…


テオドールの豹変ぶりに心の中で呆れながらも、レティシアは笑顔を向けた。


「テオ、話があるんだ」


「なになに?何でも言って!」


ライオネルに話しかけられると即座にキラキラ顔に戻るテオドール。

王子たちとレティシアは近くに置いてあった椅子に腰かけた。


「こいつが市場の件で、漁場に直接行きたいと言ってきてだな。テオ、一緒について行ってやれるか?討伐で疲れているだろうし、無理なら断っても…」


「オレ行きたい!」


ライオネルが話し終わる前にテオドールは前のめりになって答えた。


ライオネルは驚いた顔で一瞬固まる。


「こいつは魔法が使えない。万が一魔物が出たらテオお前が気を使わないといけないんだぞ」


ライオネルは心配した様子で少し声を荒げた。


「ガキんちょ一人くらいのお守りならオレだってできる!それに…」


テオドールは椅子から立ち上がって威勢よく言うと、最後に言い淀んだ。

そして悔しさに満ちた顔で唇を噛む。


「市場の事は、とっ、友達が困ってるから、オレも力になりたい」


―アリスのことかな?


レティシアはテオドールの真剣な顔つきを見ながら、市場にいた少女"アリス"の事を思い出す。


ライオネルは数秒考えこんだ後、ふーーとため息をついた。


「分かった。王都から出る許可は私がなんとかする。でも絶対に無理はするな。勝てない相手に出会った時はすぐに逃げる判断をしろ」


ライオネルの表情には、まだ少し心配の心が現れていたが、レティシアとテオドールが王都を出ることに了承してくれたようだ。


レグラント王国の王都は、初代レグラント王がエルフと共に敷いたとされる氷の広域魔方陣によって外縁部が守られており、魔物は一切侵入ができない。

大多数の人間には見えないためどこにあるのかもわからないが、アリスのいる市場辺りはギリギリ含まれているらしい。


人間は魔物を見た目で判断することができない。

魔物は悪魔にとりつかれた動物の総称で、言葉を話さず狂暴的でありその動物の本来の身体能力をはるかに超える力を出すことができる。


魔法による攻撃もしくは良く鍛えられた剣士であれば、見えずとも悪魔の魂を斬ることができ、消滅させられるとか。

現状、憑りつかれた動物を元に戻すことはできない。


―兄さんは魔法は使えなくても、剣一つで倒してしまっていたけど…


王都を出ると言うことは、道中で魔物に遭遇する可能性があると言うことだ。


レティシアはもちろんその危険性を理解している。


「話は終わりだ。ギル、テオに稽古をつけてやれ。私はこいつをエマに届けたらまた戻って来る」


ライオネルはそう言って立ち上がると、レティシアを見た。


レティシアは慌てて立ち上がると、笑顔でこちらを見ているギルバートにそっと手を振ってライオネルについて行った。


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